家森幸男氏は
病理学者です。京都大学の名誉教授をされています。世界25カ国をまわり、延べ16000人の血液と尿、食事のサンプルを採取されてきました。
この調査データをもとに、
長生きできる秘訣が、推論ではなく、科学的に証明された事実として掲載されています。
長寿の食生活を知る上で、本当に役に立つ箇所が30ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。
・日本食は非常にバランスのとれた食事。ご飯を中心に、大豆、魚、海藻を日常的にとり入れる伝統的な食生活は、長寿の秘訣にかなった素晴らしいもの。しかし、その食事の中で、「
塩分の取り過ぎ」は一つの欠点
・大豆(イソフラボン)や魚(タウリン)を十分に食べていると、HDLが十分に増えて、悪玉コレステロール(LDL)が減る
・
男女の平均寿命の差(7年)は心筋梗塞にかかる率と関係が深い。その理由は、女性ホルモン。この7年は、大豆や魚を毎日しっかり食べることで確実に延ばすことができる。女性でも同じ。減塩による3年と合わせて10年は長生きが可能
・男女とも、
長寿の秘訣の第一位は「自身の健康観」。男性は以下「仕事の満足度」「知的課題の遂行」と続く。女性は以下「家庭生活の充実度」「身体機能の評価」と続く。これらの条件がすべて揃うと、男性で16年、女性で23年の寿命延長が可能になる
・
楽天的に生きる人は、そうでない人に比べて、心臓死に至る確率は45%しかない。心臓死が半分以下になれば、7年の寿命差になる
・
高蛋白食(大豆や魚)には血圧を下げる効果があり、脳卒中の遺伝がたとえ強くても、食事によって予防できる
・日本人よりもたくさんの肉を食べるグルジア人のコレステロール値が、日本人と変わらなかったのは、肉の食べ方にあった。グルジアでは、ゆでたり蒸したりして、
肉の脂肪分を除いて食べる料理が中心
・香辛料を使うのは、シルクロードの地域に共通した特徴。食塩(ナトリウム)は、コレステロールの吸収を促す。その食塩の代わりに、香辛料を使うことで、
コレステロールの吸収を抑える・カリウムは
ナトリウムの害を打ち消す効果がある。カリウムは、野菜や果物に多く含まれており、グルジアでは日常的にたくさん食べている
・グルジアの病院では、ヨーグルトを内科、外科を問わず入院患者みんなに食べさせる。ヨーグルトを食べると回復が早く、
感染症を防ぐというのが、その理由。ヨーグルトには、日本人が不足しがちな蛋白質やカリウム、マグネシウムを補い、健康を保つ効果がある
・グルジアの隣国ブルガリアは、近年、長寿国とは言えず、東欧一、二位の短命国になった。ヨーグルトやチーズを食べ、肉や野菜も食べるが、グルジアに比べて、
魚を食べない。この違いが、二つの国を長寿と短命に分けてしまった
・タンザニアのマサイ族の30、40歳代には高血圧の人がいない。
マサイ族の食生活には、食塩というものが存在しない。マサイ族は1日3ℓ以上のヨーグルトを飲む。ヨーグルトを飲めば、カリウム、カルシウム、マグネシウムをとることができる
・尿のデータでは、長寿のウイグル族はナトリウムが少なく、カリウムが多い。短命のカザフ族は、ナトリウムが多すぎ、カリウムが少ない。彼らは、
塩茶、
バター茶をよく飲む。カザフ族の多くは50歳代で亡くなるので、60歳以上が見つからない
・主食に米を食べるのは長寿の秘訣の一つ。お米を食べている人たちは、肥満が少なく、コレステロールも少ないため、心筋梗塞が少ない
・ウイグル族の飲み水は天山山脈の
雪解け水を地下水系で引いている。その井戸水は、カルシウム、マグネシウムなどのミネラルがしっかり入っている。この水を毎日飲めば、食塩の害を消せるので、血圧はさがる
