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『ギャンブルの経済学』佐藤仁

ギャンブルの経済学 (かに心書)ギャンブルの経済学 (かに心書)
(2007/11)
佐藤 仁

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ギャンブルを産業として、正確に調べた学術書のような真面目な本です。

この本を読むと、日本は、すでにギャンブル大国になっていることがわかります。特に、低~中所得者層に関して言えば、世界一のギャンブル好きのようです。

その反面、高所得者層が喜ぶギャンブルが少なく、世界水準から言えば、歪な構造になっているみたいです。

ギャンブルとどう上手に付き合っていくか?これはお金学としても重要なテーマです。その意味でも、この本は役に立ちます。今回、参考になった箇所が25ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・世界のギャンブルは、宝くじ系、レース系、カジノ系に大きく分かれるが、日本のパチンコのように独自に発達したギャンブルもいくつか存在する

・アメリカはラスベガスなどのカジノ都市が有名で、ギャンブル大国と思われるが、一人当たりのギャンブル支出は日本の70%ほど。日本人のギャンブル純損失は5兆円を超える規模で、一人当たりでは世界一と推定される

・賭け事を始める前の喜ばしい気分と大当たり時の快感は質が違う。習慣化してハマる状況は、する前の高揚感で、神経伝達物質が大量に出て快感を得るもの

ギャンブル愛好家は、負けたときのことは言わないが、勝ったときのことを嬉々として話す

ギャンブル依存症は、日本では、自制心が足りないから、生活態度が悪いからという味方をするが、多くの国では、欲求をコントロールできない、アルコール依存症や薬物依存症と同じ病気と見なしている

・689年日本書紀に双六を禁ずと記されているのが最古。10~11世紀、公家の間で双六が盛んになる。洋の東西を問わず、ギャンブルは貴族階級と一般庶民では扱いに差がある。庶民に厳しく禁じている時代に貴族階級はのうのうと遊んでいる

・パチンコ店は今でも14000軒以上ある。店は年々減ってきているが、設置台数は少しずつ増えている。パチンコ人口は半減しているのに、設置台数が増えていることが、不振の原因

公営5競技の売上は1997年から2006年の9年で、オートレース1090億円(58%減)、地方競馬3690億円(48%減)、競輪8620億円(45%減)、競艇9650億円(45%減)、中央競馬2兆8230億円(29%減)という惨状

・カジノの行動では、中国人と韓国人は戦略が論理的でなく、直感、気分を優先。アメリカ人を含む白人系は論理的な判断が多く、確率を重視。日本人は中間的で、やや論理的な判断をする

・ギャンブルで勝つことは難しい。胴元の取り分があるから止むを得ないが、カジノで勝って帰ることができるのは10~15人に1人という狭き門

・アメリカを含め、世界の多くのカジノはダブルゼロを採用(38回に1回しか当たらない。控除率5.26%)100÷5.26=19なので、19回賭けると所持金がなくなる

・マーチンゲール法(倍追い法
最初に1単位を賭ける。勝てば終わり。また最初からスタート。負けたら倍、また負けたら倍というように倍々に賭けていき、かならずどこかで勝つのでそこで終了するシステム。しかし賭け金の上限が決まっていたら使えないシステム

・パーレイ法(逆マーチンゲール法
マーチンゲール法とは反対のシステム。負けたら終わり、また最初から。勝ったら賭け金を倍々にしていく。たいていは3連勝か4連勝で手仕舞う

イーストコースト・プログレッション
負け続けるときの損失額を最小限に、勝ち続けるときの収益を大きくする考え。このシステムは2連勝するところから始まる。2連勝後、3連勝したら半分を貯金しながら残り半分を賭けるシステム。連勝が途切れたら、また最初から。2分の1賭け向き

テンパーセントシステム
常に手持ちの10%を賭ける考え方。連勝すると結構大きく増える

・ブラックジャックは連続性が少なく、3~4回の小刻みの波が多いため、金額差の大きい挑発的なシステムが合う。バカラやルーレットの2分の1賭けは、堅実で保守的な方法が適している

ギャンブルに負けない方法論

控除率の高いギャンブルには手を出さない
大数の法則」に収束されるので、多くの回数を避ける
少し賭けるときと大きく賭けるときのメリハリをつける
ギャンブルに合わせてマネーマネージメントを選択する
場の流れや統計上のゆらぎを捉えたときに大きく勝つ方法を選ぶ
一定額勝ったら席を離れ勝ちを確定する

・競輪や競馬などの公営5競技は控除率25%なので、4回賭けると所持金を失うことになる。愉しみとして参加するしかない。継続は難しい

・全米ゲーミング協会の2007年ギャンブル産業最新動向では、
「雇用」36万人、「給与支払」133億ドル(1兆2000億円)、「税金支払」52億ドル(4700億円)、「総売上」324億ドル(3兆円)
前年比で「雇用」は3.2%増、「給与支払」は5.6%増、「税金支払」は5.5%増、「売上」は6.8%増、アメリカ経済に大きく貢献している

・日本のギャンブル市場(2006年)
「パチンコ」27兆円(貸玉料総額)、「中央競馬」2兆8000億円、「宝くじ」1兆1000億円、「競艇」9700億円、「競輪」8600億円、「地方競馬」3700億円、「オートレース」1100億円、「サッカーくじ」100億円

・ヨーロッパ主要国のカジノ数(多い順)
「フランス」186「イギリス」140「ロシア」87「ドイツ」78「オランダ」48「スペイン」39「スイス」19「オーストリア」17「ベルギー」9「ポルトガル」9

・カジノが解禁されると免疫のない日本人はのめり込み、大きな社会問題になるというのは杞憂。すでに、日本国民はアメリカを上回るギャンブル純損失5兆円強を計上。そのうち64%の3兆円強をパチンコが占める。この数字を見て外国人は驚く

・日本のギャンブル産業不振の要因の一つは高い控除率(控除率の反対は期待値)。公営5競技の控除率は25%、世界水準は8~18%程度。宝くじは54%、工夫次第で30%台まで下げられる。パチンコは12%

・日本のギャンブル産業不振のもう一つの要因は天下り役人と縦割行政。公営5競技、宝くじなどの運営主体は各種法人で幹部は天下り役人。パチンコは遊技機検定で警察に牛耳られて警察の管轄下にある。また縦割ゆえに横の連携ができず、柔軟な事業展開が難しい

・マカオのカジノ収益の70%は中国人富裕層がもたらしたもの。日本には、富裕層が遊びたくなるギャンブルが少ない。富裕層は、一般的に、多忙で、自己顕示欲が強い。しかも自信家である。ギャンブルにおいても達成感を得たいと考えている

・パチンコは、ヘビーユーザーと呼ばれる10%の人が売上の35~40%を支えている。平均して使う金額が5万円以上の人。一方、1万円以内で遊ぶ人は人数では50%を超えるが、売上の10%強を占めるに過ぎない




この世界は利権が絡み、国家権力がうまい汁を吸いやすい分野です。しかし、汁を吸い過ぎたのか、世界水準からみれば、高い控除率になり、日本では、ギャンブル離れに拍車がかかっています。日本のギャンブル産業は、曲がり角に来ているのは事実のようです。

射幸心は人間の心(特に男性の心)に宿るものです。この射幸心を否定することは難しいので、健全な形で、運用されていくことが望まれます。

この本を読むと、ギャンブルの実態がよくわかり、ギャンブル産業の未来が見えてきます。ギャンブル好きの人、ギャンブル産業に興味のある方には、面白くてためになる1冊ではないでしょうか。
[ 2010/03/30 07:10 ] 戦いの本 | TB(0) | CM(0)

『イラスト図解・飲食店の儲け方まるわかり読本』森久保成正

イラスト図解 飲食店の儲け方まるわかり読本イラスト図解 飲食店の儲け方まるわかり読本
(2007/01)
森久保 成正

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著者は、飲食店の経営コンサルタントです。お好み焼き・鉄板焼きの超繁盛店を自ら経営もされています。元は、洋食系出身ですので、和洋中すべてに深い知識と経験を持っておられます。

飲食店の儲け方の裏の裏まで知り尽くした著者が、そのノウハウをこの本で披露されています。面白くて、一気に読めました。

飲食店に抱いていた夢がなくなる可能性はありますが、飲食店が儲けていくためには、致し方のないことと理解できました。

この本の中で面白かった箇所が20ありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。


・売れないメニューをそのままにし、材料費の無駄が膨らみ続けるズサンな経営では、店は衰退する。割に合わない仕入れ材料は、思い切ってカットし、「客を集め、ロス活用ができ、利益をもたらす」3条件を備えた食材を「店の名物」に押し上げること

・「メニューの整理」「絞り込み」「柱となるメニューに力を注ぐ」という一連の作業は、店の集客力と利益体質をともに向上させる

・定番メニューから外した食材の中には、季節によって客を引き付けるものがある。こうした食材は、原価が高くなっても、「集客のための販促メニュー」と位置付けて、季節ごとに仕入れる

・自ら市場に足を運ぶこと。市場は、食材の生きた知識を仕入れる場で、交渉術を磨く場。しかし、業者にカモにされないために、「頻繁に出入りする」「小ぎれいな格好をしない」「これが欲しいと公言しない」。業者の方から近づいてくるまでになること

仕入れのポイントとして、「市場の休み明けは価格が上がるので仕入しない」「固定観念に縛られずにおいしいもの、安いものを仕入れる」「産地の地元でも商品が都市部に流れ、高くなることもある」も見落としてはいけない

・ソース、スープ、ダシ汁などベースとなる味づくりは「仕込むための人件費」「膨大な光熱費」「大変な量のゴミ処理費」がかかり、店の生産性が落ちる。レベルの向上が著しい業務用既成食材にひと味、ひと手間加えて、おいしくすることもプロの仕事

・仕込みの中には「食材カット」作業も含まれる。カット野菜は、パックの仕方にも気が配られてきており、仕入れるよりも保存がきく。ロスが少なくなり、天候による値段の高騰も避けやすい。カット野菜の情報を集めておくことは必要

・何気ない卓上調味料も「ひと手間」加えたら、どこにもない味になる。リピーターを増やすには、「また食べたくなる旨味」であるニンニクを寝かして入れることも重要

・女性客の「生臭い、厚くて食べにくい」、高齢者の「脂っこいのは苦手」、中年客の「暑くて食欲がない」などのホンネの声に耳を傾け、おいしいメニュー改造をするのもプロの仕事

・その日の天候と肌で感じた気候をチェックし、メニューの中身を細かく調整する。定食メニューの「ご飯&汁物」は応用をきかせやすい。「ちらしずし、まぜごはん、炊き込みごはん」「冷うどん、温かいうどん、豚汁」など気温変化に対応する演出は効果がある

・メニューに、「すぐできる料理の明記」「数量限定のフレーズ」「盛り付けるだけの小鍋料理」などを加えると、スピードアップができ、客の回転率も上がる。特にビジネスマンが多い店のランチタイムには有効

・客にもう一品を注文させるのは難しい。その場合、メイン料理の分量と価格を抑えて、もう一品注文させる試みが必要。もう一品の人気を得やすいのは、産地限定の野菜・豆腐類

・新規客を獲得するのに最適なのがテイクアウト。初めての店に入るのに不安があっても、テイクアウトなら気兼ねが少ない。客心理を考えたら、店の外で買える仕組みが必要だが、店を改造するのが難しい場合、販促期間中、テイクアウト用ワゴンを出してもいい

単品値下げの販促は、単品に注文が集中し、労働力にバラツキを生み、人件費に大きな無駄が生じる。これを平均化するには、複数のメニューを組み合わせた「セット販売」の発想が必要

・客を呼ぶ店頭商品のメニューを目立つようにする。それと同時に、店内で注文するメニュー表の左上に高単価で儲けやすいメニューが目立つようにすることも利益面で重要

固定ファンを増やすためには、食事の最後に満足感のピークを持ってくること。居酒屋なら締めの食事に力を注ぐ。会計を終えた後も、「お忘れ物はありませんか」「段差がありますから足下にお気をつけて」など、もうひと言を加えることが重要

・客がこだわり始めてきているのが「居心地のよさ」。「多人数でゆっくりと語らえる」客席があることが繁盛の条件。広い厨房スペースと更衣室や休憩室、空席の多いカウンターを見直し、座敷や小上がり席に活用したい

・トイレや厨房は店の奥になくてもいい。レジを済ませている途中やその後にトイレに寄る人が多い。また、厨房が入口から離れているとテイクアウトに不便。料理の香りを往来に流すこともできない

・店の前に「ひさし」を設けたがらない店舗デザイナーがいるが、客の行動パターンを考えていない。雨の日に、店のメニュー表を立ち止まって見る客も激減するし、テイクアウトコーナーも傘をさして並ぶことになる

・営業力、指導力、観察力、原価意識のある指揮官が1人いれば、あとは普通であっていい。不器用な「ダメキャラ」が一種のクッション役になって、ギスギスした雰囲気を和らげてくれることもある



実に細かいことがいっぱい書かれています。紹介した他にも、業種や地域別の販促方法、店舗リニューアル方法、衛生管理法、従業員の教育管理方法、クレーム防止法など、まだまだいっぱい経験に裏打ちされたノウハウが、この本に掲載されています。

飲食店と関係のない方でも、読むと勉強になることが目白押しではないでしょうか。
[ 2010/03/29 07:50 ] 営業の本 | TB(0) | CM(0)

『これから食えなくなる魚』小松正之

これから食えなくなる魚 (幻冬舎新書)これから食えなくなる魚 (幻冬舎新書)
(2007/05)
小松 正之

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食糧難になったとき、人間は何を食べたらいいか?

食糧難になると、まず穀物が値上がりします。その穀物を飼料とする肉類も値上がりします。そうなれば、貴重なタンパク源として、魚類と昆虫に注目が集まるのではないでしょうか。

昆虫は少し気味悪いですが、魚なら、何でも食べられると思います。実際に、昨年、ブラックバスの料理を食べましたが、淡白な味で、白身魚のフライにはピッタリのように思いました。

それなのに、なぜ、池にいっぱいいるブラックバスは食べられないでいるのか?また、川にあふれるほどいる魚たちも、なぜほとんど食べられていないのか?

