とは考

「・・・とは」「・・・人とは」を思索

『森づくりの明暗―スウェーデン・オーストリアと日本』内田健一

森づくりの明暗―スウェーデン・オーストリアと日本森づくりの明暗―スウェーデン・オーストリアと日本
(2006/05/11)
内田 健一

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「森林」の産物である木材は、戦後すぐに関税が自由化されました。農林水産の中では、珍しい存在です。その結果、円高や国際競争に翻弄されて、産業として力を無くしていきました。

「北欧」は、民主主義が最も進んだ国々です。本ブログでも、度々とり上げてきました(参照:「北欧の本」)

本書は、「北欧」の国、スウェーデンが、どのような「森林政策」をとっているのかを、現地取材した書です。興味深い内容だったので、その一部をまとめてみました。



・スウェーデンの国土面積は日本の1.1倍。森林面積割合は65.9%(日本は66.7%)。森林面積も、森林面積の割合も、日本と非常に近い

・スウェーデンは、林業と、製材・製紙など林業関連製造業に従事する人口が10万人を超え、従事者の人口で見れば、スウェーデン第二位の産業

・木材と木材加工製品は、輸出額から輸入額を引いた額が、スウェーデン国内の産業中最大で、木材加工業は、国に最大の収益をもたらす基幹産業

・スウェーデン林業は、驚異的な高能率機械化林業(大型のタイヤが6個ついた収穫用機械「ハーベスタ」がアームの先で林木を根元からつかみ、鋸刃が回転し根から切り離す)で、しかも、サーチライトを装備し、昼夜を問わず24時間3交代制

・収穫や集材を担当している作業者は、多くの場合、森林企業や森林組合に雇用された者ではなく、日本でいう一人親方的な、少人数の独立した作業チーム。そして、高能率収穫用機械「ハーベスタ」(約5000万円)を所有

・スウェーデンの木材の品質は、樹種と末口径で決まる。年輪の入り具合や筋の有無などは考慮されない。日本に比べると非常に単純

・林業現場で機械を運転して木材を伐り出す森林作業者のほとんどが、農林学校の林学科出身者(農林高校は全国16か所3年制で40名)。学生の25%が森林所有者の子供

・スウェーデンの林業は、樹木を一度に伐採する「皆伐林業」。更新から伐採までの「伐期」は南部では70年~100年。日照の短い北部では、さらに20~30年ほど伐期が伸びる

1回目の間伐材は、パルプ原料またはバイオマスエネルギー原料。2回目の間伐では、パルプ用材と1割程度は製材にまわされ、3回目の間伐材は8割が製材用になり、そして主伐を迎える

・スウェーデン林業の収支は、1ha当り、経費が31~35万円、収入が114~201万円で、期間が100年。主伐まで100年かかるが、2回目の間伐以降は確実に収入になる

・スウェーデン地域森林局森林官(公務員)の作業は、「森林施業計画の作成」「森林の評価」「立木の評価」などの調査を行うこと。彼らは「独立採算制」であり、1日に30haの森林を調査しないと飯が食えない

・スウェーデンには森林ボランティアという人は存在しない。プロとして関わるか、遊びに行くかのどちらか。森林率12%のイギリスでは、プロの数が少なく、市民ボランティアの取り組みがある

・スウェーデンの森林面積のうち、10%が国や自治体が持つパブリックフォレスト。40%が企業の所有する会社有林、50%が個人所有者の森林。スウェーデンの個人所有林一戸当たりの森林面積は、日本のほぼ10倍

・日本の森林組合は、木材の伐採や素材の販売など、フタを開けてみないと黒字か赤字か分からないような「山師の商売」には手を出さず、確実に収入が得られる補助金や公共事業を中心に生計を立てる道を選んできた

・日本の森林が現在のように荒廃し、林業が補助金の麻薬中毒患者のようになってしまった原因の一端は、行政機関と森林組合の相互依存関係にある

バイオマスエネルギー原料は、買い上げ価格の設定が難しい。値を良くすれば、パルプ用材に流れなくなって製紙業者が困る。スウェーデンでは、バイオマス利用技術が既に確立しているが、技術以外の要因が今後の普及を握る鍵となる



日本とほぼ同じ森林面積を持つスウェーデンの林業が、産業として立派に成立しているのに、日本がなぜ成立していないのかを問う書です。

そこには、複雑な要素がありますが、それを一つ一つ解決していけば、日本の資源である森林も立派な産業になることが示唆されています。地方の疲弊を防ぐには、森林産業の育成しかないのかもしれません。

[ 2014/04/30 07:00 ] 北欧の本 | TB(0) | CM(0)

『人間における勝負の研究』米長邦雄

人間における勝負の研究―さわやかに勝ちたい人へ (ノン・ポシェット)人間における勝負の研究―さわやかに勝ちたい人へ (ノン・ポシェット)
(1993/02)
米長 邦雄

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著者は、将棋の米長邦雄さんです。一昨年亡くなられましたが、永世棋聖で、元日本将棋連盟会長をされていました。本ブログで著書を紹介するのは、「六十歳以後・植福の生き方」以来です。

本書では、将棋の世界で培った勝負勘の磨き方について詳しく述べられています。「勝負師」の意見には、参考にすべき点が多々あります。それらをまとめてみました。



・最善手を見つけることも大切だが、それよりもっと大切なのは、悪手を指さないこと。だから、悪手でない道なら、端でも真ん中でも、どこを歩いてもよい

・勝負とは、「実力の差」を別にすれば、それは、「確率」と「勢い」と「」の三つ

・本当に自分のしたい仕事があるのなら、会社に行って席についた瞬間から、必死になってそれを始めてしまえばいい。すると、その気迫は必ず周囲の人に伝わって、その人に雑事は頼めなくなる。少なくとも、雑事を頼むときには、都合を聞いてくるようになる

