とは学

「・・・とは」の哲学

『おいしい患者をやめる本』岡本裕

おいしい患者をやめる本 医療費いらずの健康法 (講談社プラスアルファ文庫)おいしい患者をやめる本 医療費いらずの健康法 (講談社プラスアルファ文庫)
(2011/09/21)
岡本 裕

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岡本裕医師の本を紹介するのは、「9割の病気は自分で治せる」「自己の免疫力で病気を治す本」に次ぎ3冊目です。

現代の日本の医療制度の矛盾や問題点を、本書においても提言しています。世界各国に比べてのおかしな点が素人にもわかりやすく書かれています。その一部をまとめてみました。



・日本の医療は疲弊している。忙しすぎて疲弊している。忙しいと思考が停止してしまう。今の医療現場はウソの病気が蔓延し過ぎて、作動不良に陥っている

・日本の医療技術は確かに高いが、医療全体の水準は決して高くないという評価は、中国の富裕層だけでなく、中国の医師からもよく耳にする話

・多くの医者が「ホントの病気」に携わることを望まないのは、あまりにも待遇が悪いから。めちゃくちゃ忙しすぎるから

・外来患者の10人に9人は、おしなべて来なくてもいい人たち。救急外来の現場も例外ではない。3次救急を専門にしている特殊な施設は除いて、やはり10人に7~9人は来なくてもいい(来ないほうが得をする)患者

・どうでもいい患者も診なくてはいけないこともあり、見かけ上、医者が不足しているように見えているだけ

・医者は「ウソの病気」をたくさん診なければ生活がままならないという、今の「診療報酬制度」の問題がある。つまり、一人の患者をゆっくり診ることが許されないシステムになっている

ありがたい病気とは、「高血圧」「2型糖尿病」「脂質異常症(高脂血症)」「メタボリックシンドローム」「不眠症」。そんなありがたい病気の患者は、今や40歳を過ぎれば、ごまんといる。彼らは元気で、当分の間、めったなことで死にそうにない

・なぜ内臓に脂肪がたまるのか?食べすぎて運動しないから。それ以外に原因はない

ホントの病気とは、「がん」「小児がん」「難病(難治性130疾患)」「アルツハイマー病」「救急疾患(脳出血、クモ膜下出血、脳梗塞、心筋梗塞、重症外傷)」

・おいしい患者は、医者や薬に頼る傾向がある。言い換えれば、医者や薬に依存する度合いが強いということ

・ホントの病気に抵抗する医者とは、ウソの病気をしこたま囲い込んで贅沢に暮らす医者、標準治療しかできない医者、金儲けのために医者になった医者、たまたま偏差値が高くて医者になってしまった医者、製薬会社から裏金をもらっている偉い医者

ホントの病気に抵抗する医療関係者とは、製薬会社、製薬会社にたかる政治家、製薬会社に天下る役人、製薬会社におもねるメディア、自助努力したくないウソの病気の患者

・不定愁訴(身体がだるい、重い、頭が重い、すっきりしない、寝覚めが悪い、食欲がない、眼がかすむ、肩が凝る、腰、膝が痛い、眠れない、便秘が続く、お腹が張る、冷える、顔色がすぐれない、意欲が出ない、気分がすぐれない)は、自己治癒力低下の警告

・健診はやらないよりやったほうがいいが、健診が病気の早期発見というのは誤解。なぜなら、すでに病気は進行しているから。症状が出たり、検査でひっかかったりするまで、手をこまねいているより、自己治癒力を高める努力をしたほうが得策

・厳密に言うと、すでにみんな、がん患者。誰もが、毎日およそ数千個のがん細胞が身体で生まれている。しかし、がん患者の自覚がないのは、自己治癒力のおかげで、日々生まれたがん細胞が、日々壊されているから

不定愁訴が現れることによって、「1日24時間のリズム」が不規則になるという「負のスパイラル」に陥る。40歳からは、1日のリズムを意識しなくてはいけない

浅い呼吸は「低酸素状態になる」「血行不良になる」「低体温になる」。背筋を伸ばして、ゆっくりと大きな深呼吸をする習慣を取り入れる

・現代人は食べすぎ。過食は自己治癒力を著しく低下させる。だから、1週間に1~2日は2食だけにする「プチ断食」がおすすめ

・惰性で薬を飲んではいけない。薬はすべて「毒」。自己治癒力を顕著に低下させる



著者は、医者でありながら、医者や医療業者に反旗を翻しています。しかし、それは反旗ではなく、患者にとって正当な旗のように思います。

患者が正しい知識を持つ以外に、日本の医療制度を適正に戻す方法はないのかもしれません。


[ 2014/05/30 07:00 ] 健康の本 | TB(0) | CM(0)

『メゲそうなこころを支える三十一文字』花車肇+DEN

メゲそうなこころを支える三十一文字―「世間」や「人生」がわかる庶民の処世の知恵『道歌』の事典メゲそうなこころを支える三十一文字―「世間」や「人生」がわかる庶民の処世の知恵『道歌』の事典
(1996/03)
花車 肇、DEN 他

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昔の庶民が、五七五七七の三十一(みそひと)文字に表した「道歌」は、世間や人生がわかる処世の宝庫です。

この道歌を600以上集めたのが本書です。思わずうなってしまう歌が多く、「昔の人は偉かった」と感じさせられます。その一部をまとめてみました。



・「塵を呑み 芥を入るる 大海の 広さが己が 心ともがな」
塵や芥のすべてを受け入れる、あの広い海のように、人の心もあればよいのに

・「おのが目の 力で見ると 思うなよ 月の光りで 月を見るなり」
月が見えるのは、自分の目がよいからではない。月が照っていてくれるからである

・「わがばかを ばかと心の つかざれば 人のばかおば そしる世の中」
自分の愚かさを知って、その愚かさに謙虚になれない人は、他人の愚かさを攻撃したがる

・「器用さと 稽古と好きの 三つのうち 好きこそものの 上手なれ」
上手になるための三つの条件「器用さ」「稽古」「好き」の中で、好きであることが一番

・「堪忍の 袋を常に 首にかけ 破れたら縫え 破れたら縫え」
堪忍袋をいつも首にかけていよう。堪忍袋は破れやすいので、破れたままにしないこと

・「可愛くば 二つ叱って 三つ褒めて 五つ教えて 善き人にせよ」
ただ叱って教えるだけでは効果がない。二つ叱ると三つ褒め、それから五つ教えること

・「我という 垢の衣を 脱ぎぬれば 天晴れ清き 神の御姿
過去を思い切って捨て去ってしまえば、誰だって、清らかな、神にも似た姿になる

・「十人は 十色なりける 世の人の 誠は心 一つなりけり」
十人十色という諺があるが、人の心の誠は、ただ一つのものしかない

・「長者山 上りて奢る 道へ出ば もはや下れぬ 坂と知るべし」
徳の高い金持ちでも、道を間違えて「おごりの道」に出てしまうと、再び元へは戻れない

・「貧しくて 心のままに ならぬのを 憂とせぬのが 智者の清貧
俗な世間にへつらわず、そのために貧乏をしても、節操を高く生き、少しの後悔もせず、悔しい思いもしないというのが、本当に知恵のある人の生き方

