とは考

「・・・とは」「・・・人とは」を思索

『「マネー大動乱」時代を生きぬく情報活用術』増田悦佐

「マネー大動乱」時代を生きぬく情報活用術「マネー大動乱」時代を生きぬく情報活用術
(2012/09/13)
増田 悦佐

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本書の初めの方に、「歴史なき経済学は、海図なき航海と同じ」という言葉が出てきます。本書は、長い期間のデータを読みとることによって、経済や社会の真実を見ていこうとするものです。

日米の比較データをもとに、マスコミが伝えた「真実」の間違いを解き明かし、正しい判断基準を提供しようともされています。本書の中で、新しい発見が数多くありました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・日本の勤労世帯は、不動産と株のバブルがはじけて、経済情勢が大混乱した時期でさえも、堅実な家計運営で、借金を差し引いた金融資産を着々と伸ばし続けてきた

・1997年から2008年までの12年間の日本の家計金融資産残高は、11.6%拡大した。これは年率換算にして0.9%の伸び。2000年のITバブル崩壊と2008年のサブプライムローンバブル崩壊の二つを含む運用の難しい時代の伸び率としては立派なもの

・日本の経済学者たちは、日本と欧米で違っていることがあったら、日本の方がダメに決まっていると考える。日本人の安全第一の資産運用にも、否定的な論評をする者が多い

・日本の大卒以上の学歴を持つ女性は、受けた教育を生かすことが男性より上手で、高卒女性の1.61倍と、32カ国中真ん中よりやや上。日本女性は男性より、教育投資からの収穫を確実に得ている

・アメリカで、きちんとした教育を受けられることで名の通った大学は、私立、州立を問わず、年間で200万円以上の負担が必要。アメリカの大学授業料は、過去30年間、全国平均で年率7%くらいのペースで上がり続けている

・アメリカでは、社会人になってからの出世払いということで、大学生は学費ローンを組むことになる。アメリカの金融機関では、この学費ローンが、「住宅ローン以上の長期延滞や貸し倒れが続出する時期が迫った」と唱える人が増えている

・白人世帯と非白人(ヒスパニック系の白人含む)世帯との純資産中央値の格差は、2010年には6.4倍へと拡大している

・最近のアメリカでは、リセッション(景気後退)とマン(男性)を合成した、マンセッション(男性不況)という新造語が流行っている。女性は採用されるのに、男性が採用されない理由は単純で、同じ学歴の人なら、男性より女性を採ったほうが安上がりだから

・日本経済における、小売業や外食産業などが占める比重が上昇してきたことが、非正規雇用拡大の最大の理由

・世界中の先進国はどこも同じだが、製造業の雇用は、技術や知識の進歩によって、生産性が上がるにつれて縮小する。少ない雇用数で同じ生産量を生産できれば、あまった労働力を放出する。日本で製造業の雇用が減っているのは、円高が理由ではない

・製造業が順調に発展してきた国ほど、雇用者全体に占める製造業就業者の比率は低くなる。対人折衝の必要な接客業務の要素の濃い産業は、労働力の量が減らない。非正規雇用者が多い三大分野は、宿泊飲食サービス業、卸売小売業、医療福祉で、接客性の高い産業

先進国の条件は、エネルギー効率を持続的に高められること。先進国の経済は、値段が上がって貴重さが高まったものは、消費量を減らすという経済合理性が備わっている

・先進国で、日本だけが日常生活で通勤通学に頻繁に使える鉄道網を維持してきた。日本のエネルギー効率の高さは、利用頻度の高い鉄道網のたまもの

・日本の社会保障給付は、先進諸国の中で、一番歩留まりがいい。「歩留まりがいい」とは、国民の負担に対する給付の割合が高いということ

・日本ほど、お金をかけずに長寿をまっとうする人の数を増やしてきた国はない。高齢化比率が5%台半ばから22%へと16ポイント以上上がっているのに、医療費の対GDP比率は、約3%から約9.5%へと6.5ポイント上がっただけ

・日本国民は、アメリカ国民と比較すると、4割未満の医療費しか使っていない。でも、アメリカより4歳以上長い平均寿命を達成している

・円高が進んでも、日本は安定的な数量を輸出し続けているのは、価格次第で需要が変動することが多い「最終消費財」から、技術優位を生かせる「中間財・資本財」へと構造転換が進んでいるから



日本がいいと言われていることが、実は悪かったり、日本が悪いと言われていることが実はよかったりと、新たな発見となる情報を提供してくれる書です。

自虐的な日本人と自信家の欧米人といった性格的な面を排除するには、やはりデータを客観的に見つめ続けることです。それをしなければ、声のデカい民族に、知らず知らずのうちに、呑まれていくのではないでしょうか。


[ 2013/08/14 07:00 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)
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