著者は、発達障害が専門の精神科医ですが、小説家でもあります。著書を紹介するのは、「
社会脳・人生のカギをにぎるもの」「
マインドコントロール」に次ぎ、3冊目です。
本書は、一人一人の特性に合った教育について、世界中の教育システムを調べ、考察した書です。第4章の「海外の教育から学ぶ」は、参考になる点が多々ありました。その中の、
オランダ、
フィンランド、
スイスを中心に、一部要約して、紹介させていただきます。
・オランダでは自立がとても早い。自由主義の伝統をもつ、
成熟した個人主義社会であるオランダでは、子どもが自立することを念頭に置いた子育てや教育が早い段階から始まる
・オランダでは、小学校に上がるまでは、甘やかして大切に育てられる。しかし、小学校から、自主性や責任ということを教え込まれる。自分のことは
自分でやる、自分のことは
自分で決める、ルールや約束を守る、自分の責任を果たす、といったことが重視される
・オランダで重視されるのは、一人一人の子どもに合った教育。時間割も、小学校から自分で決める。学びたいことを
自ら選ぶという形で、本人の進歩に合わせ、学習に取り組む
・オランダでは、教師が前に立って説明し、子どもたちが聞くという「古典的な」教育の仕方よりも、実際に手を動かしたり、体で
体験して学ぶ方法が大幅に取り入れられている
・オランダには受験はない。勉強は自分がやりたいからするもの。大学進学希望者は、6年制の
大学進学コースに進み、高度な専門技術を学びたい人は、5年制の
高等職業専門学校準備コース、早く働きたい人は、4年制の
中等職業専門学校準備コースに進む
・オランダでは、本人の特性に合った、
本人の可能性を最大限に伸ばせる学校や教育が、最高であると考える。こうした点は、フィンランドやデンマークなど教育先進国でも同じ
・オランダの教育の特色は、中等教育になると「フェルゾルヒング」(
世話をするの意)という独立した科目があり、自己管理から対人関係、人生設計までを、学び、考えていく
・先進国の中で、生活満足度が最も高い国がオランダ。OECDの調査では、10段階で7以上の満足度が9割。日本の生活満足度は、先進国で最も低く、7以上の満足度は5割。生活満足度は
自殺率と相関する。オランダの自殺率は日本の3分の1で、先進国中最も低い
・フィンランドがオランダと共通する点は、「
子育てや
家庭を非常に大切にする」こと。両国とも残業がなく、帰宅が早く(午後3時~6時)、子どもと長く過ごしている。もう一つは「非常に
読書好きである」こと。子どもの頃から、自然に読書の習慣が身についている
・フィンランドでは、4~5人単位のグループ学習が効果を上げている。科目ごとに、
得意な子が不得意な子を教えるやり方。できる子も、できない子も、学習効果が上がっている
・フィンランドでは、約3割が大学に進むが、今人気が高いのは、35%が進む4年制の高等職業専門学校。こちらを卒業してから、大学に進む人も多い。
学力世界一の評価にも関わらず、日本よりも
職業系の高校、専門学校に進む人の割合が高い
・フィンランド社会は、
犯罪や非行が少ないことでも知られている。刑務所収監されている人の割合は、日本よりさらに低く、アメリカのおよそ15分の1
・スイス経済は通貨高にもかかわらず、経済成長を続け、財政も極めて健全。10%を超える失業率が当たり前の欧米の中で、リーマンショックやギリシャショック後でも失業率が3%前後と低水準。とくに
若年層の失業率が低く、国民の幸福度は先進国中でトップクラス
・スイスでは、
大学を目指す15%の生徒は、ギムナジウムに進み、
高等専門学校を目指す45%は中等学校に進み、手に職をつけることを希望する40%は、
実科学校に進む
・スイスの中等学校の特徴は、数学の不得手な子に対しても、
数学教育に大きな力を注ぐこと。その理由は、技術的な仕事をする上で、数学が鍵を握ると考えているから
・スイスの教育では、「人間形成」が重要な教育目標とされ、実践的な取り組みを通して、「責任ある社会的存在」として生活することに重きが置かれる
・先進国の中で高い学力維持に成功している国々に共通している点は、競争よりも「学習の社会的側面」や「
主体的な体験の側面」を重視していること
・台湾、韓国、中国の教育状況は、日本が学力世界一を誇った頃に似ている。高い教育熱と経済的豊かさを求める
激しい競争心を駆動力にして、高い学力が獲得されるという構図
本書の中に、「ヨーロッパの中で、
大学進学率が低い国で、若者の失業率が低いという皮肉な事実は、重要なことを示唆している」という著者の見解があります。
若者の失業率が低い先進国の特徴は、日本の
高専のような学校への進学率が高く、その高専が、産業界の需給を見極めた定員になっていること。しかも、その高専にいろいろな職業学科があることです。
一人一人の特性に合った学科を選び、そこで専門家になるための勉強をするシステムをつくることが、これからの教育にとって、一番大事なことではないでしょうか。日本の教育は、少し古くなってきているのかもしれません。