十数年前に古本屋で手に入れた本です。出版されたのは、昭和47年(今から40年前)です。家の本棚の奥にしまってあったのを取り出して読んでみたら、なかなか面白いのです。
田中角栄という人物を批判的な目で見る人が多くいますが、この本を読んでの印象は、日本の
高度成長時代末期に、出るべくして出た人物であると感じました。
その当時の田中角栄に罪はなく、田中角栄的なるものをずっと引きずってきた後輩の政治家や官僚たちに罪があるように思いました。
日本列島改造論には、田中角栄の理想と夢と予測が、数多く描かれています。40年経って、その理想と夢が実現されて、その予測が当たったのかどうか、「本の一部」ですが、紹介させていただきます。
・都市と農村の人たちがともに住みよく、生きがいのある生活環境の下で、豊かな暮しができる
日本社会の建設こそ、一貫して追求してきたテーマ
・土地、人口、水などを総合的に組み合わせた
地域別の発展目標を設ける
・明治から一貫してとり続けてきた
財政中心主義(財政資金による資源配分で国を運営)は、明らかに改める時期にさしかかっている。これまでの制度は発展途上国の制度
・電力料金は、過密地域と過疎地域との間で料金差を設ける。工業用水道も同じような政策的配慮を加える。住民税も過疎地域のほうが相対的に安くなるような配慮をする
・
行政の広域化を促進すべく、市町村の第二次合併を積極的にすすめ、適正規模とすることによって、その行政力、財政力を強化する。周辺市との再編をすすめることによって、大都市行政の一元化と広域化をはかることが必要
・新しい広域地方団体を設置できれば、府県事務の3分の2を占めている国の
機関委任事務や国の
地方出先機関の大半は、この中に吸収、一元化され、激変している経済社会の体制に対応できる
・国際農業に対抗し、食糧の安定した自給度を確保するためには、
高能率、高収益の日本農業をつくることが絶対に必要。そのためには、農業の大型機械化、装置化、組織化が大胆にはかられなければならない
・人間は自然と切離しては生きていけない。世界に例をみない超過密社会、巨大な管理社会の中で、心身をすり減らして働く
国民のバイタリティーを取り戻すためには、きれいな水と空気、緑あふれる美しい自然にいつでもふれられるように配慮することが緊急に必要
・わが国が今後とるべき対外経済政策の重点は、「1.
貿易取引のルール(国際分業)」「2.
国際投資のルール(国際企業活動)」「3.
援助と受け入れのルール(南北間)」「4.
国際通貨体制のルール(国際収支の不均衡調整、通貨準備の量的不足、信用喪失)」
・これまでの生産第一主義、輸出一本ヤリの政策を改め、国民のための福祉を中心にすえて、社会資本ストックの建設、先進国並みの社会保障基水準の向上など、バランスのとれた国民経済の成長をはかること
・「人間の
一日の行動半径の拡大に比例して、国民総生産と国民所得は増大する」原則からして、「地球上の人類の総生産の拡大や所得の拡大は、自らの一日の行動半径に比例する」という見方もできる
・今後の産業構造は、経済成長の視点に加えて、わが国を住みよく働きがいのある国にするという視点が必要。つまり、今後の日本経済をリードする産業は、従来の重化学工業ではなく、
環境負荷基準と
労働環境基準という尺度から選び出すことが必要
・将来の産業構造の重心は、人間の知恵や知識をより使う産業=
知識集約型産業に移動させなくてはならない。知恵や知識を多用する産業は、生産量に比べて、資源エネルギーの消費が低いので、環境を破壊することも少ないし、知的満足できる職場を提供できる
・知識集約型産業こそ、産業と環境の共存に役立ち、
豊かな人間性を回復させるカギを持つ。「知識、技術、アイデアを多用する研究開発集約産業」「高度組立産業」「ファッション産業」「知識、情報を生産し提供する知識産業」などを発展させること
・「都合の悪いものは隣村へ持っていく」ことでは、問題の本質的解決にはならない。住民の生活環境や自然を守りながら開発をすすめることが必要
・これからの内陸型工業団地は、本格的
インダストリアルパークにしたい。緑の並木道、噴水のある芝生の広場、整然とした工場の建物、色も明るく落ち着いて、工場団地全体が公園を思わせる外観にし、工業を地域社会に組み込んでいくことも可能
・明治以来、わが国の交通政策は鉄道中心におかれてきた。これは、点と線の交通政策であり、大都市拠点主義はここから出発した。これから必要なのは、
点と面の交通政策であり、その新拠点は、道路と鉄道、海運、航空の
結節点である
・高速道路ができればできるほど、市場が広がる反面、産地同士の競争も激しくなる。それは、貿易の自由化と同じことで、日本経済全体からみれば、
適地適産がすすみ、価格が平準化し、生産は合理化する
・産業道路と切り離して、休日に都市を離れる人々が自然に溶け込むレクリエーション道路の建設を急がねばならない。
サイクリング道路や森や神社、史跡を巡る
緑の散歩道を大量につくることが必要
・道路政策について当面、重要なことは、
通過道路と生活道路を切り離すこと。今は、通過道路をはみだした車が生活道路にまで入り込んで、わがもの顔に走っている。これでは、自分の家のまわりもおちおち歩いていられない
・隅田川、淀川の河口で魚釣りを楽しむところまで河川をきれいにしなければ、日本列島の改造が本当にできたとは言えない
・地方都市の多くは、工場や商店があっても、中枢管理機構や文化、学問の場が乏しい。いわば、胴体や手足は一応揃っているものの、神経中枢が十分でないようなもの。そうした状態では、
経済活動の完結性が低くなるから、資金が大都市に吸い上げられてしまう
・行政上の許認可権限は、できるだけ地方自治体におろし、地方自治体が中央と同じ量の情報を駆使する企画を自由に行えるようにすべき、広域ブロック都市には、シンクタンク、コンサルタント、調査研究機関などの
情報産業が必要
・当面、東京にある大学を地方に分散することが、都市への人口の過度集中を緩和する一方法である。それと同時に、地方にある大学を、特定の学問分野で世界をリードする
特色のある大学に改めていきたい
・限られた土地条件を前提にして、農業で高い生産性と高い所得を確保するためには、少数精鋭による経営の大規模化、機械化が必要。その過程で、
農業人口の大幅な減少は避けられない
・都市の立体化は建物の高層化それ自体が目的ではない。高層化によって生じる空間を公共の福祉のために活用するところに最大の目的がある。貴重な
都市の空間は、空中も地下もフルに利用しなければならない
・汗と力と知恵と技術を結集すれば、大都市や産業が主人公の社会ではなく、
人間が主人公となる時代を迎えることができる。自由で、社会的偏見がなく、創意と努力さえあれば、誰でもひとかどの人物になれる日本は、国際社会でも誠実で尊敬できる友人になれる
この「日本列島改造論」で、田中角栄が打ち出している政策や戦略(環境政策、格差是正対策、地方分権政策、農業成長戦略、大都市成長戦略、知識集約型産業移行政策、エネルギー政策など)は、今でも新鮮に感じられます。
とても、40年前に書かれたものとは思えません。ということは、田中角栄が進んでいたというより、この40年間、日本社会が、ほとんど進歩していないということではないでしょうか。
現実面だけに合わせ、お金に執着させる政策を行ってきたツケが今の日本の
あわれな姿でないかと思います。
田中角栄のような、
理想を語り、目標を掲げ、それを強引に推し進めるリーダーシップある人物の登場が、今の日本には必要なのかもしれません。