著者の本を紹介するのは、「
植物の不思議な生き方」以来です。著者は、雑草生態学が専門の研究者です。驚くのは、文章が非常に上手なことです。一つ一つの植物や虫たちの物語に引き込まれていきます。
簡潔にまとめる能力は、ノンフィクション作家以上の力量です。本書の中にも引き込まれていくところが多数ありました。それらをまとめてみました。
・ミツバチは、花から蜜を集める外勤は、
1日5時間の労働時間。巣の中の仕事や幼虫の子守りをする内勤は、
6~8時間の交替勤務。経験を経るごとに内勤から外勤の仕事へ。働き蜂はすべてメスだから、花から花へ飛び回るミツバチは、すべて
おばあさん蜂・天才アインシュタインは「もしミツバチが地球上からいなくなると、
人間は4年以上生きられない」と予言した。ミツバチによって、花粉が運ばれ、花は実を結び種子を残すことができる。ミツバチがいなくなると、植物が絶えてなくなる
・花は、筒のような構造で、奥に蜜を隠しているものが多いが、これは、花にもぐりこめる
花蜂だけに蜜を与えるための工夫
・蝶の
ひらひらと舞う飛び方は、天敵の鳥の攻撃から身を守るための逃避行動
・アゲハチョウの幼虫には大きな
目玉模様ができる。田畑などの鳥よけに、鳥が嫌がる大きな目玉模様の風船を用いるが、幼虫も目玉模様で鳥の攻撃を避けている。また、二つの目玉模様によって、鳥の天敵である
ヘビの顔にも似せている
・ジャコウアゲハの毒の使い方は実に巧み。毒が強すぎて相手を殺してしまっては、ジャコウアゲハの毒を知らない鳥ばかりになる。
毒の恐ろしさを学ばせるには、相手にひどい目にあわせる程度の毒の強さがちょうどよい
・「2,4,6,7,8,10,11,12,13,14,15,16,19,28」の数列は実は
テントウムシの星の数。テントウムシは、脚の付け根から
臭い汁を出して身を守る。この臭い汁のおかげで、天敵の鳥もテントウムシを嫌う。目立つ色と覚えやすい数の模様は、鳥たちを襲わなくさせるため
・ハエは1秒間に200回も羽ばたく。そのため高い周波数の
うるさい羽音を立てる
・
3億年以上も前の古生代から姿が変化していない昆虫には、ゴキブリ、シロアリ、シミがいる。昆虫界の「生きた化石」は、どれも害虫だが、人間に嫌われ、駆除されながらも、図太く生き抜いている
・大きな鋭いあごを持つサムライアリは、クロヤマアリの巣を襲って、繭を奪い、繭から生まれた
アリを奴隷として働かせ、餌を集めさせる。即戦力の働きアリを連れ帰っても、すぐに逃げられ、抵抗もされるので、無抵抗な繭を持ち帰り、奴隷とする
・サムライアリはクロヤマアリの巣を襲っても、決して全滅させることはない。そうしておけば、同じ巣を何度も襲って、奴隷を手に入れることができるから
・砂が崩れないギリギリの角度を
安息角という。アリジゴクのすり鉢状の巣は、砂が崩れない安息角に保たれている。そのため、小さなアリが足を踏み入れただけで、砂が崩れ落ちる。アリジゴクは偉大な
土木設計士・カブトムシの寿命は一年。幼虫の期間に餌を豊富に食べた幼虫のほうが角が大きくなる。逆に、幼虫期間が何年もあるクワガタムシは、じっくり育てたほうが、あごが大きくなる
・鳥も翼竜もいなかった古生代に、昆虫はすでに
制空権を獲得して、空を飛び回っていた
・不要のCDを吊り下げて、鳥よけいるにしている光景をよく見るが、これは、鳥がキラキラした金属色におびえる性質があるため。CDの裏面がキラキラと虹色に輝くのと、
タマムシの羽は同じしくみ。タマムシもキラキラと輝く羽で、鳥から身を守っている
・昆虫は変温動物なので、赤とんぼは気温が低いと飛べなくなってしまう。そのため、秋になって気温が低くなると、時々竿の先に止まり、太陽の光を浴びて、体温を上げている
・最近では、巣が見つかると、すぐに駆除業者を呼ばれる、
嫌われ者のスズメバチだが、夏の間は、田んぼや畑でせっせと害虫を捕えている。昔の人は、スズメバチを恐れながらも、田畑を守ってくれることを知っていた
・古生代の海で繁栄した三葉虫の末裔がダンゴムシ。ダンゴムシは、コンクリートブロックのすき間でよく見かけるが、あろうことか、
コンクリートを食べている。固い装甲は炭酸カルシウムでできている。同じく、カタツムリも巻貝の仲間なので、ブロック塀が好き
ふだん何気なく見ている昆虫も、鳥に食べられないように、姿形や色で天敵を欺き、逃げて、鳥を近づけないように、毒を宿して必死に生きています。
本書を読んでいる途中、♪「オケラだって、アメンボだって、みんなみんな生きているんだ」♪、と思わず歌いそうになりました。