・「大石に つまづくことは なしとても 小石につまづく ことな忘れそ」
大きな石は用心して、つまづくことはないが、小さな石は見過ごし、つまづいてしまう

・「用心の 良いも悪いも その家の 主ひとりの 了見にあり」
一家の主が用心深いかどうかによって、その家の繁栄するかどうかが決まる

・「美しき 花に良き実は なきものぞ 花を思わず 実の人となれ
うわべや外観だけをきれいに飾る人でなく、人間として実のある人となるべき

・「我を捨てて 人に物問い 習うこそ 智慧をもとむる 秘法なりけり」
賢くなるための秘法は簡単。自負心や我欲を捨てて、知っている人に尋ね、習うだけ

・「算盤は 嘘をおかさず 無理させず かれにまかせば 家内安全」
そろばんで、日々の暮らしを立てておれば、もうそれだけで家内安全

・「身は軽く こころ素直に 持つ者は あぶなそうでも あぶなげはなし
行動が早くて、素朴で、穏やかであれば、一見危なそうでも、危なげない日々が送れる

・「学問は 人たる道を 知るためぞ 鼻にかくるな はなが折れるぞ」
学問するのは、人の道について知ること。道から外れた学問自慢をするな

・「手を打てば 下女は茶を汲む 鳥は立つ 魚寄り来る 猿沢の池」
猿沢の池の端で、人が手を打てば、茶店の女が客が来たと茶を汲み、鳥は驚き、魚はやってくる。同じ手を打つ行為なのに、三種の反応があるということ

・「掃けば散り 払えばまたも ちりつもる 人の心も 庭の落ち葉も」
人間の心の中には、掃いても、払っても、つまらない考えが、積もっていく



以前、「道歌教訓和歌辞典」「三十一文字に学ぶビジネスと人生の極意」という書を、本ブログでとり上げました。

これらも併せて読んでもらえたら、「道歌」という面白い世界が、より一層広がってくるのではないでしょうか。


[ 2014/05/28 07:00 ] 芸術の本 | TB(0) | CM(0)

『自分を超える法』ピーター・セージ

自分を超える法自分を超える法
(2011/07/23)
ピーター・セージ

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著者は、「資金なし、人脈なし、学歴なし」で17歳の時に起業したイギリス人です。20年経った今、22の会社を成功に導いていられます。

本書には、「成功の心理学」「お金のつくり方」「リーダーシップを高める」「世界観をつくる」などの章ごとに、格言が散りばめられています。その一部をまとめてみました。



・歴史は、常にリスク(=不安定感)を取る人の味方をする。成功への重要な資質は、「不安定感」に対処できる能力を持っていること

・恐怖を前にすると、「やらない言い訳」がどんどん出てくる。怖いのは、行動を開始する瞬間だけ。行動のさなかでは、恐怖は消える

・本物の「重要感」を持つ人は、自分勝手な欲を手放す。力(パワー)とは、世の中に貢献したいという思いの強さに正比例して与えられる

・全員が勝者となる方法を考えることが大切なポイント。提案を受けたほうが、断るよりも価値が高いと感じるような提案をすること

・起業を成功させる5つの秘訣は、「情熱」「ウォンツ」「付加価値」「しくみ」「モデリング」。ビジネスの選択は、「できること」ではなく、「情熱」で選ぶこと

・リーダーシップの大きさは「部下の人数」で決まるのではなく、「育てたリーダーの人数」で決まる

・リーダーシップに必要な3つのカギは、「基準を上げる」「信仰を持つ」「ビジョンを持つ」こと

・エゴにとらわれた自己中心的な人だとしたら、彼は、世に「貢献」するにはまだ早すぎる。「自分中心」から「他者中心」の意識が、感情面での成長となる

・「信念」は、必ず参考となる情報や体験に基づいている。「信仰」とは、参考情報や経験がない中で、何かを信頼すること

・本物のビジョンとは、「成長」へのニーズ、そして「貢献」へのニーズを満たすようなもの。この二つのニーズを無視すると、真の幸福感は味わえなくなる

・リーダーは、100人中99人に反対されても構わないと考える人たち。「役に立ちたい」という願いの大きさに応じて「力」は動員される

・力を弱める9つのパターンは、「1.ルールに縛られる」「2.重圧感や抑うつ」「3.コントロール、自信過剰、不安感」「4.退屈」「5.中毒」「6.喪失への恐れ」「7.男女関係における愛憎」「8.アイデンティティ」「9.死と病」

・多くの人々は、「前進して不安定感を享受して充実感を得ること」よりも、「安定感を得て不幸になること」のほうを優先させる

・人生の質は、「不安定感をどれくらい快適に受け入れたか」に比例する

・本当の失敗とは、うまくいかなかったときに、意気消沈してしまうこと

・よりよい戦略とは、よりよい質問をすること。ビジネスをスタートするのに「お金」は必要ない。「よりよい質問」を自分自身に投げかける必要がある

・「人の感情を動かし、行動を起こしてもらう能力」は、どんなビジネスにおいても、最も高い価値が支払われるスキル

・できごとが意味を決めるのではない。どんな状況においても、「力をつける意味づけを探すこと」があなたを幸福にする

・組織の責任者としてやるべきことは、「人々が持っている最良のものを出させること」で、それは「人々が持っている最良のものを発見させること」で、よりなされる

・指導者のゴールとは、「生徒が指導者を越えていくこと」。それ以外のすべてはエゴである

・「自分自身であれ。他の人はもうみんな埋まっているから」(オスカー・ワイルド)



本書は、「モチベーション」を高める内容ではなく、「インスパイア」を注入する内容のように思います。

成功の秘訣とは、「インスパイア」の持続です。「インスパイア」には、本書のような書を時々読むことが必要なのかもしれません。


[ 2014/05/26 07:00 ] 出世の本 | TB(0) | CM(0)

『日常の偶然の確率』ティム・グリン=ジョーンズ

「日常の偶然」の確率: あなたが本当の父親じゃない可能性から犯罪の遭遇率まで数字にしてみた「日常の偶然」の確率: あなたが本当の父親じゃない可能性から犯罪の遭遇率まで数字にしてみた
(2013/02/20)
ティム グリン=ジョーンズ

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本書には、人生で遭遇しそうな出来事の確率が記されています。「おやっ!」と思うものから、「なるほど!」と思うまで、豊富な事例が満載です。

その中から、自分の人生に起こりうるかもしれない確率の箇所をまとめてみました。



・オランダ男性の平均身長は183cmだが、100年前には、男性の4分の1が157cmより低かった。これほど急激に身長が伸びた背景には、食生活の大幅な改善がある

・世界の宗教は、「キリスト教3人に1人」「イスラム教4人に1人」「ヒンズー教8人に1人」「中国の民俗宗教17人に1人」「仏教17人に1人」「民俗宗教25人に1人」「新興宗教50人に1人」「シク教277人に1人」「ユダヤ教455人に1人」「精霊信仰524人に1人」

・毎年、地球上で175人に1人が高所から落下して治療を受け、そのうち1%以上が命を落としている

・アメリカの漁師の500人に1人が、毎年仕事中に亡くなっている

小型飛行機の操縦は、常に危険な職業の上位。毎年1750人に1人のパイロットが仕事中に死亡している

屋根の工事に従事する人は、年間で2900人に1人が仕事中に亡くなっている

・オリンピックに参加した選手は、世界の人口の60万分の1.オリンピックに参加して、金メダルをとる確率は2200万分の1の確率

危険なスポーツの死亡率。ハンググライダーは11.6万回飛んで1人。スキューバダイビングは20万回潜って1人。ロッククライミングは32万回登って1人。スキーは155.7万回行って1人

