とは考

「・・・とは」「・・・人とは」を思索

『PM2.5越境汚染』沈才彬

PM2.5「越境汚染」 中国の汚染物質が日本を襲う (角川SSC新書)PM2.5「越境汚染」 中国の汚染物質が日本を襲う (角川SSC新書)
(2014/03/10)
沈 才彬

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中国の環境汚染は深刻なレベルに達しています。PM2.5のような大気汚染だけでなく、土壌汚染水質汚染食料汚染など、汚染は複合化しています。

人が環境をつくると同時に、環境が人をつくります。最近の中国の動向を見ていると、人の心も汚染されてきているのではないでしょうか。本書は、中国の汚染の実態が記されている書です。参考になった点をまとめてみました。



・「真の文明は、山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし」(田中正造)。中国が出すべき答えは、この田中の言葉にはっきりと示されている

・中国の河川の40%が汚染されており、人が触れることもできない有毒な川は全体の2割まで達している。地下水にいたっては、95%の都市で汚染が確認され、そのうち60%が厳重汚染とされている

・中国の土壌の40~70%が重金属化学肥料に汚染されている。このため、カドミウムのような重金属に汚染された食料が市場に出回っている

・WHOの発表によると、世界各国で毎年200万人が大気汚染の影響で死亡しているというが、そのうち65%がアジア人。事実、北京市の肺がん患者はここ10年で60%増えている

・PM2.5が人体に及ぼす悪影響には、喘息、気管支炎といった呼吸器系の疾患が多い。そのほか、心臓や血管などの循環器系疾患への影響も指摘されている。とくに、子供や高齢者は免疫力が弱く、PM2.5を吸い込むと呼吸器系疾患にかかりやすい

・清朝時代から都に住んでいる北京人のプライドは高い。そのため、3K(危険、きつい、汚い)の仕事をやりたがらず、これらの仕事を出稼ぎ労働者に任せるため、北京への人口流入を招いている

共産党の人事政策では、経済成長を成し遂げた人が評価される。任期中にGDPが前年比0.3%上昇すれば、昇進率・出世率は8%高まるが、市民の生活改善や環境保護に力を費やすと、昇進率・出世率はマイナスに落ち込むことがわかっている

・PM2.5の日本のレベルは中国の50分の1から20分の1程度でしかないが、西日本では、1日平均値の環境基準を上回る日も出てきている

・中国には、長江、黄河などの7本の主要河川があるが、これらの河川流域面積の半分以上の水質が汚染されている

湖の汚染も深刻。35の主要な湖のうち、17の湖が厳重汚染の指定を受けている。また、地下水の汚染も進行しており、都市部水源の4割が飲用不能

地下水汚染には、次の3つの経路がある。「1.工業排出物」「2.化学肥料」「3.ゴミ捨て場から染み出た有害物質の浸透」3による汚染は、日本では想像できないが、中国では大問題となっている

・中国の耕地面積の20%に相当する2000万haが汚染されている。土壌汚染により廃棄された食料は年間1万トンにのぼり、損失額は毎年200億元(約3400億円)に達している

・現在の北京には、PM2.5、砂漠化渇水交通渋滞、人口急増と、様々な問題が押し寄せてきている。近い将来、首都としての機能が麻痺するという危惧が強まっている

・1980年代から年間2460㎢(ほぼ神奈川県の面積に匹敵)の土地が砂漠化している。砂漠化によって影響を受けた人は、すでに4億人。砂漠化は黄砂の原因となり、春には朝鮮半島や日本にも影響を与えている

・国土の砂漠化に加え、中国は渇水問題にも頭を悩ませている。中国の1人当たりの水資源は2300㎥しかなく、世界平均の4分の1にしか過ぎず、世界121位という低ランクで、最も水が不足している国の一つ

・中国は、自国内部に「環境破壊」という安全保障上の問題を抱え込むこととなった。この脅威は外部からもたらされたものではなく、自身によってつくられたもの。「北京廃都」は政府が最も恐れるシナリオ

・中国には、散歩しているかのような体裁をとりながら、無言の抗議を行う抗議活動(デモ)がある。このデモを政府は「群発事件」と呼んでいる。群発事件の発生件数は1年に20~30万件。特に、環境問題に端を発したデモが頻発している



先日も、中国の食料汚染が話題になりました。空気も汚い、水も汚い、土も汚ければ、安全な食品などつくれるはずがありません。

しかし、考えてみれば、空気や水や土を汚くしているのは、中国国民です。つまり、心の汚い人たちだから、食品も汚くなるといってもいいでしょう。心の汚染が終焉するまで、中国の食品に手を出さないほうが無難かもしれません。


[ 2014/08/29 07:00 ] 華僑の本 | TB(0) | CM(0)

『嫉妬のお作法』川村佳子

嫉妬のお作法 (フォレスト2545新書)嫉妬のお作法 (フォレスト2545新書)
(2014/06/07)
川村佳子

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嫉妬は厄介なものです。嫉妬は、人間の遺伝子に組み込まれたものであり、それをなくしていくのは容易ではありません。

本書は、嫉妬をなくすのではなく、嫉妬への対処法、つまりお作法について書かれたものです。なかなか読みごたえがあります。それらの一部をまとめてみました。



・嫉妬心は、人間が生まれてから死ぬまで、ずっと付き合っていく感情。基本的な感情である「喜怒哀楽」に、この「嫉妬」が加わってもいい

・人間関係に共通する一つのキーワードが「嫉妬」。親子、兄弟、嫁姑、友人、同僚、部下、恋人、ご近所の人など、あらゆる人間関係にまつわる問題の多くが「嫉妬」に結びつく

・嫉妬心は、自分と他者を比較したときに湧き起こってくる感情

・「妨害された」「妨害されるのではないか」という危機感不安感が、嫉妬心に火をつける

・嫉妬心は抑圧され、変形された間接的な方法(悪口を言う、批判する、中傷する)で、表される

・成人期、社会人になると、自分と他者を比較することから目を背けられなくなる。受験や恋愛、就職、出世、才能、容貌、健康、財産など、嫉妬心は「自分より優れた人」「評価の高い人」に、ますます向けられる。現役を退いて、老年期に入っても続く

・「うらやむ」は、他者の優位性をはっきり認めた上で、その状態になれない自分を省みることができる状態。一方、「妬み」は、他者の優位性は認めてはいるものの、省みることをせずに、むしろ自分の中から排除しようとするもの

・手を伸ばしても届かない人には憧れを抱き、少し手を伸ばしたら、届きそうな相手には嫉妬する

・「調和」と可能性の「平等」が、逆に、妬みやひがみを生みやすくしている

・嫉妬には、「1.貶める『嫌がらせタイプ』」「2.不満をぶつける『ストレス発散タイプ』」「3.時間をかけて復讐する『自己優越タイプ』」「4.目をそらす『現実逃避タイプ』「5.悔しさをパワーに変える『自己成長タイプ』」がある。目指したいのは5のタイプ

・嫉妬深い人の特徴は、「自己アピールの強い人」「目立ちたがり屋の人」「噂好きな人」「虚栄心の強い人」「他者と常に比較する人」

・正論や正義を振りかざし、人を正そうとする人には、自分では気づいていないが、嫉妬心が根底にある。そういった人の特徴は、間違いや失敗を何より恐れ、自信がないために、「自分」を主語にせずに、「世間一般」や「常識」を盾に、世間の意見だと言ってくる

