とは学

「・・・とは」の哲学

『老後の生活破綻- 身近に潜むリスクと解決策』西垣千春

老後の生活破綻 - 身近に潜むリスクと解決策 (中公新書)老後の生活破綻 - 身近に潜むリスクと解決策 (中公新書)
(2011/07/22)
西垣 千春

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著者は、社会福祉法人の職員を経て、大学教授になられた方です。高齢者の生活破綻の実例を数多く見てこられています。

老後の生活破綻に潜むリスクとはどういうものなのか。自分や家族が生活破綻に陥らないために何が必要か。本書には、実例が豊富に記載されています。その一部を要約して、紹介させていただきます。



・国民生活選好度調査の「幸福度」によって、幸福感を判断する際に、「健康状態」「家族関係」「家計の状況」の三つの要素が大きく影響していることが明らかとなった

90歳まで到達する人が、女性では約半数に近づいている。男性も5人に1人が90歳を超える。「センテナリアン」(100歳以上の高齢者)も約45000人(女性が87%)。このことは、ひとりで人生の終わりを迎える女性が現実的に多いということ

・余暇の過ごし方としては、80歳を超えると多くなるのが、テレビのみ。身体能力の低下から生活範囲が狭まり、自ら積極的に社会とのつながりを築く機会が減っている

・介護を要するようになったきっかけは、脳血管疾患がもっとも多く、他に認知症、老衰、関節疾患、骨折、転倒など。認知症や老衰、関節疾患の多くは緩やかに進行するが、脳血管疾患や骨折、転倒は突然起きることが多く、生活の急変を伴う

不慮の事故による死亡率は70歳を超えるころから急に高くなる。死亡に至らなくとも、ケガ、障害を持つきっかけになっている。事故をきっかけに生活破綻に陥る高齢者の数が増えている

・地域の「老人クラブ」への高齢者参加率が年々減り続け20%になった。年齢が上がるほど生活範囲を広げることが難しい高齢者にとって、身近な地域の持つ意味は大きい。この地縁の弱体化は血縁の弱体化と並んで、老後の暮らしが破綻する大きな原因

・高齢者世帯には、所得100万円以下という、非常に所得の少ない世帯が15%も存在する。また、収入が100万円から200万円の世帯が最も多く、全体の4分の1。所得の増加の見込めない高齢者は、最後までその状況は続く

・高齢者の40%が、毎月または時々赤字になる状況で生活している。現在の暮らし向きが苦しいと答える人が4人に1人いる

・勤労者がいない高齢者世帯は、平均で毎月4万円余りの赤字。1年に50万円の赤字とすれば、「退職してから生きると予想される年数」(約30年)を乗じた額(約1500万円)が貯蓄額の目安

高齢者の貯蓄分布を見ると、3000万円以上の貯蓄がある世帯が28%いる一方で、貯蓄が300万円以下の世帯も11%ある。さらに、負債を抱えている世帯も約4%ある

生活困窮生活破綻につながる高齢者本人や家族の原因は、「判断力低下」「健康状態の変化」「近親者による経済的搾取」「子供が親に経済依存」「予期せぬ事故・災害」「詐欺による被害」が主だったもの

・「判断力の低下」「健康状態の変化」の事例として、「妻の死をきっかけに認知症が現れた独身男性」「認知症の母の介護で仕事を辞めた娘」「夫の発病と倒産により、妻の治療が中断した夫婦」「夫婦ともに糖尿病が悪化」などがある

・「近親者による経済的搾取」「子供が親に経済的依存」の事例として、「息子の家庭内暴力と金銭搾取」「義妹を信じて転居して金銭的搾取」「離婚した娘家族の同居」「退職した息子が経済的に依存」などがある

・「予期せぬ事故・災害」「詐欺による被害」の事例として、「交通事故により失業」「友人の借金を肩代わり」「訪問販売に引っかかった」などがる

・人の名前が覚えられない、名前が出てこないなど記憶力に頼りなさを感じる。目も見えづらく、耳が遠くなり、何をするにも時間がかかり、細かな文字も読みづらく、必要な情報を探すのに疲れを感じる。次第に、自分から周りに働きかけずに受け身になってしまう

・高齢期には、うつ状態にいる人が多い。憂鬱が高じると、自己否定につながり、生きている意味を感じられず、自殺へつながる場合もある。年間3万人を超す自殺者のおよそ3分の1が60歳以上の高齢者であり、その6割が健康問題が動機となっている

