とは学

「・・・とは」の哲学

『超革命・人気美術館が知っているお客の呼び方』蓑豊

超<集客力>革命  人気美術館が知っているお客の呼び方 (oneテーマ21)超<集客力>革命 人気美術館が知っているお客の呼び方 (oneテーマ21)
(2012/04/10)
蓑 豊

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著者は、アメリカのシカゴ美術館東洋部長を経て、大阪市立美術館長になり、その後、金沢21世紀美術館長になって、異例の年間130万人の集客を達成された方です。

さらに、その後、世界的なオークションで有名なサザビーズ北米本部長に就任し、現在は兵庫県立近代美術館長になられています。

美術館の集客仕掛け人として有名な著者が、集客の思いを綴った書です。参考になる点が多々ありました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・美術館は、専門家が太鼓判を押す名作の「本物」をその目で鑑賞できるすばらしい場所。最近の言葉で言えば、まさに「最強のコンテンツ」を比較的安価な料金で、大勢の人たちに提供できるのが美術館

・美術館の広報は、一般的には、美術館開催に合わせた前宣伝と、開催中のフォローだが、新聞に毎日、美術館の名が出ることを目標にせよと、広報や学芸員にはっぱをかけている

・年間入場者数の目標を立て、そのためにクリアしなければならない一日の入場者数を意識している。入場者数が少ない時には、テレビや新聞に声をかける。ただ、「取り上げてください」では取り上げてくれない。ニュースになるようなネタを用意しておくことが大切

・日本の美術館は、中流か、それ以上の金銭的余裕のある美術愛好家を固定客として相手にしてきた。その結果、堅苦しいイメージができあがり、敷居が高くなった。お行儀のいい客でなければ入る資格がないような雰囲気になってしまった

・展覧会を単館でやるにせよ、巡回展に加わるにせよ、最終的には美術館の企画会議で検討する。展覧会には準備も必要なので、数年後までのスケジュールが決まっている。展覧会企画は、この美術館が本来「やるべき」かどうかという観点で見ている

・タイトルがつまらなければ、見に行きたいと思ってもらうことは難しい。タイトルに華やかさユーモアがあって、興味を惹く。なんだか面白そうだ、そんな期待を掻き立てる

・理想とする美術館は、欧米の美術館のように、何も考えずに、ぶらっと訪れることができる美術館。そして、できれば、遠方からやってきた友人を案内したくなるような場所であってほしい。美術館は市民の応接間のような場所というのが美術館像

・美術作品は「わかる」必要などない。大切なのは「感じる」こと。わからないことをわかることが作品に一歩近づくということ。「わからない、だが、なんとなく気になる」。そこに作品の入口がある。疑問もまた「感性」の発動である

・日本の美術館の館長は、月に数日出勤するだけの「名誉職」が多いが、専従でなければできないはず。館長の仕事は対外的活動(県や市との調整、スポンサー企業の交流や新規開拓)が中心でも、週3日は、美術館に出勤すること。そして、地元に住み、生活すべき

・兵庫県立美術館の場合、一つの展覧会で、有料入場者数が5万人以上いれば黒字になる。その他、ギャラリー棟の使用料や、ショップ、レストランの賃貸料がある

・アメリカで美術館の館長を務めるには、スポンサーを集められ、展覧会の予算を確保できることや、それまでに評判を取った展覧会企画を手掛けたことが重要視される

・アメリカは日本と違い、公立美術館は少なく、ほとんど財団法人が運営している。今、館長は、館長+CEOという肩書きになっており、経営的手腕が必要とされている

・サザビーズは、ロンドン、パリ、ジュネーブ、ニューヨーク、香港などにオークション会場があり、オークションの手数料は25%売る人からも買う人からも同じパーセントを取る。近年の傾向としては、中国、インド、中東、ロシアからの参加者が目立つ

・美術館を訪れるとき、「コレクション(収蔵品)の量と質」「建築の個性と空間の心地よさ」「美術館と街の関係」の三つの観点から、その美術館を評価する

世界の美術館ベスト10+1は、ルーブル美術館・ポンピドゥーセンター(パリ)、大英博物館・テートモダン・ヴィクトリア&アルバート博物館・ナショナルギャラリー(ロンドン)、プラド美術館(マドリッド)、メトロポリタン美術館・NY近代美術館(NY)、ボストン美術館、シカゴ美術館

