とは学

「・・・とは」の哲学

『日本の景観―ふるさとの原型』樋口忠彦

日本の景観―ふるさとの原型 (ちくま学芸文庫)日本の景観―ふるさとの原型 (ちくま学芸文庫)
(1993/01)
樋口 忠彦

商品詳細を見る

1981年に刊行された書です。日本人が、どういった景観を好むのかを科学的に解明しようとした画期的な内容です。

著者は、日本の景観学の先駆者です。自然(盆地、山、谷、平地など)と都市(街路、広場、緑化など)の景観を細部にわたって論じています。その中から興味深い箇所を、一部ですが、要約して紹介させていただきます。



・権力者であった平安貴族は、はっきりとした人間的意志の感じとれる都市を維持する強い父性原理を持っていなかった。「もののあわれ」が、平安貴族の主流をなす感性であった

・「すべてのものを切断し、分割する機能をもった原理が、父性原理。すべてのものを包含し、場の平衡状態を維持する原理が、母性原理」(河合隼雄)

・日本の景観の特徴は、「盆地の景観」「の景観」「山の辺の景観」「平地の景観」の四つの分類により、明らかにできる

・盆地には意外性という面がある。外の世界から盆地に接近する場合、谷川を遡り、深い山の中を進み、峠を越えると、そこにパッと盆地が開けるというような構造になっている。それは、人にドラマチックな体験をもたらす

・日本の庭園には、池が不可欠。日本庭園の池は、そもそも海を模したもの。池の水面は、居住者に安楽な休養を与えるようにしつらえられた

・日本の地形を流域系で見ると、谷-盆地-谷-平野-海という構造になっている。流域に沿って、広がりのある平地をもった盆地、平野が点在し、それらをつなぐ形で谷がある

・人は、広がりのある場所において、背後による所がないと、何となく落ち着かない。日本における山を背にした集落の立地傾向も、そうした心理傾向から生まれたもの

・山の辺の景観の中でも、背後に山を負い、左右は丘陵に限られ、前方のみ開いているタイプの景観は「蔵風得水」景観。これは、深層心理学的に言えば、人間にとって最も快適とされる眺め(子宮からの眺めや母の膝に抱かれて見る眺め)と同じ形

風水思想で吉とされる地は、日当たりがよく、風も吹き抜けず、前方に眺望が備わる落ち着いた雰囲気の地。この地では、誰しも、玉座にゆったりと坐った天子の気分に浸れる

・「みなと」は水門で、両側からせまった水の出入口を意味する。「やまと」は山門で、山に塞がれた内部の地である盆地の総称

街道並木は、平地の景観を代表するもの。平地が支配的な大陸と違った山国日本は、水上交通に比べて、人馬による陸上交通は難儀を窮めた。街道並木が歴史に登場してくるのは、平地の開発が進み始めた戦国時代以降

・徳川時代の百万都市江戸の四季の名所は、郊外の山の辺(丘の辺)と隅田川などの川の辺に集中する。眺望が開けている水の辺には、日の出、納涼、月見、雪見の名所が多い

・景観というのは、凸型の彫刻的景観と凹型の空間的景観とが組み合わさったもの。凸型景観=意志のイメージ、凹型景観=休息のイメージという関係を知れば、景観の構造をかなり明確に説明できる

・人間も含めたすべての動物にとって、棲息に適した棲息地・棲処の基本条件は、「自分の姿を見せることなく相手の姿を見ることができる」ところ。自分の姿を隠す「隠れ場所」と相手の姿を見る「眺望」が備わったとき、美的な満足感を得ることができる

・巨大な建築物や施設を点景化し、背景の自然景観に馴染ませていくためには、「危険と見えない」「人間のための施設に見える」「目立たない」といった考え方で対処する

・日本人は、最も目立つ凸型地形の場所に、これ見よがしの構築物を建てることは好まなかった。山に建てられた寺院や塔を見ても、ほとんどが山の辺山腹であり、背景の山に包まれ、収められてこそ、美しさも増し、日本的な母性的景観が保たれる

・山の辺・水の辺と居住地との間に緑地や帯状の公園を導入し、「間」を取りながら、居住地を山の辺・水の辺に連続させていく必要がある。さらに、これらの山の辺・水の辺は居住地からよく見え、しかも近づきやすくなっていなければならない

・「屋外階段」により、上の階の人々と通りの生活が結ばれる。通りに面する屋外階段は、「腰をおろせる階段」になるし、階段の踊り場は、通りを見下ろす「テラス」にもなる



日本の景観は、明治以降、「男性原理」によって破壊され続けてきたことを、日本人が好む「母性原理」を解明することで、説明されている素晴らしい書です。

本書を読むと、しっくりいく、馴染む、落ち着く、気持ちがいい、こんな感情の奥に潜むものを大事にすることが、日本文化の奔流だと気づくのではないでしょうか。


[ 2013/07/07 07:07 ] 環境の本 | TB(0) | CM(1)
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[ 2013/07/07 13:17 ] [ 編集 ]
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
この記事のトラックバックURL