とは考

「・・・とは」「・・・人とは」を思索

『新宗教ビジネス』島田裕巳

新宗教ビジネス (講談社BIZ)新宗教ビジネス (講談社BIZ)
(2008/10/02)
島田 裕巳

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宗教とお金の関係は、ずっと気になるテーマです。「聖」の代表である宗教と「俗」の代表であるお金が、結構、仲良しであることはわかっていますが、どのように仲良しなのか、宗教学者の島田裕巳氏が、この本の中で解説してくれます。

宗教団体のお金の集め方が、それぞれ個性があって興味深く思いました。この本の中で、参考になった箇所が25ほどあります。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。

ちなみに、島田裕巳氏の本を紹介するのは、「3種類の日本教」「10の悩みと向き合う」に次ぎ3冊目です




・教団の宗教的な建築物を建てる目標は、信者の献金意欲を強く刺激する。完成した暁には、信者たちの努力が目に見える形で示され、全国から集まった信者は感動する。しかも、巨大な建築物は、教団の力を外に向かってアピールするための格好のシンボルとなる

献金の期限が設定されることで、金集めは、教団や信者にとっての戦いになる。それが戦いである以上、目標額を突破して、勝利しなければならない

終末的な予言は、新しい信者を集めるためだけなく、金集めの手段としても用いられる。遠からず価値を失う金を教団にすべて出すように促す。新宗教が採用する金集めの手段の中でも、建築物を建てること以上に効果的

・金が浄化されたとき、献金した人間は、そこにすがすがしさを感じる。金だけではなく、自分までが清められたように感じる。そのため、金を手放すことで、欲望から自由になったような解放感を得ることができる

・会員が競い合って布教を行い、教団が急速に拡大していけば、会員たちは、それをもって、自分たちの信仰の正しさが証明されたと考える

・急速に拡大していた時代の創価学会では、活動の基本的な場である「座談会」において、折伏した数を発表させることが行われていた。新たに会員を獲得できなくても、聖教新聞の部数を拡大しさえすれば、それで評価された

ネズミ講では、それをはじめた人間や最初に入った人間は必ず儲かる。それで甘い汁を吸った人間は、それが忘れられず、同じことを期待して、再びネズミ講に引き寄せられる

・新宗教の教団内部には、経済的な格差が生まれる。教祖や幹部たちは、豊かな生活を送ることができるが、一般の信者はそうはいかない。一般の信者は、自分が出した金が、トップや幹部を富ませるために使われれば、納得しない。それによって、不満が蓄積される

・創価学会の会合は8時に終わる。そうした会合には、労働時間が長いサラリーマンは参加できない。自営業者の方が都合いい。バブルの時代、大きく儲けた創価学会の会員は多額の財務をした。財務の額の多さは、自分たちの成功の証であった

・何かに金を使おうとして資金を調達するのではなく、金が余っているために、それを活用しようとすると、無駄なことにお金を使ってしまう。あるいは、その金を個人的に悪用しようとする人間も生まれ、組織は乱れる

・人間は金の魅力には勝てない。金はさらなる欲望を喚起し、人間を堕落させ、組織を混乱させていく力を持っている。そうした金の力を制御することは、相当に難しい

・信者が仲間を引き留めるのは、たんにメンバーが減ることを恐れるためではない。仲間が信仰を捨て、去っていくことは、自らの信仰が否定されたに等しいから

・信仰者として自覚の薄い二世ばかりが会員になれば、その教団は停滞する。そこで、それぞれの教団では、二世以下の信者の信仰を覚醒するための特別の機会を設けている。天理教には、3ヵ月の研修である「修養料」がある

・教団の祭典で、一糸乱れぬ人文字とマスゲームを披露するのが重要なのは、そのための訓練であり、日ごろ厳しい訓練を重ねることで、仲間との連帯意識を育み、それが信仰者としての自覚に結びつく

おひとりさま宗教の典型である真如苑が、歓喜と呼ばれてきた献金を廃止したことは象徴的。おひとりさま宗教では、個人の救済が最優先され、教団の規模を拡大していくことで、救済の可能性を広げていくということは意味をなさない

・創価学会の「ブック・クラブ型」モデルや真如苑の「家元制度型」モデルは、時代の要求に合致している。そうしたモデルが機能していれば、信者たちは、それほど多額の金を出す必要はなく、会員数が多い教団は安定的に維持されていく

・宗教は、ある事柄の絶対的な価値を説明する物語を作り上げることで、信者の心をくすぐり、お札やお守りを買わせたり、献金をさせたりする。宗教家の説教や説法は、セールストークであり、信者の心を操る点で、マインド・コントロールになっている

・新宗教の教祖は、一般の信者に対しては優しく接しても、幹部や直弟子に対しては厳しく当たる。宗教教団は、宗教活動を実践する組織であると同時に、信者を精神的に鍛え上げる修行場の役割も負っている。つまり、人材育成の仕組みが、教団の中に備わっている

・新宗教の研修では、参加者が抵抗感を持つような壁をわざと用意し、その壁を乗り越えさせることで達成感を与える。企業の研修でも、そうしたやり方が用いられている

・新宗教の「家元制度型」ビジネスモデルは、人件費削減に最も貢献する。信仰を伝えられた信者が、今度は布教する側に回り、新たな信者を増やしていく

・ヤマギシ会は、無所有一体(私有財産も給与もない)のシステムを活用することで、経済的に最も効率的な組織を生み出した。衣食住が保障されているとはいえ、給与も休みもなしに、勤勉に働く人間が出てくる点は、労働の意味を考える上で、極めて興味深い

・創価学会は、金余りという事態が生まれても、それによって教祖や一部の幹部が私腹を肥やすことができない仕組みが備わり、実際に機能している。創価学会は、ほかの新宗教に多い、分裂や分派をこれまで経験していない

・昔から、宗教というものは、金余りが生じたときに、壮麗な宗教建築物、宗教美術などの莫大な金を消費する装置として機能し、金余りを解消する役割を果たしてきた。近代は、戦争が金余りを解消する手立てとして機能することになった

・現代の新宗教は、集まった金を美術の方面に費やすことで、多額の献金を生かす道を切り開いている。創価学会は東京富士美術館を開設し、世界の名画を集めている。世界救世教はMOA美術館に、尾形光琳の「紅白梅図屏風」を初め、3点の国宝を収蔵している

・宗教組織を維持するには、信徒が金儲けを行い、その金を教団に入れることが不可欠。カトリックや仏教の出家者は経済活動を一切行わない。出家者の生活を支えるには、俗人が経済活動をする必要がある。そのため、経済活動自体が否定されることはあり得ない



この本を読むと、宗教とは、何と不思議なものかとますます考えさせられます。宗教は、人間の不安がつくり出したものであり、お金は、その不安を解消するものです。そういう意味で、もともと相性がいいのかもしれません。

宗教とお金は、どちらも、人間がつくり出した幻想であるだけに、ここで簡単に説明できるものでもありません。

とにかく、宗教とお金の関係を、事例を踏まえて、解説してくれた著者の熱意に、ただただ感謝するだけです。
[ 2010/11/30 08:42 ] 島田裕巳・本 | TB(0) | CM(2)

『名文句・殺し文句』伊福部隆彦

名文句・殺し文句名文句・殺し文句
(2006/03)
伊福部 隆彦

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この本は、1967年に出版された「世界名言集」を改題したものです。もとは、著者が新聞に連載していた「きょうの言葉」の再録です。

世界の古人が放った言葉を知ることができる、名言集の古典とも言うべき書です。

今回、この本を読んで、共感できた箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



名誉心は、高潔な人の最後の弱点だ(ミルトン)

本当に高潔になるためには、富や地位だけでなく、名誉心も捨て去らねば駄目である

・欲するものがすべて手に入りつつある時は警戒せよ。肥えゆく豚は幸運なのではない(ジョウル・チャンドラ・ハリス)

運勢の頂点にいる時は、同時に周囲から嫉視され、反感をもたれている時でもある。幸福に有頂天になってはいけない

・この世に生きる最高の術は、妥協することなしに適応することである(ジンメル)

自己を少しも損なわず、しかも周囲を損なわず、周囲に適応していくためには、何より賢いことが必要である

・ある目的のために始まった友情は、その目的に達する時までは続かない(カールス)

ある目的に始まった友情は、お互いに利用することしか考えていないから、長続きしない

悪は弱さである(ミルトン)

人が悪事をするのは、悪事が好きなためではない。その人の性格が弱いからである

・自分の故郷を一度も出たことのない人間は、偏見のかたまりである(ゴルドニー)

この故郷という言葉を地域と考えるより、知識、経験、学問等で考える必要がある

・我々の本当の敵は沈黙している(バレリー)

あらわれて来る敵は恐ろしい敵ではない。黙っている敵こそ恐ろしい

・賢者はその頭に金銭を有するも、その心に金銭を有せず(スウィフト)

金銭的計数の観念は頭で忘れないだけでいい。その観念が心を支配し出すと、正しい行いができなくなる

・場所ちがいの善行は、悪行である(エンニウス)

・正理の一方のみに訴える人は残忍である(バイロン)

人には人情がなければ、真の和楽はあり得ない。正理ばかりを一方的に言う人は残忍な人である

・才能は孤独のうちに成り、人格は世の荒波によって、でき上る(ゲーテ)

・賢い人は学ぶことを愛する。ところが、愚人は教えることを愛する(チェーホフ)

・金銭、口をひらけば、真理黙す(ラスキン)

すべての意見において、利害が問題を決する時、道理は引っ込んでしまう

自分に命令しないものは、いつになっても、しもべにとどまる(ゲーテ)

自分に命令するとは、自主的に自分を生きること。真に独立自尊の精神をもって生きること。それができないものは結局、他人に使われて生きるしかない

・人は裏座敷にいて、はじめて豊かな気持ちになれる(モンテーニュ)

表座敷ばかりにいたら、心気が疲れてどうにもならなくなる。時には裏座敷が必要だ。裏座敷とは、風月をたのしみ、余技に遊ぶ心である

・黄金は、道徳が光輝を失いたる時に輝く(ヤング)

道徳が光を放っている時には、金銭が力を持たない。ところが、道徳が衰えると、とたんに金銭が力を持って、光を放ってくる

・金銭のことを軽率に処するなかれ。金銭は品行なり(バルワー・リットン)

人の品行は、金銭の使い方によって決まる。立派に有用に金銭を使う人は立派な人格者である。その金銭をふしだらに使う人に人格者のあったためしはない



世界の古の偉人たちが言いたかった真理は、解釈の仕方はそれぞれにあると思いますが、心の中に伝わってきます。

現代の日本人の言葉だけでなく、昔の西洋人の言葉も知ると、普遍的なものを感じることができるのではないでしょうか。
[ 2010/11/29 07:53 ] 人生の本 | TB(0) | CM(0)

