とは学

「・・・とは」の哲学

『名人は危うきに遊ぶ』白洲正子

名人は危うきに遊ぶ (新潮文庫)名人は危うきに遊ぶ (新潮文庫)
(1999/05/28)
白洲 正子

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骨董を愛し、芸術への優れた審美眼の持ち主であった著者の随筆には、度々ハッとさせられます。

現場に出かけ、その地の匂いをかいで得た審美眼だからこそ、そう感じさせてくれるのかもしれません。本書にも、心に響く文章が数々載っています。その一部をまとめてみました。



動こうとして動かずにいる緊張感が天平の観音の魅力。平安時代には、観音さまは女性的になり、「遊び足」といって、こちらのほうへ一歩踏み出す気配が表れる。さらに時代が下がると、意識的に「遊び足」を用いるようになる。それは、もはや堕落の一歩手前

・人間は誰でも矛盾だらけでつかみ所のないパラドックスをしょいこんでいるが、大抵は苦し紛れにいい加減な所で妥協してしまう。だが、西行は一生そこから目を放たず、正直に、力強く、持ってうまれた不徹底な人生を生き抜き、その苦しみを歌に詠んだ

・西行の真似がしたかったのではない。自由に生きることがどんなにつらいことか、その孤独な魂に共感されるものがあった

・「名人は危うきに遊ぶ」という、その危険な「遊び」がないところに真の美しさも生まれない

・形をしっかり身につけておけば、内容はおのずから外に現れる。時には自分が思っている以上のものが現れることもある。何も考えず、無心に徹するからこの世のものならぬ美しさを表現できる

・無心といった、そういう空な状態を造り出すために、お能は600年もかけて工夫に工夫を重ねてきた

・「人間は自由によって何一つしていない」とロダンは言った。また「鳩が空を飛べるのは、空気のせいだ」とは、カントの言葉。見かけ倒しの自由の中に道を失った現代人は、もう一度、本当の自由とは何であるかを見直してみるべき

・人間として知っておくべき基本の生き方を身につけた上で、個性は造られるのであって、野性と自由が異なるように、生まれつきの素質と個性は違う。個性は、自分自身が見出して、育てるもの

・森林浴だの、緑のキャンペーンだの、そんな言葉を信用しない。私たちに必要なのは、自然を敬い、神を畏れる心から発した、生者の魂を鎮めることにある

・はやるということはいいことだから、それについてとやかく言いたくはない。ただ、はやりすぎると、芸が荒っぽくなるのを怖れているのであって、書きすぎると、筆が荒れるのとそれは同じこと

・「監督の仕事は、見つける、育てる、生かす、の三つに尽きる」(野村克也)。人間でも、焼きものでも同じ。先ず「見つける」ことの難しさ、次に「育てる」ことの愉しみは、使っている間によくなること。最後の「生かす」は、活用の道を発見するところにある

余技に生きることが人間の本当の在り方。日本の芸術一般には、素人的なところがあり、それが作品に余裕を与えるとともに、使う人たちを参加させる余地を残す。不完全な言葉がより合って連歌を作るように、不完全な道具が集まってお茶の世界を形づくる

・今になってみると、無為にすごした旅が懐かしい。小林秀雄さんは「人間は遊んでいる時に育つ」と言っていたが、仕事をするだけが人生ではないと、近ごろしきりに思う

・国際的という理想はおおかた達せられたように見えるが、中身は依然として昔ながらの日本人であり、一歩も前進していない。むしろ退歩したように感じるのは、それまで大切にしてきた文化を惜しげもなく捨てたからで、鹿鳴館の亡霊はいまだに巷を彷徨っている

・一つの国には、それを造り上げてきた長い歴史と文化があり、一朝一夕で変わるものではないのは自明のことだと思うが、絢爛豪華な外国文明に眩惑された明治政府の役人は、いとも簡単に、外国のものはいい、日本のものはダメだ、と短絡的に決めてしまった

・「放っておけば、風とか空気とか太陽などが自然に治してくれる。ただし、私がそこにいなくてはダメ。そこにいて、何もせず待っているだけ。待つのもつらくはない。患者が治る楽しみがあるから。ただし、これは自分のやり方で、人に強いることはない」(河合隼雄)

・「狐や狸や犬のせいにしとけば助かる。それが昔の人の智恵。今は自分が悪いからノイローゼになる。直すのは自分自身しかない、と思い込んでいるから本当に可哀想」(河合隼雄)



素晴らしい自然に出会い、素晴らしい芸術作品に出合い、素晴らしい人に出会い、それらに醸し出され、培われたものが、この著述になっているように思いました。

まさに、一流に育てられた結果としての一流の文章ではないでしょうか。


[ 2014/01/01 07:00 ] 芸術の本 | TB(0) | CM(0)
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