嫉妬されやすい人の5つの特徴。「1・正直すぎる人、率直な人」「2.相手が嫉妬するかもしれないという想定が足りない人」「3.自慢せずにはいられない人」「4.無頓着、無自覚な人」「5.存在感のある、目立つ人」

・男性は、「表面上は嫉妬心など抱いていない」といった、涼しい顔をしている。嫉妬心を表に出すことで、自分の評価を下げたくない、という気持ちがはたらく

・男は学歴に嫉妬する。女は美しさに嫉妬する

・人間関係に悩みを抱える相談者は、「嫉妬する」側が多いと思われがちだが、実は「嫉妬される」側の相談が多い

・嫉妬深い人から身を守るには、一定の線引きをして、深入りをしないこと。いっさい関係を持たないと、敵視されてしまうので、注意が必要

・嫉妬の矢を自分以外の場所へ方向転換させるには、「運が良かっただけ」「皆さんの協力があったおかげ」といった、自分だけの実力でないことを強調すること

・嫉妬心が湧き出るとき、目の前の相手や出来事を極端に考えてしまう。それを防ぐには、「根拠のない決めつけ」「白黒思考」「部分的焦点づけ」「過大評価・過小評価」「すべき思考」「一般化」「自己関連づけ」「情緒的な理由づけ」の思考グセに注意を払うこと

・本当は自分がそうしたいと思っているのにできないこと、自分で制限していることを自由に行っている相手が現れたとき、嫉妬してしまう



本書は、嫉妬は誰でもするものなので、嫉妬されたときに身を守る方法が大切であるという内容の書でした。

喜怒哀楽に次ぐ、第5の感情である「嫉妬」からの防衛戦略書ではないでしょうか。


[ 2014/08/27 07:00 ] 人生の本 | TB(0) | CM(0)

『言葉でたたかう技術・日本的美質と雄弁力』加藤恭子

言葉でたたかう技術言葉でたたかう技術
(2010/12/07)
加藤 恭子

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外交は「言葉」の戦い、経済は「お金」の戦い、戦争は「軍事」の戦いです。日本は、平和ボケが続いたせいか、言葉の戦いが低レベルです。

そこを周辺国家に巧妙に突かれているのが現状です。それを防ぐには、どうすればいいかのヒントが本書に詰まっています。その一部をまとめてみました。



・日本人は「島国人間」、周囲のほとんどの国の人々は「大陸人間」。友好的な場では、「島国人間」のやり方をすればいいが、対立的になったら、やり方を変えること

にこにこ、にやにやを続けてはいけない。相手の出方によって、こちらも表情を変えること。厳しい表情になったら、それに見合う言葉も出てきて、反論もしやすくなる

・日本人同士なら、初対面の他人といえども、「島国人間」同士だから、ある程度察しはつく。ところが、欧米人相手では、何が飛び出してくるかわからない。思いもかけない頼みごと、批判、非難、説明の要求などが来たりする

・他者との会話や交流において、多くの日本人は「丁寧か」どうかに気を使う。だが、欧米人で、形式を重んじる人は一部。多くの欧米人は「誠実か」どうかを重んじる

・言い難いことでも、敢えて言う。それが誠実さの一つの要素。欧米では、誠実な人間とは、自己の意見、思っていること、感じていることを心から語り、自分の正しさに自信を持っている人のことを言う

・日本人同士では、けんかをすれば不仲になるが、アメリカ人とは、けんかをしたほうが、あとで仲よくなれる場合が多い

アメリカ人の人材評価。「演出力、表現力、発表能力に秀でている」「個の主張が強いが、相手の個も尊重する」「コミュニケーションを大切にし、上手」「意見の違いと対立を恐れない」

・誇張は嘘ではない。少々芝居がかっているだけ。それが自己の主張を通すやり方。少なくとも、大陸世界においては「雄弁は力なり

・日本は、地理的にも、文化的、宗教的にも、孤独な存在。主張すべきこと、発信すべきことが多いのに、それをあまりしてこなかった。「文化通訳」なり、「仲介役」なり、専門家を養成し、活用する専門機関の設立が必要

・個人としては、政府に不満を抱いても、外部からの批判に対しては、団結して政府の味方になるのが、世界のエリート層。日本では、エリート層が政府の味方になっていない

・日本の弱みは、相手を理解していないこと。相手を理解してこそ、こちらも理解してもらえる。説明を求め、こちらも説明し、理解し合える人を作ることが必要

・「島国人間」の日本人は、異文化間の軋轢の怖さを忘れている。知識として知っているだけ。説明下手でいられるのも、その怖さを本当に知らないから

・日本人は、「繰り返し」が嫌い。「きちんと説明したのだから、それで充分なはず」「何回も同じことを言うのは、くどい」というのが日本人的感覚。しかし、国際関係では、反撃は、何度でも、繰り返さなければならない

・国際外交の世界では、対外的に強く発信しないと、向こうの主張が正しく、こちらは「魔女」にされてしまう。こちらの意見に耳を傾けず、言いがかりをつけてくるような強い態度に出てくる相手には、こちらもより強く出る

・日本の立場に同意しない国々には、説得を続ける。そして、利害関係が一致する国々とは、手を結び、問題に立ち向かうよう働きかける

・国と国との利害の衝突においては、第一段階として、言葉による外交交渉での解決の努力がなされるもの。武力の行使は最終段階。不戦を誓う日本人にとって、言葉と情報は、残された唯一の紛争抑止の手段であり、衝突回避の手立て

・「武器に替わる、武器としての言葉」という発想が必要。「軍事力」に代わるものとして、「言葉力」を強めなければならない

・国内政治と国際政治とでは、原理が違う。日本の政治家は、複雑かつ多方面な外交を全世界で展開するために、もっと外務省を強化し、その専門性を使うべき。政治家とは、言葉によって闘う職業。「口下手」「説明下手」ではすまされない



日本の政治家は、左や右の思想を問わず、周辺国家からの言葉の戦い、情報の戦いに、逃げ腰です。軍備云々の前に、言葉でやり返さないと、日本の主権は守れません。

そして、左右の人たちは、国内では論争していても、対外的には、一致団結して戦うのが大人の行動であり、エリート層の行動です。そこら辺のところが忘れられているのが、日本の嘆かわしい現状ではないでしょうか。

[ 2014/08/25 07:00 ] 戦いの本 | TB(0) | CM(0)

『ほんとはこわい「やさしさ社会」』森真一

ほんとはこわい「やさしさ社会」 (ちくまプリマー新書)ほんとはこわい「やさしさ社会」 (ちくまプリマー新書)
(2008/01)
森 真一

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社会心理学者である著者の書を紹介するのは、これで4冊目になります。特に、日本の「お客様社会」「お客様心理」の研究は、鋭く分析されており、勉強になります。

本書は、現代の日本人が考える「やさしさ」とは何かを、過去からの「やさしさ」の変遷を基にした分析は大変興味深いものです。その一部をまとめてみました。



・現代社会では、「やさしさ」や「やさしいこと」は、ほとんど無条件に「善いこと」とされている。しかし、実際に自分の生活を振り返ると、必ずしもそう言えない。やさしさ社会がもたらしている「しんどさ」や「こわさ」に改めて気づく

