とは考

「・・・とは」「・・・人とは」を思索
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『未来を創るエジソン発想法』浜田和幸

未来を創るエジソン発想法未来を創るエジソン発想法
(2009/05/19)
浜田 和幸

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エジソンの本は、「エジソンの言葉」に次ぎ2冊目です。今回の著者も同じく、浜田和幸氏です。

以前は、エジソンを天才発明家としての認識でしたが、従業員1万人を超える企業の創業オーナーだったことや日本人と交流が深かったことを知って、尊敬だけでなく、親近感も沸いてくるようになりました。

この本には、エジソンの日記を中心に、貴重な言葉が多く収められています。参考になった箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・なぜ社会主義的な発想が広まっているかというと、社会のあちこちで腐敗が見られるからだ

・新しいものを発見したいと思った時には、まず図書館に所蔵されているたくさんの本、学術論文などを隈なく読む。手に入るものすべてを頭に入れるところから始める

・どういう状況でも、とにかく生産性を高めることが大事である

自信を取り戻すということが、ほかのどんな要素と比較しても、いちばん重要である

・アメリカ人全員が、もう一度、人間がいかにお金に弱いかということを見つめ直す必要がある

・人は自分が楽しいと思うものには喜んでお金を払うということ。多くの人々が、これまでにない刺激、楽しいもの、素晴らしいものを常に探し求めている

・私は発明工場の要所要所に標語を貼り出している。「人は、自分で考えるという労力を避けるために、ありとあらゆる理由を考えつく。そういうことは、避けなければいけない」と

考える習慣を身につけていない人は、自分自身を本当に脱皮させることができない。あらゆる進歩、あらゆる成功は、自分の頭で考えることから湧き出てくる

・人の批判に対して、きちんと答えることができれば、逆に、自分のやってきたこと、考えてきたことが正しかったと確認できる

変化なくして前進も進歩もない。知らない場所を訪ねたり、未経験の仕事にチャレンジしたり、新鮮な感動を追い求めることは、肉体と精神がともに欲していることである。この要求を満たすことが成功につながる

・だいたい36歳が、人生の大きな区切り、節目である。すなわち、36歳ぐらいまでに、いろいろ経験し、成功も失敗も考えて悩むが、それ以降は、本当の自分の役割や役目、仕事に取りかかれる

・観察力がないために、世の中のいろいろな動きや変化に対して、みんな無頓着で気づかない、という問題が起こっている

・野心家だけは、掃いて捨てるほどいる。お金をもらえるポジションはたくさんあるが、本当にそれを満たす力を持っている人は少ない

・入社後、最初の6週間で変わらなければ、ずっと定年まで行ってしまう。自分で気づき、変えない限り、悪しき習慣が身につく

・機械を自由に使いこなす分だけ、人間の心も進化する。精神的な面と機械的な面は、対極にあるように思いがちだが、これはコインの表裏である

・我々の五感は、我々の肉体の外側に存在している。さまざまな状況、コンディションに合わせ、本来、その変化を察知し、対応できるように機能する力がある。人間の脳がすべての判断や知識の中心だと考えること自体ばかばかしい



この本には、エジソンの発明に関する考え方だけでなく、「従業員教育」「お金」の話も多く、載っています。

発明王エジソンとしてだけでなく、人間エジソンとして、この本を読めば、偉人の新たな発見があるのではないでしょうか。
[ 2010/10/31 07:02 ] 偉人の本 | TB(0) | CM(0)

『言葉の罠-仕掛ける・動かす・味方に変える』松本幸夫

言葉の罠―仕掛ける・動かす・味方に変える (リュウ・ブックス アステ新書)言葉の罠―仕掛ける・動かす・味方に変える (リュウ・ブックス アステ新書)
(2009/12)
松本 幸夫

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言葉から、相手の真意がどこにあるのかを知ることは大事です。恋愛、交渉、商談など、言葉の裏を読まずに、成功できるほど、この世の中は甘くありません。

相手の本音を読むことは、成熟した大人の階段を昇るのに欠かせないものです。この本は、言葉の罠に引っ掛からないように、本当の意味を解釈してくれる有難い書です。

参考になった箇所が20ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・「ドキドキしちゃう」「緊張しちゃいます」は、「あなたと会うと鼓動が高まる」ということ。「あなたを魅力的だと思う」ことをほのめかす言葉。気のない相手から言われると危ない言葉

・「私たちが出会った日は」「私たちの関係は」というように話すと、心理的距離がグッと縮まる。私たちはニセの一体感をあおる。言葉だけで、操ろうとしている可能性が高い

・「休みの日は何を?」と口にしたら、それは「あなたに急接近したい」「もっと仲良くしてよ」というサイン。異性の場合は、この言葉に乗らないのが無難

・「偶然ですね!」と言えば、「二人は合うね」「運命の相手?」と無意識にささやきかけることができる。運命を装って急接近するのにいい言葉

・気になる異性から「彼(彼女)は素敵だ」と言われて、心を刺激されない人はいない。この言葉は、嫉妬心を刺激し、主導権を握ろうとしていると考えられる

・「初めてなの」という女性の言葉は、いかなる場面でも、男の独占欲を満たす。本当の「初めて」なのか、計算ずくの「初めて」なのか、よく見極めることが欠かせない

・「手伝えることある?」は、一見親切な言葉だが、手伝う気など全くないのに、こう言う人がいるので困る。「私はいい人だろう?」という演出も込められている

・今まで、あれこれうるさく指図していた上司が一転して、「思い通りにやれ」「好きにしていいぞ」と言い始めたら要警戒。この言葉は相手に責任を押し付ける言葉

・「君のためを思って言うんだ」。本当に相手のためを思っていたら、「君のため」と念押ししない。ほとんどの「君のため」は「自分のため」をカモフラージュし、大義名分を利用して人を動かそうとする策略

・「言いにくいんですが」の言葉の後には、悪い知らせが続く。それを承知させる「クッション言葉

・「今、大丈夫?」は、相手を一見気づかっているように思わせる常套句。こちらにノーと言わせないために「大丈夫?」と聞いていると考えたほうがいい

・「ほかのテーブルに行かなくちゃ、続きはあとでね」と言えば、客の話を中断でき、客は、次も彼女を指名したくなる。「続きはあとで」は、恐ろしい力がある言い方

・「要するに」という言葉には、「話が長すぎますよ、論理が混乱してますね。私がまとめてあげましょう」という傲慢さが見え隠れする

・「勉強になりました」と言うのは、「あなたの勝ちです」「君が上だ」と言うのと同じ。言われた方はプライドをくすぐられる。自分より社会的地位や年齢の上の人から「勉強になったよ、ありがとう」と言われれば、あの人はいい人。謙虚な人と無条件に信じてしまう

・「部長がほめてたよ」と第三者から聞くと、うれしさも倍増する。当の部長からほめられるよりうれしかったりする。この話法は、自分はほめていないのに、「あの人がほめていた」と言って、自分に対する好感度も上げる

・「ムリかもしれないが、やってみるよ」と言うのは、できなかった時、万一言い訳ができる

・「あと一ついいですか」と言われて、「ダメです」と言う人はまずいない。ほぼ全員が「何でしょうか」と反応してしまう。お開き宣言し、相手がフッとリラックスした時が最適のタイミング

・「私はこう思いますが、あなたの意見は?」と優しく言うことで、「売りつけているんじゃありません。本当にあなたのためを思って言っているんです」と印象づけられる

・「一緒にがんばろう」というように、動詞に「一緒に」をくっつけて仲間意識を出そうとする。裏切りを恐れる人ほど、これを必ずつけてくる



こういう言葉の端々に敏感になり過ぎるのも問題ですが、家族や親友以外の人間関係においては、注意する必要があります。

特に、仕事上での人間関係では、これらの言葉が多用されているように思います。言葉の裏を理解することが、仕事をするのに役立ちます。

人間は優しく嘘をつく動物であると、再確認できる書です。
[ 2010/10/29 08:11 ] 仕事の本 | TB(0) | CM(0)

『金は天下のまわりもの-金儲けできる人できない人』泉秀樹

金は天下のまわりもの―金儲けできる人できない人金は天下のまわりもの―金儲けできる人できない人
(2005/01)
泉 秀樹

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この本には、歴史上の人物たちのお金にまつわる話が収められています。お金の扱い方で、人物像が見えてきます。

お金が持つ力は、歴史を動かすほどの大きなものです。歴史上の人物が、お金をどう考えていたかがわかる貴重な書です。

勉強になった箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・西行も鴨長明も世を捨てる「遁世者」ではない。当時、出版社はないので、原稿料も印税もない。書いても収入ゼロ。西行は豪族の御曹司、鴨長明は名門出身でスポンサーがいた。金持ちが貧乏な恰好で文学を創り出す。貧乏は恰好だけ。これを贅沢貧乏という

足利義教は僧の道淵を使節として、明に朝貢を申し出た。目的は、先進文明と貿易の利を得るための国交回復。総売上の約10%が将軍の取り分で、次々に出航し、帰国する船がもたらした利益は大きかった

・16世紀、ポルトガル船が来て、大いに稼いだ。長い航海、沈没の危険、利息を加算した利益が約10倍だった。それが商行為におけるボロ儲けの限界というところ

・京都や鎌倉の五山禅寺の五山僧は金融業を営んでいた。月利3~5%の利息を取る高利貸し。朝廷は「関銭」(通行税)を免除し、「祠堂銭」(お布施)も保護し、大きく貯まってきたら幕府は五山に集金旅行をしていた。五山こそ日本の経済を実質支配していた

・秀吉は必要に応じて気前よく「金賦」(金配り)をした。人望とは、ある意味、お金に換算できる。ケチくさいだけでは、人はついてこない

・家康は懐紙一枚が風に飛んだら追いかけ、拾い上げて手を拭いた。常日頃の倹約で貯めた金は、家康が死んで尾張徳川家が相続しただけでも、今のお金に換算すると3000億~5000億円

・徳川家光は田畑永代売買禁止令を出したが、農民は田畑を「質入れ」し、「質流し」した。それを手に入れた者が「地主」になった。士農工商のどれにも属さない地主階級は、身分制度を基本に置いた封建制度に矛盾を起こし、封建制度の崩壊につながった