・老後は、健康状態、家族関係、生活資金など、その都度起こる変化を受け止め、生活をどう適合させていくかが問われる。「老いた後の一定の姿」はなく、「老いるプロセス」があるのみ



望ましい老後の姿を夢に描いても、健康状態、家族関係、生活資金の変化などによって、その夢は理想通り実現しません。

本書では、現実的に、健康状態、家族関係、生活資金の変化が起きてしまったときに、どう対処していくか、その適応力が老後の生活破綻を未然に防ぐことが記されています。適応力こそ、高齢を生き抜くための最大の力になるのかもしれません。


[ 2012/09/29 07:01 ] 老後の本 | TB(0) | CM(0)

『自由論』ジョン・スチュアート・ミル

自由論 (光文社古典新訳文庫)自由論 (光文社古典新訳文庫)
(2012/06/12)
ジョン・スチュアート ミル

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ジョン・スチュアート・ミルは、19世紀のイギリスを代表する哲学者、経済学者です。教科書にも出てくるくらい有名な人です。

「自由論」は、ミルが、個人の成長のためには自由に考えること、話せることが必要だと説いた歴史的名作です。ミルは、本書の中で、自由とは何かを、数多く考察しています。それらを、要約して、紹介させていただきます。



・支配者が社会に対して行使できる権力に制限を設けることを、国を愛する人々は求めた。この制限こそが、彼らの言う自由の中身

・多数派が、考え方や生き方が異なる人々に、自分たちの考え方や生き方を行動の規範として、押しつけるような社会の傾向に防御が必要

・支配的な階級が存在する国では、その国の道徳の大部分は、支配階級の自己利益と支配階級特有の優越感から生まれる

・人間が、個人としてであれ、集団としてであれ、ほかの人間の行動の自由に干渉するのが正当化されるのは、自衛のためである場合に限られる

・いったん世間というものを絶対的に信頼してしまうと、ほかの時代、ほかの国、ほかの宗派、ほかの階級、ほかの党派に、自分たちと正反対の考え方があっても、自分たちのほうが正しいと言い張り、その責任を、自分が属する世間に委ねる

・時代というものも、個人と同じくらい間違いを犯す

・人間が判断力を備えていることの真価は、判断を間違えたとき、改めることができるという一点にある

・不寛容なローマ・カトリック教会でさえ、優れた人物を聖人の列に加えるかどうかを決める際に、その人をあえて非難する「悪魔の代理人」を招き入れ、悪魔に浴びせられる非難が検討されつくすまで、聖者としての栄誉を認めない

・ある意見が真理であるならば、何度も消滅させられても、いくつかの時代を経るうちに、それを再発見してくれる人間が現れる

・他人の好意に頼らなくてもやっていけるほど金銭的に余裕のある人を除けば、世間の評価は、自分の意見を控えさせる点で、法律と同じくらい効果がある

・自分の頭で考えず、世間に合わせているだけの人の正しい意見よりも、自分の頭で考え抜いた人の間違った意見のほうが、真理への貢献度は大きい

・真理は、対立し衝突し合う二つの意見をあれこれ考え合わせることによってもたらされる

・快楽を恐れて、禁欲を祭り上げても、禁欲主義は次第に現実と妥協し、ついには単なる建前と化す

・論争するとき犯すかもしれない罪のうちで、最悪のものは、反対意見の人々を不道徳な悪者と決めつけること。世の中で不人気な意見を持つと、こうした中傷にさらされやすい

・人間が間違った行いをするのは、欲望が強いからではない。良心が弱いからである

・現代人は、自分の好みよりも世間の慣習を大事にしているのではない。現代人は、世間の慣習になっている以外に、好みの対象を思い浮かばなくなっている

・個性とは、人間として成長すること。個性を育ててこそ、十分に発達した人間が生まれる

・世論の専制は、変わった人を非難する。だから、この専制を打ち破るには、変わった人がたくさんいることが望ましい。変わった人には、ずば抜けた才能、優れた頭脳、立派な勇気が見出される。したがって、現在、変わった人が少なければ、この時代は危うい

・奴隷化は官僚自身にも及ぶ。なぜなら、統治される人々が統治する官僚たちの奴隷になるのと同様に、官僚は自分らの組織とその規律の奴隷になるから

・国内の優秀な人材が、すべて政府組織に吸収されてしまうと、組織の知的活発さと進歩性が、消えてなくなる。官僚集団の能力を高水準のまま保たせる唯一の刺激策は、官僚組織の外部にいて、官僚に負けないくらい高い能力を持った人々による監視と批判