・現代のやさしさとは、「人を傷つけないように気を遣う態度や振る舞い」という意味になる

・「やさしいきびしさ」は、やや古いタイプのやさしさ。基本的には相手に厳しく接する。ただし、その厳しさは優しさに基づく。一方、「きびしいやさしさ」は、新しい、現代的な優しさ。それは「今傷つけないように全力を尽くす」もの

・「治療的やさしさ」は、思わず誰かを傷つけてしまったときに、言葉で癒せば、傷は治る
というもの。「予防的やさしさ」は、人を傷つけたら、一生消えないので、相手を傷つけないようにすることこそ、「やさしさ」というもの

現代のやさしさが「やさしいきびしさ→きびしいやさしさ」「治療的やさしさ→予防的やさしさ」に、変化してきており、対人関係のルールになっている

・予防的やさしさは、傷つけることを回避することがやさしさ。ということは、修復は最初から考慮に入れられていない。傷つけたら終わり、という感じ

・上から目線にムカつくのは、人間関係は対等であるべきという原則によるもの。この対等性の原則は、横の差異(ファッションや趣味)は認めても、縦の差異・上下の差異(センスの良し悪しや経済格差)は容認できない

・「一度きりの人生」とは、自分の人生の値打ちが生かされずに無駄になるのが惜しいという思想であり、自己実現を重要視する価値観

・能力「低下」をうるさく言う現代は、能力への関心が「上昇」している時代。能力への関心が上昇しているからこそ、能力の低下について大騒ぎする

・「よそよそしさ」「冷たさ」「攻撃性」は、ひどくやさしいから生まれてくる。皮肉なことに、やさしさルールがあまりにも厳しくなって、過剰に優しくしなければならないからこそ、逆にこわい現象が起きる

・うかつに触れれば、すぐ傷ついてしまう「腫れもの」「こわれもの」、あるいは「爆発物」が、現代人の自己の特徴

・今の日本人は身分差のない武士的存在。武士はちょっとした礼儀上のミスでも「無礼者!」と激しく怒り、ミスをした家臣や町人を手討ちにする。今は対等が原則だが、この対等を守らなければ、かつての武士のように怒りだす、怖い人が増えた

・日本社会には、仲間には非常に気を遣うのに、それ以外の人にはまるで無関心、という思いやりの落差がある。この「内集団」と「外集団」への思いやりの落差は拡大中

・楽しさ至上主義は、「いつでもどこでも楽しくないとだめ」という思想。この思想を信じてしまうと、自分以外のみんなは、いつも楽しいことだらけのような気がしてあせり、イライラして、怒りっぽくなってくる

・気軽さ、気楽さが、現代日本に最も欠けているところ。「対人恐怖症の武士」である現代日本人にとって、見知らぬ人に「すみません」と言うのは、プライドが許さない

・「お客様」からされた理不尽な要求を、自分が「お客様」になったとき、無関係な従業員に対してもする、お互いが首を絞め合う状況にある。お金のために首を絞め合う傾向は、能力主義、市場原理、グローバリゼーションといった過度の競争によって推進される

・悪口は「悪」だから、公然とは使えない。でも、使いたい。この葛藤の結果、悪口の使用法が屈折してしまう。その典型例がネットいじめ



社会が「やさしさ」「善意」を要求してくるのに比例して、そのツケがどこかに溜まってきます。このツケが、悪口だったり、いじめだったりします。

過度の要求をすることで、みんながギスギスするようになっているというのが著者の見解です。目くじらを立てずに、もっと気楽に、気軽に生きることでしか、現代の日本社会を平和にする手立てはないのかもしれません。


[ 2014/08/22 07:00 ] 森真一・本 | TB(0) | CM(0)

『ブラック企業・日本を食いつぶす妖怪』今野晴貴

ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪 (文春新書)ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪 (文春新書)
(2012/11/19)
今野 晴貴

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ユニクロが警告状を出したことで有名な書で、昨年度の大佛次郎論壇賞にも輝きました。そして、著者は「ブラック企業」で、昨年度の流行語大賞を受賞されました。

ブラック企業問題に取り組んでいる著者の渾身の作が本書です。ブラック企業の特徴や手口がよく分かります。それらをまとめてみました。



・耐えきれずに自主退社を余儀なくさせる「ハラスメント手法」に共通するのは、努力をしても罵られ、絶え間なく否定されるということ。人格破壊の巧妙かつ洗練された手法

・若手社員は、苛烈な退職強要、圧迫、加虐のあり様を目にするなかで、恐怖と緊張により、「コスト=悪」「稼いだ奴は何をしてもよい」という価値観を強力に内面化していく

・研修の目的は、技術の向上や社会人としてのマナーを教えることを企図していない。本当の目的は、従順さを要求したり、それを受け入れる者を選抜することにある

・正社員で採用されても選抜は終わらない。店長になって初めて本当の正社員になる。それ以外は、淘汰されていなくなる

・ブラック企業の共通点は、入社してからも終わらない「選抜」と、会社への極端な「従順さ」を強いる点。自社の成長のためなら、若い人材を、いくらでも犠牲にしていく

・ブラック企業は、「固定残業代」「定額残業代」によって、低い給与を多く見せかける。「試用期間」によって、正社員と見せかけ、若者を非正社員として契約させる

・ブラック企業は、解雇の規制を免れるために、社員が「自ら辞めた」形をとらせる

・ブラック企業の「使い捨て」パターンは、代わりがいくらでもいる中で、若者を、安く、厳しく、使い尽くす

・残業代の支払いを免れるように装う場合、「労働者ではない」と言ってしまう。大体、「管理監督者」とされるか、「個人請負」とされるかのどちらか

・日本の大企業の大半で長時間残業が導入され、さらに国家も事実上規制をかけないという状況は、世界的に見れば異様な事態

・選別のために辞めさせるのも、辞めさせずに使い潰すのも彼ら次第。ブラック企業は、「生殺与奪」の力を持っている

・寄せられる相談の一定部分が本人ではなく、両親や恋人など家族の身の回りの肩からのもの。当人が精神的に追いつけられている中で、家族が異変を察知し、相談を寄せてくる

・辞めさせる技術は、主に三つ。「1.カウンセリング形式」(個別面談で抽象的な目標管理を行い、反省を繰り返させる)。「2.特殊な待遇付与」(みなし社員、準社員、試用期間など、辞めることを前提とした呼称を設ける)。「3.ノルマと選択」(過剰なノルマを課す)

・ブラック企業の所業の結果、若者の不本意な離職が増加。大卒就職者57万人のうち早期退職者(3年以内)が20万人。無業、一時的な仕事に就いた者、中途退学者も含めると、学校から雇用へと円滑に接続できなかった若年者は41万人で、52%を占める

・ブラック企業は、日本の有効な資源を消尽し、自分たちの私的利益に転換している。特に若者のうつ病の増加と少子化はこれに当てはまる

・日本企業の「命令の権利」が際立って強いのは、「終身雇用」「年功賃金」との引き換え

・日本の労働組合には、もはやブラック企業の発生を抑える力はない。日本型雇用の「いいとこどり」を簡単に許してしまう

・採用面接で「環境問題への配慮」「ワークライフバランスへの取り組み」について質問した学生は、全員不採用になる。もはや労働条件について、何も言えない、言うべきでない