・徳川家が倒れたのは、財政収入をあてにせず、貯め込んだ金を使いつづけ、それを増やそうともしないまま使い果たしてしまったから

・財政再建した徳川吉宗は幕府にとっては「中興の英主」だが、万民にとっては、増税されて、節約を強制されたので、「英主」ではなかった。吉宗の時代は、貧乏ったらしく不景気な時代であった

・江戸時代、金鉱発掘で儲けた大久保長安は、死後、嫉妬がつくり上げたデマがもとで、黄金七十万両を押収され、七人の子供たち全員が切腹させられた。金持ちは、儲けたことを人に知られないようにする技術がなくてはならない

・江戸時代の御家人は「三日勤め」(二日勤めて一日休み)。万年赤字をかかえた彼らは、武士としての見栄をさっさと捨て、たっぷりある暇な時間に、つつじ栽培、傘張り、春慶塗り、鈴虫飼育などのアルバイトをして、必死に働いて生活苦を乗り越えていた

・札差に巨万の富を得させたのは、米の換金手数料によるものではなく、御家人たちの受け取るべき御蔵米を担保にして金を貸し付けた利息

・博多の豪商、島井宗室は、「連絡のない人、人と対立しがちな人、物事にすぐ文句をつける人、心悪く中傷する人、大酒飲み、権力者好き、芸能好きな人、口うるさい人などとは、交際はおろか同席することも避けよ」という家訓を遺している

・加賀の商人、銭屋五兵衛は、大野弁吉などの天才的頭脳を有する技術者に惜しみもなく投資した。それらが、日本の工業国としての礎をつくった。弁吉は「知と銭と閑の三つのもの備われば、一物たりともあらたに究理発明あたわず」と後に、言っている



この本を読む限り、権力と金は、切っても切れない関係で、権力さえ握っていれば、金などはいくらでも手にすることができるようにも思いました。

三権分立の世の中では、露骨にするのは、難しいかもしれませんが、政治が経済を支配するのは、仕方のないことなのかもしれません。

金は「天下」からまわってくるということがよくわかる書です。
[ 2010/10/28 07:27 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)

『「売れる営業」のカバンの中身が見たい!』吉見範一

「売れる営業」のカバンの中身が見たい!―“新規開拓の神様”が明かす必勝ツール34「売れる営業」のカバンの中身が見たい!―“新規開拓の神様”が明かす必勝ツール34
(2007/01)
吉見 範一

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著者の吉見範一氏は、以前に紹介した「奇跡の営業所」の森川滋之氏の師匠に当たる人です。営業は「紙芝居」と考え、数々の実績を上げてきた方です。

今回、紹介するこの本も、「紙芝居」としての営業ツールには、どんなものがあるのか、具体的に掲載されています。

「営業は怖くない、営業は心理科学」と信じるための小道具の数々は参考になります。

この本を読んで、すぐに役に立つと思えた箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・営業ツールがもっているメリット
「営業トークを気にしなくてよい」「客から積極的に質問してもらえる」「売り込みしなくてよい」「何度でも使える」「気持ちに左右されずにすむ」

営業カバンは、「使用するツールがスムーズに取り出せる」「床に置いたとき、そのまま取り出せ、スマートに使える」「客に見せてはいけないものと見せていいものを開くメインのファスナーが2つある」のが必須条件

・用件を切り出すツールとして、「パンフレットの表紙」を切って使う。これを見せて、効果のある客は「商品の必要性にまだ気づいていない客」。これを見せるだけで、断りの数が半減

・ファーストショット(アプローチツールの最初の一打)は、「言葉として知っていても、実際に見たことがない現物」。これを、客の視線に注目し、客が手を伸ばせば受け取れるくらいの距離にスッと差し出す。客が手を伸ばしてくれば、断ることができなくなる

・知られていない商品を売るには、「商品普及図」(担当地区の地図に、導入会社を赤い印で塗る)が効果を発揮する。あまり、客の近くまで持っていかないことがポイント。そうすると、客は身を乗り出してくる

・イントロツールとして、役に立つのが「類似品との対比図」。知らないことを伝えようと思ったら、客が知っていて、かつ売ろうとしている商品と似ているモノから話を始めるようにすればいい

・「ギャップ実感ツール」は、数字だけでは伝わらない「それを使ったらどうなるのか?」の状態を図で表現するもの。ビフォーアフターで違いを一目瞭然にすること

・「紙芝居ツール」とは、1枚1枚、客にワンポイントツールを見せ、営業トークを進めていくもの。客の気をそらす不要な情報がないワンポイントツールは、営業トークに集中できる

・「第三者の言葉ツール」とは、客観的な評価として、客から信用してもらいやすくするもの。これを見せる際には、10枚以上、次々とめくりながら、いっぺんに見せること。客の視線を考えて、クリアファイルを縦に開き、上下2ページで、一つのことを話す

・客からの検討結果の連絡を待つしかない状況を防ぐため、再訪問の理由をあらかじめつくる。そのために役立つのが、「宿題ツール」。客からの質問に、「調べます」と言って、印刷して手渡せる形にした資料。これを用意できれば、再訪問の口実ができる

・「話は元に戻るのですが」と、切りだすと、簡単に元の話に戻れる。そのときには、また「興味引き出しツール」を使う

・新規開拓の営業で、訪問しているときは、近所にある同業他社の話が一番盛り上がる。「ふんふん」としか言ってくれなかった客でも、「それって本当?」という感じで、真剣に聞いてくれる

・小さな会社の営業マンの場合、会社名を知られていないハンデを抱える。それを「会社の地図」を使うことで、かなり克服できる。近所にどんなところがあるのかを話すだけで、「全然知らない会社」が「ちょっとは知っている会社」に変身する

・新しい商品を導入したがらない客には、その商品の売り方がイメージできる「他店舗のユーザー写真集」を見せる。たくさんの店舗を見せることがポイント。店舗の看板、入口、店の名前、所在地を忘れないように明記し、ユーザーの体験談を話すこと

・自社にとって不利な情報をきちんと伝えることで、「この人の言っていることは信用できる」と思ってもらえる

・「契約するかどうかは、あわてて決めなくてもいいのですが」と前置きして、「小さな決断」を促すための「クロージング(買った後)ツール」を使う。その中で使いやすいのが取扱説明書。これで、買った後のイメージをしてもらう



この本は、釣り名人が書いた、釣りの手引き書のように思いました。どんな魚でも、魚の行動や心理を真剣に研究すれば、釣ることができます。

従来の営業の本とは一線を画す、ユニークかつ有益な書です。営業に携わっている方が、この本を手にすれば、営業が苦手と思っていても、成績をすぐに伸ばせるのではないでしょうか。
[ 2010/10/26 07:52 ] 営業の本 | TB(0) | CM(0)

『金持ちが地球を破壊する』エルヴェ・ケンプ

金持ちが地球を破壊する金持ちが地球を破壊する
(2010/01)
エルヴェ ケンプ

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金持ちが地球を破壊するとは、大袈裟なタイトルですが、内容は、世界の貧富の差に関する問題がほとんどです。

日本でも格差問題がずっと議論を呼んでいますが、世界の先進大国でも、概ね、同じような問題が起こっています。

著者は、フランスのジャーナリストで、日刊ル・モンド紙の執筆者です。この世界の貧富構造がどうして生まれたのか、独自の見解で、この著書が構成されています。

この本で、参考になった箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・今、社会的、環境的混乱に直面している人々(西欧の郊外貧困層、アフリカや中国の農民、アメリカの工場で働くメキシコ人労働者、世界中の貧民街住民)には、発言権がない

・フランスの最低保障対象者(1人暮らし約5万円、夫婦約7万円)は120万人に達した。その主たる犠牲者は、一人暮らしの人、父子または母子家庭、そして若年層である

・貧乏人は怠け者ではない。給与生活者という仕事では貧困から身を守ることができない。フランスの首都圏のホームレスの3人に1人は就業者であることが明らかになった

・所得が金銭的な貧困基準以下の人たちに覆いかぶさるのは不安定要因。フランス人の3分の1の2000万人が不安定な状況(全産業最低賃金の1.8倍以下の所得で生活)下で生活している

・日本では、1990年代の初めまで、国民の大半は、自分たちは中流階級に属していると思っていた。この感覚は木っ端微塵に吹っ飛んだ。この時期、金融バブルがはじけるに続き、格差が広がり始め、所得格差が若年層に広がり、中流階級の生活水準は落ちた

・他人より稼ぎが低いのは何とか我慢できる。だが、絶対に追いつけないとなると、これは辛い。社会に流動性が失くなっている

世代間格差という別の格差が生まれ、40歳あるいは50歳以上の成人資産と所得は、それより若い世代よりも断然多い。貧困層は20年前とは違っている

貧困の相対性(金持ちではない。だから貧乏である)は、不平等を減らせば、貧困も減るという大きな意味を持っている。つまり、貧乏を減らすには、金持ちを減らすこと

・貧困な農政が、農地の誤った開発、撲滅、放棄を促進する。農民は、万策尽きて村を棄てる。ところが、都会は幸福が約束された場所ではない。飢えた農民が歩いて行くその先にあるのは、貧しいスラム

・世界はこんにち、19世紀末アメリカの「泥棒男爵」以来、類の見ない貪欲さで、所得と資産と権力を貯め込んだオリガルキー(少数の有力者一家)によって支配されている

・最貧困諸国においては、特権階級は、欧米諸国の特権階級とつながり、国家の上層部を構成している。各国の支配階級は、多国籍企業に天然資源をつかませ、治安を保障する権力と引き換えに、富の世界的争奪戦に参加できるようになった

・世界のオリガルキーは、相続税や固定資産税や、どんな課税もただの形にすぎない租税回避ができる国、タックスヘブンで財産を守ろうとしている。脱税は優れた経営の鉄則の一つになった

・日本では、1990年代に、最高所得税が70%から37%に下がった。さらに小泉首相は、相続税減税も付加した。タックスヘブンは、金持ちに対する課税を引き下げることを国家に示唆するべく圧力をかける有効な手段となっている

