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『2020年のブラジル経済』鈴木孝憲

2020年のブラジル経済2020年のブラジル経済
(2010/11/23)
鈴木 孝憲

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著者のブラジルの本を紹介するのは「ブラジル巨大経済の真実」に次ぎ、2冊目です。この本も、前作以上に、ブラジル経済を詳しく解説された良書です。

少しだけですが、ブラジル債券を所有しているため、ブラジルの動向が気になり、この本を手にしました。ブラジルという国を客観的に判断された意見は、参考になるところが多々あります。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。


・ブラジル経済は、巨大な国内市場に支えられた内需主導型経済。ブラジルの輸出の対GDP比率は12.2%にすぎず、しかも輸出の半分近くが農産物や鉄鉱石などのコモディティ

・ブラジルの人種別分布は、白人が48%、黒人が7%、混血が44%、黄色人が1%。この人種の坩堝から生まれるエネルギーと生命力が、ブラジル経済を支える一つの底力になっている

・ポルトガル人は流血を好まない、相手を最後まで追い込んで止めを刺すことを好まない。この「大らかな」気質、大きな包容力が世界各国からの多数の民族、人種とそれらがもたらした文化、習慣、宗教などを大らかに包み込み、ブラジルの融和、同化の根を作った

・ブラジル国内では、たとえば、サンパウロ市内でも、アラブ系とユダヤ系の人たちが、同じ商業地区、同じ町内で喧嘩一つせず仲良く暮らしている。ここでも、両方の民族を大らかに受け入れているベースは、ポルトガル人たちのDNAと思わる

・ブラジル人は新しいものが大好き。選挙の電子投票を世界で一番早く実現したのも、IT社会への対応能力もインドの若者たちにひけをとらない

・日本の移民たちは、辛い農作業からスタートし、真面目に正直に働きながら、子供たちの教育に全力を挙げた。その結果、「ジャポネース・ガランチード(日本人は信用できる)」という評価がブラジル社会で定着している

・ルーラ前大統領は、まさにブラジリアン・ドリームを象徴する人物。一介の極貧の東北ブラジル(4500万人を超える)生まれの男が大統領になったから、貧しい民たちの支持は絶対的だった

・前々大統領のカルドーゾ政権は、インフレが収まったところで、最低賃金の実質引き上げ(インフレを超えるアップ)を推し進め、低所得者層への通学奨励金をスタートさせた。次のルーラ政権にも、所得格差是正政策は引き継がれ、大きく実を結んだ

最低賃金の実質大幅値上げは、民間の給与所得者全体にとってプラスとなり、その購買力をアップさせた。ルーラ政権下(2003~2008年)で、3190万人が所得ランクアップを果たし、所得階層(富裕層・中間層・貧困層)の中間層がほぼ50%に達した

・ブラジルの2006年利用率・普及率は、電気98%、水道83%、下水道49%、テレビ93%、自動車33%、冷蔵庫89%、ガスレンジ98%、パソコン22%、電話75%

・世界主要国の石油埋蔵量は、1位サウジアラビア、2位イラン、3位イラク、4位クウェート、5位ベネズエラ、6位アラブ首長国連邦、7位ロシア、8位リビアで、ブラジルは16位だが、プレ・サル油田の発見で、8位に上がってくる

・1994年ハイパーインフレが収束したが、レアル高が進み、ブラジルの輸出競争力は低下した。そのため、輸出メーカーは、人件費の安い東北ブラジルに次々と工場を移転した。その結果、人々が購買力を持ち始め、貧困の中に眠っていた東北ブラジルが目覚めた

・東北ブラジルには、米国の大手農家も土地を購入(アメリカの農地の値段の10分の1)し始め、ブラジル農業の新しいフロンティアになっている

・2009年のブラジルへの直接投資国。1位オランダ、2位アメリカ、3位スペイン、4位ドイツ、5位フランス、6位日本、7位カナダ

・日本企業は、日本から来た現地経験の少ないトップが、3~4年の短期間で交代する。しかも、権限付与が不十分で、何でも本社の指示を仰ぐ。本社が判断すると、ミスジャッジかリスクをとらない策しか選ばない。その結果、ビジネスチャンスを逃がしている

・最近の深海油田の発見と開発の石油石化業界、再生し始めた造船業界、拡大する自動車産業界などのブラジル産業界では、エンジニアが不足しており、工業高校や大学の工学部の拡充が叫ばれている

・今後、年平均5%の経済成長を続けていけば、ブラジルは2020年にGDP世界第5~6位の経済大国になる可能性が出てきた


EUの経済危機、中国の経済成長の失速などが顕著にならない限り、ブラジルの成長はほぼ間違いないように思います。サッカーのワールドカップとオリンピックなどの大きなイベントもこなしながら、経済大国への道を歩み続けていくはずです。

夢と希望に満ちあふれているブラジルと積極的に関係を持たれたい方には、非常に役に立つ本ではないでしょうか。
[ 2012/01/31 07:09 ] 海外の本 | TB(0) | CM(0)

『森信三に学ぶ人間力』北尾吉孝

森信三に学ぶ人間力森信三に学ぶ人間力
(2011/09/16)
北尾 吉孝

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初めて森信三先生を知ったのは、このブログでも紹介した「森信三語録心魂にひびく言葉」を17年前に買ったときです。何気なく書店で立ち読みしていて、心を打たれたことを今でも覚えています。

この本の著者は、SBIホールディングス(オンライン証券のSBI証券やネット専用銀行の住信SBI銀行などのグループを傘下に持つ会社)の代表取締役である北尾吉孝氏です。

北尾吉孝氏が、教育者であった森信三先生を崇拝されていることを2、3年前に知り、何となく親しみを覚えていました。北尾氏が選んだ森信三先生の遺された言葉の中から、興味深かった箇所を「本の一部」ですが、紹介させていただきます。



・気品というものは、人間の修養上、最大の難物と言ってよい。それ以外の事柄は、生涯をかければ、必ずできるものだが、この気品という問題だけは、容易にそうとは言えない

・人間は、死というものの意味を考え、死に対して自分の心の腰が決まってきた時、そこに初めて、その人の真の人生は出発する

・結局「われわれ人間は、死ねば生まれる以前の世界へ還っていく」と考えている

・その人の生前における真実の深さに比例して、その人の精神は死後にも残る

・一切拒まず、一切却けず、素直に一切を受け入れて、そこに隠されている神の意志を読み取らねばならない

・深く生きるためには、偉人の伝記を三回読まなければいけない。一回目は、12、3歳から17、8歳前後にかけての「立志」の時期。二回目は、34、5歳から40歳前後にかけての「発願」の時期。三回目は、60歳前後にかけての人生の総括の時期

・世の中が不公平に思えるのは、「自分の我欲を基準として判断するからであって、もし裏を見、表を見、ずっと永い年月を通して、その人の歩みを見、また自分の欲を離れて見たならば、案外この世の中は公平であって、結局はその人の真価通りのもの

・現在自分は不幸だと思わない状態こそ、実は幸福な証拠

・常に自ら求め学びつつあるのでなければ、真に教えることはできない

・日常生活の中に宿る意味の深さは、主として読書の光に照らして、初めてこれを見出すことができる

・われわれ人間生活は、その半ばはこれを読書に費やし、他の半分は、かくして知り得たところを実践して、それを現実の上に実現していくこと

真の読書というものは、自己の内心のやむにやまれぬ要求から、初めてその書物の価値を十分に吸収することができる

・自己の充実を覚えるのは、自分の最も得意とする事柄に対して、全我を没入して、三昧の境にある時。そしてそれは、必ずしも得意のことでなくても、一事に没入すれば、そこに一種の充実した三昧境を味わうことができる

・自分が現在なさなければならなぬと分かった事をするために、それ以外の一切の事は、一時思い切ってふり捨てる

・真の謙遜とは、結局はその人が、常に道と取り組み、真理を相手に生きているところから、おのずと身につくもの

・ローソクは、火を点けられて初めて光を放つもの。同様に人間は、その志を立てて初めてその人の真価が現れる

・もはや足のきかなくなった人間が、手だけで這うようにして、目の前に見える最後の目標に向かって、にじりにじって近寄っていく。このねばりこそ、仕事を完成させるための最後の秘訣

・物質文化は無限に積み重ねることができるけれど、精神文化はそうはいかない。なぜならば、人間は誰しも死を迎え、地上より姿が消えるから


到達した人にしか見えない境地に、森信三先生は立たれていたのだと思います。私には、まだまだうかがい知ることのできない境地ですが、歳をとるにつれ、そこが少しでも見えていくことを願っている次第です。

森信三先生の言葉は、一生の道標になると思っています。これらの言葉を携えながら、徐々に老いていきたいと考えております。
[ 2012/01/30 07:00 ] 森信三・本 | TB(0) | CM(0)

『実況・料理生物学』小倉明彦

実況・料理生物学 (阪大リーブル030)実況・料理生物学 (阪大リーブル030)
(2011/10/14)
小倉明彦

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身近な料理をネタにして、ウンチクを傾けるのは楽しいことです。人によっては、ウザいと言われる方もいますが、場を盛り上げること間違いなしです。たまに、尊敬されることもありますし、異性にモテたりすることだってあります。

ワインの話、日本酒の話、紅茶の話、チョコレートの話、ウンチクを傾ける話は数多くありますが、この本は、料理全般についてのものです。しかも生物学から考察した料理の話です。

ネタになる(会話の潤滑油になる)話がゴロゴロありました。その中から、「本の一部」ですが、紹介させていただきます。



・アリナミンはビタミンB1をアリシン(ニンニク)と化合させて、腸管での吸収を高め、分解を抑えたもの。ニンニクの学名はアリウム・サティブム。ニンニクだけでなく玉ねぎ、ネギ類全体にも「アリ」の名がつく

・味覚は、甘い、酸い、塩辛い、苦い、旨いが五原味。これらの味は、舌や口の粘膜から大脳皮質の味覚野に送られて情報処理される。しかし、トウガラシやコショウの辛味は大脳皮質の体性感覚野に送られる。だから、生理学では、辛いを五原味の中には含めない

・カプサイシンなどの受容体には、活性化され続けると次第に活性を失う性質がある。これを脱感作と言う。その結果、辛いものを食べ続けると、だんだん辛く感じなくなる「辛味中毒」になる

・燻製も食品の保存法の一つ。不完全燃焼の煙の中には、メチルアルコールやホルムアルデヒド、フェノールやクレゾールなどが混ざっている。はっきり言って毒だが、この毒で菌を殺す

・ハムやソーセージを作るときに、硝石という鉱物を混ぜる。硝石は酸素を発生するので、食中毒の原因になるボツリヌス菌(ソーセージ菌という意味)の増殖を防ぐ。この硝石から発生する亜硝酸イオンが肉の成分と結合して、きれいな赤色になり。発色剤となる

・硝酸塩、亜硝酸塩が食品の成分と結合してできるニトロソアミン類に若干の発ガン性が認められる。食中毒の危険を避けるか、がんの危険を避けるかの選択

・粘弾性を補充する食品添加剤のペクチンは、柑橘類の外皮直下の白い綿状部分の成分。タンパク質系の増粘添加剤には、ゼラチン(コラーゲンを加熱)、グルテン(小麦)、ムチン(ヤマイモ、オクラ、ナメコのネバネバ)、ポリグルタミン酸(納豆のネバネバ)がある