・「人がどう思おうと私はこれが欲しい」となかなか思い切って言えないのが、今の日本人。しかし、アイデンティティの確立していない人間は、国際社会では「大人」としては認められない。海外で成功する日本人の多くは、個性的で型破りなのは、そのため



アメリカで都会の大きな美術館の館長になるには、地方の小さな美術館で成功し、徐々に、昇格していくのが順序だそうです。まるで、大リーグの監督が、マイナーリーグの監督から這い上がっていく姿に似ています。

日本では、美術館の館長は名誉職であり、生ぬるい経営をしているところが多いのではないでしょうか。公共性の高い施設でも、最低、赤字経営だけは避けたいものです。そのために手腕を発揮する人が、ますます求められているように思います。


[ 2013/03/30 07:03 ] 芸術の本 | TB(0) | CM(0)

『小国大輝論〔西郷隆盛と縄文の魂〕』上田篤

小国大輝論 〔西郷隆盛と縄文の魂〕小国大輝論 〔西郷隆盛と縄文の魂〕
(2012/05/23)
上田篤

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著者は、京都大学の教授を務めながら、建築家として活躍された方です。別の顔として、西郷隆盛の研究をする西郷義塾を主宰されています。

また、スイスに何度も出かけ、スイスの国家体制や国民意識を調査し、日本も「スイスを模範にしよう!」と提唱されている方です。

スイスは山岳の土地で、農業がしにくく、貧しかったにもかかわらず、今では、世界でトップクラスの豊かな国です。そのスイスに学ぼうというのが、本書の主旨です。参考になった点が数多くありました。その一部を要約して、紹介させていただきます。



・スイスは今なお、「自由農民」の伝統を受け継ぐ国。スイスの山岳農民、日本の百姓は同じ部分が多い。西郷隆盛が模索した「百姓の国」のモデルはスイスだった

・スイス連邦国家は、人口600万人ながら、「三千の都市国家」(26の州連邦、3000の市町村連合)がある。スイスの民兵は、都市国家を守る(故郷を守る)サムライたち

・組織人間とは「失敗できない人間」。自立人間とは「失敗できる人間」。現代日本は組織人間ばかり増えて、自立人間が減っている。動乱や有事の時代には、それが問題となる

・「情報閉鎖、役人依存」という江戸役人の治世は、今日の公務員の体質に引き継がれている。そういう意味で、今は「後期江戸時代

・大久保利通が持ち帰った近代官僚制は、同時に中央集権制でもあった。近代官僚制とは、それまで貴族が持っていた地方権力を抑え、代わりに、国家への集権を導入する権力装置

・「軍国主義国家」と「原発国家」は、ともに「パイの拡大」を目指したという点で共通している。その原点は大久保利通が持ち帰った「プロイセンの大国主義

・日本がお手本にしたプロイセンあるいはドイツ帝国(=軍国主義国家)は、第一次世界大戦と第二次世界大戦に負けて、国土を灰燼に帰し、国家を破産させてしまった

・イギリスは武力ではドイツに負けたが、情報力で勝った。日本も「武力だけでは国家は守れない」ことを、第一次世界大戦後、ドイツの敗戦で知るべきだった

・明治以来、「文明開化・和魂洋才」の掛け声で、日本の都市は近代化してきた。肝心かなめのヨーロッパでは、ほとんどの町が「近代化」しなかった。つまり、古いもののまま

・大久保利通はドイツ、西郷隆盛と木戸孝允はスイス、岩倉具視はロシアと、維新の元勲の理想の国はまるで異なっていた

・1815年、国際的に「スイスの永世中立」と「スイスの領土不可侵」が承認された。その結果、スイスが植民地戦争に参加して、外国の領土を奪うことができなくなった

・スイスは、第二次世界大戦中に始まった、四党連立「全政党政府」が今日も続いている

・中世の「農奴的農民」の中で、貧しい土地から「職人的農民」が生まれてきた。イギリスの独立自営農民、オランダの干拓農民、スイスの山岳農民が「職人的農民」の典型

・誇り高き「自由農民」は、彼らの上に君臨する権力を認めず、常に団結して抵抗し、団結のための互いの意思を確認した。スイスには、意思を確かめ合う場として、ランツ・ゲマインデという「有権者全員会議」があった。その採択は三分の二多数決であった