・最終的に頼れるのは自分自身の力だけ。このことがわかっていないと、成長できない

・何ごとにせよ、まず「集中力の持続」が勉強の要。試験であれ、芸の道であれ、青春時代に合計5~6000時間集中的に努力を維持した者が認められるというのが、世の中

・カンというのは、ものすごいスピードで考え、読み切った結果として生じるもの。あるいは、読まずに済むところは読まないで済ますこと。つまり、「読み」の省略があること

・第一感というのは、「長考に妙手なし」。大事なことだからこそ、簡単に決めるべき

・強くなるためには、物事の好き嫌いをなくすこと。人間を鍛える場合に「好き嫌い」などという甘えた考えは認められない

長所を伸ばすという教育法は、アマチュアの芸で、成長のきっかけとしては認められるが、プロには当てはまらない

・まずいのは、勝ちそうになった時、ああじゃこうじゃ、と喋ること。これは勝ちを逃す

・100点に向かって全部の力を出し切る時がなくてはダメ。危険を承知で、あえて踏み切っていくうちに、成長していく

・トップクラスの将棋の間には、読みの能力、思考の能力において、差はない。ギリギリのところまで力を高めた同士が戦った場合、勝敗を決するのは、ほんのわずかなカンの差

・難局になると、相手の側に立って考え、一番難しい手を指し、相手がわからなくなるような局面に導いていく。いわば泥沼に引きずり込む

・強い棋士ほど、パターンから外れて戦おうとする。つまり、パターンで戦うというのは、強い人と弱い人との間にある力の差が出にくいということ

・泥試合になったら、本当の力の勝負になる。力の勝負になれば、順当に強い者が勝つ。だから、強い人ほど泥沼で戦いたがる

・「弱い者ほど結論を先に出したがる」というのは勝負の鉄則

・世間の噂や誤解に基づく非難に対しては、しばらく、じっと静かに耐えているのがいい。こちらが正しければ、そのうち真相がわかってくる。不利な時に騒ぐのが一番まずい

・少し勝ち続けると、人は遊びほうけたり、気が大きくなる。勝っている時にはじっとしているのが大切。遊ぶのは負けている時のほうがいい

・好調を維持する時や、不調から脱出しようとする時は、「勝ってほしい」と本当に思ってくれる人と会うのがいい。墓参りに行くのもいい。先祖は、よかれと思ってくれている

・サラリーマンで、会社に貸しをつくった人は、会社の中で住みやすくなる。その人に対して、つまらない文句を言う人がいなくなるから

・遊びとは、仕事の影。だから、大きな仕事の影は、やはり大きくて当たり前

・集中力がなければ、何事をやっても成功しない。少年時代に集中力を身につけるのが一番の財産



将棋の「勝負の研究」だけでなく、人生の「勝負の研究」にも幅広く言及されています。20年前に書かれたものですが、ずっと版を重ねている書です。

人生とは、選択と勝負の積み重ね。白黒をはっきりさせないと、進めないものかもしれません。


[ 2014/04/28 07:00 ] 戦いの本 | TB(0) | CM(0)

『日本人を動かす原理・日本的革命の哲学』山本七平

日本人を動かす原理 日本的革命の哲学 (PHP文庫)日本人を動かす原理 日本的革命の哲学 (PHP文庫)
(2013/08/09)
山本 七平

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本書は、明恵上人が、北条泰時の制定した「貞永式目」に与えた影響を探る書です。「貞永式目」はその後、江戸時代末期まで、日本人の行動原理の規範となっていきました。

明恵上人に関する書は、「法然対明恵」「明恵夢を生きる」に次ぎ3冊目ですが、本書は、新たな明恵上人を知る契機になりました。その一部をまとめてみました。



・尊皇思想から戦前の皇国史観の長い時代を考えれば、承久の乱で、朝廷に勝利し、立法権を奪った北条泰時を極悪人と評価しても不思議ではない。だが、泰時だけは別で、彼がベタホメされるのは、日本人の心底にある「理想像」を彼が具現化していたからである

・「関ヶ原」は「天下分け目の戦い」と言われるが、歴史的な分かれ道という意味では、「承久の乱」こそ天下の分け目。関ヶ原はいずれが勝っても武家政権の体制に変化はないが、承久の乱は律令以来の天皇制に終止符を打ち、武家が政権担当することを決定づけたから

・恩賞は栄誉と実益の両方あるから難しい。この問題は後々まで泰時を悩まし、承久の乱後十年後まで続く。関東御成敗式目(貞永式目)も、この問題が色濃く影を落としている

・泰時が心の底から尊敬したのは明恵上人、同時に、泰時に決定的な感動を与えたのも明恵上人。これは二人が交わした歌にも表れている。天皇も上皇も泰時には絶対でなかった

・泰時に必要なのは、天皇でもない幕府でもない、現実の体制の外にある「利害に関係ない何か」。それを絶対化し、秩序を立てること。この「何か」は、日本の伝統を基本としながら現実の体制に無関係なもの。彼が明恵上人から得たのは、その「何か」であった

・明恵上人は、「心をつくし、精神をつくし、力をつくし」釈尊と仏母を愛した人。「硬質の仏教者」として「学究」の人。「専修念仏」への批判者。森羅万象を兄弟のように見る人

・明恵上人にとっては釈尊が絶対であって、天皇家が絶対なのではない。となれば、幕府も絶対でないのも当然。したがって、泰時の前に引きすえられたときの態度も全く同じ

・戦争の勝者は、政権の持続的保持を約束されていない。保持には別の原理原則が必要。それを知らなければ、泰時にも敗滅と断罪が待っている。彼がそれを明恵上人に質問をしても不思議ではない

・「自然的秩序」を無視した継受法は、神権的権威でこれを施行しても「名存実亡」となり、同時にその間隙を縫って利権が発生し、如何ともしがたい様相を呈する。明恵・泰時的政治思想の背後には、まず「自然的秩序」の根源に立ち、それを知ることという発想がある

・「今ある秩序」を「あるがままに認める」なら、やがて自らが作り出す「式目」の基になる体制も、あるがままであって一向に差し支えない。徳川期になって朱子の正統論が浸透するまでは、明恵・泰時政治思想の基本「日本の自然的秩序」なら、それでよかった

・明恵上人が座右の銘のように口にした言葉「あるべきようは」は、僧に対して、それぞれの素質に応じて行をして解脱を求めるように、その行を「あるべきように」行えといった意味であったが、後に、一般人すべてに共通する規範として受け取られるようになった

・内的規範がそのまま外的規範のようになるのが「あるべきようは」。「心の実法に実ある」振舞いが、自然的な秩序となって、戎法に一致すること。それも固定的ではなく「時に臨みて、あるべきように」あればよい。泰時にとっては「法」もこういったもの

・「自然的秩序絶対」は明恵上人が残した最大の遺産。そして、その教えを、実に生真面目に実行した最初の俗人が泰時。もしこのとき、泰時が、明恵上人でなく、別の誰かに心服していれば、中国を模範とした李朝下の韓国のような体制になっていたかもしれない

・泰時は常に質素で飾らず、館の造作も気にかけなかった。家の塀が破れて中が見えるほどだから修理をすすめられても、人夫にそのような作業をさせるのは煩わしいと断った

・時代とともに「式目」は浸透し、日本人の「秩序意識」の基となった。足利時代の武家法であった「建武式目」は「貞永式目」の追加法にすぎなかった。徳川時代は、「式目」が「法律書」でなく教科書、教養書になり、日本人の意識の中にさらに深く浸透していった

・日本人最初の固有法・成文法「貞永式目」は、所有権・相続権から贈与・担保・売買・徴税・賭博から治安等に至るまで、生活を規定する「世俗法」。しかし、基本は「武家法」で、「軍法」的要素がある。この軍法的秩序が社会秩序の基本となった点が日本の特徴

・泰時の考えは、皆が「自然的秩序」通りに生活すれば「法」など要らぬというもの。明恵上人の言う「実法に実なること」がそのまま戎法になり、人為のない「自然的秩序」の世界になるはずだから、「裁判より話し合いによる互譲の解決」を求めたのは当然だった



山本七平さんの著書を紹介するのはこれで4冊目ですが、毎回、その幅広く奥深い教養に感嘆します。

本書は、私たちが何気なくとっている行動が、実は鎌倉時代につくられたもの、明恵上人の影響を受けたもの、ということを知る興味深い書です。


[ 2014/04/25 07:00 ] 山本七平・本 | TB(0) | CM(0)