・世界に100万ドル以上の資産を持つ人が700人に1人

・IQ(知能指数)130以上の天才は50人に1人。IQ160(アインシュタインのレベル)を持つ人は3万人に1人。IQ172以上の人は世界で7000人、100万人に1人の確率

・オーストラリアで犯罪の被害者になるのは、1年に3人に1人。スコットランドで暴行を受けるのは、1年に60人に1人。南アフリカで殺されるのは、1年に3000人に1人

殺人事件の被害者になりやすい国。南アフリカ1500人に1人、エルサルバドル1600人に1人、コロンビア1900人に1人、コートジボアール2000人に1人、グアテマラ2400人に1人

・人口比で警察官の割合が高い国。イタリア180人に1人、ドイツ345人に1人、南アフリカ360人に1人、アメリカ455人に1人、オーストラリア500人に1人、イギリス500人に1人、日本555人に1人、カナダ560人に1人、インド1000人に1人

死刑の多い国。イラン21万人に1人、サウジアラビア27万人に1人、中国77万人に1人、パキスタン469万人に1人、アメリカ816万人に1人

肥満大国(BMI値30以上の割合)。サモア94%、キリバス82%、アメリカ67%、ドイツ67%、エジプト66%、ボスニア・ヘルツェゴビナ63%、ニュージーランド63%、イスラエル62%、クロアチア61%、イギリス61%

・アメリカ人の175人に1人が年に美容整形手術を受けている。420人に1人が豊胸手術を受けている

生物に襲われて命を落とす確率。蚊100分の1、ヘビ1500分の1、ハチ5万分の1、サソリ20万分の1、虎20万分の1、象30万分の1、ライオン30万分の1、カバ65万分の1、クラゲ100万分の1、牛100万分の1、ワニ116万分の1、犬500万分の1

・1人のアメリカ人が死ぬ確率。心臓病5分の1、交通事故100分の1、自殺121分の1、銃殺325分の1、溺死9000分の1、飛行機の墜落2万分の1、洪水3万分の1、地震13万分の1、隕石の衝突50万分の1、落ちたココナツに当たる65万分の1

宇宙人に誘拐された経験があると答えたアメリカ人は、何と500人に1人。エクソシストが300人前後いるイタリアで、悪魔祓いを求める人は1万人に1人以下



死ぬ確率など、あまり想像したくないものですが、注意喚起のため、安心のため、本書の確率を読んでおいても損はないように思います。

死ぬ確率の高いところには、できるだけ、「危うきに近寄らず」かもしれません。


[ 2014/05/23 07:00 ] 健康の本 | TB(0) | CM(0)

『ユダヤ人の成功哲学タルムード金言集』石角完爾

ユダヤ人の成功哲学「タルムード」金言集ユダヤ人の成功哲学「タルムード」金言集
(2012/04/20)
石角 完爾

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本書は、ユダヤ人の生きる知恵を集めた書として、今も語り継がれている「タルムード」の中からためになる言葉を紹介した書です。

ユダヤ人として生きる道を選んだ著者ならではの一冊です。その一文をまとめてみました。



・「金がありすぎると、人間は獣のように警戒心が強くなるが、金が全くないと、なりふり構わない本当の獣になる」

・「金という石鹸で洗えば、何でも綺麗になる」

・「金を数えるには三つの方法がある。倹約、節約、勤勉だ」

・「大切なものを失わなければ何も得られない」は、ユダヤ人が肝に銘じる、金に関する大原則

・「小さな儲けにとどめよ。それを繰り返せ」

・「懸命で賢明な生き方こそ、お金を引き寄せる」

・「今日あなたは、自分の穀物倉庫を見て、穀物の量を数えようとした。その瞬間にあなたは神から見放される

・ユダヤ人は大量に言葉を使う「多言民族」。よく喋り、よく発言し、よく主張する。ユダヤには「舌の先に幸せがある」という格言がある

・交渉事の議論は、勝つか負けるかも大事だが、長く付き合える信頼のおける相手かどうかを見定める物差しでもある。「できる敵」は、味方になった時、頼もしい相棒になる

・「過剰な要人は良い結果を生まない。心配ではなく、適正判断をせよ」

・ヘブライ聖書によれば、ユダヤ人の始祖アブラハムは、ある時「レハレハ」(すべてを捨てて、新しい土地へ行け)と、神から告げられた。父の土地を捨て、親から引き継いだ豊かな生活を捨て、全く新しい土地に行き、もう一度ゼロから始めよ、と神は命令した

・「レハレハ」は、自分自身の内面に深く入って、全く知らなかった新しい自分を見つけよ、という示唆に富んだ言葉。つまり、ゼロに戻った時こそ、新たな自分に出会えるチャンスだということ

・「最も良い教師とは、最も多くの失敗談を語れる教師である」

・「From Dust to Dust (人は塵から生まれてきた。生まれてきてから得たものに執着するな。いずれ人は塵に戻っていくのだから)」

・「ノアの方舟には、すべてカップルでしか乗船できなかった。そこで善と悪が、苦と楽が、薬と毒が、福と禍が、富と貧が、カップルで乗ってきた。だからこの世界には常に二つが存在する

・「善と悪とは常に手を取り合って行動している。手を離したことは一度もない」

・「世の中には、度を越すと毒になるものが八つある。旅行、恋愛、富、仕事、酒、睡眠、薬、香料である」

・「人間には六つの役に立つものがある。そのうち三つは自分ではコントロールできないが、残りの三つは自分の力で制御できる。前者は、目、耳、鼻で、後者が、口、手、足である」

・「教育とは、教育することを教育することだ」

・ユダヤでは、5000年の歴史の中で、金銭的・物質的に満たされることと幸福とは関係ないと教えてきた。幸福とは幸福感のこと。要は心の問題なのだと教える。ユダヤの説話の数々は、不幸感を幸福感に変えるヒントを手を替え品を替えて、人々に諭したもの

・ユダヤでは、人に幸福感を与えることは自分に幸福感をもたらす一つの善行であると考える。「アレヌ レシャベア」といい、他人をほめることは一種の義務

・ユダヤ教では「人間に耳が二つあるのに、口が一つしかないのは、よく聞くことが幸せをもたらす」と言われている。人の話を聞かないのは、「1.その人の存在を無視すること」「2.その人に心を閉ざしていること」「3.その人を軽視している」ことになる



知識を全員に教えるのではなく、知恵を一人一人個別に教えるユダヤ人の教育姿勢が、本書に示されています。

知識も大事だけど、知恵のほうがもっと大事です。知恵を学ぶには、タルムードのような「先人の教え」が重要なのだと思います。


[ 2014/05/21 07:00 ] 石角完爾・本 | TB(0) | CM(0)

『修身教授録』森信三

修身教授録 (致知選書)修身教授録 (致知選書)
(1989/03/01)
森 信三

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森信三さんは、教育の王道を歩まれた方です。数々の本をこのブログでも、紹介してきました。