・永世中立したスイスは同時に武装をした。永世中立とは、「武装中立」だった

・スイスの食糧需給率は6割だが、国民の食糧貯蔵量は3年分ある。また、有事には、グランド、公園、緑地、庭園、遊休地を農地に替えて食料を確保できるようになっている

・スイスの職業軍人は3500人しかいないが、一般の兵隊はすべて市民。1874年の憲法で、「市民は同時に兵士である」という原則が定められた

・スイス人はチップを要求しない。スイス人の多くはサムライ。サムライは、人に物乞いなどしない。人を助けても、自分が助けられようなどとは思わない

・スイスで女性参政権が連邦レベルで認められたのは1971年。先進国中最も遅い。この理由は、参政権を持つと、軍務や後方支援につくのが義務で、女性自身が反対したから

・スイス人は、独・仏・伊語のほかに英会話も堪能。日常の外国情報も入ってくる「情報大国」。それに対して、日本は外国情報がいたって少ない「情報小国」



今から10年ほど前に、スイス各地を、鉄道パスを使って、8日間ほど旅したことがあります。スイスも北欧諸国やドイツと同様に、プロテスタントが多いせいか、いろんなところで、国民の賢さをすごく感じました。

この本を読むと、その賢さの理由がよくわかります。今の日本は、スイスのような先進文明国家に学ぶことが大切です。本書は、その助けになるように思います。


[ 2013/03/29 07:03 ] 海外の本 | TB(0) | CM(0)

『人生ノート』美輪明宏

人生ノート人生ノート
(1998/04)
美輪 明宏

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ついに美輪明宏さんの登場です。古くは、丸山明宏時代に、突如、ヨイトマケの唄がラジオから流れてきたときや、天草四郎の生まれ変わりと言ってテレビに出られていたときから、興味津々だった方です。

しかし、このブログで紹介するのを、なんとなく躊躇していました。本書には、納得のいく言葉がいっぱい載っています。その一部を要約して、紹介させていただきます。



・今フランスが滅びかけているのは、フランスの美意識がなくなったということ。フランスは美を売る国だから、それがなくなったらフランスの存在理由がない

・フランスはエセ・ヒューマニストたちの浅知恵で、受け皿も用意せず、どんどん移民を受け入れた。移民たちは、生きるためにひったくりとか強盗とか悪いことをするから、パリの人たちは、お洒落な格好をして、外へ出られなくなってしまった

シンプル殺風景とは別。殺風景なのがシンプルだと思っている単細胞の人がいるのは困りもの。灰色のコンクリートの打ちっぱなしの家や部屋なんか、あれは刑務所

・ファッション産業というのは、人の卑しい見栄虚栄心につけこんでいる商売。そこらへんをよく承知して、その上でやっているのならいい

・人間は、理数科系と体育会系と文科系に分かれている。文科系と理数科系がくっついたとき人類は栄える。体育会系と理数科系がくっついたとき人類は滅ぶ

・バレエ・ダンサーというのは、出てきて、そこに立っているだけで、絵にならなければならない。それはつまり、選ばれた人でなければ、バレエを踊る資格がないということ。好きで踊るのだったら、趣味で踊っていればいい。お金を取ってはいけない

・風雅で上品な建物が並んでいる町では、犯罪を起こしようにも、似合わないから起きない。犯罪をしてもいいような風景だから犯罪は起きる

・知識階級のエセ評論家が、パリの芸術をだめにした。アール・デコの時代には、ユーモアとか、心楽しくなるムダなよさが残されていた。それが美しかった

・「でも」と「しかし」は女の切り札。必ず相手の弱点を見つけて、それでチャラにしようという神経が働く。男には「でも」と「しかし」の切り札がないから、それがねたみ、そねみになって、ヒガミになる

