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「・・・とは」の哲学

『中国絶望工場の若者たち・「ポスト女工哀史」世代の夢と現実』福島香織

中国絶望工場の若者たち 「ポスト女工哀史」世代の夢と現実中国絶望工場の若者たち 「ポスト女工哀史」世代の夢と現実
(2013/03/02)
福島 香織

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昨年秋に起こった中国での反日デモと日系工場のストライキは記憶に新しいところです。本書は、暴動が起こった原因を、日本の工場で働く中国人と中国の日系工場で働く中国人に取材して、探ろうとしたものです。

その原因には、中国の複雑な制度が横たわっています。現在の中国の若者を知る上で貴重な書です。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・親が農民工(出稼ぎ農民)の子供である「第二世代農民工」は、日本車が憎いのではなく、日本車を持っている金持ち層が憎くて、日本車を叩き壊した

韓国への出稼ぎを嫌がるのは、「1.仲介業者に預ける保証金6万元(約100万円)が帰国後全額返金されない」「2.労働時間が12時間~14時間と長いのに日本より給料が低い」「3.日本のように住居・宿舎が準備されない」「4.韓国人のほうが性格がきつい」から

・中国の一人っ子政策では、一人目が女の子や障害児であれば二人目を産んでもいい。次も女の子だったら、三人目から罰金が1万元(約16万円)かかる

・検品は日本人担当者がするが、本当にささいなキズを見つけては、納品を拒否する。そうなると金を払わない。すると、経理が怒って工場長を怒鳴りつける。ライン長がワーカーを蹴り上げる。検品の後の工場内はギスギス、ピリピリして地獄

・日本人は、日本製品がつくられている現場を知らない。管理のやり方が、1分遅刻したら罰金1元、トイレが1分長いと罰金1元、居眠りしたら1元罰金。何でも罰金、罰金

・2012年春節前に日系工場で起きたストライキには反日感情はない。このストライキは「経済補償金先払いスト」。まだ退職しないが、退職したとき本当に退職金が支払われるかどうか心配なので、今まで働いた分の退職金をとりあえず先払いしろ、というストライキ

・日系の工場はストレスがたまる。5S6S(整理・整頓・清掃・清潔の頭文字をとって4つのS。これに躾か作法が加わる)とか、耐えがたい

・日本人が尊ぶ「約束を守る」「時間を守る」「嘘をつかない」といったマナーを持ち合せていなくとも、中国では特に批判されない。むしろ、無法で厳しい中国社会を渡っていくには、相手を言い負かす自己主張力や、自分の落ち度を認めない交渉力のほうが必要

・賃金未払いなど、中国の工場ではよくあること。それより、トイレ休憩とか、携帯電話の持ち込みとか、そういう自由のほうが大切。今どきのワーカーは、3か月賃金未払いよりも、管理が厳しい職場のほうがイヤ

・2010年以降の日系企業のストライキ成功体験から、日本人相手ならば要求が通ると思われている。だからこそ、日本から日本人社長が来ている最中に合わせてストライキを行う

・ワーカーに対する管理や評価を中国人中間管理職に任せっぱなしにせず、日本人管理職がワーカーのいる現場に降りて、彼らの要求を直接吸い上げるべきだが、そういう日本人管理職(中国語が堪能、中国理解が深い、ストライキ対応経験あり)がいないことが問題

・「農民工」というのは差別用語。農民でありながら、工人(労働者)であるという言葉。日本語で言えば「出稼ぎ農民」。都市に暮らしていても、農民は農民というのは、中国の戸籍管理制度に由来する

・農民工には都市民の権利(医療、結婚の自由、子供の義務教育など)が与えられなかった。立場の弱い彼らは、悪条件で搾取され続け、厳しい差別や侮蔑、迫害の対象となった

・農民工同士が結婚し、そこで産まれた子供が「民工子女」。彼らは都市生まれだが、都市戸籍がなく、都市の公立校入学資格もない。親の期待に応えて大学に進学しても、農民戸籍ゆえに就職差別(都市の就職は、都市戸籍を有し、コネを持つ者が優先)される

・農村戸籍大卒者は「蟻族」と呼ばれる高学歴ワーキングプアとなって、都市の片隅に住むようになっていく。農民工は目下2.5億人、その6割の1.5億人が「第二代農民工」。故郷に帰って農業に就こうと考えているのは、わずか1%、99%が都市に溶け込みたい

・ネットで都市民の女の子と知り合っても、オフ会で、農民工だと分かると、フンと鼻先で笑われ、歯牙にもかけられない。休みの日に遊ぶ相手は同郷の同じ農民工しかいない

・2012年の反日デモ暴動が、中国当局の暗黙の指示や誘導による官製デモであるにしても、あれほどまでに若者が無法化し、破壊活動を起こしたのは、日本への憎しみでも歴史への恨みでもなく、「第二代農民工」の若者たちの抱える孤独と絶望感によるものと考えられる



中国の都市民と農民の差別問題がこじれ、「農民工」に不満が蓄積していけば、新たな天安門事件に発展していく可能性があります。その不満のガス抜きに、反日を利用しようとする中国当局のあざとさに閉口しますが、現実に、そうせざるを得ないのかもしれません。

チャイナリスクを把握するには、経済指標だけでなく、社会問題も考えておく必要があります。中国社会の歪を知る上で、本書は、貴重な書ではないでしょうか。


[ 2013/09/16 07:00 ] 華僑の本 | TB(0) | CM(0)
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