とは考

「・・・とは」「・・・人とは」を思索

『悪と日本人』山折哲雄

悪と日本人悪と日本人
(2009/12/18)
山折 哲雄

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山折哲雄さんは、国際日本文化研究センター教授、所長を務めた宗教学者です。テレビやラジオでの講演を何回も聴いたことがあります。

このブログで採り上げるのは初めてです。やさしいお顔と口調とは逆に、本書の文面は、ズバッと言い切る力強い内容になっています。その中から、気に入った箇所を選び、紹介させていただきます。



・「学問の対象には、いつもいいものだけ選ぶわけにはいかない。悪いことでも、人間生活にあるものだから、研究しなければならない。この両端が相まって初めて、人間の生活、社会の機構がわかる。道徳の研究には、悪徳の研究が必要」(折口信夫)

・仏教は19世紀ヨーロッパの知的世界において怖れられた。仏教の内部に根づく「虚無」の信仰が、恐怖の対象とされた。それは、「悪」そのものを伝える凶々しいサインだった

・カルトにおいては、神秘体験が非常に重視されるが、それは神秘体験の中で、人間はみな平等なのだという実感を持つことができるから

・すべてのものが無常であるとする日本人の考え方は、すべてのものが滅びるという思想を持ち出すことによって、人間的な善悪の問題を空無化してしまう

・「きけ わだつみのこえ」に記された学徒兵たちが、戦争の悪を哲学的に追究し、死に赴くぎりぎりのところで、短歌をつくって後世に残そうとしていることは興味深い。短歌的叙情の中に、論理的な懐疑哲学的な苦闘の跡を、すべて溶かし込んで、死んでいる

・和歌のリズムには、善悪という倫理的基準を容易に超えさせてしまう毒のようなものが隠されている。日本の精神史において、和歌がどのような役割を果たしてきたのかを検討することは、日本人の善悪に対する考え方を測るリトマス試験紙になる

・日本人は、仏教からは、無常観と浄土観、空や無のイメージ、儒教からは、修養、西洋からは、個人主義を受容して、それらをうまく重層化させながら、自らの人格形成に役立てようとしてきた。この三つの思想的要因を、意識の底で支えていたのが神道的な感覚

・四季の変化に対する鋭敏な感覚、鎮魂の心構え、縁起にまつわる言説、気配に対する関心の強さ。「四季」「鎮魂」「縁起」「気配」を並べると、日本列島人の信仰心が見えてくる

・日本の歴史を振り返るとき、「悪」の問題に鋭い眼差しを向けたのが親鸞。歎異抄には、「善人なおもちて往生をとぐ、いはんや悪人をや」と「善悪の二つ、総じても存知せざるなり」という、悪と悪人に関わる二つの重要なことが記述されている

・キリスト教、ユダヤ教、イスラム教の聖地周辺の景観は全部砂漠。それと比較して、日本列島の風景は、75%、山と森で埋まっている。水は豊かだし、山の幸、海の幸に恵まれている。生きていくための価値の源泉を天上に求める必要がない

・人間は、放っとけば、限りなく野性化する。だからこそ、マハトマ・ガンディーの非暴力思想が、近代になって出てくる。あらゆる宗教の守るべき戒律は、まず「人を殺すな」

・「性の快楽を最も味わうことができるのは、禁欲生活を送った人間がそれを破るとき」(アンドレ・ジッド)

・京都の東寺の両界曼荼羅には、薄絹を着て、豊満な肉体で笑ったり、コケティッシュな目つきをした遊廓の世界のような女性たちが描かれていた。我々は、千年以上知らずに、それを礼拝の対象にしてきた。独りほくそえんでいたのは空海だと思う

・エロティシズムと暴力性は深いつながりがある。宗教家たちは、エロティシズムの原因が食生活にあると考え、断食をして、性愛運動暴力運動から自分を解放しようとした

・「ガンディーの非暴力」とは、「男が女になれるかどうか」の過激な実験

・「数学的真理を発見する時の状況は、宗教的な神秘体験の状況とよく似ている」「直感とは、一種の神秘の体験。そういう点で、自然科学も宗教の世界と深い関係がある」(岡潔)

教義なき宗教、カリスマなき宗教、儀礼なき宗教。そこで初めて宗教は、攻撃的な世界から自由になれる

・平安遷都から保元・平治の乱まで約三百五十年、江戸時代の約二百五十年、日本の歴史には、長期に渡る平和の時代が二度あった。なぜ、平和の時代が続いたのか、日本の歴史家は考えるべき。その理由の一つは、国家と宗教の相性が良かったからと考えられる



一休さんは、「この世にて、慈悲も悪事もせぬ人は さぞや閻魔(えんま)も困り給わん」と言っています。道徳とは、人間に慈悲の一方だけを押しつけるものです。それが度を過ぎると、建前だけの世の中になります。

人間の悪事もしっかりと見つめることで、総合的に、人間や社会を判断することができます。本書は、日本人が悪をどう扱ってきたのか知る上で、貴重な書だと思います。


[ 2013/02/15 07:01 ] 神仏の本 | TB(0) | CM(0)
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