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「・・・とは」「・・・人とは」を思索
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『世界一幸福な国デンマークの暮らし方』千葉忠夫

世界一幸福な国デンマークの暮らし方 (PHP新書)世界一幸福な国デンマークの暮らし方 (PHP新書)
(2009/08/18)
千葉 忠夫

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デンマーク在住の著者の本を紹介するのは、「格差と貧困のないデンマーク」に次ぎ、2冊目です。

本書は、単なる日本とデンマークの比較論ではなく、デンマークが幸福な国になった要因を探ろうとするものです。参考になった箇所がたくさんありました。それらの中から一部を、要約して紹介させていただきます。



・「あなたは幸せですか?今の生活に満足していますか?」と質問して、「幸せです」と答えた人の数を調べた「幸福度ランキング」において、約100カ国の中で、デンマークは世界一位。さらに、デンマーク人の約80%が「この国に生まれて良かった」と言っている

・デンマークの哲学者キルケゴールは、「単独者の主体性こそ真理」と説く、個人主義、実存主義を唱えた。キルケゴールの思想もデンマークが社会福祉国家になった一つの要因

・デンマークは、政治における腐敗が世界一少ない国として有名。その政治運営は非常に透明であり、何が行われているか、政治の中が見えるように、国民は常に留意してきた

・デンマークは女性の社会進出率が高く、80%近い女性が働いているので、男性と同じくらい税金を払っている。女性の就業率の低い国と比較すると、国家収入が大きく増える

・女性が社会進出すると、家庭で子供や障害のある人、高齢者の世話をする人がいなくなるので、保育園、幼稚園、障害者施設、高齢者施設を整備しなくてはならない。それらの施設で働く主体は女性だから、女性の職場が増えてくるという好循環が生まれる

・デンマークの農業は自給率が300%。食べ物があるというのは、非常に安心で、経済が安定する

・デンマークでは、国民が納めた税金の用途が、国税局から公表される。国家予算の75%は教育、文化、医療保険、福祉に使われている

・富(収入)の再分配をメインにしてきたソ連、東欧は崩壊した。それらの諸国との違いは、デンマークは社会福祉国家だけれども、社会主義国ではないこと。デンマークは資本主義国であり、完全に西欧圏であること

・ソ連や東欧は、政治家の贈収賄などの腐敗が横行していたが、デンマークは世界一贈収賄が少ない国。クリーンで、人をだまさないというのは、教育のなせるワザ

・デンマークは、他国から「高福祉高負担」と言われるが、デンマーク人は「負担」と思っていない。なぜなら、いろいろな形で国民全員に還元されているから

・正確には「高福祉高負担」ではなく、「高福祉高税」。85%のデンマーク人は、今の税率、今の福祉サービスで満足している

道州制を導入し、地方分権すれば住みよくなる(住民に一番近いところで政治、福祉が行われる)。九州と同じ大きさのデンマークも、14あった県を5つの自治区に改革した

デンマークの投票率は高く、国会議員の場合は約90%、地方議員や知事、市長の選挙においても75%を切ることはない。自分たちがどのような生活を望むかを、自分たちが決めていることが、この投票率に如実に表れている

・日本の高校や大学では、スポーツに長けた生徒の優先入学があるが、デンマーク人には理解できない。なぜなら、高校や大学は学問をするところで、スポーツは「学校外」のスポーツクラブで磨きをかけるから

・職業別専門学校には、すべての職業についての専門科目(自動車整備工、美容師、店員など)があり、それらの専門知識や技能を3年間で学ぶことができる。デンマークの専門学校の特徴は、実習がカリキュラム時間数の半分以上を占めていること

・デンマークの教師の初任平均年齢は27~28歳。きちんと大人になった教師が子供を教育している

・デンマークでは、在宅介護が進んでいる。大きな施設をつくるより、在宅介護のほうが経費が安いうえ、高齢者も今までの生活を続けることができる

・自分がいつ社会的弱者になっても困らない社会をつくる、社会的弱者になったときのことを考えられる人間にならなくてはいけない。幸せな国に住む国民は、継続的に幸せな生活を送れるように、常に自分で選択し、思いやりをもって目の前の社会に向き合っている



デンマークは、資本主義国であり、民主主義国であり、社会福祉国です。デンマークがこうなったのは、案外、歴史的に浅いことです。

国民の強い意志があったから、早期にこうなれたのだと思います。日本人も、日本人としての希望や目標をもっと明確に打ち出すべきではないでしょうか。そうなったとき、デンマークが身近なモデルになるのかもしれません。


[ 2013/02/28 07:00 ] 北欧の本 | TB(0) | CM(0)

『横井軍平ゲーム館RETURNS』横井軍平、牧野武文

横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力
(2010/06/25)
横井 軍平、牧野 武文 他

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横井軍平さんを知らない人が多いと思いますが、任天堂で数々のアイデア玩具を開発した後、ゲームウォッチファミコンを発明した方です。日本ゲーム界の父であり、日本国に多大なる貢献をされた方です。将来は、ゲーム神社?に祀られるかもしれません。

残念ながら、1997年、56歳で交通事故死されました。亡くなられる直前にインタビューしたものが本書です。日本の技術開発への指針となる言葉が数多く遺しておられます。それらの中から、一部を要約して紹介させていただきます。



・「売ることに徹すること、技術者の見栄を捨てることが、私の開発哲学。そう思って、今までやってきたものが、そこそこヒットしているので、そう外れた考え方ではないと思う」

・「私には専門の技術がない。全体をぼんやりと知っている程度。何かを作るときに、技術が必要でも、自分で勉強せずに、専門家を集めてきたらいい。開発のキーマンは『おまえ何やってんだ』と言われるのが怖くて、自分で勉強してしまう。それが間違い」

・「全体が見られる人間がこの世の中に少ない。みんな細く深く技術を習得していこうという姿勢になる」

・「『こうやれ』と高圧的に命じてしまうと、そのグループは動かないし、知恵も出してくれない。まかせてしまえば、技術者がやる気を出して、いろいろと提案をしてくれる」

・「理屈がわかっていないといけない。理屈がわかっていれば、どんどん応用が利いてくる」

・「難しい計算ができるのが偉いんじゃなくて、その計算をしたら何に役立つかがわかることが大切」

・「不要不急の商品のニーズは『暇つぶし』。暇つぶしのニーズを探り出すのは、そう簡単にはいかない。『何をしたら楽しいか』というのは、なかなか見つけにくいもの」

・「技術者にユーザーが何を求めているかを伝えることは簡単。しかし、『ユーザーが何を求めていないか』を探し出すのは難しい。『ユーザーはこう言っているが、本当のニーズはこうなんだ』ということを技術者に説明するインターフェイスの役目をする人間が必要」

・「インターフェイスになる人は、決して優秀な技術者である必要はない。センスがある人感覚が優れている人にやらせばいい。それを直接技術者がやったのでは、あれもできるこれもできるで、すごい商品を作ってしまう。すごい商品は必要ない。売れる商品が必要」

・「それを、お金を払って買う気になるかをいつも自問自答している。つねに第三者の目で、自分のやっている仕事を見直すことが重要なこと」

・「技術者というのは、自分の技術をひけらかしたいものだから、すごい最先端技術を使うことを夢に描いてしまう。それは商品作りにおいて大きな間違いとなる。売れない商品高い商品ができてしまう」

・「『その技術が枯れるのを待つ』こと。つまり、技術が普及すると、どんどん値段が下がってくる。そこが狙い目。ゲーム&ウォッチを5年早く出そうとしていたら10万円の機械になっていた。それが量産効果で、3800円になり、それでヒットした」

・「枯れた技術を水平に考えていく。垂直に考えたら電卓、電卓のまま終わってしまう。そこを水平に考えたら何ができるか。そういう利用法を考えれば、いろいろとアイデアは出てくる。これを私は『枯れた技術の水平思考』と呼んでいる」

・「ものを考えるときに、世界に一つしかない、世界で初めてというものを作るのが私の哲学。それは、競合がない、競争がないから」

・「安く作らないと売れないというのは、アイデアの不足

・横井氏に入れ込んでしまうのは、アナログ玩具だけの人でもない、デジタル玩具の人でもない、両方で活躍した人だから。こういう人は、世界的に見ても、ゲーム業界以外の世界を見ても、極めて貴重。そろばん職人が、コンピューターを開発したようなもの

・「枯れた技術の水平思考」は、先端技術で勝負するな、アイデアで勝負しろという教え

・「ものぐさ+便利」「動きの面白さ」の二つは、横井マインドそのもの

・横井氏は、「実直そうな人」という印象だが、実は音楽や自動車に造詣が深い「趣味人」。子供のころからピアノを習い、学生時代は社交ダンスで大会に出場、外車を乗り回し、夏にはダイビングを楽しむ学生時代を送った。この頃の感覚が生きているものが意外に多い



ゲーム文化を創った横井軍平さんが、仕事や会社や人生を楽しんでいたことがよくわかりました。文化を創るということはこうでなければいけません。

日本人は、アリのように真面目に働きますが、その上にキリギリスがいないと泥沼に入ってしまうように思います。ずるくないキリギリスの存在が、今後ますます重要になっていくのではないでしょうか。


[ 2013/02/27 07:03 ] 仕事の本 | TB(0) | CM(0)

『8つの鍵』ロイス・クルーガー

8つの鍵8つの鍵
(2009/09/19)
ロイス・クルーガー

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本書のサブタイトルは、究極の富と幸せの原則です。豊かさの入口にある鍵の開け方を、8つの方法で示した書です。

よくありそうな本なのですが、著者の目のつけどころが秀逸で、参考になる点が多々ありました。これらの一部を、要約して紹介させていただきます。



・財産の中で、最も価値のあるものは、信念価値観知識才能スキルといったもの。このような財産があるからこそ、金銭的な富や幸福が生まれる。お金を超えた真の富は決して奪われることはないが、突然現れるものではなく、日々の努力がなければ築かれない

・幸福とは、「心の中から生まれた価値観のもと、生活を送ることで、自然と得られる喜びや平和」である

・素晴らしい人格の持ち主は、自身の選択によってもたらされた結果が良いものであっても、悪いものでもあっても、そこから逃げるようなことはない

・「偉大なリーダーは皆、自分の手柄を受け取らず、むしろそれを他人に与えるような人格の持ち主である」(ジェームズ・C・コリンズ)

・金銭的な富を得るためには、勤勉さが欠かせない。よって、富を求める人は、勤勉という法則、価値観を取り入れることが大切

・価値観を形成する要因は、「家庭」(愛を学ぶ)、「テレビ」(人生を向上させる番組を観る)、「宗教」(人生にプラスとなるものを見つける)、「インターネット」(膨大な量の情報から選ぶ)、「友人と社会」(良い友人を探し求める)の5つ

・内面的に豊かな人にとって、お金とは「基本的な人間の欲求や安らぎを満たすための交換手段の一つ」である

・金銭的な富を創造する資質を得たいと思っているときは、「倹約」が、あなたにふさわしい価値観および信念になる。裕福な人々のほとんどが質素である。倹約や質素は、彼らの核となる価値観である

