私は、「お客様」という言葉が嫌いで、文章を書く時は、「客」に統一しています。客と店は対等なはずです。お客様は神様ですという
言葉の裏を想像すると気持ち悪くなります。
嫌な客が相手なら、
売らない権利、
高く売る権利があるのが商売です。ところが、今の日本では、
1.小売サービス業の競争が激しくなった
2.個人商店が減り、販売員のパート化とマニュアル化が進んだ
3.デフレが長期化し、売上が減った
これらの要因で、客を「お客様」と持ち上げざるを得ず、その「お客様」がますます高慢になっています。今は「
お客様天国」の時代です。
この本は、まさに、この現象に切り込んだ1冊です。鋭い観察力で、「お客様」をえぐり出す書です。
著者の本は、「
かまわれたい人々」に次ぎ2冊目です。この本も、面白く読めました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。
・生徒もお客様扱い。学生をお客様、授業を商品と呼ぶ大学もある。このように、
お客様化が広がり、とうとう医療も「
患者様」と呼ぶようになってきた
・近所でも会社でも、私を認めてくれない。「お客様」になると、努力しなくても「
私を認めてくれる関係」が手に入る。日本で「お客様化」が浸透していった時期と、会社で「ギスギスした職場」が広がり始めた時期は重なる
・グレードの高いホテルの戦略は「重要だと思われたい」「重要人物のように扱われたい」という客の気持ちに照準をあわせる。その戦略に、客は騙されているわけではない。むしろ、客もその戦略を意識した上で、そのサービスを買いに行く
・「お客様」は、「常連と認められたい」「貴重な苦情を言ってやっている」という意識で、暴力的になる
・「
お客様社会」では、客の欲望は神聖化される。欲望を満たすことは「よいこと」であり、「正しい」こととみなされる。他方、不満を感じさせることは「悪いこと」であり、「不正なこと」とみなされる
・かつてのスーパーは職人主導。それがチェーン展開や効率化により、「お客様」中心のサービスを実施することで、スーパーから職人は追放される。代わって、
マニュアル主導になった
・分業を嫌い、「芸術品」にこだわる職人が業務の主導権を握ると、大量の客を効率的にさばけなくなり、業務が流れ作業とならず、非効率になる
・企業にとって
理想的な従業員はロボット。ロボットなら、最初にインプットしたプログラムどおりに働いてくれる
・店員は、マニュアルにがんじがらめにされている。「お客様」は店員の人格を否定し、傷つけるようなことを平気で言う。「ありがとう」の一言もない。そういう相手に、笑顔をふりまき、頭を下げることは屈辱
・職人の
作品の真価を理解できるのは、同じ職人仲間や弟子、目や舌の肥えた一部の客だけ。少しでも新しい点や違いを出す努力に精力を傾け、客はその点を評価し、味わう。その価値がわかる人だけを相手にしたいというのが職人の願望
・
貧乏でもいいから、違いのわかる客だけに来てほしいと考えている職人は、プライド問題は起こらない。少しでも
収入を増やしたいと考える職人の場合、客を選ぶことができないので、プライド問題が起きる
・お客様社会は、「
しろうと優位」「アマチュア中心」の社会。この社会で生きていく以上、職人は、「儲けず、認められず」という方針でも立てない限り、イライラする毎日を過ごすことになる
・人様に
マニュアルを与えられることをひたすら待っている人に共通する行動原理は、「自由にしたい」ではなくて、「何もしなくても、まあ何とかしてもらえる」である
・
不満を排除すればするほど、かえって不満を持ちやすくなるのが人間。それなのに、不満が出れば、「またその不満を排除すればいい」「努力が足りない」と言われる
・みんなで首を絞めあい、能力を絞り出しあっているのに、結果として、
働く人の生活ではなく、一部の企業トップや株主、官僚の利益と生活を守ることにつながっている。努力の程度を緩めてもいい
・
拝金主義者にとって、お金は絶対的価値。彼らにとって、
同一金額は同一価値。だから、同じ料金をとる以上、客によってサービスの質と量に差がつくのは許せない。そこで、店は、メニュー化、システム化せざるを得ない
このままの社会情勢が続くと、さらに、「お客様」がどの分野にもはびこるようになり、芸術家、宗教家、学者までもが、「お客様」に頭を下げないといけなくなるかもしれません。
権力を持った「お客様」に、どう付き合い、どう対処すべきか、これからの大きな問題です。この本を読んで、これからの「お客様」を理解して、対処の方法を考えておくべきかもしれません。