『考えるヒント生きるヒント』ジェームズ・アレン

考えるヒント 生きるヒント―人生成功への50の黄金律 (Goma books)考えるヒント 生きるヒント―人生成功への50の黄金律 (Goma books)
(1997/10)
ジェームズ アレン

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本書は、1902年出版の自己啓発本の古典とも言うべき書で、今も、世界中で根強い人気を保ち続けています。著者は、トルストイと仏陀を愛したプロテスタントです。今でも世界中で愛される理由は、そんなところにあるのかもしれません。

この本は、著者が出版した全19冊の中の、無名時代にあたる2冊目の書です。その一部をまとめてみました。



・「人は密かに考え、その通りの者となる」という金言は、人格はもとより、人生を構成するいかなる要素にも当てはまるもの

・行いは思考の花であり、喜びや悲しみはその果実である。そうやって人は、自分が育む、甘い、あるいは苦い果実を収穫し続ける

・心は、それ自身が密かに抱いているものを引き寄せる。環境は、心がそれ自身と同種のものを受け取るための媒体である

・人が手にするものは、その入手を願い祈るものではなく、公正な報酬として受け取るものである

・富が正しく入手され、賢く用いられたときにのみ、喜びと富は一つになる。そして、貧しい者は、自分の人生を不公正な重荷ととらえたときに、深い苦悩の中へ落ち込んでいく

憂鬱な顔は偶然の産物ではない。それは、憂鬱な心によって造られる。醜い皺は、愚かな思考、理性を欠いた思考、高慢な思考によって刻まれる

・思考と目標が結びつかない限り、価値ある物事は達成されえない。人生の目標を持たない人々は、極めて容易に、不安や恐怖、自己憐憫などの犠牲者となりがちである

・年長者たちの顔には、さまざまな皺が刻まれる。皺は思いやりによっても、純粋な強い思考によっても、また理性を欠いた思考によっても造られる

・思考は、目標と勇敢に結びついたとき、創造のパワーとなる

・人は、自分の弱さを克服し、あらゆる利己的な思考を排除しているとき、抑圧者、被抑圧者のどちらにも属することがない。そのとき彼は自由である

・人は、いかなる価値ある物事を達成するためにも、奴隷的思考と動物的思考への耽溺から脱却しなくてはならない

・自分の思考の正しい管理を怠っている限り、人は、重要な責任を遂行しうる地位に決してつくことはできない

・大きな目標を達成できないでいる人々は、とりあえず、当面の義務の完璧な遂行に思考を集中すべきである。それが、真の集中力と自己管理能力の開発を可能にする

・宇宙は、表面的にはどのように見えようとも、貪欲な者不正直な者、不道徳な者を決して援助はしない

・あらゆる知的達成が、粘り強い努力と、非利己的で純粋な思考の、自然な結果に他ならない

成功を維持するためには、警戒が不可欠である。しかし人は、成功の達成とともに手を抜いてしまい、あっという間に落伍者の群の中に転落しがちである

・ビジョンを持つことだ。理想を抱くことだ。あなたの心をこよなく鼓舞するもの、あなたの心に美しく響くもの、あなたが純粋な心で愛することのできるものを、しっかりと胸に抱くことだ

・あらゆる成功が、仕上げられた思考であり、達成された目標であり、現実化されたビジョンである

穏やかな人物は、自分を正しく管理する術を学んでおり、自分自身を他の人々に容易に順応させられる。人は穏やかになればなるほど、より大きな成功、より大きな影響力、より大きな権威を手にできる



著者が一貫して述べていることは、「自分こそが自分自身の造り手という真実に気づくべき」ということです。

そう思い、行動すれば、自分を再生することが可能だということ。今からでも、遅くないのではないでしょうか。


『大停滞の時代を超えて』山崎正和

大停滞の時代を超えて (中公叢書)大停滞の時代を超えて (中公叢書)
(2013/07/09)
山崎 正和

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著者の本を紹介するのは、「社交する人間」に次ぎ、2冊目です。本書は、読売新聞や中央公論などに寄稿されたものを再編集した書です。

劇作家、評論家、思想家としての顔を持つ著者ですが、本書は、珍しく時事問題を論ずる内容です。斬新な切り口の論評に、気づかされることが多々ありました。それらの一部をまとめてみました。



・国際会議は二国間交渉とは違って、必ず第三国を巻き込み、それを納得させる言葉を必要とする。しかも、その言葉は当事者の利益を表現するだけではなく、各国の見栄や面子を操る美辞麗句を含まねばならない。国際会議は舞台上に繰り広げられる演劇である

・言葉は対話ではなく鼎話構造を持つ。実際、二者間の伝達は、言葉ではなく、肉体の実力行使によっても可能であり、怒りや憎しみは殴打や無視によって、愛情は微笑や抱擁によって、言葉によるよりも切実に伝えられる

・個人主義には、他者に自己を主張する「堅い個人主義」と、自己を表現する「柔らかい個人主義」の二種類が並立する。日本人は「柔らかい個人主義」の先駆的位置にいるが、反面この柔らかい個人主義の社会は、急激な危機に弱く、一転して集団主義の相貌を示す

・大きな人口の規模は、個人に自立と政治的自由を保証する。都市では地縁や血縁による締めつけも弱くなり、選挙の際の利益誘導も難しくなる。都市の無名性は、犯罪の土壌となる危険性もあるが、生活スタイルの自由をもたらす点では、それを上回る価値がある

・金銭は将来いつか他人から身を守り、他人を支配するための準備であって、客観的な数値で量られる武力に似ている。拝金主義者にとって、他人は潜在的な敵にほかならず、社会はゼロサムゲームの戦場に見える

・人生に金銭は不可欠、金銭に欲望を持つのも自然、投機も資本主義経済に不可欠というが、忘れてならないのは、文明社会では必要であることと礼賛することは別。必要なことも恥じらいながらするのが文明であって、この恥のありなしが社会の品格を決める

・公共的使命のもとに、経営者の知恵と感性によって、精緻に編まれた組織は、一種の文化財。内に幸福な従業員を抱え、外に満足した消費者をつなぎとめる企業は、少なくとも一つの生命体

資本と労働との関係は長い歴史を持つ。人類は労働権の適切な保護に知恵を絞ってきた。これに比べ、資本と経営の分離の歴史は浅い

・社会の倫理性を自然に高めるためには、人が職業人の誇りを抱き、結果として「恥を知ること」が第一。そのさい「高貴なる者の責任」を本人が自覚するのは当然だが、この自覚はその高貴さを社会が敬うことで支えられる

・今日の地域を貧しくしているのは、たんに金銭的な富の欠乏だけではなく、文化力が衰退したという思いと、それに伴う誇りの喪失が原因

・民主主義とは言葉による政治。そして政治の言葉は、抽象的な理念と具体的な政策の的確な組み合わせでなければならない

・互いに表現し、認め合う場は、固い組織ではなく、「社交」と呼ぶべき緩やかな関係。社交は、強い指導者と指揮系統を備え、力を評価基準にする組織とは逆。中心人物はいるが、権力も指揮系統もなく、自由な個人が自発的に集まる。人間的な魅力が評価基準となる