・目標をつくる作業は、自分の人生の「地図」を下書きしているのと同じこと

・人が目的地にたどり着くには、正しい地図が必要。目標は人生における信念を達成するために不可欠のものであり、目的地へ向かうための交通手段の役割を果たしてくれる

・大切な信念と目標を、どこへでも持ち運びできる携帯ツールに取り込んでしまえばいい。携帯ツール(スケジュール帳、携帯電話、パソコンなど)をいつも手元に置き、心のコンパスに磁力を与えることで、信念と目標に向かって歩むことができる

・人間が集中できる目標の数は3つだけ。最大限に効率を高めたいのであれば、一度に一つのことだけに集中すべき

・目標達成に必要なエネルギーには、「肉体」(食事、運動、睡眠)、「脳」(刺激と休息)、「感情」(愛)、「精神」(貢献)という4つの側面がある。人は、エネルギーをたくさん持っている人に魅力を感じ、惹きつけられる

・自己中心的な理由で人と関係を築こうとしてはいけない。人間関係を築くための動機は、相手の利益を常に追求すること

・「その場にいない人に忠実であれ」。つまり、陰口を言わないこと。相手に欠点があると思うならば、正直に相手に話すこと。話しづらいことでも面と向かって伝えること

・望ましい結果を得るには、結果を計測することが不可欠。結果の計測は、やる気を引き出し、最終目標に到達するための原動力になる。通帳の残高でも、仕事の成果でも、計測することによって、「毎日進歩している」と実感すること

・人は善良な人を信用し、悪人は信用しない。だから、善良な人は、計り知れないほどの影響力と尊敬に値する力を持つことになる

・逆境は、人を成長させるだけでなく、謙虚な気持ちにもさせてくれる。逆境に追い込まれている状態では、これまでの問題解決の手法が通用せず、新しい方法を見つけなければならない

・人生というのは、「善い思い出」をつくる過程である



ただただ、常識的なことが、数多く書かれていますが、その「常識的なこと」が堂々と書かれている本は、信用できるものが多いと思います。

常識、王道、基本ほど、やり続けることが難しく、忍耐が必要です。その忍耐の大切さを教えてくれる書なのかもしれません。


[ 2013/02/26 07:01 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)

『アジアの世紀の鍵を握る-客家の原像』林浩

アジアの世紀の鍵を握る客家の原像―その源流・文化・人物 (中公新書)アジアの世紀の鍵を握る客家の原像―その源流・文化・人物 (中公新書)
(1996/05)
林 浩

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客家の本を、何冊かとり上げてきましたが、客家の源流、文化、歴史に関する書は、初めてです。客家の背景には何があるのかを知りたくて、本書を読みました。

客家を詳しく知ることができ、参考になったところが数多くありました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・宋朝が滅んでもモンゴルの元朝に降服せず、明朝が滅んでも満州族の清朝に屈服しなかったのが、中国のユダヤ人といわれる客家。5世紀以来、千数百年にわたって、多くの苦難を乗り越えてきた

・博士や教授を輩出したことで有名な客家の土楼の門の両側には、「奮起せよ、暇な時はない。幼い時も壮年時にも老年になっても、いつも努力せよ」「名をなすことは容易ではない。家事、国事、天下のことすべてに関心をもて」と彫ってある

・客家が多くの人材を輩出している原因の第一は、「家名をあげ先祖に栄光をもたらす」という強烈な心理や意識。第二は、「知識や教養を高め、教育を重んじて家を興す」という意識。第三に、客家がもつ「刻苦耐労、進取開拓」の奮闘精神

・6000万人の客家は現在、華南の丘陵地帯、南部沿岸と島嶼部、四川盆地、さらに、東南アジア、南アメリカ、インド洋島嶼部およびアフリカ南部の各地に、集団で暮らしている

・客家は自分たちの言葉を大切にする。各地の客家はみな「寧売祖宗田、不売客家語」(先祖の田畑は売っても客家語は捨てない)という古訓を尊ぶ

・客家語と日本語には、非常に多くの接点がみられる。古代日本語は、漢字の読み方を借りて、事物を記録した。客家は漢語の古音を保ち続け今日に至っている。当然、日本語と客家語は漢字の発音が近い

・おかゆや撈飯(水分の多い飯)のほか、客家人の食卓には、南方各地に見られる芋類がある。千数百年来、客家は芋類を栽培してきた。芋に対して、感謝の念を持っている

・客家の土楼は、単に住居として雨露をしのぎ、外敵を防御するという役目だけでなく、氏族の連帯感を高め、血縁と文化的伝統を保ち続ける役目を果たしている

客家の精神生活を支配しているのは、「道教の神祇」、「仏教の神祇」、「漢民族・客家の神祇」の神々。他に、植物崇拝(風水林、巨木、椿、花神)、動物崇拝(亀、鶴、蚕、神話の中の蛟龍・鳳凰・麒麟)といった自然物を祭り拝み、災いを払おうとした

・「嫁をもらうなら客家の娘」、華僑社会では、昔からこの言い伝えがある。客家の女性がこなす重責として、「四頭四尾」(「田」田畑の耕作、「竈」台所仕事、「家」子供の教育・老人の世話・家計管理・掃除洗濯、「針」機織・裁縫・刺繍)の古訓がある

・客家人の間では、怠惰、ぜいたくな生活は恥ずかしいこと。「怠け女」は嫌われる。客家の童謡では、怠け女を痛烈に批判している

・客家の祠堂の前には、多数の「石筆林」(石材や木材の巨大な毛筆)がそびえ立つ。科挙に合格して名をあげる者があるごとに、その石筆を建てて栄誉を記念した。教育を重んじ、学問を尊んできた証拠

・客家の老人たちは、常々、子供たちに、「不読書、将来盲眼珠」(勉強しないと、物事の善悪を見分けられないよ)、「不読書、無老婆」(勉強しないと、お嫁さんをもらえないよ)と、教え諭した

・客家の子弟には、勉学のための座右の銘、「読読読、書中自有黄金屋」(読書だ!書物の中には黄金の家がある)、「読読読、書中自有千鍾粟」(読書だ!書物の中には高禄がある)、「読読読、書中自有顔如玉」(読書だ!書物の中には美しいお嫁さんがいる)があった

・客家の氏族の祠堂はみな、多くの共有資産をもっており、その資産の収入で学問を奨励している。貧しい家庭の子弟も、読書・勉学の道があり、文字が読めるようになる。これこそが、教育の機会均等

・客家は教育を重視するから、当然、知識人を尊敬した。客家地区では、教師医師風水師の三師だけが、「先生」と尊称されている

・客家を励まし開拓奮闘させた精神には、「外交型」「親和型」「倫理型」の特質がある

・客家は古来、「節」(忠を尽くすこと)を極めて重視してきた。「金銭は糞土のごとく、仁義は千金に値する」。客家の多くの人は、これを自己の行動規範としている



本書を読むと、客家の人たちに流れている血と伝統を知ることができます。世界中で、活躍している理由がよくわかります。

教育の奨励、倫理観の確立、先祖崇拝と相互扶助、これらをバックボーンとしている限り、これからもずっと繁栄し続けていくように思いました。


[ 2013/02/25 07:01 ] 華僑の本 | TB(0) | CM(0)

『木村伊兵衛と土門拳・写真とその生涯』三島靖

木村伊兵衛と土門拳 写真とその生涯 (平凡社ライブラリー)木村伊兵衛と土門拳 写真とその生涯 (平凡社ライブラリー)
(2004/01/25)
三島 靖

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木村伊兵衛と土門拳、二人の画風、作風は違いますが、戦後を代表する写真家です。

本書は、二人の発言をもとに、その思想や哲学を探ろうとするものです。写真家の神髄や崇高な魂を感じる部分が多々ありました。それらを一部ですが、紹介させていただきます。



・「自分の作品の前に立たされるのは、ぼくが裸にされて、みんなに見られるようなもの」(土門拳)

・「土門拳はぶきみである。土門拳のレンズは人や物を底まであばく。レンズの非情性と、土門拳そのものの激情性とが、実によく同盟して、被写体を襲撃する」(詩人・高村光太郎)

・カメラの軽さで写真を楽しんだ木村伊兵衛、カメラの重さで写真と対決した土門拳

・「当時(1920年代)、絵画とは異なった『空間と時間性』という写真の持つ独自の世界のあることを理解していたので、この流派(叙情的な風景写真の愛好家)から遠ざかっていた」(木村伊兵衛)

・「読者に強く訴える写真は、まず第一に、それが大きな感じを持つこと。それは何かと疑問を持たせること。模様風な構図をもっていることだ」(木村伊兵衛)

・「モチーフが叫ぶ声に耳を傾け、その指示するがままにカメラを操作すればよい。その指示のままにカメラが操作される時、カメラとモチーフが現前する。その結果としての作品は、この世の美しきもの、真実なるものの化身」(土門拳)

・「何も撮った写真を新聞や雑誌や展覧会に発表するものと決めてかかる必要はない。ぼくらは見たり考えたりしたことを、まず妻や子供や友達に語るではないか。語らずにはいられないではないか。その辺から始まると思えばいい」(土門拳)

・「写真の真実性とリアリズムというものを、はっきり分けないといけない。真実性というのは、誰が写しても写真が持っている真実。リアリズムは、作家の心の中の真実を表現しようというものが加わらなければいけない」(木村伊兵衛)

・「いやに大人になっちゃった。あの人(土門拳)は、大人になったらいけないんですよ」(木村伊兵衛)

・作品における体臭過剰の危険性を避けるために、「木村伊兵衛」を後退させて、カメラのメカニズムに、その表現を託そうとした

・「つとめて主観を排して、実物通り、正確に撮ることを信条としているのだが、その実物通りというやつが御婦人方には禁物らしい」(土門拳)

・「写真家の女の写真というのは、女を撮れていない。ただ美しいだけで、まるで人形。あれじゃ、便所へ行ってもションベンしませんよ。やっぱり、ションベンをする女を撮ろうと思った」(木村伊兵衛)

・「見れる条件のある人、見るだけの機運にある人が見てくれればいい。あとは、その人自身の気持の中で、その人自身の口を通じて、何となく伝播していく」(土門拳)

・「いい写真というものは、写したのではなく、写ったのである。計算を踏みはずした時にだけ、いい写真が出来る。僕はそれを、鬼が手伝った写真と言っている」(土門拳)

・「報道写真家として今日ただ今の社会的現実に取り組むのも、奈良や京都の古典文化や伝統に取り組むのも、日本民族の怒り、悲しみ、喜び、大きく言えば、民族の運命に関わる接点を追求する点で、同じことに思える」(土門拳)

・「長い間、中国仏教文化の影響下にあった日本仏教文化が、日本的なものを志向して自己変革を企てはじめた(時代の仏像は)日本民族の自主独立の矜持とヴァイタリティを探る(素材)」(土門拳)

・「千年以前創建の古寺を訪れても、古寺を訪れていると思ったことはない。現代の時点での接点を探究し、意義を追求しているのであって、古寺としての情緒や懐古に耽るためではない」(土門拳)