魚、漁業、魚加工業はどうなっているのか?興味があって、食べる魚に関するいい本はないかと探していました。

この本は、日本や世界の漁業の現状と問題点がきっちりと書かれています。非常に参考になりました。

「本の一部」ですが紹介したいと思います。



・魚を丸ごと調理する家庭が減っている。干物のような食材も食べなくなった。各地の雑魚を日常的に食べている家庭もほとんどないが、今でも日本人は魚を年間65kg食べており、世界一である

・主要な漁業資源の75%以上が「これ以上獲ってはいけない」状態にある。「もっと獲っていい魚は25%しかない

・諸外国の消費量は、軒並み増加の一途。65kgの日本は依然1位だが、韓国は60kg近くまで急増。中国は25年前の5倍以上の27kgまで増えた。EUやアメリカも着実に消費量を増やしている。世界は空前の魚食ブーム

・日本の漁獲量は20年前までは世界1位だったが、今では、中国、ペルー、インドネシア、インド、チリに次ぎ世界6位になった

・日本の養殖業における外国依存度が高まっている。エサの輸入依存率は80%。実質的には「外国産」

・最近は魚の加工業者でも魚を目にすることがなくなってきている。外国から材料がすり身の状態で輸入されるので、かまぼこ製造業者は実物の魚を見る機会がない

・多くの漁師が、たくさんいる魚を獲ろうとせず、わざわざあまりいない魚を獲りにいこうとするケースが多い。彼らが求めているのは、「簡単に獲れる魚」ではなく「高く売れる魚」だから

・100年前日本には300万人もの漁業者がいた。日本人の20人に1人は漁業に従事していた。現在はたったの22万人。そのうち半分近い10万人が60歳以上

・ノルウェーの最新式の底はえ縄漁船は作業環境が優れているだけでなく、サロン、ベッドルームなどもホテルのような居住環境で申し分ない。こうした効果もあって、若年乗組員の確保に成功している

・漁師がどんなに海で魚を大量に獲っても、陸のほうに加工業者がいなければ、その大部分を売ることができない。加工業者と漁師は持ちつ持たれつの関係。漁業の生産量を上げようと思ったら、その受け皿である加工業も同時に増やさなければならない

・漁業に関わる人や船が減り、漁港の利用頻度が減っているのに、水産庁の予算のうち3分の2が漁港整備に振り分けられている。漁船を新しくすることに使ったほうがよほど意味がある

・欧米の魚市場はクローズドシステム(鳥の侵入を防ぎ衛生面に配慮)で、箱もプラスチック(発砲スチロールに比べ何回も使えて環境に優しい)。日本の魚市場は時代遅れも甚だしい

・世界の漁獲生産量はこの50年間で7倍(中国を除いても5倍)。マグロ類の漁獲は、50年間で15倍の異常な伸び率

・ヨーロッパの巻き網船を1隻減らしただけで、はえ縄船を30隻減らしたのと同じ。漁業資源悪化の元凶は巻き網船。しかし、巻き網船の減船は国際会議で合意できず

・この30年間、竿釣りによる漁獲量は横ばい状態。増えている分はすべて巻き網によるもの

・今はマサバよりゴマサバを獲るべき、食べるべき。さらに、ゴマサバ以上に積極的に食べるべきなのがサンマ。海洋のレジームシフトの魚種交代でサンマは高位で安定。にもかかわらず、サンマの漁獲量は増えていない

・ブリ類は出世できないうちに獲られてしまう。巻き網による漁獲量は増加しているが、定置網による大型魚の漁獲尾数は減少。巻き網の漁獲量を押し上げているのは、0歳と1歳の若齢魚

・スケソウダラは、マイワシやマサバ同様、冷たい海を好むので、現在の海洋環境では減ってしまう。スケソウダラをすり身にするのはもったいない

・ホッケは大衆魚だから獲っても儲からないと漁業者に敬遠されてきた。しかし、この資源を有効に活用しない手はない

・鯨の資源が悪化したのは、アメリカが鯨油ほしさに乱獲したのが原因。18世紀始めから19世紀終わりまで200年間、毎年10000頭ずつ獲ったため、絶滅寸前までになった

・現在、1万頭しかいないシロナガスクジラを獲らせろと言っていない。100万頭いるミンククジラなら2000頭、12万5000頭いるニタリクジラなら数百頭ぐらい獲るのを認めてほしいと国際捕鯨委員会に求めているだけ

・漁業資源の減少とクジラの増加に因果関係がある。その調査を踏まえて、クジラと魚の資源量をコントロールすべき。クジラはオキアミなどを大量に食べている。これをうまくコントロールして間引けば、人間が利用できる資源が増える

・全体の漁獲量を、それぞれの漁業者に割り当てるIQ方式を採用すれば、他の漁業者をライバル視して「人より余計に獲ろう」という意識はなくなる。主要な漁業国で自国の200カイリ内でオリンピック方式を採用しているのは日本だけ

・日本の水産予算は2600億円くらい。アメリカは3000億円、EUは5000億円。ただし日本の水産予算の3分の2が漁港整備の公共事業に使われてしまい、漁船とシステム改善に回される予算はたった50億円しかない

・アメリカでは「この魚は獲りすぎだからレッド」「この魚は原資を残しながら利子だけ利用しているのでグリーン」「こちらはやや危うい状態のイエローの状態」といった細かい情報が公開され、国民の間で共有されている



この本を読む限り、リーダーシップを発揮しない水産庁の関係者が、利権団体になってしまい、日本の漁業の発展を阻害しているように感じます。民(漁業者)の足を引っ張る官(水産庁)という構造ではないでしょうか。

日本は、海の面積まで含めると、世界有数の国土面積を持つ国です。その海の資源である魚や漁業関係者を長期的な視野で育成する必要があります。日本政府が、食料自給率を本気で上げようと思っていないのが残念です。

しかし、漁業及び漁業関係者が、政府と一体となって儲かる仕組みをつくっていけば、夢のある産業に変わるように思いました。

食品関係に勤務されている方や食料自給率に興味のある方には、読み応えのある1冊ではないでしょうか。
[ 2010/03/26 06:59 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『日本人が知らない巨大市場・水ビジネスに挑む』吉村和就、沖大幹

日本人が知らない巨大市場 水ビジネスに挑む ~日本の技術が世界に飛び出す!日本人が知らない巨大市場 水ビジネスに挑む ~日本の技術が世界に飛び出す!
(2009/11/11)
吉村 和就沖 大幹

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上下水道事業を合わせた水ビジネスは、世界で100兆円の市場規模に拡大するそうです。この本では、そのうち何%のシェアを日本がとれるかの論点をもとに、内容が構成されています。

水という当たり前のものが、水ビジネスに化ける理由を、2人の著者が真面目に対談し合っている、面白い本です。

この本の中で、水について、新たに知った点が30ありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・OECDの20世紀後半50年間のデータでは、人口が2倍になったら水需要が6倍になったと示されている

・水がなかったり、水が不足している途上国は、だいたいが貧困の問題を抱えている。水問題の解決は貧困の撲滅につながる

・生きるのに、絶対必要な水と食料、エネルギーを三位一体で考えないと、水問題は解決しない

・「マイグレーション」とは、水問題によって農耕地がなくなり、それでまた難民が増える。その難民が水の豊かなところに移動してくること

・水は、「飲み水」「農業生産、工業生産のための水」「生活用水」「生態系維持、環境保全のための水」「嗜好品としての瓶詰めの水」の問題、これらは分けて考えた方がいい

・日本では、1日1人当たり300ℓの水道水を使っている。40~50年前は、この半分で暮らしていた。国連では、1日1人当たり70ℓよりも少なかったら「水ストレス」を感じると定めている

・日本は農耕稲作民族で、水争いが絶えなかった。今ある取水権は、江戸時代の慣習法がそのまま法律になっている

・アメリカのカリフォルニア州やニュージーランドでは、自分が持っている取水権を売る権利ビジネスが登場している

・ライバルの語源は「リバー」。有史以来、川の水をめぐる争いが発端となった人間同士の争いが繰り返されている

・富士山麓や阿蘇山の麓は、外資系のデベロッパーによって買われている。今は土地と森林を買っているわけだが、そこはいずれも素晴らしい水源地。土地を所有する人が地下水をすべて所有することで本当にいいのかという話になる

・食糧を輸入したら、その国の水資源をどのくらいの量、節約することになるのかを説明するのが、本来のバーチャルウォーターの概念

・日本のバーチャルウォーターの総輸入量は年640億立方メートル。日本国内の年間灌漑用水使用量は570億立方メートル

・米1キログラムを作るのに3600ℓの水を使う。身近な食べ物の水消費原単位は「牛丼並盛1,890ℓ」「ハンバーガー2個+ポテト2,020ℓ」「月見そば750ℓ」

・日本の地方には、水資源がいっぱいあるところがある。その地区で水循環していれば問題ない。水の場合「シンク・グローバリー・アクト・ローカリー」という考え方が必要

・蛇口から直接飲める水が出る国は、日本、オーストラリア、アメリカ、スイス、フィンランド、スウェーデン、デンマーク、カナダ、オーストリア、フランス、ニュージーランドの11カ国

・日本には、一番お金がかかる維持管理のことを考えないで設計している水道施設が多くある。インフラを作った人が最後まで責任を持つことになったら、効率的に設計するようになる

・上水道の保有資産は40兆円。下水道の保有資産は80兆円。毎年老朽化していく資産を更新していくために、1年で6兆円が必要になる。ところが、日本の上下水道料金収入は年間6兆円。つまり、その額をすべて更新費用に充てなければならない

・日本には、世界的に見ても優れたし尿処理の技術、合併浄化槽の技術があり、発展途上国にすぐに持っていけるものだが、海外に知れれていないのは残念

・日本が比較優位の分野は、「漏水防止技術」「水質の微量分析技術」「上下水道の維持管理技術」「海水淡水化のRO膜」「下水再利用のMF膜、UF膜」

・水行政に関わる省庁はバラバラ。水道は厚労省、下水は国土省、農業用水は農水省、工業用水は経産省だが、水源は皆同じ。水統合管理ができていないので、かなりの部分が非効率で、無駄な投資になっている

・東南アジアで水ビジネスを手がけるときの3カ条は「盗水」「漏水」「不払い防止」。この3つを押さえないと、絶対に事業として成立しない

・武田信玄は、山から流れてくる水を3つに分けて、「三分一湧水」という、みんなが見えるように水路をつくっている。水争いの仲裁が非常にうまいリーダーだった

・ボトルウォーターの売上は7000億~8000億円。これに対して、日本国内の水道料金は、1700の自治体で年間3兆2000億円。大きな水ビジネスは後者

・水ビジネスの中でマーケットが大きいのは上下水道の民営化。水がない中近東地域は10兆円以上の市場規模。主力は海水淡水化。世界の海水淡水化市場は年間9~20%の伸び

・中国向けの水ビジネスは、民間向けでは、工場排水処理、排水リサイクル事業が狙い目。特に膜処理が伸びる

ヴェオリアスエズのような水メジャーと同じことをやっていてはダメ。彼らが狙わないような、工業団地の排水処理、島嶼系向けの海水淡水化装置、石油化学工場向けの廃水処理などの市場に手をつける戦略が必要

・水情報を収集するデジタルセンサーが世界中にばらまかれている。最近は地中の水分までわかるようなセンサーも開発されている。これは世界中の水資源、エネルギー、食料まで把握できてしまうことを意味する

・先進国が「衛生状態の改善」と主張しても、バイオトイレットはなかなか普及しない。排泄物がお金に変わる仕組みが必要

・今、民間の資本で給水を受けているのは、世界で約6億人。世界人口の10分の1に相当する

・水は翌年の穀物相場を決める重要な要素になるので、世界の三大穀物商社も水の予測をしている



水と食料とエネルギー、これはライフラインになるものです。この市場は、当然大きな市場になりますし、国家戦略上も重要な産業です。

その中でも、水は、急に伸びていく市場のように思われます。蛇口をひねると飲み水が出てくる国が世界でほとんどないという事実を、日本人はあまり知らないようで、水の重要さにピンと来る人が少ないのかもしれません。

水をわかりやすく、総合的に解説した本は、今まで少なかったように思います。この本は、貴重な書ではないでしょうか。
[ 2010/03/25 08:03 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『おひとりさまの防犯術-女子必携これ一冊で泣き寝入りナシ!』平塚俊樹

おひとりさまの防犯術―女子必携 これ一冊で泣き寝入りナシ!おひとりさまの防犯術―女子必携 これ一冊で泣き寝入りナシ!
(2009/12)
平塚 俊樹

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単身者世帯が増えています。未婚者、高齢者など、これからも「おひとりさま」が増え続くのは確実です。

この本は、おひとりさまが遭遇するかもしれない、レイプ、ストーカー、結婚詐欺、宗教勧誘、マルチ商法、投資詐欺、カード犯罪、空き巣、引ったくり、実家の親を狙う悪徳業者、セクハラ、パワハラ、ネット犯罪などが網羅されています。

これらの予防法、対処術、犯罪事例犯罪手口、相談先などが、細かに記述されており、おひとりさまの味方になる、頼もしい書です。

防犯、護身術として、役に立つと思えた箇所が20ありました。「本の一部」ですが、これらを紹介したいと思います。


・防犯5カ条、その1「お金がないふりをする」
彼氏にも、寝食をともにする夫にも、お金があることを悟られてはいけない。「いくらある」と公言しないこと

・防犯5カ条、その2「孤独と思わせない」
高所得で高学歴の独身女性は、詐欺師から見れば絶好のカモ。トラブルに遭っても、プライドの高さゆえに公にしないという特徴を見抜かれている。間違っても「彼氏いない歴10年」など口外しないこと

・防犯5カ条、その3「味方をつくる」
常に人に囲まれていれば犯罪に遭う確率を低くすることができる。友達をしょっちゅう呼ぶ、近所づき合い、地域活動への参加など、自宅を人の輪で包囲すること

・防犯5カ条、その4「人を見る目を磨く」
犯罪に遭う女性は、意外にも「真面目で一途」「正義感が強い」「おとなしくて堅実」なタイプ。エリートの道をまっすぐ歩んできたような人。人を見る目が甘く、ウソごまかしを見抜けない。人生の裏表を味わった女性は、したたかで人を見る目がある

・防犯5カ条、その5「法律は万能ではない」
人間関係のトラブルでは、その後、人間関係が修復できないことや加害者が法律で罰せられても報復にやってくる場合もある。法的な解決は犯罪やトラブルを一掃できるものではない