個人の欲望と社会の規制は、どちらも主張と要求が命であって、個人が飽食と淫奔と自己顕示を求めれば、社会は節約と禁欲と自己規制を命令する

・「」は、社会秩序の逸脱の世界に生まれ、虚栄心の逆説で逆転させて生じた美徳

・科学の基礎は観察と実験だとされるが、このどちらも想像力に左右される。統計と帰納とコンピュータの能力だけでは、科学は萎縮してしまう

・道徳と諺をつなぐものは、繰り返し。より抽象的に言えば、身体の習慣。諺や箴言が口になじむ言葉だということは、言葉が朗唱や暗唱に適していて、身体の癖になりやすいことを意味する。「口癖」になり、折に触れて「口をついて出る」のが諺の特色

・自らの営みを強く誇りとしながら、他人に追従や模倣を要求しないのが嗜みの本質。同じ意味で、伝統承継者が尊敬されるのも、彼らが自律の心に徹し、流行の追随をむしろ秘かに軽蔑しているところにある



著者は、大停滞の時代を超えていくためには、人類の文明史を一貫した流れとして捉える理解が必要との見解です。

この閉塞感に覆われた社会を生きていくためには、今一度、事の本質を解き明かすことが大事なのではないでしょうか。


[ 2014/04/21 07:00 ] 人生の本 | TB(0) | CM(0)

『ショーペンハウアー・自分を救う幸福論』

ショーペンハウアー 自分を救う幸福論ショーペンハウアー 自分を救う幸福論
(2012/12/08)
ショーペンハウアー

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ドイツの哲学者、ショーペンハウアーの本をとりあげるのは、これで5冊目です。ゲーテと交わり、ニーチェやトルストイにも影響を与えた人ですが、金言集、小品集なども出版している気さくな哲学者です。

本書には、200の哲学が載っています。その中から、いくつかをまとめてみました。



・苦痛のない状態にあって、退屈がなければ、この世の幸福を達成したものと見てよい。それ以外のものはすべて幻想だから

どんなことに悲しんでいるかがわかれば、その人の幸福度がわかる。小さなことを悲しんでいれば、それだけ幸せということ

・われわれは、暖かさを求めて、無意識にストーブや日向に近づくように、心地よい優越感を与えてくれそうな相手に接近する

俗物には、富、社会的地位、権勢、威力などで他人から尊敬されたいという虚栄心や、これらのものを持った人と付き合うという虚栄心もある。彼らは、理想によって慰められず、いつも現実的なものを必要としている

・医者は人間の弱い面だけを見て、法律家は人間の悪い面だけを見る。さらには宗教家は人間の馬鹿な面だけを見る

・誰も人様をほめるのは、自分にもそれができる見込みがあると思う範囲に限られる

・自分の欠点に気づくには、その同じ欠点を他人が持っているのに気がつき、それを心の中で非難・批判するのが適切なやり方。自分を矯正するには鏡が必要

・他人は、なるべく賞賛したくないから、自分で自分を賞賛する心境に達した人が幸せ

・人間の金銭上の満足は、要求の強さと所有する財産との比率によって決まる。要求が小さければ、財産がなくとも満足は得られる

・精神的能力の高い人は、自然に非社交的になる

・平凡な人たちは、すぐに仲間になるが、優れた人はそうはいかない。しかし、優れた人たちも、似たところがある相手を見つけると、嬉しくなるもの

・人の意見には反論しないほうがよい。変なことを信じている人の考えを変えようとしたら、何年経ってもケリがつかない。人の感情を害するのは簡単だが、人を矯正するのは、相当難しい

・人に対しては、寛大すぎても優しすぎてもいけない。交際上の優位を持つには、他人を何ら必要としないこと、そしてそういう素振りを見せること

・知的でない楽しみはすべて低級である。その目的が何であっても、行きつくところはすべて、願望、期待、懸念、達成などへの欲望である

・青年期には観察力が、老年期には思考力が強く出る。したがって、青年期は詩の時期であり、老年期は哲学の時期である

・一生の終わりごろは、人が仮面舞踏会の終わりに仮面を取るのと似たようなもの。自分が一生の間、接触してきた人たちが、本当はどのような人間であったか、今となっては明らかとなる

・人々がふつう運命と言っているものは、たいていは自らまいた種のことである

・たいていの人は、人生を振り返ってみたとき、自分が一時しのぎの連続で生涯を暮らしてきたことを発見する

・われわれが生きていて喜びを感じるのは、何かに向けて努力・追求している時か、純粋に知的活動をしている時だけ

・他人は、苦痛や窮乏や危険や困難に陥っているときだけ、われわれの関心を呼び起こす



ショーペンハウアーは、裕福な商人の息子として生まれ、父親の死後、遺産を継ぎ、一生涯独身を貫いた人です。社交的だった親に反して、孤独を愛する人でした。

その鋭い人間観察力は、そういったところから生まれたのかもしれません。ちょっと人生を振り返ってみたくなったときに、ショーペンハウアーの書を読んでみたくなります。


『迷わない生き方』富田隆

迷わない生き方 (新人物往来社文庫)迷わない生き方 (新人物往来社文庫)
(2011/12/07)
富田 隆

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心理学者として有名な著者が、「自分を不幸と思っている女性」にアドバイスしたのが本書です。

「もっと自由に」「もっと楽しく」「もっと自分らしく」そして、「調和も大切」が本書のテーマです。心理学者の意見として、参考になる点が多々ありました。その一部をまとめてみました。



・最初は両親の意見、年齢が上がるにつれ、先生の意見、先輩の意見、親しい友達の意見も加わり、それらの影響を受けて、ある種の、善悪を中心にした判断の枠組みが心の中にできあがる。それを「スーパーエゴ」と言う。言わば「内なる道徳」みたいなもの

・スーパーエゴと呼ばれる判断の枠組みは、すべて過去の経験に基づいている。だから、過去においては、その判断は社会や世間に適応的だったかもしれないが、今も当てはまるかわからない。今現在もそれがいけないことなのかどうかはわからない

・小さい頃から叩き込まれたスーパーエゴ(内なる頑固ばあさん)の、「これは正しいことだ」「人間はこう生きるべきだ」の声を聞き、それが自分の価値観だと思ってしまったら少し危険。それは、かつて植えつけられたものにコントロールされているということ

・周りからの暗示に邪魔されて、本当にやりたいことがわからない。そんな方は、昔を振り返ってみると、やりたいことが見つかる場合がある

・ハングリー精神を信奉する人たちは、「人間は怠け者で、放っておけばダラダラする。欠乏している状態、苦しい状態から這い上がるとき、がんばる」という人間観がある

不快を避けるために動くか、快を求めて行動するか。子供の頃から、どちらが多かったかによって、その人の人間観みたいなものが決まる

・正の強化を受けた行動は放っておいても持続する。しかし、負の強化に支えられた行動は、何らかの脅威や不安あるいは脅かす役割の人がいなくなった瞬間に自発されなくなる

・ビジネスで成功する人には「成功癖」がついている。普通の人が「これは無理だ」と止めてしまうところでも諦めない。それは根性とかではなくて、正の強化により支えられてきたもの