・食品の古典的保存方法は、細菌やカビの繁殖を防ぐ、塩漬け、味噌漬け、醤油漬け、砂糖漬け、蜂蜜漬け。中性環境を好む微生物繁殖を防ぐ、酢漬け、灰漬け。酸素の供給を断つことで繁殖を防ぐ、油漬け、甕詰め、壺詰めなど。近代では、びん詰、缶詰、脱酸素剤

・人に無害な特定の細菌やカビを積極的に繁殖させることで、有害な微生物の繁殖を抑える方法として、乳酸菌利用(ヨーグルト漬け、糠漬け、キムチ漬け)、コウジカビによる麹漬けなどがある

・茶葉の中でタンニンが増えるとテアニン(旨味物質グルタミン酸の誘導体)が減る。上等なお茶は、成長を犠牲にしても陽を当てないように育て、テアニンを取り出す。テアニンは低温で十分抽出できるから、熱湯で渋いタンニンを抽出するヘマはしないこと

・ドーパミンの作用を強める物質の一つがカフェイン。カフェイン中毒は冗談じゃなく本物の中毒。お茶のテオフィリンもココア・チョコレートのテオプロミンも同類で中毒を起こす

・ベーグルは、小麦粉をイーストで発酵させるまではパンと一緒だが、最低限発酵した段階で、熱湯に投げ込んで発酵を止め、焼く。「避難するのに、かさを増やすな」「膨らまなくても腹の中に入ると同じ」というユダヤ人の合理精神がぎっしり重たいパンになった



この他にも考察する料理生物学のテーマが、「カレーライス」「ラーメン」「ホットドッグ」「焼肉」「酒」「デザート」など多岐にわたっています。

科学的に、しつこく解説しようとする姿勢には、頭が下がります。食べ物のことをもっと知りたい方には、面白い本ではないでしょうか。
[ 2012/01/28 07:07 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『二宮金次郎正伝』二宮康裕

二宮金次郎正伝二宮金次郎正伝
(2010/08)
二宮 康裕

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著者は、二宮金次郎の子孫です。二宮家には、46000頁に及ぶ金次郎自身の文献が所蔵されています。

このブログでも、「二宮尊徳90の名言」「二宮翁夜話」などの書物を紹介してきました。本書は、本家本元の書です。

江戸時代の再建コンサルタントであった二宮金次郎の本当の姿と考え方が、この本を読むとよくわかります。印象的な箇所が数多くありました。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。


・金次郎は、「講」「米相場」「金融」に関し、若年の頃から深い関心を寄せていた。奉公時には、仲間や女中衆を相手に金銭貸借を行った。二十代半ばには、農民の米を委託販売したり、米相場への投機を行った。天保の飢饉には、各地の米の売買差に着目して売買した

・金次郎は、自己の勤労で得た賃金や開墾地からの作徳米を浪費せずに、倹約生活で貯え、かつ貸付金の利子で財を増やし、それらを元手として田畑を買い増していった。この繰り返しで、1810年(23歳)には地主として一家再興を成し遂げた

・金次郎は、「家」を再興させ、「富貴」な生活を求め、「私欲」(自己の所有地を小作に出し、武家奉公の給金、米の売買益、薪の販売益、貸金の利子など多角的収入を得ていた)のみを一途に考えていた当時の心境を、後年になると批判的に回顧している

・金次郎の「分度」とは、己の心に内在している「怠け心」と「勤労意欲」の加減を度すること。金次郎は「勤労」「倹約」「推譲」を方法とする「分度」論を展開した

・金次郎の表彰策は、「村民をいたわり、民生の向上を図る」「戸数と人口の増加を目指す」「耕作地を拡大し、取穀の増加を目指す」こと。金次郎は荒地と化した田畑を復興させるのは農民の労働力であり、彼らのやる気を起こさせることが何よりも肝要と考えた

・金次郎はインフラ整備(下枝刈り、道普請、用水路浚いなど)に重点を置き、この費用を公的負担で行う原則を貫いた

・金次郎は、復興のためには、人口の増加が必須の課題と考え、生活困窮者に、小児養育料を与えた

・金次郎の七誓願「禍いを転じて福となし」「凶を転じて吉となし」「借用変じて無借となし」「荒地変じて開田となし」「瘠地変じて沃土となし」「衰貧変じて富栄となし」「困窮変じて安楽となす」

・金次郎は、新たな「分度」を求める理論として、「君の衣食住は、民の労苦なり、国民の安居は、君の仁政にあり」と記した。やがて、この認識が集大成される

・対立という立場を捨て去り、「一円融合」の境地に達したとき、人間界には、様々な果実がもたらされる。この「一円融合」の精神に立ってこそ、人は穏和な環境と、永遠の幸を保証されるものだと金次郎は考えた

・領主が己の利を優先した政治を展開すれば、闇政→惰農→廃田→貧民→下乱→犯法→重刑→臣恣→民散→国危→身弑→不孫という悪い循環になると金次郎は説いた

・領主が「仁徳」に基づいた政治を展開すれば、明政→励民→開田→恵民→下治→守法→省刑→臣信→衆聚→国寧→上豊→孫栄という好循環がもたらされると金次郎は説いた

・金次郎は、村内の富裕な者が貧窮者の面倒を見るという村内互助を求めた。あくまで村内のことは村内で解決するという村内自治を目指し、村落の経済的自立を促した

・貧窮に苦しむ農民に目標を与え、向上心をもたせた。そのために、農民の貢納額を一定に定めれば、農民は荒地開墾や農作業出精によって、増収分を自己のものにすることを金次郎は藩に認めさせた

・領主に「分度」を求め、報徳金を原資とし、農民に賃銭を払って、荒地を復興させ、収穫米の中から借財を返済していく金次郎の仕法は一定の成果を挙げた

・「安民」が達成されてこそ、「富国」がある。「国の元は民にて、民安かれば即ち国固し」と「安民富国」論を金次郎は展開した

・財政の悪化を増税に転嫁している内は根本的な改善を図ることができない。増税は一時的な効果をもたらしても、民を枯渇させるだけであり。民の枯渇はやがて領主の困窮につながることを、「分度」の定まらない仕法はザルに水を注ぐが如くと金次郎は喩えた


本書には、二宮金次郎の人生の軌跡が描かれています。働き者でしたが、若いときから銅像のような聖人君子ではなかったことがよくわかります。

若いとき、懸命に働き、親の借財を返しますが、その後、米相場などに手を出し、金儲けに走ります。しかし、晩年は、欲を捨て、みんなが幸せになるように懸命に動き回ったというのが、二宮金次郎の一生です。

この本を読み、偶像化されていない、二宮金次郎の本当の姿を知ることができ、より一層尊敬と親しみを感じることができました。
[ 2012/01/27 07:02 ] 二宮尊徳・本 | TB(0) | CM(1)

『日本はスウェーデンになるべきか』高岡望

日本はスウェーデンになるべきか (PHP新書)日本はスウェーデンになるべきか (PHP新書)
(2010/12)
高岡 望

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このブログで、「北欧の本」を過去に10冊採り上げてきました。本書は、スウェーデン公使(大使に次ぐ長)の著者が、スウェーデンと日本を対比(気候、人口、性格、法律、医療、福祉、年金、企業、労働組合、外交など)させた書です。

スウェーデンの素晴らしい政策が、この本には多く載っています。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。


・スウェーデンは、一年の半分が冬で、農作物に恵まれない。19世紀後半までヨーロッパの貧しい国の一つ。当時、豊かさを求めて、北米大陸に人口の3分の1近くが移住した

・スウェーデンが今日の地位を獲得した第一の要因は、19世紀初頭以降2世紀にわたる中立政策。第二の要因は、豊富な天然資源(木材、鉄鉱石、水力発電)。第三の要因は、優れた科学技術(国を挙げての教育、科学技術の育成)

・移住者の多い中南米を除けば、日本人が1000人以上住んでいる国で、永住者割合が最も高い国がスウェーデン。その背景には、両国民の気質の共通点(内気な性格)がある

・スウェーデン人と日本人はよく似ているが、「自立した強い個人」「規則に基づく組織力」「透明性」「連帯」といった本質的に異なる点もある

・寒い国では勤勉でないと生きていけない。毎晩凍え死なないためには、寝ずの番で火を絶やさないようにしなければならない。厳しい環境では、真面目で勤勉で決まりを守ることが、美徳どころか生存の条件になる

・ヨーロッパにおけるカトリックが優勢な地域とプロテスタントのそれを分ける境界は、ワインの生産の北限とほぼ一致する

国民総所得当たりODA(政府開発援助)は、スウェーデンが1.12%で世界1位。日本は0.18%、アメリカは0.2%。日本の5倍以上の比率で対外援助をするのは、自国の社会福祉に満足し、その豊かさを分かちたいという善意のあらわれ

・スウェーデンは、人口当たりの国際養子縁組数が世界一高い。50人のうち1人が養子。毎年、約1000人が養子縁組により入国する

・スウェーデンの難民第三国定住(一時的に逃れた国から難民の受け入れ定住を認める)受け入れ数は、米国、カナダ、オーストラリアに次ぐ世界4位で1800人

・47%の高い女性国会議員比率は、ある日突然実現したわけではない。女性の参政権が実現したのが1920年代、20%を超えたのが1970年代、30%を超えたのが1980年代

・スウェーデン企業の取締役の女性比率22%は、ノルウェーに次いで世界2位。日本は1.4%で世界最下位

・スウェーデンの20歳から64歳の女性のうち、病気療養中、学生、年金生活者を除くと、「家事」人口は、たったの2%。全女性人口に占める専業主婦の率は2%未満

・スウェーデンでは、子供手当が1984年に導入された。現在は、子供が16歳になるまで、1人約13000円。累進的に1人当たり給付が増えるので、子供が6人なら約12万円になる

・スウェーデンの合計特殊出生率は、2010年に1.97に達する。1990年代に1.5近くまで低下した後、継続して上昇。90年代末以降の景気回復と移民の高い出生率がプラスに働いている

・スウェーデンの65歳以上高齢者で、特別住宅入居者は10万人(6%)。高齢者の94%は自宅に住んでいる。特別住宅入居者はここ数年減少。在宅介護サービスを受ける人が15万人(10%)と増えている

・人口1000人当たり医師数はスウェーデンが3.6人、日本が2.1人と倍近い差。保健医療支出がGDPに占める割合は、スウェーデンが9.1%、日本は8.1%とさほど変わらない

・スウェーデンの労働者の7割が以下の労働組合に加入。LO(産業別組合、ブルーカラー)170万人、TCO(ホワイトカラー)120万人、SACO(高学歴専門職組合、教師、医師、弁護士等)60万人。同一労働同一賃金を実現する連帯賃金政策が特徴

・同一労働同一賃金が実現すると、生産効率が同一賃金より低い企業は、その企業にとっては高すぎる賃金で従業員を雇用する必要がある。その結果、生産効率の悪い企業、産業セクターから、効率のよいところに賃金と労働力が移転していく

・2003年にユーロ導入の是非を問う国民投票が実施されたが、政府は前向きだったが、反対56%で、導入が見送られた。一般国民は、スウェーデン独自の社会保障制度が悪影響を受けることを危惧した