・裁判を傍聴するとわかるが、レイプ犯は想像以上に「普通の人」で驚く。ということは、どんな相手でも危機感を忘れてはいけないということ

・警察も推奨しているが、人けのない場所を夜遅いとき通るのは、携帯で会話しながら帰るのが一番の防犯になる

・レイプが意外と起きているのは、被害者本人の自宅。新聞勧誘や宅配便を装って宅内に侵入したり、帰宅時を狙って家に押し入る犯行が多い。防犯ブザーや非常ベル、拡声器を置いておくのも役に立つ

・マンションやアパートの管理組合がしっかりしているとストーカーに狙われにくい。入口付近に警察官立寄所のプレートや防犯協会のポスターが掲示されているのも重要

・お客様相談室で、電話応対する女性に、ストーカーの変態心が刺激される場合がある。名前を名乗らせる企業も多く、身元を探り当ててくる。クレーマーストーカーには、金と時間に余裕があって、社会的地位の高い人が意外に多い

・女性単身者の平均貯蓄高は、20代女性144万円、30代女性472万円、40代女性868万円。これは犯罪者の格好の獲物。犯罪者が狙うのは、こうした堅実な女性の「金」

・お見合いパーティーや婚活パーティーには、詐欺師や金目的の犯罪者が当然潜入している。主催者もグルの場合もある。イケメンの男性が多かったり、条件のいい男性ばかりなら疑ってかかるべき

・詐欺師は人を外見から判断することに長けている。マイペットボトルやお弁当持参のマメな女性は、倹約家でお金を貯め込んでいるニオイがするので、狙う目安となる

・男性とつき合うことになったら、自分の女友達数人に紹介する。周囲が反対する男、怪しがる男には注意が必要。そして、彼の友達も複数紹介してもらうようにして、自分の目で確かめること

・宗教もマルチ商法も、自分だけ抜け出すのは難しい。迷っているときは判断力が鈍るので、3人のご意見番(信用できる異分野の頼れる知人)に意見をきくことがトラブルを回避する

・ナンパもキャッチも街頭で声をかけられたら一切無視。まったく答えず通り過ぎるのがいちばん。声かけに応じない姿勢が大事

・投資商品で「元本保証」を謳うことは「出資法違反」となる。つまり、金融庁の登録のない違法な商品。利回りや儲けを具体的にスラスラと話すのは詐欺。違法なものに手を出した人は法律も守ってくれない

・やたらポイントカードをつくらないこと。受けつけた店や店員が悪用しようとしたら、住所だけで、役所の住民基本台帳を検索閲覧できる

・隣りが空き室のマンションやアパートは要注意。ベランダづたいに空き室から侵入される危険性がある。地域で、空き巣や引ったくりが一度発生したのなら、二度三度と起こる確率は高い

・ネット上でかわいく撮れた写真を載せるのは非常に危険。自宅にまでストーカーが押し寄せた事例はいくつもある。「近所の○○へ行きました」の情報だけで、住所、電話番号、経歴まで暴かれる。伏せ字やイニシャルにしてもムダ



この本に出てくる多くの手口や事例を知るだけで、犯罪を未然に防ぐことができると思います。

これは、主に独身女性向けに書かれた本ですが、独身男性の方も読む必要があるのかもしれません。特に、お金のトラブルに関して言えば、男性の方が被害に遭う確率が高いのではないでしょうか。

人生の裏表を味わってしまう前に、是非一読しておきたい本です。
[ 2010/03/23 07:03 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)

『マキアヴェッリ語録』塩野七生

マキアヴェッリ語録マキアヴェッリ語録
(2003/07)
塩野 七生

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マキャヴェリの君主論は有名ですが、君主論だけでない彼の思想が、この本に網羅されています。

リーダーシップとは何か、人間とは何か、負けないためにはどうすべきか、などが書かれています。

人間の本質は、何も変わっていません。したがって、時代が変わっても、リーダーたちに、マキャヴェリは読まれ続けています。

今回、改めて、読んで、ためになった箇所が15ありました。これらを「本の一部」ですが、紹介したいと思います。


・君主(指導者)たらんとする者は、種々の良き性質をすべて持ち合わせる必要はない。しかし、持ち合わせていると、人々に思わせることは必要である(君主論)

へつらいおもねる者たちから逃れるには、あなたに真実を告げてもあなたが気分を損じないという保証を示すことしかない(君主論)

・指導者をもたない群衆は、無価値も同然の存在である(政略論)

・思慮に富む武将は、配下の将兵を、やむをえず闘わざるをえない状態に追い込む。同時に敵に対しては、やむをえず闘わざるをえない状態に、なるべく追い込まないような策を講じる(政略論)

・金銭で傭うことによって成り立つ傭兵制度が役立たないのは、兵士たちを掌握できる基盤が支払われる給金以外にないところにある。これでは、彼らの忠誠を期待するには少なすぎる(政略論)

・人の運の良し悪しは、時代に合わせて行動できるか否かにかかっている(政略論)

・人間は、自分が最も大切にしていたものを奪われたときの恨みを絶対に忘れない。しかも、そのものが日々必要なものである場合はなおさらである(政略論)

・民衆は群れをなせば大胆な行為に出るが、個人となれば臆病である(政略論)

・他者を強力にする原因をつくる者は自滅する(君主論)

・人間というものは、往々にして、小さな鳥と同じように行動するものである。つまり、眼前の獲物にだけ注意を奪われていて、鷹や鷲が頭上から襲いかかろうとしているのに気がつかない(政略論)

・人間というものは、危害を加えられると思いこんでいた相手から親切にされたり、恩恵を施されたりすると、そうでない人からの場合よりはずっと恩に感ずるものである(君主論)

・はじめはわが身を守ることだけ考えていた人も、それが達成されるや、今度は他者を攻めることを考えるようになる(政略論)

・ある人物を評価するに際して最も確実な方法は、その人物がどのような人々とつきあっているかを見ることである(政略論)

・中くらいの勝利で満足する者は、常に勝者であり続けるであろう。反対に、圧勝することしか考えない者は、しばしば落し穴にはまってしまうことになる(フィレンツェ史)

・われわれが常に心しておかねばならないことは、どうすればより実害が少なくてすむか、ということである(政略論)


社長、部長、主将、理事など、組織に違いはあるにせよ、これらのリーダーたちは、組織の構成員が幸せになるように、働かなければなりません。

そういう立場にいる人は、厳しい現実を突きつけるマキャヴェリの本を一度読むべきなのかもしれません。リーダーの重さを知る上で、役に立ちます。
[ 2010/03/22 08:08 ] 偉人の本 | TB(0) | CM(0)

『日本への遺言-福田恒存語録』

日本への遺言―福田恒存語録 (文春文庫)日本への遺言―福田恒存語録 (文春文庫)
(1998/04)
福田 恒存

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福田恆存氏がなくなって、すでに15年経ちました。最近は、著者のことを知っている人が少なくなったように感じます。

福田恆存氏は、文芸評論家、政治評論家、エッセイスト、翻訳家、劇作家、劇団主宰者などの多面的な活躍をされた人です。知の巨人であり、慧眼の師であり、もっと評価されて然るべきの人だと思っています。

この本は、福田氏の作品を編集したものですが、どの頁を読んでも、哲学書のように感じます。その深い洞察力に感銘します。

この本の中で、世の本質、人間の性質を新たに学べた箇所が、30ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・自由によって、人は決して幸福になりえない。自由が内に向かうと孤独になり、外に求めれば、特権階級への昇格を目指さざるをえない

・日本の進歩主義者は、進歩主義そのもののうちに、そして自分自身のうちに、最も悪質なファシストや犯罪者におけるのと全く同質の悪が潜んでいることを自覚していない。人間の本質が二律背反にあることに、彼らは思いいたらない

・正義と過失、愛他と自愛、建設と破壊が同じ一つのエネルギーであることを理解していない。正義感、博愛主義、建設意思、それらすべてが、その反対の悪をすっかり消毒し払拭しさった後の善意と思い込んでいる

・罪や悪は、私たちが思っているほど、善良な市民生活から遠いところにあるものではない。ただ、私たちが、そのわなに陥らないのは「小心」のためであり、機会がないためである

・寛容という言葉は、使用者がそう思っているのと相反して、道徳や精神とは全く無関係のものである。ただ厭な相手に我慢し、それが滅びるのを待つという戦術用語に過ぎない

・民主主義というのは論争の政治である。それを「話合い」の政治などと微温化するところに、日本人の人の好さ、事なかれ主義、生ぬるさ、そして偽善がある

言葉の本質は意の伝達にあるのではない。そもそも意の伝達などということがあり得るのか。癌の痛みを他人に移せるかどうか考えてみるがいい。呻きは同情を誘うことができるとしても、同じ痛みを与えることはできない

・過去を限定することは、そのまま未来を限定することを意味する。愚かしい過去からの脱出と、輝かしい未来に対する期待というヒューマニズムの看板を掲げることによって、我々から過去のみならず未来をも奪い去ろうとしている

・民衆は心理的に動く。文化人は論理的にものを考える。だから、論理的に割り切って進めぬ民衆が、文化人の眼には愚昧と見え、民衆の迷いを文化や学問で救いあげてやろうという、とんでもない仏心をだす

・反権力的抵抗者としての知識階級は、自分達の敵とする権力者もまた知識階級であることを忘れている

・論理の面からは不合理であっても、心理的には合理的であるという例が、この日本にははなはだ多い

・世の中には危機感を食い物にする人種がいる。新聞雑誌ジャーナリズムを始め、それに依存している知識人がそれである

・われわれが敵として何を選んだかによって、そしてそれといかに闘うかによって、はじめて自己は表現せられる

・教育において可能なのは、知識と技術の伝達あるのみ。「教育好き」はそれ以上の欲望を起こす。つまり、相手の人間を造ってやろうとするが、どうしてそんなことが教師に可能か

・アランは「教育論」で訓練を重要視している。訓練とは子供が厭がることを強制することであり、子供の意識に媚びぬことである

・自分というものの扱いにくさは、それを表現することの難しさにあるのではなく、それを隠すことの難しさに拠るものである

・縦ばかりではなく、横の距離を保とうとする心の働きが敬語の主要な機能である。敬語によって冷酷に相手をしりぞけ、突き放すことができる。日本人に稀薄と言われる「自我意識」「自他対立の意識」が確立できる

・日本人、あるいはアジア民族は、物質的経済条件に支配されやすい民族であって、精神主義というものが、この国に根づいたためしは一度もない

・態度は現実的であり、本質は理想主義であり、明らかに理想を持っているというのが、人間の本当の生き方

・自然と歴史と言葉、この三者は知識としては教育の対象ではあるが、それ以上の教師であることを忘れてはならない

・遊びを「道」にしてしまわなければ、安心して遊んでいられない何かが日本人にはある。あるいは何かが欠けている。欠けていると見れば、そこに貧しさが窺われてくる

・上の者は下の者の面倒を見、下の者の過失を庇うべきというのは、封建的な縦の人間関係に基づく考え方と言える

・一家の仲間うちの争いを嫌う日本人は、仲間そとに対して、その逆に出る。仲間うちのごたごたに耐えられなくて、その結果、外に向かうということもあり得る

・便利は暇を生むと同時に、その暇を食い潰すものをも生む

・人間のうちには、善意と悪意の二つの心の働きがあるのではなく、ただ生きたいという一つの心の働きがある

・私たちが堪えられないのは、受苦そのものではなく、無意味な受苦、偶然の受苦、とばっちりの受苦、自分の本質にとって必然でない受苦、それが堪えられないのだ

エゴイスティックな人間は信用しないと言う人のほうが危険。なぜなら、自分のエゴイズムに気づいていないから。エゴイストが真に危険であるのは、自分のエゴイズムに気づいていないとき

・シェイクスピアから私たちが受け取るものは、作者の精神でもなければ、主人公の主張でもない。シャイクスピアは何かを与えようとしているのではなく、ひとつの世界に招きいれようとしている

・人間は生きることの平凡さに疲れきっている。だから幸福ではなく、ただ変化を、それのみの理由によって、求めたがる。はなはだしきは、万人の幸福が、自分の目的だと思ったりする

・道徳の根本は自己犠牲という観念をおいて他にない。自己犠牲も観念なら、利己心も観念、そして道徳も観念である。言い換えれば、すべては言葉に過ぎない。あるいは夢だと言ってもいい

・私たちは他人と接触する場合、何より自分の美意識と感覚とを頼りにしなければならない。同時に、自分が他人の眼に、その外形を通じてしか受け入れられないということも覚悟していなければならない

・日本では仏教は貴族の狭い世界に閉じ込められ、その中で美的に作用し、儒教のように広く教育的な効果を持ち得なかった。仏教の方が儒教よりも、はるかに深い世界認識を持ち、純粋度が高いので、容易に政治や教育に利用されにくかったということ

・フィクションは芸術の特権ではない。人生や現実も、自然や歴史も、すべてがフィクションである。人生観なしに人生は存在し得ない。どんな人間でもその人なりの人生観を持っており、それを杖にして人生を生きている



少し難しい表現も多いですが、じっくり読めば、深い味わいを感じる文章ばかりです。本当の意味の賢さに近づきたい方には、おすすめです。

薬にも毒にもなる書ですが、自分を大きくしていくのに必要な書ではないでしょうか。
[ 2010/03/19 09:10 ] 福田恒存・本 | TB(0) | CM(0)

『ネットで売れるもの売れないもの』竹内謙礼

ネットで売れるもの売れないもの―商品選びで成否の8割が決まるネットで売れるもの売れないもの―商品選びで成否の8割が決まる
(2008/08/23)
竹内 謙礼

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「ネットでの販売は甘くないよ」と最近よく聞きますが、どれほど甘くないのか?この本を読むと、よくわかります。

もちろん、穴の部分もまだまだあるそうですが、いい加減な気持ちで参入すると、失敗する確率がかなり高くなっているようです。

この本の中で、参考になった箇所が20ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・2001年と現在では、インターネットを取り巻く環境は、江戸時代と平成の違いくらいある。ライバルの店舗数が違う。広告金額が違う。客の質が違う。メルマガの閲覧率が違う。検索エンジンの攻略ノウハウが違う。まったく別世界で商売をしている状況

・ネット上には、「売れるもの」と「売れないもの」が存在しており、それを見極めないことには、時間と投資のムダを繰り返してしまう

・実店舗の世界は、集客や販促方法に幅があるので、多様な手法で商品を売ることができる。ネットの場合は、接客の部分が「無人販売機」に近い上に、「広告」と「検索」という2種類の集客方法しかない

