ヒトラーの
大衆扇動手法は、現代でも多くの分野で応用されています。例えば、小泉元首相及び秘書は、このヒトラーの手法を実践して、高い人気を維持し続けていたのではないでしょうか。
宗教法人然り、大企業然り、上手に世の中を支配している者たちは、ヒトラーを真似したわけではなくても、ヒトラーの手法に似たことを自然とやっています。
ヒトラーは、「成り上がった後にやったこと」はよくないですが、「
成り上がる前にやったこと」は参考にできることが大いにあります。豊臣秀吉にも同じことが言えるのかもしれません。
この本は、韓国の元ゲームクリエイターというユニークな経験をされた許成準氏が、ヒトラーの大衆扇動術を詳しくまとめられた面白い書です。
参考になった箇所が35ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。
・ヒトラーの演説の特徴は「神秘的な登場」「分かりやすい内容」、そして「群衆を興奮させる
熱狂的なスピーチ」に要約できる
・演説自体も大事だが、それをサポートする演出も同様に重要。演壇に上がるタイミング、雰囲気を盛り上げる補助演者、ボディーガードの存在。聴衆の
期待感を目いっぱい高めておいて、長時間待たせた後、舞台に登場する
・人を動かすには、「怒り」の感情にアピールするのが基本。怒った状態では言葉が滑らかになると同時に、怒りは最も扇動しやすい感情である。大衆を行動させようと思えば、彼らの心の中にある
怒りを覚醒させなければならない
・大衆を扇動するには、必ず「怒りの対象」が必要。ヒトラーは、大衆を結束させる最も効果的な方法が「
共通の敵」を作ることだとよく知っていた
・多数の人を結束させる
対決構図(ブルジョアVSプロレタリアなど)を作っておけば、既存の社会を転覆させるほど強く民衆を結束させることができる。逆に、そういう対決構図なしで、民衆を一つに結束させるのは非常に難しい
・誰かを説得して動かそうとすれば、その人のプライドを傷つけるようなことを絶対に言ってはならない。思うとおりに大衆に動いてほしいと思うなら、大衆を
褒めそやすこと
・不幸な人は
誘惑しやすい。彼らの不満が何なのかを把握して、それを主要ターゲットにすれば、彼らを自分の望みどおりに動かすことができる
・
ナチスの宣伝原則は「大衆を興奮させる(冷静にさせない)」「間違いや失敗を認めない」「非難を受け入れない」「代案の余地を残さない」「敵の長所を認めない」「敵を責める時は、一度に一つの敵だけに集中する」に要約される
・ヒトラーは演出のために、夕焼け空などの自然、旗の波、大規模な軍隊行列、そして劇場的な照明などを使用した。特に
照明効果はよく利用した
・人々は、最初はヒトラーの大げさな身振りや興奮する姿などの
演劇的な要素に興味を持って、演説を聞きに行った。ヒトラーの演説会は入場料を徴収したが、それでも多くの人が詰めかけた。その入場料収入が初期の政党を支える資金源となった
・立派な指導者になりたいなら、上手い役者になること。ヒトラーはいつも演劇俳優の身振りを真似しながら
演技の練習をした。感情を噴出する発作的行動も自ら演出した。ヒトラーにとって、演説は単なる言葉ではなく、大衆を扇動し、説得して操るための道具
・ヒトラーのイメージを維持するために一番重要だったのは、下手に大衆の前に姿を現さないということだった。このような
神秘化戦略は人々に多くの興味と好奇心を植え付ける
・集まりの規模が大きくなればなるほど、マンツーマンのコミュニケーションの比重は小さくなり、参加者の心は全体の集まりの雰囲気に同化していく
・ヒトラーは、精神的に圧力をかけなければならない相手に会うときは、ほとんど
瞬きをしないで、相手をじっと見つめた
・
シニカルな人は、初めは、真剣で熱情的な人をあざ笑うかもしれないが、その人の感情が一貫性を持って粘り強く続けられると、やがて好奇心を持ち始め、同調するようになる
・メッセージが
単純であればあるほど、
感情的になればなるほど、
好感度が高ければ高いほど、説得力のエネルギーは強くなる
・ヒトラーは、実権を握った後、最初に通した三つの法案はどれも動物保護に関するもの。ヒトラーは残酷であったが人間的な一面もあった。破壊的であったが建設的でもあった。成功に導いたのも、明るい一面であった。矛盾する面があった
