とは考

「・・・とは」「・・・人とは」を思索

『建築における「日本的なもの」』磯崎新

建築における「日本的なもの」建築における「日本的なもの」
(2003/04)
磯崎 新

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著者の磯崎新氏は、国際的に有名な建築家です。その才能は、建築だけにとどまらず、本も何十冊も出版されています。

その内容は、哲学家、歴史家、思想家のような文章で、論理的に記述されています。感性と知性が見事に融合した形です。

本書は、日本的なものとは何かに言及していくものです。豊富な知識に裏打ちされた文章は、読み応えがあります。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。



自然のなりゆきにまかせる、あるいはその動向を察知して、これに従うのは、日本での固有な人生観で、これを「日本的なもの」と名指すことができる

・桂離宮の建築的精髄は構成による美。この美的判断基準は国際建築様式としての近代建築に残存している。今日の国際的通念となった日本美の理解がこれを超えることは稀

・「田園的」「非都市的」「非権力的」な建築型としての数寄屋、とくにその発生期である16世紀末の茶室の研究によって、「日本」を改めて切り取っていくことができる

・11世紀の日本で最初の造園書「作庭記」に「立石は乞はんに従ふ(庭石が乞い願っているように置いてやれ)」と言っている。恣意的なデザインではない。客体の自然(石)に、作者は無媒介に合体することが要請されている

・岡本太郎が、弥生式土器の美に対して、あらたに縄文式土器の美を発見するのは、ニーチェが「悲劇の誕生」において、時代の美意識のみならず思考の転換を要請した事件の100年後の反復。いずれも古代にあったことを規範にしている

・日本建築における空間は、自然から与えられた空間。日本建築と対峙される自然とは、観賞される自然であり、それは現実に認識される自然ではない

・「界隈」もしくは「気配」という日本的空間の表現方法は、日常感じている都市空間が、物理的実体のみで構成されていないことを適確に表現している。人間の五感のすべてに訴え、五感によって感じとっているものこそが都市空間

・悪趣味に見える領域にも、「日本的なもの」を発見する。岡本太郎の太陽の塔の背後に、稚拙だが、不気味な笑い顔の黒いマスクがとりつけられている。「日本的なもの」は下降していく。おぞましいまでに。通俗の極みに向かって降りていく

・「橋」は、対立するものを相互に連結するための概念。区切る一方で、両者をつなぐ

・日本の近代主義者たちは、桂離宮読解を現実的なデザインの場につないだため、桂離宮は、現実に存在する以上に、一つの言説として、神話的な存在に転化した

・幕府は宮廷を政治権力より分離し、「学芸の道」だけに絞り込もうとした。その過程で、京都は虚構化の道を歩み始める。このとき、すでに山里(別荘)への思い入れを王朝時代以来保持してきた貴族が、非都市的なものを郊外の疑似自然に構築した典型が桂離宮

・桂離宮は、文化的系譜、建築様式、政治的引力、階層的関係、そのいずれにおいても明快な判定を下すことが不可能なほどに複合した関係性に絡めこまれている。それを併存と見るか、拮抗と見るか、妥協と見るか、融和と見るか、統合と見るかは異なる

・桂離宮は、その形成過程において、必要に応じて、回遊の視線を見出した。それゆえに、あらかじめ謀られた構図が生み得ない、不意の美に満ちている

・革命期の直前あるいは初期に、純粋幾何学形態に取り憑かれた建築家が出現する。建築的形態一切と断絶した建築を提案し、革命が成就すると、急速に排除され、忘却される

・禅宗様、和様、そして折衷様は、中世から近世にかけても連続していく。だが、大仏様(天竺様と言われた建築的デザイン)だけは、技術的例として受け継がれても、1180年~1206年の25年で、建築的デザインはきれいさっぱり消えてしまう

・日本の歴史的建造物、唯一の傑作には、伊勢神宮、桂離宮ではなく、東大寺南大門を挙げる

・伊勢神宮、桂離宮の天皇的「ほんもの」(ハイアート)に対して、日光東照宮的「いかもの」(キッチュ)を対置するのは、元来骨董の鑑定に用いられていた判断法

・常に何かが隠されていると感じるところ、物理的に遮蔽されて直視できないところに、伊勢神宮の根源を見ることができる



「日本的なもの」とは、幾つもの重層を辿ってきた日本の歴史的背景に根ざしているものです。したがって、今、日本的なものと絶賛されているものが、百年後もそうなっている保証はありません。

本書を読み、「日本的なもの」とは、時代の変化に、合致してこそ成立し得るように思いました。つまり、時代に見出されてこそ、日本的なものとして輝くのかもしれません。
[ 2012/05/03 07:07 ] 芸術の本 | TB(0) | CM(0)
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