・奪略的かつ強欲な支配階級は、金ずくで、権力を悪用し、人類の新たな歩みの障害となって、動こうとしない。何の計画もなく、何の理想にも動かされない彼らは、何のメッセージも発することがない

・上流社会に育った人間にとっては、同類から高く評価されることが一番。金と暇を持て余した階級だけの社会が出来上がり、幅を効かしてくれば、社会の下層部分は体制の外側にはじき出し、見せびらかす相手にさえしなくなる

・アメリカでは囚人の数は、220万人。これより高い数字は、スターリン時代のロシア、毛沢東時代の中国以外ない。住民10万人当たり囚人が738人となり、刑務所は貧困者対策となっている



貧困はなぜ発生しているか、そして、貧困者がどう社会に影響を及ぼしているか、それを食い止めるにはどうすればいいかが、この本に書かれています。

貧しい国の貧困ではなく、豊かな国の貧困は、今後とも世界的に広がっていくように思います。そのことを頭に入れて、どう対処すべきか、日頃から考えておくことが大事ではないでしょうか。
[ 2010/10/25 07:47 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)

『働かないって、ワクワクしない?』アーニー・J.ゼリンスキー

働かないって、ワクワクしない?働かないって、ワクワクしない?
(2003/09/01)
アーニー・J. ゼリンスキー

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著者のアーニー・J・ゼリンスキー氏は、5月~8月は仕事をせず、週4日、1日4~5時間働き、自分自身を犠牲にせず、自分の望みを達成する生き方を実践されているようです。

この本を読む前は、著者のことを胡散臭く感じていましたが、読み進んでいくうちに、著者が、知識人であり、立派な哲学を持ちあわせているように思えてきました。

結構真面目な本です。気休めに読む本ではなく、真剣に読む本かもしれません。

この本の中で、共感できた箇所が20ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・自由時間というのは、汗水たらして働くことから離れた時間である。しかし、自由時間を充実させるためには、汗水をかかなければならない

・かつて、自由時間は滅多に手に入らない贅沢品だった。自由時間がたっぷりある生活は目指すべきゴール

・生活のためならば、楽しくない職場で働くこともやむを得ない。だが、経済的に困っていない人々でも、モラルのためにつまらない職場で長時間働いている

・偉大な人物たちは、クリエイティブな怠け者。リラックスしたり、考えたりするのに、長時間使う

・現代社会が定めた人生の主な目的とは、労働の報酬であるお金を使ってモノを買うこと

仕事中心、金中心の精神構造を捨てないと、幸福のために何が大事かわからなくなる。勤労の美徳のモラルのせいで、私たちは奴隷になっている

・企業のトップは、貪欲で支配力もある「仕事中毒の人」が好き。仕事中毒はアルコール中毒と同じで、深刻な問題を抱えた神経症患者である

・多くの企業は、従業員の意欲を引き出すのは、安定性、給与、年金だけという哲学を持っている。だから、「金銭」「社会」以外の「知性」「身体」「家族」「精神」の分野のニーズは、仕事以外のところで満たさなければならなくなる

・金を稼ぐために嫌いな仕事に時間を費やしていると、人生を楽しむ能力が損なわれる。また、金を稼ぐ能力も損なわれるもの

・成功した人が幸福なのは、自分の使命を持っているから。毎朝、起きるのがつらいなら、自分の使命をまだ見つけていない

・才能を使って、使命を追求していると、副産物が生まれる。お金を稼ぐことも、その副産物の一つ

・安全でリスクのない道を選んだ人々は、退屈という病気に襲われやすい。リスクを冒さないため、達成感、満足感、充足感といった報いを受けることは滅多にない

・人生で最も難しいことの一つは、本当に欲しいものは何かを発見すること。大半の人は本当に何が欲しいかわかっていない

・達成感や満足感は、やりがいや目的ある活動からしか得られない。受動的な活動は、精神の高揚をもたらさない

・創造的な人は、目の前の課題に心身共にのめりこむ。集中力が高く、時間を忘れる。彼らは、瞬間を楽しみ、次に何が来るかを心配しない

・物質主義、仕事中毒、スピード第一に毒された文化のスローガンは「時は金なり」。時間は金では測れない。時間を幸福で測れば、みんな健康になり、幸福になれる。「時は幸福なり

・一人でいることには二つの面がある。暗い方の面は「孤独で寂しい」。明るい方の面は「独りで楽しい」。多くの人が、一人でいることの楽しみを見つけ出せないでいる

・自己実現した人は、自分のアイデンティティの土台を社会的な集団に置いていない。自分の信念と欲求のもとに一人で立ち、他の人々からの批判や反対を受けて立つことができる

・お金は不満足を排除するためには重要な存在であるが、それが幸福や仕事に対する満足感にはつながらない

・いくら稼いでもお金が足りないという人は、おそらく必要がないものにお金を浪費している。なぜ、自分がそんな無駄遣いをして、危ない暮らしをしているのかを明らかにするべき

・リッチになる方が、ハッピーになるよりやさしい。幸せな神経症患者は存在しないが、金持ちの神経症患者はたくさんいる

・臨終の際に、「もっとたくさん働いておけばよかった」と言う人はいない。やり残して後悔することがあるとすれば、それは仕事ではなく、自由時間にやるべき活動である。最も貴重な瞬間は、働いていない時に訪れる



我々は、仕事中心、金中心の社会を生きています。勤労の美徳というモラルに従って、誰かに動かされているように思います。

自由時間こそが「贅沢必需品」であるにもかかわらず、「贅沢不要品」にお金を費やすばかりに、自由時間が手に入らない状況に陥っています。

仕事とはいったい何か。お金とはいったい何か。この答えがわかった人は、この本をすんなり読めるのではないでしょうか。
[ 2010/10/24 07:15 ] ゼリンスキー・本 | TB(0) | CM(0)

『老年の価値』ヘルマン・ヘッセ

老年の価値老年の価値
(2008/06/20)
ヘルマン・ヘッセ

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著者は、言わずと知れた、ヘルマン・ヘッセです。彼の作品は、世界60カ国語に翻訳され、1億2千万部以上発売されています。ノーベル文学賞も受賞しています。

晩年はスイス南部の山村に暮らしました。自我と社会との調和に苦しんだ彼の文学が円熟してきたのがこの時期と言われています。

その時に書かれた、詩やエッセイをまとめたのが、この「老年の価値」です。世界的文学者が、老年をどう考えていたか、知ることができます。

今回、参考になった箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・青春とは、心の中の大人になっても変わることのない子供らしさ。冷静な意識をもった生き方をしながらも、その子供らしさが多ければ多いだけ、より一層豊かに生きることができる

・五十歳になると、人は子供っぽい愚行をしたり、名声や信用を得ようとしたりしなくなる。そして、自分の人生を冷静に回顧し始める。彼は待つことを学ぶ。沈黙することを学ぶ。耳を傾けることを学ぶ。これらのよき賜物を利益と見なすべきである

・愛する友よ、私たちは、美しい知恵甘美な愚かさの両方を手に入れたいと望む。これからも、しばしば共に前進し、共につまずこう。両方とも素晴らしいことではないか

・青年と老年との間に、一本のはっきりした境界線を引くことができる。青年は利己主義をもって終わり、老年は他者のための生活をもって始まる

・数十年来、私にとって不快なことは、第一に、アメリカで盛んになっているような、青春と若々しさの崇拝である。第二に、もっと不快なことは、身分、階級、運動としての青春を設定することである

・世界の歴史は、主に単純な人間と若者によってつくられる。しかし、歴史が平和な時期を持ち続けるためには、反対勢力として、遅滞させること、保守することが常に必要である

・この地上での無限のもののうちで、知ることができるものをできるだけ多く手に入れなくてはならない。年をとるにつれて、いくら知識を得ても満足できないことがあるが、それは一つの素晴らしい欲求

・老境に至って、初めて人は美しいものが稀であることを知り、工場と大砲の間にも花が咲いたり、新聞と相場表の間にも詩が生きていたりすれば、それがどんな奇跡であるかを知るようになる

・英知と私たちの関係は、アキレスと亀の論証のようなもの。英知が常に先行している。それに到達するまでの途中や、それを追いかけることは、それでも素晴らしい道である

・私の友人のうちの大多数の人々は、ほんのしばらくの間、私に対して忠実である。少しの間、私を熱愛して、それから彼らの道を見つけたら、私を忘れてしまう人々であるが、それでよい

・年とった人々の記憶が欠落するのは、脳が重要なものと重要でないものを、ある種選択するからである。脳は型通りの、機械的にすることはすべて忘れてしまう

・疲れているときに、眠ってもよい。長い間背負ってきた重荷を、下ろしてもよい。それは、貴重で素晴らしいことである

・この世を去った人たちは、私たちが生きている間、私たちに生前影響を与えた本質的なものをもって、私たちと共に生き続ける。それどころか、生きている人々よりも、ずっとよく話したり、相談したり、助言を得たりすることができる



この本には、少し難解な詩的表現も多く見られますが、老人の心境が数多く垣間見えます。心境というよりか、若い人への提言かもしれません。

どう生き、どう死んでいくか、答えはそう簡単に見つかるものではありませんが、ヘルマン・ヘッセが到達した域に学ぶのも悪くはないように思います。
[ 2010/10/22 07:05 ] 老後の本 | TB(0) | CM(0)

『人生相談「ニッポン人の悩み」幸せはどこにある?』池田知加

人生相談「ニッポン人の悩み」 幸せはどこにある? (光文社新書)人生相談「ニッポン人の悩み」 幸せはどこにある? (光文社新書)
(2005/03/17)
池田 知加

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明治末から大正時代にかけて始まった、新聞の人生相談を分析した本です。ほぼ100年の日本人の悩みが凝縮されています。

日本人が、何について悩んできたのか、悩みはどう変わってきているのか、悩みに対する答えもどう変わってきているのか、これらを知ることができます。

この本を読んで、興味深く思えた箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・人の悩みは時代に大きく左右される。戦前は、戦争、貧困。戦後間もないころも貧困。最近は、自分の性格、精神状態、そこから派生する人間関係の悩みが多い

