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「・・・とは」「・・・人とは」を思索
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『マインド・コントロール』岡田尊司

マインド・コントロールマインド・コントロール
(2012/12/06)
岡田 尊司

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著者は、精神科医であり、作家です。「社会脳・人生のカギをにぎるもの」に次ぎ、2冊目の紹介となります。

本書は、マインドコントロールを「個人の洗脳」と「集団の洗脳」(消費者・社員・有権者など)という二つの側面に分けて、考察しています。搾取されないためには何が必要かを知ることができます。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・個人レベルのマインドコントロールも、集団レベルのマインドコントロールも、使われ方一つで、人間を操り人形に変える非人道的搾取技術にもなれば、生活や人生のクオリティを高め、可能性の限界を広げる有用な手段にもなり得る。毒にも薬にもなる劇薬

・「トンネル」の仕掛けには、二つの要素がある。「外部の世界からの遮断」と「視野を小さな一点に集中」すること。トンネルの中を潜り抜けている間、外部の刺激を遮断されると同時に、出口という一点に向かって進んでいるうちに、いつのまにか視野狭窄に陥る

・小さな集団で暮らし、一つの考えだけを絶えず注ぎ込まれると、その考えは、その人自身の考えとなる。また、その小集団や仲間への愛着ゆえに、それを覆したり、期待と異なる行動ができなくなる。そこから逃げれば、仲間を裏切り、自分の存在を卑しめてしまう

・純粋な理想主義者が抱えやすい一つの危うさは、潔癖になり過ぎて、全か無かの二分法的思考に陥ること。自分たちと信条を同じくしない者は、すべて敵であり、悪だと見なされていく。離れていく者は、裏切り者であり、許せない存在となってしまう

・相手が騙されたと気づかずに相手を騙すことができれば、騙す側は、むしろ「味方」や「善意の第三者」に収まることができる。騙された人は、むしろ良いことを教えてくれたとか、助けてもらったとか、目を開かされたと感じ、感謝や尊敬を捧げる

・社会的動物は、群れで暮らすために、愛情や信頼関係を結ぶという特性を進化させてきた。ところが同時に、人類は高い知能を持ったがゆえに、信じる特性を悪用することを覚えた。親しみや愛情を利用して、信用させ、思い通りにコントロールする技を生み出した

・独裁者やカルトの狂信的指導者から、独善的な上司や配偶者、親、いじめに走る子供まで、本質的な共通項は、「1.閉鎖的集団の中で、優位な立場にいること」「2.弱者に対する思いやりや倫理観が欠如していること」「3.支配することが快楽になっていること」

被暗示性の高い人の特徴は、「1.人の言葉を真に受けやすい」「2.信心深く、迷信や超常現象を信じる」「3.大げさな話をしたり、虚言の傾向がある」

・幼いころ、安心できない環境で育った人は、不安が強い性格になりやすいだけでなく、人の顔色を気にする傾向や他人に依存する傾向が強まり、人から支配されやすくなる

・「私はできる」とか「それ(症状)が消える」といった言葉を唱えさせた「クーエの暗示療法」は非常に効果があったので、評判になった。それは、大人より子供に、都会人より田舎で暮らす人に、より顕著な効果を生んだ

・催眠中に与えた指示は、催眠後の覚醒状態でも、行動をコントロールし、その効果は長時間持続した。また、道徳的、信条的に望まない行為でも、巧みに操ることができた

・依存性パーソナリティの人は、むしろ強引な人押しの強い人を好む。命令や押し付けに逆らえず、相手の言いなりになりやすいだけでなく、そういう人に敬意を抱きさえする

・会社組織でも、独裁国家やカルトに通じる異様な状況が起こり得る。長時間のサービス残業が常態化した会社では、社員は、慢性的疲労を抱えるだけでなく、主体的な判断力や独創的な発想を持てなくなっていき、ノーと言えず、結局、使い潰されていく

・勉強のやらせすぎは、主体的な意欲がない子供を育てる。子供が「疲れている」状態は、絶対に避けること。余力を残しておくことが、子供を病まさず、可能性を伸ばしていく

・強力な暗示効果が奇跡を引き起こすことがある。優れた臨床家や教育者ほど、この原理を上手く使いこなす。「希望を約束する」ことで、実際にそれを現実にしてしまう

・人は心地よい体験をすると、それをもう一度求めるようになる。心地よい体験を与えてくれた者たちや場所に対して、愛着や親しみを覚え、それを肯定的に考えるようになる。自分をこんなに愛してくれる存在が、悪いはずがないと、理性より本能がそう思う

・カルト宗教は、大きく二つに分かれる。一つは、家族や愛といった絆を重視したもの。もう一つは、修行や祈祷により超常的パワーを手に入れるといった自己鍛錬に重きを置いたもの。前者は、大衆的、庶民的な宗教であり、後者は、エリート的な志向がみられる



日本の会社には、雇用者のような被雇用者が大勢います。すなわち、給料も安く、休みが少ないのに、懸命に働く人たちです。日本のホワイトカラーと呼ばれる人の多くは、これに属します。企業側のマインドコントロールのかけ方が上手ということかもしれません。

最近、マインドコントロールはいろんなところで使われています。マインドコントロールに引っかからず、搾取されない方法を身につけることが、人生にとって欠かせない技ではないでしょうか。


[ 2013/07/31 07:00 ] 育成の本 | TB(0) | CM(0)

『ゼニの人間学』青木雄二

ゼニの人間学 (ロング新書)ゼニの人間学 (ロング新書)
(2009/05/01)
青木 雄二

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著者の本を紹介するのは、「ゼニの幸福論」「銭道実践編」などに次ぎ、5冊目です。本書は、漫画以外で、60冊ほどある作品の中で、2冊目の書(1995年出版)で、ベストセラーとなったものです。

自著である「ナニワ金融道」やドストエフスキーなどの作品を例に出しながら、わかりやすく「お金」と「人間」を解説しています。それらの中から、参考になった箇所を要約して、紹介させていただきます。




・金に困って、借金をすれば、そこから人生の苦闘が始まる。金のことで悩み、困惑し、狼狽し、煩悶し、疲労し、やがては、犯罪、夜逃げ、自殺にまで発展していく。これは、何百年の昔から、人間が繰り返してきた永遠のドラマ

・この世の中は、金持ちほどラクして儲かる。ラクとは他人を働かせて、自分は働かないでも儲かるということ

・人間は、置かれた立場でコロリと変われる。どんな奴でも、経営者という立場に立てば、ある程度の度胸がつき、「今月の売上が足りない」と思えば、押しが強くなれる

・集金のつらさだけは、もう二度と味わいたくない。子分を養うための営業の苦労は、人間を磨いて度量をつけてくれるが、集金の苦労は、人間性を荒廃させてしまう

・ゼニは金利を生む。ゼニが生き物だというのは、この意味から。カネを持っている人間は、ここのところがよくわかっている。不労所得を受け取る人間がいる裏では、誰かが必死に働いている。得をする人間の裏側には、損をする人間がいるということ

・本当の金持ちなら、バブル期にビルを建てて賃貸にしようとは考えない。もっと昔からビルを持って、他人に貸しているから、わざわざ建築費の高騰しているときに、ビルを建てたりしない。バブル期にビルを建てて失敗したのは、一発狙いのビンボー人

・コマーシャルというものは、ビンボー人からゼニを巻き上げるためにつくられたもの

・人間は欲に弱い。その欲が、理想的な自分をつくりあげる方面に向かうと、コロッとゼニを払ってしまう。ビンボー人は甘い夢に弱い

・学校で「保証人にならないように」と教えないのは、資本主義の経済活動が停滞してしまうから

・カネを借りる人間は、自分に力がないくせに見栄っ張り。弱みを見せたくないから、逆にカネのあるフリをする。これぐらいのことを見抜かないと、金融業はやっていけない

・金融業者が、相手の信用を判断するのは、小さな約束を守るかどうかという点。約束の時間を守り、最初の条件をきちんと履行するかどうか。人間の本質は、約束を守るという基本的な生活態度にあらわれる。その部分で信用できない人間は、すべて信用できない

・カネ貸しは、自分より賢い奴にゼニは貸さない。もしあなたが、金融業者から借金したとすれば、金融業者に「こいつ、俺よりアホやな」と判断されたということ

・金融業者は弁護士にはカネを貸さない。追い込みをかけようにも、頭のいい抜け道を使われたら、手に負えなくなる。だが、医者には貸す。医者はいくら頭がよくても、世間の知識に疎い。学校の先生や警察官、公務員もこの類。金融業者にとっては、絶好のカモ

・「毎日ご飯がいただけるのはありがたい」と労働者が思ってくれれば、資本家はラクができる。つまり、資本家と宗教家は利害が完全に一致している

・人間は欲望をエネルギーにして生きている。欲望があるから、未来に向かって努力できる。だから、その欲望を捨てるなんてことは、さらさら考える必要がない

・資本主義の基本原理は、極めて単純明快。「買ったものを売って、利潤を得る」だけ。経営者は、労働者から労働力を買って、商品をつくり、それを売って利潤を得る。同じ給料を払うなら、労働者にはたくさん働いてもらわなければ困る

・これまでの歴史で、人間は宗教的戦争と経済的戦争を繰り返してきた。神とゼニが、すべての戦争の原因

・自分を軽蔑する人間は、未来に希望を抱かない。明るい未来、希望ある未来を想像し、自分の力で創造していけるのは、ある程度、生活に余裕のある人間



著者が亡くなられて10年近く経ちましたが、現在でも、「ナニワ金融道」は人気です。その理由は、著者のお金と人間の本質を見る眼が、正しいと認識されているからだと思います。

底辺のところを歩んでこられた著者の眼は、今後とも、不滅なのではないでしょうか。


[ 2013/07/30 07:00 ] 青木雄二・本 | TB(0) | CM(0)

『島国チャイニーズ』野村進

島国チャイニーズ島国チャイニーズ
(2011/08/25)
野村 進

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著者は、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した実力派ライターです。本書は、日本在住の中国人を取材して、本当の姿を聞き出した、内容の充実した作品です。

取材先は、劇団員、留学生、教授、妻、学校、チャイナタウンなど多岐にわたります。日本にいる中国人の実態が非常によくわかり、そうだったのかと思えた点が多々ありました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



劇団四季には、中国人俳優が24人、韓国人俳優が48人。700名いる所属俳優の1割以上が外国人俳優。中国人・韓国人俳優のほとんどが日本名の芸名を名乗っている。「名前」という文化的アイデンティティーを死守する気概が、中国人には感じられない

・中国で雑技団にいた人は、日本で器械体操をしていた人より体ができている。ウォーミングアップを一切しなくても、ケガをしない。中国ダンサーの身体能力の高さとハングリー精神に、中国でのミュージカルの可能性を感じる

・中国共産党は、「千人計画」をぶちあげ、「海外有名学者」や「海外傑出人物」の呼び戻しに力を入れ、一人百万元(1500万円)を支給したうえ、最高峰の大学や企業、研究機関に、破格の待遇を用意して迎え入れている

・日本にいる中国人の大学教授や研究者のほぼ全員が、本国から好条件の誘いを受けている。しかし、彼らが勧誘に乗らなかったのは、子供の教育の問題。日本で教育を受けた子供は、言葉の面でもメンタリティーの面でも、中国人よりずっと日本人に近くなっている