・最近流行のキャリアカウンセラーは、「カウンセリング」を受け入れさせるという意味で、マインドコントロールに一役買っている

・ブラック企業の労働の特徴は、「単純化(マニュアル化)」と「部品化」にある

・悪徳な社会保険労務士弁護士が、ブラック企業と労働者との間に介在し、ブラック企業が用いる「パターン」を企業に唱導し、日本型雇用の「悪用」の仕方を説いている



日本型雇用体制においては、新卒採用が優遇され、そこから漏れた人たちは、冷遇されます。その新卒採用において、ブラック企業に引っ掛からないために、情報武装する必要があります。

本書は、ますます手口が悪質になっているブラック企業を見極める手法が記されています。参考になる点が多いのではないでしょうか。


[ 2014/08/20 07:00 ] 仕事の本 | TB(0) | CM(0)

『年収100万円の豊かな節約生活術』山崎寿人

年収100万円の豊かな節約生活術 (文春文庫)年収100万円の豊かな節約生活術 (文春文庫)
(2014/05/09)
山崎 寿人

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著者は、東大出身、大手企業を30歳で退職し、定職に就くことなく20年以上、わずかな収入で、愉快に暮らしている50代独身の方です。

この本は単なる節約の本ではありません。豊かな人生を問い続けた著者の思想実践書です。この楽しみを理解できる人は、人生を達観できた人かもしれません。参考になった点が多々ありました。それらの一部をまとめてみました。



・求めているのは、日々の生活を人生もろとも楽しむこと。あくまでも幸せが先、節約は二の次。だから、よくある節約術のように、「何円倹約できたか」に一喜一憂しない

・年収100万円や生活費月3万円(変動費部分)とは、生きることを楽しむために「これくらいあれば、大して支障はない」という金額。あるに越したことはないが、なければないで構わない。この予算内で、いかに豊かな生活が送れるかを楽しんでいる

・豊かな貧乏生活術の目標とする柱は二本。「いかに金をかけずに、生活の質を上げていくか」の追求。「いかに安い食材で、豊かな食生活を送るか」の追求。そのため、脳みそを使う

金のかからない楽しみを探すことが節約法の一つなら、これこそ最強の節約術。頭を使うことにお金はかからない

食費は月15000円(1日3食500円)が目安。もっと節約できるが、500円は、安い食材で、贅沢気分を味わえ、栄養バランスを考えた料理を作る額。朝食40円前後、昼食35円。夕食は主食40~45円、サラダ30円、小鉢30円~75円、おかず250円~300円

・月初めに、銀行から現金2万円を引き出し、財布に入れる。現金払いの生活費が1万5000円、予備費が5000円。これで、月の食費と日用品、雑貨、交際費、遊興費、医療費、衣料費、交通費をすべて賄うのが基本。光熱費とスクーターのガソリン代は銀行引き落とし

・日々のやりくりの主役は、食材の買い出し。徒歩10分圏(スーパー3店、ディスカウントショップ1店)スクーター10分圏(業務用スーパー3店、激安スーパー3店、輸入エスニック食材店4店、ショッピングモール5店、市場1か所)の巡り歩きと特売食材の物色

・割高の商品を買う人を見るたびに、「この人たちは、その割高の分だけ、タダ働きをしていると考えないのかな」と思う。無駄遣いは無駄働きと一緒

・世の節約術とは違う「貧乏生活術」の目指すところは、「1円でも安く」ではない。あくまで、自分の少ない収入の範囲で、豊かな気分になれるような生活を送ることが目的

・こういう生活を長く続けていくためには、健康に人一倍気をつけなくてはいけない。心と体の健康が生活を豊かに楽しむ基本。そして、医療費と歯科医療費のような不意の出費を避けるため

・『残すもの』「パソコン」(外界との接触が希薄になり、暮らしの孤立化を防げる)、「冷蔵庫」(料理が趣味)、「スクーター」(電車賃の節約、格安食材購入のため)

・『削るもの』「車」「電車」(スクーターで代用)、「携帯電話」(ほとんど家に居るため)、「コンビニ」(激安スーパーや深夜営業ディスカウント店で十分)、「タバコ」「酒・ドリンク」(健康と倹約を考えて)、「外食」「新聞」(節約のため)、「床屋」(電動ヘアカッターで代用)

お金なんて要らないと言えば、やせ我慢と取られ、成功に興味がないと言えば、負け犬の遠吠えと思われる世の中

・この生活を続けているのは、ここに自由な時間が無尽蔵にあるから。言い換えれば、何もしないでよいことを、何より大切に生きているということ

・世の中には、高揚感を幸福と錯覚している「興奮中毒患者」が多い。毎日のスケジュールが予定びっしりで、あくせく動き回っているのは、心の空洞をそのままにして、仕事や遊びで埋めようとしているようなもの。鎮痛剤で痛みを抑えているだけのこと

・何に贅沢を感じるかは、人によって違うのが当たり前。何に豊かさを感じるかもそう。何も自分の幸福や健康をないがしろにしてまで、社会の常識や価値観をそのまま受け入れる必要はない

社会の常識や価値観なんて利用するもので、縛られたり、踊らされるものではない。もちろん、社会の常識や価値観は尊重する。批判もしない。だが、自分がそれに従うかどうかは自分で決める。そして、そのリスクは甘んじて受け止めるということ



著者の生活こそが、未来志向の「贅沢な生活」なのかもしれません。世間の常識に惑わされず、企業の宣伝を無視し、すべて自分の頭で考えて、自分に合った生活を楽しむことができれば、こんなに幸せなことはありません。

世の中の全員が、こういう生活を求めれば、資本主義社会は崩壊します。とりあえず、みんなが資本主義社会に巻き込まれて、あくせく働くのを横目に、こういう生活を楽しむのが心地いいのではないでしょうか。

[ 2014/08/18 07:00 ] お金の本 | TB(0) | CM(1)

『魯山人の美食』山田和

魯山人の美食―食の天才の献立 (平凡社新書)魯山人の美食―食の天才の献立 (平凡社新書)
(2008/07/15)
山田 和

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北大路魯山人に関する書は、「魯山人もてなしの真髄」「魯山人の書」に次ぎ、3冊目です。前の2冊が、「飲食経営の書」「芸術家の書」だったのに対し、本書は北大路魯山人の本性が最も表れている「食道楽の書」です。

本書は、北大路魯山人の本性が、最も分かる書です。その一部をまとめてみました。



・魯山人は、自然の味覚を完成されたものと捉え、それを体内に取り込んで一体化することが食の歓びであり、美食の追究はそこにあると考えた。だから、魯山人は、食材の産地と鮮度にこだわった

・魯山人は、確かに高価な食材を口にしたが、野菜の皮や魚の粗はもちろん、客の残り物を調理し直して食べる人でもあった。米一粒でさえ、用を全うしないで捨て去ってしまうことはもったいないと考える人であった