・「私の写真は、みんなの生活の延長線上にあるものです。みんなが見て、喜んでもらえればそれでいい。だから、高い値段はつけたくないんです。現像所へ出せば300円だから1000円でも大変な儲けですよ」(木村伊兵衛)



写真の可能性を信じた写真家として、よきライバルであり、天才であった、木村伊兵衛と土門拳の二人。同時代を生き抜き、出発点はさほど変わらなかったのに、見たもの、感じたもの、写したものは、好対照になっていきました。

この二人の天才を通じて感じるのは、天才とは、「自分の考え、哲学、思想を固め、それを信じて、邁進していく者」ということです。どの分野でも、同じなのかもしれません。


[ 2013/02/23 07:15 ] 芸術の本 | TB(0) | CM(0)

『世界の壁-この本を読めばだれでも議論したくなる』沓石卓太

世界の壁―この本を読めばだれでも議論したくなる世界の壁―この本を読めばだれでも議論したくなる
(2008/10)
沓石 卓太

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とても易しい哲学書です。とても不思議な哲学書です。どの言葉も短いですが、内容は非常に濃く感じられます。

サブタイトルに「この本を読めばだれでも議論したくなる」とありますが、その通りです。この簡潔な哲学書の中から、感銘した文章を選び、要約して紹介させていただきます。



・社会とは、「約束事は守られるという実績」の積み重ねの上に成り立つ概念

・戦いの形に限らず、勝つための一番大事な用件は、多数の人に支持されること

・民主的な手続きを経て成立した政権ならば、国民はもとより、周囲の国にとっても、安全な政権

・民主主義の制度は正しい。しかし、賢い大衆でなければならない

・人々の行動に干渉できる力を「権力」とすると、考え方に影響力を持つのが「権威」

・宗教は信じることが出発点。誰かが信じたことを他の誰かも信じるという連鎖で始まる

・宗教や既存の哲学に、世界の政治のあり方に答えを求めても、建設的な答えを得ることはできない。むしろ、宗教や既存の哲学は、議論の成立を阻む壁となる

・人間には、人間を取り巻く現象のすべてを理解する能力は備わっていない。また、その必要もない。知識を追究するにしても、究極に至ることを使命と考える必要がない

・私たちは、いろいろな人と接触する。そういうことが可能であるのも常識のおかげ。人はみな、常識という緩衝材を上手に使って暮らしている

・マスコミは、社会の欠陥を記事にするだけ。マスコミは大衆に受けなければならないが、マスコミの姿勢は大衆に影響を与える。豊かな社会の「合意の必要性」を理解してほしい

・大衆の価値観で動くのが民主主義。二本立ての価値観が日本の特徴。二本立ての元は、神道と仏教。どんなところにも、神社とお寺がある

・論理の目的は人を納得させること。論理は納得できるものでなければならない

・仏教は宗教であるが、同時に哲学としての内容も持つ。そこが日本人を熱中させた。仏教に哲学的な印象があるのは、永遠永久こそ最高の価値であるという考え方に由来する

・生きることの本質は、感じることにある。考える能力だけが、人間性ではない

・日本では、議論を避けて、ことを決めるのが半ば習慣になっている。正面切って議論するとうまくいかない。議論を避けて、ことを決する技術がなければ、人をまとめられない

・誰にとっても、世界の中心は自分。世界は、そういう存在である

・善悪は約束をすることで生じる。社会は、約束は守られるという前提で成り立っている。約束を破ることが、反社会的行動になるのは当然

・日本では、タテマエは仏教的価値観、ホンネは自分、になる。そして、この両者の折り合いがつかない。ホンネが通る雰囲気の中で、タテマエでいくと、「嘘つき」と非難され、タテマエが必要な中で、ホンネを出すと、「自分勝手な奴」と非難される

・欲望を否定しても、きれいな社会はできない。欲望を肯定してこそ、議論が可能となる

・民主主義は、無責任体制になりやすい。誰を恨むことができないのが民主主義

・民主主義を成功させるためには、政治の意味と、リーダーを選ぶことの難しさを十分認識しなければならない

・批判するだけがマスコミの仕事ではない。民主主義の政治は強い政治ではない。力で奪い取った権力とは違う。みんなで盛り上げみんなで守らなければならないのが権力

・日本では、議論することは、欲望を論じることに通じるので、はしたない行為と見られる。多数の人が、欲望は悪であるという考え方を持っていれば、議論は成立しない

・新しい構想が実現するまでは理想。計画通りにいかなくても、結果は新しい現実となる。それが、次の新しい理想を描く出発点となる



この本には、当たり前のことが書かれているように思います。しかし、この当たり前が、当たり前でなくなっているところが、日本社会の病理であるのかもしれません。

この病理を根絶していこうという意志が弱まったとき、社会が悪い方向に進むように感じます。意志を強めていくための一助として、本書の価値があるように思います。


[ 2013/02/22 07:01 ] 幸せの本 | TB(0) | CM(0)

『幸せはいつもちょっと先にある・期待と妄想の心理学』ダニエル・ギルバート

幸せはいつもちょっと先にある―期待と妄想の心理学幸せはいつもちょっと先にある―期待と妄想の心理学
(2007/02)
ダニエル ギルバート

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著者のダニエル・ギルバート氏は、ハーバード大学社会心理学部の教授です。未来の感情を予測する心理について研究されています。

未来を悲観する人間もいれば、楽観する人間もいます。悲観も楽観もせず、正しい予想をする方法がないのかが、本書の主旨です。参考になった箇所が幾つかありました。それらの一部を紹介させていただきます。



未来について考えるのが、あまりに心地よいため、われわれは現実にそこへ行き着くより、それについて、ただ考えるほうを好む

・わざわざ好ましくない出来事を想定する理由は、「受ける衝撃を最小限に抑えられるから」と「恐れ、心配、不安が、慎重で予防的な行動をとらせるのに効果的だから」

・目の錯覚、記憶の錯覚、未来の錯覚の三種類の錯覚は、すべて同じ人間心理の基本原理

・徳のある人生を送ることが幸せをもたらすとしても、それは原因であって、幸せそのものではない

・幸せは主観的な経験であり、自分自身にも他人にも説明するのが難しいため、他人の主張する幸せを評価するのはおそろしく困難な仕事

・脳が過去を思い出したり、未来を想像したりするとき、たっぷりの「穴埋め」のトリックを利用する。記憶行為には、保存されなかった細部の「穴埋め」が必要

・過去を思い出そうとするとき、頻繁に「今日」を使い、今の考えや行動や発言を、かつての考えや行動や発言として思い返している

・現実の今をつらいと感じることで精一杯のときに、想像の未来を楽しいと感じることはできない

・すばらしい出来事は、最初に起こったときが特別すばらしく、繰り返し起こるにつれ、すばらしさが薄れてしまう。この「慣れ」を打破するのは、変化と時間。そのためには、「経験の数を増やす」ことと「次に経験するまでの時間間隔を増やす」こと

・われわれは、未来の感情を予測するとき、自然と現在の感情を出発点にするため、未来の感情が、実際以上に今の感情に似ていると思い込む

・現在主義が起こるのは、未来の自分が世界を見る見方が、今の自分の見方とは違うことに気づかないから

・人は、何かいったん自分のものになると、それを肯定的に見る方法を見つける

・自分より成績が悪い人の情報ばかりを求める傾向は、賭けたものが高価な場合、特に顕著になる。さらに、自分より成績の悪い人を見つけられないと、成績の悪い人を作り出すようになる

・説明できない出来事は、第一に「まれで珍しい出来事に感じる」。第二に「その出来事について考え続ける」

・われわれは、経験の「快楽」を、その終わり方で判断することが多い。経験の「喜びの総量」を明らかに考慮していない

・われわれが何かを思い出そうとすると、記憶は何でも好きな情報を使って、新たにイメージを組み立て直し、それを心のイメージとする

・富が人間の幸せを強めるのは、赤貧から抜け出して、中産階級になる場合だけで、それ以上は、ほとんど幸せを強めない

・富と名声の喜びは、壮大で美しく高貴なものと想像される。富を得るためなら、どんな勤労や心労も喜んで引き受ける価値があるという欺瞞こそ、産業を刺激して絶え間なく動かし続けるもの

・富の生産は必ずしも個人を幸せにするとは限らないが、経済の必要を満たしていて、その経済は安定した社会の必要を満たし、その安定した社会は幸せと富についての欺瞞的な思想を広めるネットワークとして働く



人間の一生は、錯覚の一生かもしれません。不安、心配、恐れを緩和するために、錯覚するのはいいことですが、将来予測を錯覚によって、見誤るのは、よくないことです。

しかし、この錯覚がないことには、何事も、前には進みません。未来に必要以上の期待を抱くからこそ、前向きに生きられるのだと思います。

著者が言いたかったのは、「希望と期待はよいことだが、それらを持ちすぎるのは、よくない」ということなのかもしれません。


[ 2013/02/21 07:01 ] 幸せの本 | TB(0) | CM(0)

『あの日、「負け組社員」になった…』吉田典史

あの日、「負け組社員」になった…―他人事ではない“会社の落とし穴”の避け方・埋め方・逃れ方あの日、「負け組社員」になった…―他人事ではない“会社の落とし穴”の避け方・埋め方・逃れ方
(2009/12/11)
吉田 典史

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著者は、実際に、上司とぶつかり、退職を求められ、それを拒み、経営陣と争った方です。会社員が負け組になるのは、大きな差ではなく、たった1ミリの差(ささいな言葉や行動、ささやかな配慮)であると述べられています。

負け組にならないためには、どうすればいいのか、著者の実体験による数々の指南は、会社員として身を守るために役立ちます。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・後輩を育てると、今度は自分の立場が脅かされる。「○○を育ててやってくれ」といった命令は、聞いているふりをしておくだけで十分。正直者がバカをみるのが日本の会社

・人事部は、異動のときに「君の引き取り手はいない」と嘘をつき、その社員の責任にしようとする。引き取り手を探すのが人事部の仕事のはず

・人事部は、「そんなことは言っていない」とあいまいにする。人事部は、形を残したくない。対策として、合意事項の一筆啓上を願い、それが断られても。ICレコーダーなどに録音しておき、貴重な証拠とすること

・まともな会社は、社員を辞めさせようとするとき、解雇などせずに、社員の自尊心を傷つけてくる、仕事を取り上げる、年下の社員の傘下に入れるといったからくりを心得ておくこと

・前職で優れた実績がある人を認めない文化が根強い会社に行っても、入社後苦労する。歴史ある従業員300人以下の会社にそういう例が多い

・20代~30代の浅はかな女性は、徒党を組んでエスカレートする。泣き寝入りすると、一段とひどくなる。彼女たちには明確な論理がないので、自分が狙われたら、みんなの前で、大きな声で反論すること

・一定水準以上の会社では、社内競争が激しく、変人を排除する意識が高い。したがって、職場での感情的な発言はタブー。小さな会社では、社員がごねる言動をとると得をすることもあるが、そのせいで、意識の高い人が辞めていく