・池袋界隈は「東北三省」(遼寧省・吉林省・黒竜江省)出身、蒲田は福建省出身、大宮は上海出身など、民族や出身地で、多数の「在日中国人コミュニティー」ができている

・反日・嫌日になるのは、バイト先などで日本人から受けた差別や屈辱による場合が断然多い。1990年代に留学生の間でささやかれた「留日反日」(日本に留学して反日になる)という自嘲は、いまだ死語になっていない

・「国家」が嫌いなら「国民」も嫌い。日本人は「国家」と「国民」を分けて考えられない

・日本の入国管理局は、留学生の送り出し地域別のブラックリストをつくっている。福建省や東北三省、内モンゴル自治区を不法就労や偽造文書作成などの前歴から要注意地域とみなし、それらの地域出身の留学生の入国審査をとりわけ厳格化している

中国人留学生の多い大学では、彼らだけで固まる傾向がある。日本人学生も、群れ集って声高に話す留学生たちを「何気に怖い」と遠巻きにながめ、近寄ろうとしない。中国人留学生も、日本人学生に対し「いつまで経っても中に入れてくれない」と不満を募らせる

・拝金主義と利己主義が蔓延する今の中国で、「親孝行」という徳目だけはまだ生き残っている。中国人留学生は、卒業式に両親を呼ぼうとする

・山形、秋田などの東北地方には、外国人妻が大勢暮らしている。これら地域のファミレスは、外国人妻たちの溜まり場になり、中国語や韓国語やフィリピノ語が飛び交っている。山形県の外国人妻の数は、二千人を超え、その半数近くが中国出身者

・中国はいま高度成長で、みんな気持ちが「お金、お金」に向かって、心というものを失いかけている。医者でさえ賄賂をとる。みんな、株で「もうかった、もうかった」という話ばかりする。中国にいたら、同じような人間になってしまう

連れ子のいる中国人花嫁が増え続けている。特に「東北三省」出身の花嫁に、連れ子の姿が目立つ。日本人男性への一回の仲介料は、200万円台から300万円台が相場

・1899年開校の神戸中華同文学校(小1~中3まで681名の生徒)では、日本国籍者が74%近くにのぼる。にもかかわらず、日本国からの援助がほとんどない。中華同文学校の教員給与は、兵庫県内の公立学校に比べ、4分の3にも届かない

・華僑への就職差別は、1980年代中頃まで明らかに存在した。旧財閥系有名企業でも、日本国籍者以外に、内定通知取消をしていた。今では逆に、中国語が堪能な華僑の子弟のほうが、就職に有利になった。日本企業の手のひらを返すような振る舞いに危惧を感じる

・華僑は、在日韓国・朝鮮人社会がとってきた、民族差別を日本社会に訴えるやり方と、あえて距離を置き、民族差別反対運動に関わらないほうが無難とみなしてきた

・いま中国では、競争し合っている。向上心も強いけど、物欲が半端じゃない。日本に住んでいたら、「これ欲しい、あれ欲しい」とか少なくなった。たまに中国に帰ると、友達から「静かになった」「ボーっとしてる」と言われる。日本文化が知らず知らず、浸みこんだ



「在日中国人」の実態や本音を聞き出した本は、少なかったように思います。中国との関係がぎくしゃくしている時代だからこそ、今必要な本なのかもしれません。

本書を読むと、中国国家と在日中国人を単純に同一視できなくなるのではないでしょうか。


[ 2013/07/29 07:00 ] 華僑の本 | TB(0) | CM(0)

『中原淳一の世界・幸せになる言葉』

中原淳一の世界 幸せになる言葉中原淳一の世界 幸せになる言葉
(2013/02/06)
ひまわりや

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著者は、戦前と戦後間もないころ、画家、イラストレーター、デザイナーとして、今のファッション文化の先駆けをつくり、女性から圧倒的支持を受けた方です。本を紹介するのは、「美しく生きる言葉」に次いで2冊目です

本書には、その多くの作品と洗練された言葉の数々が収められています。その言葉の一部を要約して、紹介させていただきます。



・いつまでも古くならないもの。それこそが、最も新しいもの

・しあわせは心の中にあるもの。つまり自分がしあわせと感じること

・人間の生き方の中で、一番正しい生き方は、自分らしい生き方をすること

・美しいものにふれることで、美しさが増している

・女らしいとは、甘えることではない。女らしい慎ましやかな態度、そして男には持つことのできない神経を持つこと

・美しさに甘えていたのでは、決して愛される人にはなれない。美しくなくても、美しい心になることによって、人はいつの間にか、その人の美しさを発見する。人間は、瞬間だけを見ているのではない

いい人とは、いい行いが自然に心からできる人のことを言う

・美しくありたいと思ったら、美しくなってからでも、なお磨くことを忘れてはならない。毎日の生活は、美しい心の人になるように心がけること

・本当に女らしいのは、男の人では持てない、女の人だけに持つことのできる、美しい心を持つこと

・働くということは、働くということに対する心構えを身につけるということ

・美しく気どってすましているよりも、明るく微笑んでいるほうが、ずっと気持ちよく美しく感ぜられる

・微笑みを持つためには、健康で明るい気持ちを持っていなければならない。また、たえず、微笑みを持っていれば、本当に気持ちの明るく美しい少女になれる

・自分の持っているものをよく考えて、それを、人のために、世の中のために、どうすれば一番いいかということを、一生懸命に考えて、実行する人が一番素晴らしい人

・温かく、優しい真心を持った少女。聡明であって、生意気でない少女。自分の身の回りのことを皆工夫して楽しんでいる少女。本を読むことが好きで、健康で、花を愛して、音楽を理解する。こんな少女が好き。そして、ピアノが弾けたらなおいい

・あなたを愛してくれる方に、余計な心配をかけてはいけない。それは、愛される者の責任として、愛してくれる人に対する心だから

・自由が許されると、どんどんそれを自分勝手な、自分だけが都合のよいほうにもっていく。人の厚意に慣れてしまうということは、お互いに不愉快な結果になる

・美しいものを美しいように外に現せる技巧を身につけること

・まず清潔であること。美しさの最も尊いものは清潔。どんなに心の美しい少女でも、不潔なものを身につけていたのでは、人々にその心の良さを見てもらえない

・身だしなみの目的は、自分の醜いところを補って、自分の姿が、いつも他人に快く感じられるようになること

新しさとか変化とかいうものは、自然に生まれてくるもの。つまり、その時代の変化の対象とか標準とかが流行

・一人一人が、美しく豊かに暮らせるのは、個人の幸福ばかりでなく、日本全体が美しくなる

・嬉しい思い出になるようなことを、たくさん持っていれば、生活はますます楽しいものになる。嫌な不愉快な思い出ばかりだと、本当の楽しい生活はできないことになる。美しい楽しい思い出を持つためにも、今、美しい楽しい生活をしないといけない



天才とは、従来の既成概念を飛び越えて、新たな夢を提案し、後輩たちに希望を与える存在になる人です。

著者は、終戦後すぐの昭和20年代に、立て続けに少女雑誌を創刊しました。それらは、少女の夢になり、目標になりました。まさに、終戦後を駆け抜けた天才だったのではないでしょうか。


[ 2013/07/28 07:00 ] 芸術の本 | TB(0) | CM(0)

『ラ・ロシュフコオ-箴言と考察』

ラ・ロシュフコオ 箴言と考察ラ・ロシュフコオ 箴言と考察
(2010/04/22)
ラ・ロシュフコオ

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ラ・ロシュフコオに関する本は、「ラ・ロシュフコー箴言集」「ラ・ロシュフコー箴言集(二宮フサ訳)」に次ぎ、3冊目です。

350年前の作品なので、翻訳者によって訳し方が微妙に違ってきます。今回は、前にとり上げていなかった箴言を中心に、紹介させていただきます。



・もしわれわれが欠点を持たなかったら、ほかの人の欠点に気づく場合、こうまで嬉しくないはず

・率直とは、心をむき出しにすること。世の中に、率直な人はいくらもいない。普通、世間で見出される率直は、他人に信用されようとする巧妙な偽りにすぎない

・真実が世を利することはある。しかし、それよりは、真実らしい行いが、世を毒する

他の支配を受けまいとすることは、他を支配すること以上に困難である

・人に見境なく悪を為すことは、あまりに多くの善を為すことほどには危険ではない

・初めから不可能な事は、いくらもない。われわれには、事を成就させるための励みが、手段以上に欠けているのだ

・その極に達した腕の冴えは、物事の値打ちを知り抜くところにある

・自分を卑下することは、しばしば、他を服従させるために人の用いる偽りの服従にすぎない。自分を高くするために、自分を卑しくする高慢心の手管である

・大部分の人間の報恩感謝の念は、もっと大きな恩恵にありつこうとする欲望にすぎない

・人間の馬鹿さ加減をついぞ見せなかった人間が世の中にあるとしたら、それは世間が、その馬鹿さ加減をよく探さなかったからだ

・いやになるわけにいかない人を相手にするのは、とかくいやになりがちなもの

・われわれの人品が下がるとき、趣味もまた下がる

・どんなに美しい行為でも、もしそれを生んだ動機が残らず世間にわかったら、われわれはしばしば、それを恥ずかしいことに思う

・何かの才を持っている愚か者ほど、厄介な愚か者はない

・人から気の毒に思われたいとか、感心されたいとか思う心は、しばしば、われわれの人を頼りにする心の大部分をなす

・優しそうに見える人は、通常、弱さだけしか持っていない人。そしてその弱さは、わけなく気難しさになり変わる

・この世で最も幸福な人は、零細な富をもって足る人であるので、偉大な人と野心深い人とは、この点で最も惨めな人である。なぜなら、彼らが幸福になるためには、限りなく富を寄せ集める必要があるから

・幸福になることは、さほど苦労でない。それより、自分は幸福だと人に思わせることが苦しいのである

・正義は、われわれの持ち物を他人に取られてはならないと、しきりに気づかう心にすぎない

・細かいことに気づく人と細かすぎる人とは大変に違う。細かいことに気づく人は、いつも人に喜ばれる。しかし、細かすぎる人は、真っすぐに道を進まず、しきりに、脇道や遠回りして、計画を成功させようとする。そんなやり方はまもなくばれ、人に恐れられる

・心に熱を持っている人と、明るい心を持っている人は幾分違う。明るい心を持っている人には、機敏さがあり、美しさがあり、正しさがあるが、心に熱を持っている人のほうが、急速に立身出世する

・生まれつき他にまさった人であっても、そうでなくとも、人はその身分と顔にふさわしい様子と口調と素振りと感情を持ち続ければ持ち続けるほど、他から喜ばれ、それから遠ざかれば遠ざかるほど、他からいやがられる



フランスの大貴族で、公爵の位にあったラ・ロシュフコーが、政変で失脚した後に書き記したのが、この「箴言と考察」です。だから、人を裏側や斜めから見た、拗ねた表現様式になっていますが、それもまた魅力です。

人が有する嫌なところを抉り出すようで、目を背けたくなりますが、これもまた現実であり、真実です。本書は、人間関係に悩んでいる人に、何らかの考察を与えてくれるのではないでしょうか。


『植物の不思議な生き方』稲垣栄洋

植物の不思議な生き方 (朝日文庫)植物の不思議な生き方 (朝日文庫)
(2013/02/07)
稲垣栄洋

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本書には、植物の巧みな戦略が描かれています。外敵、競争、受粉、悪環境などに対して、植物たちは、どういう道を選んできたかがよくわかります。

