昨年、アメリカの大投資家
ウォーレン・バフェットが、地方紙88紙を一挙に買収したというニュースが入ってきました。「いったい、この時代になぜ?」と思い、その理由を調べていたときに本書に出遭いました。
著者は、出版の現実と未来を執拗に調べ、答えを探し求めています。著者が調べあげた多くの現実の中から、その一部を要約して紹介させていただきます。
・日本の電子出版市場は、いまだにガラケーでのBL(ボーイズラブ)、TL(ティーンズラブ)などの
漫画コンテンツが売れているだけ。文芸書、ノンフィクション書、ビジネス書などはほとんど売れていない。いつまでたっても電子書籍元年が始まらない
・2011年の電子書籍売上は、アメリカは約1800億円、日本は約630億円。日本の人口は、アメリカの約40%なので、大健闘。しかし、日本の電子出版市場の76%にあたる480億円が、BL、TLなどのエロ系ケータイコミック。一般書籍が売れるアメリカとは全く異質
・人口5万人のアメリカの地方都市で、本を買おうとしたら、通販か、車でウォルマート(ベストセラー書中心の販売)に行くしかない。アメリカはクルマ社会の国だから、電子書籍が普及した。
鉄道社会で、駅前書店が多い日本では、紙の本が手軽に買える
・
電子書籍の購入比率が最も低いのがフランスで5%、次に日本で8%。高いのは、インド24%、イギリス21%、アメリカ20%の順。こうして見ると、電子出版市場が成立し、既存の紙市場と共存しているのは、現在のところ
英語文化圏だけ
・IT企業は、社員の年俸400~500万円で、年間1億ページビューのサイト(年間売上1億円)を4~5人で回している。出版社では、社員1人の雇用に1000万円、社会保険、管理費用等を含め3000万円かかる。
社員1人1億円の売上がないと会社はやっていけない
・海外で売れる日本の出版コンテンツは、第一に漫画、第二に女性ファッション誌。日本語の出版物の世界での通用は難しい。輸出国の割合はフランスが3割、次いで、北米、韓国、台湾と続く。しかし、
漫画の世界市場は2008年ごろから下降線で、最盛期の7割
・日本アニメも
デジタル化の影響で衰退に入った。絵の撮影、仕上げ(彩色)の仕事がなくなり、下請け会社は潰れるのを回避して、中国や東南アジアに単純作業を丸投げ。20代アニメーターの平均年収は110万円。いい人が業界に入らず、高齢化が進んでいる
・2009年に単行本を発行した漫画家は5300人。そのうち
トップ100人の印税収入は7000万円。その一方残りの5200人は、平均が280万円。つまり、上位2%の人気漫画家が印税の3分の1を独占し、残った3分の2を98%の漫画家がシェアしている格差社会
・日本の新聞記者の横並び体質は、「
社員純血主義」と「
匿名主義」のせい。署名を入れずに記事を書くのは、ある意味責任逃れで、読者と真正面に向き合っていないことの現れ
・メディア企業は、
不動産収入で本業の不振をカバーしている。出版では、講談社、小学館。新聞では朝日新聞、テレビではTBS。TBSは、本業の放送事業の利益は1割程度
・アメリカでは、休刊した新聞は212紙に上り、20年前に比べて、新聞記者が2万人減った。
権力を監視する役目の新聞記者が減った街では、裁判がいい加減になり、医療サービスも低下し、選挙で現職有利、新顔不利といった影響が出始めている
・アメリカの
衰退産業のトップが新聞業界、それに続くのが、倉庫業界、投資業、スーパーマーケット、小売、自動車。
成長した産業は、インターネット、次いで、オンライン出版、フィランソロピー(慈善事業)、イー・ラーニング、公共政策、国際貿易と続く
・投資家バフェットは「自らのコミュニティについて精力的に報道する新聞には未来がある」「ローカルペーパーの資産評価額は10年前の10分の1に落ち、実質価値を下回っている」として、地方紙(発行部が数数千部から10万部までの小規模新聞)88紙を買収した
・バフェットのバークシャー社が買収した新聞の共通項は、「
中間所得層が厚く商業が発達した地方都市」「住民の
居住年数が長くコミュニティ意識が強い」「地域にライバル紙なし」「独自のウェブサイト」「ハイパーローカルの記事掲載」「
地元商店街からの広告」
・グーグルの売上の9割が広告。本当の姿は、ほとんど営業をしない
世界最大の広告企業。何の苦労もせずに、ニュースや情報を集めただけのポータルサイトが最大の利益をあげるのはフェアではないが、ユーザーの味方という顔をして、「情報はタダ」を守ろうとする
・
ペイウォール(課金モデル)で成功した新聞は、経済専門紙と高級紙だけ。しかも、その成功ラインは30万人。一般紙での有料購読者数は、ユーザー数の1%で、信じ難く低い
出版、新聞業界だけに及ばず、デジタル化、ネット化、コンピューター化は、多くの
デスクワークの職を奪っています。機械化、ロボット化が、肉体労働や
現場技術者の職を奪っていったのと同様のことが、今起こっています。
しかし、これを止めることは不可能です。この流れに抵抗せずに、隙間を見出し、どう生き延びていくかを考えなければいけないと思います。本書には、それを探し出すヒントが書かれているように感じました。