・知識階級の人が、二、三年水商売でアルバイトすればいい。そこには、あらゆる職種、あらゆる年代、あらゆるパターンの人間が出入りするから、人間を見る勉強になる。頭でっかちで、知識だけの人間に人は裁けない

・国籍、性別、年齢、職業、過去未来、その他、すべてにこだわらない。人間が不安になり、憂鬱な気分になるときには、必ずどれか何かにこだわり続けているとき

・地位とか名誉とか財産とかがいくらかできると、それらを失いたくない、失うまいとする。そのために、地獄の気分に落ち込んでしまう

・「○○のくせに」「どうせ自分は○○だから」は、こだわっているから出てくる悪い言葉

・世の人々は自分では気づかずに、毎日の私生活の中で、他の人に対してファシストになっている。個人の小さな争い、闘いは、戦争の規模を縮小しただけのもの

・世の中は悪意。その証拠に雑誌など、悪意に満ちた意地悪で、品性下劣な卑しい記事ノゾキ趣味の写真が載っているものほどよく売れる。だから、発行部数が多いからといって、本当は自慢できることではなく、実は恥ずべき筋合いのもの

・給料とは、がまん料。よく働いたから報酬をもらえるのではない。嫌なこと、辛いこと、苦しいことをがまんしたことに支払われるのが給料。不平・不満もがまん料に入っている

・これからは徳川家康の時代。理性で策謀をめぐらす、そういう政治家や経済人でなければ、世界の権謀術数にたけたプロフェッショナルの政治家や経済人と渡り合っていけない

神様と人間の間に立ちはだかって、問屋みたいな流通機構の役目をしているのが宗教

・人からパワーをもらうのではなくて、人にパワーをあげようと思うと、泉のようにふつふつとパワーが湧いて出てくるもの。そうすると、自信がついてくる



本書は、美輪明宏さんが50歳になる前の1983年に書いたものを加筆した本です。そのせいか、強さ、鋭さ、厳しさなどがよく表われているように思います。

この本は、世の中を達観している美輪明宏ではなく、世の中と闘っている美輪明宏を見ることができる貴重な書ではないでしょうか。


[ 2013/03/28 07:03 ] 人生の本 | TB(0) | CM(0)

『正しさの考え方(民法の原点)』良永和隆

正しさの考え方 (民法の原点)正しさの考え方 (民法の原点)
(1991/11)
良永 和隆

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20年以上も前に買った本です。今でも、時々読みたくなります。著者は、専修大学法学部の教授です。法学の本なのですが、宗教学、哲学、人間学の本とも言えます。「法哲学」の本と言うのが、一番適切なのかもしれません。

正しさとは何かが分かりやすく明示されているので、正しさの判断に困ったとき、役に立ちます。その一部を要約して、紹介させていただきます。



・正しさは、「人・時・所」、つまり、人により、時により、場所によって、異なりうる。正しさを考える場合、この三つの要素を忘れてはいけない

・人間を支配している摂理は、「幸福を求める」こと。法律学の目的は、個人および社会の幸福の増進にある。個人を幸福にし、社会を理想的なものにすることが、法律学の使命

・正しさには、三つの原理、「進歩の原理」「調和の原理」「調整の原理」がある

・進歩を支える「」の原理の要素は、「自由」「公平」「発展」「実力主義(弱肉強食)」。調和を支える「」の原理の要素は、「責任」「平等」「秩序」「慈悲(弱者救済)」。「叡智」は、「知」と「愛」の両原理の調整。叡智とはバランス感覚の最高状態