植物たちの涙ぐましい努力は、われわれ人間社会にも参考になるところが多いように思います。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・アリストテレスは「植物は逆立ちした人間である」と評した。口に相当する「根」が一番下にあり、胴体に相当する「茎」がその上。生殖器に相当する「花」が、植物の一番上

・植物の葉の表面にはワックスの層でコーティングされている。これが城壁のように病原菌の侵入を防いでいる

・植物は活性酸素を除去するためのさまざまな抗酸化物質を持っている。ポリフェノールやビタミン類も植物が持つ抗酸化物質

葉を食い荒らす昆虫は、植物にとって実におそろしい敵。傍若無人に片っ端から葉をむしゃくしゃ食べまくる。病原菌に比べれば、体もすこぶる巨人で、まるで怪獣のよう

毒を盛るのは、戦わずして強靭な敵を殺す常套手段。力を持たない植物が強大な敵を倒すには、これほど有効な手立てはない。生き残るためには、卑怯などと言ってはいられない。かくして植物はありとあらゆる毒性物質を調合し、身を守る道を選んだ

・タバコの成分、ニコチンは害虫から身を守るための物質。野菜のえぐみも本来は防御のための物質。シソやネギやハーブの香り成分も、害虫を防ぐために植物が身につけたもの

・植物の毒を体内に蓄えて自らの身を守る昆虫は多い。それらの昆虫は、食べられるものなら食べてみろと、自らの体を毒々しく目立たせて、危険な毒を持つことをアピールする

・ボラタイル(SOS信号を出す揮発物質)を感知して、イモムシの天敵である寄生バチがトウモロコシを助けるべく駆けつける。寄生バチも、どこにいるかわからない餌のイモムシの存在を効率的に知ることができる。なんともうまくできた仕組みになっている

・人間を震い上がらせるアシナガバチやスズメバチでさえ、アリに襲われるのを恐れて、中空にぶら下がった巣をつくり、巣の付け根にアリの忌避物質を塗っている。アリの強さは他の昆虫に抜きん出ている。植物界には、そんなアリをボディガードに雇うものが多い

・リンゴ、桃、柿、みかん、ブドウなど木の上で熟した果実は、赤、橙、ピンク、紫色のように赤系統の色彩が多い。これは、鳥が赤色を最も認識するから

・葉のつき方は、5分の2や8分の3などのフィボナッチ数列の角度に従っている。植物は、黄金比に近似の5分の2(逆回り1.67)8分の3(逆回り1.6)を選んだ。それは、葉が重なりあわずに効率よく光を受けるためや、茎の強度を均一ににするため

・花びらは、ユリが3、桜が5、コスモス8、マリーゴールド13、マーガレット21、ヒナギク34。花びらの枚数もまた、フィナボッチ数列によって作り出されている

・「つる植物」は、「他人に頼れば苦労せずに大きくなれる」という図々しい生き方で、スピーディな成長をする。「絞め殺し植物」は、頼った相手を亡き者にして、財産を奪う

・花がここにある、ということを昆虫にアピールするため、花びらは「看板」がわり。昆虫に合わせて、早朝に店を開き、日中閉じるアサガオやツユクサの「営業時間」。植物にとって昆虫への「サービス品」が蜜。その蜜を一番奥に配置し、「案内板」を表に出している

・花が昆虫を呼び寄せるのは、蜜を食べてもらう代わりに、花粉を運んでほしいため。長居する困り者の昆虫に「いつまでいるのですか。そろそろ次の花へ行ってもらわないと困りますよ。こっちだって慈善事業でやっているわけじゃないんだから」と昆虫に仕向ける

・黄色い花が好みはアブ。白色好みはコガネムシ。紫が好みはミツバチ。赤色が好みは蝶々

・早春の花はアブ好みの黄色が多い。アブは移り気だから黄色の花は群生する。コガネムシは不器用だから白い花は平たく咲く。ハナバチは同じ花を識別できるので、紫の花は離れて咲く。蝶々は大量の花粉を遠くに運ぶので、赤色の花は大きく、大量の蜜を奮発する

・植物の果実は、実り熟すことが使命。実り熟すことは同時に老化を意味する。決心したようにエチレンを放出した果実は、自らを老いさせ、死出の旅を急ぐ

・ロゼット(タンポポなど)は冬の寒さに逃げることなく、冬の時と向き合って生きる道を選んだ。地面に張り着く葉は、光を受けながら寒さを避ける理想的な形



植物は、動かず、黙っているので、どうしても、見過ごされがちです。でも、この地球に、動物が棲みつく以前から、ずっと暮らしてきています。

その植物を観察すれば、人間社会の問題を解決するヒントがいっぱい詰まっているように感じました。本書は、その参考になる良書ではないでしょうか。


[ 2013/07/25 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『オヤジの知恵』早坂茂三

オヤジの知恵 (集英社文庫)オヤジの知恵 (集英社文庫)
(2002/04/18)
早坂 茂三

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著者は、田中角栄の第一秘書をされていました。田中角栄を真横で見てこられた方なので、田中角栄の言動が手に取るように伝わってきます。

本書には、田中角栄の回想録も数多く載っています。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・「失敗はイヤというほど、したほうがいい。そうすると、バカでない限り、骨身に沁みる。反射神経が身についてくる。判断力、分別ができてくる。これが成長の正体だ」

・「大勢の人に寄ってもらうためにはどうするか?約束したら守る。実行することだ。人のいやがることを進んでやる。他人のために汗を流すことだ」

・「自分のことは自分でやれ、他人に甘ったれるな、人様に迷惑をかけるな。この人間の在るべき三条件を幼時から子供の肌に焼きつけたほうがいい」

・「大切にしているのは、何よりも人間との接し方だ。それは戦略や戦術ではない」

・「心せよ惻隠の情。これをなくすな。なければ、すぐにも用意せよ」

・「すぐれた指導者は、人間を好き嫌いしない。能力を見分けて、要所、要所に配置する。進むべき方向を明確に示し、後は裁量に任せる。肝心なのは大事を任せられる人を見つけることだ」

・「世間で何よりも恐ろしいのは人の口だ。善行は簡単には伝わらないが、悪口はテレビのCMよりも伝播能力がある」

・「頂上を極めるためには敵を減らすことだ。人の好き嫌いはするな。誰に対しても一視同仁。いつでも平らに接しろ」

・「喧嘩をしても勝てる。この自信があれば心に余裕ができる。この余裕が言動すべてに行き届く」

・「大事なのは数字と事実だ。耳ざわりのいい形容詞にだまされるな。嘘か本当か。調べればすぐ分かる。根拠に乏しい屁理屈は、たちどころに化けの皮がはがれる」

・「若い人にぜひ言いたいのは、頑固であれということだ。簡単に妥協するな。少数派になることを恐れるな。そして意地を張れ。突っ張れ。爪先立ちをしろ肩に力を入れろ。それが若さというものだ」

・「金と女は追いかければ逃げていくが、自分を作ることに本気で専念すれば、今度は向こうから追いかけてくる。そのときが必ず来る。男はそう思って仕事の鬼になったほうがいい」

・「無名の人は失うものがない。ならば、彼がなすべきことは、前進、また前進だけである」

・「日本人は熱しやすく、また、冷めやすい。ツキモノが落ちれば、すとんと伝統的な日常に戻る。これを繰り返してきた」

・「すぐ手を出す人に、それほど悪い人はいない。手の早いというのは、性、善なる人である」

・「凡なること、普通であることは、生きていく上で最大の武器にもなる。相手は油断する。相手は身構えない」

・「インテリ、文化人は安全地帯で人民を見下し、実験室の論理と感性を他人に押しつける人種である。陰湿で執念深い」

・「二千年にわたる水田稲作社会を生きてきた日本人は、今でも本質的に農耕民族である。この実態に目をつぶれば、すべての事実認識を誤ることになる」

・「ワキが甘くて、フトコロの深い人のそばに人間は集まってくる。ワキが固くて、フトコロの浅い人には寄ってこない」

・「日本は大中小無数のボスを中心とした車座社会の連合体だ。メンバーは尻を外に向け、顔はボスに向けて、重層的に同心円を描いて暮らしている」

・「金儲けは人間が流した汗や涙の分量、絞り出した知恵の重さに見合った正当な報酬だ、と見るほうが実態的である」



力とは何か。力を得るには、何を身につければいいのか。そして、人の上にどうすれば立てるのか。

本書には、日本で成功するためのシンプルな鉄則が、記載されています。ここに書かれてあることは、百年経っても変わらないのではないでしょうか。


[ 2013/07/24 07:00 ] 田中角栄・本 | TB(0) | CM(0)

『新マーケットの魔術師』ジャック・D・シュワッガー

新マーケットの魔術師―米トップトレーダーたちが語る成功の秘密 (ウィザード・ブックシリーズ)新マーケットの魔術師―米トップトレーダーたちが語る成功の秘密 (ウィザード・ブックシリーズ)
(1999/03/15)
ジャック・D. シュワッガー、Jack D. Schwager 他

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マーケットの魔術師シリーズは、アメリカの投資家たちの成功物語であり、成功ノウハウ集です。

本書では、約20人のトップトレーダーたちが、インタビューに応じて、事実を赤裸々に公開しています。投資のヒントになることが、数多くありました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・負けが続くときの副産物として、自信の喪失がある。これによって、トレード情報の理解や分析能力が影響を受ける。したがって、失った自信を取り戻さなければならない。こんなとき、効果があるのは、トレードのサイズを減らすこと(ビル・リップシュッツ)

・トレードは50%の確率で勝てると思っていたら大間違い。たった20~30%の確率でしか勝てない。だから、勝ったときに、どういうふうに勝つか、それを考えなければいけない(ビル・リップシュッツ)

・安値での買い、高値での売りなんて、仕掛けたことはない。もし安値で買えても、マーケットはそのレベルで何年間も腰を据えてしまうかもしれず、資本が縛られることになる。変動が始まる状態まで待って、それからポジションを抱えるべき(ランディ・マッケイ)

・うまくいっていないとき、「こうなってほしい」とか、「こうであればよいのに」と思うようになる。そうすると、成功するトレードではなく、「成功してほしいトレード」をするようになってしまう(ランディ・マッケイ)

・分析をして、うまくいくトレードに集中し、それ以外のトレードを止めれば成功する。分析をしても、うまくいかないならば、何か他の仕事を探すべき(ランディ・マッケイ)

・パターンを見つけ出したいという願望は、人に迷信や占星術などに効力があると思わせる。人間の本性が成せる業。そんなことで成功するのは、失敗するよりももっと驚きに値する(ウィリアム・エックハート)

損失の痛みが分からなければ、金銭的にマーケットで生き残る確率は皆無。相続した財産でトレードを始めた数人の億万長者を知っているが、負けの痛みを感じないから、彼らはすべてを失っていった(ウィリアム・エックハート)

・快適なものは、しばしば良くない結果をもたらす(ウィリアム・エックハート)

・トレーダーに欠かせないのは、誰にも依存しない独立した考え方。トレード戦略を発想、認識、創造するために、芸術的な側面が必要。それらのアイデアを確固としたトレーディングルールとして規則化し、遂行するためには、科学的な側面が必要(ギル・ブレイク)