・ネットの世界は、集客の段階で、「買う気マンマン」の客をサイトに連れ込まないと、商品購入させられないビジネスの仕組みになっている

・ネット上で「集客しやすい商品」は、「検索されやすい商品」。「検索されにくい商品」を販売できるほどネットの世界は融通の利く市場ではない。しかし、「検索されやすい商品」はライバルが多いのが実情

・検索されやすい業種は「キーワードは明確だけど、どこに売っているのか分からない商品」。それに、地域を絞り込んで探している人が存在している商品

・ヤフーなら「オーバーチュア」、グーグルなら「アドワーズ」と、検索エンジンには、検索キーワード広告が存在。検索キーワード広告は、上位に表示させるための入札制や1クリック課金のしくみがあり、広告費が高騰し過ぎている

・ネットの世界は、「検索」という機能に頼らざるを得ない。「ナンバーワン」しか生き残れない

・ライバル業者の参入が激しくなり、人気のあるヒット数の多い検索キーワード広告は、個人で手が出せる金額ではなくなってきた。すでにネットビジネスの世界は、広告費を使わなくては商品を販売するのは難しい

・販促費や価格面以外にも、ネット通販の世界は、ページ制作、受注管理、一人一人に文書の配信、ていねいな梱包、宛名の記載、決済方法などお金と手間がかかる。5~4掛けくらいで商品を仕入れなければ、事業の運営が厳しくなる

・ネットで売りづらい四大商品

食品(低単価、ライバル、写真の質、メルマガ配信)
雑貨(趣味嗜好、検索キーワードなし、利幅薄い、在庫リスク)
アパレル(サイズ色在庫、写真の質、メルマガ配信、季節変動)
美容健康(薬事法規制、キーワード広告出稿難、客の飽き)

・ショッピングモール(楽天市場など)では、「検索キーワードの数」には左右されないが、月々の家賃に相当するシステム利用料金が発生。広告費の使い方が鍵となる。そのためには、利幅とリピート性のある商品であることが重要

・パソコンのネットショップがうまくいかなくて、携帯サイトで成功したという人はいない

・ショッピングモールのネットショップ運営に向いているのは、メーカーに対して、オリジナル商品を作らせて、いかにもオリジナル商品っぽく演出できる小売業か、新商品の開発が気軽にできる中小の食品、アパレルメーカーに限られる

・ネットで短時間に売上をアップさせる方法は、「しつこいくらいに電話番号を載せる」こと。特に、買い物カゴ機能の周辺に電話番号を目立つように掲載しておくと、買い物を直前でやめる「カゴ落ち」を抑制できる。また急ぎの客からの注文を受けることができる

・商品仕入れ、卸販売、企業間取引など「BtoB」は、ネットの成長から置き去りにされた状態。Eコマースに比べ、10年遅れている

・高い売上を誇るアフィリエイターは、検索エンジン対策や検索キーワード広告の“プロ化”した人たち。アフィリエイターにメール配信対応、専用バナー提供、会社見学会無料招待など専属代理店に近い感覚で付き合う必要がある

・ネットビジネスの売上アップにつながる販促手法の検証

検索エンジン対策(手間と時間がかかる。商品によって反応薄)
検索キーワード広告(広告費高騰中。最も有効な手段)
ショッピングモールのバナー広告(ギフト、検索商品以外は要検討)
ショッピングモールのメール広告(割高、でも反応よし)
メールマガジン(良質のアドレス確保に広告費がかかる)
アフィリエイト(売れるものと売れないものの差が激しい)
ブログ(検索対策には一考の価値あり)
コミュニティサイト(売上につなげるのは難しい)
ドロップシッピング(活用次第で大きなビジネスチャンスあり)

・今までの「ネットでは何でも売れる」から、これからは「ネットでは何でも売れるわけがない」と考えたほうが自然

人がやりたがらない仕事は、市場に情報が出回っていないケースが多く、ネットで検索されている可能性が高い

・ネットビジネスの今後の展望と予測

「広告費の高騰」「ネットショップの淘汰」「メールマーケティングの衰退」「世界市場への進出」「企業間取引の増加」「制作費の低価格化」「携帯サイト市場の縮小」「副業者の増加」

ネットで売れるもの

「洋食器」「ペット(犬以外)」「鉄道関連商品」「中古車、中古バイク」「美術品関連」「生理用品」「観葉植物」「書籍関連」「CD、DVD」「病院」「動物病院」「清掃業」「便利屋」「情報商材販売」「不動産」「卸問屋」



ネットの業界に精通し、それを親身になって教えてくれる、親切で真面目な本です。

今から、ネットでの商売に参入したいと考えている人は、この本を読み、じっくり考えて戦略を打ち立てて、挑んでいくのが利口かもしれません。
[ 2010/03/18 08:40 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)

『プレゼンテーションの極意』川崎和男

プレゼンテーションの極意プレゼンテーションの極意
(2005/06/29)
川崎 和男

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著者は、車椅子に乗るデザイナーとして有名です。今では、大学教授を務め、作品がニューヨーク近代美術館の永久コレクションになるなど大活躍されていますが、当初は、認められず、悔しい思いをいっぱいされてきました。

そのころの悔しさをバネに、自分や自分の作品をどう世間に認めさせていくか、社会と闘ってきた歴史が、この本に詰まっています。

著者のプレゼンテーションは生ぬるいものではありません。生きていくための叫びのようなものです。

この本の中で、感銘を受けた箇所が30ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・一所懸命練り上げたアイデアであっても、絵に描いた餅で終わってしまうことが数知れない。絵に描いた餅は食べられない。食べられない餅は何の意味もなさない

・「食べられる餅」をつくり出すには、自らのアイデアを社会に訴え、賛同してくれる人たちをたくさんつくる必要がある。プレゼンテーションは、その夢の実現を助ける手段であり、未来をつかむための儀式である

・プレゼンテーションの3要素は「発想表現伝達」。これらをバラバラに分けて考えることはできない

・一所懸命ひねり出した「発想」を最大限生かすために、世の中へ「表現」と「伝達」を行う。その秘訣は恋愛感情と全く一致している。恋愛感情を思い出すことがプレゼンテーションの基本

・相手に「うん」と言わせる一番の決め手は、説得する本人がどれだけ自分の創ったモノや発想に対して、心から愛着を持っているかである

・プレゼンテーターは、自分のアイデアしたモノに、「発想・表現・伝達」の3点が共存していたら、市場動向の数字説明から伝達を始めるようなことはしない

・デザインを教える学校では、テクニックだけをみっちり教えるが、発想の仕方は一切教えない。ここを出た卒業生は、絵を描く技術は人一倍長けていても、「発想と伝達」の技術は貧弱なまま

・「わがまま」と「誠実さ」は、相手に自分のアイデアを語り、説得し、納得してもらうために、どうしても必要になってくる二大要素

・プレゼンテーションでは、自分の「わがまま」のすごさをアピールする。「発想」段階に奔放な「わがまま」がないと、いくら技巧的に素晴らしいプレゼンテーションであっても、心を引き付けられない。「わがまま」はオリジナリティあふれる発想の源である

・「わがまま」を発揮するには、いつどんなときでも、自分に対して正直で、素直でなくてはいけない

・プレゼンテーションで述べていくべきこと
1.なぜ実現したいのか?
2.今、時期なのか?
3.どんな効果と効用があるのか?
4.具体的にどう実施するか?
5.どのくらいの予算、準備がかかるか?
6.問題、課題は何なのか?

・面白い話ができるというのは、「わが」話を気「まま」に伝達できるということ。まるで子供のように、時間のたつのを忘れて夢中に語るため、ついついその勢いに引き込まれてしまう

・誠実さを持たない人間は、どんなに表面を繕ってもいつかはボロが出る。限られた短い時間のなかで行うプレゼンテーションならなおさら

・講演後アンケートで聴衆の60~70%ぐらい満足なら合格ライン。不満と書く人には、嫉妬している人がいる。話もしたことないのに、根拠のないケチや思い込みのクレームがあるが、「けなされる」ことは聴衆の関心の表れ

・けなされないプレゼンテーションとは、聴衆全員の機嫌をとることに他ならない。目立つ特長や印象深い内容がなければ、大勢の人に受け入れられやすいが、同時にそれは、すぐに飽きられて、忘れ去られてしまうことになる

・聴衆全員を賛成者にしようと思ってはいけない。全員が敵になろうが、伝えることは伝える。敵の作れない人間に本当の味方は生まれない

・プレゼンテーション中、シナリオを守ろうと躍起になってはいけない。シナリオはむしろ壊されるべきだ。いざというときには、放棄する勇気も必要

・「この図面を見てください」と、わざと小さめの図解画面を見せる。聴衆はよく見ようと、自然に体と顔が前傾姿勢になり、「息をのます」。その後、うなずかせて「息を吐かす」。この呼吸感のコントロールが、聴衆を話に集中させる

・パワーポイントの機能には、画面から画面への転換に限度がある。歌と同じように、プレゼンテーションにはどこかでブレスが必要。どこでブレスさせるかで、聴衆のノリも微妙に変わってくる

自分の考えをまとめるコツは「落語の大喜利」を活用すること。説得は、「かけて」「説いて」、納得は「その心」

・プレゼンテーションの場で、発表者の最初に「テンプレート機能」が使われていると、うんざりする。発表者のスケールや人格までもが小さく見える。日本人の横並び感覚に幻滅する

・なぜ多くの人がツールにとらわれるのか?
1.時間がない(考えない)
2.手先が不器用(絵や写真に興味なし)
3.面倒くさい(熱意なし)
4.手早く済ませたい(創造力の欠如)
5.ともかく便利(図を描くのが苦手)
根本的な原因は、発表者本人のオリジナリティの欠如

・全員が納得するものは、全員がそこに逃げ場をつくってしまっているということ。無難だが、際立ったところがない

・プレゼンテーションシートにテキストを書き込む場合は、画面中に1行の文節、多くても5行程度でまとめる。コンセプトとは、「ひと言」で言い切ることができる想いや意図のこと。ともかく1行表現ひと言表現を目指す

・遠くからでも一目で見える資料の文字色は、「濃い青地に白文字」「黒地に黄文字」が一番。色は文字の強調だけでなく、観客をハッとさせるためにも使う

・服装は、その人自身のセンスを丸映しにする鏡。発表者は、最適のファッションで、格好よく本番に挑むべき

・こだわりの有無はセンスとの関係値でもある。こだわる人は、物事に対する集中力があり、張り巡らしているアンテナが強い

・プレゼンテーションの最後の言葉は、人としてどう生きるか、どのような信念を持って生きているかといった普遍的なメッセージ。「人生のあり方」を観客に差し出す。一期一会の精神を結語にする



以前、格好をつけないで、ありのままの自分をぶつけ、自分の言葉で語ることの大事さを、「説得する方法とプレゼンテーションの仕方」や「講演の仕方、発表の仕方」の記事に書きました。

内容に多少の違いはありますが、メッセージを伝えるという意味で、著者も同様の意見のように感じました。

さらに、それだけでなく、大義があるなら、自信を持って、自分を売り込むことの大事さも説きます。

これは、プレゼンテーションにとどまらず、営業、面接、お見合い、発表会など、人生で相手にアピールするすべての場面で、大事なことです。

車椅子というハンディを乗り越えた著者の活力に、敬意を称すると同時に、勇気づけられます。

この本は、強い自分になりたい方や強い自分を取り戻したい方にとって、最高の1冊になるかもしれません。
[ 2010/03/16 08:57 ] 営業の本 | TB(0) | CM(0)

『ヨークベニマルの経営』新津重幸、五十嵐正昭

ヨークベニマルの経営ヨークベニマルの経営
(2009/02/18)
新津 重幸五十嵐 正昭

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ヨークベニマルと聞いてもピンと来ない方が圧倒的に多いと思います。

ヨークベニマルは、新聞記者であった故大高善雄氏が、戦後創業した福島県の食品スーパーです。年商は3200億円、この業界では稀な、経常利益率4%を誇る優良企業です。

できる会社の社是・社訓」の中でも、故大高社長の言葉を紹介しました。

「お客様に関係のない業界紙・誌の報道はナンセンスであり、マスコミに登場することが従業員の慢心、油断、おごりになる」という創業者の信念が生きており、会社を小さく見せようとする珍しい企業です。

そのため、一般的な知名度はゼロに近いのですが、数多くの商売ノウハウを有している面白い会社です。流通業の仕事に携わっていた関係で、二度ほど視察しましたが、地味だけど、「凄い店」だと感じました。

この本を読むと、その「凄さ」がよく分かります。勉強になった箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。


・ベニマル12章より
「商売はお客さまのためにある。お客さまの利益を考えよ」
「お客さまに誠意を尽くせ。これが野越え山越えの精神である」
「給料はお客さまからいただくもの。前のお客さまがあなたの主人
「経費を節約、安値を打ち出せ。これが最大のサービスなり」
「オトリ商法ではお客さまは釣れない」
「お客さまは一度はだませても二度はだませない」

異質の競争をしなければならない。それは過去のやり方を全面否定すること

・考える人(指示をする人)とやる人(やらされる人)を区別する会社は駄目になる

・ヨークベニマルは謙虚さを失わない柔らかい未完の大器になりたい。成功物語は次の成功を約束しない。成功体験は否定しなければならない

10年スパンで「乗り物」を変えなければならない。蒸気機関車から電気機関車、そして新幹線へと

・役員会では、事前報告根回し禁止。提案者にとっては、「飛んで火に入る夏の虫」「まな板の上の鯉」の心境

・相手の報酬を値切っても将来につながらない。情報価値に見合った報酬は支払うべき

・鳥の目で全体を見て、虫の目で単品具体策を練ること

・他社はすぐに追いつくだろうが、6カ月のアドバンテージでいい。さらに研究すればいい。これでいいと思った瞬間に追いつかれることと知るべき

・どうせやるならば難しい方法を採るのがヨークベニマルの真骨頂。難しいことをやり遂げてこそマネジメントの質が高まる

・妥協せずに本物がつくられるまでやり続ける。本物がつくられた後は「売り込み」。どんないい商品でも、売場に“気”がなければ育たない

・ヒット商品をつくり上げていくと、単品集中のメリハリのある売場ができてくる。単なる新商品では売上はつくれない

・品数が多いことより、どれを買っても裏切らない商品であることが専門店への道

・「やるべきことをやろう」という言葉を忘れた組織に明日はない。生き残りの王道は凡事徹底

・あの山に登ることを指示し、頂上にたどり着くという目標はこちらで示すが、登り方やどんな方法で登るかは部下に考えさせよ

・「どうしましょうか」と言って社長のところに来るな!「こうしたい」と言うなら聞こう



今、小売業はデフレの中で、生き残りをかけて、厳しい戦いを強いられています。こういう時代は、凡事徹底が基本です。

小売業だけでなく、日本の企業のほとんどが、今の時代、凡児徹底が必要なのではないでしょうか。他社が脱落していく理由は、当たり前のことを怠るのが常です。

この凡事徹底を知り、デフレ下の経営を乗り切っていくために、この本に書かれてあることは役に立つのではないでしょうか。
[ 2010/03/15 07:04 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)

