デンマークには、8年前に3日間ほど滞在したことがあります。
「市役所の建物がなく、民間ビルの中に市役所があった」
「市議会は夜開き、市会議員は無報酬。最高のボランティアが議員だった」
「失業者に市が48時間以内に仕事を斡旋していた」
など驚くことだらけでしたが、同じ北欧のスウェーデンに比べて、垢抜けていない印象を受け、その後、あまり調べることがありませんでした。
デンマーク滞在41年になる、
ケンジ・ステファン・スズキ氏のこの本を読むと、自分がいかに、浅はかな人間であったか反省させられます。
この本には、本当に感動しました。自分が考えていること、理想としていること、日本のおかしいと思っている点、すべてがこの本に掲載されていました。自分の代弁書のように感じました。
自分の理想=デンマークの現実であることもよくわかり、良き師に出会えたようなうれしい気分も味わえました。これから先も、ずっとデンマークを研究し続けようと考えています。
著者は、デンマークが、なぜ凄いのか、日本との対比を示しながら、感情的ではなく、論理的に詳細に記述されています。感銘した箇所、参考になった箇所をいっぱい紹介したいと思います。
・デンマーク国家は「出産費用」から始まって、小学校から大学までの「教育費」、病院の「入院、治療費」、「葬儀代」まで
国家が負担する制度が導入されている
・子供が入院した場合、付添者用の無料宿泊施設、無料の食事提供だけでなく、仕事に出られない日の給与も国家から補てんされる
・国民は国家の財産であり、教育は国家を支える人材を育成する国家的事業。
教育の成果は、個人だけでなく、デンマーク社会を豊かにすると考えられている
・今日の社会福祉国家や環境先進国と称される国家の理念が生み出され、継承されてきたのは、国民が総じて高い
知的水準と教養を身につけているから
・大学教育はつねに
実社会との関係を重視して行われているから、専門的に学んだ学問が卒業後の仕事と直接結び付く。日本のように大学進学を最終目標にして小中高の教育をしていない
・親が子供を扶養する義務は18歳まで。18歳を過ぎると親との経済関係が切れる。18歳以上の国民には、国庫から「
就学支援金」(日本円で月額10万円)が支給される。学費は無料なので、それを生活費に充てる
・18歳以上のデンマーク国民で、何らかの所得支援(失業、疾病、出産、生活、リハビリ手当など)を受けている人は国民の約40%に上る
・国民や企業が払った税金が社会に
公平に還元されるという信頼感がない限り、税金を納めることへの主体的な意識は生まれない
・政府が農業政策に傾斜した支援策を打ち出していないのに、自立的営農で、
デンマーク農業関係者が、痩せた国土から農作物を自給するための努力を続け、ついにカロリーベースで300%の自給率を実現したことに、大きな感銘と敬意を抱く
・デンマークのエネルギー自給率はヨーロッパ諸国最高の156%になり、一部を輸出している。1973年の自給率は2%弱だったが、風力発電を一大産業に育て上げ、
エネルギー先進国になった
・日本では、国内資源を活用して、食料やエネルギーの自給を向上させようという提案が、官僚や政治家、報道関係者からあまり出てこないのは不思議に思う
・幸福な国民の定義を「健康でよい教育が保証された国に住む者」とした「
幸福な国民度」ランクでは、デンマークが1位、スイスが2位
・世界銀行発表の「全世界の
統治指数」では、世界で最も民主主義が進んでいるのは、デンマークとフィンランドと報告されている
・日本では国民各層からの問題提起が、国家の運営や改善策の策定につながっていない。
民主国家の指標からすれば、日本の民主主義の度合いはとても低い
・人口540万人のデンマークで、毎年2万5000件が起業されている。
デンマーク人の起業家の多くは脱サラ。労働時間が少ない(法定週37時間)ため、職場から帰った後も多くの時間が取れ、起業の準備を進めることができる
・午前8時から午後4時までの勤労者が残業した場合、午後7時までの残業代が5割増、それ以降は100%増額。就業者は残業代の60%が所得税になる。雇用者も2倍の時給を払う。双方に
残業のメリットがない
・デンマークの資金融資は事業内容の評価が基本で、日本のような
悪しき慣習である「第三者の連帯保証」がないので、破綻しても、親戚関係、友人関係に負債の請求が及ばない
・デンマークは、田舎に行っても、
三相交流の400ボルト電力が使える。日本の一般家庭用配電は北朝鮮と同じ100ボルト(中国、韓国でも230ボルト)。世界で最も高い電気料金を支払わされている。電力料金が高いと起業家にとって大きなマイナス要因
・1953年から2007年まで21回の国会議員選出選挙があったが、投票率が80%を割ったことが一度もない。国政選挙の投票権、被選挙権とも18歳以上
・デンマークでは街頭演説や選挙カーに大きなスピーカーを取り付けて連呼する選挙運動は認められていない。戸別訪問にも遭遇したことがない
・デンマークで最も視聴率が高いテレビ番組は、総選挙2日前に夜9時から11時まで放映する政策討論会。視聴率は74%で、540万人の国で400万人の視聴者数
・多くのデンマーク人が高率の税金を不満もなく納税するのは、教育費や医療費、働けなくなった際の生活保護費など、
税の還元がはっきりと実感できるから
・年収1000万円のサラリーマンが支払う所得税額は45%、800万円なら40%。直接税と間接税(消費税25%など)の納税額は全体で19兆円。個人所得税が61%、法人税は8%弱。政府予算の歳入は12.9兆円、歳出は11.5兆円、高福祉の政策でも1.3兆円の黒字
・デンマークでは、
個人番号、事業所登録番号を持たない事業体は運営できないようになっている。個人も個人番号なしに雇用されないシステム