・魯山人は「美味いものを食べた」のではなく、「美味く食べる」人であった

・「いかなる名手がいかなる名器に活けようと、花の美は天成的に味わうことは出来ない。人工人意は所詮天成に代え難いからである」

・化学調味料はもちろん、醤油や砂糖や塩、味醂や味噌といった自然の調味料でさえ、安易に使うことを嫌った。魯山人の関心事は、あくまでも食材の原味を味わうことであった

・魯山人は良寛に深く心酔していた。その良寛には、「書家の書、歌詠みの歌、料理屋の料理は職業意識が鼻につき、上手なだけで心がなく、魅力に乏しい」という「三嫌」があった。魯山人も料理屋の料理を嫌い、料理の神髄はあくまでも家庭料理にあるとした

・魯山人は、威張る人間、自分の言葉で喋らぬ人間、野卑な人間、金のことばかり言う人間を嫌ったから、傍若無人という評判が世間に拡がるのもやむを得なかった

・田舎くさくなく、都くさくもなく、はったりもなく、作意もない。土臭いようで高貴な味。魯山人が「調子が高い」と言うのは、このこと

・魯山人は、とくに焦げ方にこだわった。あらゆる焼き物について、「お焦げができていなくては美味しくない」「上手にお焦げができていなくてはならない」と書いている

・「山葵の味が分つては身代は持てぬ」と述べているように、魯山人はワサビ狂いだった

・魯山人は、「総じて味のないもの、ぬるぬるしたものや、ぐにゃぐにゃしたものには美味いものが多い」「ぬるぬるさせるのに時間がかかるものがいちばん美味い」と言っている

・魯山人は、ゆっくりと食事を楽しむ人だった。日本酒では、半時間で酔い始め、味覚が曖昧になり、小一時間後には酔っぱらってしまう。日本酒は、料理を楽しみながら飲むには、アルコール度が高すぎた

・「せっかく骨折って作った料理も、それを盛る器が、死んだものではどうにもならない。料理がいくら良くても、容器がへんな容器では、快感を得ることができない。料理と食器とが、一致し調和するように心掛ける」

・魯山人は、どちらかというと計画性がなく、いきあたりばったり主義であったが、彼の感覚の鋭さと臨機応変の才覚は、他の追随を許さぬものがあった

・悟ることとは、魯山人にとって、自然の恵みを自らの体内に取り込み、大自然と人間との合一を愉しむこと。また、自分が相手のために心をつくして料理を作ることの歓びを得ることだった

・自分は満足しなくて、人のためにだけ生きているという人があれば、それは偽善者。偽善者とは、人を、社会を、あざむく人のことではなく、自分自身をあざむく人のこと

・「いい人間からいい物が生まれる。悪い人間からいい物が生まれることはない。結局人間なのだ。人間を磨いてから物を作れ。それからでも遅くない」

・「美食家はあらゆる意味で自立していなくてはならず、創意工夫ができる真の自由人でなくてはならぬ」



魯山人の写真をうかがう限り、頑固で気難しそうで、他人に口うるさそうなイメージですが、本当は、自分の考えに忠実で、自分に厳しい人だったのではないでしょうか。

魯山人という人は、料理というものを芸術のレベルにまで高めた功労者、つまり「和食」を世界文化遺産にまで高めた功労者なのかもしれません。


[ 2014/08/15 07:00 ] 偉人の本 | TB(0) | CM(0)

『特に深刻な事情があるわけではないけれど』山口路子

特に深刻な事情があるわけではないけれど 私にはどうしても逃避が必要なのです特に深刻な事情があるわけではないけれど 私にはどうしても逃避が必要なのです
(2013/05/22)
山口 路子

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このタイトルの後に『私にはどうしても逃避が必要です』と続きます。だらだら長いタイトルが、本書の内容を暗示しています。

著者の逃げたいこと(「前向きに生きる」「人づき合い」「家庭」「仕事」「世間」日常)「良識」「孤独」「貞操」「夢を叶える」「運命」)を挙げて、それを説明していくのが内容の書です。その一部をまとめてみました。



・「自分に疑いをもたない人」との会話は時間の無駄。疑いなし人間、前向き人間、まっすぐ人間に遭遇したら逃げてしまう

・欲していない道を選ぶこともまた本人の欲望。ほんとうに、人間とは不可解な欲望をもつ生き物

・悪意よりも非難よりも恐ろしいもの、それは自分の個性が消滅させられてしまうこと

・「自分のしたいことをしたい、自分が楽しいと感じることをしたい」と決意したなら、そのときは、「人に意見を求めない」強情さが必要になる

・人づき合いの恐いところは、愛から憎悪への変換がたやすいこと。「愛しすぎている」というのは、もはや愛ではない、「愛していない」のと同じ

自分のために生きていない人は、いつか窒息する。「私を窒息させるのは、そうあるべきだという理想」(アナイス・ニン)

・個人的な楽しみこそが、人生のテーマ。仕事と同じくらいのエナジーで真剣になれる「喜び」をもっているのかどうか。ポイントはそこ

・明日できる仕事を今日するな。他人ができる仕事を自分がするな

・他の誰とも似ていない自分自身であり続けるためには、「世間が非難するところのものを育てる」(コクトー)べき

・多くの人に好まれるものは、ろくでもないもの。世間を意識して生きるのではなく、自分を同じ香りの価値観をもつ人たちを意識して生きる。そのことで「ろくでもない」人生から遠ざかることができる

・誰かを見下すことで安心する人は、醜い人。「合法的な愛は、自由奔放な愛を見下すのを常とするもの」(モーパッサン)

・中身がからっぽな人になるのが嫌なら、日常から離れてみなければならない

・人は一生の間に、言わなければならない言葉を言うために生きる

・異常も正常もない、不健全も健全もない、ただ、違っていることこそが、生命の基本原理

・道徳教育とは、偏見教育のこと。「道徳なんて、全く相対的なもので、その国や地方の風俗から生じたものであり、偏見の結果にほかならない」(澁澤龍彦)

・「幸福なときが正しくて不幸なときは間違っている」(サガン)のであるならば、できる限り正しいところの近くにいたいもの

・経済的な成功、名声、そこに人の価値があるのではない。自分自身が直接的あるいは間接的に関わった人に美しいものを残すことができるかどうか。人の価値はそこにある

・すべきことも大切な人も、探してはいけない。「探すのではない、出会うのだ」(ピカソ)

・「肝心なのは、嘘を避けること。いっさいの嘘を、特に自分自身に対する嘘を」(ドストエフスキー)

・熱烈な告白は、決して冷えた魂からは生まれない。恥ずかしいほどに熱い魂からしか生まれない

・自分が何者なのか「決意する」という行為には、その道を進むための強さを取り戻そうという意識があり、生きることへの答えもある

・生きている意味は、ひとりひとりの人間を感じとる熱い想いの中にある



人生を真面目に生きようとする著者の決意のようなものを感じました。

真面目に生きようとすればするほど、小さな逃避がないとやりきれないのかもしれません。


[ 2014/08/13 07:00 ] 人生の本 | TB(0) | CM(0)

『自衛隊の仕事術160の金言集』久保光俊、松尾喬

自衛隊の仕事術 160の金言集自衛隊の仕事術 160の金言集
(2012/03/07)
久保光俊、松尾喬 他

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著者の本は、「自衛隊ゲリラ式ビジネス戦闘術」「自衛隊の仕事術」に次いでの紹介です。