・今も昔も同じ悩みがある。大正時代にも登場する「結婚をとるか、仕事をとるかに悩む女性」「困った夫に悩む妻」「自分の容姿」などは繰り返し寄せられている

・悩み事が同じでも、回答者の答えが、時代に応じて変化しているのは、その時代に前提とされていた「幸せ」がそれぞれ違うということ

・人生相談の定番の悩みに、酒、ギャンブル、浮気、暴力といった夫の行状についての悩みがある。夫の行状に嘆きながらも「子供」と「経済的理由」のために、耐えるしかないと、途方にくれている妻の姿は、決して過ぎ去った昔の話ではない

・悩みの区分別では、昭和30年代に比べ、「家族」は減少、「自分自身」は増加、「友人、恋愛関係」は減少、「学校、職場」は増加

・昭和初期に比べ、「罪や恥」が減少、「親子、夫婦」が激減、「病気、性、貧困」が減少、「孤独、性格、精神問題」が増加。個人主義化の趨勢が見られる

・夫に黙って付き添う従順な女性が美しいとされた50年代には、美徳である「従順さ」と同時に、食べていくための「したたかさ」も求められていた。家庭は「生活の安定」を保障する場で、幸せをもたらすものであった

・60年代から70年代にかけて多くの女性が専業主婦になった。食べるためのつらい仕事をする必要はなく、企業戦士の夫のための家事にいそしみ、お金に換え難い子育てに専念する魅力にあふれ、専業主婦は到達すべきゴールでもあった

・人生相談へ悩みをよせる男性は非常に少ない。新聞の人生相談への投稿は、昭和30年代の3割弱から、およそ1割まで減少

・女性が家庭に縛りつけられていたように、男性は仕事に縛りつけられてきた。女性も男性も労働と生産が中心の社会が生み出した犠牲者である

・「身近な世界でなごやかに」「その日その日を楽しく」過ごそうとしていると、身近な他人の視線に対して、異常なほどの神経を払わなければならなくなる

・「個性」とは「他者との違い」であるから、人が個性的であろうとすれば、他者の視線や言動にたえず細心の注意を払うことが要求される

・個性的であることが孤立を生み出すと考えられている限り、個性的であれという規範は、孤立の恐怖と、他者の動向に注意する緊張に満ちた関係を生み出す

・一口に悩むといっても、いろいろな水準がある。「承認」(悩み事そのもの)、「解明」(悩みが生じた原因や解明)、「方法」(悩みの解決方法)、「判断」(行為の選択)、「技術」(解決のための技術的手段)

・最後に決断するのは回答者ではなく自分。自分のことは自分で決める。これが現在の人生相談が到達した地点



この本の中で、昔の悩みほど、笑えるものが多くありました。真面目であればあるほど、不謹慎ですが、笑えてしまいます。悩みなんて、後から考えれば、そんなものかもしれません。

悩みそのものより、悩みを相談するという行為が、人間にとって不可欠なものであるということが、よく理解できる書です。
[ 2010/10/21 07:37 ] 人生の本 | TB(0) | CM(0)

『労働市場改革の経済学』八代尚宏

労働市場改革の経済学労働市場改革の経済学
(2009/11/20)
八代 尚宏

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正社員保護主義の終わりというのが、この本のサブタイトルです。非正社員の問題や格差の問題が、ここ5年ほど論じられてきました。これらは、正社員を保護していたがゆえに、はじき出された人たちの問題でした。

この保護された正社員も、円高、デフレ、不況の波に抵抗しきれなくなるというのが、著者の意見です。

今回、この本の中でためになった箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・政府は、育児休業法等で、女性を男性と同じような働き方に適合させようとしているが、明らかに限界がある。慢性的な長時間労働や頻繁な配置転換、転勤のある男性を、女性の働き方に適合させることが、男性のニーズにも沿った改革となる

・1990年代後半期以降の非正社員比率の急速な高まりは、正社員の賃金が相変わらず高いにもかかわらず、長期停滞によって、稼働率が低下し、生産性が低くなったからである

・1955年には57%と労働者の過半数を占めていた自営業・家族従事者は、1990年には22%まで低下し、2008年には13%まで縮小している。かつての不況期の余剰労働力の受け皿としての機能が大きく低下している

・日本型雇用慣行の「公平」という概念は、あくまで限られた特定企業の正社員の間で通用するもの。大企業と中小企業、正社員と非正社員との間には、類似の業務でも賃金や労働条件の大きな差が生じている。欧米の職種別労働市場と異なるもの

・1800万人もの非正社員をすべて正社員化するという可能性の乏しい政策目標でなく、非正社員の働き方を社会的に認知した上で、その賃金や労働条件の改善のためへの制度改革を進める必要がある

・雇用者の3分の1を超えた非正社員から見れば、仕事能力だけでなく、その「身分」で賃金が決まるという正社員の存在は、不平等な仕組み

・正社員の中でも男性と女性の間には、先進国で最も大きな賃金格差がある。さらに、中高年正社員の年功賃金の保障のために、新卒採用者の雇用が抑制されるなど、世代間の利害対立も生じている

・日本の大企業の経営者のほとんどは、「成功した従業員」であり、事実上の従業員の代表者である。この意味で、日本の労使間には基本的な利益の一致がある

・少子化現象の背後には、女性の就業率の高まりにもかかわらず、結婚した女性が働かないことを暗黙の前提とした雇用慣行との矛盾がある

・専業主婦付き世帯主の正社員の利害だけは重視される日本的雇用慣行を見直し、共働き家族を前提とした社会制度が必要。2008年で、専業主婦の825万世帯に対し、共働き家族は1011万世帯になっており、今後この差はいっそう広まる

・専業主婦を持つ世帯主へのさまざまな保護措置は、働く女性が一般的になっている中で、不公平だけでなく、高齢化社会で貴重な労働力としての女性の就業を妨げる非効率な制度となっている

日本の雇用保険は、失業リスクの小さい正社員を前提としている。賃金が高く、勤続年数が長いほど、より多くの失業給付を受け取る仕組みだが、本来の失業給付は、報酬比例年金のような仕組みではなく、失業のリスクを分散する医療保険のような形態が望ましい



ここで提言されていることは、誰もが感じている、もっともなことばかりです。「官僚とその妻」が得する仕組みを欲深く放置しているがために、起きている問題です。ここを政治的に解決しない以上、この問題は永遠に続きます。

中小企業」で「非正社員」として働く「共働き」の「若年」家族が、「公務員」および「大企業」で働く「専業主婦」付きの「中高年」「正社員」家族に、搾取されている実態がよくわかる本です。
[ 2010/10/19 06:55 ] 仕事の本 | TB(0) | CM(0)

『グルメの嘘』友里征耶

グルメの嘘 (新潮新書)グルメの嘘 (新潮新書)
(2009/11)
友里 征耶

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食のブームが続いています。私も、安くておいしい(価格に対して価値がある)ものを日々探し求めています。

安くておいしいものを提供する店は、経験則では、店の内装にお金をかけない、宣伝しない、立地も良くない、1店舗しかない、地元客が多く観光客が少ない、若い客が少ない、味付けが薄いといったような店です。

著者も、コストパフォーマンスにこだわり、食べ歩かれています。その心意気と執念に脱帽します。

また、この本は、世の中のグルメブームに対して警笛を鳴らす内容になっています。興味深く読めた箇所が20ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・マグロに限らず、質の良い魚は限られた仲卸にしか集まらない。その仲卸は、限られた店や料理人にしか品物を卸さない。すでにルートが決まっているから、そのシンジケートに入らなければ、本当に質の良い食材を適正価格で仕入れられない。この世界は甘くない

・「一人でも多くの人に自分の料理を味わってもらいたい」。ちょっと人気が出てきて、調子に乗って支店を出すオーナー・シェフがよく吐く、上っ面だけの台詞

・本当にカリスマ漁師の釣った魚は日本一なのか。そう騒いでいる日本酒関係者やヨイショ・ライターたちが、全国の高質魚を食べ比べて判断しているとは思えない

・料理専門誌の編集者たちが「取材」という名目のもと、店に支払をしていないのはこの業界では常識。彼ら取材陣が写真撮影に時間を費やした後、冷めた料理に口をつけていないのも常識

・まだ若い料理人を担ぎ上げて、勘違いさせてしまうのもヨイショ・ライターの罪。30歳前後、人生始まったばかりの料理人のサクセスストーリーを出版してしまうのはいかがなものか

・引退したサッカー選手を「世界のセレブ」にでっち上げたマネジメント会社が、あるパティシエの売り出しに成功した例もあった。美談、お涙頂戴のサクセス・ストーリーは矛盾だらけだが、この手の話に弱い日本人の急所を突いた戦略の勝利

・料理人の「食経験」をチェックすること。好奇心旺盛で、暇さえあれば、ジャンルを問わず、他店を食べ歩いている料理人ならいい

・放送作家など業界人が絶賛して集まる店は、高級食材を濃い味付けで出すことに慣れ切った店。「食通」には、評価されなくなる道を辿る

・世に「美味しくない店」「コストパフォーマンスの悪い店」が多く存在するのは、食材の「質」と調理の「手間暇」を惜しむ店が多いから

・再開発ビル(六本木ヒルズなど)の地代が高いのは常識。家賃を抑える代わりに、売上のピンハネを要求される。昼夜合わせて2回転が限界の高級店では、座るだけで客にかかる金額が数千円になってしまう

・再開発ビルのテナントという厳しい条件で、利益を上げようとしたら、食材の質、調理の手間暇、サービスの質、客単価をいじらざるを得ない。再開発ビル以外の店に比べて、大きなハンデを背負うことになる

・賞味期限の切れた再開発ビルを歩いているのは、オフィスに勤務している人と観光客(中国人が多い)くらい

・大手デベロッパーは再開発ビルを建て、純真無垢な飲食店をテナントに引き入れようと口説く。「犠牲者」をこれ以上増やさないよう、テナントの勧誘をやめるべき。この業界には反省という言葉がない