これらのデータを見ると、スウェーデンと日本の差が一目瞭然となります。バブル崩壊後の20年にわたる日本政府の無策と怠慢と世界知らずが、もたらした災いかもしれません。

世界は、日々発展しているという事実を、もっとみんなが知らないといけないように思います。この本は、スウェーデンと日本という明暗が分かれる国を対比しているので、現実がよくわかるのではないでしょうか。
[ 2012/01/26 07:06 ] 北欧の本 | TB(0) | CM(2)

『こころを凛とする196の言葉』斎藤薫

こころを凛とする196の言葉 (ブルームブックス)こころを凛とする196の言葉 (ブルームブックス)
(2004/03)
斎藤 薫

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著者の本を紹介するのは、「されど服で人生は変わる」に次ぎ、2冊目です。

斎藤薫さんは、女性の美意識、美的願望を、一文で見事に表現する卓越した能力をお持ちの方です。

男性では理解できない女性の心の細部を知ることができるので、感銘できる箇所がかなりあります。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。



・おしゃれとは、年齢とともに失っていく清潔感を取り戻すためにある

・他人の視線が気にならないのは、ある意味でとても「おさまり」がいい。でも、その「おさまり」こそ、言ってみれば「地味」の正体。危険がそこにある。気がつくと「地味」の中にぬくぬくと埋もれてしまい、女が最低限持っている艶まで失わせてしまう

・美しく「しまう」ことが、ものを所有する喜びを3倍にもする

・美人じゃなくても美しく見える人は、自分自身を「美しいもの」として扱っている。それで女は決まる

・街で振り返ってしまう女性は、いつも決まって同じタイプ。清潔感と色気がきっちり7対3の女たち

・好きになってくれるのを待つのではなく、「好き」を取りに行くつもりになると、不思議に恋はうまくいく

・魂は顔に出ている。女はメイクで隠せるが、男は魂を隠せない。だから、それを見逃してはダメ。最初の一瞬が勝負

・自分のやりたいようにしているのに、結果的に相手を少しだけ幸せにする。そういうわがままもある。相手を喜びに巻き込む身勝手は、女をとても魅力的に見せる。どうせなら、そういうわがままの言える女になること

・カワイイにカッコイイを組み合わせないと、「大人のカワイさ」は成立しない

・男と女の相性を最終的に決めるのは、正義感の有無。つまり、正義感の強い女は、自分と同量、またはそれ以上の正義感を持っている男でないと、一生ついてはいけない

・幸せそうに見える女は美しい。しかし、幸せそうに見せる女は少し悲しい。その手段が「お金持ちに見せること」だったときは、もっと悲しい。それを知った人から、おしゃれがうまくなる

・誰が何と言おうと、自分の意志だけで自分の力を信じて歩いていける人は、目に見えない「美しい緊張感」を全身に張り巡らせ、それが何とも言えぬ凛とした力強い美しさに変わる。「オーラが出る人」とは、たぶん「強い意志を持っている人」

・言い訳そのものが、女から清潔感を奪っていく。そして、言い訳は言い訳を呼び、怒ってばかりいる女をつくっていく

・お風呂に入浴剤を入れたり、ヨーグルトに上等なハチミツをかけたり、日常にひとさじの贅沢をすること。生きている張り合いをなくした女をあっけないくらい簡単に救ってくれる

・自分をバカにも見せられるゆとり、知的な会話のキモはそこにある

・「現実逃避」は決してほめられたりしない。でも、「行動的な逃避」は「あり」。転職、引越し、そして決別

・「知的」とは、知性や教養が洋服を着ていることではない。むしろ、それを日ごろいかに隠しているかが、知的な量を決めている

・よく考える人は、あまり悩まない。くよくよとよく悩む人は、実はあまり考えていない。「悩む」と「考える」は、見た目よく似ているが、実はまったく別のこと。多くの人は、考えているふりをして、悩んでしまう

・コンプレックスを克服したければ、それを人に言うか、書く。コンプレックスは他人にも自分にも、ひた隠しにしているから、どんどん大きくなってしまう



この本を読めば、技術論ではなく、精神論こそ、おしゃれの本筋であることがよくわかります。

格好よく言えば、おしゃれとは、心の着こなしではないでしょうか。そういう意味で、死ぬまで、おしゃれであり続けたいものです。
[ 2012/01/25 07:08 ] 斎藤薫・本 | TB(0) | CM(0)

『世界経済を破綻させる23の嘘』ハジュン・チャン

世界経済を破綻させる23の嘘世界経済を破綻させる23の嘘
(2010/11/19)
ハジュン・チャン

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著者は、自由市場主義に疑問を投げかける気鋭の韓国人経済学者です。欧米列強がつくったルールが本当に正しいのか。また、それが世界各国に幸福をもたらすのかを、一つ一つ検証したのが本書です。

常識を覆されて、驚かされる説明が頻繁に出てきます。納得できる箇所も多々ありました。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。


・自由市場なんて存在しない。どんな市場にも、選択の自由を制限する何らかのルールや制限がある。その規制を認識できなくなっているだけ。政府はつねに介入している。自由市場という神話を打ち破ることが、資本主義理解のファーストステップになる

・富裕国の一部の人々が、貧しい国の同業者よりも何百倍も生産性が高いのは、彼らが賢いからではない。過去何世代にもわたる集団的遺産(高度な技術、よく組織された会社、優れた制度、しっかりしたインフラ)のおかげ

・市場に任せさえすれば、誰もが価値に見合う正しく公平な賃金をもらえるというのは神話でしかない。この神話を脱却して初めて、より公正な社会をつくりあげることができる

・インターネット革命は、洗濯機を初めとする家電製品が起こしたほど大きな経済的、社会的変化をもたらしていない

・ILO(国際労働機関)データによると、家事労働で賃金を得ている者の割合は、ブラジルでは労働力の7%、エジプトは9%。富裕国では、ドイツが0.7%、アメリカは0.6%、スウェーデンは0.005%。家事労働者比率の高さ(メイド、召使い文化)と発展途上は比例

・電気、ガス、水道に加えて、家電製品が出現すると、女性の生活様式が根底から変革された。アメリカでは、1870年代に雇用された女性の50%が「家事労働者かウエイトレス」だった。既婚白人女性就労率は1890年後半、数%だったのに、現在は80%に上昇している

・8~10%未満のインフレは経済成長率にまったく影響を及ぼさない。インフレが経済に悪いという証拠はまったくない。インフレ率を超低レベルに抑える政策は、投資をも抑えてしまう

国家干渉期のほうが、その後の市場志向改革期に達成された業績よりもまさる。富裕国が自由市場政策によって富み栄えるようになったというのは事実ではない。イギリスもアメリカもかつては保護貿易、補助金政策によって富を手に入れた

・「脱工業化」は神話であり幻想でしかない。国内総生産に占める製造業比率の減少は、サービスと比較して、製造品の価格が安くなったため。製造品の生産性向上が、サービスのそれより速いために起こっている

・市場為替レートが貿易財・サービスの需給で決まるのに対し、購買力は輸出入されるものだけでなく、その国のすべての財・サービスの価格によって決まる。スイスやノルウェーでタクシーや食事が高いのは、安い賃金の労働者を移民政策で厳しく制限しているから

・富者をさらに富ませれば他の者たちも潤うとよく言われるが、真実は、富は貧者にまでしたたり落ちない。この30年間、富者優遇政策は、成長を加速させられないでいる

・第二次大戦後、富める資本主義国のほとんどで累進課税と社会福祉費が急速に増加した。にもかかわらず、それらの国は1950年~73年までの期間、史上最高の成長率を経験する。富者への重税によって、資本制経済が破壊されることはない

・貧しい国を貧しくしているのは、個人的な起業家精神の欠如ではない。荒々しいエネルギーは発展途上国にこそ豊富にある。富裕国を富ませているのは、個人的なエネルギーを集団的企業へとまとめあげる能力があるから

・スイスは最富裕国の一つだが、大学入学率がOECD諸国の中で群を抜いて低い。富める国になるか貧しい国になるかは「どれだけ国民を高学歴にできるか」ではなく、「どれだけうまく国民を生産性の高い集団に組織化できるか」で決まることが多い

・雇用の不安定化が進めば、人々は勤勉になるが、間違った職場で勤勉になるに過ぎない。第二のチャンスがあるならば、人は最初の職選びでも、大胆になれるし、現在の職をあきらめやすくなる。第二のチャンスがなければ、リスクを負って事業を始める意欲を妨げる

・2000年代に限れば、スウェーデン(2.4%)フィンランド(2.8%)の成長率のほうが、アメリカ(1.8%)よりも高かった。「社会保障制度は労働者の勤労意欲を失わせ、富者の富創出意欲を削ぐ」と主張する自由市場信奉のエコノミストの意見は正しくなかった

・良い経済政策を運営するのに優秀な経済学者は必要ない。これまでに最も成功した経済官僚の大半はエコノミストでない。台湾でも、中国でも経済政策を運営しているのはエンジニア。日本と韓国では、経済政策は法学部出身者によって運営された


著者の意見は、「人間の合理性に限界がある」「報酬は人の価値によって決まらない」「ものづくりを重視する」「政府を大きく活発にする」「発展途上国を優遇する」ことによって、新しい経済システムを構築できるというものです。

この書を読めば、矛盾がはびこる経済社会において、「神の見えざる手」はなく、市場に委ねずに、自分たちで、豊かさを勝ち取らなければならないと勇気づけられます。
[ 2012/01/24 07:07 ] お金の本 | TB(1) | CM(0)

『日本人が成功すんなら、アジアなんじゃねぇの?』豊永貴士

日本人が成功すんなら、アジアなんじゃねぇの? 起業に役立つ現地情報&稼げるノウハウ!日本人が成功すんなら、アジアなんじゃねぇの? 起業に役立つ現地情報&稼げるノウハウ!
(2011/10/08)
豊永 貴士

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著者の豊永貴士さんは、ここ10年ほどで、アジアを15か国以上歴訪し、現地での情報を集め、人脈も構築されてきました。

今は、日本人起業家や中小企業の海外展開支援、学生の就職支援をする会社をシンガポールに設立されています。

アジア各国の劇的な変化の様子と、各国の特徴などを現地取材されているので、本書を読めば、アジアの息吹を感じることができます。共感できた箇所が数多くありました。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。


・今の日本で土地を買う、家を買うというのは、基本的な経済原則からすると、実はあり得ない話。だって、買った瞬間に値段が下がるのだから

・日本にあるけれど、その国にないもの、あればもっと便利なのにというものが絶対にある。日本人である僕たちが普通に知っていても、現地の人はその存在すら知らない。情報格差、知識格差を利用したビジネスができる

・カンボジアのアンコールワットの近くで売っている「アンコール・クッキー」は、アンコール遺跡の形に成型している、なんの変哲もないクッキーだがバンバン売れている。年商は聞いてビックリ!2億円。GDP9000億円の国でクッキーを売って2億円!