成功するトレーダーになるには、1「自分に合う投資対象、戦略、時間軸に集中する」2.「予測不能ではない価格動向パターンを見つける」3.「発見したものが統計的に有効であると納得する」4.「取引ルールを決める」5.「そのルールに従う」(ギル・ブレイク)

・教育を受けた大部分の人が失敗したのは、感情の管理能力が欠けていたから。つまり、トレードの決断から感情を切り離すことができなかった(ビクター・スペランデオ)

・「このトレードをしよう」と思う代わりに、「このトレードをする自分を見てやろう」と思うこと(トム・バッソ)

・人生は、今一度しか見ることのできない映画。同じ場面は二度とない。夢中になって、理解して、楽しまなくては(トム・バッソ)

・音楽には構造があり、形を変えながら繰り返されるパターンがある。マーケットにも繰り返されるパターンがある。この二つはいずれも、リラックスしているとき、最もうまくいく。そして、両方とも波に乗ることが大切(リンダ・ブラッドフォード・ラシュキ)

・トレーダーを雇った経験から言うと、ブラックジャック、チェス、ブリッジなんかが強い人は、成功する可能性を備えていると思う(ブレアー・ハル)

・進歩がない人は、常にあるシステムや手法から別のものに変えてばかりいるため、どれについても熟練できない。対照的に、スーパートレーダーは、一つのアプローチに収れんしていき、そのアプローチに適応していく(チャールズ・フォルクナー)

・チーターは世界で最も速い動物で、草原にいるどんな動物でも捕まえることができる。しかし、チーターはその獲物が絶対に捕まえることができると確信するまで待っている。茂みに隠れて、一週間でもその好機が訪れるまで待っている(マーク・ワインスタイン)



本書の序文に、ジム・ロジャースの「そこにカネがたまるまで待つ。その後、そこまで行って拾い上げるだけ。それまでは、何もしないこと」の言葉が記されています。

その言葉どおり、「得意の型を一つ見つけ出し、好機が来るまでじっと待ち、そして一瞬にして、大きな獲物を仕留める」といった作業が、投資で成功する秘訣ではないでしょうか。投資は、忍耐力が相当必要な、地味なゲームなのかもしれません。


[ 2013/07/23 07:00 ] 投資の本 | TB(0) | CM(0)

『ユダヤ人の頭のなか』アンドリュー・J・サター

ユダヤ人の頭のなかユダヤ人の頭のなか
(2004/07/22)
アンドリュー・J・サター

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ユダヤ人の思考、発想など、頭の中身を分析した書です。著者は、大学で物理学を専攻した国際弁護士です。日本企業にも関わった経験があります。

ユダヤ人の頭の中も、基本的には日本人と何ら変わりません。ちょっと、勉強すれば、獲得できるものばかりです。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・ユダヤ人好みの職業は、すべて頭脳労働。その頭脳労働は、間接的に経済や文化、ひいては世界全体に貢献するもの

・権力者や隣人たちといった他人の考えを推し量ることが、ユダヤ人にとって、非常に重要なサバイバル技術になっていった

・サバイバル精神の重要な要素は、「環境変化とともに出現するチャンスを見つけること」「顧客第一主義の精神を持ち、競合に勝つこと」「損切りすること」

・身の丈にあったリスクだけをとること。常に第2のプランを用意すること

損害を与える場合には、一気にやるべき。そうすれば、痛みを味わわせることも反抗されることも少ない。反対に、恩恵を与えてやる場合は、少しずつすべき。そうすれば、恩恵のありがたみが長く存続する

・チャンスをつかんだら、成功のために、権威に挑戦することを覚悟すること

・意見の食い違いは自然なこと。それを個人攻撃と勘違いしてはいけない。賛成できないなら、はっきりと意見を表明し、解決法も表明すること

・地位の高い人間に挑戦するときには、適切な時期はいつなのか、回り道はないのか、「いつ逃げるか」を常に判断しないといけない

・タテマエは、日本社会では「受容される嘘」だが、タテマエは単なる嘘

・イスラエル人は、交渉を個人的なことと受け止めない。交渉を感情とは切り離しつつ、交渉そのものを楽しむことができれば、交渉に成功することができる

・「シカタガナイ」と言ってしまうほうが、ずっと簡単だが、「シカタガナイ」は単なる怠惰

・論理的議論の基盤として、想像力を使って、物事の類似性を見つけること。応用範囲を拡大する意味で、想像力を使って、物事のより深い意味を得ること

・たとえ仕事に関係のない内容でも知的興味を持つこと。そして、その興味をいつか仕事に結びつけるべく、辛抱強く、チャンスを探すこと

・頭のいい子供の6つの特徴とは、言語能力、創造性、分析能力、忍耐力、大志と、そして好奇心。子供たちはこれらの能力を学校で学ぶことはできない

・「頭のいい子を育てる方法」とは、「才能をさらに伸ばすために、時間とお金を投資する」「好きなことのエキスパートになるように励ます」「楽しい議論をぶつける」「疑問に対して、自分で答えを見出させる」「複雑な状況に置き、問題解決させる」「負け方を教える」

・学ぶために、質問をすること。教えるために、話しかけること

・外国語でコミュニケーションすること。コミュニケーションは効果的であるために完璧である必要はない。たとえ、ひどい訛りがあって、間違いだらけであったとしても、外国人は、あなたが彼らの言葉を話そうとすることを高く評価する

・社会的な不公平・不正義に対し抵抗することは、その歴史を聖書時代の預言者にまで遡るユダヤの伝統

・他人があなたと同じように考えるだろうと決めつけてはいけない。他人の観点に立って、物事を見てみること

・他人が何を考えているか、推測すること。そして、他人が欲していることを、口にすること

・ユダヤ人には「マイノリティ意識」がある。日本人も、自らが世界の中では、圧倒的にマイノリティだと気づくべき



日本人も世界の中では、マイノリティ民族です。世界の中で、わかってくれる人たちが少ないということを自覚すべきかもしれません。そこが、出発点です。

マイノリティで、しかも差別を受けてきたユダヤ人には、他民族とコミュニケートしながら、自己主張する術に長けています。そういうユダヤ人を見習うべき点が大いにあるのではないでしょうか。


[ 2013/07/22 07:00 ] ユダヤ本 | TB(0) | CM(0)

『「自己の免疫力」で病気を治す本』安保徹、岡本裕

「自分の免疫力」で病気を治す本「自分の免疫力」で病気を治す本
(2011/05/14)
安保 徹、岡本 裕 他

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岡本医師の本を紹介するのは、「9割の病気は自分で治せる」に次ぎ、2冊目です。本書は、安保教授との共著です。今回のテーマは「医師と薬に頼らない」方法です。

医薬業界にとって知られたくないことを、医療の現場にいるお二人が、あえて禁断を犯して発言されています。本書は、金まみれの医療に患者が巻き込まれないための書です。興味深い点が多々ありました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・ストレスによって生じる「低体温・低酸素・高血糖」が「エネルギー生成系」(解糖系とミトコンドリア系の二本立て)に影響して、発ガンさせる(安保徹)

・酸素を使い、37℃以上でないと働けないミトコンドリアにとって「低体温」「低酸素」は過酷な環境。この状況が続けば、ミトコンドリアの働きが停止し、エネルギー不足に陥る。具体的症状として、疲労感や倦怠感が出てきて、動きたくないという感じになる(安保徹)

・ガンは特別な病気ではない。不健康な状態がずっと続いたときに糖尿病や高血圧などの慢性病が待っていて、その延長線上にガンがある(岡本裕)

深呼吸する食べすぎない体を温めるといった原則さえ守れば、あとは、ケース・バイ・ケースで、ガンが治った人の話を参考にし、自分が信じたものをやればいい(岡本裕)

・定期的に通っている老人ホームでも、薬を飲んでない人は元気。飲んでいる人は、どこか体調が悪い。じっくり話して、不必要な薬はどんどんやめてもらう(岡本裕)

医療費破綻を回避するには、慢性病治療薬を保険の点数から外せばいい。高血圧、糖尿病、高脂血症、メタボリックシンドローム、カゼ、腰痛の薬を自費にすること(岡本裕)

・炎症は組織修復に欠かせない治癒反応。ステロイド剤の長期使用で、ミトコンドリアのエネルギー生成を抑えてしまうと、炎症を起こせなくなり、やがて寿命を縮める(安保徹)

・医師に課せられた暗黙のノルマは、できるだけ大勢の患者を診て、できるだけ検査をオーダーし、できるだけ多くの薬を処方すること。そんな薄利多売の医療業界に身を置いている医師たちは、ルーチン(日常業務)に追われて、疲弊するばかり(岡本裕)

患者の95%は、カゼ、肩こり、腰痛、頭痛、便秘、高血圧、糖尿病、ぜんそく、不眠、アトピー性皮膚炎、心身症、うつ、肥満、高脂血症など、カゼ以外は慢性病。これらの患者に最低限の薬と検査だけ行っていたら、病院内で絶え間ない逆風にさらされた(岡本裕)

・病院経営者にとって、慢性病ほどコストパフォーマンスのいい病気はない。よほど悪化しない限り、命にかかわらないので、医療裁判はなく、さりとて完治する見込みもない。慢性病の患者に、通院の必要性を説けば、「おいしい患者」になる(岡本裕)

自己治癒力を低下させる原因は、心身にかかるストレス、食事や睡眠などのバランスの乱れ、働きすぎなど、その人の生活そのものにある(岡本裕)

・疲れやすい、体が重い、だるい、目覚めが悪い、肩こり、便秘、手足の冷え、食欲がない、頭痛、腰痛、視力の低下、顔色が悪い、眠れないなどの「サイン」が現れた段階で、心身をいたわれば、自己治癒力も回復し、早ければ1週間で体調がよくなる(岡本裕)

・血液には、熱を運ぶという重要な役割がある。血流が悪くなると、熱の運搬が滞るため、低体温になる。体温は、健康を保つために、最も重視しなければならない(安保徹)

・病気の7割は無理を続けた生き方、3割は持てる力を十分に使わない生き方が原因で発症する。前者は、ストレスから逃れ、心身をいたわること。後者は、まず体を動かし、交感神経を刺激することで、治癒を高める(安保徹)

・熱が高くなると、体がだるくて動けなくなり、「病気がどんどん悪化するのでは?」と思いがちになる。寝込むのは、体を省エネモードにして、余剰のエネルギーを修復に向けるための体の反応。だるさにも病気を治す積極的な意味がある(安保徹)

かゆみを解消するには、体の排泄反応を応援してあげること。体操や散歩などで、体を動かし、入浴で体を温めれば、血流がよくなって毒出しが進み、かゆみも治る(安保徹)

・消炎鎮痛剤を日常的に使う人は、慢性的な交感神経緊張状態に陥り、新たな病気に見舞われる。湿布薬を貼り続けると、不眠、便秘、高血圧になることが多い。その他、高血糖、胃もたれ、胸やけ、手足の冷え、頭痛、生理痛、便秘などの不調が起こる(安保徹)

・薬をやめた人ほど元気になる。病気の9割は「命にかかわらない病気」。自助努力で治せる。にもかかわらず、病気が治らないのは、薬に頼り、薬の害を受け続けるせい(岡本裕)



国民医療費は増大していくばかりです。税金泥棒(タックスイーター)にならないためには、むやみに医者にかからないことです。そして、慢性病にさせられないことです。

本書は、日本の医療制度の「常識」に反する内容ですが、どちらが賢明なる行為なのか、よく考えてみる必要があるのではないでしょうか。


[ 2013/07/21 07:00 ] 健康の本 | TB(0) | CM(1)