・争いになったとき、会社は退職強要を素直に認めず、「辞めろ!なんて言っていない」とシラを切る。会社は、どこまでもダーティーな組織

・部長が「辞めろ!」と言ったら、それは社長が言ったことと同じ意味。弁護士や労働監督署などは、部長を訴えると同時に社長を訴えることができる

・社内の噂は、「その社員を排除したい人が流すもの」と「他人の噂をすることでしかストレスを発散できない人たちが吹聴するもの」の二つの力が結集されて、「噂が噂を呼ぶ」状態となる

・役員や人事部が守るのは、けっして会社員ではない。あくまで会社を守る

・会社では、「人の噂も20日」。所詮、それくらいの希薄な人間関係しかないのだから、いじめを受けても、排除されても、落ち込む必要はない

・「あなたたちに何の責任もないとは言えない」の言葉は、権力の側にいる人の常套句。日本がかつて戦争に負けたときも、当時の指導者層は「国民に責任がないとは言えない」として、戦争責任をうやむやにした

・社員を辞めさせるときの常套手段は人事異動。不得意な仕事をさせる部署などに送り込もうとする。だからこそ、自分が異動になる理由は聞いておくこと

・冴えない女性たちから支持を受けるボス的な女性には注意すること。自分を過大評価し、慇懃無礼な態度をとる可能性が高い。けっして相手にしないこと

・「学歴なんて一切関係ない」と言う人は、不満を抱え込んでいる人。うまくいっている人を陥れようとするので、警戒すること

職場で浮く人は、自分が見られているという意識が弱い。こんな人は、遅かれ早かれ、排除される

・「独立」という言葉を口にするのはタブー。それが、いずれ上司や人事部の耳に入る。その結果、評価で低く扱われたり、配置転換などを受けやすくなる。不満があっても、それを口にしないのがプロの会社員



自分が会社員時代、「あってはいけない行動」をよくとっていたように思います。今思うと、背筋が寒くなってきます。

致命傷となる「スキ」をつくらないために、気をつけておかねばならないことが会社生活には多々あります。本書には、その「スキ」を埋めるポイントが列記されているように思います。


[ 2013/02/20 07:01 ] 仕事の本 | TB(0) | CM(0)

『お金の科学~大金持ちになる唯一の方法~』ジェームス・スキナー

【CD-ROM付】お金の科学~大金持ちになる唯一の方法~【CD-ROM付】お金の科学~大金持ちになる唯一の方法~
(2011/04/22)
ジェームス・スキナー

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著者は、シンガポール在住のアメリカ人経営コンサルタントです。数年前までは、日本で暮らしていて、何度か、テレビで、そのお顔を拝見したことがあります。非常にクレバーな方との印象を受けました。

著者は、日本在住期間も長く、東洋的な物の見方もされるので、日本人が読みやすいように編集されています。参考になるところも多々ありました。それらの一部を紹介させていただきます。



・聖書の中に「求めれば、与えられる。探せば、見出す。叩けば、開かれることを得ん」という言葉がある。あなたの心は、あなたの世界を創り出す

・自分の知っている事柄(最も記憶の多いもの)をやっているとき、安心を感じる。未知・未経験の事柄(記憶にないもの)を行おうとするとき、不安に襲われる。安心領域は、過去の世界(制限と限界のある世界)の別名

・精神異常とは、同じことをやり続けて、違う結果を期待すること

・「集中するものは拡張する」は自然の法則。すでに持っているものに集中していれば、持っているものが増える

・競争マインドによって手に入れた富は身に付かない。このような方法で得られた富は、魂に満足を与えることもない

・良いことが言えなければ、何も言わない方が良い

・磁石は、価電子が一つの方向を向いたときにできるもの。つまり、共通の方向性ができるとき、磁場が発生し、引き寄せの現象が起こる

・あなたの基準を引き下げようとする人、あなたの目標や夢を批判する人、あなたを見下したりする人は、あなたの友達ではない

・週末を一緒に過ごしたくない人を雇ってはならない。能力は、人格の欠如を補うことはできない

・接する人たちを厳選することが大切。自分の目標達成を支え、応援してくれるグループを構築するには、「申込制ではないこと」「メンバーはプラスマインド・可能性マインドを持つこと」「一緒にいて楽しい人」が条件

・グループを運用するには、「定期的に集まる」「可能性を思わせる場所に集まる」「1カ月の活動と成功の報告をする」「お互いの望むことをお互いのために望む」「善を望む」「楽しい時間を過ごせる」こと

・運とは、準備が機会に出会ったときに起こる現象

・富は、「思い」によって引き寄せられ、「仕事」によって受け取られる

・自分が高く買われる場所に行くこと。正しい才能が間違った場所にいれば、価値はない

・想像力によって、無限の商品、サービス、情報、経験、感情を作り出すことができる

・現在の不満を解決することは、将来の富の最も大きな根源である

・新しい価値創造のアイデアを受けたとき、他の人が、そのアイデアに「共鳴してくれるか」「興味を示してくれるか」「興奮するか」「腰を抜かすか」。アイデアは、人の興味と関心を惹くものでなければならない

・マーケティングとは、自分のアイデアを広めること。広まるアイデアが勝つ

・「伝えたいメッセージを明確にする」「何回もそれをテストする」「どの言葉が最も大きなインパクトがあるかを確認する」

・質の低い資産は、毎年価値が下がる。または大きな維持費がかかる

時間管理の秘訣は、より少ない時間でより多くのことを成し遂げることではない。最も大切なことのみを行うこと

・成功する人は、成功しない人の嫌がることを実行に移す。彼らは、その嫌いな気持ちを、目的の強さに服従させる



自己の可能性を信じて、とにかく実行すること。これこそが、大金持ちになる唯一の方法なのかもしれません。

そのためには、自己の可能性を、一つに絞ることから始め、他の一切合財を棄て、一つに集中すること。本書は、そういうことを示唆してくれる有り難い書ではないでしょうか。


[ 2013/02/19 07:01 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)

『インスタントラーメン発明王・安藤百福かく語りき』

インスタントラーメン発明王 安藤百福かく語りきインスタントラーメン発明王 安藤百福かく語りき
(2007/02)
安藤 百福

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安藤百福さんは、インスタントラーメーンを発明した日清食品創業者です。5年ほど前に96歳という長寿を全うされましたが、その生前の貴重な発言をまとめたものが本書です。

不屈の魂を持つ苦労人(48歳でチキンラーメンを開発)だった著者の含蓄ある言葉が並びます。短いが、重みのある言葉が数多く集録されています。その中から、印象に残った言葉を紹介させていただきます。



・私は落選した代議士が好きだ。選挙区に腰を落ち着けて、市民の声を聞く。人の心の痛みがわかるようになる。今度、当選して出てきたときには、人間がひとまわり大きくなっているのが分かる

・いつも当選している代議士は、天下国家を理屈だけで論じている。国民の本当の痛みを、ついに知ることがない

・逆境に立って、すべての欲とこだわりを捨て去ったとき、人は思わぬ力を発揮できる

・人の集まるところには、需要が暗示されている

・工業化できない特許には、一文の価値もない

・発明したと思っても、世界では同じことを考えている人が三人いる

・私は、行く先々で、人が集まっていればのぞきこむ。商品にさわってみる。さわって分からなければ質問する。質問して分からなければ買って帰る

・時代の変化に対応するのではなく、変化をつくり出せ

・取り引きは、取ったり引いたりするものである。取りすぎて相手を殺してしまっては元も子もない

・要らないものは、ただでも高い

・商品はおいしくても、飽きがきてはいけない

・新しい商品は新しい販売システムで売れ

・衝撃的な商品は必ず売れる。それ自身がルートを開いていくからだ

・その商品には、消費者が支払った対価以上の価値があるか。売れるかどうかは、そこで決まる

・売ろうと宣伝するのではない。売れるから宣伝するのだ

・おいしいだけでは売れません。何度も食べてもらえるものを研究しなさい

・まず理想的な商品を考えてから、生産設備を用意しなさい。生産しやすい商品を開発目標にしてはいけない

・経営者とは、人の見えないものが見え、聞こえないことが聞こえるような人間でなければならない

決定は決定にあらず。より良いものがあれば変更すればいい

・リーダーは人の中の人でなければならない。人の中の人とは、世の中にない独創的なことを考え、それを達成できる人である

・人間はすべて善と悪を持っている。生まれたときは性善説、生活すると性悪説

・競争とは知恵比べであり、知恵ある会社には自ずと人が集まる

・自らの足で歩き、自らの目で確認しなさい。そうでなければ、あなたの話には重み説得力もない

・動けば費用がかかる。じっとしていれば時間が空費される。最大のコストは時間である

・管理職は部下に指示を与えれば仕事が終わったように思っていないか

・汗を流す仕事にバブルはない



安藤百福語録には、「ドキッ」とする言葉が数多く収録されています。「ドキッ」は、意表を突かれたときに出るものです。そして、「ドキッ」の後に、「ハッ」と気づきます。

「ドキッ」とする言葉を発してくれる人が、身近にいればありがたいものです。本書を読むと、気づかされることが多いのではないでしょうか。


[ 2013/02/18 07:03 ] 商いの本 | TB(0) | CM(0)

『1食100円「病気にならない」食事』幕内秀夫

1食100円「病気にならない」食事 (講談社プラスアルファ新書)1食100円「病気にならない」食事 (講談社プラスアルファ新書)
(2010/08/20)
幕内 秀夫

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1カ月1万円生活という番組がありますが、食べる(カロリー摂取)だけなら、デフレと加工食品隆盛の日本社会において、そんなに難しいことではないように思います。しかし、栄養バランスも考えて、それをどう実行していくかは難しいところです。

著者は、「昔の日本人の食生活」を見習えば、1カ月1万円、つまり、1食100円で、栄養バランスも考えた食生活を簡単に実行できると述べられています。参考になる点が多々ありました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・基本中の基本は「ごはんとみそ汁」。それに、野菜・海藻・豆・魚を素材とした副食(おかず)が、2~3種類あれば十分。また、副食が漬物・佃煮・煮豆のような保存食であれば、そのあとも何日もおかずの一つに加えることができるので、より経済的

・長寿村のお宅を訪ねたら、その家の台所には、換気扇がなかった。料理に油を使うことがほとんどないとのこと。「体の中をきれいにしたいなら、換気扇をきれいにしろ」というたとえがあるほどだから、この家の人たちの内臓はずいぶんきれいなはず

・長寿村のお宅には、「マヨケソ」(マヨネーズ・ケチャップ・ソース)がなかった。料理の味つけは、塩、みそ、しょうゆだけとのこと。味つけは高カロリーの「マヨケソ」ではなく、低カロリーの塩、みそ、しょうゆであっさりがいい

・日本の伝統食は、そればっかり食べる「ばっかり食」。そのときどきにとれた食材を常備食にしている。そこには、「バランス」だとか、「栄養素」だとかいう理屈はどこにもない