・快楽に支えられた行動のほうが、脅威や不安に支えられた行動より「楽しい」

・「快楽を追い求めてなんかいると、快楽に溺れてしまう」と堕落の心配をする人がいるが、全く心配する必要はない。なぜなら、求める快楽は、自然に、段階的に成熟していくから

・自己実現の欲求も満たされると、人のために何かしたくなる。褒められたい、認められたいからではなく、誰かが幸せそうにしていることが嬉しい。自分に関わる欲求を超えたところに、欲求が芽生えてくる

・本当に欲しいものが手に入らない。あるいは、どうしていいかわからない。そういう状況では、何かへの依存が起こる

・存在を認め、選択肢の幅を広げ、自由にしてくれる。それが正しい宗教。それ以外は、帰依してきた人を利用して何かしようとする場合が多い

・本当に鬱になると、人は性的ではなくなる。生きることと性的な欲望は繋がっている

・恋愛とは、異質なものと出会い、異質なものに恋いこがれる体験。別の個別者と出会うことによって、自分らしくなっていく。そういう意味でのエネルギー源が性だと言える

・何かに夢中になり、どんどんのめり込んで忘我の境地に至る。この仕組みは、個人の体験では性愛に似たものであり、性をモデルとして考えると理解しやすい

・生き方全般において正しいギャンブルをしていないと、利益を吸い上げる仕かけとしてのギャンブルにはまってしまう

・人を大切にする気持ち(愛)や人の役に立つ喜びといった素朴な心を失わない限り、あなたが発揮するユニークネスは魅力となり価値を生み出す

・個性化した者が、別の個性化した存在と良い関係を作ることによって、さらに良い、非常にクリエイティブなことが起こる

・調和とは嫌なものを認めること。だけど嫌は嫌でいい。好きにならなくてもいい



自分を縛りつけているものを見つけ、そこから自由になること。その自由を謳歌しながら、他人とうまく調和していくこと。これが豊かな生き方かもしれない。

本書には、そういう生き方を迷いなく実行するヒントが数多く記されているように思います。


[ 2014/04/16 07:00 ] 人生の本 | TB(0) | CM(0)

『自衛隊の仕事術』久保光俊、松尾喬

自衛隊の仕事術自衛隊の仕事術
(2011/10/05)
久保光俊、松尾 喬 他

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陸上自衛隊教育室室長であった著者の本を紹介するのは、「自衛隊ゲリラ式ビジネス戦闘術」に次ぎ2冊目です。

本書には、「日本最強の組織」と言われる自衛隊の人づくり、組織づくりの手法が明確に記されています。人の育成と統率において、参考になることだらけです。その一部をまとめてみました。



・「広くを視よ、遠くを視よ」は、敵の状況を偵察するときの方法。「大観小察」とも言う。「広くを視る」とは、全体の概況を掌握した上で、目標を定めること。「遠くを視る」とは、時間的な先の展開を予測して、そこから逆算して、今何をすべきかを考えること

・「正早安楽」を意識すれば、「作業(JOB)」が「仕事(WORK)」になる。自衛隊の訓練においては「正」を徹底する。「正」を繰り返すことにより、「早・安・楽」が出来上がる。「早・安・楽」が「正」に先行すると、訓練は成り立たない

・優先順位をつけるのはなかなか難しい。そのときは劣後順位を考える。劣後順位とは優先順位と逆で、後回しにしても、影響の少ないもののこと

・迅速な機動力は習慣によって身につく。新人の訓練では「3歩以上は小走り」を徹底している

・「遅れる1人、待つ10人、心にはめよ、腕時計」は昔あった自衛隊の標語。時間厳守は自衛隊の基本中の基本。新人に最低限要求すべきは「時間を守れ」ということ

・敵にとって、指揮所を攻撃され、指揮官を失えば、不安になり、士気が低下し、戦意を喪失する。「物」と「心」の拠りどころを制することができれば、人的・物的損害が少ないうちに勝てる

・作戦が失敗する原因には、目標や要求内容の不明確さ、技術の未熟さ、投入資源の不適切さ、部隊内のコミュニケーションやマネジメントのまずさなどが挙げられるが、一番の要因は、情報の不足や不適切さ

21世紀の5大変化とは、「1.情報の急増と加速化」「2.距離の消失、グローバル化」「3.人口構造の変化」「4.インターネットによる買い手の主導権化」「5.あらゆる境界の消失」

・熱意をもとに共感を得るには、「1.理念を言う、意義を言う、目的を言う、目標を言う、手順と作戦を言う」「2.参画してくれたらありがたいと訴える」「3.自分はやる!ともにやろう!と求める」こと

執念のある者は、可能性から発想するが、執念のない者は、困難から発想する。「執念」とは「主体性」のこと。主体性を持たずに、誰かに依存・従属している者は、困難からしか発想しない。すぐにできない理由をあげつらう

・戦闘は「自由」の争奪戦であり、不自由な状態から早く「自由」を獲得したほうが敵に勝てる。勝つということは自由の獲得。最大の達成感があり、やりがいとなる

・オチコボレたちに3配(目配り、気配り、手配り)することはエコヒイキではない。最弱者への温かいケアは、他の者も、ときによって最弱者に転落するかもしれないので、彼らからの共感を得やすい

・企業内の個々人が顧客に対して、会社の評判を下げないように気をつけるべきことは、「1.無関心」「2.無視」「3.子供扱い」「4.ロボット(言われたことしかしない)」「5.たらい回し」「6.冷淡」「7.ルールブック(会社の決まりでできないという答え)」

・指揮官は、常に「自分がどう見られているか」という、「1.積極性の点検」「2.不快感を与えていないかの点検」「3.参加意識の演出の点検」「4.連帯感の点検」「5.偉そうになっていないかの点検」が必要

・人を育てるときのポイントは、いかに部下に考えさせるか。考えさせるためには裁量権を与えなければならない。その裁量権を前に悩み、考え、実行する力が部下の力量

・「1対30」と「1対1×30」の違いは、「一斉教育だけ」が「1対30」、「個人教育を意識した一斉教育」が「1対1×30」。「1対1×30」は「上級の教え方」

・「和をもって滅びる」とは、和を大切にしすぎたせいで、互いに甘やかし、切磋琢磨しなくなること。異動の少ない部署や刺激の少ない場所で起こりやすい。このとき「叱る人」がいれば幸せ。なぜなら、人は叱られることで自分を知ることができるから



著者の言う「自衛隊の仕事術」とは「正早安楽」が基本となっています。「正」=ミスの最小化、「早」=仕事のスピードアップ化、「安」=コストダウン化と安全化、「楽」=もっと楽にできないか、楽しくできないかの工夫、です。

このような極めてシンプルな考え方で運営されています。これらを愚直に遂行することでしか、キビキビトした行動は生まれないのかもしれません。


[ 2014/04/14 07:00 ] 戦いの本 | TB(0) | CM(0)