『日常に生かす「茶の湯」の知恵』福良弘一郎

日常に生かす「茶の湯」の知恵 (PHPエル新書)日常に生かす「茶の湯」の知恵 (PHPエル新書)
(2003/03)
福良 弘一郎

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以前から「茶の湯」のことを不思議に思っていました。

「なぜ、芸術になったのか?」
「なぜ、戦国大名が熱中したのか?」
「千利休とは、どんな人物だったのか?」
家元制度をどのようにつくりあげたのか?」

世界に類を見ない「茶道」という芸術が誕生した、1500年代の「日本人の精神性」にも興味があります。

この本の中に、そのおおよその答えがありました。禅の影響を受けた「茶の湯」だけあって、禅問答のような、言葉の表現もありますが、面白い人には面白いと思います。

その面白い箇所が20ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・利休は「富める人、持てる階級の人が金に任せてする茶の湯より、無一物の貧しさの中から創造されて出てくる妙味が楽しい」と言っている

・庭一面に咲く花は「量」として、豊富さの世界での「複数の美」。床の間の一輪の花は「質」を問う一点の美であり、質素さの世界で「単数の美」。

・茶の湯の道具を配置する際、道具相互で相性のよくない物を「差し合い」と言って嫌う。逆に「似合い」「引き立て合い」というのは、相性のよさを示し、調和と均衡を感じさせる組合せとして活用される

・「目に立たない」とは、全体の調和を考えた配置や存在ということ。背景色として一番よいのは鼠色と言われるが、これは置いてあるものが目立つようにする、引き立て役としての意味を持つ

・変化というのは、その「ひとつ」をいかにたくさんの物に見せ、魅了できるかということ。単調なる「ひとつ」ではなく、千変万化する「ひとつ」を演出する面白さと愉しさを、どれだけ多くの人に与えられるかが、その人の器量

・「有り合わせ」を組み立てる時、「己を制することにより他を生かし、己自身も大きく見せ、自ら他を生かすことによって、自ら生かされる」が原則。「有り合わせ」「間に合わせ」は、機転を利かす、時宜に応じた、機略に富んだという臨機応変の働きが要求される

・実用面を重視した生活の中の美しさを趣味に取り入れる「美用一致」というのは道具だけではない。日常生活で行っている掃除や洗濯、人との接遇や対応などすべてに「美と用」の気働きが要求される

・美しさとともに機能的な調和と、均衡の取れた働きがなくてはならない。目立つ部分をさり気なく目立たないように工夫し、生かす心を育むのは、茶の湯の働きの一つ

・茶の湯では「もてなしより、とりなし」と言う。もてなしというのは、料理を振る舞うこと。とりなしとは、その場の「働き」を意味する。料理の質そのものより、工夫と心配りの「誠の心」が大事

・教育においても、「教育する」というのと「教育になる」というのでは重みが違う。前者は意図的、作為的。後者は得られた実感。茶の湯で道具を清める動作は「する」という行為を「なる」という情景に見せる境地を示すことで、無の境地を示すもの

・茶の湯では特に「時」を大事にする。茶の湯そのものが、時を中心とした動的活動であり、どこかの一点が狂うと、全体の構造まで変更したり修正したりする必要がでてくる

・茶碗を清め、茶入れを清め、茶杓を清める所作は、無理のない所作そのものが、自らの俗なる精神から聖なる精神への脱皮を促す。自ら茶を点ずる行為を精神的に高め、その場の集中力を一点に凝縮する効果

心の修業には、第一の「我を自覚せず、周りの物が眼に入らない無心」の段階、第二の「眼の働きが機能し、周りの物が見える」段階、第三の「観察」の段階、第四の「人に聞いたり、確認する」段階、第五の「見るの深化」の段階がある

・茶の湯の言葉に「亭主もの言わず、道具をして語らしむ」「客もまたもの言わず、道具において聞く」というのがある。道具は無言のうちに亭主と客をつなぎ、その席の会話を楽しませ、同席する人の器量を照らし出す

・茶の点前に「よいお服加減で」とか「結構なお点前で」という言葉が出てくる。しかし、大事な点は、本当にそのよさを認めているかどうか。努めて人の美しさに気づく配慮と素直にこれを誉める勇気を持つこと

・亭主の苦心や振る舞いの苦労を見落とし、見損なうような誉め方をしたり、頓珍漢な誉め言葉や物知り顔の誉め方は、その場にいる方々に失礼になるばかりでなく、自己の品性のなさを露呈することにもなりかねない

・生け花の美しさは何が生けてあるかではなく、いかに生けられているか。花の美しさや種類だけで花を見るのではなく、生ける人の心の働きを感じられるかどうか

・茶の湯は、人を中心に花、香、味、水など、四季の風情に包まれるが、「有為転変、飛花落葉を観ず」と言われる。つまり、時の動き、時の流れには、誰も抗することができない自然の摂理があるということ

・無心の姿を無理して作ろうとすると「・・・がる」「・・・ぶる」「・・・めく」になり、無理が表面に出る。自然に振る舞うとは、実は一定のルールの上に成立するものであり、わがまま勝手な自己流の振る舞いとは明らかに意味が違う

・細々とした気配りを完全にしようとすると、客を招くと言うこと自体が億劫になる。「そこで、客も主人もお互いにあまり気遣いしなくていいように、工夫してつくり出されたのが、型であり方式といった約束事

・「会の始終は、二ときを過ぐべからず」と言われる。昔の二ときは、現在の四時間だが、時間のサイクルが短い現代風なら、二時間がよいころ。茶の湯の芸術的な面白さは、物だけだなく、茶事という時間の過ごし方の中にもある



礼儀、もてなし、気遣いなどは、ついつい形から入ってしまいがちです。その形を忘れてしまったら、しどろもどろになってしまいます。

ところが、礼儀、もてなし、気遣いの根本的精神を理解していたら、所作を間違っても、すぐに取り繕うことができます。

この本は、茶の湯の本ですが、日本人の礼儀、もてなし、気遣いの考え方を教えてくれます。心のこもった接待、マナーが要求される仕事につかれている方に、読んでほしい1冊です。
[ 2010/11/26 08:02 ] 芸術の本 | TB(0) | CM(0)

『夢中の法則?集中力がアップするしくみ?』佐々木正悟

夢中の法則 ?集中力がアップするしくみ? (マイコミ新書)夢中の法則 ?集中力がアップするしくみ? (マイコミ新書)
(2007/11/22)
佐々木 正悟

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タイトルは夢中の法則ですが、夢中と同じくらい、退屈について書かれています。退屈とは何か?という話が結構面白く感じました。退屈と夢中は、セットで捉えるべきものなのかもしれません。

心理学的なアプローチで、退屈と夢中を解明していく内容は、とても興味深いものです。この本の中で、面白かった箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・何となくだが予想がつく人生は「ネタバレ」。これが退屈という心理状況そのもの。退屈とは、生活空間が「ネタバレ」になっているという意味

・夢中になれるというのは、すぐに記憶できる経験のこと。これぞネオフィリア(新しもの好き)たる人間の核心部分

・「次見」とは、現在の直後に起きていることについての無意識の「予測」。普段のほとんどの時間「次見」している。いつも「予測」しているわけではない。「予測」は意識的にするもので、それほど当るものではない

・何かに「夢中になる」ための確実な方法は、次見できつつ予測が裏切られること

・次見が不可能なほど真新しいことは、とても「夢中になれる」ようなものではない

・「もう飽きた」と「大変すぎ」の間の谷はとても狭い。その狭い谷こそ「夢中になれる」ことが眠っている

・動物が「飽きる」からといって自殺しないのに、ヒトは「退屈して」自殺する。ヒトは「過去、現在、そして未来に遭遇するかもしれないすべて」に「飽きる」。端的に言えば、「世界全体」に愛想を尽かす

・「楽しい」とはどういうことで、最も楽しくてもどのくらいといった限界を、楽しむ前から意識できる。「楽しみ」を類型化し、それに飽和してしまう。これこそが「大人ならではの退屈」にほかならない

・同じ刺激を受ける体験を繰り返すから、いつしか刺激が弱くなる。だが、間を少しでも空ければ、必ずまた強い刺激を受けることができる

・人間が何かを楽しもうと思ったら、決まって使われるのが、スパイスを織り交ぜるという方法

・「クライマックス」はいつまでもお預けの状態を続けていけば、それを読みたい、見たい、知りたいといった欲求を半永久的に続く。「答え」が見つかるまでは死ねない

・「衝撃の」「全米初の」といった言葉は、宣伝用の言葉だが、それでも視聴者は何度となく騙されてしまう。騙されるということは、それだけ期待が高まってしまうということ

・退屈を払拭するために、最も必要なものは、よく知っていることに関する「ニュース」である。実際、この退屈回避戦略は、誰もがすでに実践している



退屈を避ける方法が見つかりそうで見つからないことが、退屈を避ける一番いい方法なのかもしれません。

この本を読むと、人間が刺激を受け、楽しみを見つけることは、意外に簡単なように感じました。楽しい人生を送るヒントが載っている1冊です。
[ 2010/11/25 07:12 ] 人生の本 | TB(0) | CM(0)

『広告の天才たちが気づいている51の法則』ロイ・H.ウィリアムズ

広告の天才たちが気づいている51の法則広告の天才たちが気づいている51の法則
(2003/12)
ロイ・H. ウィリアムズ

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著者のロイ・H・ウイリアムズ氏は、アメリカの田舎で中小企業向けの広告制作会社を経営されています。

広告制作会社と言えば、都会の大企業が相手で、華やかな世界を想像してしまいますが、著者は、古典的な広告手法で人気を得ている人のようです。

7年前の本ですが、広告のベーシックな部分が、記されているように感じました。

この本の中で、参考になった箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・広告には2種類しかない。聴覚に訴える(音の)広告、そして、視覚に訴える(画像の)広告。聴覚に訴える広告の方が視覚に訴える広告よりも、比較にならないほどの強力な印象を与える

・聴覚に訴える広告で、奇跡的な成果を上げるためには、その広告を繰り返し流す以外にない。もし、世の中の人たちが、あなたの広告に苦情を言ってこないのなら、あなたのしていることは、どこか間違っている

・重要な言葉、それは「あなた」。「あなた」は受け手の想像をかきたてる。訴えたいポイントに活き活きとした動きを与える。「あなた」を巧みに使いこなせば、受け手をその広告に参加している気分にさせられる。CMのすべてはあなたから始まる