・みそ汁のだしに煮干しを使い、豆腐とわかめとねぎを具として入れれば、それだけで必要な要素(野菜・海藻・豆・魚)をすべて満たすことができる。加えて、常備食が一つ二つあるだけで、ごはんも進む。そして、最後にお茶を飲む。これが日本人の典型的な食事

・日々の献立を考えるときも、「ごはんとみそ汁」プラス「野菜・海藻・豆・魚」の四つの副食から選択すれば、悩まなくてもすむし、それだけで「間違った食事」にならない

・厚生労働書は少し前まで、「1日30品目」を食べるように奨励していた。たった1日でも、30品目食べるのは至難の業。ましてや、毎日食べ続けるなど、とうてい無理な話

・日本人は、昔から、ごはんとみそ汁と少しの常備食だけで元気に生きてきた。戦国武将など、雑穀の入った握り飯に、みそを塗っただけのものを食べながら、ずっと戦っていた

・たばこ、コーヒー、酒、これら「三大麻薬」をやらない人は、砂糖や油にはまる人が多い。ケーキ、チョコレート、ポテトチップスは「ただのお菓子」ではない。四つの精製調味料(砂糖、塩、油脂、うまみ調味料)が三つ以上重なると、依存症や常習性が増大する

・誤った減塩信仰に踊らされて、塩分を気にするくらいなら、むしろ、油と砂糖のとりすぎに注意すべき

・人間は、赤ちゃんのときから、いも類や穀類の甘みを好む。これはでんぷんの甘さで、日本人は、それを主にごはんからとってきた

・30~40代の男性の多くは、21時以降に夕食をとる。寝るのは24時。起床まで6時間程度。朝は胃が重たく、ごはんがおなかに入らない。こういう現実を知らない呑気な評論家は、昔のように早い時刻に夕食をとっていると思い、「しっかり朝食を食べよう」と言う

・みそ汁の具には、季節を感じる旬の野菜を入れられれば理想的だが、旬の野菜が高くなっているとき、おすすめしたいのが、安くておいしい「もやし」

・人間は、暑いとものを噛みたくなくなる。「喉をスルッと流れていくものをくれ」という信号が脳に送られる。夏は、「冷や汁ごはん」(冷たいみそ汁をごはんにかけて食べる)で、食欲増進すればいい

・現代人の多くは夜型の生活をしている。そのため、朝昼晩の食事時刻が、7時・12時・22時くらいになっている。昼食と夕食の間があきすぎているため、おやつを口にする人が多い。本人は、おやつのつもりで食べても、実際には、お菓子が夕食になっている

・弁当づくりの基本は、「ごはん8、おかず2」の割合で詰めること。「弁当は手間がかかってたいへん」と言う人は、ごはんを2~3割しか入れないから。ごはん8割なら、かける時間が1分~3分の「1分弁当」で弁当づくりができる

・冷凍庫と電子レンジを上手に利用すれば、いいおかずが用意できる。最近の冷凍食品には、油をほとんど使わない和総菜もある。それらを使えば、油まみれの弁当を改善できる



ごはんは1杯約30円です。2杯食べても60円。それだけで、320カロリーが摂取できます。そのごはんを中心に、日々の食事をどう組み立てていくかを基本としているのが本書です。

お金がかからず肥満にならず病気にならず」、夢のような食事が、昔の日本の食生活をそのまま真似るだけというのは、何とも皮肉なものです。本書には、昔の常識に戻ることで、食生活を改善していく術が丁寧に記されていると思います。


[ 2013/02/16 07:03 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『悪と日本人』山折哲雄

悪と日本人悪と日本人
(2009/12/18)
山折 哲雄

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山折哲雄さんは、国際日本文化研究センター教授、所長を務めた宗教学者です。テレビやラジオでの講演を何回も聴いたことがあります。

このブログで採り上げるのは初めてです。やさしいお顔と口調とは逆に、本書の文面は、ズバッと言い切る力強い内容になっています。その中から、気に入った箇所を選び、紹介させていただきます。



・「学問の対象には、いつもいいものだけ選ぶわけにはいかない。悪いことでも、人間生活にあるものだから、研究しなければならない。この両端が相まって初めて、人間の生活、社会の機構がわかる。道徳の研究には、悪徳の研究が必要」(折口信夫)

・仏教は19世紀ヨーロッパの知的世界において怖れられた。仏教の内部に根づく「虚無」の信仰が、恐怖の対象とされた。それは、「悪」そのものを伝える凶々しいサインだった

・カルトにおいては、神秘体験が非常に重視されるが、それは神秘体験の中で、人間はみな平等なのだという実感を持つことができるから

・すべてのものが無常であるとする日本人の考え方は、すべてのものが滅びるという思想を持ち出すことによって、人間的な善悪の問題を空無化してしまう

・「きけ わだつみのこえ」に記された学徒兵たちが、戦争の悪を哲学的に追究し、死に赴くぎりぎりのところで、短歌をつくって後世に残そうとしていることは興味深い。短歌的叙情の中に、論理的な懐疑哲学的な苦闘の跡を、すべて溶かし込んで、死んでいる

・和歌のリズムには、善悪という倫理的基準を容易に超えさせてしまう毒のようなものが隠されている。日本の精神史において、和歌がどのような役割を果たしてきたのかを検討することは、日本人の善悪に対する考え方を測るリトマス試験紙になる

・日本人は、仏教からは、無常観と浄土観、空や無のイメージ、儒教からは、修養、西洋からは、個人主義を受容して、それらをうまく重層化させながら、自らの人格形成に役立てようとしてきた。この三つの思想的要因を、意識の底で支えていたのが神道的な感覚

・四季の変化に対する鋭敏な感覚、鎮魂の心構え、縁起にまつわる言説、気配に対する関心の強さ。「四季」「鎮魂」「縁起」「気配」を並べると、日本列島人の信仰心が見えてくる

・日本の歴史を振り返るとき、「悪」の問題に鋭い眼差しを向けたのが親鸞。歎異抄には、「善人なおもちて往生をとぐ、いはんや悪人をや」と「善悪の二つ、総じても存知せざるなり」という、悪と悪人に関わる二つの重要なことが記述されている

・キリスト教、ユダヤ教、イスラム教の聖地周辺の景観は全部砂漠。それと比較して、日本列島の風景は、75%、山と森で埋まっている。水は豊かだし、山の幸、海の幸に恵まれている。生きていくための価値の源泉を天上に求める必要がない

・人間は、放っとけば、限りなく野性化する。だからこそ、マハトマ・ガンディーの非暴力思想が、近代になって出てくる。あらゆる宗教の守るべき戒律は、まず「人を殺すな」

・「性の快楽を最も味わうことができるのは、禁欲生活を送った人間がそれを破るとき」(アンドレ・ジッド)

・京都の東寺の両界曼荼羅には、薄絹を着て、豊満な肉体で笑ったり、コケティッシュな目つきをした遊廓の世界のような女性たちが描かれていた。我々は、千年以上知らずに、それを礼拝の対象にしてきた。独りほくそえんでいたのは空海だと思う

・エロティシズムと暴力性は深いつながりがある。宗教家たちは、エロティシズムの原因が食生活にあると考え、断食をして、性愛運動暴力運動から自分を解放しようとした

・「ガンディーの非暴力」とは、「男が女になれるかどうか」の過激な実験

・「数学的真理を発見する時の状況は、宗教的な神秘体験の状況とよく似ている」「直感とは、一種の神秘の体験。そういう点で、自然科学も宗教の世界と深い関係がある」(岡潔)

教義なき宗教、カリスマなき宗教、儀礼なき宗教。そこで初めて宗教は、攻撃的な世界から自由になれる

・平安遷都から保元・平治の乱まで約三百五十年、江戸時代の約二百五十年、日本の歴史には、長期に渡る平和の時代が二度あった。なぜ、平和の時代が続いたのか、日本の歴史家は考えるべき。その理由の一つは、国家と宗教の相性が良かったからと考えられる



一休さんは、「この世にて、慈悲も悪事もせぬ人は さぞや閻魔(えんま)も困り給わん」と言っています。道徳とは、人間に慈悲の一方だけを押しつけるものです。それが度を過ぎると、建前だけの世の中になります。

人間の悪事もしっかりと見つめることで、総合的に、人間や社会を判断することができます。本書は、日本人が悪をどう扱ってきたのか知る上で、貴重な書だと思います。


[ 2013/02/15 07:01 ] 神仏の本 | TB(0) | CM(0)

『つぶやきのクリーム』森博嗣

つぶやきのクリーム The cream of the notes (講談社文庫)つぶやきのクリーム The cream of the notes (講談社文庫)
(2012/09/14)
森 博嗣

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森博嗣氏の著書を紹介するのは、「自由をつくる自在に生きる」「自分探しと楽しさについて」に次ぎ、3冊目です。

本書は、著書のつぶやきを100集めたものです。このように、体系だってないほうが、著者の考え方や価値観がよくわかります。その中から、主に「お金」に関して、参考になり、共感できた箇所を選び、紹介させていただきます。



・多くの人は、神を信じていない。ただ、賽銭を投げておけば、少し気持ちが良いというだけ。投げないと、なんとなく後ろめたい。これも人間の弱みの一つ

・家を選ぶ上で、最も重要なことは、実は建築そのものではない。その家がどこに建っているか、ということ。すなわち「土地」であり、「立地」

・とにかく「話が聞いてもらいたい」人ばかり。「相手にしてもらいたい」人ばかり

・長いものに巻かれろ、というのは、空気を読め、大勢に従え、目上には逆らうな、に相当する。実に卑屈な精神で、これが諺になるというのは、人間の本性を揶揄している所以

・遠い人の悪口と近い人の賞賛は簡単。遠い人の賞賛近い人の悪口には勇気がいる

・好き勝手、やりたい放題の生き方を実践している人は、ほとんど例外なく金持ち

・金持ちにはケチが多い。ケチな態度をとっても、人からどう見られようが関係ない、という揺るぎなさを持っている

・金を稼ぐというのは、自分の望みを見据えて、手綱をしっかりと握り、良いペースを維持するということ。そんな面倒なことができるか、という人が不自由で貧乏のままになる

・お金持ちは、贅沢はしない。お金持ちが贅沢するというのは、貧乏な人たちがイメージするお金持ちの「物語」、つまりフィクション

・発展しないのは「悪」と、経済は教える。そう考えるのは、経済の中で、仕事もせず楽をして稼いでいる人たちがいるから。この人たちが、経済を動かし、政治を動かしている

・芸術家でも、名を成した人には品がある。創作というのが高まってくると、そういった指向を生むもの。確固たる自分があるから品が出る。これこそ、人の強さの最たるもの

・世の中には、一流よりも二流の方が圧倒的に多い。二流の感性の受け手は、一流よりも、二流の作品の方に安心する

・説得力を増すには、一つは「論理的である」こと。もう一つは「わかりやすく表現する」こと。三つ目には「ある程度の感情を乗せる」こと

・人間は、機械のように長く機能を発揮できない。才能は、何十年も持続しない。したがって、短い人生の中では、少々の失敗を恐れず、フル回転で、チャレンジした方が、成功の回数が大きくなる、あるいは、成功のスケールが大きくなる

