とは学

「・・・とは」の哲学

『文明が衰亡するとき』高坂正堯

文明が衰亡するとき (新潮選書)文明が衰亡するとき (新潮選書)
(2012/05/25)
高坂 正堯

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国際政治学者の著者が亡くなってから15年以上経ちます。国家の歴史を徹底的に分析し、現在の政治に言及する学者でした。今いてくれたら、どんなによかったことかと思います。

本書は、小国にもかかわらず、通商国家として成功したヴェネチアオランダの衰亡史をとりあげた内容です。今の日本が学ぶべき点が非常に多いと感じました。その膨大な内容の一部を要約して、紹介させていただきます。



・ヴェネチアは大陸国家のように重い権力装置を持たなかったので、その費用も少なくてすみ、財政管理は極めて効率が高かった。国家は商業会社のように運営されていた

・豊かになると、国民の間に富の差が生じ、力の格差をもたらす。国が強くなると、国際的な反撃を生み、権力政治に加わらざるを得なくなる。それらは強い権力を必要にさせる

・安定したリーダーシップを確保しながら、専政を防止する方法として、貴族政が確かであることは歴史の示すところ

・ヴェネチアは公的企業と私企業を巧く組み合わせ、経済的格差が増大するのを防止した。国会議員は、戦時には進んで戦わなくてはならなかったし、貴族は、租税上の特権や法外な富を貯えてはいけなかった。「節制の精神」が貴族政を支える徳性であった

・政治はそれを行う人間によって決まる。制度は大切だが、腐敗する危険が絶対にない政治制度などできない。秀れたエリートを持てるかどうかは、極めて大切なこと

・ヴェネチアは海運業を保護するようになった。しかし、その勢力は盛り返すことはなかった。効率の悪い船で商品を運ぶことを強いられたヴェネチアの産業は不利な立場に置かれた。こうした自由な精神と開放的な態度の衰弱こそ、ヴェネチアの衰亡期の特徴

・歴史を遡れば、ヴェネチアの商業は、税金が安いことから利益を受けた。そのうち、税は高くなったが、有効に使われていた。最後には、税金の高いことが企業活動を圧迫した。そして、ヴェネチア人の賃金や労働条件も法制化され、賃金の割に働かなくなっていった

・冒険を避け、過去の蓄積によって生活を享受しようという消極的な生活態度は、ヴェネチア人の貴族の男子で、結婚しない人が増えたことに現れている。17世紀には、適齢期の男で結婚しないものの比率は60%へと上昇していった

・ローマの歴史が示しているように、いったん大をなした文明は、直線的には衰亡に向かわず、衰亡の兆しが現れた後、何回かの浮沈を繰り返した後、初めてそうなる

・日本の戦後の成功は「パックス・アメリカーナ」という幸運な環境に負うところが大きい。日本は人的資源と水資源を除いて領土も狭く、資源もほとんどない。強大な国家となる基礎に欠けるのに、経済的に成功したのは、日本人の努力と能力だけでは不可能なこと

・パワーベースを欠く国の成功は不安だらけ。オランダの成功は敵意を生み、交渉の増大によって、摩擦も増えた。大体、中間に立って富を求めるものは人に好かれない

・幸運に助けられた成功と、どうしても克服できない脆弱性、その二つが通商国家の運命

・通商国家は、他人に害を与えることが少ないのに、嫌われる。ヴェネチアもオランダも、他国に大きな脅威を与えるはずがなく、秀れた技術によって、他国の人々の生活に寄与していたのに、好かれなかった

・17世紀、オランダの通商国家としての成功に直面して、思弁と仮説の反オランダ・プロパガンダが作られ、反オランダ政策が展開された。そして、オランダ人の才、進取の気性、勤勉の犠牲者になったと思い込んだ連中たちによって、反オランダ戦争が起こされた

・通商国家は戦争を避けようとする。それはただ、強力な国々の国際関係を利用するだけ

・通商国家は、他人に利益を与えることができるし、また、そうしなくてはならない。それにもかかわらず、巧妙な生き方をするが故に、通商国家は他人に好かれない。それは、人間の性からしてやむを得ない。ただ、それ以外に通商国家の生き方はない

・通商国家は異質の文明と広汎な交際を持ち、さまざまな行動原則を巧みに使い分け、それを調和させて生きる。しかし、そうすることで、自分の大切なものや自分が何であるかが徐々に怪しくなる。すなわち、道徳的混乱が起きる

・通商国家の人々は、成功に酔い、うぬぼれると同時に、狡猾さに自己嫌悪する。その結果、社会の中の分裂的傾向と平穏な生き方への復帰を求める傾向が起こり、変化への対応力が弱まる。しかし、通商国家はつねに新しい変化に対応する姿勢を持つ必要がある



通商国家の政策は、成長期(外部環境の幸運とその幸運をつかむ政策)、成熟期(繁栄を持続させる外交・軍事・産業政策)、衰亡期(競争相手出現による衰退を止める政策)によって違います。今の日本は、成長期は終わり、成熟期に入っています。

小国なのに繁栄した国は、周辺諸国から「嫉妬」や言われなき「差別」を受けます。それを、外交手腕で、どう忌避できるか。時代や環境に適応しながら、新しい産業をどう興していけるか。本書は、今の日本にとって、とても大切な書ではないでしょうか。


[ 2013/07/12 07:00 ] 海外の本 | TB(0) | CM(0)
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