『なぜ日本人は成熟できないのか』曽野綾子、クライン孝子

なぜ日本人は成熟できないのかなぜ日本人は成熟できないのか
(2003/04)
曽野 綾子クライン 孝子

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お二人の著者は、海外生活を経験して、外国から日本を見る目を持った女性の有識者です。執筆活動をされており、著書も多数あります。

この著書の中で、二人は、日本人を叱咤激励しています。その思いに同感できる部分が30ありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。


曽野綾子言

・日本人は、人生を感じてはいるけれど、それを整理して語れない

・「健全な肉体には、始末に悪い単純な精神が宿る」。病気がその人の内面を豊かにすることもある。不幸を自分の人生の糧にしないから大人になれない

・戦争は悪だと思うのはいいが、悪は存在しているから学ばなくてはいけない。貧困も病気も学ばなくてはいけない

・古代ギリシャ語で、勇気は「アレーテー」と言い、同時に、「力」「男らしさ」「徳」「奉仕」「貢献」「卓越」のすべてを意味した。つまり、勇気がないところに、力も、男らしさも、徳も、奉仕も、貢献も、卓越したものもない

・人が言うから簡単に自分の考えを変え、その通りにするのは、奴隷の思想。自分が納得しなければその通りにしないのが人権。周りが何と言おうと、私はこう生きます、と譲れない部分を持つのが、その人らしさ

・日本人には、疑いの精神がなく、疑うことが悪いことになっている。これは、幼児性の特徴で、社会と人間に対して不信を持つ勇気がないということ

・援助活動で、「人にお金を出す時は疑いなさい」「人を見たら泥棒と思いなさい」と、耳にタコができるくらい言ってきた。しかし、泥棒でも、病気の人や食べ物がなくて困っている人がいたら手助けする。両方するのが人間

・お金も物も、あげればそれで終わりではない。援助には必ず、後の調査が必要。援助金が数年に渡って、どう使われているか立入検査できないところには、たとえ国連であろうと、お金を出す必要はない

・「忍耐と寛容をもってすれば、人間の敵意も溶解できる」「報酬や援助を与えれば、敵対関係も好転させうる」などと絶対に思わないこと

・人間は、うそをうそと認識しつつ、そのうその必要性、人間性、危険性を自覚しながら、それでもうそをつけるくらいの多重性が必要。しかし、日本の教育では、裏表があるのはいけないことになっている

・心と言葉、心と行為がまったく同じ単純人間など、美しくもなければ偉大でもない。あるがまま、したい放題というのは子供のすること。意識して裏表を使い分けるのが大人。人間を単一に見ないことが成熟

・日本には、自分の意見は絶対に正しいと思っている人が驚くほどいる。世の中に、自分と考えの違う人間がいることを認めようとしない

・誰もが自己中心的な生き方をしている。どちらかに偏っていて、誰から見ても正しいことはできない。だから、人間はそれぞれの好みで、自分が正しいと思うことをやっていくほかない

・相手が家族や親友であっても、正しく理解されていると期待すべきではない。人を正しく理解できないなら、安易に人を裁くのは避けなければならない

教団の指導者が、神や仏の生まれ変わりだと言わず、質素な生活をし、信仰の名のもとに金銭を要求せず、教団の組織を政治や他の権力に利用しようとしない限り、宗教を用心する必要はない

危険のない社会は世界中どこにもない。ユートピアというのは、近代ラテン語で「ウ・トポス」、英語で言えば「ノー・プレイス」で、どこにもないという意味。つまり、理想郷はどこにもないということ

・今あるものを喜ぶ「足し算の幸福」は、出発点が低いので、わずかなものでもありがたく思える。しかし、今の日本は「引き算の幸福」。豊かさであれ、安全であれ、手に入らなければ、マイナスに感じる

・逆らいもせず、怒りもせず、どんな要求でも呑むのを「求愛」と呼ぶ。ご機嫌ばかりとっていると、相手はますます、いい気になり、要求が大きくなり、不機嫌になっていく。求愛は、実は愛から離れる行為

・チップは人間関係の非常に素朴な作り方。サービスが悪いと感じたら、別にあげなくてもいい。楽しくしてくれたらはずむ。チップは評価であり、感謝であり、賄賂であり、正当な報酬。チップが慈悲の心を育てる

・東欧動乱のとき、孤立した町に物資を投下するイタリアのボランティア自家用機が撃墜された。「危険があってもまだやりますか」の記者の質問に、生き残った一人は、「当然でしょう。そこに必要がある限り続けます」と答えた。これが究極のボランティア

・寝たきりになっても、喜びは与えられる。介護してくれる人に感謝の気持ちを伝えれば、相手はすごく喜ぶ。人の役に立たなくなった老人の最後にできる人間らしさ、ひとつの成熟の形


クライン孝子言

・日本人は真のやさしさが欠けている。日常から、何気なく弱い者に手を差し伸べて、助けてあげようという気遣いがない

・ドイツでは、外から金を運んで一家を養う人が、いちばん偉くて強い。妻が働き始め、金銭的にゆとりが出て、生活が楽になった途端、夫が積極的に家事を手伝うようになる

・食事の場が親と子供の接点になっている。そこで、学校のこと、教師や学友のこと、社会のこと、政治経済や文化のことなど、討論し合う。その中で、親は子供に生き方や生き抜くコツを教えていく

・社会の荒波に揉まれてもビクともしない子供に育てるために、ウソをつく方便を教えることもある

・子供に旅をさせるのは、外の世界で何が起こっているのか、自分の目で見、確かめさせることが目的。日本人は、子供にリスクを負わせず、冒険もさせず、安全地帯に身をおく旅ばかりさせる

物を大切にする教育は、学校でも行われる。教科書は学校から無償で借りることになっている。使い終わったら、学校へお返しする。そうやって、1冊の教科書を5~8年くらい使い回す

・今でもドイツ人の多くは、家一軒、自分の手で建ててしまう。それが、彼らの余暇の楽しみ。気に入ったデザインで家を建てたり、家具を作ったりしては自慢している

・ドイツでは、小学校はおろか幼稚園でも落第がある。幼少のころからそういう経験をすると、子供も世の中平等でないと知る。やるべきことをやらずに好き勝手していたら、必ずそのツケが回ってくることもわかる。差別が人を鍛える

・ドイツでは、ペーパーテストがよくても、自分の意見をはっきりと人前で言えなければマイナスにされる。これは、人格形成のために「対話・討論・話術」を重視しているからで、小学校低学年の「お話の仕方」の授業から教育が始まる



このお二人は、私たちの身近にいる日本人の発想とはかなり違います。この違いを肯定するか、否定するかで、その人の人生は違ってくるのかもしれません。

もし、魅力的な人になるには、モノだけでなく、外国人の考え方、思想も、自分の中に輸入していくべきだと思います。

多少違った意見でも、同じ日本人が書いたものだけに、抵抗なく読める1冊ではないでしょうか。
[ 2010/03/14 08:26 ] 曽野綾子・本 | TB(0) | CM(0)

『儒教の毒』村松暎

儒教の毒 (PHP文庫)儒教の毒 (PHP文庫)
(1994/11)
村松 暎

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以前より、日本は儒教的道徳観に縛られたままで、江戸時代から、何も変化していないのではないかと思っていました。藩統治のために利用された儒教精神が、今は、会社の統治に上手に使われています。

儒教の長所と短所の両方を見据えないと、盲信しすぎるのは危険です。特に、支配される側(サラリーマン層)にとっては危険です。「徳」を口実に搾取されることになりかねません。

逆に考えれば、自分が支配する側にいるならば、儒教精神を上手に利用するのが、賢い方法なのかもしれません。

日本人が絶対視する、儒教、論語、孔子の思想や道徳の矛盾を、故村松暎氏(慶応大学名誉教授・中国文学者)は、批判をおそれずに、堂々と意見しています。

この本の中で、儒教について、あらたに気づかされた点が20ありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・徳の悪口を許さぬという居丈高な態度そのものが儒教的な態度。論争にならない

・中国で儒教が国教になったのは、漢の武帝の時。身分の上下を厳しく説き、下の者は上の者に絶対服従するのが正しい道という教えは、専制君主にとって利用価値が絶大だった。権力と道徳を一体化することができた

・「和」は限られた人間関係をいうので、閉鎖性を持つ。したがって、国際的、世界的なルールとして成り立ち難い。団体、企業、同業者間というふうに、規模が限定される

・日本は、儒教の影響を強く受け、村の論理(小さな集団)を中心に考える傾向がある。その論理では、日本は世界の中の一国という考えが完全に欠落する。村と国・世界では、質が違うことを無視して考えている

・孔子は信を優先するが、これは観念にすぎない。政治は、信がなくても食いたい、飢えれば互いに食い合う悲しい性をもった人間を治めるもの

・中国では政治権力と富が常に連動している。儒者はその政治的権力者に政治のやり方を説いて回った。そこに富が関わってくるのは当然。たかりと言えば悪くなるが、とにかく遊説して食べていた

・孔子は周の初めを理想とした。そのころの国は「方百里」(50㎞四方)の範囲。その国の村長さんの感化という人格中心の治め方を目指した。規模が変わり、時代も進めば性格も変わる。これでは、現実にそぐわなくなる

・孔子の考え方は、常に徳のある人が政権の座に就くという前提に立っている。権力の座に就いた人が、自分は徳があると称すれば、それが徳になる。どうやって徳のある人を見出すかの手段について、孔子は何も言わない

・儒教は倫理学であると同時に政治学でもある。「よい政治を行うには」と始終言っているが、この政治学には、経済の理解が完全に欠如している。儒教の欠陥として最も大きなもの

・儒教の階層秩序の道徳が、絶対君主政治には都合がよい。その点は今も同じで、1989年の天安門事件以来、中国共産党は孔子を急に持ち上げ始めた

・「論語」の「述べて作らず」とは、教えられたこと、学んだことをそのまま創作せずに伝えることをいう。祖述ともいう。この祖述性つまり思想統制こそ儒教的な学び方である

・孔子は徳による政治を理想とした。徳がある人というのは「器」ではない。だから独創性を発揮することはないが、まわりの人を徳によって感化し、理想の政治を実現できる。しかし、これは小さな地域のみに通用することである

・徳と人望は違う。人望は、人々の望んでいる方向を的確につかんで、人をその方向に集結する力のある人物のこと。人格者だから人望があるとは限らない

・孔子の「孝」の思想は、親に対する子の絶対服従を説いている。主君と臣下に当てはめれば「忠」つまり忠義の観念になる。専制君主に臣下が絶対服従する「忠義」の秩序は、忠義のふりをして得しようとする者が出て、腐敗が生まれたことを忘れてはならない

・前漢7代目の皇帝武帝は儒教を国教にした。武帝は、私生活でも、政治でも全然儒教的な人ではなく、贅沢好きで、戦争好きで、派手好きな人であった。彼は、「臣下は決して君主に逆らってはいけない」という儒教の教えが専制政治に役立つと考えて採用した

・儒者たちは、武帝死後、武帝時代に優れた財政政策を行った桑弘羊を、商業を重んじるのは、「商は末なり、農は本なり」の考えに反するとして、獄中に葬り、獄死させてしまった

・中国で儒教を理念として政治が行われてからニ千年、儒教的理想が実現したことは一瞬たりともなかった。「農は本なり」と言っても、農民は少しも楽にならなかった

・絶対君主制がうまくいっているときには儒教が前面に出ているが、ひとたび乱世になると、老荘思想が頭を持ち上げる。儒教と老荘思想は同じ貨幣の表と裏である

・過度の道徳を要求すれば、おおかた守られない。過度の道徳なのにそれでも守るのは、報奨があるからである。道徳を利得で釣ると、道徳が怪しげなものにならざるを得ない

・儒教を学んで個人の人格を立派にするのはいい。しかし、それを他人に押しつけるのはすでに誤り。儒教は社会性について欠如している。世界を考える上で、儒教的思考は資するどころか足を引っ張ることになる



経営コンサルタントの立場で儒教を考えると、儒者と経営コンサルタントはよく似ています。

専制君主に雇われる儒者、社長に雇われる経営コンサルタントは、どうしても同じ考え、思想に至ることになります。

社長から、お金をもらって、経営コンサルタントは生活しています。そうすると、社長の能力がなくても、会社が運営できて、儲かる体質にどうするかを考えるのは当然のことです。

そのための手段として、社員に一生懸命働いてもらうことが必要になってきます。

この一生懸命働くという行為は、人格形成に役立ち、立派な職業人に成長するというプラス面があります。
しかし、儲かる体質になってからでないと、報酬を増やすことができず、社員は働き損に終わるかもしれないというマイナス面もあります。

現在の日本では、働く人の80%がサラリーマン(被雇用者)です。20%しか事業主はいません。昭和50年当時は、50%50%と拮抗していました。

世界の先進国のサラリーマン比率は50~60%です。日本だけが際立っています。その理由の一つに、儒教的価値観があるように思います。

儒教的価値観は基本的に支配者側に有利にできていることをよく見極めて、プラス面とマイナス面を頭の中で処理することが重要なのではないでしょうか。

日本人の働き方を知る上で、ためになる本です。労働組合の幹部なら、絶対に読んでおかないといけない本ではないでしょうか。
[ 2010/03/12 07:51 ] 神仏の本 | TB(0) | CM(2)

『超簡単お金の運用術』山崎元

超簡単 お金の運用術 (朝日新書)超簡単 お金の運用術 (朝日新書)
(2008/12/12)
山崎 元

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本音がズバズバ書かれている本です。日本の金融機関がいかに、あくどい商売をやっているかが正確に記述されています。

以前より、日本の金融機関は、国と癒着し、その庇護を受けるしかない、どうしようもない産業だと感じていましたが、この本を読むと、ますますそう思えるようになりました。

この本には、自分が得することしか考えていない、賤しい金融機関から身を守る方法が書かれています。

身を守るために参考になった箇所が25ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・同じ内容の金融商品は、優劣比較より「高い手数料を払わない」ことだけ気をつけていれば十分