『季節、気候、気象を味方にする生き方』石川勝敏

季節、気候、気象を味方にする生き方季節、気候、気象を味方にする生き方
(2013/06/17)
石川 勝敏

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本書には、気候、気象が、人体に及ぼす影響、社会に及ぼす影響が記されています。

気温、湿度、風速などが微妙に変化すれば、何が変わってくるのかを興味深く読むことができます。その一部をまとめてみました。


・「気温が26℃に上がった日は、アイスクリームの売上が前日の3割伸びる」「気温が上がったらしょっぱい食べ物が売れる」「秋口になったら甘みのある弁当がいい」といったように、気象と個人の消費行動との関係性についての調査を重ねてきた

脳出血は以下のような気象条件の日が危険「平均気温0℃前後、日較差8~10℃」「寒い日に増加、雨の日に減少」

脳梗塞は以下のような気象条件の日が危険「朝は寒く、午後に急に気温が上昇する日、しかも高温多湿時」「暖かい日に増加」

心筋梗塞の患者は、夏に少なく、冬と春に多く発症する。冬は暖房のため、室温と外気温の差が心臓に大きな負担をかける。春は日々の気温の差が激しいから

・血管は寒くなれば収縮し、熱を閉じ込め、暖かくなれば、拡張して熱を放散するよう、自律神経がコントロールしているが、その働きが毎日コロコロ変わると、血管に大きなストレスがかかり、それが限度を超えると、心筋梗塞を引き起こす

腰痛、リウマチ、座骨神経痛、関節痛の人は、前線や低気圧の接近とともに、痛みを覚える。その主要因が、気圧の低下。気圧が低下すると、体内の炎症物質ヒスタミンが発生し、これが痛みの原因

痴漢行為の警視庁データでは、気温28度以上、湿度80%以上、風速2m以下、時刻は夕方から夜にかけて多く発生している。このような気象条件が、男性ホルモンに影響を及ぼし、子孫を残したい機能が活発に働きだしているのではないかと推察できる

・「日平均気温」による季節は、「早春」5℃になる日「春」10℃になる日「晩春」15℃になる日「初夏」20℃になる日「盛夏」25℃になる日「初秋」25℃以下になる日「秋」20℃以下になる日「晩秋」15℃以下になる日「初冬」10℃以下になる日「真冬」5℃以下になる日

食物の嗜好が変わる8シーズン時期は、「1月初~2月中」「2月下~3月末」「4月上~梅雨入り」「梅雨入り~梅雨明け」「梅雨明け~8月中」「8月下~9月末」「10月初~11月末」「12月初~12月末」

・28.5℃の気温から1時間かけて21℃まで下げた場合、男女とも35℃あった皮膚温は男性の34℃に比べ、女性は28℃まで急激に低下する

女性が快適に感じる室温は、男性より2~3℃高い。夏場は女性のほうが薄着になるので、差はさらに広がる

・夏に増えた家ダニが気温の低下とともに死んで、その死骸が家の中を舞うようになることも、秋に喘息が増える原因

・室温28度の部屋から気温10℃の屋外に出た場合の血圧上昇は、若い人は10mmHgだが、高齢者は30mmHgに達する

・「晴れのち雨」の日は、客数が減るが、「雨のち晴れ」の日は、客数はほとんど変わらない。天候が雨から晴れに変わると、人は気分が晴々して外出したくなる。開放的になり、行動力も積極性を帯びて、購買意欲も高くなる

・「いい季節になったなあ」と感じる日の気象条件を数字で表せば、「平均気温18℃(最高気温21~22℃、最低気温14~15℃)」「湿度40~70%」「風速毎秒0.5m(無風より微風がいい)」

・気温が高くなる昇温期には、人は「暑い」と感じて、すぐに血糖値が上がるような甘みが強い食べ物を敬遠し、柑橘系のクエン酸を含むものを好んで口にする

・寒くなると食べたくなる「おでん」がコンビニで売りに出されるのは8月下旬。降温期に差しかかりはじめる時期

・夏の疲労を回復し、寒い冬に備える秋には、ごぼう、大根、人参、レンコン、じゃがいも、さといもなどの根菜類がいっせいに旬を迎える。根菜類には身体を暖める効果がある



医療関係者や流通業者は、気候、気象と人々の行動との密接な関係を解き明かしつつあります。

さらに、この研究は、さまざまなサービス業者や製造業者に、応用できる部分がいっぱいあります。この分野の研究は、今後とも注目しておく必要があるのかもしれません。


[ 2014/04/11 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『20代で群れから抜け出すために顰蹙を買っても口にしておきたい100の言葉』千田琢哉

20代で群れから抜け出すために顰蹙を買っても口にしておきたい100の言葉20代で群れから抜け出すために顰蹙を買っても口にしておきたい100の言葉
(2012/01/09)
千田琢哉

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著者の本は、「あなたが落ちぶれたとき手を差しのべてくれる人は、友人ではない。」に次ぎ、2冊目です。共に、長ったらしいタイトルですが、内容はいたって簡潔、明瞭です。

ちょっと斜に構えた視点が、新鮮です。ときどきグサッと刺さる言葉もありますが、それはご愛嬌ということで・・・。とにかく、本書をまとめてみました。



遅刻した際の相手の態度によって、これから付き合うか否かを決めてしまっていい

・やる気のない人から仕事を奪うと、その分あなたが成長できる。チャンスを与えられて遠慮する人がいたら、「私にやらせてください」と言って横取りすること

時間泥棒ほど罪深いものはない。時間泥棒が接近してきたら「30秒でお願いします」と即答すること。時間泥棒が出世することはない。いずれ干さされるのだから怖がることはない

・決断できない人を無理に決断させようとすると、お互い不幸になる。「勝手に決められても」と言われたら、「じゃあ、やめましょう」と言うこと

・人生から気乗りのしない食事会を省いていくと、プロフェッショナルに近づける

・無関心なことを無関心だと伝えれば、好きな人と好きなことができる人生に一変する

・詐欺師が最もカモにするのは、二流のお利口さん。知ったかぶりでお世辞に弱いから簡単に騙せる。詐欺師が一瞬であきらめるのは、自由人。ワガママ放題本音で生きている人は騙せない

・ナンバー1とナンバー2が明確であることが、共同経営成立の条件。「一緒に会社を創ろう」と声をかけられたら、断ること

・「これは絶対買い」と近づいてくる人がいたら、「あなたが全財産を注ぎこんだら、その話を聞く」と言うこと

・顧客の囲い込みは、顧客のためではなく、自分のためにやっている。カード入会を執拗に迫られたら「囲い込まれるのは嫌い」と言うこと

・自分が将来こういう人だけにはなりたくない、という人の話は無理して聞く必要はない。「人生の先輩として言わせてもらうが」と言われたら、「結構です」と言い放つこと

生涯賃金を稼ぎ終えた人は、好きな人と好きなことを存分にできる。本気でお金の心配をしたくなかったら、生涯賃金を早めに稼ぐ努力をすること

・若くして成功すると、人生を何倍も味わうことができるからお得。「どうしてそんなに急ぐの?」と言われたら、「年老いて成功しても意味がないから」と教えてあげること

・「上がバカでやってられない」と、同じ愚痴を繰り返す同僚がいたら、「出世して抜かしたらどう?」と言ってやること。役職が上だということは、属する組織の本音がそうだから