本書は、教師への講義録です。つまり、「教育者への教育」をしたものです。また違った深い味わいがありました。その一文をまとめてみました。



・口先ばかりで、心だの精神だのと言ってみても、その食物(読書)に思い至らぬようでは、単なる空語。「一日読まざれば一日衰える」「偉大な実践家は、大なる読書家」

・世間多くの人々は、欲を捨てることの背後に大欲の出現しつつあることに気づかない。人間が、自ら積極的に欲を捨てるということは、わが一身の欲を打ち越えて、天下を相手とする大欲に転ずること

・自分一人が山の頂上に腰を下し、あとから登ってくる者たちを眼下に見下ろして、「何を一体ぐずぐずしているのか」という態度に教師がなると、傲慢というものが生まれてくる

・「血・育ち・教え」、この三つは、一人の人間が出来上がる上で、最も重要な三大要素。よほど立派な「教え」を聞き、さらに自分としても相当努めたつもりでも、「血」と「育ち」に根差した人間の「あく」は、なかなか容易に抜けない

気品は、人間の修養上、最大の難物。それ以外の事柄は、生涯をかければ、必ずできるものだが、気品だけは、若いうちから深く考えて、本腰にならぬことには、とうていだめ

・宗教は理屈のない者ほど入りやすいし、また理屈のない宗教ほど拡がりやすい

・傲慢は、外見上いかにも偉そうなにもかかわらず、実は人間がお目出たい証拠。卑屈とは、外見のしおらしさにもかかわらず、実は人間のずるさの現れ。お目出たさずるさとは、それが真実でない点では一つ

・志とは、これまでぼんやりと眠っていた一人の人間が、急に眼を見開いて起ち上がり、自己の道を歩き出すということ。今日わが国の教育上最も大きな欠陥は、生徒たちに、このような「」が与えられていない点にある

・真に尽きせぬ努力は、私欲を越えて公に連なるところから生まれる。それは普通の井戸と掘り抜き井戸との違いのようなもの。普通の井戸は、幾ら水が出ても一定の限度がある。掘り抜き井戸は、岩盤が打ち抜かれているので、こんこんと水が湧き、限りがない

・批評眼は持つべし。されど批評的態度は慎むべし

・現世的欲望を遮断し、次代のために自己を捧げるところにこそ、教育者の教育者たる使命がある。すなわち、花実が見られなくて、努力できないようでは、教育者とは言い難い

・「生きているうちに神でない人が、死んだからといって、神に祀られる道理はない。それはちょうど、生きているうちに鰹でなかったものが、死んだからといって、急に鰹節にならぬのと同じ」(二宮尊徳)

・偉くなった人には小さいうちから、「意地」と「凝り性」という二つの素質が大きくある

・偉人は、偉大な生命力を持った人でなくてはならない。しかもそれが、真に偉人と呼ばれるためには、その偉大な生命力が、ことごとく純化せられねばならない

・人生を深く生きるということは、お目出たさから脱却する道と言っていい

下坐行とは、その人の真の値打ち以下のところで働きながら、しかもそれを不平としないばかりか、これを自己を識り自分を鍛える絶好の機会と考えるような生活態度を言う

苦労したために、表面的なお目出たさや甘さがなくなると共に、そこに柔らかな思いやりのある人柄になる人と、反対に苦労したことによって、人間がえぐくなって、他人に対する思いやりがなくなる人がいる。この相違は、その人が自己を反省するか否かによる

・坐禅を組んでいる間は、高僧も凡僧も格別の差はないが、ひとたび坐禅をやめたとき、凡僧は「アア」とあくびをして、坐禅はもう済んだものと思う。ところが、高僧は坐を解いても、一層心を引き締める。そこに人間の優劣の岐れ目がある

・「アアこれでもすむ」という程度の生温い生き方は、いわば努力の最低限の標準で、物事を処理していること。真面目とは、常に自己の力のありったけを出して、もうひと伸し、もうひと伸しと努力を積み上げていく「百二十点主義」に立つこと



「教師の教師」である森信三さんの話には、一本筋がピーンと通った緊張感のようなものがあります。

その緊張感こそ、教育者が持っていないといけないものかもしれません。それらが随所に感じられる書でした。


[ 2014/05/19 07:00 ] 森信三・本 | TB(0) | CM(0)

『トクヴィル・現代へのまなざし』富永茂樹

トクヴィル 現代へのまなざし (岩波新書)トクヴィル 現代へのまなざし (岩波新書)
(2010/09/18)
富永 茂樹

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トクヴィルは19世紀半ばのフランスの思想家。日本で言えば、ペリー来航の少し前のころ、アメリカでデモクラシーの萌芽とそこで生じる社会の変容を目にし、人間社会の未来について考えた人です。

その思想は、今の時代を見通していました。現代に通用するトクヴィルの考えを少しまとめてみました。



・平等な社会では、幸福を充足する機会は誰にも与えられているが、しかしその幸福が手に入ることは滅多にない

・自由の中に平等を求め、それが得られないと、隷属の中にもそれを求める。貧困も隷従も野蛮も耐えるが、不平等には我慢できない

・アメリカ人は、常に逃げていく完全なる至福を求めて、この無駄な追求を飽きることなく続ける

・社会が画一的になるにつれて、人はどんなにわずかな不平等にも耐えられなくなる

・人々が特権に向ける憎悪の念は、特権が稀になり、小さくなればなるほど増大する。民主的情念の炎は火種が最も少なくなった時に一層燃え上がる

・特権と不平等が支配する世界しか知らない者は、どんな不平等にも耐えることができる。しかし、そこから脱出する可能性が明らかになるにつれ、不平等に対する凶暴で消し難い憎悪が胚胎してくる

・心が利益に支配されている限り、人の情熱は政治より経済へと向かう

商業は平等を前提条件としており、そのことが人間に穏やかな習俗をもたらす

・商業の習性ほど革命の習性に対立するものを他に知らない

・フランス人は自分よりすぐれた存在を望まない。イギリス人は自分より劣った存在を望んでいる

・羨望はデモクラシーの主題。平等への情熱は、強者を自分の水準に引き下げることを弱者に願わせる「卑しい好み」を呼び覚ます

・中央の行政権力は、あらゆる中間的な権力を破壊する

・都市に集まった群れは、物質的な享楽への熱望に刺激されており、妬みに由来する民主主義的な不満を見ることができる

・物質的幸福を求める情熱は、本質的に中産階級の情熱である

・中産階級の人々は、自身がエゴイズムや虚栄心にとらわれ、また物質的な安楽の追求に終始しているために、民衆=労働者の貧困と悲惨さにまで十分な配慮が届かない

・平等が行き渡った社会は、誰もが自分に引きこもり、他のすべての人々の運命にほとんど関わりを持たない

・民主的な圧政は、生命や財産を奪うことはないが、少数者は社会の中で異邦人でしかなく、「生きることを死ぬよりつらいものに」されてしまう

・平等への愛着にとらわれた人間は物質的な安楽、現在よりもよい生活を求めたがるので、その注意と想像力はたえず未来へと向かう

・宗教は希望に「特別な型式をもたらす」もの

・利益は「宗教でさえ人々を導くのに用いる主要な手段」。アメリカにおいて、利益が人間の情念を抑制する「手段」となっている

観念の流通は、文明にとって、身体にとっての血液の流通に相当する

・普通の市民が団体をつくって、そこに非常で豊かで影響力のある存在である「貴族的な人格」を構成することができる



フランス革命の後、アメリカの民衆が民主主義社会をつくり始め、トクヴィルは、民主主義社会が今後、どのようになっていくのかを考えました。

本書には、民主主義の予言が記されています。その現代へのまなざしは、参考になります。


[ 2014/05/16 07:00 ] 偉人の本 | TB(0) | CM(0)