特に、本書には、自衛隊という最強組織の原理原則がいっぱい記されています。その一部をまとめてみました。



・失敗は、曖昧な目標、技術不足、投入資源の不適切よりも、情報不足によって起きる

目的なしで集めた情報は、かえって混乱をきたすムダな情報群になってしまう

・どんな質問も、部下の理解度や自分の説明不足がわかる指標になり、相互理解を深める

・「定時通信」の時間を設けておくと、計画的な情報の送受が効率よくできる

・「原理原則」はいろんなところで使える。後々に反芻しやすく、相手の心への定着が早い

・人に何かを話すには、失敗談から入ると、引き込まれる人が多くなり、伝わりやすい

・「どうしましょうか」は子供、「こうしましょうか」が大人

・相手が未熟なら、工程説明を多く。相手がプロなら、結果イメージを伝えるだけ

マニュアル化が「情報伝達の最終形」。誰でもいつでも見られるマニュアルがあれば、いちいち情報を伝達する時間が省け、自分がいなくても情報が伝達していく

・愛嬌とは、怖いのに、オチャメということ

・速く進みたければ、1人で行け。遠くまで行きたければ、みんなで行け

・愚痴や文句を言う社員はどこにでもいる。リーダーは、そういった依存者を自立者に成長させ、相互依存できる組織へ進化させる指導を行うもの

できるリーダー4つの原則。「1.目標設定できる」「2.仮説を常に立てる」「3.できる工夫を見つけ出す」「4.人を動かし、自分の時間をつくる」

・制服は「私」より「公」を優先する制限服

・部下に仕事を頼むときは、時間見積もりを告げて、時間制限を考えさせる。そうすると、部下は、時間と仕事の量を意識して動くよう工夫を始める

・人を育てるときのポイントは、その人に考えさせる「自主裁量の余地」を与えること

・失敗は許せ、嘘は許すな

・指揮官と隊員の役割交換の訓練を行えば、隊員のパフォーマンスが驚くほど進化する

・コストカットしたいなら、人を育成して、1人で広範囲の仕事、2人分の仕事量をこなせる人材にすること。人の成長が、実質的なコストカット

・利益は成果の尺度であり、リスクの保険、発展の条件

・会議は、決定事項をつくるためとアイデア合戦をするためにある。アイデアを出さない人は参加させない

・情報の共有や公開がよしであっても、腹の中に一物二物持っておくのがプロの流儀

7つの大罪は、「無視・無関心・子供扱い・ロボット・たらい回し・冷淡・ルールブック」

・強さとは、他人を優先すること

・引用は好意を持ってもらう秘訣

・「強く凛々しい自分」を演出できてこそ、部下は後ろをついてくる

・「自分を主語」にする人は、「がる人」。「強がる」「自慢したがる」「口を挟みたがる」

・やりがいとは、制限の中で自由を発揮すること

・行動に迷ったら、目的を再確認すること



自衛隊は、判断ミスや悪い予兆の放置などが、人の生死と密接に関わるところです。その厳しさは、ビジネス世界の比ではなく、自衛隊に学ぶべき点がたくさんあります。

本書は、自衛隊の原理原則が学べる良書だと思います。


[ 2014/08/11 07:00 ] 戦いの本 | TB(0) | CM(0)

『ゆとろぎ・イスラームのゆたかな時間』片倉ともこ

ゆとろぎ―イスラームのゆたかな時間ゆとろぎ―イスラームのゆたかな時間
(2008/05/28)
片倉 もとこ

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イスラム世界の書は、宗教や政治などの大きなテーマに関するものが多数です。しかし、本書は、イスラム教信者の日常生活という小さなテーマが内容です。

著者は、イスラムの日常で大事にされている『「ゆとろぎ」=(「ゆとり」+「くつろぎ」)-「りくつ」』をタイトルにして、イスラム世界を論評しています。興味深い点がいくつもあり、それらをまとめてみました。



・アラビアには、「じっとしていると、汚れてくる。場所も心も」という「移動哲学」がある

・アラビアでは、「くつろぎ」や「ゆとり」は、人生の中で一番いいもので、能動的、積極的な意味合いを持った言葉

・アラビアの人たちは、動くと「いろいろな感興がわいてくる」「詩が出てくる」と言う

イルム(知識、情報を豊かに得ること)は、人生の目標。人間の立派さは、社会的地位によるものではなく、その人がどのくらいのイルムを持っているかによるもの

・アラビアでは、偉い人、仕事をバリバリとやっている人でも、詩がつくれない人は、感受性がない、人間として駄目だされる。政治家でも、詩が詠めないと、評価が下がる

・イルムを得るというのは、昨日知らなかったことを今日知る、今日知らなかったことを明日は知る、というのを人生の喜びとすること。知識を得るためなら、どんな遠方でも行くようにと、預言者ムハンマドは言う

・アラビア社会の風潮では、労働は必要悪。人の生き方の中で、仕事そのものに価値を置かない。仕事は生活のために必要なのであって、それに付随する社会的な意味や徳といったものについては考えない

・労働というものは、自由と対立するもの。労働は、人間である所以の自由、人間の尊厳を損なうもの、という考え方。自由という価値を、何より大切にする

労働はせざるを得ないけれど、なるべく「無知なもの」たちに分担させるもの。子供たちは、まだ何も知らない小さいときから、労働をさせられる。労働させることで、大人になっていく

・イスラーム世界、特にアラビアでは、保護せねばならない人には、付き添いをつけるのが当たり前。年寄りが若者に「手を貸してくれ」と悪びれずに言う。若者はたとえ職場に急いでいるときでも、「自分のほうから気づくべきだった」と言いながら、手助けする

・弱い立場にある者を保護するのは義務であるという思想が、ごく普通の人の間にも浸透している。一夫多妻婚の制度も、戦争によってできてしまった多数の未亡人とその子供たちを救うための措置

・イスラーム教徒のなさねばならない行は、サラート(礼拝)、サウム(断食)、ハッジュ(巡礼)、ザカート(救貧)。ザカートは、持てる者が持たない者に、自発的に施しをすること。後のイスラーム法の細かい取り決めで、救貧税として徴収されるようになった

・弱者救済の思想には、神の前にすべての人間は同じであるという平等主義、ストックよりもフローを重視し、ものを一つのところに淀ませておくことを罪悪視する考え方とも関連する

・イスラーム教は、人間はその弱さゆえに、いい加減な行動をするという「人間性弱説」があるため、誘惑に負けなくする状況をつくるのに腐心する。トラブルが起こる前に、禁酒にしておくのがいい、男女隔離とヴェール着用にしておくのがいい、という考え方

・モノを私有するという執着としんどさから解放され、先祖代々の墓を守るということからも解放されると、人々は身軽に楽しく引越しをする。動くことは、人の暮らしを活性化する

・遊牧民は、定着した連中を軽蔑して、「あんな家に住むから、肝っ玉の小さな人間になる」「定着した遊牧民は、モノを溜め込み、守りの姿勢に入って、おどおどした雰囲気になる」と言う

・エジプトやイラクなどのイスラーム社会で道をきくと、知らなくても「一緒に行こうか」と付いてきてくれる人が多い。道を知っているかどうかより、迷っている人を助けたいという親切心が先立ってしまう優しい人たち



アラブの人たちを理解するには、イスラム教を理解しないと始まりません。本書には、そのエッセンスが載っているので、便利です。

他文化を理解し、他国の人々を理解するには、相当な努力と時間が必要であると、痛感させられる書でした。


[ 2014/08/08 07:00 ] 海外の本 | TB(0) | CM(0)

