宮本亜門さんは、ネスカフェのCMに出ていた20年前ごろから全く変わっていないように感じます。実績を積むと、人間は知らず知らずのうちに、偉そうになっていくものですが、低姿勢のままです。不思議だったので、その秘密を探るべく、本書を読みました。
本書には、宮本亜門流リーダー論が記されています。それは、自立した
専門家集団を束ねるのに、最適なものです。
奉仕型のリーダーは、今の時代に求められています。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。
・僕の役目は、舞台初日に向けて、役者やスタッフの良さを引き出す
舵取り。関わる人が、力を最大限発揮し得る
環境を作り、ワクワクした創作現場にすること
・役者という肩書よりも大切なのは、生の人間がライブで存在することで、お客さんに直接伝わる感動。それは
解放されたエネルギーから発せられる。そこに人は魅せられる
・自分の人生しか踏んでいない父親が、「自分の生き方こそ正しい。だからこうするべき、こうしてはいけない」と、子供を一つの枠組みに無理にはめ込むのがよくないのと同じで、リーダーは、
みんな違う人間と認めて、個性や才能を引き上げ、共に成長するのがいい
・「演出家という職業になるのが目的」ではなく、演出家という職業を使って、「観客に
感動を与え、
新しい考えを伝えていくことが目的」
・「いいよ」は、「ダメ出し」ではない「
いいこと出し」。いいよが、人をもっとよくする
・
気づいたことを提案する時は、「ダメ出し」ではなく、「ノートにとったこと(気づいたこと)を言わせてもらう」という言い方に変えている
・親鳥のえさを待っているような甘えた行動の奥には、誰かが自分の道を切り拓いてくれるという
他力本願な思いが渦巻いている。そういう姿が見えた時には、「やりたくて選んだ仕事だよね。自分の責任として、自由に自分で判断してほしい」と言うことにしている
・リーダーは、周りから一目置かれがち。その距離を縮めるべく、あえて自分から、できる限り
さらけ出すことから始める
・子供のころから学んだ「
ちゃんとする」教育のせいで、オーディション会場で、緊張が邪魔をし、その人の魅力が出ない。嫌な人と思われたくない、申し訳なくて言えないといった世間体や気遣いが入る。和を尊ぶことが、深層心理に植えつけられているのは問題
・意見を出し交換し合えると、共に創る実感が得られる。ブレーンストーミングのメリットは、参加した人がその議題にコミットしたことで、全体の中での自分の役割をよりはっきり認識できるようになり、
自分のこととして、実行に移していけること
・凝り固まった考えは、その人の可能性を潰し、将来の希望を失わせ、段々と無気力にさせるだけ。役者でも伸びる人は、どんどん
固定観念を壊そうとする人
・褒められることに慣れていない役者には、躊躇なく、しつこく
褒め殺す。相手に嘘だと言われても、あきれられても大丈夫。何も悪いことをしているわけではない
・人にはない輝きを放てる才能を持った人は必ずいる。それなのに、リーダーが、今までの歴史や実績を意識し、会社や自分の過去に囚われて、新しい試みができなくなるのはもったいない。組織は、
新鮮な風が入ってくることで、これまでにない可能性が広がる
・もの作りをする上で、気をつけているのは「観客の
想像力にゆだねる」ということ
・予算はどんなことにも関わってくるが、
お金の話の振り方、持っていき方によっては、周りのメンバーのやる気をなくさせてしまうことを、リーダーは知っておくべき
・いくらやりたい仕事でも、忙しすぎて
時間がなくなると、心の余裕がなくなり、楽しさは消えてしまう。そして、いつの間にか文句が多くなり、仕事が進まないことを、人のせいにするようになる
・シェークスピアの言葉通り、どんな方法であれ、まるで舞台に立つ一人の役者を見るかのように、自分を俯瞰で見ることができた時、はじめて自身の
立ち位置を確認できる
・本や雑誌を作っている人で、紙や印刷のインクが好きだから、この仕事を選んだ人はそういない。それより「人に何かを伝えたい」の思いこそが目的、すなわち
北極星のはず
・
俯瞰して見ることは、自分らしさが自分勝手なものになったり、自分だけの凝り固まった「幸福の物差し」で他人を計ってしまうことを抑制してくれる
目的を一つ上に置くこと、自分を俯瞰して見ること、この、高い頂に飛んでいく感じが、宮本亜門さんの、ふわっとした雰囲気の要因かもしれません。
とにもかくにも、リーダー自身が、「一歩先」にいて、「一段上」にいれば、メンバーに対して、いくらでも低姿勢になれるのかもしれません。奉仕型リーダーについて考えるのに、最適かつ有益な書ではないでしょうか。