・投資信託は銀行で買ってはいけない。銀行で購入していい商品は、決済用の普通預金を除くと、せいぜい個人向け国債だけ

・銀行の口座をつくるとき、クレジットカードが付いてくる場合がある。注意すべきは、リボルビング払い。キャッシング同様、これを利用してはいけない

・借金すればどれだけ不利か、借金を返済すればどれだけ有利か。「返済に勝る運用なし!」

・民間の多くの保険、特に医療保険や年金保険は無駄

・外国為替や商品取引のリスクは、賭けが当たった人の儲けを賭けが外れた人が支払う「ゼロサムゲーム」的なリスク。長期投資の対象には不適当

・生活に必要な当座のお金は銀行の普通預金に。残ったお金を、国内株4割、外国株6割の比率でETFに投資。リスクを取りたくないお金は、個人向け国債(10年満期)またはMRFを購入。これが超簡単お金の運用術

・生命保険は、10,000円保険料を支払っても、6000円くらいしか保障や貯蓄に使われていない商品が多い

・生命保険会社の各種経費に充当される保険料である「付加保険料」が公開されていないことは、消費者保護上、大きな問題である

・はっきり言って、世の中の金融商品の大半が、検討にすら値しない「ダメな商品」

・投資信託のアクティブ・ファンドは、運用者の優劣が極めて不安定。どの運用者が優れているか、素人はもちろん、プロの評価会社や運用者自身にとっても判断がつかない

・外国株式に加えて、外国の債券・預金でさらに為替リスクを取ると、為替リスクが過大になりやすい。為替リスクは、外国債券よりも外国株式に割り当てる方が得

・外国為替市場は「世界最大のカジノ」と理解し、投機だと割り切って楽しみとして参加すべきもの。ギャンブルは真剣に頭を使うので、賭け金が少額なら悪くない

・銀行側は、客のお金の状況がよくわかる。銀行には「今お金がない」という言い訳が通用しない。銀行員はセールスマンとして立場が強すぎる。何はともあれ警戒すること

・銀行は次の2つにビジネスモデルに転換した。「金持ちからは、投資信託や変額保険などの資産運用商品を使い、手数料で稼ぐ」「貧乏人からは、子会社のカード会社や消費者金融を使い、金利で稼ぐ」。銀行は資産運用に使わないことが肝心

・銀行は、あくまで財布がわりであり、決済するところ。銀行を使うコツは、ネットバンキングの利用など、銀行員の顔を見ないで使うのがコツ

・大口の顧客だからといって、市場で得られる以上の特別なリターンを提供してくれるようなお人好しは金融業界にはない

・個人年金保険といった口当たりのいい名前で売っているが、その実体はかつてトラブルを起こした変額保険と同じもの

・住宅を買い、そこに住んでいるという状態は、意味合いとしては、「家賃を配当してくれる株」を持っているということ

・住宅ローンを組んで自分の生活を縮小して、住宅ローンを一生懸命返済しているというのは、ある意味では、消費を節約して強制的に貯蓄をしている状態

・売り手が熱心に売っているものは、買ってもメリットがない

バランス型投資信託や保険は、信託報酬が割高で、実質的に損なファンドが多い。幕の内弁当を買うと箱代が高い、というイメージ

・国家が破綻するというパニック論の後には、資産を海外に避難せよ、通貨以外のものに替えておけという金融商品のオススメが続くのが常。霊感商法の高価な壺のようなもの



以前、「銀行の搾取から身を守る方法」という記事で、お金のある人が銀行に搾取されないように注意すべき点を書きました。

最近、銀行は、お金のない人からも搾取できるように、子会社のカード会社や消費者金融を上手に使ってきます。まさに「銀行を見たら、泥棒と思え」という状態です。

エリートが数多く入行する銀行には、高貴なる者の義務(ノブレス・オブリージュ)が必要不可欠です。日本流に言えば、横綱相撲(心技体の品格が要求される)をとらない横綱は批判されます。

ところが、銀行や金融機関は、不良横綱になり、凶暴で、手のつけられない状態になっています。うまく逃げるしかありません。

彼らの悪い手口に騙されず、損をせずに生きていくために、知っておくべきことが満載の本です。役に立ちます。
[ 2010/03/11 08:40 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)

『プロフェッショナル原論』波頭亮

プロフェッショナル原論 (ちくま新書)プロフェッショナル原論 (ちくま新書)
(2006/11/07)
波頭 亮

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著者は大手コンサルティング会社を経て、現在独立されています。クライアントの大小の違いはありますが、私も同じような道を歩んでいます。

つまり、この本に書かれてあるプロフェッショナルの精神で、仕事をしてきたように思います。

その結果、日常生活においても、「プロフェッショナル」的考え方や行動が身について離れなくなっています。なぜ、そうなったのか前から疑問に思っていました。

その疑問を、著者がすべて解き明かしてくれました。この本の中で、よくぞ言ってくれたと思えた箇所が25ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・医者や弁護士等の国家資格のあるプロフェッショナルな職業は、身分が保証されるが、コンサルタントには何もない。コンサルタントが認められるためには、プロフェッショナルとしての実質が強く問われる

・プロフェッショナルの3要件
1.高度な知識や技術に基づいた職能
2.特定のクライアントからの依頼事項を解決
3.職業人として独立した身分

・プロフェッショナルが厳しい修練や掟と引き換えに得ることができるものは自由

・金持ちとは、昔は王や領主や司教であり、近代以降は大商人や工場主や資本家である。プロフェッショナルは、いつの時代も経済的には中産階級

・プロフェッショナルは、顧客利益第一。顧客の利益に貢献してこそ価値が認められる。プロフェッショナルの仕事は、自分が帰属する組織の利益のためにするものではない

・クライアントに迎合的な提言を行えば、ビジネスとしての利益を得ることができるが、それはプロフェッショナルではない。本当にクライアントの利益を第一に考えるならば、顧客迎合的になってはならない

・プロフェッショナルの仕事は「結果がすべて」の掟を課せられる。
1.必ず結果を出す覚悟
2.問題解決指向の姿勢
3.仕事の評価も結果だけで評価

・プロフェッショナルと顧客との関係は対等。お客様が神様でもないし、自分が先生でもない。共同で問題解決に挑むパートナー

・プロフェッショナルは、相手をカスタマー(顧客)ではなくクライアント(依頼人)と呼ぶ。仕事は依頼があってはじめて発生する。つまり、プロフェッショナルは営業をしてはならない。自ら売り込むこと、広告宣伝は禁止

・「営業しない」とか「すべての依頼を受けるわけではない」といった仕事のルールは、プロフェッショナルの本質の最たるもの。どれほど高度な知識や技術を持っていても、その能力を自らの儲けのために使ってはいけない

・プロフェッショナルがクライアントから得る報酬は、パーディアム形式。一日当たりの報酬金額、すなわち日当に、依頼案件に必要な日数を乗じた額。パーディアム20万円の弁護士が10日間かかる案件の報酬額は200万円

・フィーを値引きしてまで仕事を取ろうとするのは、自分の誇りを値引きするようなもの。プロフェッショナルは一切フィーの値引きはしない。どうしても依頼人に力を貸したい場合は、超過分を無料でやる

・プロフェッショナルのフィーの設定原則に、「成功報酬の禁止」がある。成功報酬はクライアントの深刻重大な問題につけ込み、クライアント側が受け入れざるを得なくなりがちで、商業主義的な性格を持つ

・プロフェッショナルの組織形態は原則的にパートナー制。組織が割れてしまうリスクの高い多数決制を採らずに合議制を採用する。組織構成は、「親方・職人・見習い」という昔のギルドの階層構成と全く同じ

・コンサルティング組織の独特のルールは「アップオアアウト」。「昇進するか、さもなくば去るか」という選択肢が、成長と昇格を促進する

・プロフェッショナルの行動特性の一つは個人主義的であること。プロフェッショナルは人と群れるのを好まない。また安易に他人に同調しない

・プロフェッショナルにとってのチームワークとは、チームメンバーとの同調ではなく、合理的な役割分担と一人一人のミッションの死守。和を以て貴しとなす文化のわが国では当然浮いてしまう

・医者であれ、弁護士であれ、コンサルタントであれ、プロフェッショナルの仕事は、すべて現実的に問題を解決することにある。そのため、論理的であることを極めて大切にする

・プロフェッショナル独特の話法の特徴
1.明快に自分の意見や結論を示す
2.結論には必ず判断の根拠を付ける
3.選択肢や可能性を複数挙げる

・プロフェッショナルは、理屈の上では正しいが、現実的に有効でない考えや方法論は好まない。その意味でプロフェッショナルは実務家である

・「大学で教えるようになったら終わり」とプロフェッショナルの世界では言われる。大学で教える人は、知識や知力を持つ有能な人に違いないが、学生相手に教えていては、腕が鈍るという意味

・プロフェッショナルの言動やファッションには、奇抜さや他人と違うことを必要としない。クライアントの信頼を得るためには、個性を主張するよりも、保守的で常識的である方が有利

・既得権から生じる安逸は往々にして緊張感を奪い、プロフェッショナルの本分を忘れさせてしまう

・プロフェッショナルの仕事は金儲けを目的にするものではなく、経済合理性と調和しない

・現在の日本社会は、経済的価値だけが過剰に支配的地位を占める。その中で、プロフェッショナルは「さらに自らの職能を磨き、プロフェッショナルの掟を一層厳しく守るのみ」で生きていくしかない

・プロフェッショナル達が、的確さと公平さを放棄し、クライアントや自分自身の金儲け追求のために、ご都合主義な判断や処置を行えば、公益は一挙に消失する。耐震強度不足のビル、不公正な財務諸表ばかりになれば、社会は大混乱する

・プロフェッショナルのプロフェッショナルたる所以は高度な知識や技術よりも、職業上の「使命感」と「掟と規範」にある



プロフェッショナルの仕事に身を置いている人には、本当におすすめの本です。この本をいつも傍に置き、プロフェッショナルの定義を読み返すことが必要だと思います。

そういう意味で、プロフェッショナル職業人のバイブルではないでしょうか。
[ 2010/03/09 08:36 ] 仕事の本 | TB(0) | CM(0)

『教育立国フィンランド流教師の育て方』増田ユリヤ

教育立国フィンランド流教師の育て方教育立国フィンランド流教師の育て方
(2008/08)
増田 ユリヤ

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フィンランドは、OECDのPISA学習到達度調査で、過去三回、世界一の学力を維持しています。

フィンランドが世界一だということは、前から知っていたのですが、その理由が、「教育システムやカリキュラム」によるものだと思っていました。

ところが、この本を読み、それが、「一流の教師」によるものだとわかりました。

急成長の会社には、すごい社長がいます。スポーツ、芸術、芸能の分野で、一流の人には、必ず良き師匠、コーチ、指導者がついているものです。上が優秀だと、下も自然と優秀になります。

では、一流である、フィンランドの教員養成は、どう行われているのか?それが問題なのですが、その方法が、この本には、緻密な取材で、ぎっしり紹介されています。

良き指導者の養成ノウハウを知る上で、勉強になった箇所が、この本の中に20ほどありました、「本の一部」ですが、紹介したいと思います。


・フィンランドでは「人」という資源に投資して、国際競争に立ち向かっていこうと考えた。その礎になるのが教育。その目標を達成するために「現場を信頼」し、「質の高い教員を養成する」ことを改革の柱とした

・教科書も、教師一人ひとりに採択権がある、教科書検定制度は廃止され、教師は、5種類の教科書から選択する。教科書は教材のひとつと考えられているので、かいつまんで教えてもいいし、必ずしも使わなくてもよい

・職業の中でも、医師と教師は、フィンランド人にとって尊敬の対象である

・フィンランドは、他国と違い、教師になるためには修士号をとらなければならない。大学を卒業するまで5~6年かかる。延べ半年間という長い実習期間を経て、ようやく資格がとれる

・フィンランドでは、校長を中心に学校のスタッフと地域の保護者の代表が採用委員会をつくり、自分の学校の教員を採用する権限をもっている。募集の情報は、新聞やインターネットで公開されるので、全国から誰でも応募できる

・教員経験のない新人は、半年から1年程度の試用期間を経た後、本採用。経験者でも、3~5年で契約更新していくシステム。希望がなければ転勤なし。問題のある教師の解雇は、教育委員会の責任。採用は学校、解雇は教育委員会なので、学校の負担が軽減

・教員の採用基準は「好奇心旺盛で、何かのプロとしての能力に長けている人。また、人間関係が円滑で自然体な人

・教員の質を維持するために、近隣国と先生の学校交流をしている。一緒に作業をして情報交換をし、お互いのいいところを学校に持ち帰って実践に生かしている

・全体の計画表は担任の先生が作成しているが、「個々の子どもにとって効果的な方法」を常に考えていく、というのがフィンランドの教員養成の場で最も重視されていること

・フィンランドの教育実習は、小学校のクラス担任では、最低312時間の実習を2回に分けて行う。教科担当になるには、500時間以上の実習をする。教師になる道は険しい。日本のように「教員資格だけとっておく」ということにはならない

・ヘルシンキ大学小学校クラス担当コース志望者は1300人。そのうち筆記試験で1000人落ちる。300人に、個人面接と5人のグループディスカッションを実施。6人の試験官の採点をトータルし、上位100名が合格。競争率13倍の狭き門

・教える知識の量はもう十分。それよりも、あふれる情報の中で、子どもたちが自分の人生のために役立つ情報を選びとり、その情報を理解し、実際の生活で使える力を養うことが教育の重要な役割になっている。その後押しするのが、現場の研究者である教師

・教育の中で大切なのは「みんな違う」ということ。それぞれの違いをどう生かしていくのか。個々の個性や技能、コミュニケーション能力は、PISAのテストでは測れない。世界一になっても、ほとんど気にしていない

比較競争は不健康。フィンランドの「競争力のある人間」とは、社会生活の中で、その時の状況に応じて使える力を持つ人間。フィンランド流の競争力とは、自国がどうやって、自分の足で立つかという内面に向かった競争

・教育の基本とは「自分に何ができるか」を気づかせてあげること

・食料品店で働いているときに、お店の客だった校長に「うちの学校に来て働かないか?」とスカウトされた先生もいる

・フィンランドは世界の中で最も汚職の少ない国。女性の参政権をいち早く認めた国として有名。フィンランド人は、自国の政治に信頼を置いている。そのため、自国を愛する心が強い