『マイクロものづくりはじめよう』三木康司・宇都宮茂

マイクロモノづくりはじめよう ~「やりたい! 」をビジネスにする産業論~マイクロモノづくりはじめよう ~「やりたい! 」をビジネスにする産業論~
(2013/04/12)
三木 康司、宇都宮 茂 他

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脱下請けのモノづくり、ワクワクできる中小企業のモノづくりを目指す書です。

本書には、大企業出身の著者が、中小企業にモノづくりの喜びを見つけた数々の内容が記載されています。それらの一部をまとめてみました。



・図面からすぐに思いつくようなキーワードをググっても(Google検索しても)、希望にかなった工場が簡単に見つけられない。そこでぼくたちの出番

・高付加価値のモノをマイクロ生産(少量生産)し、マイクロ消費(少量消費)していく。「マイクロモノづくり」はそんな時代の産業論

・大企業のサラリーマンの多くは、いわば「上司の下請け」のような仕事をしている

・「大企業の下請け企業」でも「企業における上司の下請け社員」でも、下請けはデメリットばかりではないが、無視できないリスクがある。いったん大口の顧客である大企業や上司からの発注が減ると、そこからの仕事に依存してきた分、苦しい立場に立たされること

・依存することに慣れてしまった下請け会社の経営体質、上司の言いなりに慣れてしまった生き方は、簡単に変えられない。非現実的な価格提示無茶な仕事の指示に対応せざるを得ない。そして、徐々に体力を消失し、最後は倒産の危機や、リストラの危機を迎える

・「下請けマインド」とは、「独立自尊」の経営方針ではなく、大手企業の下請けとして、その取引先の要求に最適化し、応えていくことを最優先する中小企業の経営方針

・借金でスタートすると、「マイクロモノづくり」はうまくいかない。それは、自分が欲しいモノをつくりたいという志で始めたはずなのに、資金回収するまでの、売上が立たない期間、借金返済のためのキャッシュを生み出す作業に忙殺されるから

・モヤモヤを感じ、解消しようとすることが、「理念」「目的」「ビジョン」と呼ばれるもの

・多くの人たちの意見を自分の耳で直接聞く。それから「内観」(自分を見つめる作業)に入っていく。内観は一人製品開発会議のような意味を持つ。心の中を見つめ、「自分が本当につくりたいモノ」を心の中に思い浮かべる

・「自社の持っている技術」×「成長している市場」=「儲かる自社製品開発」という単純な計算を当てはめて自社開発を行うことは危険。「本当にやりたいコト(好きなこと・趣味)」×「自社の持っている技術」=「長く持続できる自社製品開発」という考え方が大事

・「ワクワク」を表わす縦軸と「自社(自分)の持っている技術」を表わす横軸が交わる点に、「マイクロモノづくり」の「タネ」である「宝」がある

・SNSを活用した人脈形成で気をつけたいポイントは、「1.短絡的・短期的な目的でつながらない」「2.気の合いそうな人とだけ付き合う」「3.情報発信して、自分が誰なのかわかるようにする」「4.知り合いの数を増やすことを目的にしない」といったところ

・ネットワークにおけるタグ付けとは、いわゆる「ブランディング」である

・自分が存在する「場」、すなわち「居場所」の居心地が悪いと、生きていくのがつらくなってしまうし、生きていけなくなる。自分が存在している「場」に対しても贈与することで、その「場」に存在している全員が恩恵を受けるという「与贈循環」の考え方が大事

・「人脈を求めない」ことが、結果として「人脈づくり」のポイントになっている

・心臓部になるようなパーツが、すでに大量生産されて流通しており、小ロットでも調達できるからこそ、「マイクロモノづくり」は実現できる

・「マイクロモノづくり」では、つくって売るまでを考えて、息の長い計画を立てられるようにしておく。そのためのポイントは、イニシャルコストをいかに下げるかである

・町工場規模のモノづくりが盛んな日本では、米国のモノづくりと比較して、圧倒的に開発期間を短縮でき、技術的な刷り合わせのコストも小さく、ストレスが小さい

・他者に伝えた時、その内容にどれくらいの人が共感したり、面白がったりして、お金を払ってくれるのか?それを探ることを「マイクロモノづくり」的マーケティングとして行わなければならない



やりたいこと、好きなことと、需要のあること、お金になることを合致させようとすれば、自ずと「マイクロモノづくり」となるのではないでしょうか。

この考え方は、単なるモノづくりではなく、生き方そのものと言えるのかもしれません。


[ 2014/05/14 07:00 ] 仕事の本 | TB(0) | CM(0)

『世界経済の大潮流』水野和夫

世界経済の大潮流 経済学の常識をくつがえす資本主義の大転換 (atプラス叢書)世界経済の大潮流 経済学の常識をくつがえす資本主義の大転換 (atプラス叢書)
(2012/04/21)
水野 和夫

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著者の本を紹介するのは、「100年デフレ」「終わりなき危機」などに次ぎ4冊目です。どの本も、世界史的視点の経済学のことが書かれています。

本書も、資本主義が今どの方向に行こうとしているのかを示してくれるものです。参考になる点が多々ありました。それらの一部をまとめてみました。



・現在の金余り現象の背後に利子率革命(2%以下の超低金利が長期間続く状況)がある。このことは同時に、利潤極大化を行動原理とする資本主義にとって最大の危機が到来したということ

・資本が不足しているときは、資本を持っている人が有利だから、高い利息を得られる。ところが金利が低いということは、資本家の価値がないということを意味する

・日本は戦後60年かけて個人金融資産を1500兆円増やすのがやっとだった。現代のアメリカの錬金術師たちは、金額にしてその6倍、期間は5分の1、つまり30倍のスピードで儲けた

・国家(ホワイトハウス)が資本家(ウォール街)の使用人に成り下がった。クリントン政権の後半から財務長官にはウォール街の投資銀行の経営者が就任するようになったのはその表れ。日本も小泉政権あたりかから資本家の使用人になった

・世界の余剰マネーは今後新興国の近代化を先取りして、資源や食糧など基礎的物質を投機対象とする可能性が高く、そうなると資源を持たない新興国や途上国に大きな打撃を与える

・ケインズ主義者の「財政出動すれば何とかなる」の発想の根底にあるのは新自由主義と全く同じで、「頑張れば成長できる」という期待。その頑張り方が、市場に任せるか、政府がお金を出すかの違いだけで、成長という「大きな物語」を信じている点においては同じ

・これまでグローバル化が曲がりなりにも成立したのは、2割の先進国の人が、8割の貧しい人からものを安く買って高く売ってきたから。言い換えれば、貧しい8割の人がいてこその資本主義。しかし、現在進展しているグローバル化は、それを10対0にするもの