・大衆は明らかに広告とわかるものに、振り向くようなことはない。それは「ただの広告」でしかない。最もよくできた「非広告」は、広告らしくないスタイルで製品の効用を明確に伝える。最低の広告は、魅力的なスタイルなのに、一言もメッセージを語っていない

・広告主は「耳に心地よい」「洗練された」「専門的で」「気の利いた」広告をつくりたいと思っている。不幸なことに、大衆はそのような広告を信じていない。広告らしくない広告が書けたときが、それがよくできた広告

最低の広告をつくるには、「適切な対象を相手にする」「他社で耳にした文句やコピーを取り入れる」「何回も続けた広告は内容を変更する」「製品の効用よりも広告の素晴らしいセンスを披露する」だけでいい

・他人が見落とした対象に着目することで、成功に結びつくことがよく起こる。その兆候は目の前に現れている

・メッセージを誰に対して発信するか、ではない。大切なのは、そのメッセージの内容

・顧客の質問はただひとつ、「それによって私にどんないいことがあるのか」。顧客は顧客自身がわかる言葉を耳にしたときだけ、その話に耳を傾ける

・われわれが納得しやすいのは、他人が教えてくれた理屈よりも、自分自身で見つけ出した理屈

・目から入った情報は、脳の画像を記憶する領域に入り、1秒以内に消滅する。耳から入った情報は、音の記憶領域に入り、それが消滅するまでに、ほぼ5秒かかる

・最高の製品か、最高の広告を打っている製品か、どちらがよく売れるか。戦いは強い者が勝つのではない。最高の広告を打つ者は、競争相手をすべて蹴散らす

愛の反対語は、憎悪ではない。無関心である



格好よさなど何もないですが、面白い内容の本です。

とくに、「耳から入る情報」「繰り返す情報」「いいことを期待させる情報」「見落としていることを気づかせる情報」など、シンプルな情報の伝え方が、勉強になります。ある意味、広告とは、こんなものかもしれません。

今は、広告の作り手の自己満足が横行しているように思います。そんな広告に違和感を覚えている人であれば、うなずくことが多いのではないでしょうか。
[ 2010/11/24 07:32 ] 仕事の本 | TB(0) | CM(0)

『寄生虫博士の「不老」の免疫学-125歳まで元気に生きる!』藤田紘一郎

寄生虫博士の「不老」の免疫学ー125歳まで元気で生きる!寄生虫博士の「不老」の免疫学ー125歳まで元気で生きる!
(2008/07/29)
藤田 紘一郎

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著者は、寄生虫博士として、有名な方です。この本も、当ブログの読者であるCさんに推薦をいただきました。

50代になってくると、一般的な関心が、「お金」「仕事」「家庭」から「健康」に移ってきます。人間は、この「健康」に最終的にお金を使ってしまいます。

今まで、健康だったせいか、「健康」には、さほど大きな関心はありませんでした。でも、今後のことを考えると、「健康」でいられることが、「お金」もかからないし、「幸せ」につながることがわかります。

最近、「お金がかからない健康法」に興味が湧いてきました。この本は、それにピッタリのことが満載されています。

興味深く読めた箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・若さを守るコツは、「腸内細菌を増やす」「日本食を基本にする」「笑って暮らす」「自然に親しむ」「ほどほどの運動」

・きれいすぎる環境がアレルギー病を誘導している。「キレイ社会の落とし穴」に落ちた現代人がアトピーやぜんそく、花粉症といったアレルギー病に苦しんでいる

・ストレスはあらゆる臓器に影響を与えるが、腸は最も強く影響を受ける。「脳腸相関」といって、脳にストレスを受けたらダイレクトに腸が反応する

・腸は免疫力を高める場所として最も重要な器官。免疫力の70%が腸管の働きで決められている

・免疫力の残り30%が、内分泌系や神経系の刺激、すなわち「心の力」。自然と触れ合って、明るく楽しく生活することが必要ということ

・腸は食べ物の消化吸収だけでなく、第一級の免疫器官。腸の健康が全身の健康、ひいては、体の若さを支えているといっても過言ではない

・オリゴ糖は熱や酸に強く、胃酸や消化酵素に分解されず、腸まで到達しやすい特性を持っている。オリゴ糖が餌になり、ビフィズス菌が増え、逆に悪玉菌が減る

・日本食は、脂質が少ない上に、代謝を盛んにし、コレステロールが蓄積しにくいように働き、肥満も防げる。また、日本の伝統食品からよく見つかるのが、植物性乳酸菌などの発酵菌。漬物、味噌、醤油など。世界の長寿地域は乳酸菌を食するところが多い

・食品添加物や加工食品に多く含まれているリン老化促進につながり、寿命を縮める

・大豆イソフラボンは腸内細菌の働きによって、腸内で「エクオール」という物質に変化する。このエクオールが強いがん予防効果を発揮する

・毎日3㎞歩く人は、それ以下の人と比べると、10年後の発がん率が2分の1以下になっている(米国の10万人以上を対象とした大規模調査の結果)

大声で笑うと、横隔膜の上下運動と腹圧の増減によって、小腸や大腸の蠕動運動が活発になる。その結果、間脳がPOMCというたんぱくを作り、無数の神経ペプチドに分解される。このペプチドが、がん細胞を攻撃するNK細胞の働きを活発化する

・がんを発症している人の多くが、過去6カ月から18カ月にわたって、強いストレスを感じる状況下にあったことが確認された。がんの進行を阻止するために最も大切なことは、ストレスの影響を早く取り除くこと

・メタボの判定基準である「ウエスト85cm」は、実は、40から69歳の日本人男性の平均。むしろベストサイズ。健康な人をおどかし、ストレスをかけている

・「カルシウムを多く含む、アルカリ性の、酸化還元電位の低い水」は長寿の水。カルシウムやマグネシウム含有量の多い「硬水」を飲んでいる地域の人々が長寿者が多いことは、世界各地で証明されている



老化のメカニズムは、ここ十数年の間に急速に発展しているそうです。老化のメカニズムは、「細胞数減数」「長寿動物」「酸化障害」からの3つの視点から研究されており、これらの研究による結論は、「人間は125歳まで生きられる」。

125歳まで生きたいかどうかは別にして、125歳まで生きる身体をつくるということは重要なように感じます。

家も車も、手入れをしながら、ずっと長く大事に使いたいように、人間の身体も、大事に使いたいものです。この本には、その手入れ法がいっぱい詰まっているように思います。
[ 2010/11/22 07:34 ] 健康の本 | TB(0) | CM(0)

『会社が嫌いになっても大丈夫』楠木新

会社が嫌いになっても大丈夫(日経ビジネス人文庫)会社が嫌いになっても大丈夫(日経ビジネス人文庫)
(2010/06/02)
楠木 新

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このブログの読者であるCさんから推薦いただいた2冊目の本です。

著者は、大手企業で順風満帆の出世街道を歩み、支社長まで経験された後に、関連会社出向→本部栄転→うつ病→休職→平社員→役職復帰→うつ病→休職→会社復帰と、うつ病と闘ってこられました。

その過程で、会社勤務の傍ら、ライフワークとして「こころの定年」を提唱し、会社からの転身者200名にインタビューしてきました。その記事は、朝日新聞への連載や出版にもなっています。

実体験と、インタビューを重ねた豊富な事例から、会社とは何か?自分とは何か?を模索して、得た結論が、この本に書かれています。

共感できた箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・人の役に立っていなくても多額の収入を得ている人もいる。しかし、目の前の人に貢献することは、たとえ収入が少なくても多くの物語を持つことができる

・自分の仕事に使命感を持っていない人は、ほかのことにも興味を示すことができない。会社員生活を辛く複雑にしているのは、結局これに尽きる

・大企業の階段を駆け上がるには、「偉くなる人と長く一緒にやっていく能力」が必要。「ゴマをする」という意味ではない。大企業の部長以上は、上位役職者のヒキが優先する

・会社でうまくいかなかったことが気になると、挨拶されても、笑顔で返しはするものの、顔を合わせること自体が辛い。自分が不安定な時ほど、他人の存在が気になる

・会社員の多くは、組織や上司が求めるあるべき姿に自分を合わせていこうとする。個人店主の人々は、世界を自分に引き込み、自分の足でしっかり立っていこうとする強さがある

・「誰のために役立っているのかわからない」「成長している実感が得られない」「このまま時間をやり過ごしていいのか」。実際の定年前に、「こころの定年」状態に陥る人が少なくない

・優秀で力量もあるのに、インプットが中心で、発信型になれない会社員が多い。自分を出し過ぎると、社内の評価でデメリットが多いと自己セーブしている

・インプットをいくら広げても、過去の延長線上の対応になる。発信姿勢になれば、自分の課題意識が明確になり、アウトプットに対する相手の反応から、自分自身の力量個性を把握できる

・プロフェッショナルは「社外に向かって自立してお金を稼げるレベルの人材」。スペシャリストは「社内の仕事の一つの分野を深掘りして、全体組織の運営に貢献する人材」。明確に区分すべき

・転身者にインタビューすると、組織の中ではあまり語られない「○○さんとのご縁で」「思わぬ展開で」「たまたま××さんと出会って」と発言する人が多い

うつが治るというのは、元に戻ることではなく、「自分の心構えを切り替えること」「新しい生き方を探すこと」。逆に言えば、切り替えのない限り、本来の治癒はあり得ない

・「一つのことに囚われない」「発信系の姿勢が大事」「自分から与えるのが先」。人との出会いには、その人の姿勢と心構えが大きく関係している

・新たな可能性を見出す作業は、直線的には進まない。自分の立ち位置を動かすのに、最低三年の時間が必要。逆に言えば、三年は没頭して取り組めるものでなければ、会社を辞めたり、リスクを背負うのは控えたほうがいい

・松下幸之助氏は「人間の幸せは自分の運命を生かすことである。自分の運命が平社員で終始することになっていれば、それで結構ではないか」と言葉を残した。自分を十分に生かさずに、組織に適応し過ぎている人が多い

・大組織の会社員は恵まれている立場を守るために、無意識に、周囲を見なくなる。普通は、どちらがいいかと外を見て、比較する

・「筋のいい負け方もあれば、筋の悪い勝ち方もある」。勝ち負けよりも、自分の持って生まれたものを活かしているのかどうか、言い換えると、会社での自分の存在のあり方がそれでいいのかどうか

自分なりの物語を発見できれば、内面的な安定を得ることができる。物語ることは個性化の過程をたどる。自分が、交換不能、比較不能な存在だと確認できる



優秀なはずだったのに、インプット型で受信系の人間になってしまった人。個性があったはずなのに、組織に適応し過ぎてしまった人。

つまり、会社に過剰適応した結果、会社が嫌いでなかったはずなのに、会社が嫌いになってしまった人。こういう方におすすめの本です。

自分の心構えを切り替え、新しい生き方を探すのに、役に立つのではないでしょうか。
[ 2010/11/19 08:08 ] 仕事の本 | TB(0) | CM(0)