・海外三つ星シェフの提携店に、コストパフォーマンスの良い店、美味しい店はない。実態は、有名シェフが経営している店ではない。有名シェフは、売上のロイヤリティをもらい、舐めきった姿勢で日本に進出しているだけ

・階級制度のない日本では、見栄を張る人が非常に多い。一番安い「梅」は「竹」を設定するために、わざわざ捻出したもの。店としては「竹」の客単価で利益計算している。見栄を捨てることができれば「梅」で充分

・化学調味料に敏感な舌を養うためには、出汁など出来合い調味料を一切使用しないで味わい続け、インスタントラーメンやジャンクフードを封印すればよい

・口コミのグルメサイトもいい加減。飲食店と提携していながら、素人をタダで利用して店宣伝の書き込みをさせ、利益を上げている。飲食店業界からお金を集めるビジネスモデルのサイトはよくない

・見る客は見ている。料理で利益を上げることが前提。酒類の儲けを重視しない営業方針は、生き残るための有効な方針

マスコミ露出は諸刃の剣。ミーハー客や一見客が増え、常連客や外食好きが離れる可能性が高い。しかもその効力の期間は限定的で持続性がない



店の儲けと料理人の志を同時に実現するためには、味のわかる常連固定客を過半数確保しながら、利益確保のための一見客を上手く活用することではないでしょうか。

そして、一見客が来ようが来まいが、関係ない経営を行い、常連固定客の厳しい声だけを聞き続けていたら、店の質は落ちません。それが商売を長く続ける秘訣に思います。

著者も、この本で、味のわかる常連客の声をないがしろにして、マスコミや有名人の意見に踊らされることのつまらなさを一番伝えたかったのではないでしょうか。

商売の本質、世の中の実態を飲食店を通して教えてくれる、手厳しいが貴重な書だと思います。
[ 2010/10/18 08:22 ] 仕事の本 | TB(0) | CM(2)

『ナイチンゲール言葉集-看護への遺産』薄井坦子

ナイチンゲール言葉集―看護への遺産 (現代社白鳳選書 (16))ナイチンゲール言葉集―看護への遺産 (現代社白鳳選書 (16))
(1995/07)
ナイチンゲール薄井 坦子

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ナイチンゲールは有名です。看護師の鏡のような存在です。教科書で習った程度は知っていますが、彼女が、どんな思想、哲学を持っていたのか全く知りませんでした。

歴史上に名を残した人たちが、どんな考え方をしていたのか、最近興味があります。

この本には、ナイチンゲールの思想が、実によく表れています。面白かった箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・どのような訓練を受けたとしても、「感じること」と「自分でものを考えること」の二つが会得できなければ、その訓練も無用のものとなってしまう

・私たちは知識だけでなく実践を必要としている。何かを「知る」のはそれを「行う」ことによる。イタリアの有名な格言によれば、「人はその行いの分に従って知る」のであって、その行い以上に知ることはない

・私たちは、生涯をとおして、他者に命令を与える同じ分だけ他者に従わなければならない

・他人を統率するには、まず自分自身を統率すること。自分の面倒をみきれないで、他人の世話のできるはずがない

・ほとんど気づかれもせず、押しつけもない権威こそ、最も完璧な権威

・自分がどんなふうに見えるか、他人にどんな影響を及ぼしているか、自分のことを他人がどう思いどう評しているかなど、そんなことばかりを考えている人が、他人を監督するなど思いもよらないこと

・制度というのは、可能なところはできるだけ画一的にしておいて、その中で各人に少しずつ自由をもたせるのが最もよい。しかし、画一的な制度を作る事を急いではならない。ともかく時間をかけること

・明確な目的は実現していかなければならないが、その目的を実現していくための道は、大いに発見していかなくてはならない

・まず小さなこと、より反対の少ないことから手がけて、段階的に導入していき、それが神の思し召しにかなうならば、さらに残りの部分にも手をつけていくという方法をとるほうがよい

・目が病んでいれば誤ってものを見る。理性、感情を病んでいれば間違って判断したり感じたりする。われわれは情報の出所を健全な状態に保つように配慮しなければならない

・現在あるものを最大に利用し享受していく人々と、さらに良い何ものかを求め創り出そうと試みる人々の二群の人々がいないと社会はうまくいかない

・根底に不撓の原理をもつこと。寄って立つ土台を据えておかない限り、細部のことをいくら積み上げてみても、ほとんど何の役にも立たない

鎖の強さはその中の最も弱い環によって決まる。それゆえに環のひとつひとつが大切になる

・進歩というのはあくまで次の進歩への一歩。そうでない限り、それは進歩どころか退歩していることにもなりかねない

・大きな愛とは、不善なる人にも善を行い、つらく当たる人にも好意をもって接し、侮辱を受けたとき、ひどく傷つけられたときでも、相手をその場で許すこと



ナイチンゲールは看護学校の創設者だけあって、教育者としての人材育成の言葉は、含蓄のあるものばかりです。

すごく論理的で、理知的で、男性的な感じがします。新たな分野を切り開いていく人は、強い意志がないといけないのかもしれません。

教育やサービスに従事されている方には、おすすめできる書です。
[ 2010/10/15 07:58 ] 偉人の本 | TB(0) | CM(0)

『デンマークの高齢者が世界一幸せなわけ』澤渡夏代ブラント

デンマークの高齢者が世界一幸せなわけデンマークの高齢者が世界一幸せなわけ
(2009/03)
澤渡 夏代ブラント

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デンマークに関する本は「なぜデンマーク人が幸福な国をつくることに成功したのか」に次いで2冊目です。9年前にスウェーデンとデンマークを訪れてから、北欧のことが気になり、北欧の本やテレビ番組などを見て、北欧にハマっています。

北欧は、政治、社会制度、国民の考え方など、いろいろな面で、先端を走っており、参考になります。

今回、現地に住む、澤渡夏代ブラントさんの著書を読み、さらに勉強になった箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・デンマークが「幸福度世界一」と言われる背景には、女性たち、若者たち、労働者たちが「自分が住みたい社会」づくりに声をあげ、貢献してきた積み重ねがあった

・デンマークが住みやすいのは、「私らしく生活できる」から。「自分勝手」や「自己中心的」ということではなく、すべての社会政策が「人」を中心にして生まれ、実施されているから

・「65歳を待たずに早めに退職し、第三の人生をエンジョイしよう」という制度は、5年も早く退職でき、生活が保障されるという願ってもない制度で、国民に大歓迎されている

・デンマーク人にとって、仕事は「生きる糧」であり、家族は「生きる源」。雇用者も被雇用者が幸せな家庭を営めば、結果的にいい仕事に反映できるというコンセンサスがある

・デンマークの若者は自立できる条件が整備されている。18歳以上で教育を受ける者には、返済義務のない学生援助金という生活費が(学生寮費、食費、交通費、通信費など)される。もちろん、小学校から大学までの教育費は公費で賄われる

・現在のデンマークの生活文化では、「家督を継ぐ」という意識も「家系の相続」もなくなり、親子であっても、親が他界した後に、その家を引き継いで住むケースは稀

・デンマークでは、最近の高齢者福祉のスローガンとして、「できるだけ長く自分の家で」から「適時に適所な住宅へ」に政策転換してきている

・60歳以上の7割の人が、60歳以上になってから住居を替えている

・市会議員の手当ては月に約22万円。そのうち半分は納税し、さらに党費も払う。議員の手当だけでは生活できない。議員は基本的にボランティア。議会は夜に開かれる

・年金(国民年金基本額と年金付加金の合計)の月額は、独身の場合、約24万円。既婚者の場合、約17万円。これは、他からの収入がない人が受給できる満額。他に収入があれば減額される

・デンマークの福祉スタッフの役目は「自助を援助」すること。すぐには、手を貸さずに「見守る」。「ちょっと助けて」と頼まれれば、すぐにアクションを起こすのがデンマーク流

・デンマークは「幸福度世界一」(2005オランダ調査)「世界一幸せな国」(2006英国大学調査)「世界一格差のない国」(2008OECD)「高齢になるほど幸福度が増す国」(2008オックスフォード大学調査)と立て続けに世界一になっている

・この世界一は、「自分らしく生きることができる国」で、同時に「安心できる社会」が要因と思われる

・日本は「経済がよくなれば人々の生活が豊かになる」と言うが、デンマークでは「生活が豊かならば、いい仕事につながり、経済がよくなる」という考えで社会が改善されてきた

・デンマークが成し得た社会づくりが日本で実現するには、「ある人がない人に分配する」ことができるかが鍵。デンマークは「あり過ぎる人も少ないが、少なすぎる人も少ない」社会



この本にあるような北欧の生活を、日本の友人などに話すのですが、なかなかピンと来てくれず、歯がゆい思いをしています。

日本は島国のせいか、モノには関心を示しますが、海外のしくみ、制度、システムなど目に見えないものには、全く関心を示しません。

日本の幸福度レベルがアップするには、時間がかかりそうです。仕方のないことですが、少し悲しくもなります。

[ 2010/10/14 07:23 ] 北欧の本 | TB(0) | CM(0)

『クリエイティブ都市経済論-地域活性化の条件』リチャード・フロリダ

クリエイティブ都市経済論―地域活性化の条件クリエイティブ都市経済論―地域活性化の条件
(2010/01/10)
リチャード フロリダ

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リチャード・フロリダ氏の本は、「クリエイティブ資本論」に次ぎ、2冊目です。

この都市経済論では、資本論に比べ、より具体的に、クリエイティブな人々が、どんな都市に住みたがるか、都市にとってどんな効果がもたらされるかということに言及されています。

アメリカで起きている事実が、着々と日本でも起きてきているように思います。これから、魅力ある都市とはどんなところか、この本によって、知ることができます。

この本の中で、興味深かった箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・クリエイティビティの新しい地理学とその経済効果を理解する鍵は「経済成長の3つのT」。技術(テクノロジー)、才能(タレント)、寛容(トレランス)の3つの概念である

・才能は多様性指標の高い場所に強く結びついている。アーティスト、ミュージシャン、ゲイ、その他のクリエイティブ・クラスの人々は、一般的に、開放的で多様性のある地域を好む