真理を理解できる人は、いつの時代も少数者に限られる。真理であるか否かは、時代・歴史が証明し、時間が真理とそうでないものを分ける

・個性を尊重してほしい気持ちが支配を嫌う。この個性の尊重が自由の理念を導き出す。自由は、進歩の原動力。それが、やる気と向上への意欲を生み、活力をもたらす

・自由の精神として、「1.自助努力」「2.創意工夫」「3.自律性」の三点がある

・人間に自由が認められるのも、一定の判断力・認識力がある場合。未熟な者に自由を認めるのは愚かなこと

・自由は、より素晴らしい人格、より素晴らしい社会・国家を創ることに行使されるべき

・各人は、自由によって、進歩・向上することができる(進歩の原理)が、他方、他人を不幸にしてはならない・社会の秩序を乱してはならない(調和の原理

・責任の精神の第一は、独立心(依存しないといこと)。第二は、奉仕する心(社会貢献)

・「相手の立場から考えてみることが、道徳の理想の極致」(ジョン・スチュアート・ミル)、「常に人間を目的として扱い、決して手段として扱わないように行為せよ」(カント)

・人間は正しくない行為をしたとき、羞恥心が湧く。この良心の声に従うのが人間の義務

・人間には、一人一人が愛されたいという気持ちがある。これが平等の本質。平等の精神の第一が、「寛容さ」(広い心で包み込む)、第二が「謙虚さ」(みな凡夫)

・結果の平等主義が当然のことになると、人間は要求ばかりするようになる。利益の分配を求めて、文句ばかり言う国民、労働者がいる国家、企業は存立が危うくなる

・人間は安定を望む存在。安定が求めるのは確実性(将来の見通しが不確実でないこと)

・徳ある者、認識力高き者が独裁するのは、むしろ社会にとっては好ましいこと

発展とは、希望があるということ。幸運とは、努力している姿に、吸い寄せられるもの

・人間は戦い競い合いを楽しむ存在。意欲を湧き起こす仕事の要因は、給料や労働条件ではなく、仕事そのものの面白さ。そして、仕事を面白くさせるのは、競争ゲームの精神

・競争を認め、競争の中で、より強い者が勝利することの切磋琢磨が、進歩を促進させる。適切な自由競争のためには、公正な競争原理の基準づくりとなる法律が必要

・人間には、惻隠の心である、弱き者を助け、困っている人に手を差しのべる性質がある。弱者を救済することは、強者の義務。しかし、救済に偏ると、甘えを生み、依存心を生み、自立性を損なわせ、進歩を妨げる結果となる。厳しさと優しさのバランスが重要

・善なる者、正しい者を必ず勝たせるのが、正義の原理。これは、知の原理でも、愛の原理でもない、力の原理



本書は、人が生きる上での判断基準となります。困ったとき、悩んだときに、この本を手にすると、その悩みが少し和らぎます。

私自身、20年前に買った本書を、5年おきくらいの間隔で、時々見ています。ある意味、人生の憲法となる書ではないでしょうか。
[ 2013/03/27 07:03 ] 人生の本 | TB(0) | CM(2)

『小説講座・売れる作家の全技術』大沢在昌

小説講座 売れる作家の全技術  デビューだけで満足してはいけない小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない
(2012/08/01)
大沢 在昌

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著者は、「新宿鮫」などの著作で知られる作家です。プロの作家として活躍している本人が直接、作家としての技術、ノウハウを公開したのが本書です。

脚本家や作家のように、物語をどう上手に作っていくかが、マーケティングにおいても問われるな時代です。読者(消費者)を惹きつけ、飽きさせない技術をもっと学ばないといけません。本書には、その技術が満載です。その一部を要約して紹介させていただきます。



・作家がよりよいものを書き続けるためのモチベーションは、結局のところ、本が売れるか賞をもらうか、その二つしかない

・キャラクターが中途半端だと途中でストーリーを背負えなくなって、話がダメになることも多い。ストーリーも大事だけど、キャラクターも大事

・嫌な人間というのは、実は自分のことを嫌な人間だと思っていない。最初から嫌な人を書こうとしないで、だんだん嫌な人に見えてくる、じわじわ嫌な感じが広がっていく、そんな風に書いてみる

・変化の過程に読者は感情移入する。物語のあたまと終わりで、主人公に変化のない物語は人を動かさない。主人公にどんな変化を起こさせるかということを意識して、ストーリー作りに取りかかること

