とは考

「・・・とは」「・・・人とは」を思索

『日本の伝統』岡本太郎

日本の伝統 (知恵の森文庫)日本の伝統 (知恵の森文庫)
(2005/05/10)
岡本 太郎

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この本は、1956年に出版された書です。岡本太郎が45歳の時に執筆されたものです。

晩年は、芸術家として活動されていましたが、この時は、バリバリの哲学者、思想家、批評家、美術評論家でもありました。フランスから帰ってきて、日本美術界の閉塞性に腹が立ってしょうがなかったのだと思います。

地球規模の視点から、日本芸術の可能性を探っていたようにも思います。こういう時代があったからこそ、後に芸術家として爆発できたのではないでしょうか。

岡本太郎の文章は、知的で教養に溢れています。その視点の鋭さに感動することばかりです。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。



芸術の批評は、新しく価値を発見し、創りだす。だから、本当の芸術家は必ずまた批評家である。だが、絶対に鑑定家ではありえない。そういうものに興味を持たない

・「青丹よし」の奈良時代の人は、今日つきあったら、やりきれないくらい無邪気に違いない。とてつもなく大きなもの、極彩色で光ったものを、素直、単純に喜んだ。てらいとか、ひねりとかいうような近世風な繊弱な神経は、影も見られない

・千利休らの茶人たちは、決して伝統主義者ではなかった。古い伝統をたくましく乗り越えたモダンアートの創始者だった

・人間の表側よりも裏側だけに神経を集中し、強烈な生命力の奔出よりも、繊細なひねりを「通」としたので、芸術は洒落や、味や、型の世界に堕落していった

・人間としてぶつかり、つかみとり、食えるものはすべて、われわれの餌とすべき

・伝統とは、似たような形式を繰り返すことではない。縄文土器のあの原始的なたくましさ純粋さにふれ、今日瞬間瞬間に失いつつある人間の根源的な情熱を呼びさまし、新しい日本の伝統がより豪快不敵な表情をもって、受け継がれることを望む

・古墳時代の埴輪文化のイージーな形式主義に絶望する。なんとなく、なまぬるい、消極的な楽天主義は、どうにもならないわが国の文化の宿命なのか

・狩猟期は、糧は闘いとるもの。獲物を追って突き進み、仕留める。躍進、闘争はその根本にある気分。それは、極まりなく激しく、動的であり、むごたらしいほど積極的

・愛するから憎み、憎むから愛するといった矛盾律こそ、原始人の生存の条件。そこに不安と危機がある。それに堪え、克服する人間の強靭な表情を縄文土器ほど豊かに誇り示している芸術はない

・あきらめの情緒主義や形式などは、新しい現実に立ち向かう力を失っている。これからの人はモリモリした生命力、その英知をもって、封建日本のじめじめした雰囲気を打ち破って、新鮮な時代を創りあげてゆかねばならない

・光琳の絢爛で、心憎いまでの力強い仕事は、王朝からの貴族文化の伝統を濃く受け継いだ京都で、新しい時代の担い手として興隆し始めた町人階級の、富裕と新鮮な活力をバックにして生み出された文化

・徳川幕府の町人圧迫政策(奢侈禁止令)、鎖国の影響(文化の滋養分を遮断)、はびこった官僚的形式主義など、江戸後期以後の不幸な政策的ゆがみが、今日の日本人のセンスをも決定している。あきらめの味とか、わび、しぶみなど、すべて消極的にくすんだ姿

・庭には味な仕組みがしてある。人間の弱みにつけこみ、しっとり衒学的な気分をおだてる。それが「伝統」のカサにかかって押してくる。気分に浸りつつも、覚めて相手の魔術を見破ること。魔術は向こうの仕業ではなく、こちらの精神の弱みから出てくるから

・芸術は根源的な矛盾を秘めている。その緊張した統合の上に、強烈な表情を輝かせる。矛盾した要素の対立は芸術の本質であり、根本要素

借景式庭園の驚嘆すべき技術は、大自然をそのままこちらに引きずり込む。狭い人工的なアレンジメントが広大な自然に溶け込み、広がりと気韻を漂わせ始める。大空間と小空間を異質として対立させることで、平凡な自然空間を新鮮な芸術空間に置き換えてしまう

・遺産が推進力になるよりも、むしろ呪縛として働いている日本では、大きな外科的治療が必要。伝統の意味を新しい観点から掴みとることは、豊かな財宝を抱えながら、ひたすら卑屈になっている日本の現代文化を袋小路から引き出すことになる



これだけ、情熱をもって、日本の芸術と文化を語ることができる人はいないと思います。しかも、本書は、戦後10年しか経っていない時期に書かれたものです。

その時代に、日本文化を見る眼、また、日本を見る眼を岡本太郎が持っていたことは、驚嘆よりも尊敬に値することではないかと思います。

[ 2012/03/10 07:12 ] 芸術の本 | TB(0) | CM(0)
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