『パスカル「パンセ」 (100分de名著)』鹿島茂

パスカル『パンセ』 2012年6月 (100分 de 名著)パスカル『パンセ』 2012年6月 (100分 de 名著)
(2012/05/25)
鹿島 茂

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本書は、NHK・Eテレの100分de名著で放映したものを、鹿島茂さんがまとめた書です。

パスカルは、「パスカルの定理」や「ヘクトパスカル」などの数学者、物理学者として有名ですが、「人間は考える葦である」「もしクレオパトラの鼻が・・・」などの思想家として、もっと有名です。

本書は思想家、哲学者として、パスカルが「パンセ」の中で、どのような考えを語っているのかについて言及しています。勉強になった点が多々ありました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・私たちは、快楽に到達したとしても、そのために幸福になることは決してない。その新しい状態にふさわしい別の願望を持つに至るから

・自分は心の底から休息を欲していると思い込んでいるのだが、実際に求めているのは、興奮することなのだ

・真実を伝えるのは、伝えられた人にとっては有益のはずが、たいていは伝える人にとって不利に働く。真実ゆえに憎まれることになるからだ

・叱責という苦い薬は、相手の自己愛にとって苦いことに変わりはない。苦い薬は飲み込んだら嫌悪感でいっぱいになる。そして、たいていは、その薬をくれた人に対して、ひそかな恨みをいだくようになる

・人は自分の欠点を、自分と他人の目に触れないよう、覆い隠そうとして全力を尽くす。その欠点を人から指摘されることもいやだし、人に見破られることも我慢できない

・自我は自分をすべてのものの中心にしようとする点において、それ自体で不正である。また、自我は他人を従わせようとする点において、他人にとっては不愉快な存在となる

・私たちは、他人の頭の中で、イマージナルな生活をしたいと思っている。そのために、見てくれに気を配る。私たちのイマージナルな存在を他人の頭の中でより美しくし、そのままに保ちたいと考えて、いつも一生懸命働き、本当の生活をなおざりにしてしまう

・私たちは、ひどく思いあがった存在だから、全世界の人から知られるようになりたい、いや、この世から消えたあとでさえ、未来の人に知られたいと思っている。それでいながら、周囲の5、6人から尊敬を集めれば、それで喜び、満足してしまうほどに空しい存在

・批判を書いている当人も、批判が的確だと褒められたいがために書く。また、その批判を読んだ者も、それを読んだという誉れが欲しい

・人は精神が豊かになるにつれて、自分の周りに独創的な人間がより多くいることに気がつく。しかし、凡庸な人というのは人々の間に差異があることに気づかない

・好奇心とは、実は虚栄心にほかならない。たいていの場合、人が何かを知りたいと思うのは、あとでそのことを誰かに話したいと感じている

・真の雄弁とは、雄弁を馬鹿にするものだし、真の道徳は道徳を馬鹿にするもの。哲学を馬鹿にすることこそが、真に哲学するということ

・人を効果的にたしなめ、誤っていることを教えるには、その人が真に見えるものを、別の方向から見ると誤っている事実を発見させてやること。そうすれば、その人は満足する。自分が誤っていたのではなく、全方位的に見る術を欠いていたにすぎないと気づくから

・不幸の状態から目を背けさせ、考えないでいられるようにしてくれて、気を紛らわせてくれる喧噪こそが求められている

・男に必要なのは、カッカと頭に血の上ること、および、賭金を手に入れれば幸せになれると思い込んで自分を欺くこと。要するに、熱中する対象をつくりだすことが目的なので、自分がつくった対象に対して、欲望や怒りや恐れをかき立てることができればそれでいい

・王位をはく奪された王でない限り、王でないことを不幸に感じない

・私たちの尊厳は、すべてこれ、考えることの中に存する。その考えるところから立ち上がらなければならないのであり、私たちが知らない空間や時間から立ちあがるのではない。ゆえに、よく考えるよう努力すること。ここに道徳の原理がある

・流行は、楽しみをつくるのと同様に、正義もつくる



17世紀にパスカルは、「人間は一本の葦にすぎない。自然の中でも最も弱いものの一つである。しかし、それは考える足なのだ」という言葉を遺しました。

この言葉は、人間にとって「考える」とは何か、人間社会において理性とは何かを探求するものです。現代社会において、もう一度、考えるとは何かを問うことが必要なのかもしれません。


[ 2013/07/19 07:00 ] 鹿島茂・本 | TB(0) | CM(0)

『日本を思ふ』福田恒存

日本を思ふ (文春文庫)日本を思ふ (文春文庫)
(1995/05)
福田 恒存

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昭和の論客であった著者の本を紹介するのは、「日本への遺言」「私の幸福論」「人間・この劇的なるもの」に次いで、4冊目です。

本書は、昭和30年前後に発表された論文、エッセイ集です。今、読んでも、著者の知性、叡智、才能に感嘆させられます。その一部を要約して、紹介させていただきます。



・日本人は、初めから自分の鏡に映らぬ相手を認めようとしないし、相手の鏡に映らぬ自分を持たない。「島国根性」はおそらくそこから生まれた

多数という原理は必ず自己崩壊する。現実を見ればすぐにわかること。多数を旗印にした制度、方法で、多数のためになったものは一つもない。なぜなら、そこには必ず、それを自分だけに都合よく運用しようとするものが現れるから

・多数決といっても、結局は強弱の原理でしかない。それを覆そうとする革命理論も、要は多数決であり、強弱の原理に基づく。強弱、つまり現実への適応能力がすべてということ。すべての高邁な理論、大義名分も、その底には、この酷薄な事実が横たわっている

・現実では、勝てっこないと思った人間だけが、超自然ということを想いつく。相対の世界では、物事は決着しないと考えた人間だけが、絶対者にすがりつく

・妥協の余地のない激しい我のせめぎあいは、絶対者の調停を待つ以外に解決のしようがない。また、絶対者を味方にするのはもちろん、これを敵にまわすのも、どうしても自我の強さを必要とする

人生を統一する場が結婚。あらゆる人間関係が結婚を中心に展開される。われわれの共同生活にもし倫理が必要ならば、それは結婚の場に最も凝縮、純化された形で鍛錬される

・生という出発点において自由のない者が、死において自由であり得る訳がない。人間は与えられた条件の中に存在するだけで、その存在そのものの中にいかなる目的もない

・人間には自由がないという自覚に徹した時のみ、人間は人間としての自由を獲得する

・人間は精神の自由をすべて物質の自由に翻訳し始めた。人間は自己、すなわち人格になる努力を止めて、自己を物と合一せしめ、物になる作業に全精力を傾けだした

・人間はエゴイストであると同時に、そのエゴイストを捨てたいという欲求を持っている

・元来、民主主義とは、話し合いによって片の付かない対立を処理する方法の一つ。民主主義が相互理解のための話し合いだという誤解は、今や善意の誤解の域を脱し、現代的な偽善と感傷の風を帯びてきている

・人は絶えず人目を気にしているからこそ、劣等感に捉われる。その意味では、強者に卑屈であるよりは、それに楯突くことによって、それはさらに醜く露出する

・純粋というのは、言い換えれば、私心がないということ。が、私心がないからといって、それがどうしたというのか

・大部分の人間は、自分の内部から私心や利己心の臭気が立ち昇ることを極度に恐れている。それを他人に嗅ぎつけられることを何より恐れている

・良かれ悪しかれ、自己を頑強に肯定し、これを守り抜くというところにしか、文化は存在しない

・人々は自由を求めていたのではなく、逃げていただけのこと。強いて言えば、自由そのものを求めていたのである。何かをしたいがための自由ではなく、何かをしないための自由

・現代の自由思想は孤独を嫌う。正義はつねに全体を離脱した個人の個にある。同時に正義だけでは、どうにもならぬことを人々は知っている

・真の意味における自由とは、全体の中にあって、適切な位置を占める能力のこと。全体を否定する個性に自由はない

・私たちは、過去に対する不信から未来への信頼を生むことはできない。身近な個人に対する不信から社会に対する信頼を生むことはできない

・個人が個人の手で、あるいは人間が人間の手で、全体を調整しようとすれば、自分が勝ち、相手を滅ぼすしかない。生命の貴重や平和を口にしようと、それが当然の帰結である



著者は、評論、エッセイだけでなく、小説、戯曲も書いていました。そこが、単なる評論家と違うところです。

社会評論というよりも、社会を構成する一人一人の個人の本質から考える評論は、今でも異彩を放っているように思います。


[ 2013/07/18 07:00 ] 福田恒存・本 | TB(0) | CM(2)

『「対話」のない社会―思いやりと優しさが圧殺するもの』中島義道

「対話」のない社会―思いやりと優しさが圧殺するもの (PHP新書)「対話」のない社会―思いやりと優しさが圧殺するもの (PHP新書)
(1997/10)
中島 義道

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著者の本を紹介するのは、「人生しょせん気晴らし」「善人ほど悪い奴はいない」「差別感情の哲学」に次ぎ、4冊目です。本書は、1997年発売以来、ずっと売れている本です。著者の代表作の一つかもしれません。

日本人の「私語死語」といった会話の貧しさを探っていく書で、哲学者ならではの視点に、気づかされる点が数多くあります。その一部を要約して、紹介させていただきます。



・私語は、聴きたい人の権利を奪っており、そこに参加した者に対する明らかな暴力であるから、断じて許してはならない

・日本の若者たちは、全員に向かって言われる小言には不惑症になっている。だが、自分個人に向けて言われたことは骨身にしみる。まさか、何百人の中で、自分が名指しで注意されるとは思っていない。だから、それを実行すると、不思議なほど効果がある

・この国では、公共の場で個人を特定して評価すること、ことに非難することを極めて嫌う。これは「日本的基本的人権」の核心部分を形づくっている。人々はルール違反の他人にも傷つけないように注意を払い、公衆の面前で責めたてるのは「かわいそう」と考える

・総じて学力の高い学生は、言葉を比較的自然に語りだすが、学力の低い学生は口をつぐむ。言葉を発することを警戒している

・学力の低い大学では、絶対に「馬鹿」「アホ」「無知」とかの差別語を使えない。教師は、この世に学力の差別がないかのようなフリをする必要がある。その演技力が少しでも鈍って、差別発言らしきものが出ると、学生たちはそれを敏感に感じ取って、教師を断罪する

・女優、作家、社長など、成功者は競って劣等生ぶりを披露するが、こうした話は「劣等生」の心を曇らせるだけ。学力の敗者である若者たちは、「努力すればどうにかなる」という麻酔薬を強引に飲まされたあげく、次第に言葉を失っていく

・和の精神は、常に社会的勝者を擁護し、社会的敗者を排除する機能を持つ。そして、新しい視点や革命的な見解をつぶしていく。かくして、和の精神が行き渡ったところでは、いつまでも保守的かつ定型的かつ無難な見解が支配することになる

・なぜ、わが国では「お上」が、ああせよ、こうせよと国民を導くのか?それは、われわれ日本人が、「お上」の言葉に疑問を持たないように、「聞き流す態度・見逃す態度」を長い年月かけて培ったから