今の日本は、経済が成熟しても、社会は成熟せずに、喘いでいるように見えます。しあわせを実感できないのも、そのためと思われます。

市民社会における個人の自由の重要性を説いた本書は、今の日本にとって、もっと読まれるべき、価値の高い本ではないでしょうか。


[ 2012/09/28 07:00 ] 偉人の本 | TB(0) | CM(1)

『生きていくための短歌』南悟

生きていくための短歌 (岩波ジュニア新書)生きていくための短歌 (岩波ジュニア新書)
(2009/11/21)
南 悟

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著者は、神戸の定時制高校で教える国語の先生です。25年以上前から、授業で、生徒に短歌を詠ませています。その集大成が本書です。

恵まれていない境遇で、もがき苦しみ生きていこうとする生徒たちの言葉に感動します。拙い言葉であっても、生活実感から湧き出た言葉は、虚飾に彩られた言葉を凌駕するものです。思わず感情移入してしまった短歌を幾つか紹介させていただきます。



・「鉄工所作業服に身を包みボール盤と毎日格闘」(田中政充)

・「中華屋さん注文聞いて客席へおいしいの言葉めっちゃ嬉しい」(松本咲夢)

・「腹立つわぜんぜん仕事決まらないボクシング練習ストレス発散」(吉野鉄生)

・「レジ打ちでお金もらい忘れ怒られてパートさんに慰められる」(北川一樹)

・「ラーメン屋朝早くから準備をしトンコツチャーシュー注文こなす」(東内佑弥)

・「ひきこもり中学行かずに定時制夜の生活僕を励ます」(藤田翼)

・「人なんて結局自分が大切で私の友は安定剤」(麻里)

・「夜学にはきびしさもなく自由がある楽しい学校夜間学校」(永井新平)

・「工場の昼なお暗い片隅で一人で向き合うフライス盤」(久保木和幸)

・「世間から冷たく見られる定時制それでも頑張る仕事と学校」(上野義弘)

・「一日の乗務を終えて洗車する満天の星の下われは小さし」(小峰文子)

・「遊ぶ時探して僕ら今生きる働き学ぶ暮らしの中で」(東和男)

・「仕事場の人間関係難しく夜学に通い生き方学ぶ」(菊池栄二)

・「早朝の車まばらな国道のガソリンスタンド一人掃除する」(谷川保)

・「解体屋まじでこの道極めたる楽ではないがあとは根性」(福永伸幸)

・「嬉しいなあやっとバイトが決まったぞうどん屋さんで頑張るぞ」(佐伯健治)

・「解体の木材運びけが続き治す暇なく夜学へ走る」(辻雄一郎)

・「炎天下長袖作業着暑苦し日照りに目くらみ足がもたつく」(立山真一)

・「溶接の火花するどくマスクを通す目の充血で眠れぬ痛み」(桑原一生)

・「震災で壊れた街に灯をともす俺の死に場所神戸と決めた」(豊永文一)

・「魚屋をなめてかかった一五才仕事しんどい誰か助けて」(多田幸輔)

・「靴加工削りくず飛び顔につくスポーツシューズ二四〇足完成」(松榮恭平)

・「パチンコ屋玉が出ないと客怒るいらつきながらも頭を下げる」(長沼斉房)

・「デリバリーお届けしますカツ丼を店を任され大忙しだ」(古木晴久)

・「父と母恨んだ日々は何処へやら今では父の分まで生きる」(西山由樹)

・「今日もまた仕事で秋刀魚開いては匂いまみれで学校へ行く」(北田巨人)

・「一日中道路工事でしんどいな三日頑張れ給料日まで」(平野裕樹)

・「祭日も現場に出ては汗流し夕日を背に浴びツルハシ振るう」(山下寿徳)

・「スーパーで働き始めてはや三年野菜のブツ切りあっこにお任せ」(中野明子)

・「夜明け六時オトンと二人現場行き腰道具付け大工の仕事」(結木涼)

・「金メッキプリント基盤メッキする基盤は高いが給料安い」(安本大輝)



石川啄木などの俳人詩人は、自らの意思で貧しい境遇に身を寄せ、その生活を描きました。本書の定時制高校生は、貧しく歪んだ家庭環境から、抜け出そうとする姿をリアルに描いています。同じ貧しさでも、つくられた貧しさではないから、リアルです。

名もなき定時制高校生の作品ですが、ズシリと重いものを、われわれに投げかけてきます。彼ら彼女たちの人生に幸あれと願わずにいられない書でした。


[ 2012/09/27 07:01 ] 育成の本 | TB(0) | CM(0)

