とは考

「・・・とは」「・・・人とは」を思索

『高村光太郎詩集』

高村光太郎詩集 (岩波文庫)高村光太郎詩集 (岩波文庫)
(1981/03)
高村 光太郎

商品詳細を見る

高村光太郎と言えば、「智恵子抄」「道程」などの詩集が有名ですが、父の高村光雲と同様、彫刻家としても多くの実績を残しています。特に、手の彫刻は彼の代表作でもあります。

彫刻家としての顔と詩人としての顔、創ることと書くことの二つを兼備した人は、なかなかいません。そのどちらもが超一流という人は、近年ほとんど例がないのではないでしょうか。

本書は、「智恵子抄」「道程」も含め、多くの詩が掲載されています。初めて読んだ詩も多く、大いに楽しませていただきました。それらの中から、一部を抜粋して、紹介させていただきます。



・日常の瑣事にいのちあれ、生活のくまぐまに緻密なる光彩あれ、われらのすべてに溢れこぼるるものあれ。われらつねにみちよ (智恵子抄・晩餐)

・人を信ずることは人を救ふ。かなり不良性のあつたわたくしを智恵子は頭から信じてかかった。いきなり内懐に飛び込まれて、わたくしは自分の不良性を失った (智恵子抄・あの頃)

・我も生けるものなり。公園に散る新聞紙の如く、貧く、あぢきなく、たよりなく、雨にうたるるまで、生けるものをして望むがままに生かしめよ (道程・生けるもの)

・ああ、走るべき道を教へよ。為すべき事を知らしめよ。氷河の底は火の如くに痛し。痛し、痛し (道程・寂寥)

・用心しろ、絵に画いた牛や馬は綺麗だが、生きた牛や馬は人間よりも不潔だぞ。命の糧は地面からばかり出るのぢやない・・・自己の王国に主たれ。悪に背け。汝を生んだのは都会だ。都会が離れられると思ふか。人間は人間の為した事を尊重しろ (道程・声)

・それだ、それだ、それが世の中だ。彼等の欲する真面目とは礼服の事だ。人工を天然に加へる事だ。直立不動の姿勢の事だ。彼等は自分等のこころを世の中のどさくさまぎれになくしてしまつた (道程・或る宵)

・ありゆる紛糾を破って、自然と自由に生きねばならない。風のふくやうに、雲の飛ぶやうに。必然の理法と、内心の要求と、叡智の暗示とに嘘がなければいい。自然は賢明である。自然は細心である (道程・或る宵)

・きりきりともみ込むやうな冬が来た。人にいやがられる冬。草木に背かれ、虫類に逃げられる冬が来た。冬よ、僕に来い、僕に来い。僕は冬の力、冬は僕の餌食だ (道程・冬が来た)

・僕の前に道はない。僕の後ろに道は出来る。ああ、自然よ、父よ。僕を一人立ちさせた広大な父よ。僕から目を離さないで守る事をせよ。常に父の気魄を僕に充たせよ。この遠い道程のため、この遠い道程のため (道程)

・二人で築いた夢のかずかずは、みんな内の世界のものばかり。検討するのも内部生命、蓄積するのも内部財宝 (典型・美に生きる)

・日本はすつかり変りました。あなたの身ぶるいする程いやがつてゐた、あの傍若無人のがさつな階級が、とにかく存在しないことになりました。・・・それは他力による変革で・・・自力で得たのでないことが、あなたの前で恥ずかしい(典型・報告)

・人の世は戦ひだ。底知れぬ誘惑こそ莫大な天然のおくりもの。ああ途方もない此の平安 (海はまろく)

・一生を棒に振りし男此処に眠る。彼は無価値に生きたり。彼は唯人生に遍満する不可見の理法に貫かれて動きたり。彼は常に自己の形骸を放下せり・・・彼は人間の卑小性を怒り、その根元を価値観に帰せり。かるが故に彼は無価値に生きたり (或る墓碑銘)

・僕が逆境の友を多く持ち順境の友をどしどし失ふのをなぜだろう。逆風の時に持つてゐた魂を順風と共に棄てる人間が多いからだ (友よ)

・友とは同じ一本の覚悟を持つた道づれの事だ。世間さまを押し渡る相棒だと僕を思ふな・・・お互にお互の実質だけで沢山だ。その上で危険な路をも愉快に歩かう。それでいいのだと君は思つてくれるだろうか (友よ)

・この世に幸も不幸もなく、ただ前方へ進むのみだ。天があり地面があり、風があり水があり、さうして太陽は毎朝出る (へんな貧)



高村光太郎の詩は、欧米留学し、ボードレールらに学んだ本格的なものです。処女詩集の「道程」で、いきなり芸術院賞を受賞しています。

特に、道程には、人を励ます詩が数多く掲載されており、落ち込んだときに見れば、勇気が湧いてくるのではないでしょうか。


[ 2013/02/02 07:03 ] 芸術の本 | TB(0) | CM(0)
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
この記事のトラックバックURL