・自由、平等、人権、個人主義、弱者保護など、ヨーロッパ起源の「よきこと」がわが国に上陸すると、本来の意味が微妙かつ巧妙に変形する。同じ言葉を使いながら、内実の異なった似非近代化ないし似非欧米化が進行し、誰もそれに気づかない状態が出現する

・日本の「思いやり」は、ほとんどの場合「利己主義の変形」として機能する。勇気のない人が容易に実行できるような「思いやり」が、われわれにとっての「思いやり」である

・「優しき論者」は、「優しさ」が「人間の全価値」であるとの前提とした上で、それが欠けている人を目撃するや、その人を人間として全否定する暴挙をしばしば行う

・すべての人を傷つけないように語ることはできない。もし、できたとしても、そのときは真実を語ることを放棄しなければならない

・他人に対する配慮、思いやり、優しさばかり強調される社会における若者たちは、自分の叫び声を出せない。誰も傷つけない言葉を発することは、それはもう言葉の否定である

・この国のあらゆる会合では、誰からも不平不満が出ないこと、というより、誰にも不平不満を言わせない状態にもっていくことが最高の目標とされる

・「対立嫌悪症」が「長幼の序」や「謙譲の美徳」と結びつくと、目上の者と目下の者との間の「対話」を徹底的に阻害することになる

・現代日本人は、「他人にかかわりたくない」という強烈な願望を持っている。それは世間に対する過度の配慮の裏返し現象である

強い個人主義は、「利益の追求に集中」「他人との関係が攻撃的で、競争指向的」「市場を利用し、個人プレーヤーとして生きる」。弱い個人主義は、「不利益の回避を重視」「他人との関係が防衛的で、競争回避的」「集団を利用し、個人は集団に所属する」

・われわれは実は、「和風個人主義」(弱い個人主義)を望んでいるのに、「洋風個人主義」(強い個人主義)を望んでいる振りをする。これこそ一番の罪である



日本人の「和魂洋才」ぶりは、商品や言語だけでなく、その行動様式や思考にまで及ぶと、著者は指摘しています。

外国のものを、今ある日本的なものに加えていくことはできても、そっくり取り替えることはできないのが日本人です。その矛盾に疑問を持たないのも日本人です。そのことを真正面に論じているのが本書です。日本人の矛盾を考えさせられる書ではないでしょうか。


[ 2013/07/17 07:00 ] 中島義道・本 | TB(0) | CM(0)

『49歳からのお金―住宅・保険をキャッシュに換える』大垣尚司

49歳からのお金―住宅・保険をキャッシュに換える49歳からのお金―住宅・保険をキャッシュに換える
(2012/05/16)
大垣 尚司

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著者は、外資系生命保険会社の執行役員や日本の住宅ローン会社社長などを務められて、現在は大学教授をされている方です。今は、どこの金融機関にも属されていないので、中立の立場で見解を述べられています。

本書では、老後を迎えるにあたって、個人資産をできるだけ流動資産化する(住宅・保険をキャッシュに換える)ことを主張されています。専門家の分析に納得できる点が多々ありました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・「もはや老大国になったわが国で、急成長を遂げる企業が数多く登場する可能性は低い」という考え方は真っ当。ここから単純に考えれば、「素人が株式で高い利回りを得ることは以前より格段に難しくなっている」ということ

・資産運用の目的には、「増やす」(資産形成)と「減らさない」(資産防衛)の二つがある。大雑把に言えば、貧乏人と若者は資産形成、金持ちと年寄りは資産防衛を目標にすべき

・「お金」という視点で考えると、「長生き」は良いことではない。少なくとも、お金に関する限り、自分を「短命」と想定せずに、「長生きしすぎる」という想定で備えておくべき

・標準的な引退サラリーマン夫婦は、退職・引退後に約9000万円の支出が見込まれる。約6500万円の公的年金収入が見込めるから、その差額約2500万円をどうやって埋めていくかということを考える必要がある

・われわれ大人は、株価や地価が右肩上がりの時代に若い時期を過ごしたため、「今日より明日はもっとよくなっている」と信じてしまう。その結果、株価の高い時期に買ってしまった株は、市場が多少戻っても損が消えないことになる。つまり、長期保有は報われない

・株で勝ちたければ、短期的な株価の動きをとらえて、値ざやを稼ぐようなやり方が従来以上に必要になってくる。しかし、短期売買にわれわれ大人が進出しても、若くて瞬発力のあるトレーダーや高速売買のコンピューター相手に勝ち目は少ない

・大人世代のバランスシートは「資産余って銭足らず」。シニアは「アセット(資産)リッチ(裕福)で、キャッシュ(現金)プアー(貧乏)」

・老後を安心して過ごすには、預金以外のすぐにお金にならない資産(非稼働資産)である「保険とマイホーム」の活用方法を考える必要がある

・日本人は平均的に男は6年女は8年ぐらい、「健康とはいえない状態」で死を待つことになる。この期間は、本人がつらいだけでなく、家族や身内に迷惑をかける可能性が高い

・男性は死ぬまでに5~6回、女性では7回以上入院しないと、医療保険の保険料を回収できない。言い換えれば、死ぬまでに1カ月の入院を5回以上、あるいは3週間弱の入院を10回以上するのでなければ、保険料と同じ額を貯金しておいたほうがよい

・相続というと、プラスの財産を受け継ぐことを想像する人が多いが、当然のことながら、借金も同時に相続する。ただし、財産も相続しないなら、借金も相続しないという「放棄」が認められている

滅失した住宅の平均築後年数は、英国77年、米国55年、日本30年。日本人は、魚と家は新鮮なものを好むが、最近は日本全体が貧乏になっているので、やすやすと滅失させる余裕がなくなっている

・自宅に住み続けないなら、賃貸に出せば、日本中どこでも平均的に月7万~9万円の安定収入を得ることができる

・都心までの時間が70分超あたりで「郊外」が終わり、その先「遠郊外」との間に「地価断層」が存在する。つまり、「郊外」と「田舎」の間に、「田舎並み価格」で買える「通勤通学は不便だが都市生活を営めて自然環境もよいところ」がベルト状に存在している

・家族とともに通勤通学時代を過ごしたマイホームに引退後も住み続けると、お金の問題で袋小路に突きあたる可能性が高い。お金に関する限り、上手に住み替えれば、間違いなく豊かになれる

・引退した者にとって、都市は決して心地よく住めるところではない。都市は働かない者にやさしい構造は持ち合せていない。金が尽きた老人は足手まといとなるだけ

・耐用年数の過ぎた住宅にそのまま25年程度住み続けた場合、必要となる修繕費は、少なくても累計800万円。価格が3割程度アップになるが、長寿命住宅は、賃貸価値で見る限り、家を家賃に変換する金融マシンとして機能するため、高い価値がある



著者は、住宅と保険の現金化をすすめています。すぐに現金化できないものは、老人にとって、リスクになると述べられています。

年齢によって、固定資産と流動資産と現金の比率を見直さないといけないのかもしれません。老後の安心を得ようと思われている方には、参考になる書ではないでしょうか。


[ 2013/07/16 07:00 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)

『日々これ掃除』鍵山秀三郎

日々これ掃除日々これ掃除
(2011/09/16)
鍵山 秀三郎

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カー用品チェーン店創業者である著者の本を紹介するのは、「凡事徹底」「頭のそうじ心のそうじ」に次ぎ、3冊目です。

本書には、掃除哲学を推進する著者の基本となる考え方が載っていましたので、興味深く読ませていただきました。その一部を要約して、紹介させていただきます。



・平凡なことを継続して実行していると、平凡の中から生まれてくる非凡というものが必ず出てくる。これは大変大きな力を持っていて、人を感動させる力を持っている

・人間は、誰でも理想と現実に大きな差がある。理想と現実が一致している人はいない。必ず現実に対して理想は、はるかに高いところにある。掃除をしていると、理想にどうしたら近づくことができるかが、実に具体的に見えてくる

結果主義というのは、比べる世界。多いとか少ないとか、一位とか二位とか、絶えず比べる。だから、心のやすらぎというのがない。これが今の世相を悪くしている大きな原因

・「良樹細根」とは、良い樹は、細い、細かい根が深く張っている。根さえ健全に張れば、必ず樹は育ってくるという意味。そういう風土を築けたら、いかにして競争相手に勝ち、また相手を倒そうとかいう、過激な考え方を持たなくても、企業は健全に伸びていく

・「涙総量、汗無限」とは、人間は一生のうちに流す涙は決まっている。その涙を若いうちに流すか、歳を取ってから流すか、という意味。歳を取ってから流す涙は辛い。だから、若いうちに大いに涙を流しておかねばならない。汗は無限。流せば流すだけよい

・「『そんなに苦労されたのですか。とても、そのように見えませんね』と言われたら、私の人生は勝ち」(浪花千栄子)

・「運命はその人の性格の内にあり」(芥川龍之介)と「汝の行動は汝の予言者」(聖書)は、今何をやってもいいが、今とっている行動が、あなたの将来を予言するという意味

・社員の心が荒んでまでやるのは、事業ではない。人の心が荒むのが最も嫌いだったので、社員の心が荒んでくる前に、思い切って、撤退に踏み切った

・比べるものがない人生、比べるものがない会社、これを絶対差と呼んでいる。絶対差の世界は、プロセス主義。過程を大事にする、道筋を大事にするという考え方

・絶対差の世界に到達するには、「微差僅差」を追求し続けること

・「世の中は根気の前に頭を下げる」。これは、夏目漱石が、弟子の芥川龍之介と久米正雄に宛てた手紙の中で、二人を諫めた言葉。世の中の人は、根気強くやることに対して、敬意を持っているということ

・「鄙事多脳」。これは、福沢諭吉が塾生に話した言葉。普通の人たちが身辺の雑事として片づける細々としたことに対して、いつも多能で、器用でなければならない、という意味

・江戸時代の狂歌師、大田蜀山人は、「雑巾を 当て字で書けば 蔵と金 あちら福々(拭く拭く) こちら福々」といった面白い歌をつくっている。掃除をするというのに価値がある、意味がある、意義も高いということを示している

・人間はやはり人から尊敬されなければ、いい人生にならない。人から軽蔑されたり、ひんしゅくを買ったりしているようでは、絶対にいい人生にならない

・一番汚いと思っているトイレを徹底的にきれいにする。徹底してやれば必ずきれいになる。いくら他をきれいにしても、トイレだけを汚くしていたら、全部そのレベルになる

・「一人光る みな光る 何もかも光る」(河合寛次郎)。人がやろうがやるまいが、自分一人はやる。それを続けていくと、いつのまにやら、みんながやるようになって、良くなるという意味

・何をやっても成果を上げる人は、やることなすことムダがない。このムダのない人とは、物事の価値を知っている人。あるいは、人の価値も知っている人。その価値を見出していくには、気づく人になるということ。気づく人は、何でも、できるだけ先に早く知る

・よく気がつく人になるためには、「単純で単調で、ごくありふれた小さなことをいつも大切にする」ということが第一条件。もう一つの条件は、「絶えず人を喜ばす」ということ

・幸せには、「もらう幸せ」「できる幸せ」「あげる幸せ」の三つがある。最も大事なのが、三つ目の「あげる幸せ」



会社が変わるには、人が変わらなければなりません。しかも、立派に変わらなければなりません。

立派に変わっていくためには、凡事徹底であり、その中でも掃除が一番であると著者は述べられています。ごくごく当たり前のことですが、これを徹底することは、本当に難しいことです。これができている会社は未来永劫安泰なのかもしれません。


