とは考

「・・・とは」「・・・人とは」を思索

『金沢城のヒキガエル・競争なき社会に生きる』奥野良之助

金沢城のヒキガエル 競争なき社会に生きる (平凡社ライブラリー (564))金沢城のヒキガエル 競争なき社会に生きる (平凡社ライブラリー (564))
(2006/01/12)
奥野 良之助

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研究には、すぐに役立つ実践的な研究とそうでない研究があります。本書は、その後者のほうです。研究というよりも、知的探求といったほうが正しいのかもしれません。

知的探求は、基本的にお金になりません。でも、お金にならないことを、寸暇を惜しんで、取り組むのが、本当の学問のように思います。

本書は、いい意味での学者バカの記録です。学問の本来の姿が、この本に垣間見ることができます。その数々を「本の一部」ですが、紹介させていただきます。



・ヒキガエルの生活は「雨食晴眠」。その雨食も、降雨2、3日目から雨眠になる。そして、個々のカエルが動くかどうかは、彼らの「腹具合」が決める

・カエルは口から水を飲まず、体表から土の中の水分を吸収しているから、ねぐらの土が湿っていれば水分は補給できる

・夏は夏眠、秋にはちょっと働いてすぐ冬眠、春には10日ほど繁殖に精を出したかと思うとまた春眠。ヒキガエルは最低気温が10℃を越すと採食活動を行うが、最低気温が20℃以上になると、また眠る

・ヒキガエルの労働(採食)時間は、春5日、夏1日、秋5日で、1日5時間の労働。年間労働時間55時間。繁殖時間は春に10日×5時間の年50時間。これが彼らの働きぶり

・オスはメスの3倍。だから、繁殖池にやってきても、メスと出会うことなく帰るオスが多い

・金沢城のヒキガエルの最長寿者は12歳。成熟(1.5歳)まで達したら、平均してメスで6歳、オスで7歳まで生きることができる

・ヒキガエルは、ある範囲に定住しているが、昼間もぐりこむねぐらは決めていない。夜出てきて、ミミズの一匹でも呑むことができたら、すぐ手近な穴に入り込み寝てしまう

・ヒキガエルたちは、住む場所は決めていても、縄張りなどという世知辛い所有権は主張しない。喧嘩しないから順位もない。もちろん、ボスガエルなどいるはずもない。他の個体に干渉せず、勝手に生きている。ほぼ完全な個人主義者の集まりがヒキガエルの社会

・日本のヒキガエルのオスの間には、「優秀な」オスが「優秀でない」オスを退けるといった競争はない。メスを独占するために、全力をあげて生活するようなことをしなくても、ヒキガエルは、のんびり暮らしながら、ちゃっかりと子孫を残している

・ヒキガエルは地上を動くものなら何でも食べる。アリ、クモ、ゴミムシ、ミミズ、ナメクジ、カタツムリまで餌にする

・カエルの世界では、何らかの障害を持つ個体(指切れ、指の変形異常、片足短足、足首切断)は、1~2%の率で常に存在している。障害カエルたちは死なずに健闘している

・自然に住んでいる生き物は、呆れるほど多種多様。その上、種が違えば、その生活の仕方、生活様式もまた異なる。それを「競争」というたった一つの原理で統一しようとするのが、もともと無理

・研究者は、どうしても生き物の中に競争を見ようとする。その結果、喧嘩もせず、縄張りもつくらず、のんびりと暮している生き物は、調査の対象から外され、競争的な種だけが研究される

・生き物は、発展のチャンスには、種分化特殊化によって種数を増やし発展する。その時には、激烈な競争も行われる。だが、すべての生活場所を埋め尽くせば、適応した種が生き残りを模索するようになる。その時、競争はもはや主題ではない

・生き物の世界がどうなっていようと、人間は、人間としてどう生きればいいかを考えればいい。生物界がこうだから、人間もこうでなければならない、という考えは根本から間違っている

・人間としての能力などというものは本来存在しない。存在するのは個体差。そして、それぞれの個人が、自分の意志で、その個体差を伸ばしていく。それこそが真の自由

・大学にも、ごくわずかだが、本当に研究の好きな人がいる。でも、そういう人に限って出世していない。教授になる人の大半は、研究よりも出世が好き。つまり、好きなことを出世の道具として使っている



ヒキガエルはほとんど働いていません。競争もありません。大人になれば、その後の余命も長い。結構、のんきに暮らしています。

動物は、弱肉強食で、絶えず競争していると思われがちですが、競争に生き残った種は、楽しく、自由に、仲良くやっています。

安定に甘んじると、堕落していくと思われがちですが、競争のない安定社会は楽園なのかもしれません。競争を意識している限り、豊かさはほど遠いのではないでしょうか。

このように、ヒキガエルから教わることが多々ありました。ヒキガエルの研究を真摯にされた著者に感謝したいと思います。
[ 2012/05/19 07:06 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)
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