・「イノベーション」と「ハイテク産業」が「クリエイティブ・クラス」と「才能」の立地に深く結びついている。ハイテク地域の上位のほとんどが「クリエイティブ・クラス地域」の上位に入っている

・「移入者(移民)」の多さは、「ハイテク産業」と関係している。外国生まれ人口の割合とハイテク成功との間の相関は極めて高い

・ボヘミアン(作家、デザイナー、ミュージシャン、俳優、ディレクター、画家、彫刻家、写真家、ダンサーなど)指数が高い都市は、「ハイテク」基盤だけでなく、人口成長、雇用成長も高い都市

クリエイティブ経済では、環境の質は、才能を引き付ける前提条件として重要。環境は、経済的競争力、生活の質(QOL)、才能の吸引力を高める

オールド経済では、企業の立地決定こそが地域経済の原動力であり、人間の立地決定は、企業の立地決定に従うものであった。クリエイティブ経済の到来は、この立地を劇的に転換する

・若いクリエイティブ・ワーカーは、地下鉄やLRTといった大量公共交通機関を、より広い範囲の地域へ行く移動交通手段として好んでいる。それらがあるところを居住・就業地を選ぶ上で重要と見ている

・水辺は、高アメニティ地域にとって共通の重要要素。もっとも成功しているハイテク都市のうち、いくつかは水系の近くに立地し、水系の資源をうまく戦略的に利用し、環境の質を高め、レクリエーションや交通の機会を増やしている

・大学は、クリエイティブ経済を構成するインフラ。才能を生みだし、生かすメカニズムを提供する母体。イノベーションを生み出すだけでなく、創造の力によって、経済を増幅させる

・日本の社会は、ブルーカラーのクリエイティビティを引き出すシステムは最高だが、ホワイトカラーのクリエイティビティを引き出せない

・現在のアメリカは、ワーキングクラス(3300万人)クリエイティブクラス(3800万人)サービスクラス(5500万人)。クリエイティブクラスが多い都市がサービスクラスも多く、経済的にも成長している

・全米で急激な経済成長を記録する都市のほとんどが、数万人~30万人の中小都市であり、巨大な大学を抱え、大学関連人口比率が数割に達し、教育の外部効果が非常に発揮されている都市

・21世紀の経済社会は、「A.少数の富裕層とそれに隷属する低次サービス業就業者からなる二極分化社会」「B.多くの人がクリエイティブクラスになり、機械化省力化の恩恵を受ける人間活用社会」の可能性。Bへの誘導は、社会を「大学習社会」にする必要がある



リチャード・フロリダ氏が言う、これから伸びる都市は、「環境の質」「大学」「芸術家クリエイター」が大きな要因になります。

日本は、官僚社会の弊害で、いまだに東京一極集中が進み、遅れた社会構造になっています。しかし、著者が言うところの芽は出てきていると思います。長いスパンで見た、伸びる都市は、日本でも同じになるような気がします。

『「お客様」がやかましい』森真一

「お客様」がやかましい (ちくまプリマー新書)「お客様」がやかましい (ちくまプリマー新書)
(2010/02/10)
森 真一

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私は、「お客様」という言葉が嫌いで、文章を書く時は、「客」に統一しています。客と店は対等なはずです。お客様は神様ですという言葉の裏を想像すると気持ち悪くなります。

嫌な客が相手なら、売らない権利高く売る権利があるのが商売です。ところが、今の日本では、
1.小売サービス業の競争が激しくなった
2.個人商店が減り、販売員のパート化とマニュアル化が進んだ
3.デフレが長期化し、売上が減った

これらの要因で、客を「お客様」と持ち上げざるを得ず、その「お客様」がますます高慢になっています。今は「お客様天国」の時代です。

この本は、まさに、この現象に切り込んだ1冊です。鋭い観察力で、「お客様」をえぐり出す書です。

著者の本は、「かまわれたい人々」に次ぎ2冊目です。この本も、面白く読めました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・生徒もお客様扱い。学生をお客様、授業を商品と呼ぶ大学もある。このように、お客様化が広がり、とうとう医療も「患者様」と呼ぶようになってきた

・近所でも会社でも、私を認めてくれない。「お客様」になると、努力しなくても「私を認めてくれる関係」が手に入る。日本で「お客様化」が浸透していった時期と、会社で「ギスギスした職場」が広がり始めた時期は重なる

・グレードの高いホテルの戦略は「重要だと思われたい」「重要人物のように扱われたい」という客の気持ちに照準をあわせる。その戦略に、客は騙されているわけではない。むしろ、客もその戦略を意識した上で、そのサービスを買いに行く

・「お客様」は、「常連と認められたい」「貴重な苦情を言ってやっている」という意識で、暴力的になる

・「お客様社会」では、客の欲望は神聖化される。欲望を満たすことは「よいこと」であり、「正しい」こととみなされる。他方、不満を感じさせることは「悪いこと」であり、「不正なこと」とみなされる

・かつてのスーパーは職人主導。それがチェーン展開や効率化により、「お客様」中心のサービスを実施することで、スーパーから職人は追放される。代わって、マニュアル主導になった

・分業を嫌い、「芸術品」にこだわる職人が業務の主導権を握ると、大量の客を効率的にさばけなくなり、業務が流れ作業とならず、非効率になる

・企業にとって理想的な従業員はロボット。ロボットなら、最初にインプットしたプログラムどおりに働いてくれる

・店員は、マニュアルにがんじがらめにされている。「お客様」は店員の人格を否定し、傷つけるようなことを平気で言う。「ありがとう」の一言もない。そういう相手に、笑顔をふりまき、頭を下げることは屈辱

・職人の作品の真価を理解できるのは、同じ職人仲間や弟子、目や舌の肥えた一部の客だけ。少しでも新しい点や違いを出す努力に精力を傾け、客はその点を評価し、味わう。その価値がわかる人だけを相手にしたいというのが職人の願望

貧乏でもいいから、違いのわかる客だけに来てほしいと考えている職人は、プライド問題は起こらない。少しでも収入を増やしたいと考える職人の場合、客を選ぶことができないので、プライド問題が起きる

・お客様社会は、「しろうと優位」「アマチュア中心」の社会。この社会で生きていく以上、職人は、「儲けず、認められず」という方針でも立てない限り、イライラする毎日を過ごすことになる

・人様にマニュアルを与えられることをひたすら待っている人に共通する行動原理は、「自由にしたい」ではなくて、「何もしなくても、まあ何とかしてもらえる」である

不満を排除すればするほど、かえって不満を持ちやすくなるのが人間。それなのに、不満が出れば、「またその不満を排除すればいい」「努力が足りない」と言われる

・みんなで首を絞めあい、能力を絞り出しあっているのに、結果として、働く人の生活ではなく、一部の企業トップや株主、官僚の利益と生活を守ることにつながっている。努力の程度を緩めてもいい

拝金主義者にとって、お金は絶対的価値。彼らにとって、同一金額は同一価値。だから、同じ料金をとる以上、客によってサービスの質と量に差がつくのは許せない。そこで、店は、メニュー化、システム化せざるを得ない



このままの社会情勢が続くと、さらに、「お客様」がどの分野にもはびこるようになり、芸術家、宗教家、学者までもが、「お客様」に頭を下げないといけなくなるかもしれません。

権力を持った「お客様」に、どう付き合い、どう対処すべきか、これからの大きな問題です。この本を読んで、これからの「お客様」を理解して、対処の方法を考えておくべきかもしれません。
[ 2010/10/11 08:04 ] 森真一・本 | TB(0) | CM(0)

『日本史「名言名句」総覧』別冊歴史読本

日本史「名言名句」総覧 (別冊歴史読本―事典シリーズ (14))日本史「名言名句」総覧 (別冊歴史読本―事典シリーズ (14))
(1999/04)
不明

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10年前に買ったお気に入りの本です。名言名句、ことわざ、家訓がてんこ盛りの書です。よくここまで集めたなと、その執念に驚かされます。

この本の1万に及ぶ珠玉の言葉から、金と欲に関するものを中心に、自分の好みのものを15ほど選びました。「本のごく一部」ですが、紹介したいと思います。



・人間は欲に手足の付いたるものぞかし(井原西鶴『諸艶大鑑』)

・金持は金遣はず、髪結我が髪結はず、風呂焚きは垢だらけ、医者の不養生、坊主の不信心、昔よりして然り(平賀源内『風流志道軒伝』)

・世の中に何が卑しいといって、人の為人の為といいつつ、自分の欲を掻く位卑しい事はあるまい(伊藤左千夫『独語録』)

・金がないから何も出来ないという人間は、金があっても何も出来ない人間である(小林一三)

・人間の力量一ぱいの給料を取ると弱くなるよ、況んやそれ以上を取るに及んでは大ていのものが堕落する(堺利彦)

・人間はね、自分が困らない程度内で、なるべく人に親切がしてみたいものだ(夏目漱石)

・自由と我儘との界は、他人の妨げをなすとなさざるとの間なり(福沢諭吉)

・人生を幸福にするためには、日常の瑣事をなさなければならぬ(芥川龍之介『侏儒の言葉』)

・万の事は頼むべからず。愚かなる人は、ふかく物を頼むゆゑに怨み怒る事あり(吉田兼好『徒然草』)

・借金しようが、泥棒しようが、一生涯にたくさん金を費っちまった奴が、やはり金持ちと呼ばれるべきでしょう。百万の富を抱いても、一生涯に少ししか費わなかったら、これは問題なく貧乏人です(井上靖『氷壁』)

・魚は招いてくるものではなく、くるときには向こうから勝手にやってくるものである。だから魚を獲ろうと思えば、常平生からちゃんと網の用意をしておかねばならない(岩崎弥太郎)

・下足番を命じられたら、日本一の下足番になってみろ。そうしたら、誰も君を下足番にしておかぬ(小林一三)

・よき友をもとむべきは、手習、学文の友なり。悪友をのぞくべきは、碁、将棋、笛、尺八の友なり。これは知らずとも恥にはならず(北条早雲『早雲寺殿二十一箇条』)