・どこか違和感を覚えたことには、勇気をもって近づかないこと

・「らしいよ」が口癖の人は、何も成し遂げられない

・「あの有名人も使っている」と勧誘されたら、「じゃあ、やめときます」と言うこと。自分を大きく見せようとする人は、実力も実績もない証拠

・「あの人成功して人が変わっちゃった」と言う人がいても、成功した人が変わったのではなくて、嫉妬している人が変わったことに気づくこと

・「できる人」が社内でよく言われることはない。しかし、「できる人」には必ず長所があったから、「できる人」になった事実を受容すること

・結局、人から押しつけられて借りたものは読まないし観ない

・「ちょっと太った?」。久しぶりの相手に対して、容姿の質問をしてくるのは、知性がない証拠。多くの人は、言わなければならないことを言わず、言ってはいけないことを言っている



本書は、大多数の人から顰蹙を買うような内容ですが、そういう人は、お金を出して、本書を買わないと思うので、ズバッと物申すことができたのかもしれません。

いずれにせよ、著者の「忌憚ない意見」は参考になります。早いうちに頭一つ抜き出たい人には、おすすめの書です。


[ 2014/04/09 07:00 ] 出世の本 | TB(0) | CM(0)

『最強「出世」マニュアル』浅野泰生

最強「出世」マニュアル (マイナビ新書)最強「出世」マニュアル (マイナビ新書)
(2013/09/24)
浅野 泰生

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「出世とはテクニック」と言い切る著者が、その方法をマニュアルとして、まとめたものが本書です。

「上司が望むことを徹底的にすること」、それが出世するためのノウハウであると、実体験をもとに、記されています。その上司が望むこととは何か?それらをまとめてみました。



・「上司の困りごとは何なのか?」「上司は今何を求めているのか?」を考えて行動することが重要

・同じような力量の対象者が二人いたとき、手を挙げている人、上のポジションで仕事をしたいと言っている人に白羽の矢が立つ

・会社や上司が何を求めているかをまとめたものが「人事評価制度」。人事評価制度を理解し、「求める人材像」になるべく自らを変えていくことが、出世の重要なポイントの一つ

・「あの人、良い人だね」「悪い奴じゃないよね」で終わる人は、「人間力」が足りない人。「人間力」とは、「ビジネス上の利害関係者に何らかの影響を与え、それにより他者に変化を生じさせる能力

・「失敗」は明らかに「ミス」や「怠慢」とは違う。会社という組織は、小さな成果を上げる人よりも、多くの「失敗」から多くの学びを体得し、より大きな成果を追い求める人を求めている

・出世する人は、ほんの少し人より優れている「何か」をたくさん持っている。出世できない人は、特別な「何か」に注力しすぎて誰にでもできる当たり前のことを疎かにする

・会社に対して与えるものが何もない人は、会社から何も得ることはできない

・出世する人は、最初から「質」を追求せず、とことん仕事の「量」にこだわる

・出世する人は、夜の酒場も「勉強の場」と捉え、何事も前向きに吸収していく。出世できない人は、仕事とプライベートは一線を引きたいと考え、昼間とは違う人間関係を学ぶ場を逃す

・どんな仕事にも「お客様」は存在する。それは社外だけでなく、社内にも存在する。上司から仕事の依頼があった時点で、その上司はあなたの「お客様」。その「お客様」を満足させることができれば、あなたの評価は必ず上がる

・会社にいて仕事をしている間、ずっと猫をかぶり続けられれば、あなたの評価は必ず上がる
・「一晩考えさせてください」という人間には次のチャンスはない

・会社で役職が上位の人、特に企業経営者は「せっかち」な人が多い。出世する人はスピード感が違う。このスピード感とは、処理スピードというよりも、取りかかるまでのスピードや判断スピードを指す

・部下を成長させられない上司は、自分が停滞しているのに、部下だけを成長させようとするから失敗する

・社長は自分のコピーを求めている。社長の意見に無条件に賛同する「イエスマン」ではない。社長は、賛同してくれる社員が一人としていなくても毅然と自己の信念を貫こうとする「少数派与党」となれる「№2」を探している

・昔も今も、ビジネスマンには、「回答力」が求められる。質問に対し、嫌みなく理路整然と答えることができると、間違いなく相手に与える印象は向上する

・組織の中で、役職上の上下関係を「役割」と捉えれば、年齢の上下、社歴の長短、性別に関係なく誰とでも接することができる

・昼間は役職を全うし、夜は人生の先輩に対して、適切な配慮をすることが、出世する人間の危機管理につながる

・お金を出す時も、出してもらう時も、相手の気持ちを大事にする。自分が出す時以上に、出してもらう時には、気をつけないといけない。人間が小さく見えないように、気持ちよく自分のお金を使うことが、出世する人間の危機管理につながる



出世とは、大学受験のとき志望校の傾向と対策を練ったように、分析すれば、意外と簡単なものというのが、著者の意見です。

平社員から取締役に猛スピードで出世した著者の意見は、参考になる点が多いのではないでしょうか。


[ 2014/04/07 07:00 ] 出世の本 | TB(0) | CM(0)

『居場所としての住まい』小林秀樹

居場所としての住まい: ナワバリ学が解き明かす家族と住まいの深層居場所としての住まい: ナワバリ学が解き明かす家族と住まいの深層
(2013/07/31)
小林 秀樹

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本書の面白いところは、人間の集団には、「順位制」と「ナワバリ制」があり、これが部屋や間取りに大きく影響を与えている、という意見です。

著者は、住環境計画が専門の大学教授。時代や地域によって、部屋や間取りが大きく違ってくるとの見解です。家族と住まいに関する記述で、興味深かったところをまとめてみました。



・「ナワバリ学」とは、人々が空間をどのように領有しているかを解き明かす学問。住まいにおいては、家族の一人ひとりが、どのように自分の居場所を確保しているかを解き明かす。これを通して、家族の深層心理がみえてくる

・ナワバリとは、そこを自分の場所だと思いコントロール(支配)する空間。このような空間は、食事テーブルの席や個室という身近な範囲でも見られるし、お花見の席取りから国の領土争いといった広い範囲でも見られる

個室がない昔の住居は「順位制」、現代の個室がある住居は「ナワバリ制」に対応している。昔の住居は、家長を頂点として、家族一人ひとりの順位が明確であり、風呂に入る順番、食事をとる順番など決まっていた

・「順位制」の集団では、いちいち言葉を交わさなくても相手の様子を感じ取り、上下関係に基づくルールに従って、自然に行動することを大切にする。現代風の言葉で言えば、「空気を読む」こと

・個室のある「ナワバリ制」に求められる行動様式とは、自分の意思をしっかりと表明するとともに、相手と意見交換して合意することを重視する。というのは、「ナワバリ制」は、互いの接触を避ける仕組みだから

