哲学者である著者の本は、昨年、「
人生しょせん気晴らし」を紹介しました。そのときは、「薬にも毒にもなる本」と書きました。
今回、紹介する本は、「善人が読んではいけない本」です。読むと腹が立ち、人格を全否定されているように感じると思います。
ところが、
ディープな世界を歩んでこられた人には、面白い本です。なるほどと思えた箇所が25ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。
・弱者は、自分の無能力、無知、怠惰、不器用、不手際、人間的魅力のなさを、卑下せず恥じないばかりか、「これでいい」と居直り、「だからこそ
自分は正しい」と威張る
・弱者は、こっそり「善良」と裏で手を結ぶ。そのことによって、善良な自分の正しさを確信するだけに留まらず、強者を「
強いがゆえに悪い」と決め込む
・弱者は、エリートに対する嫉妬心を巧みに隠して、初めは恐る恐る、そして次第に大声で、強者を指して、「自己チュー、エゴイスト、
社会の敵」と叫ぶ
・善人が悪事をなさないのは、それが「悪い」からではない。ひとえに社会から抹殺されたくないから、つまり、悪をするだけの
勇気がないから。社会に抵抗して、独りで生きていくほど強くないから
・善人という名の弱者は、自分が属する共同体から排除されることを恐れているがゆえに、いかなるものであれ、自分が属している共同体の方針に
加勢する ・一番偉い人に尻尾を振ってきた人が、偉い人になると、自分の後輩に対して、同じこと、いやもっと卑屈な態度を要求する。そして、
尻尾を振らないイヌどもや自分の前で仰向けにならないイヌどもを「生意気だ」と論じ、罵詈雑言を重ねる
・弱者は、他人に対しても「
弱くあれ」という信号を送る。弱い者が強くなるのを妨げる。生命、安全、小さな幸福を念仏のように耳に注ぎ入れ、「世間は甘くない」「いつまでも夢みたいなことを考えるな」と言う
・善人は、自己反省することなく、強者による永遠の
被害者を気取る。強者に翻弄され続ける哀れな自己像を描き続ける。これ以上の鈍感、怠惰、卑劣、狡猾、すなわち「害悪」はない
・弱者は油断すると傲慢になっていく。だから、心してそれを食い止めなければならない。それには、自分の弱さを憎まねばならない。それから脱しようとしなければならない
・ヒトラーは、ドイツ人というだけで、「劣等感を完全に払拭し、何も努力しなくても、自分は落ちこぼれでないと思い込める」ものを与えた。そういう幻想に陥りたい
弱者の喝采を受けた
・弱者=善人が、
権力に敏感であるのは、保身を求め、村八分にされないように細心の注意を払うから。弱いからそう動くしかない。そして、その時々の権力者に従い、支配者に反対する者から距離を保とうとする
・善人は「小さな幸福」を求め続けるうちに、ますます小さくなる。彼らの美徳はすべて消極性=否定性から成り立っているから当然である
・誰も彼も、目立ちたい、有名になりたい、儲けたい、自分を表現したいと望み、これらが叶えられなくても、
自分らしい生活をしたいと望む。その結果、誰も彼もが、互いに見分けがつかないほど同じことを語り、同じ行動をし、同じ人生を歩む
・善人は小さく狡く、小さく利己的。壮大な悪徳には怖気づくが、小さな
いじましい儲け話にはすぐに乗ってしまう
・善人はあたり構わず「好意」を振りまく。それは、実は
自分を守るため。相手の価値観や人生観を研究しての好意ではなく、押しつけがましい好意。「すべての人に喜ばれるに決まっている」という思いに基づく傲慢な好意
・善人は「善意から」と言いながらも、その好意は決して無償ではなく、相手から自分の望む
見返りを求める。だから、その表面的な謝礼の言葉、恐縮した物腰、誠意ある態度がますます不潔に感じる
・善人の要求する誠実性とは、弱い自分たち仲間内だけに通用する誠実性、
弱者の特権を信じる人だけに通じる誠実性。だから、善人はこの「弱者の原則」を破るものに対しては誠実性をかなぐり捨てる
・弱者は、「公正」「平等」「正義」を求める。真の強者は、不当に攻撃されても、非難されても、排斥されても、それを受け止める。自分が強者なら、あえて弱者と同じ
ラクやトクを求めてはいけない
・善人は、自己批判をしない。「みんな」と同じ行動をとることに疑問を感じず、それに限りない喜びや安らぎを覚える。すなわち、善人の正しさの根拠は「みんな」である
・善人はラクをしたく、トクをしたい輩だから、自分のまわりに対立があってはならない。
同じ考えの者同士で固まり、異質な者との接触を毛嫌いする。そうなると、人間は果てしなく「ダメ」になっていく
・一流の学者は、自分と違う意見にも耳を傾けて聞こうとする。二流以下の学者は、同じ意見の者だけ集まって、違う意見の者を排斥する。両者の差異は激しい
・強者は敵から逃げない。
敵との対決こそ人生の醍醐味だから。弱者はあらゆる敵から逃げる。そして、敵のいない世界を望む
・相手に感謝する気持ちが純粋であればあるほど、
自分の人格を明け渡して、相手に従うことになる。恩人に対して、わずかな批判的言動も避け、その命令に一途に従うのは、奴隷に身を落とすこと
この本を読めば、善人と弱者がいかに傲慢であり、醜いものであるかがわかります。世間の常識と違うので、怒りを覚える方がいるかもしれません。
しかし、善人や弱者の世界に逃げ込むと、人生は半ば敗北したことになるのも事実です。著者は、この本で、できるだけ、個々が強く生きるように励ましているのではないでしょうか。