・友情は美しいものだと、頭に叩き込まれている。その言葉を尊いものだと感じがちだが、実のところ、人の生活を保障するのも、困っている人を救うのも、友情ではなくお金

親の死に目にあえないというのは、親が死ぬときには、何があってもその場にいろ、ということ。人間が死ぬときには、既に意識がない。親の死に目にあえなくても問題はない

・世間には二流が多く、これを真似ると三流ができあがる。その結果、同じような「適度な小綺麗さ」になる

・人間は誰でも、自分が最も心地よい思いをする道を選ぶ。その人間が、どれくらい未来まで、自分の道を見通せるか、というところに差が出るだけ

・正直者が馬鹿を見るのは、その正直者が馬鹿だった場合だけ。世の中には、賢い正直者もいて、たいてい成功を収め、人々の信頼を得ている

・ファッショナブルでなくても、スタイルがよくなくても、イケメンでなくても、輝いている人がいる。このような生き方が輝いている人は、好きなことに夢中で、いつも熱心に周囲を探している。だから、目が輝く

・本当に良いものは、たくさん売れない。少し高いし、目玉商品的な売り方はされない。世の中に大量に出回っているものは、そんなに良くないものばかり。豊かになったのに、今一つ洗練されないのは、こんなところに原因がある



世の常識を当然のごとくに受けとめている人にとっては、著者の見解に、腹を立てるかもしれません。

でも、事実は事実として、著者の見解を、きちんと受けとめたほうが、自由に生きていくことができるように思います。


[ 2013/02/14 07:03 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)

『思考の整理学』外山滋比古

思考の整理学 (ちくま文庫)思考の整理学 (ちくま文庫)
(1986/04/24)
外山 滋比古

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今年で90歳になる外山滋比古さんは、現役の言語学者・エッセイストです。生涯に出版した本の数が150冊にものぼり、今でも毎年新しい本を書き続けられています。

この本は、1986年に出版されましたが、今でも版を重ね続けているロングセラーの書です。知的活動を続けていく上での多くのヒントが、本書にはいっぱい詰まっています。これらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・なぜ教えてくれないのか、当然、不満をいだく。これが実は学習意欲を高める役をすることをかつての教育者は心得ていた。あえて「教え惜しみ」をする。じらせておいて、やっと教える。といって、すぐにすべてを教え込まない。本当のところはなかなか教えない

秘術は秘す。いくら愛弟子にでも隠そうとする。弟子の方では、教えてもらうことをあきらめて、何とか師匠の持てるものを盗みとろうと考える。ここが昔の教育の狙い

・今の学校は、教える側が積極的でありすぎる。親切でありすぎる。何でも教えてしまおうとする。それが見えているだけに、学習者は、ただじっとして口さえ開けていれば、欲しいものを口に運んでもらえるといった依存心が育つ

・今ここで議論するより、一晩寝て、目を覚ましてみれば、自然に落ち着くところへ落ち着いている。英語には「一晩寝て考える」という成句もある。朝になって浮かぶ考えがすぐれていることを多くの人が知っていた。朝の頭を信頼し、朝の思想に期待すること

・詩とは、最も良き語を最も良き順序に置いたもの。詩も言葉のエディターシップによってできるようになる

・すぐれた句が生まれるのは、俳人の主観が受動的に働き、あらわれる素材が自然に結び合うとき。一見して、没個性に見えるであろう作品こそ、大きな個性が生かされる

寝させておく、忘れる時間をつくる、というのも、主観や個性を抑えて、頭の中で自由な化合が起こる状態を準備することにほかならない

・抽象のハシゴを登っていくのが哲学化。日本人は古くから多くの歴史的記録を残している。ところが、これを歴史論、歴史学に統合する史観がはっきりしていなかった。第一次歴史情報に恵まれていても、これをメタ化して、二次、三次の理論にする試みはなかった

・書き留めてあると思うと、それだけで安心し、一時頭から外せる。しかし、記録を見れば、いつでも思い出すことができる。考えたことを寝かせるのは、頭の中だけではない

・頭をよく働かせるには、「忘れる」ことが、極めて大切。頭を高能率の工場にするためにも、どうしても絶えず忘れていく必要がある

・自分の過去を振り返って、ここまでやってこられたのは、誰のおかげかと考えてみると、たいていは、ほめてくれた人が頭に浮かぶ

・友には、ほめてくれる人を選ばなくてはいけないが、これがなかなか難しい。人間は、ほめるよりもけなす方にできている。いわゆる頭のいい人ほど、欠点を見つけるのが上手く、長所を発見するのが下手

・書き上げた原稿を読み直して、手を入れる。原稿は黙って書くが、読み返しは、音読する。少なくとも、声を出すつもりで読む。これをしている人が意外に多い。もし、読みつかえるところがあれば、必ず問題が潜んでいる。再考しなくてはならない

・俗世を離れた知的会話とは、まず身近な人の名を引っ張り出さないこと。共通の友人の名前が出ると、どうしても会話がゴシップに終わる。ゴシップは害あって益なし

・調子に乗ってしゃべっていると、自分でもびっくりするようなことが口をついて出てくる。声は考える力を持っている。われわれは頭だけで考えるのではなく、しゃべって、声にも考えさせること

・似た者は似た者に影響を及ぼすことができない。同族で固まっていると、活力を失い、やがて没落する。新しい思考を生み出すにも、インブリーディング(同系繁殖)は好ましくない。それなのに、近代の専門分化、知的分業は、似たもの同士を同じところに集めた

・少し考えて、うまくいかないと、あきらめてしまう。これでは、いい考えは浮かんでこない。もうだめだ、と半ばあきらめたところで、なお投げないで考え続けていると、すばらしい着想が得られる。せいてはいけない。根気が必要

・「無我夢中」「散歩中」「入浴中」の三中の「最中」が、いい考えの浮かぶ状態



企画やアイデアなど知的作業を仕事にする人にとって、いい考えが思いつくかどうかは死活問題です。本書には、いい考えが思いつくためのヒントがまとめられています。

その中で、自分にも合うものが、きっと見つかるはずです。一度、思考を整理してみてはいかがでしょうか。


[ 2013/02/13 07:03 ] 仕事の本 | TB(1) | CM(0)

『老荘に学ぶリラックス投資術』岡本和久

老荘に学ぶリラックス投資術 (現代の錬金術師シリーズ)老荘に学ぶリラックス投資術 (現代の錬金術師シリーズ)
(2009/08/05)
岡本和久

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本の帯の部分に、「急がない」「欲張らない」「考えすぎない」とあります。長期投資を心がけている身として、心惹かれるものがあり、読んでみました。

投資と老荘思想を結びつけることに少々の違和感もありましたが、読んでみたら、類似点を多く感じらました。それらの類似点の一部を、要約して紹介させていただきます。



・日本では「お金持ち」のイメージがあまり良くない。しかし、おカネは感謝のしるしだから、本当のお金持ちは、人から受けた感謝がたくさん貯まった人ということになる

・良い投資は、「時間」を味方につけている。種をまいて、収穫を待つようなもの。「早く芽を出せ」と水をやりすぎ、土を掘り返してはいけない。「まいた種は必ず芽を出す」の信念を持ち続けて忍耐することが大切。長期投資の高いリターンは、忍耐に対するご褒美

・本当に大切なのは、長期にわたるマーケットの動き。そのマーケットを動かす潮流

・「この世に永遠のものは存在しない。変化し続けるという事実を除いては」(ギリシアの哲学者ヘラクレイトス)。この世の本質は変化し続けることにある。それのみが永遠の真実

・「最大多数の人にとって、最も都合の悪いことが起こる」これが株式市場の真実。みんなが上昇を期待しているときには下落し、下がるだろうと期待しているときに上昇する。多くの人が株を所有しているときに、それ以上買う人がいなくなるのは当然の流れ

・株価は常に中立。「上がった、下がった」と周囲に自慢するのは、風向計を見つつ、「東風だ、西風だ」と喜ぶ小学生と同じ

・買いが積み上がるほど、売りの圧力になる。残念ながら、他者と考えが同じであればあるほど、株価という影は、逆の姿を見せていく

・精通した者は、「人気銘柄に飛びつかない」「守り中心にする」「欲張らない」「間違えたときは直ちに行動を修正する」「ポートフォリオをシンプルにする」「長期的視点でマーケット全体に投資する」「濁った水もじっと静かにしていれば澄んでくる」と体得している

・成功するためには、人からは阿呆に見えたり、たわけに見える行動が必要。浮かれている集団から距離を置き、落ち着いた心で投資を続ければいい

・分散投資と長期投資を低コストで実現する「分・長・低」が、成功するための銘柄選び

・公開された情報には、ほとんど価値がないことを知っておくべき

・「健康のため、株価の見すぎには注意する」。株価を一生懸命見ていても上がらない

・そもそもマーケットとは、分らないもの。その前提を踏まえ、スタートする。つまり、知の限界を知ることが、そもそもの基礎

・時間を味方につけるのが長期投資、マーケットを味方につけるのがインデックス運用。長期投資と分散投資は、リラックス投資の武器

・自分の思うように、市場を動かすことはできない。でも、リスクはコントロールできる

・長期投資では、勝たなくてもよい。それより重要なのは、負けないこと

・「俺が俺がの(我)を捨てて、お陰お陰の(下)で生きる」

・「おカネ持ち」になることではなく「しあわせ持ち」になること。知足は、しあわせ人生のために不可欠

・われわれの心の中では、落ち着きのないサルが「キャッキャッ」と騒いでいる。心を沈めてサルを落ち着かせることが必要

・投資の達人は、理論や技術、知識を身につけても、それにしがみつかず、とらわれのない心(無我・無心・無為)の境地で、マーケットと対峙する

・われわれは「世の中のためになること」をするために生きている。それを円滑にするためにおカネが存在する。そして、自分の余裕を人のために用立ててあげるのが投資。それは時間との付き合いでもある

・「1.適切な比率で資産の配分を決める」「2.それぞれの資産ごとにインデックス投信を選ぶ」「3.時々チェックしながら長い間、待つ」。ただ、この三点を行っていればいい



投資の世界とは、切ったはったの厳しい感じがするのですが、本書に出てくる文章は、常にゆる~い感じがします。

投資の本というよりも、幸せに生きるための指南書といった感じです。長期投資を目指す人にとって、最適の書ではないでしょうか。


[ 2013/02/12 07:01 ] 投資の本 | TB(0) | CM(0)

『あなたの若さを殺す敵』丸山健二

あなたの若さを殺す敵あなたの若さを殺す敵
(2010/04/07)
丸山 健二

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男性最年少芥川賞受賞作家の丸山健二さんの本を紹介するのは、「人生なんてくそくらえ」に次ぎ、2冊目です。

この本でも、吼えまくられています。日本の大衆に喝を入れています。とにかく、日本人に目覚めてほしいという一心です。その中から、特に印象的だった文章を選び、要約して紹介させていただきます。