・犬のオシッコは、臭いによる信号の代表。臭いのある場所に侵入すれば攻撃するぞというメッセージ。人々も領域展示物(門、塀、表札、ポスターなど)をうまく利用して、ナワバリを防衛または開放する

・人間の場合、儀式ではなく「作法」によって、ナワバリ防衛の攻撃衝動を抑え、温かく受け入れる。ドアをノックするのも、他人のナワバリに侵入する際の作法。上座と下座は、互いの順位を確認し、無用な争いを避ける作法

・ナワバリには、個人のナワバリだけでなく、集団のナワバリがある、家は、家族のナワバリ。村は、村落共同体のナワバリ。会社や学校、国や都市も、集団のナワバリの例

・パーソナライゼーションとは、人間による空間の「臭いづけ」。部屋に、お気に入りのカーテンや家具をしつらえ、住宅まわりに、植木鉢を置いたりする行為

・母主導型が、近年増加している。昔の家父長中心の家族の住まいが、そのまま母親中心に代わったイメージが強い。現代の都市住宅では、父親のナワバリが希薄になってきている

日本の家族は、封建家族(父主導型)、温情家族(母主導型)、友愛家族(母子が友達のように振る舞う家族)の三つが混ざり合っている

・住宅市場では、子供がいない夫婦でも、資金に余裕があれば3LDKを購入しようとする。そのほうが、中古になっても売りやすいから。このように、住まいは3LDKの定型に収斂していく。その結果、個人の生活の実態とは必ずしも一致していない

・マンションの標準的な間取りにある中廊下は、昭和初期に登場した。各部屋の独立性を高め、家族のプライバシーを守る先進的な住まいであり、知識人や建築家は、封建家族からの転換という社会規範をそこに重ね、好ましい存在として推奨した

・ここ十年ほどで、「居間中心型」と呼ぶ間取りが急速に増えている。これは中廊下形式からの転換をはかるもの。親が、家族の触れ合いを求めて、意図的にこの間取りを選択している

・居間中心型は、個室群でも個室のない住まいでもなく、中廊下を見直した「家族が自然に出会う間取り」。しかも、個室を否定しているわけではない。それを肯定した上で、家族の触れ合いを求めた間取り

これからの住まいの条件は、「夫婦寝室は最低8畳」「子供部屋は間仕切りタイプ」「部屋の配置は居間中心型(玄関から居間に入って個室に)」「食事室(LD)とつながる余裕室の確保」」「裏のバルコニー(ゴミの一時置き場)」



家の間取りは、家族の形態や性質によっても異なってきます。そこを考えた理想的な空間であれば、狭くても問題ないのかもしれません。

住宅を買う前に、立地、環境、広さ、設備だけでなく、間取りについても学んでおくことが、将来的な満足感を高めてくれるように思いました。



[ 2014/04/04 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『会社の老化は止められない』細谷功

会社の老化は止められない――未来を開くための組織不可逆論会社の老化は止められない――未来を開くための組織不可逆論
(2013/04/05)
細谷 功

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著者は、「地頭力を鍛える」の書で、世の中に「地頭」の概念を提唱した工学部系のビジネスコンサルタントです。

その著者が、会社について論じたのが本書です。組織老化の判断方法に関する切り口は非常に参考になります。その一部をまとめてみました。



・会社も人間と同様、生まれた瞬間から老化の一途をたどる。具体的には、「ルールや規則の増加」「部門と階層の増殖」「外注化による空洞化」「過剰品質化」「手段の目的化」「顧客意識の希薄化と社内志向化」「社内政治家の増殖」「人材の均質化・凡庸化」・・・

・老化という不可逆プロセスを不可避の運命として受け入れ、そのメカニズムを理解して「必要な抵抗」はしても「無駄な抵抗」はしないこと

・不可逆プロセスの現象例は、「規則少→規則多」「単純→複雑」「尖った人材→角の丸い人材」「プロジェクト型→ルーチン型」「加点主義→減点主義」「外向き志向→内向き志向」「内製→外注」「中身重視→形式重視」

・人間の老人には、不老不死を信じて永久に生きながらえようとしている人はいないのに、会社に関しては不老不死をほとんどの人が暗黙のうちに信じている

・人間の心理の非対称性「変化に抵抗し、それまでの習慣に固執する」「一度得たものは手放さない」「合理的損得ではなく、リスクの大きさに反応する」「低きに流れる」「手段が目的化する」「縄張り意識を持つ」「近視眼的になる」「自分中心に考える」は老化に貢献する

・官僚的仕事のやり方は、よく言えば「組織立って仕事をしている」となるが、悪く言えば、「縄張り主義(横方向)と権威主義(縦方向)」ということ

既得権は、もともと持っていなければ何とかなるのに、「一度持ったものを手放すのは非常に難しい」という人間の心理の普遍的不可逆性に基づいている

・「ほうれんそう」はあくまで手段。本来「そう(相談)」において創造的な活動がなされるべきだが、多くは「ほう」と「れん」で終わってしまう

・会社は徐々に「性善説」から「性悪説」へと変わっていく。つまり「従業員を信用します」というスタンスから「信用しません」というスタンスへと変わっていくということ

・会社が大きくなって従業員が増えれば増えるほど、その質的分布が「少数の優秀な尖った社員」から、「大多数の普通の社員と少数の優秀でない社員」という「標準的分布」へと近づいていく

・言いだしっぺが失敗し、「それみたことか」と言われ、言いだしっぺがますますいなくなるという負のサイクルへと入っていく。万が一成功しても、「結果の平等」を旨とする老化した組織では、妬みを買いやすく、足を引っ張られるのがオチ

・ブランド力を高めれば、社員の依存心は増し、集まってくるのは「ブランド力に惹かれた人材

・「大学生の人気就職先ランキングの上位になったら、その会社は落ち目」と言われるが、その原因の一つが、ブランドのジレンマ

・「凡庸な人間は自分の水準以上のものには理解をもたないが、才能ある人物はひと目で天才を見抜く」(コナン・ドイル)

・「イノベーション型人材VSオペレーション型人材」は、「事例は真似しないVS事例を真似する」「利益は再投資VS利益は分配」「確率論的VS決定論的」「リスクはあって当然VSリスクは最小化すべし」「未来志向VS過去志向」「機会の平等VS結果の平等」など

サービスビジネス指標は、1.「純粋な製品」→2.「製品優先(サービスはコストセンター)」→3.「製品優先(サービスはプロフィットセンターだが赤字)」→4.「サービス優先(サービスだけで黒字)」→5.「純粋なサービス」

会社の子離れ、子会社の親離れが世代交代を実現する

・子供が独り立ちできるまでは、経済的にも教育的でも親が面倒を見るが、目標は「一人で生きていけるようにする」こと。これが、会社では「いつまでも親が抱え込んで子供の分まで吸い上げる」という構図になっていることがほとんど



会社の老化は止めようがないのかもしれません。しかし、予防と管理で、長生きさせることは可能なように思います。

その処方箋が本書に記されています。著者は、会社の「名医」のような方ではないでしょうか。


[ 2014/04/02 07:00 ] 仕事の本 | TB(0) | CM(0)