『お金持ちのお金はなぜなくならないの?』宮本弘之

お金持ちのお金はなぜなくならないの? (メディアファクトリー新書)お金持ちのお金はなぜなくならないの? (メディアファクトリー新書)
(2010/10/21)
宮本 弘之

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著者は、お金持ちを「最初からのお金持ち」「コツコツ型のお金持ち」「突然のお金持ち」の三つに分けて、それぞれの特徴について調査研究されています。

本書では、なぜお金持ちになれたのか、お金持ちはお金をどう守っているのか、お金持ちならではの苦労について記されています。

参考になる点が多々ありました。要約して、その一部を紹介させていただきます。



・お金持ちの大半は、リスクを取って事業を行うオーナー経営者。金融資産1億円以上5億円未満の層の58%、5億円以上の層の78%が法人や事業のオーナー。貯蓄だけでつくる財産には限界がある。ここに、オーナー経営者がお金持ちの大半を占める理由がある

・金融資産5億円以上世帯(超富裕層)は、0.12%。1億円以上5億円未満世帯(富裕層)は、1.69%。5000万円以上1億円未満世帯は、5.46%。3000万円以上5000万円未満世帯は、13.3%

・「最初からのお金持ち」が没落したケースはいくらでもあるし、「突然のお金持ち」があっと言う間に破産することもある。お金持ちになり、お金持ちであり続けるのは、決して簡単ではない

・お金や土地といった「目に見える有形の財産」だけでなく、「無形の財産」(資産家たちとのネットワーク、情報源など)をたくさん持っていることが、「最初からのお金持ち」の特徴でもあり、強みでもある

・「コツコツ型のお金持ち」は、資産運用といっても、賃貸不動産の経営に留まるなど、リスクをとってまでお金を増やそうとしない。本業で稼ぐ方が効率いいと考えている

・「突然のお金持ち」は、上手に「時代の波」に乗れた人。急に大金を手にした人は生活が派手になると言われているが、この説は半ば正しく、半ば間違っている。高級住宅街に家を買っても、それは将来換金する備えであって、生活は質素

・「最初からのお金持ち」は、学歴が高い人が多く、自営業が多いのが目につく。不動産収入が年収の2割以上を占める人が41%。子供が3人以上いる割合も高く、財産を次世代に受け継いでいこうという強い意識が見られる

・「突然のお金持ち」は、上場企業経営者に多い。自ら築いた財産が次世代へ引き継ぐことを想定して家訓をつくる人が多い一方、「子供が跡を継ぐ必要はない」と答える人が32%いる。半数以上が、子供に海外生活を経験させている

・取り返しのつかない失敗をしないように、常に気を配ることが、お金持ちがお金を減らさないための大原則。だから、お金持ちは、ヘッジファンドや仕組み債など複雑で理解しにくい金融商品には興味を示さない

・代々続くお金持ちは、大規模な農業経営をしたり、アパート・テナントビル・駐車場の賃貸収入を得たりもしているが、群を抜いて多いのが、老舗企業の経営

・日本には創業100年以上の老舗企業が2万社ある。老舗企業には、変わりやすい世の中を生き抜くため、家憲や家訓など脈々と受け継がれる一貫した理念がある。家憲や家訓を守ることは、創業者の求心力を活用し、結束力を強めることにつながる

・代々続くお金持ちに、「誰がライバルか?」と尋ねると、必ず父親や祖父の名が挙がる。また、「誰が相談相手か?」と尋ねても、やはり父親や祖父と回答する。こうした一族では、濃密な関係を築き、事業や財産を維持するためのノウハウを継承している

金融資産が3000万円を超えると、幸福を実感している人の割合が50%超に急上昇する。さらに、子供との関係が「密接」で、健康不安「なし」ならば、幸福を実感している人の割合が67%になる

・若い人たちが、富を手に入れられるのは、「新しいこと」や「時代に合ったこと」に、お金が流れていることの証拠

・スウェーデン(富裕税と相続税を廃止)を初めとする北欧諸国から学ぶべき点は、お金持ちを社会から排除するのではなく、彼らを社会や経済発展の中に取り込み、うまく活用しながら社会をつくっていくこと



お金持ちの人にも、お金持ちになりたい人にも、読んでもらいたい書です。

本書を読めば、お金持ちにとって大事なのは、有形の資産(お金、土地など)ではなく、無形の資産(情報、ノウハウ、ネットワークなど)であることがよくわかります。

少し回り道になりますが、無形の資産を手に入れる努力が、実はお金持ちへの近道ということなのかもしれません。


[ 2012/09/26 07:02 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)