・戦いは五分の勝利ともって上となし、七分を中となし、十分をもって下となす。五分は励みを生じ、七分は怠りを生じ、十分は驕りを生ず(武田信玄)

・売る前のお世辞より売った後の奉仕、これこそ永久の客を作る(松下幸之助『商売戦術三十カ条』)



この本には、まだまだ面白い名言名句が目白押しです。人間のやることは古今東西、何ら変わりません。そういう意味で、先人たちの名語録に触れることは大事ではないでしょうか。

名言名句の意味を咀嚼しながら、老後を徐々に迎えるのが、私の夢です。この本は、座右の書になる1冊です。
[ 2010/10/08 07:49 ] 偉人の本 | TB(0) | CM(1)

『純金争奪時代・金に群がる投資家たちの思惑』亀井幸一郎

純金争奪時代  金に群がる投資家たちの思惑  角川SSC新書純金争奪時代 金に群がる投資家たちの思惑 角川SSC新書
(2010/03/10)
亀井 幸一郎

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中国、インドの経済発展などで、金が最高値を更新しています。数年前から、金を買いたいと思い続けていたのですが、高値を更新するので手を出せませんでした。150gほどありますが、それ止まりです。

そういうことで、金は気になる存在です。著者の亀井幸一郎氏は、金属貴金属アナリストで、金市場のマーケット分析の第一人者です。

金に関心がない方のほうが多いと思いますが、金から世界経済がよく見えます。世界経済を見渡す上で、金価格を予測することは、大切なことだと考えています。

今回、この本を読んで、勉強になった箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・アメリカでは、金の買付業者が女性主催者を募り、自宅に友人知人を招き、参加者のネックレスや指輪などの金製品をその場で買い取る「ゴールドパーティー」が大流行。買取価格は市場の6割~8割。主催者には総額の1割の手数料が支払われる

・ある業者は、買い取った金製品をコンテナに入れて、シンガポールの中継地区に送る。そこからスイスなどの最終目的地に再送される。日本人が保有していた金アクセサリー類は、海外の精錬所で精錬されて金塊に戻る

金のリサイクルの量が毎年増えており、2008年のリサイクル量は世界で1217tと過去最高を記録。2009年には1549tとさらに記録を更新する見込み

・ドイツでも金に注目が集まっている。自動販売機で純金が買えるユニークな商売が出現した

インドの嫁入り道具の代表は22金のネックレス、腕輪、イヤリング。一度に買えないので、独身時代から少しずつ買いためる。親も娘のために金製品を買いそろえていく。文字通り「持参金」。5月、10月のインドの婚礼シーズン前は世界の金価格が値上がりする

・ドルの「将来価値への懸念」で、国境を超えて持ち運びでき、どこでも通用する資産として、それ自体に価値のある金を買い始めた。これが金価格の1000ドル超えの原動力

・金は商品であり、国が発行する通貨ではないが、世界中で等しく価値を認められているので、通貨の代わりに使われた時代がある。金には「商品」と「通貨」の二つの顔がある

・「商品」の金には、素材の側面と投資対象の側面がある。つまり、宝飾需要投資需要の二つがある。その割合は、金需要全体のうち、宝飾需要45%、投資需要46%

金価格と株価は、一方が上がれば、一方が下がる関係。ニューヨーク株式市場の株価とは、逆相関になりやすい

・2008年のデータでは、産金コストの平均値は585ドル、2000年は238ドルだった。金の最低価格は、鉱山会社が金を採掘する際の産金コストを見ればいい

・金価格が1000ドル台に乗る過程で、金の需要は宝飾から投資へシフトしていった。2009年の第1四半期では、宝飾需要24%減、工業用需要31%減、投資需要248%増

・中国は、いつまでも人民元の国際デビューを拒み続けられない。中国政府は切り上げのタイミングを計っている。金の保有量を増やしている背景には、ドルやユーロと基軸通貨の地位を争う時代に向けて、ふさわしい量の金を保有したいという判断が働いている

・中央銀行は利上げしてインフレを退治しようと試みるが、金利を引き上げすぎて自律回復している経済は壊したくない。その結果、金利引き上げは後手後手に回り、インフレが加速する。結果、おカネの価値が下がり、インフレに強い金が再び買われるようになる

・金価格は原油価格によってつくり出されるインフレに連動する。省エネ対策が進んだ今は、原油の消費量を抑えることができるので、インフレは生じにくく、金価格も上がりにくい



金は商品ですから、金利がつきません。それなのに、投資需要が多いというのは、金が世界中から信頼されると同時に、世界中の欲望を吸収している証拠です。

人間の欲の塊金の塊という形になっていることを思うと面白いものです。

金を勉強しておくことが、投資の目を大きく見開かせ、光り輝く未来につながるかもしれません
[ 2010/10/07 06:53 ] 投資の本 | TB(0) | CM(0)

『自己プロデュース力』島田紳助

自己プロデュース力 (ヨシモトブックス)自己プロデュース力 (ヨシモトブックス)
(2009/09/01)
島田 紳助

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この本は、島田紳助さんが、NSC(吉本総合芸能学院)で、お笑い芸人志望の若者たちに、一度だけ講演されたのをおさめたものです。

お笑い界で、私が人間国宝として認定できるのは、故人を除けば、立川談志、上岡龍太郎、上沼恵美子、ビートたけし、明石家さんま、島田紳助、松本人志(敬称略)だけだと思っています。つまり、天才です。

話芸の天才で、現役でバリバリに活躍する人物が、経験して、努力して、成功してきたことを緻密な分析を交え、語る内容なので、面白くないわけがありません。

この本を読んで、ためになった箇所が25ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・漫才に教科書がない。だからこそ、この世界に入った時、自分で教科書を作ろうと思った。「これで勉強したら、絶対売れる」という教科書を

・勝てない現場には行かなかった。いいネタができていない、自分たちがウケる客層ではない、そういう現場に行って、他のコンビと戦って負けるくらいだったら行かない方がまし

・売れ出すと、劇場にキャーキャー言う女の子が詰めかけるが、実はこれが邪魔。「こいつらが俺らをダメにする。笑わすことは簡単やから、こいつらを笑わしにかかってしまう。その時、俺たちが終わる」と相方によく言っていた

・漫才をやる時は、目の前に座っている女の子ではなくて、カメラのレンズの向こうにいて、コタツに入ってテレビを観ている兄ちゃんを笑わせにかかること

・「X+Y」でものを考える。「X」は自分の能力。自分は何ができるか、自分自身と向き合って必死に探すしかない。「Y」は世の流れ。これまでと今で、これからどう変わっていくか、研究するとわかる。この「X」と「Y」がわかった時、初めて悩めばいい

・一発屋は、何も考えずにやれることをやる。それが「X」。すると、たまたま「Y」から「X」にぶつかる。衝撃はあるが、これで終わり。「Y」はすぐに動くから、もって2、3年がいいところ。売れ続けるためには、動く「Y」に合わせ、「X」を変化する必要がある

・オリンピックの体操選手は、体脂肪率4%。体操するための筋肉しかつけない。余計な筋トレはしない。お笑いタレントもそうでないといけない。無駄な練習はいらない。無駄な筋肉がついてしまうから

・客が信じていないネタふりにオチをつけても笑いは起きない。どうしたら信じてくれるか?それは、必死に伝えるしかない。その必死さにリアリティのある一言をプラスすると、人は信用する

・正統派では勝てない。人気者にもなれない。どうしたらいいか?「そうだ、悪役だ」と閃いた

・ネタはパクらないで、システムをパクる。タレントはネタが面白くてもダメ。人が面白いと思われないといけない。いいネタに出会うなんて、何年かに1回。絶えずいいネタはできない

・詳しい一分野一箇所を増やしていく。三百年生きられるなら、いろんなことを勉強するが、そんなことしていたら、いつまでたっても売れない。賢くなる必要はない。賢いと違うかな?と思われたらいい。ただし、嘘はいけない。嘘はすぐばれる

・実際に体験して「心」で記憶する。本を読んで、「頭」で記憶しただけでは、すぐボロが出る。「頭」で記憶したことはすぐ忘れる。「心」で記憶したことは一生忘れない

心で記憶するコツは、いつも「感じ」られるよう、心を敏感にすること。感情の起伏が激しくないといけない

・「遊ぶ」というのは、色々なものに興味を持って、ウロウロし、ヘンな奴でいること。25年前、偶然見た椎茸ビニール栽培のおじさんを1時間質問攻めした。今でも、椎茸のグラム当り値段、天然物の菌の打ち方、栽培法を喋られる。これも「心」で覚えた知識

・人が知っていることは知る必要がない。時間の無駄。誰でもできることは誰かに頼んだらいい。誰にもできないことをしないといけない。知識のドーナツ化を目指すこと。誰でも知っている真ん中は要らない

・「心」で記憶したことを喋ると、映像が見える。上手い喋り手が話しているのを「うん、うん」と聞いている人は、耳で聞いているのではなくて、同じ映像を見ている。「脳」で記憶したことを喋っても映像は見えてこない、同じ映像を見ているから、人は共感する

・ストリップを心のどこかで見下している。彼女たちは、脚を開いてすべてを見せる。たまに行くと、「すごいなあ、明日から頑張ろう」と思う。「恥ずかしい」「格好悪い」とか言ってはいけない。あそこに同じ舞台人としての原点がある

・誰でも頑張って「5の努力」をすれば、「5の筋力」を得ることができる。それを得ることができれば、この世界が駄目でも、他の世界で、絶対に成功できる

・自分の中で「能力が高いから」成功したと思う自分と、「たまたま、ツイていたから」と思う自分が闘っている。だから、自分の能力を自分の中で証明するために店をやっている。当った店を増やすのは簡単だが、それでは意味がない。次は違った店を出し、成功させる

・外へ発信するのは売れてから。まずは内側へ発信しなくてはいけない。意識すべきなのは、客でも、他のコンビでもなくて審査員。審査員の心を動かさないといけない

・笑いというのはローリング。ネタを進めていくうちに、雪玉が転がって大きくなるように、笑いも大きくなっていくもの。だから、それぞれのネタが同じ大きさの面白さではいけない。段々大きくなっていくこと