・ウイグル族は
ブドウをよく食べる。ブドウは世界共通の長寿食。ブドウに含まれるポリフェノールは抗酸化力が強く、悪玉コレステロールが酸化され血管壁にたまるのを防ぐ作用がある。赤ワインを飲むフランス人はコレステロール値が高くても長寿でいられる
・ポリフェノールには、
レスベラトールという女性ホルモンの一種が含まれている。最新の研究では、レスベラトールを動物に与えると、
カロリー制限したときと同じ延命効果のあることがわかってきている
・ウイグル族の長寿の秘訣として、ナッツとザクロがある。一日中座って、アーモンドを割って食べている。
アーモンドの茶色い渋い皮も食べる。この渋みが、まさにポリフェノールの味。カリウムやマグネシウムが豊富に含まれている
・魚をとっている人たちには、肥満も、高血圧も、高脂血症の割合も少ない。魚に含まれるタウリンは、交感神経の働きを抑え、副腎や神経末端から出るアドレナリン、ノルアドレナリンを少なくするため、血圧が下がる
・日本全国で尿を調べたところ、大豆を食べている地域では、イソフラボンの値が高く、長寿であることがわかってきた。イソフラボンには血管が新しくつくられるのを抑える効果もあるので、
がん細胞の増殖転移を防ぐ
・さまざまな効用のある大豆は、1日70g食べれば、健康に必要なイソフラボンをとることができる。朝、ワンパックの納豆を食べ、夜、冷や奴か枝豆をつまみで食べるくらいで十分カバーできる
・大豆はブドウと並ぶ
長寿食の一つ。大豆がたくさんの病気を防ぐ力を持っていることに驚かされる
・南米エクアドルの
ビルカバンバ(海抜1500m)は世界の長寿地域として有名。主食は芋とトウモロコシ、食物繊維とカリウムが多く含まれる。魚の代わりに、タウリンが多く含まれる
モルモットの姿焼の内蔵(肝臓、心臓、肺、脳)をご馳走として食べる
・オーストラリアの先住民族アボリジニは、
伝統的な食生活の崩壊を100年以上も前から受け、短命への坂道を転げ落ちてきた。アボリジニにイソフラボンの錠剤を投与した結果、8週間後、血圧が下がり、動脈硬化指数が明らかに改善した
・
コレステロール値が低すぎると脳卒中が増え、高すぎると心筋梗塞が増えることがわかってきた。中庸の180~200㎎/㎗が最適
・
ハワイ島ヒロは沖縄からの移住者が多い。70歳以上の人の1日にとる食塩量が、沖縄の人よりも2g少ない。さらに、蛋白質の指標となるアルブミンが、日本のどの地域の年寄りに比べても最も高い。70歳の時に
アルブミンの高い人ほど、その後の生存率が高い
・ハワイの日系人のデータの中で注目されるのが、認知症の少なさ。その原因と考えられるのが豊富なビタミンE。ビタミンEを初めとする
抗酸化栄養素は、アボガドなどのトロピカルフルーツの中にたくさん含まれる
・ブラジルの
カンポグランデで、400人の日系人の食生活改善に取り組んだ。日本の長寿の栄養源である大豆や魚や海藻の特製カプセルを毎日とってもらった。その結果、一度伝統食を捨てた日系人でも、また長寿への道を進むことができるとわかった
・
長寿の秘訣6法則「1.大豆や大豆加工品をとる」「2.過剰な塩分をとらない」「3.魚はたくさん、肉はバランスよく」「4.牛乳や乳製品をとる」「5.野菜や果物を欠かせない」「6.食卓は明るく、楽しいものに」
よくこれだけの研究をしてくれたものだと著者及び研究班に感謝せざるを得ません。医学や健康の本としてだけでなく、文化人類学の専門書としても、楽しく読むことができます。
全世界の長寿地域のデータから導き出された結果に、素直に従うことが、長生きできる秘訣となるのではないでしょうか。