とは考

「・・・とは」「・・・人とは」を思索

『江戸商家の家訓に学ぶ商いの原点』荒田弘司

江戸商家の家訓に学ぶ商いの原点江戸商家の家訓に学ぶ商いの原点
(2006/08)
荒田 弘司

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江戸時代の商家は、財産がいくらあろうとも、地位と身分が低いままでした。その中で、何を精神的支えとして生きていたのか、興味の湧くところです。

稼いでも認められない中で、自己を律して、商売を持続していかなければならないというもどかしさを和らげる手段として、家訓が重要な役割を果たしたように思います。

本書には、江戸時代を代表する家の教えが数多く載せられています。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。


・「時節に随ひ考えを凝し、時を見、変を思うべし」(三井高房・町人考見録)
時節に合わせてじっくり考え、情勢をしっかり観察して、変化を予測すること

・「己れ其道に通ぜざれば他を率ゐる能はず」(宗竺遺書)
自ら商売道に通じていなければ、人を指揮することはできない

・「名将の下に弱卒なし。賢者能者を登用するに最も意を用いよ」(三井高利・遺訓)
名将と言われる人は、無能な部下を持たない。能力のある者を登用すること

・「老朽を淘汰して、新進の人物を雇傭すべし」(宗竺遺書)
古い考えに固執する社員は淘汰し、進歩的な考えができる人物を雇用すること

・「律儀程身の為能き事は無之候、人はあほうと申候共律儀成るほど能き人はなし」(大丸・主人心得の巻)
正直、実直であることほど、商人の立身にふさわしいことはない。他人が「あいつはあほだ」と言おうが、気にしないで正直、実直を貫く人こそ、商家の主人にふさわしい人

・「栄者常通、辱者常窮。通者常制人、窮者常制於人。是栄辱之大分也」(荀子・栄辱篇)
栄誉の者は常に順調に進み、軽蔑の者は常に困窮する。順調な者は常に人を支配し、困窮する者は常に人に支配される。これが栄と辱のあらまし

・「我思案と替りたる事を申出で候人は相談相手也、御尤御尤と申す人は何の役にも立たぬと可心得也」(大丸・主人心得の巻)
こちらのアイデアと違うことを提案する人ならば、相談相手になる。「ごもっとも、ごもっとも」と言うだけの人は、何の役にも立たないと心得ること

・「徳は本なり、財は末なり。本末を誤ること勿れ。貧富に依って人を上下することは最も戒む可きことなり」(茂木家・家憲)
商売は徳を行うのが本質であって、それで得る財産は末節である。本末を間違えてはいけない。財産の貧富によって他人を敬ったり侮ったりするのは、最もしてはいけないこと

・「謀計は眼前の利潤たりといえども、必ず神明の罰に当たる。正直は一旦の依怙に非ずといえども終には日月の憐みを蒙る」(住友政友・文殊院旨意書)
謀りごとをすれば、その場の利潤を得られるが、必ず神の罰があたる。正直を貫けば、その日の利益にはならないかもしれないが、天から同情を得られる

・「商品の良否は、明らかに之を顧客に告げ、一点の虚偽あるべからず」(飯田新七・網領)
商品のどこが良くてどこがそうでないか、客にはっきりと説明すること。一つの偽りがあってはならない

・「意志の弱き人は何事にも気の移り易く、衣服調度の如き、時々の流行を追ひ、外見を飾るを以て能事とす、斯る虚栄の奴隷となる人は、予算外の支出も嵩み」(安田家家憲)
意志の弱い人は移り気であり、流行ばかり追って外見を飾る。虚栄心の奴隷となって支出がかさむ

・「意志の弱き人は、取引上始終人の後へに立ちて、ひけを取るものなり。斯くの如き人は情実に拘泥して、常に損害を醸す」(安田家家憲)
意志の弱い人は、取引に際して引っ込み思案で、相手に退けをとる。だから情実にとらわれ、損害を出しやすい

・「相場買置の賈術は所謂貧賈の所為、人の不自由を〆くくり、他の難儀を喜ぶものなれば、利を得ても真の利にあらず、何ぞ久しからんや」(二代目中井源左衛門・中氏制要)
値段変動を狙ったり、品物を買い占めたりするのは、さもしい商法。不自由している人を締めつけ、他人が困るのを喜ぶわけだから本当の利益にならず、商売として長続きしない

・「商売は菩薩の業、商売道の尊さは、売り買い何れをも益し、世の不足をうずめ、御仏の心にかなうもの。利真於勤」(伊藤忠兵衛家初代の座右銘)
商売は菩薩の行為。商売道の尊さは、売り手買い手どちらにも利益をもたらし、世に不足するものを補うから仏の教えに適っている。商人本来の勤めを果たしてこそ、本当の利益


「偉い人はいつでも偉い」と感じる書でした。偉い人はこの世にいなくても、残した文章で、その偉い人に出会うことができます。

内容的にも、現代にも通じるものばかりです。これを江戸時代の偉い人たちが書き遺したことに意味があるように思います。

困ったとき、悩んだとき、不安なときに、不変のものを見つけることで、それが、大きな心の拠り所となります。また、緩んだ気持ちを再度引き締めるときにも、役に立ちます。

家訓は、何度も何度も、事ある毎に、読み返していくことに意義があるのではないでしょうか。

[ 2012/02/27 07:07 ] 江戸の本 | TB(0) | CM(0)
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