『現代に生きる糧・刀耕清話-小川忠太郎の遺した魂(こころ)』杉山融

現代に生きる糧 刀耕清話―小川忠太郎の遺した魂(こころ)現代に生きる糧 刀耕清話―小川忠太郎の遺した魂(こころ)
(2010/07)
杉山 融

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本書は、剣道家小川忠太郎氏が、剣道の専門誌へ執筆したものに加筆したものです。

剣道の書といっても、スポーツ技術向上の書というよりも、禅の言葉を使って説く、生き方読本といった感じです。仕事や人生に置き換えて読んでも、十分に役立ちます。

修行や鍛錬をしてきた人が語る含蓄ある言葉が、随所に並んでいます。その中の一部を、要約して、紹介させていただきます。



・ただ稽古をやっているだけでは、いくらやっても何が何だかわからなくなってしまう。修行目的に無知のままでは、知らないうちに無明界へ自らを陥れてしまうおそれがある

・出来ることに命を懸ける。苦しかったら、ここが命の捨てどころ

・お互いに稽古していると、相手に打たれる。打たれた所に自分の欠点があるのだから、それを教えてもらって、有り難かったなと、相手に感謝する

・受け身になったらいけない。乗っていくこと。乗ることを「転ずる」、受け身になることを「転ぜられる」と言う。転ずれば、どんなことだって自主的だから苦しくない

・欠点が全部なくなれば「完全」。欠点というのは「事実」「現実問題」。現実を捕まえて、稽古で欠点を直していけばいい

・剣道では、自分の欠点を直さないで、相手の欠点を打つことばかりでは向上しない

・剣と禅で修練した山岡鉄舟は「晴れてよし曇りてよし富士の山、元の姿はかわらざりけり」と詠っている。ここまで修練すれば人間個人として、完成されたと言える

・脇にそれると難局が追いかけてくる。しまいには難局に負けてしまう。道の修行に志したら最後までやり通すという相続心がもっとも肝要

・「人の成功は自分に克つにあり、失敗は自分を愛するにある。八分どおり成功していながら、残り二分のところで失敗する人が多いのは、成功がみえるとともに、自己愛が生じ、慎みが消え、楽を望み、仕事を厭うから」(内村鑑三「代表的日本人」)

・「先入、主となる」。先に入ったものが、その人の本となる。先に良いものを入れること

・形のあるものばかりではなく、直心(正直な心、素直な心、自然の心)が本当の道場

・「邪なし」は、稽古の質。「鍛練」は、稽古の量。この質と量が、両方ピタッと行って、上達する

・きれいな花を見て、きれいだなと自然に思うのは「一念」。その美しさに執着して、枝を折って家に飾ろうかなと考えたら、これは「二念」。それが邪念であり、心に隙間を生む原因となる

・悟ったと思えば、そこに執われ、もう上達なく、否、堕落する。人間でなく天狗となる

動いている中で、自分を見失わないようになれば、これは本物

・自分だけ安全な所に置いて、相手を倒すことなんか出来やしない。自分を捨てて、そこへ入っていかないといけない

・剣術の稽古は、人に勝たずして、昨日の我に今日勝つとこそ知れ

・相手を馬鹿にするか、相手を恐れるのかのどっちも駄目。対人関係であっても、相手を超越してしまえばいい。互角でやっているから駄目である

・これでよいと思った時は堕落也。よいと思った場をすぐに捨て、また新しく修行をやり直す心が秘訣也

・「三つの好機」とは、「出頭(相手が攻めに出る起り鼻)」「引く処(後退する処)」「居付いた処(心身のはたらきが停滞した処)」

・「右転左転」とは、相手がどんなに攻めてきても、それと争わず、かかってくる心にも力にも技にも、かかわることはなく、はずしては乗り、はずしては乗りして、遂には争わずして勝つこと



剣道家の言葉には、交渉や営業など、人と一対一で会うときに、必要なことが多いように感じます。

交渉や営業で、精神的に優位に立つには、このような常日頃の鍛錬が必要ではないでしょうか。常に「心の道場」を持っておかないといけないのかもしれません。


[ 2012/09/25 07:02 ] 戦いの本 | TB(0) | CM(0)

