著者は、大阪市内の公立中学に20年間勤務し、その間、
荒廃した学校の立て直しに力を注がれました。
また、陸上競技部を独自の育成手法で、13回の日本一に導きました。現在は、大阪、京都、東京に教師塾を開き、8年で1600人の教師が受講されるほどになっています。
元体育教師の実績に裏付けられた、一本筋が通った自信に満ちあふれた理論に心酔される方が、教育界以外にも多いようです。最近は、企業研修にも引っ張りだこのご様子です。
今回、この本を読み、感心した箇所が30ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。
・しんどい状況の中で、背筋を伸ばし、基軸を立て、両足で地面に根を張って教育していくには、理念がないとできない。難しい状況に出合った時、
理念、
思い、
志がない者は乗り切れない
・「
ロジックツリー」の手法で、各々が理念を作り上げる。ツリーのトップには「指導理念」、その下には「指導理念」を実現させるための「指導方針」が三つ。三つの「指導方針」に、三つの「行動方針」。「行動方針」には五項目の具体的指導内容。計45個の指導内容が並ぶ
・意志の力は、客観的な数字として結果を出す力のこと。成果を上げられる教師は、「
意志の力」が強い。しかし、成果を追い求めて厳しくするだけでは、子供は教育できない。そこに必要なのが「
愛の力」。簡単に言えば、「みんな仲良くする」こと
・教師塾の方針は、目の前の行動、態度をちょっとだけ変えるというもの。しかし、そのことによって、心が変わる。教師の心が変われば、生徒の心も変わる。
主体変容とはこのこと
・実践している三種の神器は、
長期目標設定用紙、
ルーティンチェック表、
日誌の三つ
・大切なのは、
自分で目標を立てること。そして、達成目標を、最高の目標、中間の目標、絶対できる目標と三段階に分けて記すこと。さらに「経過目標」や「目標達成時にどんな人間になっているか」「目標達成によって得られる利益は何か」も書き入れる
・具体的行動として、毎日継続して繰り返し行う「
ルーティン目標」と、いつまでにやると決めて行う「
期日目標」がある。最低ルーティン目標が10個、期日目標を10個決める
・世の中の成功者の一つの共通点は「日誌」を書いていること。提唱している日誌は、前日に「翌日の行動予定」「その日に必ずやること」を書き込む。当日は一日の自分の行動を評価する。8項目で40点満点とし、その日の行動を評価
・「今日立てた目標の中で、やり直しができたらどれをやる?」という問いかけは、
反省をさせるのに威力抜群。「ダメだったところは?」と問いかけてもソッポを向かれるだけ
・弱者は、まず差別化の一点突破で勝たなければならない
・スキル練習は、格好いいし楽しい。でも、上を目指せば目指すほど、
泥臭い練習が大切。それをよく分からせないといけない。企業研修で大人たちを教えていても同じことを感じる
・人は自分のためだけに頑張ろうとしても、力は出ない。人のため、仲間のため、誰かのため、そういうものを背負った時に、爆発的な力が生まれ、奇跡を成し得る
・教育指導には、4つの原則がある。「1.教育理念をしっかり持つ」「2.
態度教育を徹底する」「3.
行動の意味づけを教育して価値観を高める」「4.知識、技術、ノウハウの専門教育を行い、成果を上げる」
・生徒には、まず、「挨拶」「時間厳守」「
すさみ除去」の3つのことを徹底してやらせる。掃除をすることで身の回りからすさみを取り除き、それによって心のすさみも取り除く
・清掃活動では、まず生徒に「
一人一役」を割り振る。3、4人でやらせ、誰がどの役割かをはっきりさせる。掃除の手順も決める。終わった時には担当者がチェックする。役割が決まれば責任感が芽生える。目標時間を設定すればチームワークがよくなる
・人にやる気や元気を与えるものは
ストローク(人と人との肯定的な関わり)。笑顔で20秒間に3つのストロークを打てるようになったら、教師としてのコミュニケーション能力は上出来
・「褒めたら子供は育つ」と言われるが、心のこもっていない浅い褒め方で、人が育つわけがない。自分の理念、基準を持って、ズバッと切り込んでいかないと、相手の心に届かない
・カウンセラーは相手の心を聞き癒す。それは
優しい支援。生徒指導主事は、ルール、マナー、校則、規範を守らせる
厳しい指導を受け持つ。厳しさと優しさの両方が必要
・今の若者は「
生き方モデル」に飢えている。本来は教師が生徒の「生き方モデル」にならないといけない。主体変容(自ら変わることで相手を変えろ)は、生きた価値観教育
・「
有能感を高める」(人前で褒める)「
統制感を高める」(できそうだと思わせる)「
受容感を高める」(居場所を与える)の3つの刺激で、やる気を高める
・人間は、肉体的ブレーキがかかる前に、必ず
心理的ブレーキがかかる。逆だったら、気づく前に死んでしまう。心が「もうダメ」と言っても、実は頑張れる
・いい教師は生徒の基本情報をよく覚えている。いい教師は、相手のことを考えている。生徒が言ったことを考えて、その上で質問する。そうすると返事も増えてくる
・
理想の集団であれば、悩みを茶化したり、足の引っ張りをしないから、大いに悩みを語ろうという人がすぐ出てくる
・どんな集団にもA型人間(
関わらないのに成果を出せる人)B型人間(
関わってやれば伸びる人)C型人間(
関わってもなかなか結果が出ない人)の3種類の人間が存在する。生徒で見ると、A型10%、B型60%、C型30%くらいの割合
・集団を改革するキーポイントはB型にある。この60%の大グループがA型に向かうか、C型に向かうかで集団の良し悪しが決まる
・A型をリーダーにB型を組織すれば、B型グループがA型に向かっていく。集団の70~80%が生き生きと動ける形になると、残りのC型も生き生きとしてくる。足の引っ張り合いをするのではなく、お互いに高め合っていける集団になる
・A型の生徒には「
自立的指導」(育成不要、権限移譲)、B型の生徒には、「
対話的指導」(ティーチングとコーチング併用)、C型の指導には「
独裁的指導」(マンツーマン指導)で良くなってくれば「
父性的指導」(ティーチング)。タイプ別に適した指導方法がある
・
馴れ合いの集団にいる生徒ほど携帯電話の料金は高くなる。理想の集団にいる生徒の携帯電話の料金は安い
・ユニフォーム、ロゴマーク、理念の唱和、これらはすべて
帰属意識を高める道具。洗脳のようなもの。帰属意識が高まらないと集団は次の段階に進めない。さらに、帰属意識を高める手法に「
栄光浴」がある。集団の誰かが輝いて、その栄光に浴させる
「関わらないのに成果を出せる人(10%)」には自立的指導、「関わってやれば伸びる人(60%)」には対話的指導、「関わってもなかなか結果が出ない人(30%)」には独裁的指導後に父性的指導という
タイプ別指導法にはもの凄く共感しました。
実践を積んだ著者の記述により、以前から、そうではないかと思っていたことが正しかったとわかり、自信になりました。
問題児の多い中学校を立て直し、
修羅場を経てきた教育のプロの言葉には重みがあります。企業向けの教育研修者とは段違いのレベルです。
義務教育の生徒は、入れ替えることも、辞めさせることもできません。もちろん、報酬でやる気を高めることもできません。
そういう
逃げ場のない悪条件の中で、教育の成果を上げる教師は本当の聖職者だと思いました。
この本は、教育に携わっている職種の方にとって、絶好の参考書になるのではないでしょうか。