『ひろさちやのあきらめ力』

ひろさちやの あきらめ力ひろさちやの あきらめ力
(2009/01/29)
ひろさちや

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ひろさちやさんの本は、このブログでも何冊も紹介しています。最近は、日本の会社型資本主義に警笛を鳴らされています。

この本にも、日本人が人間らしく生きるために必要なことがいっぱい書かれています。

今回、この本を読んで共感できた箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・信用できないものを信じよう、期待できないものに期待しようとしても、無意味。希望なんて持とうとするから、とたんに苦しくなる。希望とは欲望だから

・いざとなれば自作自演で戦争でも何でも引き起こすのが国家。その国家が掲げる「正義」なんてものを信用するのは、もうやめにしたほうがいい

・昔は日本人も収入の範囲で生活する、という基本に沿った生き方をしていた。お金が貯まったから家を買うというのが当たり前だった。借金して何かを手に入れるという発想はなかった。それが人間としての自然な生き方

・過酷な労働を強いられていたとされる農民でも、日が暮れれば仕事はできないし、農閑期もある。平均すれば、一日の労働時間は4時間程度だった

・私たちが生きている三界(欲界、色界、無色界)には、安心などなく、不安に満ち満ちていて、さながら火宅(炎に巻かれ燃えさかる家)のようなものだと法華経は言う。世の中は、そこに生きている人にとって「良いもの」であったためしはない

・収入の範囲で生活するという基本を忘れずにいたら、頑張る必要などないし、火宅に取り込まれることもない。その基本を忘れた結果、あえいでいるというのが、この時代の風景

・何でもかんでも会社と衝突して「我を通す」のは賢い行動ではないが、表明すらしないのは問題。言うべきは言う。要求すべきは要求する、というのがいい意味の「利己主義」

・束縛から自由になるための一番の武器は、人生に意味はない、生きがいなどない、という達観の地点に立つこと

・道徳的な教えは、強者には適用されず、弱者にだけ適用される。そこがわかれば、道徳に縛られる必要がないことがわかり、「利己的な生き方」に一歩近づける

・「生きがいは仕事です」「仕事が好きです」という人たちは押し付けがましい。本来なら、「仕事を生きがいなどにしてしまって、申し訳ありません。どうかご勘弁ください」と謙虚にひっそりと生きるべき

・「利己主義」の反対は「滅私奉公」。滅私奉公は、個人の利益より会社や上司の利益を優先する、権力者が満足すれば、個人は不幸になってもいいという考え方

・インドでは人生の段階を「学生期」(青年までの真理を学ぶ)「家住期」(職業に専念する)「林住期」(職業から離れて引退する)「遊行期」(悠々自適を送る)の四つに分ける。家住期には子に教育する。林住期には孫に知恵を授ける。子育てを人生の中心に据えている

・アメリカ、日本、中国、イスラエルの四つの国に共通するのが、家族制度を崩壊させたこと。強い絆で結束している家族は、人が人間らしく、安心して自由に生きるための砦。そんな家族を崩壊させた代償は、取り返しがつかないほど大きい



日本は、人間を中心に社会が構成されるべきなのに、会社を中心に社会が構成されています。

後の世になって、江戸時代の農民のように、平成のサラリーマンが会社から搾取されていたと歴史の史実として残るようにも思います。

本当は、おかしいことなのに、当たり前に思ってしまっていることに疑問を呈する貴重な1冊です。


[ 2010/11/18 08:42 ] ひろさちや・本 | TB(0) | CM(0)

『人、一日に百戦す-中国兵書名言選』守屋洋

人、一日に百戦す―中国兵書名言選人、一日に百戦す―中国兵書名言選
(2000/07)
守屋 淳守屋 洋

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著者が、孫子を初め、「武経七書」(主な兵法書七冊)から、兵法書の名言を抜粋し、翻訳したのが、この本です。

中国の古典である兵法書は、戦いの知恵だけでなく、生きる知恵、ビジネスの知恵として、現代にも通じるものが多くあります。

著者が採り上げた300近くの名言の数々から、勉強になった箇所を15ほど選んでみました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・利益を得ようとするなら、損害のほうも計算に入れておかなければならない。成功を夢みるなら、失敗したときのことも考慮に入れておく必要がある
(諸葛亮集・便宜十六策)

戦いに勝つ秘訣は、人民の支持をとりつけること、この一点にかかっている
(荀子・議兵篇)

・賞は即座に与えなければならない。なぜなら、善を行えば、どんなよいことが待っているか速やかに知らしめる必要があるからだ
(司馬法・天子之義篇)

・上に立つ者の欠陥事項は、利益に目がくらむことと、つまらぬ人物を登用することの二つ
(尉繚子・武議篇)

・兵卒が敵よりも自軍の将帥を恐れていれば勝利を収める
(尉繚子・兵令上篇)

戦争のやり方は、せんじつめれば、「正」と「奇」の組合せにすぎない。しかし、組合せの変化は無限
(孫子・兵勢篇)

・同じ勝にしても、「政治力で勝つ」「威嚇力で勝つ」「軍事力で勝つ」の三通りの勝ち方がある
(尉繚子・戦威篇)

・「事態」が有利に展開しているのに、生かせないのは「智者」ではない。「態勢」が有利に展開しているのに、乗ずることができないのは「賢者」ではない。「情勢」が有利に展開しているのに、ぐずぐずためらっているのは「勇者」ではない
(諸葛亮集・将苑)

・敵が動かざるを得ない態勢をつくり、有利なエサをばらまき、食いつかせる
(孫子・兵勢篇)

・情報を探り出すのは間者(情報員)の役割だが、実は最も貴重な情報は、相手からの投降者裏切りによってもたらされる
(孫子・用間篇)

・敵将が貪欲で恥知らずな人間であれば、財貨を与えて買収せよ
(呉子・論将篇)

・敵将が夕暮れに営舎に引き揚げるとき、大軍であるほど陣形が乱れるもの、そのときがこちらにとっては攻撃のチャンス
(六韜・犬韜)

・同じ勇気でも、前へ進む勇気はわが身を滅ぼし、後へ退く勇気はわが身を生かす
(老子・七十三章)

・敵の軍使がへりくだった口上を述べながら、一方で着々と守りを固めているのは、実は進攻の準備にかかっている。逆に、軍使の口上が強気一点張りで、いまにも進攻の構えを見せるのは、実は退却の準備にかかっている
(孫子・行軍篇)

・将軍がやたら賞を連発したり、しきりに罰を科すのは、いずれも組織が行き詰まっている証拠
(孫子・行軍篇)

・表に現れた現象をもって、裏に隠された真実を推察し、過去の事実によって、将来の出来事を洞察する
(呉子・図国篇)

・君子の楽しみは志を実現すること、小人の楽しみは物を手に入れること
(六韜・文韜)



中国の兵法書には、人間の行動心理を学べることがいっぱい載っています。もっと、若いときに、読んでいたらと、少し後悔する次第です。

人間の行動心理は、古今東西同じです。営業、交渉、指導など、人と接する仕事、人を導く仕事に携わっている方は、兵法書に学ぶ点がいっぱいあるように思います。
[ 2010/11/16 06:56 ] 戦いの本 | TB(0) | CM(0)

『蚊が脳梗塞を治す!昆虫能力の驚異』長島孝行

蚊が脳梗塞を治す!昆虫能力の驚異 (講談社+α新書)蚊が脳梗塞を治す!昆虫能力の驚異 (講談社+α新書)
(2007/08/23)
長島 孝行

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以前、「自然に学ぶ粋なテクノロジー」という本を紹介しました。バイオミミクリー(生物模倣)の本です。

自然界に存在する生物で、産業に応用できそうなもの記載されていました。ネイチャーテクノロジーにつても解説されており、興味深く読めました。

この本は、生物をさらに昆虫に絞って、インセクトテクノロジーについて書かれている本です。

昆虫をバカにしてはいけません。昆虫とダニ、蜘蛛、エビの仲間だけで、地球上の生物の90%以上を占めているそうです。地球上で一番繁栄しているのが昆虫です。

この昆虫を模倣して製品化する技術は、まだ始まったばかりです。その最先端がこの本に書かれています。

今回、興味深く読めた箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・現在、地球上にすむ生物は、哺乳類で約4600種、魚類が20000種。それが昆虫になると100万種、それ以外のダニの仲間だけでも100万種。まさに桁違い。虫は、極寒地、水中地中空中、植物や動物の体内などあらゆる場所にいる

・昆虫の中には、体をワックス状のもので覆っているものがいる。最近よく見る、手が汚れないチョコレートには、昆虫から分泌される「生物ロウ」が利用されている。だから、口にしても害がない

・多くの昆虫が、体の中に、生体防御機能である「抗菌性たんぱく質」を持っている。モンシロチョウは、ガン細胞を撃退してしまうほどの力の非常に優秀な抗菌性たんぱく質を持っている

・タイワンカブト(カブトムシの仲間)は、動物の糞の中で暮している。糞の中は、雑菌やウイルスが多く、非常に汚い環境。タイワンカブトの体内にある抗菌性たんぱく質が、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)を撃退することがわかった

・日本原産のヤママユガという蛾は、休眠することで、生体機能を極限まで止める。その休眠を引き起こすヤママリンという休眠物質をガン細胞に応用すると、ガン細胞が眠ってしまうことが判明

・蚊は実に巧みに自分の針を注入している。そのメカニズムから、皮膚に刺しても痛くない新しい針の技術が開発されている

・人間の血は固まりやすい性質を持っている。蚊が血を吸っている途中で管に血が詰まらないのは、血液が固まらない物質を出しながら、血を吸っているから。この抗凝固性物質を活用した新薬が現在開発中

ママゴット治療というのは、蛆に傷口などの患部を食べさせることで早期治療するもの。ひどい糖尿病で手足が壊死した場合、その部分を切断するしかなかったが、ヒロズキンバエの幼虫が膿や壊死部分だけ食べてくれ、抗生物質が効かない菌まで殺してくれる

・シルクは、栄養はなくても、脂肪吸着性があるので、ダイエットに効果が見込める。高コレステロール状態のラットに食べさせたところ、1カ月で中性脂肪が45%減少した。シルクには、脂肪を包み込んでそのまま排泄させる効果がある

・ハチの巣のハニカム構造(六角形が重なり合った構造)は、強度に優れ、スペースが多く、軽量で材料を最小限に抑えられる特徴を持っているので、人工衛星や飛行機、スペースシャトルの室内に応用されている