・日本の過去を見れば、アジアの未来が見える。現地の人達には見えにくいその国の未来が、そのうち求められるモノやサービスが、日本人には見えやすい。つまり、日本人なら誰でも優秀なマーケティングアドバイザーの目線で見えるということ

・なにもアメリカやイギリスに行くわけじゃない。アジアでは、向こうもカタコト英語だから、こちらもカタコトで互いに通じ合える。「英語ができないから、まずは英会話を学ぼう!」なんて考えるのは時間の無駄。まずは、飛び込むこと

・日本のいつごろと同じ状態かと言うと、ベトナム1965年前後、フィリピン1970年前後、インドネシア1972年前後、タイ1975年前後、マレーシア1980年前後といった感じ

・東京への一極集中、少子高齢化、地方経済の衰退、高コスト社会。日本が衰退する理由は、枚挙にいとまがない。変革を期待するより、スッパリ諦めてみる。アジア各国の今は、日本の昭和と同じ。沈みゆく我が国を嘆くのではなく、あくまで前向きに進むこと

・日本が僕らに与えてくれている最強の武器が3つある。一つ目は「円高」、二つ目は「最強のパスポート」、三つ目は「日本人相手の商売がまだ成り立つこと」

・タイの人口は意外に少なく6640万人。進出企業が多く、人手不足。失業率は1.2%。完全な売り手市場。しかも、日本円で300円あれば、おいしいものが腹一杯食べられる

・5万人の日本人相手のビジネスが、数年で500万人のタイ人相手のビジネスに変わる。こんなこと、絶対に日本では起きない

・ベトナムは30歳代までが人口の60%以上占めている。タイの10年前と非常に似ている

・日本では偏差値50であっても、勇気を出して外に出ることで、それが60にも65にもなる。日本にいると普通だと思ってしまうが、外に出ると日本人はスゴいと実感できる

・ベトナムでは、テストマーケティングを繰り返せば、何か当たる。ベトナムは、お金がなくても、経費をかけないでやれる国

・カンボジアのここ10年のGDP伸び率はASEANで一番。まだ何もない国だから、発展するしかない。日本は巨額援助を行ってきた。対日感情はよいが、これを活かしていない。日本の援助で作ったインフラを利用して、中国や韓国の民間企業が進出している

・カンボジア政府も気合が入っている。最長9年間の法人税免除。参入規制の規定もほとんどなし。パチンコで有名なマルハンが、カンボジアでは銀行だったりする。カンボジア経済の基本通貨はドルなので、円高をメリットに変えることができる

・不動産でいい場所というと、投資するのにいい場所。戦争が終わった国とか、人口流入の激しいところ、規制が緩くなっているところ。具体的には、コソボ、スリランカ、バクーといった国。スゴいのはユダヤ人。戦争中に危険をかえりみず買っている

・アジアでは、誰を知っているか、誰から紹介してもらったかはとても重要。そのとき役立つのがFacebook。フェースブックをグーグル翻訳なんか駆使して、英語で書く。そして、友達ができたら会いに行く。会って会って会いまくる。そしたら人脈がガンガン広がる

・夢の固まりである志を実現していく手段がビジネス。だから、ビジネスは楽しい。閉塞感、無力感の中から飛び出そう。我慢ばかりの人生を長く続ける理由なんてない


久し振りに読む、若者に勇気を与える書です。日本では、老人及び中高年が、若者の夢を奪ってしまっていることがよくわかります。

私の親戚もマレーシアで成功し、サーバント(召使い)が数人いる大豪邸で暮らしています。人生はそれぞれなので、必ずしもそれがいいとは言えませんが、日本の窮屈さに我慢できなくなったとき、この本を読んでみる価値があるのではないでしょうか。
[ 2012/01/23 07:09 ] 出世の本 | TB(0) | CM(0)

『カカオとチョコレートのサイエンス・ロマン―神の食べ物の不思議』

カカオとチョコレートのサイエンス・ロマン―神の食べ物の不思議カカオとチョコレートのサイエンス・ロマン―神の食べ物の不思議
(2011/10)
佐藤 清隆、古谷野 哲夫 他

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実を言うと、私は大のチョコレート好きです。煙草を10年前にやめてから、口がさびしいのか、いつしかチョコレートを口にすることが増えました。いろんなチョコレートも食べてみました。

今は、自粛して、ビターチョコレートを1日に半枚程度(約30g)食べるのに留めています。

半ばチョコ中毒になっているのですが、なぜ常習性になるのか、どうやって作られているのか、また加工されているのか、知らないことばかりなので、この本を手に取りました。

面白くてためになる箇所が数多くありました。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。


・日本のお菓子の中で、チョコレート(小売総額4180億円)は和生菓子(同5040億円)、洋生菓子(同4610億円)に次いで、三番目の売上。スナック菓子、米菓より売れている

・国際的には、日本のチョコレート消費量は大変少ない。日本人の1人当たり1年間の消費量は2.2kg(1日6g)。ルーマニア12.4kg、ドイツ11.4kg、スイス10.8kg、イギリス10.3kgと続き、他には、フランス7.4kg、ベルギー6.8kgなど

・最近糖分を控えたチョコレートが人気を集めているが、糖分の量は数字でわかる。「カカオ99%」は1%が糖分、「カカオ78%」は22%が糖分、何も書かれていない場合は、カカオ55%、糖分45%。糖分は100から引いた分

・熱帯雨林地方では、「カカオ豆」→「発酵」→「乾燥」まで。温帯・寒帯地方で、「焙炒(ロースト)」の後、チョコレートは「融解」→「固化」。ココアは「脱脂」→「水や牛乳に分散」。チョコレートの故郷では、ココアバターが溶けるので、チョコレートが作れない

・世界のカカオ豆の生産量は355万t(アフリカ240万t、アジア65万t、中南米50万t)。日本の輸入量は5万tで、アフリカからの輸入が88%、中南米が9%、アジアが2%

・カカオは熱帯雨林で生育するが、その範囲は、赤道をはさんで緯度20度以内。カカオの木の幹からカカオポッド(小ぶりのラグビーボールのようなもの)が直接生え、ポッドの中に、カカオ豆が数十個含まれている

・成育したカカオの木には、一年に数千個の花が咲くが、ポッドまで成長するのは数十個。虫が入り込んで受粉する虫媒花だから、小さな虫が生育できる環境がカカオ農園には必要。マラリアを媒介する蚊も発生するが、受粉を促す虫が死ぬので、殺虫剤は散布しない

・生のままのカカオ豆を乾燥して、焙炒しても、あのチョコレートの風味は出ない。多くの微生物の活躍で、40℃~50℃に数日間発酵して、カカオ豆の中に香りや呈味成分が生まれる。チョコレートは「発酵食品」である

・カカオ豆は全世界で年間355万t生産されているが、カカオ豆の生産農家は数百万と言われる。平均すると、一軒の農家の生産量は年間1tに満たない。このような零細農家が世界のチョコレート産業を支えている

・18世紀ごろ、カカオはヨーロッパの一般市民に広がるが、その後、カカオのライバルとして、コーヒーとお茶(紅茶)も広がり、嗜好品の主役を奪われるようになった

・1828年、カカオ豆を焙炒し、細かく磨砕して溶かしたカカオ液(カカオマス)の中から、ココアパウダーを取り出した「ファン・ハウトゥン親子」の発明によって、ミルクや水に溶けやすいココアパウダーが作られて、食べるチョコレートができるようになった

・1860年代まで、ミルクの入らないダークチョコレートしかなかったが、スイスの蝋燭職人であったダニエル・ペーターが8年間の研究の結果、ミルクチョコレートを完成させた

・チョコレートメーカーにとって、カカオ豆の焙炒条件とコンチング(固体粒子を細かくする)条件は門外不出の最高機密情報であり、これらによって、チョコレート固有の香味が生まれ、それが伝統的に守られている

・カカオ豆の胚乳部に6~9%含まれるポリフェノールには、「動脈硬化の予防」「抗ストレス効果」「活性酸素抑制効果」などの健康効果がある

・ココアバターに含まれるオレイン酸やステアリン酸には、コレステロール値を下げる効果。テオプロミン(カカオに含まれるアルカノイド)には、緩やかな興奮作用、利尿作用、筋肉弛緩作用。カカオ成分には、高齢者の認知能力低下防止効果もある

・大人であれば、1人1日当たり5~10gのチョコレートの摂取で、先の健康効果が認められる


普段何気なく食べているチョコレートが、カカオ豆農家の苦労と努力によって作られていることが分かり、本当に頭が下がる思いでした。

そして、この不思議な食べものであるチョコレートを現在の形にしていった先人たちの苦労と努力にも、頭が下がる思いです。

身近な食べものを深く知ることが、いかに大切であるかを思い知らされる書でした。
[ 2012/01/21 07:05 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『どこへ向かって死ぬか』片山恭一

どこへ向かって死ぬかどこへ向かって死ぬか
(2010/09/22)
片山 恭一

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著者は、大ベストセラー「世界の中心で、愛をさけぶ」を書いた片山恭一氏です。

本書のサブタイトルは、「森有正と生きまどう私たち」です。森有正とは、明治の文部大臣であった森有礼の孫で、パリに留学し、日本の大学の職を捨て、家庭をも捨て、独自の内省的思索を続けた哲学者です。

その森有正に興味を持った片山恭一氏が、NHKの「こだわり人物伝」という番組が縁で、パリの森有正の足跡を訪ね、自ら生きることを思索したユニークな書です。

哲学的表現、抽象的表現が多い書ですが、人間の本質を思索する片山恭一、森有正両氏の言葉が深く心に刺さってきます。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。


・あらゆる人間的な営みの根源には、自由で独立した個人の感覚があり、それは孤独によって条件づけられている

・芸術作品が体現している美にしても、あるいは社会的な理念にしても、一人一人の人間が孤独からつかみとってくるもので、既成の価値観や思想・イデオロギーとして、最初からどこかにあるものではないというのが、森有正の一番言いたかったこと

答えの見つからない状態というのは、とても不安で、不快なもの。誰だって、手近な答えにすがりつきたくなる。しかし、そんなものはないと考えた方がいい。答えが見つからない状態に耐えること、時間をかけるということがどうしても必要になってくる

・「この生活を護り抜き、生き抜き、そして死ぬこと。本当にそれだけ。何か残るものがあるとしたら、樹木から熟れきった果実が落ちるように、何かが落ちるものだけ」 (森有正)

・「感覚の解放とは、出発点となる感覚の状態の鈍化。感覚から出発すると簡単に言うが、どれだけ大変なことか。また、これなしには、経験も思想もすべて虚しい」 (森有正)

・孤立感、孤独を埋めるのは、他人とのコミュニケーションではない。他人とコミュニケートするツールは非常に発達した。しかし、孤独というのは、本質的に、自分自身とコミュニケートすることでしか埋まっていかない

・今の世界は、結局、答えを出すことに長けた人が成功するようになっている。一つの問いに対して、早く答えを出した人が成功する。そういう世界は、案外と簡単に崩壊する

・「日本は本当にむつかしいことで苦労していない。それを避けて易きに就いている。だから、他の国に比べてどんどん進歩する。それが恐ろしい気がする。何かが根本的に間違っている」 (森有正)

・パリの街の美しさを構成しているのは、人間が生きること。その根底には、自然との接触があるというのが、森有正の思索の根幹にある認識。そこから、自然科学や思想、芸術、宗教といった人間の営み、すなわち「高い精神作用」が生まれてくるということ