・デンマーク人は旅行好き。毎年人口の19%が海外旅行に出る
・自分の知らない世間を知りたい、
未知の体験をしてみたいという、バイキングの遺伝子は若者たちにも受け継がれており、一定の年齢になった若者が国内外を放浪して社会経験を積むという伝統がデンマークにはある
・日本のように現役の方が大学入試に有利ということがないので、高校卒業してから1年、2年、
社会放浪体験しても、まったくハンディにならない
・人口1万人程度の町にも、2、3カ所リサイクルショップがあり、その収益が恵まれない人たちへの資金源になっている。中古家具、衣類、電気器具など修理して販売。1人当たり週2時間ほど無報酬で働き、月100万円程度の売上がある
・デンマークの1人当たり貿易額は、日本の1人当たりの3倍。主な輸出品は、肉類・酪農製品、薬剤・医療機器、機械・運輸機器など
・デンマークは地震のない国なので、
築100年住宅が住宅市場で流通している。平均的な一般住宅の土地面積は240~300坪で、建坪は40~55坪。家族構成と経済状況に合わせ、一生の内に何度も住み替える
・2000万円の不動産評価額の家に住むと、その1%に当たる20万円の不動産税がかかる。火災保険のない建物の売買は禁止。全国の不動産評価額はネットで公開されており、即座に知ることができる
・中央集権国家体制が発達しなかったデンマークには、産業界と国家との間に癒着の構造が生まれることはなかった。業者と中央政府の役人たちとの日常的な密接な付き合いがないので、大企業でも本社を首都のコペンハーゲンに構えていない
・首都に本社を構えないことは、地方都市にとっても企業にとってもメリットが多い。土地の値上がりや通勤の渋滞がなく、国民の経済や健康から見てもプラス。通勤・通学の距離がバスで20分ほどの「
職住接近」が実現し、食料の供給も「
地産地消」が実現する
・日本の企業がこぞって東京本社を開設するのは、政治家や官僚との連絡機関、利権調整として必要があるようだが、デンマークでは考えられない。産業界は、行政や政治と関係を持たず、「天下り」など存在しない
・デンマークの労働者の多くは
職業別組合に加盟しているため、仮に大企業が倒産しても、社会福祉のセーフティネットで守られているため、生活に困ることはない
・中央をありがたがる「寄らば大樹の陰」の国民性は、鎌倉幕府の成立から明治維新まで続いた670年の封建制度の名残が現代まで続いている
・日本で起きる公務員の数々の不正や杜撰な事務管理などのスキャンダルは、日本の
教育の欠陥。国・公務員は誰のために存在するのかという検証が軽視されてきた結果のこと
・食料の60%を国外に依存し、エネルギーの95%を国外から調達し、しかも国家財政が赤字で累積の債務額が毎年膨大に増えているにもかかわらず、日本人の多くから危機感が感じられない
・デンマークでは働く職人は同一の職種では、雇用先、国籍に関係なく同一の報酬が保証されている。
労賃のダンピングを防ぐため、デンマークの職人組合は、外国人労働者にも同一賃金を守っている
・デンマークの大工職人の労賃は1週間37万円で、公立学校の教員給与の2倍。看護師の月額給与は55万円だが、待遇に不満な場合、離職し派遣登録して働くと月額20万円増額になる。非正規雇用者を雇用すると事業主に割高になる
賃金政策が採られている
・デンマークでは、日本のような企業別組合はなく、職種別組合が33あり、労働人口の8割が加入。学歴、年齢、性別、企業規模に関係なく、職種によって給与額が決まる
・デンマークには「新規採用制度」がなく、就職活動も入社式もない。定年制度もないので、65歳の国民年金取得後も働くか個人に任されている
・海運に恵まれた日本には、海外との交易に大きな可能性があったにもかかわらず、江戸時代の権力者は、自己防衛策として、国益を無視した国策に固辞した。この思考回路が今日の日本人の国民性に引き継がれてしまっている
・日本では、
貧困者の救済は各藩や寺などの私的団体に任され、幕府などの中央集権が救済政策を実施した歩みはなく、あっても一時的な権力維持のための対応策であった。徳政令も武士階級の財政難を救済するもので、実際には貧困層に犠牲を強いるものであった
・デンマークに居住していたユダヤ人のうち、ドイツ軍に逮捕拘束されたのは、わずか485名でユダヤ人撲滅政策はデンマークだけ成功しなかった。ドイツ占領下にありながら、ドイツのいいなりにならなかったデンマーク市民のしたたかさが大きな力となった
・
戦争原因の多くが「食料とエネルギーの確保と争奪」。食料とエネルギーを国民に提供する任務を果たせない政治家・軍が戦争を発動する。戦争回避のためにも「食料とエネルギー」を確保する努力を続けることが安全安心につながる
・
役人の汚職事件は、デンマークでは考えられないこと。国家公務員や大学教授の汚職事件を見る度に、江戸時代から受け継がれてきた「偉い人は何をしても許されるという甘え」が日本人に受け入れられているように思える
日本とデンマークのあまりの違いにうんざりしますが、日本人には、この事実が知られていないように思います。また実感できない環境にもあると思います。
日本は経済的には素晴らしい国でも、政治的には全然素晴らしい国ではありません。
なぜそうなったのか?それは、官僚や政治家に、
ノブレスオブリージュ(高尚な人間の義務)の意識に欠けていることと、理想と現実の整合を行ってこなかったことが考えられます。
一番には、徳川家康が、徳川家を守るために、自分たちに都合がいい儒教精神を定着させたことも大きな要因かもしれません。
いずれにせよ、自分の理想や考え方を再確認していくために、この本をずっと大切に読んでいきたいと思います。