『自己実現の心理』上田吉一

自己実現の心理自己実現の心理
(1981/01)
上田 吉一

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上田吉一氏の著書をとり上げるのは、「人間の完成・マスロー心理学研究」に次いで、2冊目です。

上田吉一氏は、欲求5段階説で有名なアブラハム・H・マスローと親交があった日本の学者です。マスローの本を数々翻訳されており、マスローを日本にわかりやすく紹介した功績の大きかった方です。

本書は、1976年の発行です。自己実現を遂げた人の事例が数多く紹介され、自己実現とは何かが明示されています。興味深い箇所がいっぱいありました。一部ですが、要約して、紹介させていただきます。


完全なる人間とは、人間性の法則が完全に生かされ、心身の機能を最大限に発揮した人間。それは人間存在の本質的にあるべき姿にまで成長を遂げ、充実し、まさに成熟の極致にまで到達した自己実現人間を意味する

・欠乏欲求に満ち足りた人格とは、優雅なゆとりある生活を送りながら、その余暇の中において、創造的表現や、価値追求の行動など、いわゆる「表現的行動」の支配的な人格をいう

・社会もまた、人間の作品であり、人間の欲求の反映である。したがって、社会の機構は、利己と利他を超越させ、そこに住む人が利己的であっても、それが他人の利益になり、逆に、他人の福祉を願う行動が、自己の利益となって帰ってくる仕組みであるべき

・人格の階層構造において、下部構造は物質的であるのに対し、上部構造は精神的である。上部構造は、主として、心、霊、魂といった精神に関することであり、また、目標、目的、意図、働きかけなどといった精神の作用を意味する

・自己充実をとげている人は、次の段階では、他人を愛し、積極的に他人の自己実現を助長しようとする意欲を示すようになる

・真に生きるということは、環境から独立することであり、環境の影響に対し、これに流されないで、自らの意志で応えることを意味する。そこには、自らの内に強いスタミナとエネルギーを必要とする

・自己実現は、ある事柄に完全に熱中し、全面的に没頭し、われを忘れて、そのことに生き生きと経験する過程の中で見出される

・自己実現は、自己のアイデンティティを保持し、真の自己になること。換言すれば、義理、義務、恐れ、不安など対人意識利害関係の意識を捨てて、自由に自己を表現すること

・自己実現は、自己を正しく見つめ、自らの衝動の声に耳を傾けるところに生ずるもの。自己を客観化し、自己に忠実になり、正直になることによって、主体的判断が得られ、真に自己の認知や行動に責任をもつことが可能になる

・マスローは高次欲求をB価値として、真・善・美・全体性、二分法超越・躍動・独自性・完全性・必然性・完成・正義・秩序・単純・富裕・無為・遊び・自己充実をあげている。人間は基本的欲求が満たされても、さらにこれらの価値に憧れ、その充足を願うもの

・未来を「幸福」と「価値をもった人生」にすることにより、そこに到る道程としての現在をも意義あるものたらしめ、生きがいをもたらせる

・食欲をはじめとする基本的欲求の満足が保証せられるとき、もはや生活のために働く理由は失われる。すでに目的を達したのであり、もうそれ以上働いても無意味である

・自己客観化するのは、「自己の欠点を認めることのできる人間」。人間は自我を守ろうとするために、自己の欠点を認めたがらない。これを過少評価したり、無視したり、他人のせいにして責任転嫁をはかろうとする

・自己充足的人格の特徴は、「進取の気性が認められ、時間的、空間的に広い視野を持つ」こと。歴史的社会的に現在を超えて広いビジョンを持つ。比較的狭い状況にのみ生きている人は、自己のおかれた時代風潮を絶対視し、それにのみ流されやすい

・マスローが「無邪気」として強調しているように、無我の状態、あるいは、天真爛漫とした、まるで子供のような屈託のない自由な行動や態度の中に、人間性の法則のまともな発露を見ることができる

・自己統制力のある人は、「一時的満足を与える状況にノーと言う」ことができるとともに、「究極的には良い結果が約束せられるが、一時的には不満足を忍ばなければならない事柄にイエスと言う」ことができる。つまり、展望が広く、すぐれたビジョンをもっている


人間性の最高存在とは何か?これを示してくれることによって、われわれの進むべき道が明確になります。

現在の世の中は、その進むべき道に迷っているように思います。これを権力者、知識者層たちが認識することで、社会がよくなっていくのではないでしょうか。本書は、人間性の最高存在へと進む道を照らしてくれる貴重な書です。


[ 2012/09/24 07:01 ] 上田吉一・本 | TB(0) | CM(0)