・仲間と一緒にいるメリットは、モチベーションが高まるということだけ。この世界、売れる奴の方が少ないから、それ以上一緒にいたら、傷口を舐め合うだけ。仲間といるのは、夢を語る時間だけ。「頑張ろうな」と言い合える時間だけ。その後は、個々解散

・いろいろなところへ行って、いろいろな人を見る、聞く、喋る。この世界に友達をつくりに来たのではないはず、勝つために来たはず。友達だったら、地元に帰ればいっぱいいる



著者は、無駄な努力を否定する努力家。つまり、努力の最高レベルを追求した努力家であるから、大成功したのだと思います。

努力の最高レベルを追求する努力家は、どの世界に行っても通用します。ということは、この本は、どの世界の人が読んでも、成功できるノウハウが書かれている本ということになります。非常にためになりました。
[ 2010/10/05 07:20 ] 出世の本 | TB(0) | CM(0)

『偶然をチャンスに変える生き方』諸富祥彦

偶然をチャンスに変える生き方―最新キャリア心理学に学ぶ「幸運」を引き寄せる知恵偶然をチャンスに変える生き方―最新キャリア心理学に学ぶ「幸運」を引き寄せる知恵
(2009/02/27)
諸富 祥彦

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世の中は、偶然に支配されています。偶然に支配されていると言うと、誰も努力しなくなるので、建前上、社会が「目標に向かって努力する」大切さを強調しているのではないでしょうか。

目標に向かって努力する生き方は、社会が安定している場合、得します。ところが、社会が不安定になると、偶然を味方にする生き方が得をするように思います。

今の日本は、ガチガチの「目標に向かって努力する」派が、「偶然を生きる」派を圧倒している感があります。

この本は、「目標志向」に警笛を鳴らし、「偶然活用」を見直そうとするものです。努力すれば必ず報われると信じている方に是非読んでほしい書です。

この本を読み、ためになった箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・真の幸福と成功を手に入れた人は、自分を幸福にしてくれる偶然(ラッキーな出来事や出会い)が起きやすい考えや価値観を持ち、それにふさわしい人生の構えと行動をとっていることが、スタンフォード大学のクランボルツ教授の調査でわかった

・人生は絶えず、変化しており、変わらないものは何一つない。そこには、あなたを幸福や成功に導いてくれる「波」や「流れ」が存在していて、それに対する気づきを伴って生きていく必要がある

人生の節目を分析してみると、そこで起きた出来事の約8割には、何らかの偶然的な要素が大きく関与している

・スキルや知識、資格、業界業種の将来性など、最初にゴールを決める「目標志向型」の考え方で人生を切り開いていこうとする人が多いが、実は労多くして、あまり報われない生き方

・目標に自分を縛りつけてしまわずに、柔軟に「偶然」の出会いや出来事を上手く生かしていくほうが、人生の成功や幸福の実現に大きく近づいていくことができる

・自分の最初の目標にこだわって、それとは違う方向性のことからは一切目を背けてしまうタイプの人の手からは、「幸福や成功の種」はスルリと逃げ去る

・せっかくさまざまな「ご縁」が与えられていながら、それに自ら心を閉ざしてしまう人は、能力や才能があっても、やせ細っていく人生しか送ることができない

・「たまたま与えられたチャンス」「たまたま出会った仕事」に一生懸命取り組んでいるうちに、自分の適職を見つけ、本当にいい人生を送っている人はたくさんいる

・世間で「成功者」と言われている人たちは、「偶然」を大切にすることで人生を切り開いていった方がほとんど

・あらかじめ自分の人生を決めつけずに、人生のさまざまな可能性に心を開いた(オープンマインド)柔軟な姿勢を保ち、決断する時には、リスクをおかして、ズバッと決断できる人が幸福な人生を築くことができる人

・偶然を味方につけるための5つの心構えは、「好奇心」「粘り強さ」「柔軟性」「楽観性」「リスクテイク」

・普段から「何となく気になっていること」が、人生を展開させていくサインをもたらすことがしばしばある。心にチラチラ誘いかけてくる「何か」に興味を向けてみることが人生を豊かにしてくれる

・不平不満を口にしながら生きている人、人生の悪い流れを断ち切れない人の多くは、「したくないことをする」のに慣れてしまっている

仲間外れを恐れると、周囲から孤立しないように、「他の人たちはこう考えるだろう」と思考を巡らせる。結果、自分ではなく、他の人の考えに支配された行動をとることになってしまう

・ネットでの交流の良いところは、自分のペースで自由に発信、情報が享受でき、ゆったりしたペースでお互いを知り合うことができるところにある

・ネットには、あなたの人生を豊かにしてくれる「偶然の出来事」へとアクセスできるきっかけが無限に潜んでいる

・書店を目的なしでふらふらと歩いていると「なぜか妙に気になる」本や、雑誌の記事にふと出会うことがある。ラッキーな情報との出会いのチャンスを得るために、書店に出向くのも効果がある



目標に向かって、努力すれば必ず報われるはずと考えるほど、世の中甘くはありません。

自分が「好きなこと」より自分が「得意なこと」。つまり、「社会に必要とされる」ことで、運命が開かれることが多いように思います。

この本には、そのことが明記されています。社会に必要とされることが何かを意識しながら、クモの巣を張ってゆっくり待っておきたいものです。
[ 2010/10/04 07:31 ] 出世の本 | TB(0) | CM(0)

『現代語抄訳・二宮翁夜話』二宮尊徳・福住正兄

現代語抄訳 二宮翁夜話―人生を豊かにする智恵の言葉現代語抄訳 二宮翁夜話―人生を豊かにする智恵の言葉
(2005/01)
二宮 尊徳福住 正兄

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二宮尊徳(金次郎)を紹介するのは、「日本の道徳力~二宮尊徳90の名言~」に次いで2冊目です。

二宮尊徳は、今で言えば、農業経営コンサルタントのような存在です。その書物には、実践で生まれた、生きる知恵やノウハウがいっぱいです。

お金の儲け方、お金の増やし方、お金の使い方についても数多く言及されています。

明治以後、さまざまな立志伝中の人物たちの愛読書にもなってきました。現在でも、十分に役立つ内容です。

「夜話」には、農民たちに説いて、実践し、指導し、成功させるに至った、道義が多く書かれています。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・金次郎は、復興事業に取り掛かる際に、農民たちの怠惰や狡猾さ、藩士たちの反感や軽侮、責任回避と優柔不断という官僚主義に直面し、戦わねばならなかった

・金次郎は、心の田を開発した善人を褒め、徐々に抵抗する者を感化していく方法をとった。一日も欠かさず夜明けから村を巡回し、教えを聞かなくても怒ったり見捨てたりせず、がんばって働いた者を投票推薦させ表彰し、村人たちの心を奮い立たせた

・人の道は中庸を尊ぶ。天理に従い種を蒔き、天理に逆らい草を取り、欲に従い家業を励み、欲を制御して義務を考える

・己の中には私欲がある。私欲は田畑にたとえれば雑草。「克つ」とは、この田畑に生える雑草を取り除くこと。「己に克つ」とは、自分の心の田畑に生える草を取り除いて、自分の心の米や麦を繁茂させることに励むこと

・失敗する人の常として、大事をなそうとして小事を怠り、難しいことを心配して、やりやすいことを勤めないから、結局大事をなすことができない。「大は小を積んで大となる」ことを知らない

・禍と福は同体で、一つの円をなしている。吉と凶も兄弟で、一つの円をなしている。禍福吉凶、損益、得失、生死みな同じである

・村を復興しようと思えば、必ず抵抗する者がいる。これに対処するのもまた、道理。これに囚われて気にしてはいけない。放っておいて、自分の勤めに励むべき

・どんな良法、仁術といえども、村中で一戸も貧者を出さないというのは難しい。人には勤惰、強弱、智愚があり、家には善行を積み重ねている家も、そうでない家もある。貧者には、その時々の不足を援助してやって、どん底に落ちないようにしてやること

・お金や穀物だけでなく、道も畔も言葉も譲らなければならない。そして、功績も人に譲らなければならない。この譲りの道を勤める者には、やがて富貴栄誉がやってくる

・家船を維持するには、「舵の取り方」と「船に穴が開かないようにすること」の二つが大事な勤め

・収入を計算して、天禄の分限を定め、音信、贈答、義理、礼儀も、みなその範囲内であするべき。できなければ、みなやめるがよい。これをケチだという者がいても、気にすることはない

・鳥が田を荒すのは、鳥の罪ではない。田を守る者が、鳥を追わないのが過ちである

・果物の木が今年たくさん実れば、翌年は必ず実らないもの。これを「年切り」という。「年切り」にならないためには、枝を刈って、蕾をつみとって花を減らし、数回肥料を使う。人の財産に盛衰・貧富があるのは、この「年切り」と同じ現象である

・「交際の道」は将棋の作法を手本にするのがいい。将棋の作法では、実力のある者は、対戦相手の力に応じて持ち駒を減らし、相手の力と釣り合う条件にしてから将棋を指す。「豊かな財産」「恵まれた才芸」「学問」のある人はそれらを外して交際すること

・奢侈は、欲望によって利を貪る気持ちを増長させ、慈善の心も失わせてしまう。そして自然に欲深くなり、ケチくさくなって、仕事の上でも不正を働くようになり、その結果、災いも生じてくる

悪賢い人間は雑草のようなもの。生い茂ると田園を荒廃させる。悪賢い者を退けなければ、善良な人はやっていけない。善良な人々をいたわること



この文章を読むと、二宮金次郎がいかに苦労して、現場と格闘してきたかがわかります。

企業、学校、各種組織で、教育係をしている方なら、二宮金次郎の言葉が身に染みてよくわかると思います。

知行合一、言行一致の思想家は少ないものです。校庭で、二宮金次郎の銅像を見ることもなくなってきましたが、もう一度、脚光を浴びることがあってもいいのではないでしょうか。
[ 2010/10/01 07:23 ] 二宮尊徳・本 | TB(0) | CM(0)