・自己の外側に在るものとの関係において、人間は自己でありうる。したがって、人間が自己であるとは、必ず自己を超えたものという観念を招来する。この観念は「神」という形をとることもある

・「経験の一部に、人間性などという名前をつけている」 (森有正)

資本主義とキリスト教はワンセット。神の支えなしに、人間は資本主義に耐えられない。それほど、資本主義というシステムは、人間に苦悩と絶望をもたらす

・労働とは、突き詰めれば時間。さらに、正確に言えば、有限な時間のこと。人生の限られた時間の供出が「労働」と呼ばれるもの

・資本主義の風景が総じて美しくないのは、それが切り詰められた人間の労働のみによって、出来上がっているから。街にも建物にも、そこで商われているものにも、有限な人間的時間だけが刻印されている

・お金に換算できるものは、人も物も風景も、みんな同じ顔立ちになってくる

・「非人間らしさ」の側に置かれた者には、それに対比される「人間らしさ」の欺瞞性がよく見える

・経済学において「外部」とは、無料ということ。かつては、自然が「外部」をなしていた。しかし、現在は、水や空気を含めて、無料の自然は考えられない。つまり、人間らしく生きることで生まれる非人間的なものは、地球の中で処理しきれなくなっている


そこに住んでいる人間が、風景をつくり、芸術をつくり、思想をつくり、宗教をつくります。

薄っぺらで、性急さを求める社会は、安っぽい風景、浅薄な芸術、安易な思想、簡易な宗教をつくっていきます。

そうならないためには、個々人が深く思索しなければいけないと、森有正、片山恭一両氏が、時空を超えて、パリの中心から日本に向けて叫ばれているように感じました。
[ 2012/01/20 07:09 ] 人生の本 | TB(0) | CM(0)

『仏教、本当の教え- インド、中国、日本の理解と誤解』植木雅俊

仏教、本当の教え - インド、中国、日本の理解と誤解 (中公新書)仏教、本当の教え - インド、中国、日本の理解と誤解 (中公新書)
(2011/10/22)
植木 雅俊

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仏教はインドから中国に伝わりました。そして、中国語に翻訳されて、日本に伝えられ、鎌倉仏教が誕生するまで、国家鎮護のために利用されました。鎌倉以後は、庶民のニーズに合わせる形で生き残っています。

釈迦が唱えた仏教が、今では変な形で日本に定着しています。日本の仏教関係者は、そこを見ないように目を背けています。

本書は、原始仏教と日本の現在の仏教がどれほど乖離しているのかを問うものです。驚くことのオンパレードです。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。


・インドでは北に理想の国があると考えられていて、北枕は生活習慣だった。釈尊も日ごろから北枕で寝ていた。それなのに、日本人は釈尊の入滅シーンの描写を見て、北枕は人が死ぬときの寝方だと勘違いした

・インドの結婚式では多くの人が蓮の花を持参する。最もめでたい花だから。ところが、日本で蓮の花を結婚式に持参したら「縁起でもない」と怒られるに違いない

・現在のインドでは、ヒンドゥー教徒81%、イスラム教徒13%、キリスト教徒2%、シク教徒2%、仏教徒は1%でしかない。仏教徒は最後までカースト制度を承認しなかったので、カースト制度の支配的なインド社会に永続的に根を下ろすことができなかった

・出家とは、本来、世俗の名誉、名声、利得など一切をかなぐり捨てて、社会の最底辺に置かれた人たちと同じ立場に立つこと。外見や生まれによってではなく、行いによって、最高の清らかさを得るもの

・「日本の仏教は、シャーマニズムの域をほとんど出ていない」 (中村元・日本人の思惟方法)

・仏教は通力、呪い、占い、超能力、呪術的な医療・祭式、儀式偏重など、すべて否定した。重視したことは「あるがままの真実に即した道理」であり、普遍的な真理としての法であった。その法を自らに体現し、真の自己に目覚めることこそ仏教の目指したこと

・一人の人間としての自立した生き方は、他者に迎合したり、隷属したり、依存したりするところからは、生まれてこない。自らの法に目覚め、それを依り所とするところに一個の人間としての自立と、尊厳が自覚される

・釈尊は、「教えは、それぞれの地域で語られる言葉で語りなさい」と答えた。アジア各地では、自国の言葉に翻訳されたが、日本だけ、漢訳のままで受け容れ、大和言葉に翻訳されなかった。漢文の経典は音読みなので、人々はそれを聞いても意味がわからなかった

・日本人にとって、経典に何が書かれているのかを知らないまま今日まできたのは不幸。その背景として、日本には「分からないこと」=「有難いこと」という変な思想がある

・「現在は力未来は理想。記録された過去は形骸に過ぎないが、現実の過去は、現在の努力によって刻々に変化しつつある」 (三木清・友情~向陵生活回顧の一節)

・インド仏教では、国王を泥棒と同列に見ていて、あまり尊敬していない。泥棒は非合法に人の物を持って行ってしまう。国王は税金という形で合法的に人の物を持って行ってしまう。人の物を取り上げるという意味で、両者は共通している

・中国では、国家に従属させられそうになっても、「沙門は王者を敬わず」の言葉の通り、仏教者たちは、国家のために積極的に働こうとしなかった。ところが、日本の仏教は、最初から鎮護国家の思想で始まった

・1700年代前半、大坂の町人学者であった富永仲基が「出定後語」を著わして、大乗仏教は釈尊が直接説いたものではないという「大乗非仏説論」を唱えたが、寄ってたかって、無視され、潰された

・インドの仏教は「人」より「法」を重視した。中国に来ると「法」を体現した「人」を重視した。日本に来ると「法」よりも特定の「人」に重心が移った。聖徳太子を信仰対象とする太子堂が各地の寺院に建てられ、弘法大師があちこちで信仰された

・「お前たちは遺骨の供養にかかずらうな。お前たちは正しい目的に向かって怠らず、勤め、専念しておれ」が釈尊の考え。葬儀は出家者ではなく、在家がやるもの

・現在のような葬送儀礼が定着したのは、江戸時代の檀家制度の影響。仏教僧侶が葬儀や追善を行うことが、寺院経営の維持に有利であったから。位牌は儒教の影響によるもの。戒名などない。四十九日を過ぎた供養もしないもの

・仏教の影響として評価できる面は、日本で死刑廃止が、保元の乱(1156年)まで約400年続いたこと。これは、生命を大切にする仏教思想の影響


本書は、日本の仏教が、いかに嘘をついてきたか。また、その嘘を正当化するための嘘をついてきたのかを暴いたものです。

現代は、塗り固められた嘘が、剥がれ落ちそうになっているのを、何とか接着剤で補修してつないでいる状態だと思います。

日本の寺院数がコンビニより多いのは異常であって、今後、本来の仏教(原始仏教)の姿に変わっていくのではないかと感じさせてくれる良書でした。
[ 2012/01/19 07:01 ] 神仏の本 | TB(0) | CM(0)

『ここが違う、ヨーロッパの交通政策』片野優

ここが違う、ヨーロッパの交通政策ここが違う、ヨーロッパの交通政策
(2011/04/08)
片野 優

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ヨーロッパには、過去5回行き、10ヵ国ほど周りましたが、街中で必ず見かけるのが、路面電車(LRT)と自転車です。

もちろん、大都市では、地下鉄も充実していますし、郊外には、地方へ行く巨大なバスセンターもあります。

しかし、大都市の真ん中に高速道路があり、車がバンバン、スピードを出して走っている姿を見かけることはありません。

そういう訳で、環境問題を唱えながらも、街中への自動車の規制を行わず、自転車の駐輪場もないままにしている日本の現状に、ずっと違和感を覚えております。

この本で、ヨーロッパ各国の交通政策と、それを行ってきた背景や歴史を知ることができます。参考になった箇所が数多くありました。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。



・近年、CO2の削減対策から、ヨーロッパでは高速道路の有料化が一般的となった。フランスの高速料金も決して安くないし、無料だったドイツもトラックが有料化になり、スウェーデンでも有料化を検討中。高速道路無料化政策は、ヨーロッパの流れに逆行している

ロンドンの渋滞税は、月曜から金曜の午前7時から午後6時の間、東はロンドン塔から西はハイドパーク周辺に乗り入れる車両は、1日5ポンド(約600円)の税金を支払うもの。700台の監視カメラで車のナンバープレートを正確に読み取る

・フランスでは、むしろ公共交通で黒字を出すことが悪だと考えられている。「人間は、誰でも自由に移動する権利を有する」という移動保障の自由を権利と考え、営利追及の問題は二の次となっている

・コペンハーゲン市内の35%にあたる市民が、通勤通学に自転車を利用しているが、2015年には自転車利用率を50%にしたいという目標を掲げている

デンマークの自動車税は世界一高額。リーズナブルな128万円の新車を購入する場合、25%の消費税と105%~180%の登録税(高級車は高い)が加算され、334万円も支払う必要がある。円高前の2008年で換算したら、523万円になる

・フライブルク(ドイツ)では、市内を車が通らないように、中心を迂回してまわるバイパスを建設し、パーク&ライド(郊外の路面電車始発駅付近に駐車場)を推進した結果、車の利用が半分になり、公共交通機関利用者が2倍になった

・バーゼル(スイス)の交通政策は、「市内の制限速度30㎞道」「自転車専用道のネットワーク」「パーク&ライド」。市民の交通利用は、徒歩28%、公共交通27%、自動車23%、自転車21%、オートバイ1%で、バランスがとれた交通環境にある

・バーゼルの市電では、混んでいなければ自転車の持ち込みが許されている(天井付近に8つのフックと長いシートを持ち上げると後輪を固定する金具が設置されている)

・デンマークでは、コペンハーゲンに乗り入れる列車を毎日通勤通学に30万人が利用している。そのうち25000人が列車に自転車を乗せている。しかも搭載する料金は無料

・イタリア政府は、自転車の購入時に奨励金を与える政策に踏み切った。電動アシスト自転車を初め、購入価格の30%が割引きとなる

・ミュンスター(ドイツ)には、「自転車のアウトバーン」がある。市内のサイクリングロードは270㎞、郊外には255㎞が建設されており、さらに総工費300億円を投じ、合計1000㎞まで延長する計画

・モビリティは、スイス国内1200カ所に2350台、ドイツとオーストリアに1700台の自動車を貸し出している。カーシェアリングが普及した背景には、行政主導の大規模な車両流入規制が敷かれたことが大きく作用している

・モビリティの会員は前年比で12%も増加。ビジネス会員が全体収益の21%も占め、ここのところの伸びが著しい

ガソリン価格と税額は、2009年1月1ℓ当たり、ドイツ135円(内税額100円)、フランス131円(同94円)、イギリス113円(同83円)、日本107円(同61円)、アメリカ42円(同10円)。電気自動車などのエコカーはドイツを除いてヨーロッパの人気はいま一つ



ヨーロッパ各国、各都市で交通政策に特徴がありますが、「路面電車」「パーク&ライド」「貸自転車」「自転車購入補助金」「自転車道の延長」「自動車の高額税金」「カーシェアリング」「渋滞税」「高速道路有料化」「ガソリンの高額税金」といったところがメインです。