『あっぱれ技術大国ドイツ』熊谷徹

あっぱれ技術大国ドイツ (新潮文庫)あっぱれ技術大国ドイツ (新潮文庫)
(2010/12/24)
熊谷 徹

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ドイツは、日本同様に技術大国です。輸出も絶好調のようです。ところが、自動車以外に思い浮かぶものがありません。

では、どういったものを輸出しているのか?どんな製品をつくるのが得意なのか?技術者教育をどのように行っているのか?そういったことを詳細に描いているのが本書です。その一部をまとめてみました。



・勤労者の71%が中規模企業に雇用されている。特に職業実習生の83%が中規模企業で働いている。中規模企業はドイツ最大の雇用主

・雇用者数が多い中規模企業は、政治家にとっても重要な票田。どの政党も選挙戦で「中規模企業はわが国の経済の大黒柱」と持ち上げる。そして、規模が小さな企業に対する優遇措置を、公約に盛り込む

・中規模企業は、株式会社ではなく、家族経営の企業が多い。ドイツの中規模企業で輸出企業として成功を収めたところは、ニッチ市場に特化しているのが特徴。製造・販売する製品は、直接消費者に売られる製品よりも、他の企業に販売する製品(BtoB取引)が多い

・ドイツの中規模企業の経営者は、名前を世間に広く知られることよりも、売上高と収益を着実に伸ばし、従業員の雇用を長期的に確保する「名より実をとる」哲学を実践している。マーケットシェアが公表されることを嫌って、マスコミの取材を断る会社も多い

・ドイツは人件費が高いので、外国企業を相手にした価格競争では勝ち目がない。そのため、付加価値が高く、顧客の要望に合わせた製品をつくり、新しい技術の開発、既存技術の改善を行い、価格競争に巻き込まれるリスクを少なくしている

・物づくりを重視するドイツ人の国民性を表す言葉が「テュフトラー」。この言葉は、「精密機械や部品、模型などについて、長時間かけて細かい手作業に凝ったり、工夫したり、試行錯誤したりするのが好きな人」を意味する

・ドイツ南西部のシュヴァーベン人たちは、相対性理論からクレーンに至るまで、革新的アイデアを次々に生んだ。特に19世紀後半から20世紀の初めにかけて、この地域では、自動車や飛行船など、その後の世界を大きく変える発明が行われた

・ドイツ人は「働き者で倹約家で、ムダや贅沢、虚飾を嫌う」のが特徴だが、そのドイツ人の間でも、「シュヴァーベン人は特に働き蜂で、倹約を好む」と見られている

・産業振興政策の先駆者シュタインバイスは、民衆に職業訓練を行い、技能を身につけさせることの重要性を見抜き、職業教育の普及に努めた。「誰もが仕事を持っている所では平和が支配し争い事が起きず、繁栄を享受する。失業は諸悪の根源」というのが彼の持論

・シュタインバイスは、「民衆は荒削りの素材のようなもの。これを教育によって貴金属に変えなければならない」と、職業教育と専門教育の必要性を説いた。また、「政府の最も重要な任務の一つが、民間企業を振興すること」と断言している

・ドイツ人が秩序と整理整頓を好むのは、時間を効率的に使うのを重視するから。ドイツ人は、目的を達成するためにかかる時間と労力が、得られる利益に比べて大きすぎることが最初からわかっている場合は、初めからその仕事に取り組もうとしない

・「技術とは、あくせく努力する行為をしないで済むように努力すること」。新しい技術は、しばしば労力の節約につながる

・ドイツ人は何につけ凝り性で、中途半端が嫌いな完全主義者が多い。また、グレーゾーンが大嫌いで、物事に白黒をつけることを好む

・ドイツ人は個人主義が強い反面、法律や規則を作るのが好き。また、他の民族に比べて、法律を守ろうとする傾向が強く、違反者は社会的な地位にかかわらず、厳しく罰する

・ドイツ人のきっちりした国民性は、宗教に関係がある。ドイツ人のキリスト教徒のうち、49%がプロテスタント(新教徒)

・米国の著名な投資家ウォーレン・バフェットは、高度な技術を持つドイツの家族企業の買収に強い関心を示し、ドイツを訪れ、実際に数社の家族企業の経営者とミーティングを持った



ドイツ人と日本人は、似ているところ(働き者、凝り性)が多いと言われています。本書には、その似ているところが発生した要因が記載されており、参考になりました。

日本人は、最近ドイツ人に関心がなくなってきています。サッカー以外にもドイツに学ぶべき点は、まだまだあるのではないでしょうか。


[ 2014/08/06 07:00 ] 海外の本 | TB(0) | CM(0)

『絶対貧困・世界リアル貧困学講義』石井光太

絶対貧困―世界リアル貧困学講義 (新潮文庫)絶対貧困―世界リアル貧困学講義 (新潮文庫)
(2011/06/26)
石井 光太

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売春、麻薬や銃の売買、殺人などの犯罪の温床であるスラム街は危険がいっぱいです。著者は、世界各国のスラム街14か所に足を運び取材した、根性のあるジャーナリストです。

世界のスラム街を本当に取材した人物は、著者が日本でただ一人だと思います。その貴重な記録から、貧困とは何かを考えさせられた点をいくつか選び、まとめてみました。



・貧しい人々は、次のような追い出されない場所にバラックを建てようとする。「危険な場所」(川べり、土手、鉄道沿い)、「不潔な場所」(ゴミ集積所、下水の溢れる場所)、「目立たない場所」(人気のない街角、隔離された居住区)

・スラムを分類すると、「同じ身分や職業の者が集まっているスラム」と「宗教や民族や出身地別に成り立つスラム」がある

・スラムが大きくなると、隣人相手に商売する人が出てくる。真っ先に作られるのが、食べ物を売る「八百屋」「肉屋」と「雑貨屋」。その次に現れるのが「酒屋」「賭博場」。店が一通りできると、ちょっと成功した人が、新しく住みついた貧困者を遣った会社を起こす

・スラムに会社ができると、やがて売春窟が作られるのが常。きれいとは言い難い女性や小太りの中年女性たちが働き始める。こうしてスラムがさらに大きくなると、完全な「街」となり、人口増加に比例して、店や会社の数が増え、競争原理で、サービスが向上する

・海外では、階級によって食生活が全く違う。途上国はそれが顕著。セレブ、ビジネスマン、庶民、スラムの住人ごとの食べ物や調理法がある。世界のスラム食に共通していることは、「火や油を使った料理」。ばい菌を殺し、保存期間を延ばせるから

・スラムの「貧困フード」には、魚の頭、鼠や昆虫、骨を油で揚げたもの等があるが、その中で、世界中の人々に受け入れられてグローバルフードになったのが、フライドチキン

・夫婦の秘事は、子供に囲まれながら、声を殺して、前戯などなく、即挿入で敢行する。その理由は、「体を洗っていないので汚いから」「早く射精して家族を起こさないため」

・スラム街の女性たちは、恋人をつくったり、結婚したりする度に子供をはらむため、腹違いの義理兄弟がわんさかできる。そのため、血のつながりは重視せず、どこかで血が繋がっていればみんな兄弟といった感覚を持っている