校長の研修プログラムに当たるコンサルタント会社がある。実際に顔を合わせて研修を行うのは10日間。指導力、運営力などの指導者の資質を自己分析させ、他校の先生たちの結果と比較。この研修コースは学校運営に直接反映されるので、ヘルシンキだけで350校が参加



この本の中で、以下のような話が出てきます。

「日本人や中国人から、『フィンランドでは、どこが一番いい大学ですか』『どこの大学出身ですか』とよくきかれる。『大学のランキングは存在しない』と答えると『うそだ!そんなはずがない』と言われる」

「フィンランドには学歴や所属企業がステータスになることは存在しない。他人は他人、自分は自分という認識」

こういう価値観がわからないと、この本の理解は表面的なものに終わってしまう可能性があります。

教師が優秀で、個々の生徒の能力を引き出す努力をした結果、たまたま学力が世界一になってしまったという話です。

学力世界一に向けての教育を何もしていないし、これからも世界一になることを何も望んでいない国が世界一というのはちょっとした皮肉です。

教育とは、「一人一人の将来を考えて、その人の持つ力を最大限に伸ばしてあげること」に尽きることが、この本を読めばわかります。学校だけでなく、職場、家庭でも、全く同じことが当てはまるのではないでしょうか。
[ 2010/03/08 08:15 ] 北欧の本 | TB(0) | CM(0)

『ただ遊べ帰らぬ道は誰も同じ-団鬼六語録』

ただ遊べ 帰らぬ道は誰も同じ-団鬼六語録 (祥伝社新書148)ただ遊べ 帰らぬ道は誰も同じ-団鬼六語録 (祥伝社新書148)
(2009/02/27)
団 鬼六

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団鬼六氏は、耽美と反逆の無頼派作家です。しかし、それだけにとどまらず、成人向映画製作プロダクションや将棋出版社の会社経営もされていました。

いい時は、豪邸に住み、豪遊を重ねたりされていましたが、会社の倒産後、健康も害して、今は作家活動だけを行っています。

著者の言葉には、「快楽、欲望のままに行動し、浮き沈みが激しい人生体験」や「相場、賭け事、将棋などの勝負事に精通」から、度量の大きさを感じます。

この本を読み、人間の業の深いところを知らされた箇所が15ありました。「本の一部」ですが、これらを紹介したいと思います。



・性欲が人間の本能であるなら、性癖は人間の宿命のように思われる

性的魅力のない助平なんてものはどうしようもない

・自分の論理で生き抜き、またその論理を曲げないことが「無頼派」の重要な要素。さらに重要なのは、論理に裏付けされた行動に可愛気がないと駄目である。可愛気がないと単なる傲慢な男でしかなくなる

・相撲取りが大食するように、精神を使って仕事する作家のような人間には、多くの快楽が必要。私自身、快楽主義者と言われる生き方をしてきた

・快楽を求めること、これが本当の成熟だと思う。未成熟の人間は幸せを求める。何しちゃいかん、これしちゃいかんとね

・幸福な状態にあった時は、自分が不思議なくらいに、謙譲の美徳を発揮していたことに気づく

・大願を成就させるということは、その人の才能ではなく性格である。この性格がその人の運気を呼ぶ

・遺言もいいが、人は自分の子孫のために過去表を残すべき。人々の刻々と刻み続けた経験というものが、この世に知られずに、いや、自分の子孫や孫にも知られず、永遠に消滅することは何とも惜しまれる

・人生というものは何かの重荷と一対になって、そこに光が当たってくるように思われる

・大麻とか、コカインとかやる人間に、どうせやるなら男らしく命を賭けて、毒フグの肝をやれ、といってやりたくなる

勝利の女神に好かれるための人間の気質が謙虚と笑いであるならば、彼の謙虚は、その謙虚という概念に対して無意識であった

・こういう仕事は俺にゃ向かん、やめよう、と思いたっても、その職業が人間をつかまえて放さない時がある

・僕の本はデパートで売ったら値打ちがない。路地裏に行ったら「この本は高いぞ」という形にしてほしかった

・世の中には自分の職業に懐疑を持つ人は多いが、それは自分の性情にそぐわない仕事に従事しているからだ。自分の性癖を満足させ得る職業を選んでいる人間、これほどのしあわせはない

・世間的にも安泰であるという理論は自分を欺くことができるが、面白くないという感覚は自分を欺き得ない



欲望のままに行動し、放蕩を重ねてきた人でないと、出てこない度胸が据わった見解の数々です。

人生、経験したくても、すべて経験できるわけではありません。それらをほとんど経験してきた著者が到達した人生観は信じるに足るのではないでしょうか。
[ 2010/03/07 09:18 ] 人生の本 | TB(0) | CM(0)

『他人と深く関わらずに生きるには』池田清彦

他人と深く関わらずに生きるには (新潮文庫)他人と深く関わらずに生きるには (新潮文庫)
(2006/04)
池田 清彦

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現在、早稲田大学の教授を務める著者の本を紹介するのは、「正しく生きるとはどういうことか」「楽しく生きるのに努力はいらない」に次いで3冊目です。

共感できるところが多いので、3冊目になったのかもしれません。日本社会のおかしい点をおかしいと堂々と意見されるのが、心地よく思われます。

この本の中で、気づかされたことが20ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・原理主義とは、他人に自分の考えを押しつけて恬として恥じないという思想。他人と深く関わらずに生きることと水と油ほどの違い。二つの異なる原理主義がぶつかれば、最後はどうしても戦争になる

・他人と深く関わらずに生きるとは、自分勝手に生きるということではない。自分も自由に生きるかわりに、他者の自由な生き方も最大限認めることに他ならない

・多くの人は、自分のことを理解してほしい、認めてほしい、ほめてほしいと思っている。しかし、自分で自分のこともよく理解できないのに、他人が理解できるわけがない。認める、ほめるは、所詮フリだから、深くつき合えば、ウソがバレる

メールのやり取りをしていないと仲間はずれになる不安がある。しかし、それで仲間はずれにする人とは、最初からつき合わない方がよい。ケータイでいつも誰かとつながっていないと不安なのは、自立できていない証拠

・相手の生き方や生活を干渉しない。聞かれもしないのに意見をしない。自分の流儀を押しつけない。要するに相手をコントロールしないことが、他人とつき合う上で一番大事なこと。他人をコントロールしたいのは、権力欲の顕れ

・友とつき合うのは自分が楽しくなるためである。友とつき合って苦しくなったら損。淡々としたつき合いを望まない人とは、最初からつき合わない方がよい

・あなたの思惑に反して相手に否と言われた。人はそうやって挫折して、自分がみんなの中のワンオブゼムであることを悟っていく

・自動車の影すら見えないのに赤信号の前でじっと待っている人がいる。交通ルール原理教の鑑である。こういう人を見ると、国家に魂を抜かれたのかと思い、気の毒になる

・今から1万年以上前、地球の人口が4~500万人であった頃、人々の労働時間は週15時間程度であった。少し前まで狩猟採集生活をしていたセマイ族の労働時間は、1日平均3~4時間程度。食物を得るために最小限の労働をした後は遊んでいた

・労働を、「食うために(金を稼ぐために)、時間とエネルギーを費やすこと」と定義すれば、全く労働をしなくても、社会的人格は承認される

働くのがイヤな人(楽しいことでお金を稼げない。お金を稼げる労働はイヤなことばかり。でも、働かなければ食えない)は、「心を込めないで働く」こと。上司も客もみなロボットだと思って、心を込めずに働くと、ずいぶんと気が楽になる

・自分が楽しくなるためであれば、真のボランティアではない。人のいやがるものであれば、ボランティアの行為は賃仕事になる。ということは、他人の商売の邪魔をしていることになる。雇用の確保という観点から、ボランティアはやらない方がいい

・ボランティアとは、本来は金を支払うべき仕事をただでさせるための巧妙なコントロール装置。ボランティアをするのはいいことだと信じ込んでいるとしたら、国家というコントロール装置とパターナリズム(おせっかい主義)に魂を抜かれている

・日本の学校は、他人を当てにして、他人にものを平気で頼み、断られるとムカつくような人を育てているように思える

・最初から無理をしなければならない頼みは、どんな親友の頼みでも聞かなければよい。自分がその頼みを引き受けて楽しい場合以外は断ればよい

・他人に頼まなければならないことは多くない。たいがいの知識は、自分で調べれば判る。それ以外のことは、知人に頼むより、公的サービスを受けるか、金で解決した方が早い。恩を売ったり買ったりしない方がよい

・世間一般の多くの楽しみは、他人とつき合うこと自体を楽しみの中に繰り込んでいるため、他人とつき合うのが苦手な人には、実はあまり楽しくない

・変わり者と思われていい。むしろ、「あいつは変わり者だから」と早く思われた方がいい。給料分の仕事だけをちゃんとしていれば、周囲の人は行事に出席しなくても、誰も不思議に思わなくなる

・退屈こそ人生最大の楽しみ。誰にも迷惑をかけない。金も浪費することはない。誰ともつき合う必要もない。遊びを労働の疑似体験ばかりに求めてきた頭を切り替えさえすればいい

・死んだ人が立派な墓に入って、死んだ後も墓参りに来いと言って、生きている他人の時間を奪うのは下品。死んだら土に還ってお仕舞いというのが上品な死後

・自由に自力だけで生きようとする人は、最後は野垂れ死にを覚悟する必要がある。自由に生きたいけれども、死にそうになったら助けてくれという人は、自由に生きる資格がない

・金持ちがお金を使うのは、社会のためのノブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)。今貧乏で、金持ちクタバレと思っている人は、金持ちがクタバル前に、先にクタバルのが確実。それなら、金持ちをおだてて、お金を使わせる政策に賛成したほうがいい



著者は、当然のことを言っているにすぎませんが、著者の意見に違和感を覚える人が今の日本に多いとすれば、今の日本社会が相当歪んでしまっているのかもしれません。

働くのがつらいとき、人付き合いが苦痛になったとき、働くとは?生きるとは?どういうことか、もう一度、もとに戻って考えてみるのがいいように思います。

そういうときに、この本を読めば、吹っ切れて、気が楽になれるのではないでしょうか。
[ 2010/03/05 09:16 ] 池田清彦・本 | TB(0) | CM(0)

『1カ月100万円稼げる59の仕事』日向咲嗣

1カ月100万円稼げる59の仕事1カ月100万円稼げる59の仕事
(2008/07)
日向 咲嗣井上 栄次

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この本に出てくる起業して成功した事例は、年商10億円以下の中小零細企業ばかりです。しかも、既存職種から独立して、少しだけ新しいことを加えて起業した人が多いのが特徴です。

家電設置工事業、電気通信工事業、賃貸住宅専門リフォーム業、軽貨物運送業、訪問介護事業、電気部品加工業、産業機械メーカー、カー用品卸売業、ウェブサイト構築、ネットショップ運営、ラーメン店、焼き鳥店、デザイン事務所など、身近にある業種ばかりです。

株式上場した事例、新規分野に挑む事例の記事や本はよく見かけますが、小さな起業家(ここ10年以内に独立した人)にインタビューした本はあまりなかったのではないでしょうか。

そういう意味で、起業したい人にとって、非常に役に立つ、実践的な本です。この本の中で興味深く読めた箇所が20ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・「人がモノを買うときって、やっぱ不安ですよね。だから誰かに相談する。営業マンの仕事は、むやみに売り込むことではなくて、その不安を解消させること。それは、占い師が、人の悩みや不安を聞いて、それらを解消させてあげるのと同じなんですね」

・「100%欲しいと思っている人は、営業マンもいらない。すぐ買います。でも、この商品は、60%欲しいとか買いたいと思っているときには、不安で迷いますよね。そこで、その足りない40%を埋めて、100%にしてあげるのが営業の仕事なんです」

・「勝因は熱意だったと思います。人間はやることにウソがないかどうかだけ」

営業職志望なら、文系の人でも、ハイテク分野は大いに狙い目。いつの時代も需要がある。その関連分野で営業スキルを磨き、人脈を構築することで、より高く売れるキャリアを身につけられるようになる

・「徹底してカッコをつけないこと。もうゴミでもいいから仕事ちょうだいよって、営業に回っていた」

・大きな資本のいらない部品加工業は意外に狙い目。小さな会社で仕事を覚えて独立するのは決して難しくはない。特に営業経験豊富で仕事をとってこられる人にとっては、独立のチャンスが開けやすい業種

・経験の浅い若者がのしあがっていくためには、いつの時代も、新しい技術が大きな武器になるのは間違いない

・「いまでも、ネットの世界は宝の山。才能なんて、2割か3割。あとはすべて努力でカバーできる。苦労しないで儲かることは絶対にないが、その苦労を肉体でするか、頭でするかの違いだけ。頭でする苦労は疲れるが、そこを突破したら儲かるんです」

・「要求されたものは、絶対にその日にこなしました。とにかくノーと言わないことです」

ひとり親方で独立しやすい電気工事業界は、いまでも決して悪い選択肢ではない。ただし、職人気質にならず、「要求されたことは、断らずにこなしていく」ことが、時代の波を乗り換えて、しぶとく生き残っていく秘訣

・後継者がいないために、廃業を余儀なくされる中小企業は、日本中に無数にある。これからは、会社の看板に頼らずに、能力をみっちりと身につけた後、後継者のいない会社に転職して、経営手腕を発揮するのもステップアップのひとつの方法

・「年齢は関係ないんですが、できれば20代の若いうちに、しっかりした技術のある会社に入って、3年くらいはみっちり経験したいですね。それから独立すればうまくいきますよ」

・「人から回してもらう仕事は、『単なるアルバイト』です。でも、自分の電話に入ってきたときには、それは『仕事』です。その『仕事』をすることが営業となって、気に入ってもらえば、また使ってもらえるようになるんです」

・人々がしてほしいと思うことを、人々に施す。過剰とも思えるほど、旺盛なサービス精神を持つ。自分が求められていることに対して、おそろしく敏感に

・スタート時点では、得意分野を活かした一点突破戦略。軌道に乗るにつれ、ユーザーの求めに応じた周辺サービスを次々とラインアップに追加する



独立して成功した起業家29人は、どこにでもいそうな身近に思える方たちばかりでした。また、肩肘張らないで、自然な形で独立に至った人たちばかりでした。

将来、会社を辞めて、独立したいと、なんとなく夢に描いている人にとって、身近な現実を知る貴重な材料になると思います。

一人で始めて、小さく独立したいと願う人にとって、大いに参考になる本ではないでしょうか。
[ 2010/03/04 07:03 ] 出世の本 | TB(0) | CM(0)