・何かを失った人間が、何かを得ることによって、一つの物語が出来上がる。「喪失と獲得」の物語を人は求めている

・謎が解き明かされたとき、「なんだ、そういうことか」と読者も腑に落ちやすくなる。「隠す言葉」を効果的に使えるようになること

面白い小説というのは、ミステリーであれ、恋愛小説であれ、どんなジャンルの小説でも、主人公に対して残酷である。主人公に優しい小説が面白くなるわけがない

・自分を追い詰めれば、アイデアは出てくるもの。もし出てこなかったら、そのときは小説を書く才能が自分にはないと諦めるしかない

・八割は「どうだ、すごいだろう」と感情に流されて書いてもいいが、二割は「この言葉じゃ、伝わりにくいかな」と冷静に見る。八割熱く二割冷めている気持ちで書くこと

・描写とは、「場所」であり、「人物」であり、「雰囲気」。小説はこの三つが絡まって動く

・「発想」は一回きりのものである(「その発想、面白いね。ぜひ小説にしましょう」と、一回きりで終わってしまう)のに対して、「着眼点」と「情熱」は、その作家の武器になる

・描写に困ったときの虎の巻が、「天・地・人・動・植」の五文字。「天」は天候、気候、「地」は地理、地形、「人」は人物、「動」は動物、「植」は植物。それらがあると、描写がふっくらするし、シーンがより印象的になる

・うまく描写するコツは、頭の中に自分だけの映画館を持って、そこで物語を上映してみること。そこには、音もあれば、光もあれば、匂いもある。人物がいて、空気が流れている。その空気を描写するという意識を持つこと

・アイデアの出ない人はプロになれないし、万一プロになれたとしても、とてももたない。ゼロから作りだすものが、どこかで見たようなものであってはダメ

・読むことが好きで好きで読み過ぎて、そこから今度は書きたいという気持ちに転換した、そういう自分を自覚している人でなければ、作家にはなれない

・編集者とのつき合い方は「頼りすぎずに頼ること」

・作家はどこかに神秘性を持っていることが大切。女性作家なら、すごい美人じゃないか。男性作家なら、カッコいい人じゃないかと読者に思わせておくこと

・もっと自分を抑制して、読者をじらせること。読者をいたぶって、引っ張って引っ張って、もうこれ以上我慢できないと読者が手を伸ばしてきたとき、ようやく答えを与えてあげる

・100%の力を出し切って書けば、次は120%のものが書けるし、限界ぎりぎりまで書いた人にしか次のドアを開けることはできない。それを超えた人間だけが、プロの世界で生き残っている



どんな世界でも、プロになるのは厳しいものです。ましてや、筆一本で食っていこうとすれば、その努力は並大抵のことではないと思います。

本書には、作家として食っている人の知恵が披露されています。この知恵は、同業者だけでなく、他の商売にも応用できる貴重なものではないでしょうか。


[ 2013/03/26 07:02 ] 仕事の本 | TB(0) | CM(0)

『通貨の興亡―円、ドル、ユーロ、人民元の行方』黒田東彦

通貨の興亡―円、ドル、ユーロ、人民元の行方通貨の興亡―円、ドル、ユーロ、人民元の行方
(2005/02)
黒田 東彦

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日銀副総裁になられた岩田規久男氏の「デフレと超円高」という本を以前紹介したことがありました。今回紹介するのは、日銀総裁になられた黒田東彦氏が2005年に書いた本です。少し古い本ですが、黒田氏の考え方や歴史観がよくわかります。

本書は、イギリスやアメリカの「通貨の歴史書」と言えるかもしれません。経済学は歴史学でもあります。日銀総裁になれらた黒田氏が通貨の歴史に詳しいことに、安堵をおぼえました。その一部を要約して、紹介させていただきます。



・アメリカの通貨政策は揺れ動いてきたし、今後も揺れ動く。しかし、日本の通貨政策は極めて一貫している

・日本の場合、1970年代以降は貯蓄過剰体質によって、経常収支黒字が恒常的に発生したことから、それに匹敵する海外投資が行われないと、どうしても円高になる

・アメリカの通貨当局は、インフレ対策や景気対策のために、為替レートを動かそうとする。日本の通貨当局は、意図的な為替政策に慎重な態度をとる。要するに、アメリカの通貨政策が突発的で「プロアクティブ」、日本の為替政策は日常的で「リアクティブ」となる