・あたかも国家が、社会が、宗教が、職場が、家族が、友人が、各種の保険が、医者が、預金や退職金が、一部始終を保障してくれる、また、先進国の国民なのだから、そうあらねばならないという希望的観測が、あなたの認識をぐにゃぐにゃに歪めている

・あなたの若さが殺されるきっかけとなった最初の敵は、幼児期や幼少期に注がれた過剰な親の愛。とりわけ母親の盲目的な愛。野性動物の母親が、わが子を自立させるための純粋な愛情なのに対し、人間の母親は、自身の生涯における共生の相手と見なしている

・ほとんど勤め人の世界のことしか知らない、あまりに狭く、あまりに貧しい価値観に囚われている母親は、人生における成否の鍵が学歴にのみあると信じて疑わない

・若さは自立。自立は的確な判断。判断はおのれの願望や欲望に添ったものではなく、全体を眺め、周辺を読み切った上での正確なものでなくてはならない。ところが、男性よりも欲望に忠実な女性には、それが一番不得手

・働いて収入を得るだけでは、夫とも父親とも言えない。子供に自立の道を歩ませることを家族に呈示しなければならない

・永続的な安定、絶え間のない安楽、どこまでも可能な逃避、そんなものは人間社会の歪みがもたらした幻想にすぎない

・望んでもいない転勤や配置換え、上層部のいい加減な根拠による人事、出世競争が原因の醜い駆け引き、単純すぎる仕事無茶すぎる仕事、延々と続く家と職場の往復、くだらない上司へのへつらい、幻の安定にしがみつく間に、若さを抹殺され、魂を喪失していく

追いかける人生には未来があり、逃げる人生には過去しかない

第二の人生、そんなふざけた、まやかしの言い回しは、欺瞞の最たるものでしかない。、実際は、退職金と一緒に、雇う価値がなくなった奴隷の残骸として、放り出されただけ

・真の若さ、自立の若さは、濃厚で危険な自由の中にしか存在しない。その自由をつかむためには、潜在能力のありったけを駆使し、全力でぶつかっていく以外に道はない

・家庭やら自尊心やらを全部犠牲にして、仕える主人の金儲けに貢献すれば、「奴隷頭」くらいなら出世させてもらえる。しかし、奴隷は奴隷

・世間は軽薄で、常に単純。事実から視線をそらし、論理を生理的に忌み嫌い、洞察を遠ざけ、直感情緒といった尺度に頼って、非常に重要な問題までをも決定しようとする

・弱者の大半は似非弱者。弱者のふりを決めこんで、人生との闘いを回避しようとしているだけの怠け者、あるいは卑怯者

・世のため人のためを真顔で堂々と口走る輩を絶対に信じてはいけない。愛や夢や優しさや癒しや幸福や救いという言葉を乱発する連中を避けるべき

・勤め人の世界では、仕事そのものに注がれるエネルギーは全体の一割にも満たない。あとの九割は、通勤と、人間関係の調整と、手抜きと、飲み会に費やされる

・酒は文化であるというきれいごとの認識が固定化され、罪悪感の割り込む余地が少ない。世界がより良い段階に移行していかないのは、酒の蔓延による。酒は感情を鎮めると同時に、正義の怒りや憤りを抑制してきた

ギャンブル中毒に陥った人たちは、あこぎな目的を持った狡賢い連中のカモにされたということ。博打の主催者側の思うつぼにはまったということ

・修行の場にふさわしいのは、深山幽谷に囲まれた苔むした寺などではなく、猥雑な色に染まってのたうちまわる俗世間そのもの。つまり、どろどろの現実社会に優る道場はない

・自立の若さを保つための第一条件、それは決して騙されないこと。騙されないためには、あらゆる権力、あらゆる権威を疑うことが肝要であり、必須条件。というより、いかなる権力やいかなる権威もインチキだと思っていたほうがいい



著者は、組織に属さず、徒党を組まず、自分だけを頼りにして生きてきた、つまり、自立して生きてきたからこそ、自信をもって、みんなに自立の道を促しています。

自立から遠ざかることが、半ば常識になっている世の中だからこそ、著者のような野性の精神が必要となってきているのではないでしょうか。


[ 2013/02/11 07:00 ] 丸山健二・本 | TB(0) | CM(0)

『あのころの未来・星新一の預言』最相葉月

あのころの未来―星新一の預言 (新潮文庫)あのころの未来―星新一の預言 (新潮文庫)
(2005/08/28)
最相 葉月

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星新一に関する書を紹介するのは、「星新一の名言160選・スターワーズ」に続き、2冊目です。中学生の時(約40年前)、星新一のSF短編を数多く読んだこともあり、やはり気になってしまいます。

本書は、星新一が描いた未来が、現在、現実化しているのかを探っていくものです。預言者たるところを感じさせる箇所が幾つもありました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・「やがて、人々は<人のあこがれる理想的な究極>を手に入れ、自分の遺伝子を復元したいなどという欲望を一切もたなくなる。人々が手にしたもの、それは『天国』。空間も時間も超越し、宇宙に意識を解き放つことだった」(神殿)

・「気の毒にな。ずっと生きつづけていなければならないとはな」(神殿)

・「『生きる意欲があります。わたしたちも、やりがいがありますね』男のからだの残された細胞をもとに臓器や筋肉や皮膚が再生中だった」(これからの出来事)

・「『自分たちのことを、人間とよんでいるわ。あたしたちの、ドレイの役をする生物よ。まじめによく働いてくれるわ』そして、いかに人間が自分たちのために一生懸命働いてくれるか、猫は語り始めるのだった」(ネコ)

・星新一の作品には、過剰な欲望を抱いた主人公に戒めを与えるという物語が多く、なかでも不老不死を願った者には、特段厳しい仕置きが用意されている

・星新一が描く物語の中では、未来を知った登場人物には必ずよくないことがふりかかる。未来を知った人はみな、それで得しようとばかり考えているから

・紙の本は絶対になくならないと信じている人が多い。だが、星新一は「ホンを求めて」の小説の中で、「ホンを失い、われわれは滅ぶ。意外に近い、あっという間の未来かもしれない」と警告している

・星新一は短編集「ありふれた手法」のあとがきで、「風俗描写を避けているうちに、だんだん民話に近づいてきた」とも、書いている。現実が民話を追い越すとよからぬことが起こる。それが民話の変らぬ教え

・超長寿時代の会社員の憂鬱を描いたのが「長い人生」。55歳で係長のエヌ氏は酒場で嘆く。「わが社では課長になるのは90歳。部長に昇進できるのが120歳。重役の平均年齢が160歳で、社長は200歳」。エヌ氏は、上司を失脚させて課長の座を射止めようとする

・人生が長くなったら、のんびり生きられるのかと思いきや、そうではない。終身雇用、年功序列は存続し、長くは勤められるが、上がつっかえて窮屈になり、出世争いは依然として続く。動かない人生、生きながらすでに死んでいる人生を、星新一は描く

・星新一は、高層マンションをたびたび物語の舞台にしている。その住人たちは普通でない生活を送っている。高層は欲望の象徴。不可解な物語がよく似合う

・星新一の「見物の人」で描いたのは、光ファイバーが張り巡らされた時代の相互監視社会。有線放送に映し出されるのは、刑務所の中、デパートの各階売場、寺の葬式など

・星新一の「健康の販売員」では、最近夫の様子がおかしいと思った女が「テレパシー剤」を購入する。販売員は、すぐさま夫の勤め先に電話をかけ、「テレパシー防止薬」を売る。ちなみに、個人情報保護法では、こうした医療情報を守ることはできない

・星新一の「かたきうち」という物語は、ひき逃げ事故で死んだ父親のかたきを討つために、息子が犯人を追い求め、二年後にようやく捕まえた犯人から臓器を取り出し、それを冷凍保存していた父親に移植して蘇らせるという「感動的な美談」

・星新一の「ナンバークラブ」の会員資格は35歳以上、記録情報は生年月日、学歴、家族構成、旅行、趣味、仕事。セキュリティ万全。コミュニケーションに苦労する人には、天の助けのシステム。だが、いったん入会したら、会員以外の人と話をするのが億劫になる

・星新一の「現象」で、地球上のあらゆる動物や植物が愛くるしく見えてしまう人間を描いている。牛もトマトも愛おしくて殺せない、食べられない。だが、それは人間という種が終わることを意味する

・星新一はスパイ物を多数発表している。人と人がいれば、そこに情報が生まれ、国と国が存在する限り、スパイの任務がなくならない。市民レベルの情報網が世界に張り巡らされている現在は、誰もがスパイになれる時代



星新一の未来は、再生技術、不老不死の長寿社会、情報監視、情報保護、会員システム、電子書籍のネット社会、ペット溺愛、動物保護の動物愛護社会、何でも自動化するロボット社会などを描いています。

40年前にも、その「兆し」はあったのかもしれません。星新一は、その「兆し」から、「なれの果て」を予測した人だったのではないでしょうか。


[ 2013/02/09 07:02 ] 幸せの本 | TB(0) | CM(0)

『ゼロからの宗教の授業』釈徹宗

ゼロからの宗教の授業ゼロからの宗教の授業
(2009/11/28)
釈 徹宗

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釈徹宗さんの本を紹介するのは、「いきなりはじめる仏教生活」「仏教シネマ」に次ぎ、3冊目です。釈徹宗さんは、文学、演劇、漫画に造詣の深い大学教授兼僧侶です。

本書では、宗教を漫画などの事例を踏まえて、わかりやすく解説してくれています。宗教の新たな発見が多々ありました。それらの一部を要約して紹介させていただきます。



・伝統的主流宗教を学ばなければ、宗教の毒を避けることはできない

・宗教を知ると、「結び目」がほどけたりする。なぜなら、宗教体系は、人間や社会の根源的な仕組みとパラレルだから

・芸能は、シャーマニズム抜きに語れない。「舞う」「踊る」「謡う」「狂う」、いずれも、トランス状態のシャーマンによって表現される行為

・「ただいま」「おかえり」というイメージが、人間の宗教性の源泉にある

・宗教は大別して、1.「受容機能」(人や共同体に安定をもたらす機能)、2.「自律機能」(大きな変革をもたらす機能)、3.「バインド機能」(人と人を結びつけ、共同体を維持する機能)の三つを発揮する

・江戸末期から明治にかけて、神道のニュームーブメントが興り、教派神道がどっと出てきた。時代の節目や転換期には、必ず大きな宗教ムーブメントが連係している

・道教の理想は、天才バカボンのパパが言う「これでいいのだ」にある。この一言は、すべてを肯定しつくす。「これでいいのだ」は、社会通念や価値観にとらわれず、全面的にあるがままを肯定する言葉

・プロテスタントの教会は、簡素なつくりで集会所的。プロテスタントの特性は、「一時的な感情よりも持続的な動機に高い価値をおく」「それぞれの役割を精一杯果たすという倫理観をもつ」「反伝統的」などが挙げられる。これは欧米型近代のエンジンとも言うべき部分