・スラムが巨大化して街になると、生まれる代表的な「表の仕事」が次の三つ。「人力車、自転車タクシーの運転手」「廃品回収業」「日雇いの肉体労働者、家政婦」

・スラムの片隅で行われる「闇の仕事」(犯罪行為)の代表が「麻薬売買」「武器売買」「臓器売買」「人身売買」。一部の住人が、様々な成り行きから、悪事に手を染めてしまう

・路上生活の天敵は、「季節」と「警察」。寒い地域には「マンホールハウス」(冬は暖かく、雨や雪をしのげる)がある。蚊の多い地域の人は、ミイラのようにボロ布を巻いて寝る

・路上生活者は、家族や仲間が亡くなったら、遺体を道路に置いて、線香を立て、通行人から埋葬費用を募る。そして、木の薪は高いので、古タイヤを使って火葬する

・路上には「物売り」と「物乞い」という二つの職業がある。物売りには、新聞売り、煙草売り、お菓子売り、宝くじ売り、ティッシュ売り、花売りなどがある。物乞いは、芸人型物乞い、ストリートチルドレン、アピール型物乞いに分けられる

・インドの「障害者や病人の物乞いランク」は、上から「ハンセン病」「象皮病」「四肢切断」「全盲、知的障害」「片手、片足、片目の障害」「火傷、皮膚病などの軽い障害」。「健常者の物乞いランク」は、上から「赤子」「老人」「女性+赤子」「女性」「青年」「成人男性」

ストリートチルドレンに男児が多いのは、「親戚は大人しい女児しか預からない」「女児は少女売春婦や家政婦に雇われる」「女児が犯罪から身を守るために男装している」から

・ストリートチルドレンが、幼いうちに多くが死亡する理由は、「薬物中毒死」「酩酊時の事故死」「感染症死」「栄養失調」。まっとうな道に進もうとしても、「シンナーなどの薬物依存症」「愛情欠如によるコミュニケーション障害」「トラウマによる社会不適合」が阻む

売春婦推計人口は、中国が2000万人(女性の30人に1人)、インドが1000万人(女性の50人に1人)。GDPにおける売春の占める割合は、韓国が5%、中国が6%

・一般の売春宿では、男性客が1000円支払ったら、その3割~5割(300~500円)が売春宿側の儲け。その代わり、売春宿は売春婦に3食とベッドを提供し、トラブル処理や警察への賄賂なども負担する



目を背けたくなる事実がいっぱい記載されている書でした。しかし、これが貧困の現実です。きれい事だけでは世の中を渡っていけません。

数年前、貿易会社を経営している人から「貧しい国を訪問するときだけ、まだまだ甘い息子を同伴させている」という話を聞きました。この話のように、厳しい現実を知らない人には、貧しい国はいい薬になるのかもしれません。


[ 2014/08/04 07:00 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)

『普通がいいという病』泉谷閑示

「普通がいい」という病 (講談社現代新書)「普通がいい」という病 (講談社現代新書)
(2013/06/28)
泉谷閑示

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本書の冒頭に、「人間は、生来の資質である『角』を持って生まれてくるが、集団の中にいると、いつの間にか、この『角』があるから生きづらいのだ、と思うようになる」といった著者の意見が記されています。

人間は、「角」をシンボルとして活用する人と、「角」を削って隠してしまう人に分かれるもので、「普通がいい」というのは後者の場合です。本書には、興味深い話が多く載っています。それらをまとめてみました。



・「頭」は、「~すべき」「~してはいけない」といった言い方をする。論理的であること、因果関係を考える働きがあるので、必ず理由がくっついているという特徴がある

・「頭」は、過去を分析し、未来をシミュレートするのが得意。過去の「後悔」未来への「不安」が生み出される。逆に、「今・ここ」については苦手で、正しく捉えることはできない

・「心」は、「~したい」「~したくない」「好き」「嫌い」といった言い方をする。理由や意味・意義などは一々くっついてこない。いきなり判断だけを言う

・「心」は、「頭」と違って、「今・ここ」に焦点を当て、シャープに反応する。だから、「前はこうだった」といった過去の情報に基づいた反応はしない。それをするのは記憶やシミュレートを司る「頭」のほう

・理性で、人間の中にある“けもの”的な邪悪さが暴れ出さないように、コントロールすることが大切だと教え込まれてきた。しかし、それは全くあべこべな話。“けもの”的な邪悪さは、実は理性によって作り出されたもの

・人間を一つの国家に例えると、現代人の多くは、「頭」が独裁者として振る舞う専制国家のようになっている。「心」「身体」は、常に「頭」に監視されて、奴隷のように統制されている。そして、「心」や「身体」は、我慢が限界に来ると、何がしかの反乱を起こす

「心」がストライキを起こせば、うつ状態になる。それが許されない場合は、「身体」が不調を訴えるか、「心」が化けて出て、幻覚や妄想が生じる

・「心」「身体」は、「頭」に及びもつかない深い知恵を備えている。それが桁外れに凄い能力であるために、「頭」には、その凄さがわからない

・味覚や嗅覚は、その時の自分に必要なものを「おいしい」という快感で教えてくれ、不要なものを「まずい」と知らせてくれる。しかし、「頭」が関わると、「カラダにいいから」「得だから」「この前おいしかったから」といった考えが混入してくる

・「我」という一人称や「自分の・・・」と所有格を主張するのは、「頭」だけ。「心」「身体」は、元々そんなことに囚われておらず、自然の原理で動いている

・子供の「心」は、あるとき堪忍袋の緒が切れて、「頭」への隷属をやめたいと反逆を開始する。「心」のエネルギーが大きく、感性が発達している子ほど、それは早期に訪れる。この反逆は、不登校、ひきこもり、家庭内暴力、体調不良、自傷行為などを引き起こす

・感情には、「頭」由来の“浅い感情”と「心」由来の“深い感情”がある。「心」由来の深い感情の井戸には、「怒」「哀」「喜」「楽」の感情ボールが順番に入っている。一番上の「怒」のボールが出ないと、二番目、三番目のボールは出てこれない

・「怒りはよくないもの」と教え込まれると、井戸の中に、OLDな怒り(過去に我慢した怒り)が溜め込まれていく。そして、限度を超えた時、蓋が破られ、爆発を起こす

・怒りは文字に書いて出すこと。「心の吐き出しノート」を用意して、モヤモヤ、イライラが生じたとき、必ずこのノートに書き込む

・「頭」由来の“浅い感情”は、その感情を保持できずに、「ヒステリック」の性質で、吐き出される

空海は、お説教じみた禁欲的な教えとは全く逆の考え方。「欲をためる」ことを「遮情」として戒めている。他の宗教は、「欲望」を滅却して初めて「愛」の存在になれるというが、空海は、「欲望」をどんどん「大欲」に膨らませることで、「」が生まれると教えている

・「信じる」というのは、「愛」の一つの表れ。「愛」も「信じる」も、根拠や見返りなしに行われる「心」の働き。根拠を求めるのは、もっぱら「頭」由来の「欲望」



なかなかいい本でした。心や感情の構造を一つ一つ解きほぐされていくようで、心地よくなれました。

心理学の本というよりも、禅の本、宗教の本といった感じの本なのかもしれません。


[ 2014/08/01 07:00 ] 健康の本 | TB(0) | CM(0)