・シロアリの蟻塚は、気化熱で空気が冷えるラジエター構造により、50℃を超える熱帯サバンナ地域でも、巣の中は30℃くらいの快適な状態をキープしている。これを応用すれば、エコロジカルな住宅が誕生する

・昆虫はたった4枚(ハエは2枚)の翅を上手に作動させて、決して落ちることのない飛翔を行う。小型飛行機では、昆虫の真似をする研究が盛んに行われている

・ゴキブリは地面に凹凸があっても、平行移動して這っている。ゴキブリは6本の足のうち3本を常に地面に着けている。これを高速で繰り返す。これを応用すれば、どんな起伏のある場所でも移動するロボットができる



この本を読めば、昆虫を下等生物と見るのは、間違っていることがわかります。昆虫は、地球上で一番栄えている生き物です。素直に教えてもらうべき存在です。

この昆虫に学ぶ科学は、まだ新しい学問です。現在、新しいビジネスの種が次々に生まれています。

昆虫だけで100万種以上いると言われています。他の動物が毎年絶滅数を増やしている中で、昆虫だけは、今でも新種の発見が相次いでいます。

この恐るべき繁殖力の昆虫を理解するのに、最適の1冊ではないでしょうか。
[ 2010/11/15 06:53 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『森信三・一語千鈞』

森信三 一語千鈞森信三 一語千鈞
(2002/11)
森 信三

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森信三氏の本をとり上げるのは「森信三語録・心魂にひびく言葉」に次ぎ、2冊目です。教育学の25巻に及ぶ全集と8巻に及ぶ続全集など、膨大な出版物を遺されています。

前回紹介した言葉以外にも、多くのためになる言葉があります。

今回、この本の中で、ためになった言葉が、15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・悟りとは、他を羨まぬ心的境涯ともいえよう

・縁は求めざるには生ぜず。内に求める心なくんば、たとえその人の面前にありとも、ついに縁を生ずるに到らずと知るべし

・人間は、自己に与えられた条件をギリギリまで生かすという事が、人生の生き方の最大最深の秘訣

・真人と真人とが結ばれねばならぬ。現在わたくしが最も努力しているのは、縁のある真人同志を結ぶこと

・自分より遥かに下位の者にも、敬意を失わざるにいたって、初めて人間も一人前となる

・節約は物を大切にするという以上に、わが心を引き締めるために有力だと分かって人間もはじめてホンモノとなる

・真の教育は、何よりも先ず教師自身が、自らの心願を立てることから始まる

・上位者にタテつくことを以て、快とする程度の人間は、とうてい「大器」にはなれない

・いざという時、肚のない人間は、たとえその人が如何に熱心な読書家であろうとも人に長たる器とはいえぬ

・真の宗教が教団の中に無いのは、真の哲学が大学に無いのと同様である。これ人間は組織化されて集団になると、それを維持せんがために、真の精神は遠のくが故である

・「下学して上達す」下学とは日常の雑事を尽くすの意。それゆえ日常の雑事雑用を軽んじては、真の哲学や宗教の世界には入りえないというほどの意

・人間はいくつになっても、名と利の誘惑が恐ろしい。有名になったり、お金が出来ると、よほどの人でも、ともすれば心のゆるみが生じる

・人間は才知が進むほど、善悪両面への可能性が多くなる。故に才能あるものは才を殺して、徳に転ずる努力が大切

批評眼は大いに持つべし。されど批評的態度は厳に慎むべし

・われらの民族における最大の深憂は、首都の東京があまりにも厖大化したという一事。その状、民族としての脳溢血症状。これに反して地方はまさに脳貧血状態に陥っている。それは、民族生命の若返りに対して、最大かつ最深の癌と言うべき

・世間的に広くは知られていないけれど、卓れた人の書をひろく世に拡める。世にこれにまさる貢献なけむ



以上は、この本に集められた429の言葉のごく一部ですが、鋭い心眼は、教育学者の域を超えているように思います。

人生の師匠として、これからも森信三氏の本を読み続けたいと思っています。
[ 2010/11/12 06:59 ] 森信三・本 | TB(0) | CM(0)

『図解・裏社会のカラクリ』丸山佑介

図解裏社会のカラクリ図解裏社会のカラクリ
(2007/11/05)
丸山 佑介

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思わず、タイトルに目が行きます。「怖いもの見たさ」とは、まさにこのことを言っているように思います。

著者は、怖い世界を真面目に取材されて、その世界の実態を、図解入りで、わかりやすく明示してくれています。そういう世界を教えてくれる本は、あまりないので助かります。

今回この本を読み、興味深かった箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・ヤクザ社会の出世の条件は「金=シノギ」。何年ヤクザをやっていようと関係ない。稼げる者が偉くなる。だが、金だけで偉くなれるのは、若頭まで。そこから組長になれる保証はない。ポジションが空かなければ出世は期待できない。「運」次第である

・新人ヤクザが部屋住みを通して教えられることは、主に3つ。「時間厳守」「礼儀作法」そして「シノギのやり方」

・ヤクザは時間にうるさい。交渉ごとの際に遅刻してしまうと、それだけで相手に付け入られることがある。そのため、新人のうちから時間厳守をみっちり仕込む

・礼儀作法も非常に重要。一般社会以上に上下関係が徹底されているため、不適切な態度をとっただけでオトシマエということもある。新人が将来、恥ずかしくなくやっていけるように、来客への対応や電話番などを通じて、礼儀作法をしっかり叩きこむ

・シノギのやり方は見て盗む。自分のシノギを持ったときに初めて部屋住みを卒業できる。先輩のシノギの手伝いなどをしながら、金の生まれる仕組みを学び、新人は自分のシノギ探しに生かしていく

・部屋住みの新人ヤクザは朝6時に起床。起きてすぐに、約1時間かけて、兄貴の教えどおりに、「事務所の中は、いつもピカピカに。塵一つ残さず」掃除する。特に、トイレは舐めても平気なくらいに入念に洗う

・ヤクザの幹部は、朝6時起床、6時半から約1時間かけて、ウォーキング。7時半から約2時間かけて、朝食&新聞を読む。新聞は経済誌含めて3誌とっている。シノギのヒントを探すために隅から隅までしっかり読む。そして、10時に事務所に顔を出す

・ヤクザが関連して、資金源とするフロント企業(オモテの顔)が多い業種は、「不動産業」「建設業」「産廃処理業」「芸能プロなどの興行界」「金融業」「リース業」

・ヤクザの喧嘩三カ条
「1つ、相手をよく見て喧嘩を売るべし!」「1つ、全力で相手の出鼻をくじくべし!」「1つ、金にならない喧嘩は慎むべし!」

・ヤクザに人気の女性の職業は、第1位看護師、第2位美容師、第3位花屋。現実のお相手は、キャバクラ嬢や風俗嬢が多い。ヤクザはオンナにモテる。夜の世界に生きる女たちには大モテ。メールもウマイ。絵文字のオンパレード

・イカついヤクザが、オフのときは、女性が選んだ、かわいらしさ全開のキャラクタートレーナーを着ていることが多い

・ヤクザの年収は、自分主導のシノギを持っている中堅クラスで約1500万円。幹部クラスになると3000万円は優に超える。サラリーマンの平均年収430万円に比べて、かなり稼いでいる

・全国各地で多発している金属窃盗(銅線、溝ぶた、半鐘など)の背景には、暴力団や中国人等の外国人グループらと、盗品と知りつつ販売するリサイクル業者の存在がある

・マルチ商法と宗教団体は、非常によく似た構造を持っている。会員が新たな会員を見つけてくる。勧誘した会員数によって組織の地位が決まる。そのため、マルチ商法を営む会社の宗教法人化(「税金対策」と「信者洗脳」のメリット)はスムーズに行われやすい

・生活保護受給額は、夫40歳妻38歳息子10歳の場合、住宅扶助最大69800円を含めると、月額245750円。29歳独身1人暮らし精神障害3級認定の場合、住宅扶助53700円を含めると、月額155290円。生活保護不正受給者があとを絶たない

・水(キャバクラ嬢)と風(風俗嬢)のナンバー1を比較すると、月収は、水が300万円、風が160万円。水の特徴は、「コビを売って金を稼ぐ」「頭の回転が速い」。風の特徴は、「カラダを売って金を稼ぐ」「自分に自信がない」「愛されたい」

・繁華街で女性に手慣れた口調で話しかけるのは、「ナンパ」か「ホスト」か「スカウトマン」。スカウトマンは1日に数百人に声をかける。希望する店を紹介してスカウトバック(仲介料金)を受け取り、永久バックとして、毎月のオンナの売上のうち10~20%もらう



裏社会の秩序と掟と人の動きがよくわかる本です。今まで、わからなかったことが明確にわかり、納得いくことがかなりありました。

ウラ社会を肯定するつもりはありませんが、現実として見据えないと、オモテ社会の構造も正確に見えてきません。

興味のあるなしを問わず、世の中の現実を見据えたい方にとっては、面白いと感じる本ではないでしょうか。
[ 2010/11/11 09:13 ] 仕事の本 | TB(0) | CM(0)

『禁欲と強欲・デフレ不況の考え方』吉本佳生、阪本俊生

禁欲と強欲 デフレ不況の考え方禁欲と強欲 デフレ不況の考え方
(2010/03/16)
吉本 佳生阪本 俊生

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この本は、経済学者と社会学者の共著によるものです。

従来の経済学は、人間の欲望を肯定的に捉えていません。経済を知るには、心理学や社会学を考察した方がいいと思っています。

事実、ノーベル経済学賞受賞者たちの評価が、その後低くなっていることも、このことを顕しています。

この本は、欲望を中心に、経済学を考える面白い本です。興味深い箇所が25ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・「金融とは広い意味でのお金の貸し借り」と理解するよりも、「金融とは交換のタイミングのずれ」と理解する方が、金融の性質を含むいろいろな取引を見落とさずにすむ

・蓄財された財やエネルギーを一度に使い尽くすかのような饗宴やもてなしは、「消費」ではなく「消尽」。「消尽」では、物質的な見返りへの合理的な期待も、それによって利を得ようといったさもしい計算も否定される

・モノの「消尽」に意味があるように、時間の消尽には、もっと深い意味がある。だとすれば、時間の賢者とは、これを消尽できる人。つまり、利益や見返りのないことに時間を費やすことができる人

・節約や効率を重視する社会で、ペットほど浪費的で時間つぶしで面倒くさいものはない。ペットは、おカネや手間ヒマをかけても見返りはまず期待できない。今の世の中で、これほど「消尽」的なものはない