・もはや近代成長期が行き詰まってしまった現代において、今でも近代の「成長を自己目的とし、煽る構造」で成り立っているのが、少年マンガ。「あきらめなければ、いつか夢はかなう」という信仰は、プロテスタンティズム的「煽る構造」の特徴

・禁欲構造をもつプロテスタンティズムで重要なのは、「天職(召命)」の思想。一つのものに打ち込み、誘惑に勝つ「目指せ、神の栄光」の構図は「発展・成長」価値へつながる。少年マンガの大きな要素「友情」「自己犠牲」も、近代プロテスタンティズムの色彩が濃い

・「この作品を完成させるのはお前ではない。しかし、その作業に参加しないで済むわけでもない」(ユダヤ教ラビ・タルフォン)

・イスラームは、「自分のフォーム」をもつ宗教。だから、何度も何度も復興運動が興る

・「つながっている」実感があれば、人は明日も生きていくことができる。イスラム教徒には、自分という存在の底の底で、「どこかとつながっている」感覚がある

・宗教画や偶像を禁止したからこそ、イスラームには幾何学模様が発達した。どこかを抑圧したがために、別の部分が発達する。人間というのは、本当におもしろい

・仏教では、人間が過剰・極端になることに対して、常日頃から「シェア(分配)のトレーニング」を実践するように考える。「僧侶への報酬」のように思われる「布施」も、「シェアの実践トレーニング」「自らの修養」という側面をもっている

・仏教は最初期から「フェアとシェア」を提唱してきた。社会や人間のメカニズムに基づく「フェアとシェア」を目指した生活の実践を説く宗教が仏教

・お花をじっと観察して、「すべては関わり合いながら変化し続けている」ことが、リアルに把握できれば、今がどれほど豊かであり、大切であるかが実感できる

・仏教の目指すのは、その時が来ても、いつものように過ごすこと。その時に、いつもと同じように過ごせないということは、普段は本来の姿ではないことになる

・自分が苦しい時こそ、他者のために行動する。それは自分を再生してくれるシステム

仲間へのパス。パスこそが自分を生かす技法

・積んでは崩し、積んでは崩し、そのプロセスこそ、日常を生きるということ



本書は、神道、道教、キリスト教のカトリック、プロテスタント、ユダヤ教、イスラム教、仏教、それらを俯瞰して宗教というものを見つめています。

個人と社会に深く関わる宗教というものを観察することで、自分と社会の本質が理解できてくるのではないでしょうか。


[ 2013/02/08 07:01 ] 釈徹宗・本 | TB(0) | CM(0)

『希望のつくり方』玄田有史

希望のつくり方 (岩波新書)希望のつくり方 (岩波新書)
(2010/10/21)
玄田 有史

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著者の玄田有史さんは、希望の必要性を説き、希望学を提唱されています。「希望」と「」と「幸福」と「安心」を区分し、その上で「希望」とは何かを定義されています。

「希望」を知って、活用するために有効と思われるところが数多くありました。その一部を要約して、紹介させていただきます。



・幸福な人は、この状態が続いてほしいと願う。幸福は「継続」を求めるもの。それに対して、希望は「変化」と密接な関係がある。夢と違って、希望には、苦しい現実の中から、少しでも、良い方向に改善したい、ラクになりたい、そんな思いが宿っている

・安心は、希望とは異なる。安心が注目されるときは、不安が広がっている。経済の不確実性が、安心を求める気持ちを強める。安心には、「確実」が欠かせない条件

・不安が大きい社会では、つい確実なものを求めがち。しかし、不安を招く、変化の激しい時代には、かつて確実と思っていたものが、あっという間に役に立たなくなったりする

・希望は四つの柱から成り立っている。「1.ウィッシュ」(気持ち、思い、願い)「2.サムシング」(こうあってほしいという具体的な何か)「3.カム・トゥルー」(どうすれば実現できるかの道筋を考えること)「4.アクション」(行動を起こすこと)

・「多様性」と「バラバラ」は、つねに紙一重の関係。みんながそれぞれ好き勝手にやりたいことをやって、全体が良い方向に進むことを誰も考えない状態は、バラバラでしかない

・日本で、希望をたずねると、圧倒的に多くの人たちが「仕事」にまつわる希望をあげる。日本では、仕事に希望を求めすぎる。「生きる」ことそのものが希望でなければならない

・日本の会社の多くは、「仕事」ではなく、「人」に給料を支払う。会社の中で就く仕事の中身が変わっても、その人の評価ランクは変わらない。働くことが自分自身の評価となるという考え方が、働くことに希望を感じやすい社会をつくってきた

・仕事は、日本人の多くにとって、今でも希望をかなえるための大切なもの。しかし、その希望が強すぎることで生まれる悲劇もある。仕事と自分の間に上手に一定の距離を置くことが、現代では大切

・収入が多いほうが希望を持ちやすいというのは、ある一定の年収水準まで。その境目となる年収の水準は300万円前後。だとすれば、希望を持てる社会に必要なのは、誰もが300万円以上の年収を確保できること

・希望をもたらす可能性を支える背景には、「年齢」「収入」「健康」と並んで、もう一つ「教育機会」という大きな要因がある

・日本では、「ウイーク・タイズ」(緩やかなつながり)の重要性が認識されていない。転職で必要なのは、資格や語学力よりも、友人との緩やかなつながり。転職時に有益な助言をしてくれた職場以外の友人知人がいた人ほど、転職後の満足度や給料が明らかに高い

・希望がないと当初思っていた人が、希望を見つけていく過程で、共通するものは、「物語」もしくは「ストーリー」。人は、自分の希望を真剣に語ろうとするときに、物語(ストーリー)に向かいあわずにはいられない

・就職後の挫折体験の割合は、「挫折しなかった人」(5割)、「挫折して乗り越えられなかった人」(1割)、「挫折しても乗り越えてきた人」(4割)。希望を持って仕事をしている割合が圧倒的に高かったのは「挫折しても乗り越えてきた人」

・挫折が希望に変わる瞬間には、人から人へ経験の伝播がある

・希望は、人々を物語の世界に引き込む魔力がある

・希望とアニマル・スピリット(曖昧さや不確実性に対峙するための新鮮なエネルギー)には、共通する要素がある

・どうすればみんなが今よりハッピーに暮らすことができるか。そんな社会をどうすればつくれるか。そんなことを真剣に考えるのが、経済学

・地域再生の条件としての第一が、対話による「希望の共有」だが、もう一つは、「ローカル・アイデンティティ」(地域の個性・らしさ強み)の再構築

・地域の再生には、「よそ者」「若者」「馬鹿者」が大切。常識を覆す新しい力が、地域再生のきっかけとなる



希望学は、世界的に注目されているそうです。幸福な社会、安心な社会の前に、希望の持てる社会をどう構築していくかが、問われているのかもしれません。

幸福な社会、安心な社会を追いかけすぎるあまりに、希望の持てる社会をないがしろにしているとしたら、それは本末転倒です。「希望」こそが、人間にとって、一番必要なものではないでしょうか。


[ 2013/02/07 07:01 ] 出世の本 | TB(0) | CM(0)

『青木流・人間鑑定図鑑―一瞬に読む145の方程式』青木雄二

青木流人間鑑定図鑑―一瞬に読む145の方程式青木流人間鑑定図鑑―一瞬に読む145の方程式
(2002/08)
青木 雄二

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青木雄二さんの著書を紹介するのは、「ゼニの幸福論」「青木雄二金言集」「銭道実践編」に次ぎ4冊目です。

前の3冊は、青木雄二さんの思想や哲学をまとめたものですが、今回の書は、本業の漫画の技術に関するものです。「ナニワ金融道」に登場する人物の描写をどのように行ったかについても言及されています。

表情、しぐさから、人間の本心、本音、素性をどのように知るかの記述は、非常に参考になります。それらの一部を紹介させていただきます。



・何かを隠している人は、バレないように、手をポケットに入れる。無意識に手を隠すのは、相手を拒絶するか、隠しごとがあるとき

・相手の心変わりは、手のひらの動きで読める。相手の手のひらが返されたときは要注意

・自らが抱えている大きな矛盾に直面したとき、人はこぶしを握りしめる傾向がある

・人が話の途中で、人差し指を立てたら、自信に満ちているか、力を誇示したい場合

・両手を合わせ、もみ手をするのは、相手に頼みごとやある場合か、謝罪の意味がある

・体の前で、両手を組み交わす動作は、心を開かない(一線を画したい)気持ちの表れ

・胸の高い位置でする腕組みは、相手より優位性を誇示したいときにする。エリート意識の強い男がよくするポーズ

手を頭の後ろで組むのは、そろそろ話を切り上げたいという無言のサイン。同じしぐさでも、相手が笑顔を浮かべている場合は、こちらに気を許して、リラックスしている

・食べ物を口に入れたまま話す人は、せっかちな性格。箸やフォークを振り回す人は、自制心がなく、いい加減な人

・アゴに受話器をはさんで話すのは、相手を見下している証拠。電話中に、メモ用紙に会話と関係のないことを書いているのは、相手の話にまったく興味のない証拠

頬づえをつくのは、心身ともに疲れ果て、生命力が弱っているとき。また、頬づえをつくクセのある人は、短気な人が多い

・親指と人差し指でアゴをはさむようにして触るクセをもっている人は、カネに対する執着心がかなり強いタイプで、注意が必要

・人が首筋に手をやるのは、自分の負けを認め、もうこの話は終わりにしてほしいという意味合いを含んでいる

・相手の肩や膝などをぽんぽん叩くのは、相手の出方がどう出るか反応を見るときや、「ヨシヨシようやった」とその労をねぎらうとき

・ウソをついているとき、男は視線をそらすが、女はいざとなると相手を直視する

・常に上目づかいをする人は、他力本願で、人の顔色ばかり伺う受け身のタイプ

・目線が左に向く人の性格は、感情やイメージでものごとを考えるタイプ。目線が右に動く人の性格は、理詰めで冷静にものごとを考えるタイプ

・じーっと一点を見つめているのは、次の手を考えている証拠。言葉にはしなくても、相手に対する敵対心をふつふつとたぎらせている場合がある

不自然な微笑みは、自分の感情を隠すときに出てくる。本物の笑顔とつくり笑いの違いは、目が笑っているかどうか

口の両端を少しだけ上げる笑顔は、他人の干渉を拒む気持ちが表われている。また、相手を格下だと見下しているケースも多い

うつむきながら笑う人間は、なにか悪だくみをしている証拠

・肘かけに手や肘を置くクセのある人は、お人好しで、他人にいいようにまるめこまれることが多い

・カバンや書類を抱えている人は、腕組みよりもさらに強く、防御意識が強く働いている



まるで、役者がよく読む「演劇論」(言葉以外で心情を語る技術書)のような感じの書です。逆に考えたら、「読心術」のノウハウが、本書に詰まっているということです。

また、漫画のカットがページ毎に付いているので、見やすく、わかりやすい構成になっています。騙されることが多い人には、参考になるところが多いのではないでしょうか。


[ 2013/02/06 07:03 ] 青木雄二・本 | TB(0) | CM(0)