[ 2013/07/15 07:00 ] 鍵山秀三郎・本 | TB(0) | CM(0)

『定年から輝く生き方・一生モノの成功法則』帯津良一

定年から輝く生き方 一生モノの成功法則定年から輝く生き方 一生モノの成功法則
(2010/06/18)
帯津 良一

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著者は、総合病院の設立者であり、名誉院長です。帯津三敬病院は、末期がん患者が訪れる病院として有名だそうです。

著者は、現在、講演を中心に活動をされています。長年の診療を通して、独自の人生観と世界観を有されています。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・理想とする人生は、最後まで内なる命のエネルギーを高め続ける人生。命のエネルギーが高まれば、心の豊かさや品性が保たれ、最後にゆるぎない心の安寧にたどりつく。目先の欲得など潔く捨て去り、何事にも動じることなく、颯爽とした人生を送ることができる

・命のエネルギーが高まった人生は、「不安がなくなる」「自己と他者のつながりが実感できる」「流れに乗ることができる」「ストレスが少なくなる」「自然治癒力が上がる」「執着がなくなる」

・すでに引退しているのに、昔の役職の名刺を持ち歩いたり、過去の栄光の話に終始したりする人たちの話を聞いていても、ちっとも「ときめき」がない

・つらいことも苦しみも、病気も老いも、そのすべてを経験し、乗り越えることにより、命のエネルギーがどんどん高まっていき、最後に揺るぎない「豊かな心」の境地に到達する。それが、この世を生きること

もまれて、磨かれて、そして最後に到達した時点で、魂がどれだけ輝くものになっているか。軸はそこにある

・年齢とともに、命のエネルギーを大いに躍動させ、進化し続けること。それが「定年後に輝く人生」。それこそが、人生における本当の「成功」「幸せ」。目先の成功や出世などどうでもよい

・自分を育ててくれた社会や地元にお返しするという選択は、利己的でなく「利他」に生きる人生。最後まで輝く生き方として見事なもの

・エリート意識の塊になってしまうと、頭が固くなり、患者の声よりもデータを重視する治療しかできなくなる。患者のための医療ではなく、自分たちのための医療になってしまう

・謙虚さを忘れた人は、修行の如何にかかわらず、命のエネルギーがどんどん下降する

哲学を持たない成功は、人生にとってマイナスにしか働かない。つまり、若いうちに成功してしまうと、後の人生に悪影響を及ぼしてしまう

・死んだらおしまいだとすれば、心が荒廃し、結果的に刹那的な喜びを求めたり、さまざまな不祥事や犯罪が起こったりする。死後の世界というファンタジーを忘れてしまった社会には、無用の争いが起こる

・場があれば、そこには必ずエネルギーが存在する。いい場に身を置けば、いいエネルギーがもらえる。場というものを意識することが、健康を保つ意味でも、運気を上げるためにおいても不可欠なこと

・人間は年齢と共に丸く、穏やかになっていくのが理想だから、顔つきも柔和な雰囲気になっていくべき。見たときに、誰もがほっとするような顔、それが本当の人相のいい顔

・「1.一日一日を丁寧に、心を込めて生きること」「2.お互いの人間存在の尊厳を認め合って生きること」「3.自然との接触を怠らないこと」

・私たちは、時として、自分の力で生きているような気になっている。けれども、本当は、誰もが大いなる生命の循環の中で生かされている。「他力と自力の統合」が必要

・生かされているということを無視して生きていると、流れに逆らうことになり、天の応援は受けられなくなる。だから、大いなる命の流れに身を任せることが必要

・相手に譲ることができないから、腹が立ち、怒る。しかし、人生でどうしても主張しなければならないことなど、そんなにないもの

・感謝をすれば、よいことが起こるから、これをしきりに行うというのは本末転倒。だいたい、いい年をして、「ありがとう」を連発するのは恥ずかしい。感謝は声高に表立ってするのではなく、陰でするもの



人生の目標やゴールを何に置くかで、生き方が変わってきます。著者の言うように、命のエネルギーを燃やしながら、ときめき、進化し続けることを目標にするならば、目先の成功や出世などどうでもよくなるのかもしれません。

本書は、定年後こそ、長い人生の始まりとして、行動することの大切さを教えてくれる書ではないでしょうか。


[ 2013/07/14 07:00 ] 老後の本 | TB(0) | CM(0)

『文明が衰亡するとき』高坂正堯

文明が衰亡するとき (新潮選書)文明が衰亡するとき (新潮選書)
(2012/05/25)
高坂 正堯

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国際政治学者の著者が亡くなってから15年以上経ちます。国家の歴史を徹底的に分析し、現在の政治に言及する学者でした。今いてくれたら、どんなによかったことかと思います。

本書は、小国にもかかわらず、通商国家として成功したヴェネチアオランダの衰亡史をとりあげた内容です。今の日本が学ぶべき点が非常に多いと感じました。その膨大な内容の一部を要約して、紹介させていただきます。



・ヴェネチアは大陸国家のように重い権力装置を持たなかったので、その費用も少なくてすみ、財政管理は極めて効率が高かった。国家は商業会社のように運営されていた

・豊かになると、国民の間に富の差が生じ、力の格差をもたらす。国が強くなると、国際的な反撃を生み、権力政治に加わらざるを得なくなる。それらは強い権力を必要にさせる

・安定したリーダーシップを確保しながら、専政を防止する方法として、貴族政が確かであることは歴史の示すところ

・ヴェネチアは公的企業と私企業を巧く組み合わせ、経済的格差が増大するのを防止した。国会議員は、戦時には進んで戦わなくてはならなかったし、貴族は、租税上の特権や法外な富を貯えてはいけなかった。「節制の精神」が貴族政を支える徳性であった

・政治はそれを行う人間によって決まる。制度は大切だが、腐敗する危険が絶対にない政治制度などできない。秀れたエリートを持てるかどうかは、極めて大切なこと

・ヴェネチアは海運業を保護するようになった。しかし、その勢力は盛り返すことはなかった。効率の悪い船で商品を運ぶことを強いられたヴェネチアの産業は不利な立場に置かれた。こうした自由な精神と開放的な態度の衰弱こそ、ヴェネチアの衰亡期の特徴

・歴史を遡れば、ヴェネチアの商業は、税金が安いことから利益を受けた。そのうち、税は高くなったが、有効に使われていた。最後には、税金の高いことが企業活動を圧迫した。そして、ヴェネチア人の賃金や労働条件も法制化され、賃金の割に働かなくなっていった

・冒険を避け、過去の蓄積によって生活を享受しようという消極的な生活態度は、ヴェネチア人の貴族の男子で、結婚しない人が増えたことに現れている。17世紀には、適齢期の男で結婚しないものの比率は60%へと上昇していった

・ローマの歴史が示しているように、いったん大をなした文明は、直線的には衰亡に向かわず、衰亡の兆しが現れた後、何回かの浮沈を繰り返した後、初めてそうなる

・日本の戦後の成功は「パックス・アメリカーナ」という幸運な環境に負うところが大きい。日本は人的資源と水資源を除いて領土も狭く、資源もほとんどない。強大な国家となる基礎に欠けるのに、経済的に成功したのは、日本人の努力と能力だけでは不可能なこと

・パワーベースを欠く国の成功は不安だらけ。オランダの成功は敵意を生み、交渉の増大によって、摩擦も増えた。大体、中間に立って富を求めるものは人に好かれない

・幸運に助けられた成功と、どうしても克服できない脆弱性、その二つが通商国家の運命

・通商国家は、他人に害を与えることが少ないのに、嫌われる。ヴェネチアもオランダも、他国に大きな脅威を与えるはずがなく、秀れた技術によって、他国の人々の生活に寄与していたのに、好かれなかった

・17世紀、オランダの通商国家としての成功に直面して、思弁と仮説の反オランダ・プロパガンダが作られ、反オランダ政策が展開された。そして、オランダ人の才、進取の気性、勤勉の犠牲者になったと思い込んだ連中たちによって、反オランダ戦争が起こされた

・通商国家は戦争を避けようとする。それはただ、強力な国々の国際関係を利用するだけ

・通商国家は、他人に利益を与えることができるし、また、そうしなくてはならない。それにもかかわらず、巧妙な生き方をするが故に、通商国家は他人に好かれない。それは、人間の性からしてやむを得ない。ただ、それ以外に通商国家の生き方はない

・通商国家は異質の文明と広汎な交際を持ち、さまざまな行動原則を巧みに使い分け、それを調和させて生きる。しかし、そうすることで、自分の大切なものや自分が何であるかが徐々に怪しくなる。すなわち、道徳的混乱が起きる

・通商国家の人々は、成功に酔い、うぬぼれると同時に、狡猾さに自己嫌悪する。その結果、社会の中の分裂的傾向と平穏な生き方への復帰を求める傾向が起こり、変化への対応力が弱まる。しかし、通商国家はつねに新しい変化に対応する姿勢を持つ必要がある



通商国家の政策は、成長期(外部環境の幸運とその幸運をつかむ政策)、成熟期(繁栄を持続させる外交・軍事・産業政策)、衰亡期(競争相手出現による衰退を止める政策)によって違います。今の日本は、成長期は終わり、成熟期に入っています。

小国なのに繁栄した国は、周辺諸国から「嫉妬」や言われなき「差別」を受けます。それを、外交手腕で、どう忌避できるか。時代や環境に適応しながら、新しい産業をどう興していけるか。本書は、今の日本にとって、とても大切な書ではないでしょうか。


[ 2013/07/12 07:00 ] 海外の本 | TB(0) | CM(0)

『快感回路-なぜ気持ちいいのか・なぜやめられないのか』デイヴィッド・J・リンデン

快感回路---なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか快感回路---なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか
(2012/01/20)
デイヴィッド・J・リンデン

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本のサブタイトルが、「なぜ気持ちいいのか、なぜやめられないのか」とあります。快感は、欲望にによって起こされるのであり、それをやめようとすれば、自己抑止力が必要となります。

本書は、どういう時や場合に、快感のスイッチが押されるのかを解明しようとするものです。興味深いところが多々ありました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・私たち人間は、快感を追い求めることに、とてつもない時間と労力を注ぎ込んでいる。私たちが、何かをしようとするとき、その動機づけの鍵となるのが快感

重要な儀式には、祈りや音楽や舞踏や瞑想が伴い、多くは超越的な快感を生み出す。そのような快感は、人間の文化活動の奥底に深く根付いている

・法律や宗教や教育制度はどれも、快感のコントロールと深く関わる。セックス、ドラッグ、食べ物、アルコール、そしてギャンブルに至るまで、私たち人類は、細々とした規則や慣習を作り上げてきた。刑務所は、快楽を禁ずる法を侵した者たちであふれている

・快感研究は、ドラッグや食べ物やセックスやギャンブルへの依存症に関わる道徳的あるいは法的な側面や、快楽市場を操る産業を根本的に考え直すきっかけとなる

・ケシから作られるアヘンの起源は、紀元前3000年のメソポタミアまで遡る。古代エジプト人はアヘンを医療用、儀式用として広く用い、そのまま食べ、ワインに溶かして飲み、直腸に挿入した。ギリシャ人もすぐにこれにならった