つまり、自転車には追い風が吹き、自動車には逆風が吹いていると考えられます。日本は、雨の日が多く、起伏のある道が多いなど、ヨーロッパと違う点も多々ありますが、この風は、確実に日本にも吹いてくるのではないでしょうか。
[ 2012/01/18 07:04 ] 海外の本 | TB(0) | CM(0)

『コワ~い不動産の話』宝島編集部

コワ~い不動産の話 (宝島SUGOI文庫 A た 5-1)コワ~い不動産の話 (宝島SUGOI文庫 A た 5-1)
(2010/02/05)
宝島社編集部

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不動産って、本当に厄介な買い物です。将来を見据えて買わないと、厳しく物件をチェックして買わないと、周辺土地を調査して買わないと、一生に一度の買い物が、台無しになってしまいます。

もし、万が一、不祥の事態が起きても、つぶしがきく不動産を買うのが、無難だと思います。とにかく、不動産購入は慎重に慎重をきするくらいでちょうどいいのかもしれません。

本書は、この「コワ~い不動産」の実態がコンパクトにかつ有益にまとめられています。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。


・一番多いのは水のトラブル。屋根やバルコニーの防水が不足している、壁内の防水シートに連続性がないなどの理由で雨漏りが起きる

外断熱工法が正しく施工されていないための結露も多い。雨漏りのダメージは一部だが、結露は壁一面を内側から侵食する。壁紙が浮いてきた時はすでに遅し。もはや、家全体がカビに汚染されていることになる。結露を甘く見てはいけない

雨漏りがしやすい事例は、設計事務所に依頼したときによくあるトラブル。作品意識が高く、現場を知らない建築士が設計する場合は見栄ばかりこだわる。にもかかわらず、不具合、欠陥が出ても経済的ゆとりのないところが多く、白旗をあげられてしまう

・以下の5つの条件に当てはまる三階建ては、100%欠陥住宅。「1.準防火地域である」「2.2000年以前竣工」「3.中小不動産業者が売主で中小工務店が建設」「4.確認申請書第二面の工事監理者欄が空白」「5.検査済証がない」

・著名な建築家による設計も、「建築家=デザイナー」であって、現場レベルの知識がないことがあり、安心できない

・沈下は、即時沈下と圧密沈下がある。即時沈下は建設最中に発生するが、圧密沈下は、徐々に土中の水が移動し、時間をかけて沈下する。建物が傾き、家を支える基礎の亀裂を生み、窓や扉が開けづらくなる。地盤沈下しても業者に責任を問えないので注意が必要

建築制限付物件とは、現行の建築基準法に抵触しており、すでに建っている現状の建物に住むことは許されているが、再建築不可物件

・シロアリの巣食う中古物件を買ったが最後、購入者側がいくらクレームを言っても、販売した側は「現況有姿」(現在の状態を優先して取引する業界慣例)で逃げ切ろうとする

堅実なデベロッパーは、実需向けマンションのみを分譲している。ところが、実需向けより投資向けマンションを多く分譲しているデベロッパーは、ドボンするケースが多い

・買い主の多い引越しシーズンに合わせた3月期完成マンションは、無理な工期設定を組むことが多い。また、多くのデベロッパーは、決算期に合わせて売上の計上を図る。そのため、欠陥・不具合は、3月と8月の竣工物件に偏っている

機械式駐車場は、メンテナンスと補修に費用がかかる。15年から20年で機械を入れ替える必要があるが、この費用が1台当たり100万円前後の改修費がかかる

マンションの最上階がもっとも泥棒に狙われる。付近の建物からの見通しも悪く、人の通行も少ないので、時間をかけて堂々とピッキングして、玄関から侵入することも可能

・1981年の新耐震基準が定められる以前の建築物はほとんどが「既存不適格建物」。日影規制が導入される1976年前のマンションは、現状と同じ大きさや広さに建て替えができない

マンションの管理費・修繕費は新築マンション分譲価格の0.5~0.6%で推移。これを35年ローンを組んで、35年居住するとして計算すると、物件価格の20%前後を占める

・「10階以上の高層階に住む緊張しやすい女性の63.7%が流産・早産を経験したことがある」というデータが発表されている。イギリスでは1970年代から子育て世代の低層住宅居住を自治体主導で推進。スウェーデンでも高層住宅は子育てに向かないという価値観が浸透

・木造の住宅と異なり、SRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造といったタワーマンションでは、資産価値が高くなってしまい、固定資産税と都市計画税に購入翌年から思わぬ金額を納税せざるを得なくなる(固定資産税1.4%、都市計画税0.3%)


注意すべき物件に関して赤裸々に現場の声が、この本には数多く述べられています。中古物件だけでなく、新築物件もチェックするポイントはかなり多くありそうです。

私自身、建築士に頼んだ家に住んでいますが、20年経ち、雨漏り、結露、壁紙の剥がれなど、欠陥が目立ってきています。

しかも、建築士は廃業してしまいました。ここの例にあるパターンと似ています。くれぐれも、家を買う時、建てる時は、あせらずに、じっくり勉強して、私のような失敗しないようにしてほしいものです。

これから家を買う人、建てる人は、読んでいて損はない本ではないでしょうか。
[ 2012/01/17 07:08 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)

『はやぶさ式思考法・日本を復活させる24の提言』川口淳一郎

「はやぶさ」式思考法 日本を復活させる24の提言「はやぶさ」式思考法 日本を復活させる24の提言
(2011/02/04)
川口淳一郎

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著者は、宇宙工学者で、東大の教授です。あの「はやぶさ」のプロジェクトマネージャーを務めた方です。

本書には、はやぶさを成功させた手法、仕組み、運営方法、組織づくり、人材育成など、実際にどうやってきたのかが書き記されています。

単なる科学の本ではなく、プロジェクトを成功させるヒントやノウハウが詰まっている書です。共感できた箇所が数多くありました。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。


・「はやぶさ」のミッション達成度は、「電気推進エンジン稼働開始」50点、「地球スイングバイ成功」150点、「イトカワとタッチダウンしてサンプル採取」275点、「カプセルが地球に帰還」400点、「イトカワのサンプル入手」500点。計画に加点法による目安を示した

・ハイリスク・ハイリターンな事業は、加点法で評価すべき。そうしないと、100点満点からの減点法になり、ローリスク・ローリターンの計画ばかりになってしまう

・たいていの親は、子供に「勉強しなさい」と言う。しかし、それはいわば「過去の模倣をしなさい」と言っているのと同じ。人間には現状を肯定する保守性があるので、往々にして、「過去の模倣」主義に留まってしまう

・減点法によるテストの起源は科挙に遡る。四書五経を正確に記憶し、減点の少ない者から高級官僚に採用する制度。清朝末期まで1300年間実施した。近隣国にも伝播し、東アジア一帯は「科挙文化」に染まった。日本も明治以降の学制で、どんどん科挙的になった

・いかなる独創性も理解者を得ないと埋もれる。そのためには、ディベート能力とプレゼンテーション能力が必要。発想が独創的であればあるほど、説得する能力が問われる

・宇宙開発はリスクの塊みたいな仕事。「技術」「コスト」「スケジュール」の三大リスクを管理し、乗り越えていくのが、プロジェクトマネージャーの仕事になる

・急ぎたいと焦るときでも、「そこで焦っても、いいことはない」と自分に言い聞かせること。「焦っているのは自分だけで、世の中の動きは意外に遅い」と思った方が賢明

・物事は、スケジュール通り進行させて、予定は守るべきという考えに、制約され、取り憑かれてしまう。しかし、スケジュールや予定は、目的を達成するための一つの手段であって、それ自体が目的ではない

・当事者としてアクセルを踏むことだけ考え、最終的なストップは組織に任せる。自分でアクセルとブレーキの両方を制御するより悩みが少ない。組織人だからこそやれること

・「どっちにするか迷うくらいなら、どっちでもいい」というのが、最適化の極意

・プロジェクト管理は、どこかで妥協しなくてはいけない。こうやればできるという選択肢を見つけ出すこと。これを忘れると、プロジェクトにブレーキばかりかかることになる

・若くして圭角(とがった角)の取れた愛想のいい人は、先人の足跡を辿るだけで一生を終える

・企画する人は、問題点や無理な部分を努力で乗り越えようとする。欲しいのは「止めておけ」という忠告ではなく、「こうすればできる」という解決策、あるいはヒント

・境界線の内側でやれることはやったら、外側、つまり、人知を超えた領域のことは思い煩っても仕方がない

・小才は縁に会って縁に気づかず。中才は縁に気づいて縁を生かさず。大才は袖振り合う縁をも生かす

・「惜福」は福を使い果たしてしまわないこと。「分福」は自分の得た福を他に分けること。「植福」は福を植えて社会に貢献すること。「はやぶさ」は幸運に恵まれて地球に帰還し、イトカワのサンプルを手にした。これを世界の研究者に配布するのは「分福」にあたる

・韓国、中国も、日本と同じ「病気」を持っている。それは、1400年前に始まった科挙を源流とするチェックシート文化

・イノベーションは地道な積み上げの上に育つものではない。インスピレーションを基に、ブレイクスルーで突き破るような活動があってこそ育つ。その芽をつまないで、芽を伸ばす社会の出現、将来への投資への理解が「日本病」を破る突破口


本書を読んで、なぜ「はやぶさ」が成功したのかがわかりました。みんなが使命を感じ、失敗を恐れず、熱意を持って挑戦し、メンバーのやる気が結集できたからです。

これは、どんな組織にもあてはまります。未知なことをやり遂げるために、絶対に必要なことではないでしょうか。こういう閉塞した時代であるからこそ、この本の持つ意味が大きいように思います。


[ 2012/01/16 07:07 ] 育成の本 | TB(0) | CM(0)

『芸術闘争論』村上隆

芸術闘争論芸術闘争論
(2010/11)
村上 隆

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ベルサイユ宮殿で、個展を開き、物議を醸しだした世界的芸術家の村上隆さんの書です。「芸術起業論」に次ぎ、2冊目の紹介となります。

この本は、現代の世界の芸術がどういう状況にあるのか、それに対して、アーティストはどう対処したらいいのかが、詳細に数多く記されています。

現代のアートという世界を知る上で、貴重な書です。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。


・芸術は今、美術館の壁を埋めるためのインテリアと言える。そのニーズのスケール、スピードは加速度的に膨らんでいる。極東の片隅で、ニューヨークやヨーロッパの芸術界を、200年前と同じ視座で、先鋭性の文脈を勘違いしながら、羨望し続けていていいのか

・ぼくの野望は、世界のアートシーンへ日本人アーティストを一気に200人輩出させること。そうすれば、世界は変わる、アートのルールは変わる。日本芸術界の欺瞞の歴史と、その安楽な生き方と闘わなければならない

・かつての権力者、宗教的権威、お金持ちが、芸術家に作品を作らせるという時代から、芸術家が自分のために作った作品をお金持ちが買うというややこしい時代に移行した。そのせいで、作品としての価値と金銭的な価格が大きくずれることになった

・芸術を作るには金がかかる。お金がかからないと思っている人の根拠は、貧=正義=芸術という貧神話にすぎない

・ピカソの時代、デッサン力において、他にこのレベルの作家がいなかった。現代の日本人、中国人は絵が上手い人が多い。現代の天才の定義は「超越的な表現力を持った表現者」のことになった