・アメリカの企業や国民には外貨建て債権債務がほとんどないから、為替レートの変動がバランスシート問題を引き起こさない。しかし、日本はGDPの35%以上の対外純資産を保有(大半がドル建て)するので、ドル安がバランスシートに大きな影響を及ぼす

・ドルは多くの途上国で広く使用され、通貨ペックの対象なので、ドル高は中南米やアジアの途上国の経済にも影響を及ぼす。しかし、円高は途上国経済に影響を与えることがない。その結果、アメリカはいつでもドル安を主張できるのに対し、日本はそれができない

・アメリカは大統領制の下で、前政権の通貨政策を簡単にひっくり返すのに対し、議院内閣制下で自民党政権が続いた日本では、政治的な通貨政策の変更はなかった

・ポンドからドルへの通貨代替は、イギリスからアメリカへの世界経済の基軸の移行に40年遅れた。言いかえると、ドル中心の世界は、代替的なシステムが現れるまで続く

・対外投資が活発化すれば、円も安定する。その意味で、金融機関の国際力強化、賢明な投資家の育成は重要。円が国際化する前に、まず日本人が国際化する必要がある

ニュートンは、王立科学協会会長であると同時に、実務では1696年から造幣局長官を長く務めた。イギリスは早い時期に金本位制を導入したが、それはニュートンのときの純分で確定して、以後二百数十年にわたって続いた

・イギリスでは19世紀初め、経済活動が通貨量を決める「銀行主義」と、通貨量が経済活動を決定する「通貨主義」の論争が起こり、過剰なポンドの発行を防止する「金本位制」がインフレ防止政策となった。その結果、ポンドが信認され、国際通貨となった

・第一次大戦後、ヨーロッパ諸国は好景気に沸くアメリカへの輸出が、成長の重要な源泉だったので、アメリカの大恐慌は、イギリスを含むヨーロッパ諸国に深刻な影響を与えた

・今、イギリスの法人収益の半分以上が金融資源関連。製造部門は貢献していない

・アメリカは世界でも非常にユニークな国。純債務国なのに、いくらでもドルで債務がまかなえる。そのうえ、ドルが下落すると、輸出競争力が強まり、儲かる一方で、バランスシート上の損はない。バランスシート上で損をするのは外国人だけ

・1971年ニクソンショックの金兌換停止後、「たが」がなくなったことから、アメリカはドルが唯一の国際通貨という地位をフル活用して、通貨発行益を得るだけでなく、マクロ的な利益も追求するようになった

・ドルは下落すると、アメリカ経済に有利なので、アメリカ経済は強くなり、ドルは反転を始める。だから、ドル不安が起こり、ドルレートが大きく下がっても、また戻り、なかなか暴落はしない。ドルに代わる通貨が出てくるのは、いつのことかわからない

・アジアの資金をアジアに投資するために、各国が自国通貨建て債券を出しても、ベンチマークがないと、投資家はその債券をいくらで買っていいかわからない。国際的に流通する債券は、ある程度の量があり、高い格付けがあり、流動性がなくてはいけない

・世界に100の言語があれば、100の言語を理解しない限り、世界中の人と意思疎通できず不便。英語が国際言語になると、自国語と英語だけを理解すれば意思疎通でき便利。通貨も、国際通貨が一つあると便利。複数通貨制は不安定なだけ。ドル本位制は永続する


金融を引き締めて財政を健全化するのか、市中にお金をばらまいて景気をよくするのか。これらの論議は、松平定信田沼意次の時代からあります。また、通貨の質を落として、通貨量を増やす政策は、荻原重秀の時代からもあります。

要するに、歴史は繰り返されています。今、どんな時なのか、他国との関係も見ながら手を打てる人が、通貨の番人である日銀総裁にふさわしいのではないでしょうか。本書を読み、黒田東彦氏が歴史と世界事情に詳しいので、少々安心した次第です。


[ 2013/03/25 07:01 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)