・これからは「成長ではなく、定常になる」という認識が必要。「自己責任で頑張れ」という不安を持たされる視点を切り替えることが社会の共通認識として必要

・「グロバリゼーションの諸力は、リベラル・デモクラシーを時代遅れにしようとしている」(アンソニー・G・マッグル)

・今後もっと原油価格が高騰すれば、海外の穀物を莫大な移動コストをかけてまで輸入することは成り立たなくなる。ポスト近代というのは動かない世界、「定住」がキーワードとなる

・21世紀は「長い16世紀」(利子率・貨幣・価格・賃金を中世から近代へと転換させた歴史の断絶)の繰り返しだが、異なるのは、16世紀は帝国から主権国家への移行プロセス、21世紀は「国民国家の退場」と「資本帝国の台頭」。逆向きの流れが生じている

・所得格差の背後にあるのは、企業の成長率格差。日本を代表するグローバル大企業の実質成長率は、グローバル化が加速した1975年以降、年率7.3%で成長。しかし、中小企業、非製造業のそれは逆に年率1.4%で減少。1990年のピーク水準から29%も低下している

・大企業・製造業と中小企業・非製造業の格差(二極化現象)は、先進国共通の問題。グローバル化は、国内に限定された労働市場を世界市場に拡げ、国境を越えた企業間競争を激化させたから。大企業・製造業の労働分配率の急激な低下にその事実が表れている

・グローバル化を推し進める原動力は、新興国の人々が豊かになりたいという欲求であり、先進国の成熟化による極端なまでの低利潤率の長期化(利子率革命)。すでに成熟化している先進国はポスト近代化の姿を構築していく準備をすることが必要

・もはや、景気回復は中産階級にその恩恵をもたらさないし、中産階級の人々もそうならないと不安を感じるようになる。1995年以降の景気回復は人々の不安を解消するものでなくなっている

・「ヨーロッパの歴史は蒐集の歴史。帝国とは諸国、諸民族を集めた一コレクションであり、その秩序は、蒐集者(コレクター)と蒐集物(コレクティブ)に分割されるもの」(ジョン・エルスナー)。この蒐集の手段に用いられてきたのが、資本主義でありキリスト教だった



世界的に長期金利が低下している現在、著者の意見、考え方は貴重であり、参考にすべきものだと思います。

次の時代(すでに次の時代に突入していると思われる)に対して、どう考え、どう行動するのが適切か、を教えてくれる書でした。


[ 2014/05/12 07:00 ] 水野和夫・本 | TB(0) | CM(0)

『江戸しぐさに学ぶおつきあい術』山内あやり

江戸しぐさに学ぶ おつきあい術江戸しぐさに学ぶ おつきあい術
(2013/06/25)
山内あやり

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江戸しぐさに関する本を紹介するのは、越川禮子さんの「江戸の繁盛しぐさ」「暮らうるおう江戸しぐさ」に次いで3冊目です。著者は、その越川禮子さんのお弟子さんです。

江戸しぐさには、人との関係、社会との関係を円滑に保つ姿勢が詰まっています。今回は、以前紹介した「江戸しぐさ」を除いて、まとめてみました。



・「あいづちしぐさ」は、相手が話しやすい環境をつくることが第一、という意味。話させ上手こそ聞き上手。「間合いのいい相づちを心がける」こと

・「芳名覚えのしぐさ」は、本名をあえて聞かない交流のコツ。江戸の人々は、さまざまな身分や立場の人が集う場で、いきなり名前を聞くのは野暮で、自然に知る機会を待ち、誰かが呼んだその名前で話しかけた

・「のん気しぐさ」は、すべて努力をした後は、天の意思にまかせて前向きな心持ちでいましょうということ。江戸商人の心得は、一にやる気、二に根気、三にのん気、と言われた

・「世辞が言えて一人前」は、相手への心遣いを言葉にして伝えよ、という意味。世辞=大人らしいもの言い。世辞は社会人の挨拶として、円滑なお付き合いには欠かせない心配り

・「聞き耳しぐさ」は、聞き耳を立てるつもりはなくても、自然と耳に入ってきたことに対して、知らないふりをするやさしさのこと。江戸っ子は、“聞こえなかった”ことにして、すべてを胸の内におさめ、むやみに他言しなかった

・「三脱の教え」は、年齢・職業・地位など、人を肩書きという先入観で決めつけるのではなく、その人の本質を見極めよ、という教え

・「この際しぐさ」は、大火事や自然災害など、いざというときに備え、ここぞというときに臨機応変に対応すること。それは、物事の道理をわきまえ、規律をしっかりと身につけた者だからこそ逸脱できる業。型ある人の型破り

・「結界わきまえ」は、自分の立場や身の丈を把握し、人の領分まで侵してはならないという心得。他人と自分には、目に見えない境界線が引かれており、この“見えない一線”をどう守るかが、人付き合いでは重要と考えていた

・「けんかしぐさ」は、喧嘩のときの暗黙のルール。万が一手をあげるまで発展しても、頭や顔面はなどの急所をつく卑怯なやり方はしない。周囲の人は、どちらかに弱みが出たら、仲裁に入って止める。そして、必ず仲直り。仲直りすることまで含めて「けんかしぐさ」

・「へりくだりしぐさ」は、相手を立てることを第一に考えるという意味。相手に敬意を払わない人は、誰からも尊重してもらえない。相手を立てていれば、やがて自分も立ててもらえる。誇り高く自分をへりくだれる人には、自然と人は集まってくる

・「八度の契り」は、八回の約束を果たし合うほど、時間をかけて相手を見極めながら、ゆっくりと付き合いを深めていくのが好ましいという意味。本性を見せ、本音を言い合える相手は、そうそういないもの

・「刺し言葉・手斧言葉」は、決して人に言ってはならない言葉。話の腰を折るようなトゲのある言葉(「それで?」「それだけ?」など)と相手を不快にさせる断定的な言い回し(「所詮」「どうせ」など)、そして、乱暴な言葉(「うるさい!」「馬鹿!」など)のこと

・「陰り目しぐさ」は、こちらまで暗い気分になるような陰気な目つきのこと。商人が、目に力なく、沈んだ表情で店に立っていたら、お客さんは居心地も悪く、買う気も失せる。無意識の一瞬の暗い表情でも、意外に人に見られているので、気をつけろ、という教え

・「後ろつつき」は、気づかないうちに人に危険を与えている迷惑行為のこと。自分の視線が届かない後ろにこそ、細心の注意を払い、人への心遣いが必要という意味

・「朝飯前・傍楽・明日備」は、商家の一日の過ごし方。朝ご飯を食べる前に、簡単なことをこなし、仕事中は、人を楽にするために動き、夕刻になると、明日に備えるという意味

・「小意気・小奇麗・小確り」は、外見も内面も美しい「江戸小町」の条件。生き生きとして元気がよく、サッパリとした装いと身だしなみがお洒落で、凛々しい立ち居振る舞いのできる女性が憧れの対象だった

・「三つ心・六つ躾・九つ言葉・十二文・十五理で末決まる」は、江戸の段階的養育法。世間に出しても恥ずかしくない人間になるように、当時の成人年齢15歳を節目に段階を区切って育てた



