水野和夫氏は元三菱UFJ証券のエコノミストです。少し難解でしたが、氏の経済解説をネットでよく拝見していました。現在は大学教授をされています。
萱野稔人氏は哲学者です。以前、このブログでも「
カネと暴力の系譜学」という本を紹介しました。独自の視点を持たれています。
この気鋭の経済学者と哲学者の両氏が、世界経済のこれからを熱く語り合うというのが、本書の内容です。
国家の関与と世界経済の現状について、お互いに言及されているところが数多くあり、勉強になりました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。
・資本主義経済の中には、すでに国家が組み込まれている。資本主義経済の分析には、国家を初めとする政治的なものについての考察が不可欠
・先進国は資源を安く買い叩くことができなくなって、モノを輸出しても儲けがどんどん減ってきてしまった。そのことが、
交易条件(=輸出物価/輸入物価)の推移で如実にあらわれている
・先進国は交易条件が悪化したことで、実物経済では稼げなくなり、
金融に儲け口を見出していくようになった
・16世紀から1973年のオイルショック前後までは、交易条件を有利にして市場を拡大していけば、名目GDPを増加できるといった
資本主義経済の構造があった。ところが、70年代半ば以降、こうした構造は維持されなくなった
・1995年以降、国際資本の完全移動性が実現してから、アメリカは、日本やアジアの新興国で余っているお金を自由に使えるようになった。つまり、すべてのマネーが
ウォール街に通じるようになった
・1995年にルービン財務長官が「強いドル」政策への転換を表明した。アメリカに世界から投資マネーが入り、そのマネーを運用することで、経常収支赤字が膨らんでも、最終的に利益を出せるしくみができた。これによって、
アメリカ金融帝国が成立した
・アメリカは植民地支配せずに経済的な
へゲモニー(指導的立場)を確立してきた国
・
金融化に向かうということは、その時点で、その国のヘゲモニーの下で、生産の拡大ができなくなってしまったことを意味する
・今回のリーマン・ショックに象徴される金融危機はこれで最後とは言えず、今後、新興国で起きるであろうバブルのほうが大規模になる可能性が高い。中世から近代へと世界システムが変わった時に匹敵するような大きな構造転換があるかもしれない
・世界資本主義のヘゲモニーは、新しい空間に、誰がどのようなルールを設定するかという問題。イギリスの海洋支配が、海という空間を略奪の空間として確立して成立したように、
新秩序の確立を巡る戦いである
・先進国の有利な交易条件が消滅していく中で、何とか利潤率を維持しようと思えば、
自国民から略取するしかない
・先進国の資本が新興国の生産現場と結びつくようになると、先進国の国民に仕事とお金がまわってこなくなる。つまり、先進国の資本は先進国の
国民を見捨てることになり、先進国の労働者は、新興国の労働者との国際競争に敗れて没落してしまう
・1870年から130年間、地球の全人口の約15%だけが豊かな生活を営むことができた。
15%が資本主義のメリットを受ける定員の可能性が高い。先進国の15%の人々は、残りの85%から資源を安く輸入し、その利益を享受してきたということ
・先進国の10億人がさらに成長を目指し、後ろから追いかける40億人の人も成長を目指すことになると、
資源価格は天井知らずに跳ね上がる
・2008年の金融危機で、アメリカの金融機関に莫大な公的資金が注入された。あれほど、国家による市場介入を批判してきた金融機関でも、いざとなれば国家に頼らざるを得ない
・利潤率の低下は
利子率の低下としてあらわれる。イタリアのジェノヴァで金利が1619年に1.125%になったということは、労働分配率が上がりすぎて、領主が利潤を得ることができなくなったことを意味する
・近代の資本制は、封建制が機能不全になったことで生れてきた。所有権を特定の社会関係から切り離し、その下で労働を組織化する
新原理を編み出したのが資本主義。国家は所有の主体であることをやめ、私的所有の空間を法的行政的に管理していく主体になった
・レーガン時代は債券でお金を集めたのに対し、1995年の「強いドル」政策のルービンは、債券以上に、株式でお金を集めた。株式の場合だと、
利払いが発生しないからいい
・日本は、利潤率の低下、少子高齢化という点で、今後世界が直面すべき課題を早く背負い込んでいる。バブルが10年以上早く起こっただけではなく、バブル崩壊後に、
デフレや
利子率革命が続いている点でも、先進国の中で先行している
・まず財政赤字という過去の不始末にけじめをつけなければならない。経済・社会システムが大きく変わる時、
過去の清算をしないと、次のシステムに移行できない。これができなければ、日本経済の復活なんてありえない
・近い将来、
人民元が自由化されることになれば、今度は、日本から資本流出が起こる。これまで、資本流出が起きなかったから、日本の銀行は日本の国債を買うことができた
・中国人民元が自由化された時、財政赤字が相変わらず巨額であれば、
キャピタルフライトが起きて、金利が上がり、円安になる
・これまでは、人々の欲望を刺激して需要を拡大していくのが市場のあり方だった。これに対して、現在は環境規制が市場をつくりだしている。経済活動を阻害すると考えられてきた規制が、技術の市場価値を高め、新産業を育成し、ビジネスチャンスに変わってきた
・
国家による規制と市場での競争との関係を問い直すことが、
低成長時代の経済戦略を考える時の一つの切り口になる
・G20で世界のGDPの8割を占める。G20の新興国が
GDP2万ドルまで成長すると、日本やアメリカとの内外格差が1対2になる。1対2になったところで、新しい国際的な協調体制が生れてくる
・中国の一人当たりGDPが2万ドルに達したら、共産党の独裁体制は崩壊する。GDPの
民主化ライン(3000ドル)があって、そのラインを超えると民主化運動が起こる
世界経済の今後、日本経済の今後を俯瞰できる書です。おおまかなところをつかんでおくと、今後、いざという時に行動がしやすくなります。
国家と経済の関係、日本とアメリカの関係、日本と中国及び新興国の関係を注視しておくことが、ますます重要になってくることを示唆してくれる書でした。