・向精神薬に夢中になるのは人間に限らない。野性動物も精神活性効果を持つ植物や菌類を喜んで口にする。鳥やゾウや猿は、自然発酵してアルコール混じりになった果実を食べ、イノシシ、ゾウ、ヤマアラシ、ゴリラは夾竹桃の仲間で陶酔感をもたらす木を食べる

・体重が落ちると脂肪が減り、レプチン・レベルが落ちる。すると、生化学反応が起き、食欲を強める信号が発信される。失われる体重が大きければ大きいほど食欲は強くなり、エネルギー消費は抑えられる。ダイエット産業はそのことを知られまいとしている

・人は皿に載っているものを最後まで食べようとする(飲み物ならボトルを飲み干す)。人の食欲コントロールを打ち負かして過食させ、食品をたくさん売るには、サイズを大きくするのが効果的な方法

・マスターベーションは、馬、猿、イルカ、犬、ヤギ、ゾウなど多くの哺乳類で頻繁に観察される。メスもオスもこの快楽に身を委ねている。最も創造性を発揮しているのは、オスのバンドウイルカ。彼らはくねくねと動き回るウナギをペニスにまとわりつかせる

・異種間セックスは、捕獲されて自由を奪われた動物ではよく見られる行動。オスのヘラジカがメスのウマと交尾することはよく知られている。ハイイログマとホッキョクグマの間にも性的接触があることが確認されている

恋愛とともに表れる強い幸福感を伴う快感は、ドーパミン作動性の快感回路に対応している。この活性化のパターンは、コカインやヘロインの反応に似ている

・オーガズムは脳で起こるのであって、股間で起こるものではない。オーガズムは単純な現象である。血圧と心拍が上昇し、不随意の筋収縮が起こり、強烈な快感が生じる

・病的なギャンブラーにありがちな、リスクを負い、全力を尽くし、物事にこだわる性格というのは、ときに職場でも非常に力を発揮する。ギャンブル依存症の多くは、ビジネスの世界でも、とくに大きな成功を収める精力的で革新的な人物でもある

・集中的なエクササイズの後に、普通のリラクゼーションや安らぎといったものよりもはるかに深い至福感が短時間訪れることがある。これがランナーズハイ

・スピリチュアルな実践という意味では、瞑想と祈りは同一線上にある。どちらにもある種の弛緩的、解離的な面がある

・与えること自体が快感だとしたら、「純粋な愛他主義」は存在しない。高潔さから快感を得ているのだとしたら、それはそれほど高潔なこととは言えない

・もし、あらゆる快感が依存症のリスクなしに味わえるようになれば、節制を美徳と見なさないようになる。もし、快感がどこにでもあるものになったなら、人間の目的は存在しなくなり、何も欲さなくなる



快感が人間を支配し、人間社会を構成しているのかもしれません。快感抜きに、人間を語ることはできないように思います。

それなのに、快感の研究は、まだまだ進んでいません。快感を作り、快感を自在にコントロールする技術が生まれたら、それは人類にとって画期的なものになるに違いありません。快感を研究することは、立派な科学なのではないでしょうか。


[ 2013/07/11 07:00 ] 幸せの本 | TB(0) | CM(0)

『お客さまの記憶に残るお店のリピーターをつくる35のスイッチ』眞喜屋実行

お客さまの記憶に残るお店のリピーターをつくる35のスイッチ (DO BOOKS)お客さまの記憶に残るお店のリピーターをつくる35のスイッチ (DO BOOKS)
(2012/07/25)
眞喜屋 実行

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商売の基本は、地道な作業になりますが、リピーターをつくることです。このリピーターについて詳しく書かれているのが本書です。

本書は、気づいているつもりなのに、忘れてしまっていることを再確認するのに最適です。その大切なことを一部要約して、紹介させていただきます。



・リピーターになりにくい状況。つまり、いい店なのに「いい店どまり」になる理由は、次の4つ。「1.他にもたくさんあるから」「2.思い出せないから」「3.忘れてしまっているから」「4.今でなくてもいいから」

・つながるとは、「心のつながり」「記憶のつながり」「モノでのつながり」の3つの方向で、いつでも行き来できるように「橋をかける」こと

・「モノでのつながり」とは、販促物・手法のこと。「1.来店のきっかけをつくる」「2.来店されないときでも、客との関係を深める」「3.客に思い出してもらう機会をつくる」ことが目的

・客が「集まる」ように販促すること。集客は、客を「集める」ことではない

・客と店の間で「心でつながる」ことが必要。そのつながりには濃度がある。「2人きりで遊びに行ける」くらいの関係になれば、かなり濃いつながり

・「心でつながる」要素は、「1.人柄(いい人だと思われる)」「2.商売人魂(提供者として信頼される)」「3.技術(提供する品質に満足・安心してもらう)」の3つ

・必要でないことを、あえて心を込めてやることで、他店の一歩先を行くことができる

・「お客さまのことを知っていますよ」ということを、さりげなく伝えること。「おっ!いらっしゃいませ」「今日は、何になさいますか」「いつも、ありがとうございます」など

・一番簡単で、一番大切なことは、お客さまの目を見ること。これができていないと、どんなに他のことを頑張っても何の意味もなくなる

・客に「また行きたいな」と思ってもらうような記憶には、「らしさ」と「よさ」が必要。「らしさ」とは、他の店とは違う、店独自の特徴。「よさ」とは、他店と比べて優れている部分

・「らしさ」を見つけるために、「商売をする上で大切にしていること」「絶対にやらないと決めていること」「自店にあって他店にないこと」「お客さまに喜んでもらっていること」「店のことが紹介されている言葉」を書き出してみること

・「よさ」を見つけるために、「お客さまが利用して、いいこと」「優れていること」「こだわっていること」「気をつけていること」「技術の高さを証明する数字」「表彰されたこと、受賞したこと」を書き出してみること

・記憶の性質を踏まえ、店の販促に活用していくための原理原則とは、「関連付け」「フォーカス」「繰り返し」「感情」「インパクト」「ライブ感」「参加」の7つ

・お客さまのアンテナに引っかかる言葉は、「好きなこと」「気になっていること」「必要にかられていること」「話題になっていること」「季節的に気になること」「体験したことのあること」「地域のものごと」。これらのことを想像して、言葉を探してみること

・意外なことは、インパクトがあり、記憶に残る。そして、人に言いたくなる。他の人が知らなくて、自分だけが知っていると、「優越感」を持ち、クチコミが発生しやすくなる

・店にいた証、体験した証を持ち帰ってもらえば、店を思い出してもらうチャンスとなる

・店からの情報も、いつも同じだったら見てもらえない。新しい情報だから見る理由になる。毎日違うネタを書くには、「天気ネタ」「趣味ネタ」「うれしいネタ」「失敗ネタ」「心配ネタ」「地域ネタ」「楽しいネタ」「話題ネタ」「季節ネタ」を参考にするといい

・店が提案できるきっかけの提案とは、「理由を明確にしたお得」「もう一回のきっかけ」「納得できる今の理由」「季節イベントに合わせたきっかけ」「新しいを知らせる」「今ある商品の新しい利用方法」「もっと深く楽しめる利用方法」

「次回来店の楽しみを想像してもらう」「更新情報を定期的にお知らせする」「条件を満たした方だけに特別な権利を渡す」ことも、きっかけの提案になる



本書をまとめると、「人柄」「魂」「技術」のある店が、「よさ」「らしさ」を客に伝えると繁盛するというものです。「よさ」「らしさ」を伝えることが先にあるのではありません。

「人柄」「魂」「技術」のある人が、本書を読めば、繁盛間違いなしではないでしょうか。


[ 2013/07/10 07:00 ] 営業の本 | TB(0) | CM(1)

『運命を変える技術』加藤眞由儒

運命を変える技術運命を変える技術
(2010/04/16)
加藤 眞由儒

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著者はサイキックカウンセリングをされています。サイキックとは、霊能者のことです。本ブログでは、超能力、霊能力に関する本をできるだけ避けているのですが、本書は、真面目な内容なので、採り上げさせていただきました。

本書には、運命やお金について考えさせられる記述が数多くあります。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・人に親切にして、人のために行動する人は、心に余裕のある人。仕事に追われ、家族や生活の問題に悩まされていては、どんなに善人でも、人のために行動するのは難しい。その問題の根源は経済力にある。今の日本で、余裕のために必要なのは経済力

・豊かさや幸せって何だろうと考えられること自体が、豊かで幸せな証拠

・運命は人間が幸せになるための修行。だから、つらいこと、苦しいことがあって当然

・他人を「許す」ことを学ぶことが重要。この学びの過程で、人間は人間として成長することを試されている

・謙虚な行動とは、最も積極的で、強く、やさしく、賢く、美しい。謙虚な人には勝てない。よい運命は、謙虚な人に流れるようにできている。謙虚な行動が運命を好転させる

・人間関係は、人と人との調和のために、どうしたらよいかを知ることだから大事。嫌な上司との出会いも、この上司に対応できる自分になるための訓練

・人間関係は、時間的都合をつけなければならない、費用もかかる、体力も消耗する、ので大変。それでも「人を見る」ことは大事。人を見て、観察することができるようになれば、出会いを逃さないようになる

・愛と執着はまったく違う。その見極めができないと、執着から離れることはできない

・別れで傷ついた心を癒して、立ち直り、新たなスタートラインに立つことができたという過程を経て、人として向上していく

・生きている限り、人生は修行の繰り返し。しかし、する必要のない修行はある。いま現在幸せを感じているのであれば、あえてつらい修行などする必要はない

・我慢、忍耐、愛を学びながら、人間として大切な「許すこと」「感謝すること」を学ぶ

・子供が生まれるというのは「また一人、自分の思い通りにならない家族が増える」こと

・ストレス解消のポイントは「泣くこと」「笑うこと」「話すこと」。そのうち「話す」というのは、泣くこと、笑うこと以上に、体の中にたまったストレスを解消する作用がある

・自分と異なる性格やものの見方、考え方、捉え方を持った人と付き合い、接したほうが修行になる

・お金儲けは罪ではない。悪いのは、お金儲けのために他人を騙すこと、儲けたお金を悪いことに使うこと

・お金のトラブルが起きてしまうのは、親がお金の教育を子供に行っていないから。口座にお金が振り込まれるだけの親の子供にとって、お金は「数字」でしかない。お金や株、為替などについて触れる機会を作ってあげること

・一生懸命働いているのに、いつまでたっても豊かにならないと嘆いている人が多いが、それは「どのように稼ぐか」を知らないから。お金のない人はやはり努力不足。成功している人は、お金の勉強をしている人

・我慢と辛抱では意味が違う。しないほうがよいのが我慢、将来プラスになることが辛抱

・過度の我慢は、自分で自分を律するあまり、「人のためを思う」ことから離れる。過度な無理や我慢は、運命を不幸に変えてしまうので、期限を決めて実行すること

・日常生活で心がけておくべきことは、第一に、終わったことは「忘れる」こと。第二に、「許す」こと。第三は、「あきらめる」こと

・運命とは、周りとの軋轢が生じない「自分自身を磨く道」を探すこと。運命の改善には、自分のしたい仕事を早いうちに見つけること



本書に書かれてあることは、霊能者の発言というよりか、人生の成功者の発言といった感じがします。現実と夢、現在と将来の間に、それほど大きな差はないのだと思います。

ということは、今をコツコツ、大切に生きていくことが、運命を切り拓いていくことになるということかもしれません。


[ 2013/07/09 07:00 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)