法の支配が弱かった江戸時代、大都市で、人々が円滑な関係を築くには、法よりも道徳が必要でした。その大都市の道徳こそ「江戸しぐさ」です。

この「江戸しぐさ」の数々は、現代でも通用することばかりです。マナーとして、知っておけば、誰でも、素敵な人になれるのではないでしょうか。


[ 2014/05/09 07:00 ] 江戸の本 | TB(0) | CM(0)

『身近な虫たちの華麗な生きかた』稲垣英洋

身近な虫たちの華麗な生きかた (ちくま文庫)身近な虫たちの華麗な生きかた (ちくま文庫)
(2013/03/06)
稲垣 栄洋、小堀 文彦 他

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著者の本を紹介するのは、「植物の不思議な生き方」以来です。著者は、雑草生態学が専門の研究者です。驚くのは、文章が非常に上手なことです。一つ一つの植物や虫たちの物語に引き込まれていきます。

簡潔にまとめる能力は、ノンフィクション作家以上の力量です。本書の中にも引き込まれていくところが多数ありました。それらをまとめてみました。



・ミツバチは、花から蜜を集める外勤は、1日5時間の労働時間。巣の中の仕事や幼虫の子守りをする内勤は、6~8時間の交替勤務。経験を経るごとに内勤から外勤の仕事へ。働き蜂はすべてメスだから、花から花へ飛び回るミツバチは、すべておばあさん蜂

・天才アインシュタインは「もしミツバチが地球上からいなくなると、人間は4年以上生きられない」と予言した。ミツバチによって、花粉が運ばれ、花は実を結び種子を残すことができる。ミツバチがいなくなると、植物が絶えてなくなる

・花は、筒のような構造で、奥に蜜を隠しているものが多いが、これは、花にもぐりこめる花蜂だけに蜜を与えるための工夫

・蝶のひらひらと舞う飛び方は、天敵の鳥の攻撃から身を守るための逃避行動

・アゲハチョウの幼虫には大きな目玉模様ができる。田畑などの鳥よけに、鳥が嫌がる大きな目玉模様の風船を用いるが、幼虫も目玉模様で鳥の攻撃を避けている。また、二つの目玉模様によって、鳥の天敵であるヘビの顔にも似せている

・ジャコウアゲハの毒の使い方は実に巧み。毒が強すぎて相手を殺してしまっては、ジャコウアゲハの毒を知らない鳥ばかりになる。毒の恐ろしさを学ばせるには、相手にひどい目にあわせる程度の毒の強さがちょうどよい

・「2,4,6,7,8,10,11,12,13,14,15,16,19,28」の数列は実はテントウムシの星の数。テントウムシは、脚の付け根から臭い汁を出して身を守る。この臭い汁のおかげで、天敵の鳥もテントウムシを嫌う。目立つ色と覚えやすい数の模様は、鳥たちを襲わなくさせるため

・ハエは1秒間に200回も羽ばたく。そのため高い周波数のうるさい羽音を立てる

3億年以上も前の古生代から姿が変化していない昆虫には、ゴキブリ、シロアリ、シミがいる。昆虫界の「生きた化石」は、どれも害虫だが、人間に嫌われ、駆除されながらも、図太く生き抜いている

・大きな鋭いあごを持つサムライアリは、クロヤマアリの巣を襲って、繭を奪い、繭から生まれたアリを奴隷として働かせ、餌を集めさせる。即戦力の働きアリを連れ帰っても、すぐに逃げられ、抵抗もされるので、無抵抗な繭を持ち帰り、奴隷とする

・サムライアリはクロヤマアリの巣を襲っても、決して全滅させることはない。そうしておけば、同じ巣を何度も襲って、奴隷を手に入れることができるから

・砂が崩れないギリギリの角度を安息角という。アリジゴクのすり鉢状の巣は、砂が崩れない安息角に保たれている。そのため、小さなアリが足を踏み入れただけで、砂が崩れ落ちる。アリジゴクは偉大な土木設計士

・カブトムシの寿命は一年。幼虫の期間に餌を豊富に食べた幼虫のほうが角が大きくなる。逆に、幼虫期間が何年もあるクワガタムシは、じっくり育てたほうが、あごが大きくなる

・鳥も翼竜もいなかった古生代に、昆虫はすでに制空権を獲得して、空を飛び回っていた

・不要のCDを吊り下げて、鳥よけいるにしている光景をよく見るが、これは、鳥がキラキラした金属色におびえる性質があるため。CDの裏面がキラキラと虹色に輝くのと、タマムシの羽は同じしくみ。タマムシもキラキラと輝く羽で、鳥から身を守っている

・昆虫は変温動物なので、赤とんぼは気温が低いと飛べなくなってしまう。そのため、秋になって気温が低くなると、時々竿の先に止まり、太陽の光を浴びて、体温を上げている

・最近では、巣が見つかると、すぐに駆除業者を呼ばれる、嫌われ者のスズメバチだが、夏の間は、田んぼや畑でせっせと害虫を捕えている。昔の人は、スズメバチを恐れながらも、田畑を守ってくれることを知っていた

・古生代の海で繁栄した三葉虫の末裔がダンゴムシ。ダンゴムシは、コンクリートブロックのすき間でよく見かけるが、あろうことか、コンクリートを食べている。固い装甲は炭酸カルシウムでできている。同じく、カタツムリも巻貝の仲間なので、ブロック塀が好き



ふだん何気なく見ている昆虫も、鳥に食べられないように、姿形や色で天敵を欺き、逃げて、鳥を近づけないように、毒を宿して必死に生きています。

本書を読んでいる途中、♪「オケラだって、アメンボだって、みんなみんな生きているんだ」♪、と思わず歌いそうになりました。


[ 2014/05/07 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『あたまの地図帳: 地図上の発想トレーニング19題』下東史明

あたまの地図帳: 地図上の発想トレーニング19題あたまの地図帳: 地図上の発想トレーニング19題
(2012/07/19)
下東 史明

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「地図を見る眼」で、発想やアイデアを得る方法が記されている書です。それは、「凝視」「方角」「スケール」「距離」「経路」「目印」「交差点」などの眼です。

それらの眼を使うだけで、頭が活性化していく具体例が数多く載っています。それらの中で、ためになったところをまとめてみました。



・自分探しをするには、自分と関係のあるものを「凝視」することで、自分の中へと自然と深く分け入っていける。「凝視」は情報を取り込む作業。「凝視」は、一点を「長く」見据えることに始まり、その「長さ」に比例して、対象の情報を取り込める

・表面を「見た」「眺めた」で止まらず、「凝視」を利用してみること

・本を読むだけで、自分以外の人が立っている場所に立つことができ、著者が切り開いた新しい視界を味わうことができる。古典には「立場」を超えた共感や感動、時代を超えた理解などの要素もある

