この本は、島田紳助さんが、NSC(
吉本総合芸能学院)で、お笑い芸人志望の若者たちに、一度だけ講演されたのをおさめたものです。
お笑い界で、私が人間国宝として認定できるのは、故人を除けば、立川談志、上岡龍太郎、上沼恵美子、ビートたけし、明石家さんま、島田紳助、松本人志(敬称略)だけだと思っています。つまり、天才です。
話芸の天才で、現役でバリバリに活躍する人物が、経験して、努力して、成功してきたことを緻密な分析を交え、語る内容なので、面白くないわけがありません。
この本を読んで、ためになった箇所が25ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。
・漫才に教科書がない。だからこそ、この世界に入った時、自分で
教科書を作ろうと思った。「これで勉強したら、絶対売れる」という教科書を
・勝てない現場には行かなかった。いいネタができていない、自分たちがウケる客層ではない、そういう現場に行って、他のコンビと戦って負けるくらいだったら行かない方がまし
・売れ出すと、劇場に
キャーキャー言う女の子が詰めかけるが、実はこれが邪魔。「こいつらが俺らをダメにする。笑わすことは簡単やから、こいつらを笑わしにかかってしまう。その時、俺たちが終わる」と相方によく言っていた
・漫才をやる時は、目の前に座っている女の子ではなくて、カメラのレンズの向こうにいて、コタツに入ってテレビを観ている兄ちゃんを笑わせにかかること
・「X+Y」でものを考える。「X」は
自分の能力。自分は何ができるか、自分自身と向き合って必死に探すしかない。「Y」は
世の流れ。これまでと今で、これからどう変わっていくか、研究するとわかる。この「X」と「Y」がわかった時、初めて悩めばいい
・一発屋は、何も考えずにやれることをやる。それが「X」。すると、たまたま「Y」から「X」にぶつかる。衝撃はあるが、これで終わり。「Y」はすぐに動くから、もって2、3年がいいところ。売れ続けるためには、動く「Y」に合わせ、「X」を変化する必要がある
・オリンピックの体操選手は、体脂肪率4%。体操するための筋肉しかつけない。余計な筋トレはしない。お笑いタレントもそうでないといけない。
無駄な練習はいらない。無駄な筋肉がついてしまうから
・客が信じていないネタふりにオチをつけても笑いは起きない。どうしたら信じてくれるか?それは、
必死に伝えるしかない。その必死さにリアリティのある一言をプラスすると、人は信用する
・正統派では勝てない。人気者にもなれない。どうしたらいいか?「そうだ、悪役だ」と閃いた
・ネタはパクらないで、
システムをパクる。タレントはネタが面白くてもダメ。人が面白いと思われないといけない。いいネタに出会うなんて、何年かに1回。絶えずいいネタはできない
・詳しい
一分野一箇所を増やしていく。三百年生きられるなら、いろんなことを勉強するが、そんなことしていたら、いつまでたっても売れない。賢くなる必要はない。賢いと違うかな?と思われたらいい。ただし、嘘はいけない。嘘はすぐばれる
・実際に体験して「心」で記憶する。本を読んで、「頭」で記憶しただけでは、すぐボロが出る。「頭」で記憶したことはすぐ忘れる。「心」で記憶したことは一生忘れない
・
心で記憶するコツは、いつも「感じ」られるよう、心を敏感にすること。感情の起伏が激しくないといけない
・「遊ぶ」というのは、色々なものに興味を持って、ウロウロし、ヘンな奴でいること。25年前、偶然見た椎茸ビニール栽培のおじさんを1時間質問攻めした。今でも、椎茸のグラム当り値段、天然物の菌の打ち方、栽培法を喋られる。これも「心」で覚えた知識
・人が知っていることは知る必要がない。時間の無駄。誰でもできることは誰かに頼んだらいい。誰にもできないことをしないといけない。
知識のドーナツ化を目指すこと。誰でも知っている真ん中は要らない
・「心」で記憶したことを喋ると、映像が見える。上手い喋り手が話しているのを「うん、うん」と聞いている人は、耳で聞いているのではなくて、
同じ映像を見ている。「脳」で記憶したことを喋っても映像は見えてこない、同じ映像を見ているから、人は共感する
・ストリップを心のどこかで見下している。彼女たちは、脚を開いてすべてを見せる。たまに行くと、「すごいなあ、明日から頑張ろう」と思う。「恥ずかしい」「格好悪い」とか言ってはいけない。あそこに同じ
舞台人としての原点がある
・誰でも頑張って「5の努力」をすれば、「5の筋力」を得ることができる。それを得ることができれば、この世界が駄目でも、他の世界で、絶対に成功できる
・自分の中で「能力が高いから」成功したと思う自分と、「たまたま、ツイていたから」と思う自分が闘っている。だから、自分の能力を自分の中で証明するために店をやっている。当った店を増やすのは簡単だが、それでは意味がない。次は違った店を出し、成功させる
・外へ発信するのは売れてから。まずは
内側へ発信しなくてはいけない。意識すべきなのは、客でも、他のコンビでもなくて審査員。審査員の心を動かさないといけない
・笑いというのはローリング。ネタを進めていくうちに、雪玉が転がって大きくなるように、笑いも大きくなっていくもの。だから、それぞれのネタが同じ大きさの面白さではいけない。段々大きくなっていくこと
・仲間と一緒にいるメリットは、モチベーションが高まるということだけ。この世界、売れる奴の方が少ないから、それ以上一緒にいたら、
傷口を舐め合うだけ。仲間といるのは、夢を語る時間だけ。「頑張ろうな」と言い合える時間だけ。その後は、個々解散
・いろいろなところへ行って、いろいろな人を見る、聞く、喋る。この世界に友達をつくりに来たのではないはず、勝つために来たはず。友達だったら、地元に帰ればいっぱいいる
著者は、
無駄な努力を否定する努力家。つまり、努力の最高レベルを追求した努力家であるから、大成功したのだと思います。
努力の最高レベルを追求する努力家は、どの世界に行っても通用します。ということは、この本は、どの世界の人が読んでも、成功できるノウハウが書かれている本ということになります。非常にためになりました。