・中国ではエリートが芸術家になっている。彼らは頭が良くてチャンスを理解して、ビジネスになるのならビジネスもやりたいと考えている

・マーケットには、画商であるとか、資産家、アドバイザー、キュレイターとか美術館とか魑魅魍魎がプレイヤーとしていっぱいいる。このプレイヤーの望むものがアートのルール

・「構図」「圧力」「コンテクスト」「個性」。この四つが現代美術を見る座標軸、つまりルール

・芸術の世界にもニーズがあるので、年間200人くらいのスターが登場しないと成立しない。その200人を補うためには、天才を待っているわけにはいかない。なぜなら、天才は30年~40年に一人しか現れないから。天才不在の中でも天才に見せる必要がある

コンテクスト(文脈、脈略、背景、状況)があれば、天才に見せることができる。その発明が現代芸術。現代美術になる前の戦前、19世紀以前のコンテクストを理解していたほうがいい。つまり、歴史の重層化、コンテクストの串刺しを理解すること

作品の大きさは重要。なぜなら、アメリカの場合、現代美術を購入する人は「美術館に寄付したいお金持ち」「広すぎる自分の家の壁を埋めるのにアートがほしいお金持ち」だから

アーティストの評価は、作品が99.999%。芸術の世界は厳しい。一口に、作品を売って「金を儲ける」というが、自分の正義に忠実であって、それが社会からの信用を勝ち得た瞬間しか、儲けを手に入れることはできない

・西欧における現代美術のコンテクストは、「自画像」「エロス」「死」「フォーマリズム(形式重視)」「時事」。この五つをシャッフルすることが好まれる

・良い作品とは、一番目が「サプライズ」、二番目が「完成度」、三番目が「納得」。納得させるのは、「う~ん!」と少し考えさせて、「なるほど!」がベスト。わかりやすいコンテクストの説明、「物語」と言っていい

・A級かB級か勝負の分かれ目になるのは、「文脈の説明」「理解者の創造」「ネットワーク」の三つ

・芸術家の価値は、死後、作品によって決まる。ゴッホ、マティス、ピカソのような巨匠ですら、作家は作品の奴隷であり、乗り物にすぎない。「人生は短く、芸術は長い」。ただ作品あるのみ。作品を後世に伝えるために全身全霊を込めて闘う。それが芸術家の使命


「芸術家とは、自己満足の作品が売れる稀有な人」だと思っていましたが、本書を読むと、そう単純なものではなさそうです。

いい作品を残そうとすると、お金がかかる。そのお金を得ようとすると、お金持ちが求めていそうなものを描かないといけない。しかし、そこに自己満足もないと、長続きしない。

そこのところを著者が格闘しながら、作品を出し続けているパワーを、この本に感じます。芸術とお金の複雑な関係が伝わってくる書です。
[ 2012/01/14 07:00 ] 芸術の本 | TB(0) | CM(0)

『老いを愉しむ言葉・心の専門医がすすめる一言』保坂隆

老いを愉しむ言葉 心の専門医がすすめる一言 (朝日新書)老いを愉しむ言葉 心の専門医がすすめる一言 (朝日新書)
(2010/07/13)
保坂 隆

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著者は、医学部の教授です。心の専門医として、著書が多数あります。

この本は、老いを見つめた、古今東西の先人の言葉を抜粋し、解説した書です。心の専門医ならではの視点が数多く載せられています。

共感できた先人の言葉が数多くありました。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。



・友人とは、一緒にいて、あるがままに受け入れてくれる人である (ソロー・アメリカの思想家)

・心の底を傾けた深い交わりは禁物。愛情の紐は解けやすくしておいて、会うも別れるも自由なのがよい (エウリピデス・古代ギリシャの詩人)

・君子の交わりは淡きこと、水の如し。小人の交わりは甘きこと醴(あまざけ)の如し (荘子)

・許すのはよいこと。忘れることはもっとよいこと (ロバート・ブラウニング・イギリスの詩人)

・時間はあなたの人生の貨幣である。あなたが所有する唯一の貨幣であり、それをどう使うかを決められるのは、あなただけだ (カール・サンドバーグ・アメリカの作家)

・興味があるからやるというよりは、やるから興味ができる場合がどうも多いようである (寺田寅彦・物理学者)

・五月の朝の新緑と薫風は私の生活を貴族にする (萩原朔太郎)

・この世のもっとも純粋な喜びは、他人の喜びを見ることだ (三島由紀夫)

・良書を初めて読むときには、新しい友を得たようである。前にも読書した書物を読み直すときには、旧友に会うのと似ている (ゴールドスミス・イギリスの詩人)

・幸福は身体にとってはためになる。だが、精神の力を発達させるのは悲しみだ (マルセル・プルースト・フランスの作家)

・愛し、そして喪ったということは、一度も愛したことがないよりも、よいことなのだ (テニスン・イギリスの詩人)

・孤独はいいものだと話し合うことの出来る相手を持つことは一つの喜びである (バルザック・フランスの小説家)

・年齢というものには、元来意味はありませんよ (井上靖)

・学ぶことをやめた人は誰でも老いている。二十歳であっても八十歳であっても、学び続ける人は誰でも若い (ヘンリー・フォード・アメリカの自動車王)

・老齢は山登りに似ている。登れば登るほど息切れするが、視野はますます広がる (イングレール・ベイルマン・スウェーデンの映画監督)



この本には、友だちづき合い、生きがい、健康、孤独と悲しみ、気配りと学び、老いと死について、先人の言葉を題材に、著者の考えが書かれています。

今回は、先人の言葉だけをピックアップしました。老いを見つめて、先人たちも苦悩した足跡が感じられて、面白く読めました。

不安は、信じる言葉によって、軽減することができます。信じる言葉をいっぱい蓄えておくと、歳を重ねていくのも楽しめるのではないでしょうか。


[ 2012/01/13 07:00 ] 老後の本 | TB(0) | CM(0)

『日本人とユダヤ人』イザヤ・ベンダサン

日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)
(1971/09)
イザヤ・ベンダサン、Isaiah Ben-Dasan 他

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この本は、1970年発行で、300万部のベストセラーとなった書です。著者のイザヤ・ベンダサンは、日本人の山本七平さんのペンネームと言われています。

内容は、ユダヤ人の社会、歴史、風習、行動などが詳細に記されており、日本人と比較することによって、日本人を浮き彫りにする興味深いものです。

少し古い本ですが、納得できる箇所が数多くありました。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。



・日本には城壁都市というものがなかった。城壁のない都市など、殻のないカキと同様、考えられないものだが、日本では、むき身のカキが平然と生きていた。城壁をつくるのがどれだけ大変かは、エルサレムの城壁を補修したネヘミヤの記述を読めばわかる

・ユーラシア大陸の都市には、もう一つの殻が必要であった。水を守る殻である。エルサレムやメキドの地下水道は余りにも有名である。これを造り、水を確保するのは、城壁を作るのと同じくらい大変なことであった

・フランスの農民がナポレオン金貨を床下に埋めるのも一つの損害保険、ユダヤ人がダイヤの指輪をはめるのも一つの生命保険である。ユダヤ人なら子供のときから、徹底した保険教育を受ける

・ユダヤ人の議論好きは有名だが、議論とは、何十という珍案愚案を消すためにやるのであって、絶対に「思いつめた」自案を「死すとも固守」するためでないことは、各人自明のこと

・天才乃至は天才的人間の特徴は、自分のやったことを少しも高く評価しない点にある。そして、他人の目から見れば、実に下らぬ児戯に類することを、かえって長々と自慢するものである

・日本では、全員一致の議決は、最も強く、最も正しく、最も拘束力があると考えられている。ユダヤ人は、その逆で、その決定が正しいなら反対者がいるはずで、全員一致は偏見か興奮の結果か、外部からの圧力以外にありえないから、その決定は無効だと考える

日本教の中心にあるのは、神概念ではなく、「人間」という概念である。人の世を作ったものは、神でもなければ鬼でもない。向こう三軒両隣りの唯の人である

・日本人は、いついかなる時代にも憲法を改正したことがない。大宝律令の時代、時勢がかわって、律令で規制できなくなっても、これを改正せず「令外の官」を設ける。検非違使も「令外の官」だが、面白いことに、自衛隊も「令外の官」である

・日本教の基本的理念は「人間」である。だがこれが、法外の法で規定され、言外の言で語られているため、言葉で知ることは非常に難しい

・ユダヤ人は自国通貨を持つことがなかったから、貨幣を全くドライに扱える。したがって、貨幣が不要と思えば、全く貨幣なしでもやっていける

・ユダヤ人が金に汚いといわれる理由は、十分の一税のためである。十分の一税では、たとえ一片のパンでも、自分の収入となったものはすべて、その十分の一を教団に納めなければならない。いわば「神の源泉徴収」のようなもの

・ユダヤ人は、収入より質素でないと生活していけない。そのため、すべての人が正確に自分の収入を把握して、分不相応な乱費などできない。否応なく緻密な計画経済になるから、金に汚いと言われる

生まれながらにして偉大なる人間は、ユダヤ人の歴史に存在しなかった。ユダヤ教徒がキリスト教徒に徹底的に反発したのは、キリストの出生が常人と違う点にあるというキリスト教徒の主張である

・牧畜民にとって、生殖のみが利殖。家畜に子を生ますことは立派な製造業であり、生活の手段であり、ビジネスである。生殖が利殖である民族では、性も生殖もその生まれたものは情緒の対象であってはならない



この本は、日本人論の原点となる書です。本書が出版されてから、四十年以上経ちましたが、根本的に、日本人は何も変わっていないように思います。

日本人とは何かを知る上で、ユダヤ人と対比させた亡き著者の眼は、今も一つも衰えていないということになるのではないでしょうか。
[ 2012/01/12 07:00 ] 山本七平・本 | TB(0) | CM(0)

『フィンランドは教師の育て方がすごい』福田誠治

フィンランドは教師の育て方がすごいフィンランドは教師の育て方がすごい
(2009/03)
福田 誠治

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フィンランドの教育に関する本は、「教育立国フィンランド流教師の育て方」に次いで2冊目です。

日本と真逆の教育方法をとりながら、常にOECD諸国の中で、成績上位の子どもたちを育て上げるフィンランドには熱い関心が寄せられています。

その理由を簡易に解明することは難しいことですが、教師のレベルの高さが、子供たちの成績を押し上げていることだけは、確かなようです。

本書には、フィンランドの教師と教師養成方針について、詳しく解説されています。参考になる箇所が数多くありました。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。


テストもないのに勉強する。これがフィンランドの教育。テストの点を公表して競争させよ。これが日本の大人の姿

・先進国になると、義務教育の効果が定着しない「学力の弱い生徒」が15%程度出てくる。それを5%以内に抑えている国がフィンランド。フィンランドは、OECDの国際学力調査において、読解力、数学、科学の全分野において、トップクラスを続けている

・「フィンランドに居住する子供は学習義務を負う」(基礎教育法第25条)「保護者が学習義務の監視を怠った場合、学習義務監視の怠慢で保護者に罰を科す」(同法第45条)。学習権が法律で規定されている

・日本の教育はマニュアル化されている。教える知識は決まっており、正解は一つ。途中で余分なことを考えると効率が悪い。実験する必要もない。日本の教師が社会的に尊敬されないのは、それほど高度な職業と見なされていないから