・消費の満足感には、モノやサービスの機能から得られる満足感より、好ましい感情(うれしい、気持ちいい、カッコイイ、共感できる、スリルがある、素敵な、美しい、誇らしい、爽やかななど)の方が満足感の大部分を占める

・生産の拡大による経済成長を安定的に達成するためには、個々人の満足感とは別に、社会全体で消費がどんどん拡大することが求められる。「生産に従属した消費」がどうしても必要

・客が望む有益性を生むものに貢献している人たちは、なぜか低賃金(重労働)に甘んじやすく、何をやっているのか、その労働の有益性がさほど明確でない人たちのほうが高賃金を稼げる

・有益性が明確でない仕事(無益に見える労働)は、標準化やマニュアル化ができないから、規模の経済性による強烈な賃金下落圧力から守られる。守られている間に「有益に見える労働」の賃金が勝手に下落し、「無益に見える労働」は、努力しなくても高賃金になる

・有益でないものを高い価格で売り続けている「ぼったくり産業」ほど、高賃金が得られたりする。それを不公平と感じても、そういった産業の人たちの賃金や待遇を無理やり引き下げることはできない

・実は、仕事の価値の大部分は、同僚や取引相手とのコミュニケーションによって生み出されている。私たちは、この点を強く意識しておく必要がある

・生産的で有用な職業はいつの世でも尊重されず、消費的で有益性がわかりにくい職業のほうが、いつも高く評価されている。前近代社会で威張っていたのは、国王、神官、僧侶、貴族、戦士といった人々。彼らはいずれも非生産的

・戦争は、多大な財や人のエネルギーを無駄に使うだけでなく、人の命や財産を破壊するから、広い意味で、消費と言える

・古来、ネットワークの中心に置かれていたのは宗教。あらゆる文化圏で社会的ネットワークの中心に立つ権力は宗教とかかわり、その結果、富もそこに集中し、そこから壮大な余剰消費も生まれるしくみになっている。消尽と宗教は本質的にかかわる

・さまざまな中心がインターネット内に分散して生まれてきている。これらの中心は分散的とはいえ、大規模なネットワークの中心を形成している。この情報環境の変化が、現代の消費のあり方、あるいは人々の欲望の行方に深く影響してきている

・経済成長していくには、人々の夢の探求を持続させていく必要がある。つまり、このしくみは、人々を絶えず何らかの夢へ駆り立てることで成り立ってきた

・「夢の実現のための禁欲(消費禁欲)」は、成長が持続し、夢が新たに更新され、それを求める負担もどんどん大きくなる。これが行き過ぎると、夢の追求も、人々にとって苦痛となり始める

・満足と欲望は密接に関連している。満足は欲望の炎を鎮め、不満は欲望を燃え上がらせる

・前近代のほうが、ゆとりが大きく、近代の方が小さく見える理由は、「富の偏り」と「欲望の大きさ」の問題の可能性がある

・人間が本当に生きていると感じられるのは、過剰な余分を消費することができるからであるとすれば、私たちが働くのは、実は最初から余剰を生み出すためであって、必要を満たすためではないことになる

・人間にとって究極の欲望とは、自分が何であるか、社会の中でどうみなされるかといった、自己の社会的意味づけに関するもの。つまり、虚栄心こそ、人間の余剰消費の最大のエネルギーの源

・人々が少し背伸びしてでも高級品を持とうとする消費行動は、階層流動性があるからこそ意味がある。流動性が鈍くなると、消費は二極分化していく

・近代資本主義の精神をもたらしたプロテスタント思想の基のマルチン・ルターの教義は、単なる消費の否定ではなく、消尽するシステムそのものを否定している

・近代の消費は、禁欲的な消費の側面を持っている。ダイエット、教育の消費や、家や車の長期ローンによる消費が多いアメリカでさえも、禁欲的な消費大国と言える



消費を増やさないと、デフレ不況から脱出できない。禁欲的な消費(ダイエット、教育など)が増えるだけでも限界がある。

そのためには、無益な労働をして儲けている人たちの消尽(放蕩)が必要だと、著者は述べています。

近代の資本主義では、「消尽」が否定されている側面がありますが、無意味なものに。お金を使いまくることが、デフレ不況から脱出できる方法のように感じました。

今の時代、キリギリスはアリに比べて尊敬されていませんが、キリギリスに見習うことが、景気を回復させる唯一の方法ではないかと思います。時代が変われば、道徳も変わっていかないといけないのかもしれません。
[ 2010/11/09 08:21 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)

『ルイ・ヴィトンの法則-最強のブランド戦略』長沢伸也

ルイ・ヴィトンの法則―最強のブランド戦略ルイ・ヴィトンの法則―最強のブランド戦略
(2007/08)
長沢 伸也

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私は、ブランド製品には興味はありませんが、ブランド製品をつくっている企業や創設者には興味があります。

ブランド製品の企業は、老舗が多く、いい意味での中小企業の体質を有しています。私の好きな京都の中小企業とよく似ています。

売上や利益より、「のれん」を大事にすることが、客の信頼だけでなく、従業員の士気にも影響し、企業が長く続いていくのは事実です。

この本は、ルイ・ヴィトンの知られざる戦略について書かれています。一説によると、トヨタの車より、ルイ・ヴィトンの鞄の方が、日本人に普及しているという話です。

日本人を虜にする、ルイ・ヴィトンの企業戦略で、興味のあった箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・ルイ・ヴィトンは150年間以上も贋物に悩まされ続けた。「ホンモノ」のお墨付きを与える能力を、ルイ・ヴィトンだけが持つことは、その贋物に対しての最大級の反撃

・個性的でありたいと、先端を牽引する力と、乗り遅れたくないと最後尾を押し上げる力が、ファッションを形作っているのだとしたら、ルイ・ヴィトンはその開幕と閉幕をしっかりコントロールしている

・頼るべき歴史の蓄積を持たない新興ブランドが、そのハンディを乗り越えて一流ブランドになろうとするならば、歴史の蓄積の代わりに、マーケティングに頼らねばならない

・自前で育成した職人が、自社の工房で作る、潔癖主義、純潔主義の生産であり、できた製品は世界各地の直営店を中心に正規店のみで販売する

・ルイ・ヴィトンにはスペシャル・オーダーサービスがある。自分だけの世界に一つしかないカスタムメイド品(まったく新しいものの特注)やオーダーメイド品(現行製品の素材変更)を作ってほしいというワガママさんの特注

・ルイ・ヴィトンは153年間の歴史の中で、品質にひたすらこだわり、バーゲンセールを1回もやったことがない。一貫した価格戦略のポリシーが、ブランドロイヤリティーを強固なものにしている

質屋市場で人気の高いルイ・ヴィトンは、未使用品の場合、定価の9掛け以上の商品が多い

・過剰露出によるイメージダウンを避けつつ、高付加価値観を徹底しようとすれば、より少ない店舗でより多くの顧客をカバーする巨艦店にならざるを得ない

・顧客が品物の良し悪しを判断する基準は、「機能の良し悪し」と「長く使える」かどうか。長く使えることに関係してくるのが、リペアサービスの存在。ルイ・ヴィトンの場合、「よい物を長く使う」という訴求を強化する効果がある

・ルイ・ヴィトンの日本国内54店舗すべて自前店員。店員には、接客マニュアルはない。ハイレベルな採用をして、しっかり教育すしたら、あとは任せている

・ルイ・ヴィトンなどのラグジュアリーブランドは、普段の生活や日常から隔離された、夢や魔法の世界を演出するべきであって、コモディティ中心の場であるテレビCMからは一線を画さなければならない

・「あなたの好きなブランドは?」と聞かれたときに、真っ先に頭に浮かんだ銘柄が、あなたのマインド・シェア(既存顧客をさらに深く耕す)第1位のブランド

・ルイ・ヴィトンはパブリシティを重視している。広告とパブリシティを比べたとき、「記事にしたいとプロポーズされたので取材を受けてあげた」ほうが、より吸引力と客観性があり、ファンや読者を惹きつける

・ルイ・ヴィトンのブティックは、ゆったりと買物を楽しんでもらうために、店の中が混雑しないよう、入店制限を行う場合がある

・プロモーション戦略の一つとして、計算されたタイミングでのド派手なパーティーがある

・ルイ・ヴィトンのような世界に知れ渡る横綱ブランドに君臨したとき、いかに作り手を所持し、品質を保持するのかは、きわめて重要な要素



ルイ・ヴィトンがなぜ、トップブランドを保持しているか。想像していたとおりの戦略が、この本に書かれていました。

日本の老舗の戦略と非常によく似ています。しかし、世界を相手に売れば、老舗であっても、大きな売上になる例として、ルイ・ヴィトンは参考になります。

少しずつ時代に変化させながら、根本のところは変えないで、長く続く会社。これに勝る企業戦略はないように思います。
[ 2010/11/08 07:43 ] 仕事の本 | TB(0) | CM(1)

『9割の病気は自分で治せる』岡本裕

9割の病気は自分で治せる (中経の文庫)9割の病気は自分で治せる (中経の文庫)
(2009/02/01)
岡本 裕

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本ブログの読者であるCさんからすすめられて読みました。

日本の医者の実態を、経済的な側面から洗い出し、その中で、患者は医者と、どう付き合えばいいのか、岡本裕医師が白昼の下に晒してくれた力作です。

医者や製薬医療業界にとっては、「発禁にしたい書」かもしれません。患者もしくは患者にされそうな人にとっては、「バイブルにしたい書」です。

ともかく、健康で長生きが、お金をかけないで、手に入る「大変お得な本」です。

参考になった箇所が40ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満症、痛風、便秘症、頭痛、腰痛症、不眠症、自律神経失調症などは総称して「喜劇の病気」と言われる。その理由は、それらの疾患は、悲劇のヒロインの病気には絶対になりえないから

・日本には「おいしい患者」(医者にとってありがたい患者)が、3000万人以上いる。「命にかかわる患者」は、やりがいを喚起するものの、精神的負担が大きく、金銭的に報われないのが現状。「命にかかわらない」「完治しない」リピーター患者はありがたい存在

・開業医や市中病院の勤務医が1日に外来で診る患者数は50~60人。米国の5倍。OECD平均の3.5倍。日本も欧米も医者の報酬は同じなので、日本の医者は非常に忙しい思いをしていることになる

・従来から日本の医者の技術料は低く設定されている。以前は、薬価差益があった。つまり、技術料は安く設定するかわりに、医者は薬を売って儲けなさいという暗黙の了解があった。昨今は薬価差益もなくなり、技術料も低く設定され続け、まさに八方塞がりの状態

病気の状態をおおまかに分類すると次の3つのカテゴリーになる
1.医者がかかわらなくても治癒する病気
2.医者がいないと治癒しない病気
3.医者がいても治癒しない病気