・自分のことを「あの人」と呼んでみると、いつもの自分から離れた視野を手に入れることができる。ひいては他人の「立場」に立つことができるように思われてくる

・「立場」という思考法も、「凝視」と同じく、使おうと意識しないとなかなか使えないし、効力も発揮しない

・ブレることのない縦軸と横軸を設定することができれば、「方角」が出現する

・「方角」は2つの軸の組み合わせなので、この「方角」あまり面白くないな、ありきたりだな、と感じたときは、別の2つの軸から「方角」をつくっていく

・「方角」は現在地を教えてくれるだけでなく、どこに向かって進むべきか、目的地を分かりやすくしてくれる

・他人の批判や意見に揺らいでしまうのは、自分の歩いている「方角」に自信がないとき

・フロンティアになる、なりそうな「分野」を小まめに観察すると、将来の「争点」を発見することができる

・「2位」という思考法は、見晴らしをよくしてくれる。「1位」の存在に隠れて忘れがちなものにスポットライトを当ててみること

・数字を照らし合わせてみることは、「スケール」という思考法の応用

・「距離」が遠いものは、手間もかかり、ときには迂回も必要で、どうしても時間がかかるが、「急がば回れ」は妥当することがある

・頭の中を歩くにも、自分の頭の中に「目印」があれば便利だし、「目印」を手がかりに目的地に辿り着ける。つまり、思い出せる

接続詞という言葉は、心強い「目印」になる。接続詞に注意して文章を読むと、理解が速くなる

・「目印」は街中、頭の中、日常生活の中で、目的・目標となるものへ導いてくれる、近づきやすくしてくれる思考法

・日本人はいろんなものを「交差」させるのが好き。神も仏もイエスさまも区別しないのが日本人の「雑種文化

・「似たもの」を見つけること、「似たもの」の中身を探ること、そこから派生して、「似たもの」に潜む大きな違いや差異を見つけること。それだけでも、かなり長時間、頭の中を歩き回ることができる

・他人の「志向」「嗜好」を知る大きな収穫は、以前より付き合いやすくなること

・実用性に駆られた所有ではなく、趣味として所有する志向や嗜好が、これからの所有の主目的になる。いわゆるコレクターとして、使用価値ではなく、所有価値にこそ意味があるという人が一定数存在している

・「限定」という思考法は、「ストーリー」づくりに有効。テーマやジャンルを「限定」すると、とても話がしやすくなる



著者は、博報堂のコピーライターです。さまざまなCMを手がけ、数々の広告賞を受賞されています。その頭の中を公開しているのが本書です。

クリエイターの頭の中の引き出しが、どう仕切られ、分類されているのかを知ることができる書だと思います。


[ 2014/05/05 07:00 ] 仕事の本 | TB(0) | CM(0)

『萩原朔太郎詩集』

萩原朔太郎詩集 (新潮文庫)萩原朔太郎詩集 (新潮文庫)
(1950/12/12)
萩原 朔太郎

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萩原朔太郎は日本近代詩の創始者と言うべき人です。高村光太郎と共に、大正から昭和前期を代表する詩人です。宮沢賢治にも大きな影響を与えました。

その代表的な詩や箴言を集めたのが本書です。その中から、心に突き刺ささる言葉が印象的な詩の一節を抜粋して、紹介させていただきます。



・「」 林あり、沼あり、蒼天あり。ひとの手にはおもみを感じ、しづかに純金の亀ねむる。この光る、寂しき自然のいたみにたへ、ひとの心霊にまさぐりしづむ。亀は蒼天のふかみにしづむ

・「殺人事件」 ・・・・・みよ、遠いさびしい大理石の道を、曲者はいつさんにすべつてゆく

・「さびしい人格」 さびしい人格が私の友を呼ぶ。わが見知らぬ友よ、早くきたれ、ここの古い椅子に腰かけて、二人でしづかに話してゐよう、なにも悲しむことなく、きみと私でしづかな幸福な日をくらさう・・・・・

・「さびしい人格」 ・・・・・自然はどこでも私を苦しくする。そして人情は私を陰鬱にする。むしろ私はにぎやかな都会の公園を歩きつかれて、とある寂しい木蔭に椅子を見つけるのが好きだ。ぼんやりとした心で空を見てゐるのが好きだ・・・・・

・「見しらぬ犬」 ・・・・・ああ、どこまでも、どこまでも、この見もしらぬ犬が私のあとをついてくる。きたならしい地べたを這ひまはつて、わたしの背後で後足をひきずつてゐる病気の犬だ。とほく、ながく、かなしげにおびえながら・・・・・

・「青樹の梢をあふぎて」 ・・・・・愛をもとめる心は、かなしい孤独の長い長いつかれの後にきたる、それはなつかしい、おほきな海のやうな感情である・・・・・

・「群集の中を求めて歩く」 私はいつも都会をもとめる。都会のにぎやかな群集の中に居ることをもとめる。群集はおほきな感情をもつた浪のやうなものだ、どこへでも流れてゆくひとつのさかんな意志と愛欲とのぐるうぷだ・・・・・

・「遺伝」 ・・・・・お聴き!しづかにして、道路の向うで吠えてゐる。あれは犬の遠吠だよ、のをあある、とをあるる、やわあ、「犬は病んでゐるの?お母あさん。」「いいえ子供、犬は飢ゑてゐるのです。」・・・・・

・「」 ・・・・・ああ、なににあこがれもとめて、あなたはいづこへ行かうとするか。いづこへ、いづこへ、行かうとするか。あなたの感傷は夢魔に饐えて、白菊の花のくさつたやうに、ほのかに神秘なにほひをたたふ。

・「絶望の逃走」 ・・・・・おれらは逃走する。どうせやけくその監獄やぶりだ。規則はおれらを捕縛するだらう。おれらは正直な無頼漢で、神様だつて信じはしない。何だつて信ずるものか。良心だつてその通り、おれらは絶望の逃走人だ。・・・・・

・「こころ」 ・・・・・こころは二人の旅びと、されど道づれのたえて物言ふことなければ、わがこころいつもかくさびしきなり。

・「静物」 静物のこころは怒り、そのうはべは哀しむ。この器物の白き瞳にうつる、窓ぎはのみどりはつめたし。

・「公園の椅子」 人気なき公園の椅子にもたれて、われの思ふことはけふも烈しきなり。・・・・・われを嘲りわらふ声は野山にみち、苦しみの叫びは心臓を破裂せり・・・・・

・「公園の椅子」 ・・・・・われは指にするどく研げるナイフをもち、葉桜のころ、さびしき椅子に「復讐」の文字を刻みたり

・「虚無の歌」 ・・・・・かつて私は、精神のことを考えてゐた。夢みる一つの意志。モラルの体熱。考へる葦のをののき。無限への思慕。エロスへの切なき祈祷。そして、ああそれが「精神」といふ名で呼ばれた、私の失はれた追憶だつた。・・・・・

・「虚無の歌」 ・・・・・かつて私は、肉体のことを考へて居た。物質と細胞とで組織され、食慾し、生殖し、不断にそれの解体を強ひるところの、無機物に対して抗争しながら、悲壮に悩んで生き長らへ、貝のやうに呼吸してゐる悲しい物を。・・・・・

・「物みなは歳日と共に亡び行く」 ・・・・・兵士の行軍の後に捨てられ、破れたる軍靴のごとくに、汝は路傍に渇けるかな。天日の下に口をあけ、汝の過去を哄笑せよ。汝の歴史を捨て去れかし。


甘酸っぱくて苦い詩ですが、情景も目に浮かび、声に出して読んでみたくなる不思議な詩です。

せつなさ、心苦しさ、哀しさなど、自己と他の差を埋めることができないという諦め、孤独と孤立を彷徨い続ける著者の気持ちに共感できました。


[ 2014/05/02 07:00 ] 芸術の本 | TB(0) | CM(0)