とは学

「・・・とは」の哲学

『ゆとろぎ・イスラームのゆたかな時間』片倉ともこ

ゆとろぎ―イスラームのゆたかな時間ゆとろぎ―イスラームのゆたかな時間
(2008/05/28)
片倉 もとこ

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イスラム世界の書は、宗教や政治などの大きなテーマに関するものが多数です。しかし、本書は、イスラム教信者の日常生活という小さなテーマが内容です。

著者は、イスラムの日常で大事にされている『「ゆとろぎ」=(「ゆとり」+「くつろぎ」)-「りくつ」』をタイトルにして、イスラム世界を論評しています。興味深い点がいくつもあり、それらをまとめてみました。



・アラビアには、「じっとしていると、汚れてくる。場所も心も」という「移動哲学」がある

・アラビアでは、「くつろぎ」や「ゆとり」は、人生の中で一番いいもので、能動的、積極的な意味合いを持った言葉

・アラビアの人たちは、動くと「いろいろな感興がわいてくる」「詩が出てくる」と言う

イルム(知識、情報を豊かに得ること)は、人生の目標。人間の立派さは、社会的地位によるものではなく、その人がどのくらいのイルムを持っているかによるもの

・アラビアでは、偉い人、仕事をバリバリとやっている人でも、詩がつくれない人は、感受性がない、人間として駄目だされる。政治家でも、詩が詠めないと、評価が下がる

・イルムを得るというのは、昨日知らなかったことを今日知る、今日知らなかったことを明日は知る、というのを人生の喜びとすること。知識を得るためなら、どんな遠方でも行くようにと、預言者ムハンマドは言う

・アラビア社会の風潮では、労働は必要悪。人の生き方の中で、仕事そのものに価値を置かない。仕事は生活のために必要なのであって、それに付随する社会的な意味や徳といったものについては考えない

・労働というものは、自由と対立するもの。労働は、人間である所以の自由、人間の尊厳を損なうもの、という考え方。自由という価値を、何より大切にする

労働はせざるを得ないけれど、なるべく「無知なもの」たちに分担させるもの。子供たちは、まだ何も知らない小さいときから、労働をさせられる。労働させることで、大人になっていく

・イスラーム世界、特にアラビアでは、保護せねばならない人には、付き添いをつけるのが当たり前。年寄りが若者に「手を貸してくれ」と悪びれずに言う。若者はたとえ職場に急いでいるときでも、「自分のほうから気づくべきだった」と言いながら、手助けする

・弱い立場にある者を保護するのは義務であるという思想が、ごく普通の人の間にも浸透している。一夫多妻婚の制度も、戦争によってできてしまった多数の未亡人とその子供たちを救うための措置

・イスラーム教徒のなさねばならない行は、サラート(礼拝)、サウム(断食)、ハッジュ(巡礼)、ザカート(救貧)。ザカートは、持てる者が持たない者に、自発的に施しをすること。後のイスラーム法の細かい取り決めで、救貧税として徴収されるようになった

・弱者救済の思想には、神の前にすべての人間は同じであるという平等主義、ストックよりもフローを重視し、ものを一つのところに淀ませておくことを罪悪視する考え方とも関連する

・イスラーム教は、人間はその弱さゆえに、いい加減な行動をするという「人間性弱説」があるため、誘惑に負けなくする状況をつくるのに腐心する。トラブルが起こる前に、禁酒にしておくのがいい、男女隔離とヴェール着用にしておくのがいい、という考え方

・モノを私有するという執着としんどさから解放され、先祖代々の墓を守るということからも解放されると、人々は身軽に楽しく引越しをする。動くことは、人の暮らしを活性化する

・遊牧民は、定着した連中を軽蔑して、「あんな家に住むから、肝っ玉の小さな人間になる」「定着した遊牧民は、モノを溜め込み、守りの姿勢に入って、おどおどした雰囲気になる」と言う

・エジプトやイラクなどのイスラーム社会で道をきくと、知らなくても「一緒に行こうか」と付いてきてくれる人が多い。道を知っているかどうかより、迷っている人を助けたいという親切心が先立ってしまう優しい人たち



アラブの人たちを理解するには、イスラム教を理解しないと始まりません。本書には、そのエッセンスが載っているので、便利です。

他文化を理解し、他国の人々を理解するには、相当な努力と時間が必要であると、痛感させられる書でした。


[ 2014/08/08 07:00 ] 海外の本 | TB(0) | CM(0)
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