・「医者がかかわらなくても治癒する病気」は「喜劇の病気」。その「おいしい患者」が日常診療の、多ければ90%以上いる。「医者がいないと治癒しない病気」(医者の本領を遺憾なく発揮できる領域)の患者は追いやられている

・どんな仕事でも、やりがいがなければ、仕事を続けることが耐えがたいストレスとなる。そのストレスが高じると、そのストレスを和らげる代償として、割り切りが必要になる。一度割り切ると、やりがいに代わって、お金儲けを初め、新たな目的が頭をもたげる

・日本糖尿病学会は1999年、血糖値が126mg/㎗以上を糖尿病にするといきなり決め、一夜で数百万人の糖尿病を増やした。高血圧も2000年に140/90mmHgに引き下げられ、これで高血圧患者を3000万人増やした

医者の卵たちの、研修前希望診療科と研修後希望診療科の比率で、最も減少率が大きかったのは、脳神経外科(42%減)外科(33%減)小児科(28%減)。増えたのは形成外科(41%増)皮膚科(24%増)。仕事がきつく、生命に直接かかわる診療科への希望が減っている

・人道的救命精神を医者から遠ざけているのは、金銭的なことだけに限らず、医療訴訟を巡る問題、年齢を経てからのリクルートシステムの未整備などが理由。医者そのものがヒューマニズムの心を失ってしまったからではない

・開業医になった人たちのほとんどが転科組(内科と専門分野の看板を掲げる)。開業に踏み切った年齢は40~55歳。共通しているのは、「勤務医に疲れた」というのが一つの大きな動機

・糖尿病と診断された年寄りがほとんど治ることで有名な老人ホームでは、玄米菜食日本の伝統食を基本にしている。高血圧、肥満症、高脂血症も改善している。家族の方が「何十年も飲み続けたあの病院の薬は何だったのか」と話すのを嫌というほど耳にしている

単品食品ダイエットは昔からよくある手法。同じものばかり食べるとお腹がいっぱいになり、摂取量が低下する。栄養が偏ることで体重は減少する。炭水化物を減らすと、エネルギー源として必要な筋肉を解かし、自己治癒力も著明に低下する。命懸けのダイエット

・果物には、ビタミンやミネラルなどの栄養素がふんだんに含まれていることから、意外に太る原因にはなりにくい。果物はダイエットの敵とされる向きもあるが、むしろダイエットに適した食物

・意外に思われるかもしれないが、花粉症、気管支喘息、アトピーなどのアレルギー疾患のなりやすさは、腸の環境に大きく左右されることが明らかになっている。がんを初めとする慢性疾患のほとんども腸の環境いかんで、発病率や治癒率が大きく影響する

・すごい腸の機能を適正に保つためには、安易に薬剤に頼るよりは、プロバイオティクス(有用な微生物、乳酸菌が代表的)やプレバイオティクス(オリゴ糖や繊維質)をうまく活用することが、非常に賢明な考え

・腰痛や膝痛は、消炎鎮痛剤の服用よりも、姿勢の是正、体重の是正、運動(歩行)習慣によって、痛みからの離脱が可能

・「薬」と「検査」は、患者をつなぎとめる最強のアイテム。医院に次に通ってもらえるのは、薬をもらうため、検査をするため、検査結果を聞くため、というように次の受診を決められる

・責任感の強い人、義務感の強い人、我慢強い人、遠慮深い人、周りを気にしすぎる人は、自身のストレス負荷を過小評価する傾向にある。そういう人は、ストレスセンサーである「嫌」という正直な感覚を大切にしなければならない

・「自分のやりたいことをやる」「嫌なことはできるだけやらないように工夫する」「できるだけ我慢をしない」。これが自己治癒力を高める強力な手段であることを、数多くの癌患者や癌サバイバーの方々から教わった

・癌患者のデータでは、「いい人」は長生きできない傾向がある。ストレス負荷が癌発症の大きな要因になっているケースが多い。おそらく、生きる姿勢が受身で、考え方が消極的という側面が影響していると推測される

・若い人にとっては多少のストレスが人生のスパイスになるが、40歳を過ぎた人には通用しない。衰えを感じる年になってからの我慢、忍耐、根性、がんばり、競争などは、すべて身体に悪く作用する。また、義理、約束、責任感、義務なども自己治癒力を低下させる

・「嫌」な感覚を大切にすることの裏返しが、WANT(したい)の気持ちを大切にすること。どうしてもMUST(ねばならない)の考えを重視する人が、癌患者に圧倒的に多い


・癌患者の中でも、悪性リンパ腫、乳がん、肺がんの多くは、自分より他人(家族、会社、社会など)のために生きてこられたという印象が強い。責任感が人一倍強くて、忍耐強く、完璧主義の方が多いのが特徴

・自己治癒力を高める感覚として大切なのが「いい加減さ」。がんになる方の性向を見ると、ほとんどが、何事も生真面目に取り組み、完璧にそして徹底的に、とことんやらないと気がすまないタイプの人。つまり、いい加減さを知らない人たち

・「嫌(NO)」「したい(WANT)」「いい加減(SOSO)」。癌患者をはじめ、慢性疾患で相談に応じた方々で、この3つの感覚をうまく取り入れた方は、治りが明らかにいい

・「前かがみの姿勢をやめる」。うつむき加減は全身の血の巡りを低下させ、自己治癒力を低下させる。胸をはる姿勢を意識し、上半身を反ったり、視線を高くして空を見上げたりして、姿勢を正す

・「食にこだわる」。脂肪分、塩分を抑え、加工食品はできるだけ避け、野菜、果物、穀類、海藻類、きのこ類、発酵食品を積極的に摂取する。魚類などの動物性タンパクは積極的に摂取したほうがいい

・「便秘はくれぐれも気をつける」。便秘は腸内環境を測るバロメーター。便秘が起こる食生活は好ましくない。ストレスが原因で便秘が常習化する場合もある

BMI値が少し高めの方が、実は長生きすることがわかってきた。男性は身長170cmで67~75kg、女性は身長160cmで50~61kg

・「ベースサプリを上手に用いる」。40歳を超えると、抗酸化能力や腸内免疫能力も低下するので、マルチビタミン、ミネラル、必須脂肪酸、プロバイオティクス(乳酸菌など)は摂取したほうがいい。アクティブサプリ(機能性食品)はベースサプリと併用で効果あり

・値段で言えば、1カ月分が3ケタのサプリメントは疑ったほうがいい。健康ドリンクや健康スナックの類も似たようなもの。「百害」までは言わないが、少なくとも「一利」もない

・「気がついたら、ときどき爪モミ」。爪モミには、自律神経のバランスとリズムを整える効果がある。両手(できれば両足も)の各指の爪の生え際あたりを片一方の親指と人差し指ではさんで少し強く揉むだけ。時間は10秒、回数は1日に10回くらい

・「血流をよくする、ふくらはぎマッサージ」。ふくらはぎには大量の血液がたまっている。そのたまっている血液を心臓に戻してやる。方法はいたって簡単。1日に10~20分、アキレス腱のあたりから、膝に向かってゆっくりとマッサージして筋肉をほぐす

・「1日に6000歩歩く」。40歳を超えてからの激しい運動は、発生する活性酸素の悪影響があるので、おすすめできない。アスリートの寿命は長くない。のんびりと一人でウォーキング、スイミング、有酸素運動、ストレッチ運動もいい

・「海外旅行読書」。時空を短期間で超え、価値観を変える格好の方法。「海外旅行」と「読書」は、癌患者の予後追跡調査で自己治癒力を高めることを確認。感動やカルチャーショックを受けると、リンパ球数が増える。すなわち自己治癒力が高まる

・医者の習性として、押しに弱いところがある。したがって、医者にはあまり遠慮せず、厚かましいくらいに接する方が、結果的に得する場合が多い。癌患者の場合、積極的で、自己中心的で、厚かましい人の方が、断然予後が良好

・多くの医者は、白衣を脱げば小心者、白衣(権威)を着れば慢心者。医者に対しては、「逆らわず従わず」が最も有効

・富裕層や政治家、官僚は、「おいしい選挙民」を狙い、お金や命まで吸い取る。「おいしい選挙民」がいる限り、社会は変わらない。同様に、「おいしい患者」がいる限り、今の医療は変わらない。「おいしい患者」が目覚めると、薄利多売の悪しき医療システムが変わる



何となく、医療業界の胡散臭さを感じていたのですが、この本がキッパリと、胡散臭さの実態を暴いてくれて、心の中のモヤモヤが一気に解消しました。

要するに、医療や健康に関連する業界に、大切なお金を奪われないで、どうやって健康を保っていくか。これが私たちの大きな課題だと思います。

医療側ばかりが悪いわけではなく、患者側が求めてくるから、それに合わせていたら、こうなってしまったのかもしれません。

少なくとも、この本を読んだ人だけは、「おいしくない患者」になって、この悪しき医療の改革に貢献したいものです。

患者側に立った、非常に役に立つ良書です。書いていただいた著者の岡本裕医師に感謝です。
[ 2010/11/05 07:34 ] 健康の本 | TB(1) | CM(1)

『三猿金泉秘録』牛田権三郎

マンガ 三猿金泉秘録~日本相場の聖典 (ウィザードコミックス)マンガ 三猿金泉秘録~日本相場の聖典 (ウィザードコミックス)
(2005/03/31)
浅井 まさのぶ広岡 球志

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堂島の米相場師であった牛田権三郎が著した三猿金泉秘録の中で、「理外の理」という有名な言葉があります。「一般的な道理では、理解できない不思議な道理」という意味ですが、哲学的な意味を含んだ名言だと思います。

今から、250年前に書かれた三猿金泉秘録は「相場の極意」の本ですが、人間の心理を読む極意も記されているように思います。

この本は、マンガ形式なので、読みやすくなっています。ためになった箇所が15ほど  ありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・「見猿」「眼に強変を見て、心に強変の淵に沈むことなかれ。ただ心に買い含むべし」
相場が上昇波動に乗って大商い。こういう乱舞している相場は見ない。ひたすら心の中で、売りの時期を考える

・「聞猿」「耳に弱変を聞きて、心に弱変の淵に沈むことなかれ。ただ心に買い含むべし」
相場の言うことを聞かず、悪材料につり込まれないで、ひたすら心の中で、買いの時期を考える

・「言猿」「強変を見聞くとも、人に語ることなかれ。言えば人の心を迷わす」
自分の意見を言わないこと

・「すわりには、三平二乗半扱商い、高安ともに、平乗禁制」
保ち合い相場は、値動きの幅が少ないから、利乗せに走ってはいけない。半分は利食い。半分はそのまま。次の好機を狙うのがよい