・指導者とは、たった一人で
目的地に到達すれば良い存在ではない。みんなに自分の進む方向をはっきりと知らせて、一緒に目的地まで到達しなければならない存在。だから、先に何をするつもりかを宣言して、次にそれを実行に移さなければならない
・現実に順応して生きている人は、大衆を扇動できる
ファンタスティックなビジョンを提示することはできない。リーダーになりたければ、想像力を育てなければならない
・自分を美化し、実際の能力より
誇張して話す人の方が有能と思われて、正直なライバルを打ち負かし、能力以上の利益を得る。正直な人は、能力に見合った待遇を受けることができないでいる
・優れた
扇動家は、自分の嘘を他のみんなが信じるようにするだけでなく、それを自分自身でも信じてしまう。このようにすることで、言行に矛盾がなくなり、自分の嘘をすべての大衆が疑うことなく信じるようになる
・最良の嘘は、「現時点では嘘ではない希望的な嘘」。未来になって真偽が判明する嘘が良い嘘。
未来についての肯定的な嘘は、あなたとあなたが率いる人たちを成功に導いてくれる
・
公共の敵の条件とは、「絶対多数の民衆に被害を与える集団」「民衆が一致団結すると、充分に勝つことができる相手」
・中立的すぎる、特色のない主張だけをする人は、いくら話術に優れて利口な人であっても、
単純で極端な主張で武装したライバルに押されやすい
・自分のビジョンを明確にするためには、それを文書化したほうがいい。ヒトラーも、自分の
初期のビジョンを「わが闘争」として、書籍に残したことが、頂点に上り詰めるための重要な役割を担った
・若い層に人気のない集団に未来はない。単に、支持層が老化し、死亡して数が減っていくという問題ではなく、
集団の活力の問題である。会社組織でも、メンバーの年齢が高い組織は、円熟だが、エネルギーのない組織になってしまう
・結束をより堅固にするには、敵は内部に隠れている少数勢力の一つに設定する。そうすれば、一般の人々がその勢力に同調するのをあらかじめ防止することができる
・何かを強調したいなら、
文言を繰り返す方法を使う。何かを対比したいなら、同じような
リズム感を持った語句を組み合わせて使う
・ナチスの軍服は格好よかったので、軍人たちの羨望の的になった。それによって軍の士気が高まったことは無視することはできない。軍服も、格好よさのために
実用性を犠牲にする必要がある
・ヒトラーは、部下たちに権威的で派手な身なりをさせて、自分は質素な服を着た。派手な部下たちが自分を取り囲むことで、自分は権威のために
派手な服を着る必要がないほどの力を持っているというメッセージを伝えた
・自分の
イメージを創出する時は、そばに置く小品、背景、人物などを注意深く選択しなければならない
・言いたいことが一つあれば、これをいろいろな表現と多様な事例で、聴衆の中の最も愚かな人にまで分かるように語ること
・ヒトラーは細かいことに干渉するリーダーではなかった。彼は全体的な目標だけを立てて、残りは部下たちが各自の判断で実行するように放っておいた。この
任務型戦術の最も重要な前提は、優秀なスタッフ
・
既得権を持つ人たちを動かす最も確かな動機は、「財産に対する脅威」と「より財産を蓄積できる機会」の二つ
・この世界には、騙す人と騙される人がいる。資本家と扇動家は
騙す人で、大衆は
騙される人。騙す人はメディアを使って自分に有利なことだけを見せて、大衆を洗脳する
・
資本家と政治家は、利害関係には鋭い感覚を持っていて、お互いに騙すのは難しいことを知っている。その一方で、いっしょに協力すれば、大衆をうまく騙して権力と経済的な利益をすべて独占できることも分かっている
・できるだけ多くの人に
成功の機会を与える国が成功する。ファシズムが失敗した原因は、民族概念に捉われた閉鎖的なシステムだったから。他民族に排他的な体制を持つ国は、結果的には衰退する
今、私は50歳を過ぎてしまいました。30歳までに、ヒトラーを知っていたら、また別の人生を歩んでいたかもしれないと思うような書でした。
イデオロギーとアレルギーに捉われていると、人の長所が見えなくなってしまいます。まあ、とにもかくにも、ヒトラーは頭のいい人であったということは、紛れもない事実なのではないでしょうか。