『売れっ娘ホステスの育て方-「水商売」の成功マニュアル!』難波義行

売れっ娘ホステスの育て方―「水商売」の成功マニュアル!売れっ娘ホステスの育て方―「水商売」の成功マニュアル!
(2004/10)
難波 義行

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本当に真面目な本です。著者は、水商売のコンサルタントですが、ホステスの教育が楽しくて仕方がないのだと思います。

この本は、ホステス教育のマニュアルや水商売経営のガイドブックとしても使えるような内容になっています。

水商売の基本である「会話」についての考察やノウハウは、お笑い評論家や人気放送作家を凌ぐ、素晴らしい分析と手法です。著者の溢れる才能に驚いてしまいました。

最近、著者は、数多くの本を出版されていますが、この本が原点となった書であり、出世作です。

この本の中で、商売や教育といった面で、勉強になった箇所が30ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・水商売とは、アルコールを売り、店員との会話を楽しむ店。客の肉体的欲求を満たす性風俗店や客同士が会話を楽しむ居酒屋は水商売ではない。水商売に該当する、バー、キャバレー、ナイトクラブなどの店は全国に18万店。コンビニの5倍の店舗数

・水商売は昔からワントゥーワンマーケティング。客と一対一の関係を継続する「個別対応」が特徴。店の大半は1~3人で営業しているが、小さくてもつぶれないのはこれが理由

・ホステスの月収は20万円~40万円。高給と言えば高給だが、衣装代、タクシー代、電話代もかかる。また、パートタイマーであり、失業保険も退職金もない

・水商売は夢の時間を売る店。客は、そこで、できの良い部下や家族や恋人を一時的に買っているにすぎない。夢の時間を必要としなくなって、楽しい現実を手に入れた客は二度と近づかなくなるが、そういう人たちは幸せな人

・客は「居場所を求め、自分の存在を確認するために飲みに行く」。自分の話を聞いてくれて、誉めて同情してくれる店、好感を抱いてコミュニケーションをとってくれる店に魔法をかけてもらいに行く

・「1.存在感があり、輝いていること」「2.会話上手であること」「3.売れるための心構えが理解できていること」が売れっ娘になる必要条件。つまり、「輝きで人を引き付け」「会話で人の心に潜り込み」「正しい心構えで仕事をすれば」売れるということ

・人を引き付ける力が、オーラの正体。「仕事にやりがいがある」「目標達成の信念がある」「愛情に満たされている」「何かを成し遂げた自信がある」「私を見てーっと思っている」人がオーラの強い人

・輝きが強い人に勝つには、「自分からお客の心に潜り込んで、またあの娘に会いたいと思ってもらう」こと。これぞ、最も早く結果が出せる方法であり、弱者が強者に勝つ方法

・照れてできる仕事などない。無理にはじけようとすると見苦しくなる。自分が心から楽しんでなければ、人を楽しませることはできない

・お笑いタレントから真似る点は、「切り口」と「」。切り口とは、どういうふうに物事を見て、どう切り込んで話を作っていくのかということ。間とは、「オチ」にいくまでの話のテンポと「オチ」の直前の間のこと

・相手の話に突っ込めそうなところがあると、
小さな突っ込み」→(小さな笑い)→(気を緩める)→「アップテンポで話を進める」→「急に止まる間」→(ドキドキ感)→「大きなオチ」→(大きな笑い)
テンションが上がっているときほど、オチの前に長いタメをつくると、オチの内容がさほど面白くなくても笑いは取れる

・面白い話は、「フリ」「オチ」「フォロー」の3つで成り立っている。フリで話を盛り上げ、オチがあり、周りの人が感想を言ったり(突っ込みも含む)、笑ったりして成り立つ

・「使えるセリフ」は日常にあふれている。探してみて、たくさん貯めて、ここだ!というときに使う

・映画では、自分が興味ある若い男優だけでなく、女優や中年の男優、脇役のこぼれ話等、おじさん用のネタをネットや情報誌で拾い会話を膨らませる。映画に限らず、芸能関係の雑学=こぼれ話は持っておくと便利。ネタを拾い集めておく

・雑学はテレビ番組で集めると、みんな一斉に知っているので、期間を置かないと発表できない。雑学本を読めば、得意ジャンルができ、広いジャンルにも対応できる。ジャンルの引き出しが増え、新鮮な会話ができるようになる

ホスピタリティーとは、『私が楽しい』=『うれしい』ではなく、『お客が喜んでいる』=『うれしい』という気持ちのこと。これがサービス業の極論

・スピーカー(話し手)になるかリスナー(聞き手)になるかが会話。リスナーには受容と共感が大事。「受容」は相手の話を否定せず、受け入れること、受け入れたら、相手の気持ちを想像し、同じ気持ちになって「共感」する

リスナーの役割は、スピーカーの話の内容をよくすること。よくするには、
1.整理する
2.流れをよくする
3.たくさん引き出す
の3つがポイント

・良いリスナーの表現ポイント
1.必要な表現技術
タイミングの良い相づち「うん、うん」、軽い驚き「え!」、共感「わかる、わかる!」、タイミングの良い笑い声「アハハハ」
2.目からのメッセージ
相手の目をじっと見続けるのはムリなので、額から口の間のどこかに視線を移動する。慣れないうちは、眉間を見ればOK。相手が照れ屋の場合、鼻のテッペンを見ると、目が合わないので安心してくれる

・売れる娘には2タイプある。まわりがパーッと明るくなるような娘か、心をなごませてくれる癒し系の娘か

・会話をするとき、いまスピーカーをしているのか、リスナーをしているのか、意識する。そうすると、会話の意味や、それぞれの役割が理解できるようになり、受けがよくなる

・初めてのお客についたら、基本的な性格分析をする。どういう接客をしてほしいのか、話すほうが好きか聞くほうが好きか、明るいか暗いか、優しいか冷たいか、注意深く観察する。観察したら、その人によく似たお客を連想する

・会話というのは、まず自分の心を開くことで、お客の心を開かせることから始まる。落ち着き払って構えるようになると「まず自分から」という基本を忘れていく

・注意をしたら泣き出す娘には、「私に注意されて悔しいと思ってる間は、成長しないからね。仕事ができない自分が悔しいと思えたら、売れるわよ」と声をかけ、励ます

・人から見ればどうでもいいことに本気で取り組んで、初めてプロ。そして、お店全体がそういう雰囲気にならなければ、絶対に流行らない

・「仕事は全身で」と意識する。お化粧をするとき以外に、鏡を使って表情を作る練習をする。食事をするとき鏡を見て食べたりすると、良い表情の作り方がわかってくる

・ライバルや嫌いな同僚と張り合うために高価な物を買っても、お金持ちになったわけではない。お金持ち気分になって、貧乏になっただけ。客のおじさんは、色や形を覚えるのが苦手なので、服やバッグにこだわる必要はない

・「ネガティブな娘」「不満の多い娘」「お店や同僚の悪口を言う娘」「お客の悪口を言う娘」「揚げ足取りをする娘」こんな娘はいらない!

・接客の心構えは、「照れない」「媚びない」「裁かない」「驕らない



この本は、水商売に勤める女性を対象に書かれたものですが、モテたいと思っている女性全般にも有用な書です。

顔やスタイルに自信がなくても、この本のノウハウを実践すれば、必ずモテる女性に変身できると思います。

特に、男性と話すのが苦手な女性は、この本を読んで勉強したら、すぐに役に立つのではないでしょうか。
[ 2010/03/02 09:30 ] 営業の本 | TB(0) | CM(1)

『僕が不動産ビジネスであたり前だと思うことについて』松岡哲也

僕が不動産ビジネスであたり前だと思うことについて僕が不動産ビジネスであたり前だと思うことについて
(2008/07/25)
松岡 哲也

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著者は、商業用不動産会社の社長です。タイトルのとおり、当たり前だと思えるのに、できていないことが、この本の中でとりあげられています。

以前より、商業用の建築設計、デザイナー、不動産関係の方々は、
なぜ、自己主張が多く、顧客の立場に立って親身に考えないのか?
なぜ、末永く客が集まり売れる店舗を、統計データを基に設計されないのか?
動く金額が大きいだけに、不思議に思っていましたが、この本を読み、その謎が解けました。

また、この本は、ビジネスとは関係ないのですが、文章が美しく、写真も美しく、色気がにじむ内容になっています。そのため、本当は堅い話なのに、読みやすく思えました。

この本を読み、商業用不動産投資の面で、勉強になった箇所が25ほどありました。「本の一部」ですが紹介したいと思います。



・供給が十二分に満たされていくと、客は横着になり、二階へは上らなくなる。したがって、流行っている店舗は路面を目指すようになる。高層へは向かわないもの

・デベロッパーは、1フロア当たりの土地代を安くするため、建設会社は、受注金額を大きくするため、上層階の商業施設を作りたがるが、「お客様は二階に上らない」

・「肌の白いは七難隠す」ように、商業施設では「天井の高いは七難隠す」。人は、部屋の天井が高いと、落ち着きや心地よさなど「気持ち良さ」を感じる。高い天井からは高級感も生じる。天井が低くて高級感が得られる建物はない

・多くのビルのオーナーは、天井を高くすると、ワンフロア分減ってしまい、家賃収入が減ると考える。しかし、それは違う。天井を高くすると、後々の空室率を下げるし、賃料単価の維持効果も期待できる

・ビルの前面に空き地ができる高層ビルには、高級ブランド店が入ることはあまりない。入っても、高額の賃料は支払ってくれない。なぜなら、人通りのある道からショーウインドウまで10メートル以上離れてしまうから

・人はみな、特権階級に憧れる。特権階級などないことを建前にしている、アメリカ、中国、日本のほうが、ブランドへの憧れが強い

建物をリニューアルして、その結果、素晴らしく変貌した商業施設は、日本にほとんど存在しない。リニューアルを繰り返していくうちに、たいていの商業施設はみすぼらしく、貧相になっていく

・どのような世界も、未来永劫、いまの状態が続くことはありえない。だから、最悪のケースを想定して、初めから対応しておくことが重要。「投資家は不幸を想定しなければならない」

・商業施設は、初めに入ったテナントの専用建物になりがち。そのテナントが出ていったとき、建物はどうするのか?次に入るテナントは必ず「これじゃ、いやだ」と言うもの

・ユニークにして、巧妙な作りを持つ商業施設は、本当に僅かしか見たことがない。商業施設というのは、あくまで商品が主役

・建築家という人たちは、放っておけば自己主張したがるもの。人と違ったこと、珍しいことを組み入れたがる。それは本能のようなものだから、デベロッパーの注文の出し方が問題になる

・見識の低いデベロッパーが有名建築家を使うと、振り回されてしまう。その結果、勝手放題なものを設計されて、人が集まらず、空虚な建造物として、世の中から置き去りにされる。そんな建物が日本各地にいっぱい建っている

・オフィスビルは入居者が見栄を張る道具。色気があるビルは人気があるので、テナントが退去してもすぐ次の入居があり、耐用年数も長くなる。オフィスビルは、設計段階でデザインフィーをケチってはダメ。出すときは出す、惜しみなく出す

・インフラ技術の進歩に合わせるため、配管スペースを大きく空けておく。床下を使えるよう、つまり天井を高めに設計する。そうした配慮によって、オフィスビルの寿命は一気に延びる

飲食ビジネスは、料理、味、接客に全身全霊をかけ、目の前の客を満足させることに熱中できる能力が、成功する人の最低条件。「オレには、これしかないぜ」という兄ちゃんは、熱気で人を惹きつけ、低賃金で人を雇うのが巧みなので飲食ビジネスで力を発揮

・ロマンを抱き一攫千金を夢みるのは、サービス業や小売業の起業家に任せておく。不動産投資家に必要なのは、土地の見極めだけ。店が潰れたときは、土地を売ればいい。建物に手を出してはいけない

・何かのサービス業や小売業が潰れても、買った土地の周辺に人が住んでさえいれば、また新しい別の商売が生まれ、出店してくれると、土地を買う投資家は考えるべきである

・開発する人は「東京は日本ではない」と考え、特殊なケースと位置づけるべき。商圏人口がまるで違う。東京国をマネして、地方に作ると大失敗に終わる

・まちは突然できあがるものではない。大規模ショッピングセンターも、まちの形成と同じで、ゆっくり、少しずつ、着実に作っていくべき。早い時期のテナント撤退による「歯抜け」を防ぐためには、テナントを来期、再来期に分けて埋めていく計算も必要

・日本で海辺のリゾートは難しい。その理由は「蚊が多いから」「乾燥していないから」。例外は沖縄。乾燥していないけれど、蚊が少ないから、自然に触れるオープンエアが楽しめる

・気取らなければ美しさは生まれない。規制や相互監視のような「厳しさ」がなければ凛々しさが生まれない。地方都市は、気取っていないし、景観に関して規制も何もユルユルである。それを自由とはき違えている

・ハイセンスな人が「ひっそり」した空間に「わざわざ」足を運ぶ。やがて、その一角は知る人ぞ知るスポットになる。そこに、必ず新参者が入り込んでくるが、止めようがない。その結果、家賃が高くなり、チェーンストアも増える。そして、まちの旬が過ぎ去る

・客は、自分で見つけたものには強く惹かれるし、向こうが媚びた瞬間に離れていってしまう。拒否されればされるほど、欲しがるもの

・ロマンを語りながら土地の売買やビルの建設に手を出すと、リアリティがなくなり、不動産投資のリスクは上がる。不動産は金融商品。索漠さに耐えなければならない

・日本には、毎日の買い物に困る人はほとんどいない。しかし、「消費者は不便を感じている」の発想からスタートする商業施設が数多く作られる。開発失敗のツケは、結局のところ、ファンドから購入したリートの投資家である個人投資家に回っていく

・同じ利回りなら、高高案件(周辺相場より割高な土地を割高で貸す)より、安々案件(周辺相場より割安な土地を割安で貸す)のほうが、リスクは小さい



大家さんになるのが夢の人は多くいます。しかし、商業用不動産の大家さんとなると、相当なリスクと覚悟と余裕が必要です。でも、当たれば大きいのも事実です。

そのリスクの高い商業用不動産で失敗しない鉄則が書かれた本は今まで少なかったように思います。

この本は、不動産投資のリスクを軽減するのに、役に立つ書ではないでしょうか。
[ 2010/03/01 09:19 ] 投資の本 | TB(0) | CM(0)