・「米崩れ、買い落城の飛び下げば、ただ眼をふさぎ買いの種まけ」
相場が崩落して、安値を更新してくると、嫌でも売りたくなるが、そこは、相場の流れに目をふさぎ「買い」

・「強変あらわれ出れば、皆強気、了簡なしに売りの種まけ」
強い材料が現われたときは、あれこれ惑わされず、売場を考えるべき

・「秋高く、人気も高く、我もまた買いたいときが、米の売り旬
相場が良くて、人気があり、自分もつい買いたくなる。その三つがそろったころには、もう天井圏で、最高の売場。買ってはいけない

・「買い米を、一度に買うは無分別、二度に買うべし、二度に売るべし」
資金を全部投入して買ってはいけない。二度に分けて売買する。ただし、二度目の買いは、上昇相場の押し目で入る。三度目の買いは損失が大きくなるので注意。売る場合も同じ

・「いつにても、三割下げは米崩れ、万天元の買い旬と知れ」
下げ相場で3割崩落しても、底値圏かわからない。周囲の意見に惑わされず、様子を見ながら、少しずつ、慌てずに買う

・「百年に九十九年の高安は、三割超えぬ物と知るべし」
米相場が上下するといっても、100年のうち、99年は3割ぐらいの幅でしかない

・「懐に、金絶やさぬ覚悟せよ、金は米釣る餌ばと知るべし」
自分がここだと目をつけた時、買いたい時に買える資金を残しておくことが大事

・「高下とも、五分一割にしたがいて、二割三割は向かう理と知れ」
上がる場合も下がる場合も、5分から1割の動きであれば利を乗せていけばよい。しかし、1割半以上も動いてからでは、利乗せするには遅すぎる

・「売り買いを、せかず急がず待つは仁、利の乗るまで待つも仁なり」
衝動買いや売りに気持ちが動いた時は、2~3日様子を見る。自分で決めた利食い圏に入るまで辛抱

・「万人が、あきれはてたる値が出れば、それが高下の境なりけり」
予想外の高値または安値が現われた時点が天井圏であり底



相場は投機だけの世界ではありません。オークションやバーゲンにも相場の心得が必要になってきます。

もちろん、需要と供給で値が決まる世界で仕事をする場合、相場の心得を知っておかなければなりません。

先人たちが苦労して綴った、相場のバイブルを再度読み返すのも有益ではないでしょうか。
[ 2010/11/04 08:03 ] 投資の本 | TB(0) | CM(2)

『「徒然草」的生き方・マイナスをプラスに転じる人生論』江坂彰

『徒然草』的生き方 マイナスをプラスに転じる人生論『徒然草』的生き方 マイナスをプラスに転じる人生論
(2006/08/22)
江坂彰

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小林秀雄は、吉田兼好のことを「物が見え過ぎ、解かり過ぎる人」だと言い、徒然草のことを「鈍刀を使って彫られた名作」と言いました。

徒然草は、易しく、面白く、書かれていますが、本当は生きる真理が隠されている哲学書です。この徒然草に、経営評論家の江坂彰氏が、洒脱な解釈を添え、読みやすくしてくれたのが本書です。

ためになった箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・兼好は世間から逃れたのではない。世間、社会の枠組みから自由になったのである。そして、金儲けや立身出世、人間関係の重いしがらみと自分の間にしかるべき距離をおき、乱世という時代と人間の見者になった

・世間とは、社会の仕組みと人間関係で出来上がっている。それを知る人を処世上手という。処世の達人は、組織の中でさっそうと、要領よく生きていく

・世間に背を向けて、自己主張するには狂の精神がなければならない。そのこわさを知るがゆえに、わらわれはどれほどたくさんのことを言わずに、我慢してきたか

・解が同じなら、誰も失敗しないかわりに誰も成功しない。全員が成功できるような有難い解答はこの世にないと考えた方がよい

・世の名人というのは、本当は臆病で用心深い、ただそれをみんなに悟られないようにしているだけ

・凡人にとっては、現地現場へ行って見て、そしてわからないことは素直に先達に聞くのが、一番上等な情報収集法である

・官僚の情報は官僚が持っている。政治の情報は政治家がしっかり握っている。重要な情報を一般公開しないことによって、彼らは、権威、権力を保つ

・一流の人からそのすぐれたところをマネし、学び、盗むことは、難しく苦労するが、最も着実な人間成長方法である

・名外科医と言われる人は、少し不器用なところがある。器用な医者は、自分の腕を過信する。威張りたがる。手術を甘く考えるから、かえって大成しにくい

・何が起こるか予測できないのが戦争というもの。敵がいつも同じ攻撃パターンをとるとは限らない。歴戦の勇者などいない。本当に優秀な軍人は歴戦の臆病者

・天才的な詐欺師が言うには、詐欺に一番引っ掛かりやすいのは、人に笑われたことのない超マジメ人間と欲深い孤独な人

足るを知る者同士で気楽にやろう。簡潔だが、ここに友達付き合いや社交の極意がある

お金さえあれば何でも買える。世の中自分の思いのままになるという幻想を与える。人生はもっと複雑だが、ともかくそれを信じたものが金持ちになる

・住まいは見せびらかしではなく、リラックスするためにあるもの。あまりにもデザインが統一されたインテリアは息苦しい

・お金と安全の保障のない自由人だからこそ、むしろ変わり身の早さや人間関係の微妙な気遣いが必要

・兼好は孤独をこわがっていなかったし、孤独なくして個の自立などありえないということを知った最初の知識人であるが、孤立しては生きていけないことを知っている賢い現実主義者である

・地位、権力、金銭も長続きしない。そして、人生は首尾一貫して生きられるものではない。変わっていくのが人間であり、そこに人間の面白さとはかなさがある



知識人で、自由人であった、兼好の生き方には学ぶべき点が本当に多いと思います。

年をとれば、エリートと言われる人ほど、兼好のような生き方を実践すれば、世の中が明るく楽しくなっていくように感じました。

徒然草の原書を読むのはつらいが、徒然草や吉田兼好に興味があるという方には、この本はおすすめです。
[ 2010/11/02 07:12 ] 人生の本 | TB(0) | CM(0)

『倒産回避請負人が教える脱常識のしたたか社長論。』立川昭吾

倒産回避請負人が教える脱常識のしたたか社長論。倒産回避請負人が教える脱常識のしたたか社長論。
(2008/04)
立川 昭吾

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立川昭吾氏の本を紹介するのは、「なぜかお金が逃げる人大きくたまる人」に次いで2冊目です。

著者の本は、いい意味で、直感的、本能的です。論理的ではない分、現場感覚が味わえます。最近は、こういうビジネス書が少なくなりました。

身体を動かして、仕入れてきた貴重な情報は、何の脈略もなくてもいいと思っています。読む側が、その情報を見分ける嗅覚を持っていれば十分です。

この本にも、面白い情報と著者のユニークな見解が多数見受けられます。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・「これだ!」と思ったら、即、動く。小さな会社だからこそ、それが可能。そこに小さな会社が勝ち残る大きな可能性がある

・社長の仕事は商売を成功させることであって、信念を貫くことではない。商売を成功させるのに邪魔なら信念などさっさと捨てるほうがいい

・小さな会社が銀行に頼る時代は終わった。今の銀行は小さな会社の成長を支える金融のプロではない。それどころか、銀行と信頼関係を築こうとするのは危険でさえある。担当者レベルで融資の話が進んでも、本部の指令とかで、態度が一変する

・勝ち組になりたかったら商売を続けることが大事なのであり、商売の種類にこだわる必要はない。そういうしたたかさが必要

・一度も経営したことのない人が書いた経営指南本は、一度も包丁を持ったことのない人が書いた料理人のようなもの。そんな料理本は誰も読まない。実践的な内容、役に立つノウハウが入っていない

・意地やプライドは捨てたほうが軽やかになれる。軽やかほど商売がしやすい。軽やかでないと商売は立ちゆかない

・中小企業の調査では、10年間のうちに、約半数の会社が主力事業を変更しており、約1割は業種や業態そのものを変えている。変身は当たり前

・会社を大きくするには、社長以外に次の4人の人材がいる。「金屏風の人」(信用保証人)「性格や考え方が社長と同じ人」(イエスマン)「性格や考え方が社長と違う人」(ノーマン)「社長の指示どおり動く人」(パシリ)

・社員が社長に惚れ込んだら、社長の言うことは何でもする。そんな会社は強い。またたく間に成長する。社員に惚れさせるには、まず社長に腕、つまり技術がなくてはならない

・商売は、身の丈に合った方法で少しずつ伸ばしていく。銀行から借金して起業するのは最悪のやり方。借りずに始めて軌道に乗ったら借り入れを考えるのがスジである

・近江商人がモットーとした「商売の十教訓」には、「資金の少なきを憂うるなかれ。信用の足らざるを憂うべし」とある。逆の読み方をすれば、信用さえあればカネはついてくるということ

・自分の会社は中小零細レベルなのに、何でもかんでも大企業のマネをして、「CSの徹底」「お客様相談センターの設置」「コンプライアンスに目を向ける」などと口にする会社がある。大企業のモノマネは転落へとつながる

・社長の応接室に「誠実」「お客様第一」「社会との共生」などの経営理念が飾ってあり、それを朝礼で話す社長がいるが、小さな会社に経営理念など必要ない

コバンザメ商法は、相手の弱みを突きつつ、相手の力をトコトン利用する。これぞ弱者の戦略。小さい会社の戦い方というもの

・小さな会社の存在価値は、他人のムリムダムラを引き受けるところにある。人が困っていることの代行ビジネスなどもその例

・小さい会社の商売は、アレンジを大切にしたい。開発や研究のためにヒトやカネをかけられないから、オリジナリティを追求するのは難しい。既存のものに手を加えるだけでも、オリジナルといい勝負ができる

・パソコンは、うまく使うと数人分の働きをしてくれる。多くの社員なしに、一人前の会社がつくれる。店を開きたいと思ったら、実際の店ではなく、ネットショップからでいい。カネ、ヒト、モノが限られている小さな会社が成功するにはITが鍵



今は、小さな会社を起業しやすい時代なのに、慎重になって、起業する人がなかなか増えません。

ヒトも要らない、カネもほとんどなしから始められることがいっぱいあります。失敗しても、昔ほどの大きな損はしません。

この起業しやすい時代に、一番欠けているのは「やってみようの精神」かもしれません。

この本は、難しいこと抜きに、その精神を呼び起こさせるのに役立つ書だと思います。
[ 2010/11/01 07:18 ] 出世の本 | TB(0) | CM(1)