・フィンランドの教師の義務は、授業時間のみであり、労働時間のうち、その他は自己研修時間と見なされる。その研修は、学校でやってもよく、図書館でやってもよく、どこでやってもよい

・「教育方針書の作成・事務報告・教材等の管理・その他記録文書の作成」は、フィンランドの教師が月1.1回に対し、日本の教師は月10.3回。フィンランドでは、授業の運営は個々の教師に任されており、管理者に向かって文書を作成するような時間は不要

・1週間に学校で働いている時間は、フィンランドの教師が35時間15分。週37時間労働であるから、ほぼその通り。日本の教師は57時間02分。週40時間労働をかなりオーバーしている

・フィンランドの補習とは、正規の授業時間以外の補充授業。クラブ活動も含まれる。しかも、労働時間内であっても、補習をすれば、アルバイト代が出る

・フィンランドの教師が、帰宅後から就寝まで家庭で過ごす時間は、7時間13分。日本の教師は、3時間53分。家庭に持ち帰る仕事は、フィンランドも日本も週6時間程度。ちなみに、フィンランドの教師は日本の教師より43分早く寝て、37分遅く起きる

・フィンランドの教育学部には、教育学科(理論)と教師養成学科(教育実習センター)が併設。きわめて、教育実習が重視されている

・「最も重要なのはモチベーション。教師の意欲生徒の学習意欲、それこそが核心。厳しく管理すれば、モチベーションが失われ、結局何もかもがだめになる」というのが、フィンランドの教育行政の見解

・フィンランドの教育は、「教える教育」から「学びを支援する教育」へと転換している。この点こそ、日本の教育と決定的に異なる特徴

・1994年、フィンランドでは、教育内容に関する国家規制が大幅に緩和された。カリキュラムの分権化(脱中央集権化)が教育の市場化を促したことにより、教師の「教える教育」から「学びを支援する教育」への転換を決定づけた

・人類史をたどると、「教えない教育」から「教える教育」へ転換してきたが、今後は逆に「教える教育」から「教えない教育」に転換していくというのが、教育研究者の意見。フィンランドは、その先端を走り出している

・日本の学校は「すべてに通用する、将来どんな職業についても役立つ基礎的知識」を前提に運営されているが、フィンランドの学校は、その前提を覆した。同学年、同知識、同一順序、同一速度で習得させるという教育観を否定した



教える教育とは、ロジカルシンキングの養成です。つまり秀才をつくる教育です。教えない教育とは、クリエイティブシンキングの養成です。つまり、天才をつくる教育です。

新興国が急成長している中では、先進国の教育は、「教える教育」から「教えない教育」への転換点だと考えられます。

その先進国の先端を走っているのがフィンランドです。学ぶべき点が多いにあるように思います。


[ 2012/01/11 07:00 ] 北欧の本 | TB(0) | CM(0)

『億を稼ぐトレーダーたち―日本版マーケットの魔術師たちが語る』林知之

億を稼ぐトレーダーたち―日本版マーケットの魔術師たちが語る成功の秘密億を稼ぐトレーダーたち―日本版マーケットの魔術師たちが語る成功の秘密
(2011/06)
林 知之

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マーケットの魔術師」という、アメリカのトップ投資家たちが成功を語る有名な本があります。この本は、それの日本版とも言うべきものです。

日本のトップトレーダーたちに取材して、その成功ノウハウが披露されています。それぞれ個性あふれる人たちが、独自に築いたノウハウや成功哲学なので、それをすぐに真似できるわけではありませんが、非常に参考になります。

共感、納得できた手法や考え方が数多くありました。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。



・人間は、目の前に利益があると、それを確実に手に入れ、ギャンブルを避ける。しかし、目の前に損失があると、損失額をゼロにしようとギャンブル性の高い行動を示す。そういう弱さが出て悪い結果を生むのがトレード<YA氏>

弱い心の人間が集まって売買しているのがマーケットの場。そこで勝とうとするなら、人間の心理をベースに、どうしたら、人間の弱さがトレードに入り込まないプログラムを実装するのかを考えて、コンピュータで作業している<YA氏>

・人間の弱い部分を考える必要がなければ、トレード回数を増やしたほうが「信頼性が高まる」。休むという概念は考えずに、「どれだけ回数を増やすか」「年間でどれだけ多くのトレードを実行するか」が重要<YA氏>

・「儲かりそうなアイデア」はおおむね正しい。でも、その先にある分析とプログラムへの実装、つまり、コンピュータ技術を駆使した作業が難しい<YA氏>

・目先の業績が素晴らしいとしても、儲かる構造によって好業績が実現したのか、あるいは外部環境の良さといった偶発的な要因で実現したのかを見分ける目が必要。株式投資家というよりも経営コンサルタント的視点<渡辺氏>

・実際の経営コンサルタントは、企業の良い面と悪い面を発見して、悪い面の修正などを提案していく。それに対して、株式投資は、良い面を持った企業だけを投資先の候補としてリストに加える<渡辺氏>

・信奉するバフェット氏は、新聞を20紙とマニュアルレポートを熱心に読み、投資決断をしているが、アナリスト情報は見ていない<渡辺氏>

・自分のわかる範囲しか投資対象としない。必ず自分の目で確認する。値動きだけを見てトレードするという姿勢とは全く違う<渡辺氏>

・「働きたくない会社は良い投資対象」。従業員を効率よく動かすという徹底した考え方があって、その部分が投資先として魅力なわけ。投資したいけど働きたくない会社がいい<渡辺氏>

儲かっている人に共通する4項目は、1.「余裕ある建玉」(満玉張っている人は皆無)2.「記録をつけている」3.「自分に合った方法」(長続きするやり方)4.「手間と時間をかける」<杉山氏>

・個人投資家は「限定する」「冒険しない」こと。情報に振り回されやすいというマイナスを軽減する。目まぐるしく動く市場の中で、自分だけ上手に立ち回ろうという危険性を軽減する<Y氏>

・動いている銘柄を見つける方法に、出来高変化率というものがある。日々の出来高が急に増加した銘柄で、なおかつ上がっているもの。そういうものを見つけて現物で買う<Y氏>

・為替相場をやるのなら、大きな流れに乗ること。需給を見ながらも、その時代の流れに対する推論が正しいかどうかを確認しつつ、ポジションをとっていく<N氏>

・ディーラーで大成したのは「相場の損益はマグレ」と早い段階で気づいた人たち。大成しなかった人は、「自分の実力だ」と考えた人。マグレと考えれば、悪い方向に進んでいれば止めることができる<N氏>

時間まわりを強く意識している。相場は時間が大切。大きな時間軸をきっちり見ていないと、相場では成功できない。多くの人が値段を気にするが「時間だけを見る」。為替では、大きな時間軸を考えた上に「金利差」というファクターを加えポジションをとる<H氏>



儲けている人たちは、それぞれ自分の得意技や得意のパターンを持っています。それを体系的にまとめるのは困難です。

つまり、マニュアル化は困難だけれど、成功事例研究は重要です。この本は、投資で成功した人の事例が満載です。

成功した人の事例が、自分の身体の一部として、身についたとき、投資家として成功するのではないでしょうか。
[ 2012/01/10 07:00 ] 投資の本 | TB(0) | CM(0)

『忠誠心、このやっかいな美徳』エリック・フェルデン

忠誠心、このやっかいな美徳忠誠心、このやっかいな美徳
(2011/11/10)
エリック・フェルテン、Eric Felten 他

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忠誠心のない集団は、チーム戦で勝てません。しかし、忠誠心を求められるのは、個人的にはしんどいものです。

集団戦で勝利して、そのおこぼれに与れるのなら、忠誠を誓うでしょうが、いい目がないのなら、忠誠を誓いたくないというのが、誰しも本音ではないでしょうか。

日本は、武士道の精神(主従関係)が、企業活動において重視されます。どこまで、忠誠を誓えばいいのか難しいところです。

この本は、欧米人の書いた「忠誠心」の書です。忠誠心を知るのに役立つ視点が数多くあります。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。


・忠誠心(ロイヤルティ)とは、何も求めずに与え、すばらしいお返しが得られる可能性のある、無欲の貨幣

・忠誠心は、「逆境における忠節」を意味する。激しい嘆きが伴う忠誠心でなければ、最高の度合いへと引き上げられることはない

・忠誠心は、その希少価値のため、大切なもの。それに対して、裏切りは、ありふれた行為である

・忠誠心には悲劇的な欠点が伴う。忠義のしがらみがもつれ合い、妥協を余儀なくさせられることがある。真心をもって行動したいと望んでいても、相反する忠誠心から生じる要求の対立から、逃れることはできない

・忠誠心は、悪い方面にも同じ働きをする。「不道徳で不愉快とみなされる命令を積極的に実行すること」が、忠誠心の証しとなる

・綱渡りに踏み切ることができるのは、セーフティネットがあるおかげ。そのセーフティネットは、忠誠心のなせる業

・兵士の逃げ出したいという誘惑に、忠誠心が最も効果があることを、軍隊は昔から知っていた。精鋭部隊を支えるのは、国王や国家、信条などに対する忠義ではなく、仲間への忠誠心

・黒澤明の映画「七人の侍」に登場する島田勘兵衛は、野武士の襲撃に備えて、村人に戦い方を教えながら、「人を守ってこそ、自分も守れる」と諭す。「おのれのことばかり考える奴は、おのれをも滅ぼす奴だ」と他者のために命を投げ出す覚悟を百姓たちに説いた

・相対立し合う義理の板挟みになった人は、引き裂かれるような苦しみを味わう。忠誠心が反目し合う状況の「避けようのない裏切りの感覚」に苦しんだことのない人はいない

不忠義を働く人は、ほとんど必ず、自分の行動を大きな理念で正当化しようとする

・数千年前の昔でも、家族への忠誠を尽くせない者は、どんな対象に対しても、信義を守ることはできないという定見があった

・忠誠心には、ひいきが伴う。自分の娘であるという理由だけで忠義が厚いのは、ごく自然な態度。それは、忠誠心に美徳がないことの証し

・家族のことにうつつを抜かすような人は、集団を第一に考えていない。家族の絆は、国を第一とする前提に直接的な脅威を及ぼす

忠節を重視する人々は、見栄えとお金を重視する人々に比べ、相手との充実した長期的な関係を築いている

・我々が裏切りに対して憎しみを抱くのは、人間の弱さをそこに見せられるから

・会社は忠実な顧客の中から、利益をもたらす人とそうでない人を見分ける必要がある。長年の忠実な顧客には、商品を安く購入する時期や方法をよく知っている人は少ない。よく知っている人は、それに見合った支出をせずに、サービスを過剰に要求する人々

・歴史を見れば、上司に忠実でない者ほど、部下に忠節を説く傾向が強い



忠誠心に美徳はないですが、忠誠心があると、相手から信用されます。

要するに、誰に忠誠を誓うかが大事であって、それを間違えれば、忠誠心が全く意味をなさなくなります。

本書を読む限り、得か損かをよく見極めて、忠誠心を使って世渡りしていくことが、私たちに求められているのではないでしょうか。
[ 2012/01/09 07:00 ] 出世の本 | TB(0) | CM(0)