とは考

「・・・とは」「・・・人とは」を思索

『「対話」のない社会―思いやりと優しさが圧殺するもの』中島義道

「対話」のない社会―思いやりと優しさが圧殺するもの (PHP新書)「対話」のない社会―思いやりと優しさが圧殺するもの (PHP新書)
(1997/10)
中島 義道

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著者の本を紹介するのは、「人生しょせん気晴らし」「善人ほど悪い奴はいない」「差別感情の哲学」に次ぎ、4冊目です。本書は、1997年発売以来、ずっと売れている本です。著者の代表作の一つかもしれません。

日本人の「私語死語」といった会話の貧しさを探っていく書で、哲学者ならではの視点に、気づかされる点が数多くあります。その一部を要約して、紹介させていただきます。



・私語は、聴きたい人の権利を奪っており、そこに参加した者に対する明らかな暴力であるから、断じて許してはならない

・日本の若者たちは、全員に向かって言われる小言には不惑症になっている。だが、自分個人に向けて言われたことは骨身にしみる。まさか、何百人の中で、自分が名指しで注意されるとは思っていない。だから、それを実行すると、不思議なほど効果がある

・この国では、公共の場で個人を特定して評価すること、ことに非難することを極めて嫌う。これは「日本的基本的人権」の核心部分を形づくっている。人々はルール違反の他人にも傷つけないように注意を払い、公衆の面前で責めたてるのは「かわいそう」と考える

・総じて学力の高い学生は、言葉を比較的自然に語りだすが、学力の低い学生は口をつぐむ。言葉を発することを警戒している

・学力の低い大学では、絶対に「馬鹿」「アホ」「無知」とかの差別語を使えない。教師は、この世に学力の差別がないかのようなフリをする必要がある。その演技力が少しでも鈍って、差別発言らしきものが出ると、学生たちはそれを敏感に感じ取って、教師を断罪する

・女優、作家、社長など、成功者は競って劣等生ぶりを披露するが、こうした話は「劣等生」の心を曇らせるだけ。学力の敗者である若者たちは、「努力すればどうにかなる」という麻酔薬を強引に飲まされたあげく、次第に言葉を失っていく

・和の精神は、常に社会的勝者を擁護し、社会的敗者を排除する機能を持つ。そして、新しい視点や革命的な見解をつぶしていく。かくして、和の精神が行き渡ったところでは、いつまでも保守的かつ定型的かつ無難な見解が支配することになる

・なぜ、わが国では「お上」が、ああせよ、こうせよと国民を導くのか?それは、われわれ日本人が、「お上」の言葉に疑問を持たないように、「聞き流す態度・見逃す態度」を長い年月かけて培ったから

・自由、平等、人権、個人主義、弱者保護など、ヨーロッパ起源の「よきこと」がわが国に上陸すると、本来の意味が微妙かつ巧妙に変形する。同じ言葉を使いながら、内実の異なった似非近代化ないし似非欧米化が進行し、誰もそれに気づかない状態が出現する

・日本の「思いやり」は、ほとんどの場合「利己主義の変形」として機能する。勇気のない人が容易に実行できるような「思いやり」が、われわれにとっての「思いやり」である

・「優しき論者」は、「優しさ」が「人間の全価値」であるとの前提とした上で、それが欠けている人を目撃するや、その人を人間として全否定する暴挙をしばしば行う

・すべての人を傷つけないように語ることはできない。もし、できたとしても、そのときは真実を語ることを放棄しなければならない

・他人に対する配慮、思いやり、優しさばかり強調される社会における若者たちは、自分の叫び声を出せない。誰も傷つけない言葉を発することは、それはもう言葉の否定である

・この国のあらゆる会合では、誰からも不平不満が出ないこと、というより、誰にも不平不満を言わせない状態にもっていくことが最高の目標とされる

・「対立嫌悪症」が「長幼の序」や「謙譲の美徳」と結びつくと、目上の者と目下の者との間の「対話」を徹底的に阻害することになる

・現代日本人は、「他人にかかわりたくない」という強烈な願望を持っている。それは世間に対する過度の配慮の裏返し現象である

強い個人主義は、「利益の追求に集中」「他人との関係が攻撃的で、競争指向的」「市場を利用し、個人プレーヤーとして生きる」。弱い個人主義は、「不利益の回避を重視」「他人との関係が防衛的で、競争回避的」「集団を利用し、個人は集団に所属する」

・われわれは実は、「和風個人主義」(弱い個人主義)を望んでいるのに、「洋風個人主義」(強い個人主義)を望んでいる振りをする。これこそ一番の罪である



日本人の「和魂洋才」ぶりは、商品や言語だけでなく、その行動様式や思考にまで及ぶと、著者は指摘しています。

外国のものを、今ある日本的なものに加えていくことはできても、そっくり取り替えることはできないのが日本人です。その矛盾に疑問を持たないのも日本人です。そのことを真正面に論じているのが本書です。日本人の矛盾を考えさせられる書ではないでしょうか。


[ 2013/07/17 07:00 ] 中島義道・本 | TB(0) | CM(0)
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