著者は、この本で、日本は「格差社会」ではなく、「
低所得化社会」になっていると、はっきり明言しています。
そのとおりではないでしょうか。誰もが、「格差」が起こっているのは東京の中だけで、地方では、「
一億総貧乏」になっていると実感していたはずです。この「
消えた年収」は、その実感を見事に実証しています。
本来は、東京の官僚、マスメディア、大手シンクタンクが、この実態を調査しないといけないはずなのに、名古屋の小さな民間会社の「
北見昌朗」さんが、先陣を切って、調査し、発表してくれました。
この10年に、年収が、地域別、企業規模別に、いくら消えたかを具体的に示され、今の日本の現状が手に取るようにわかります。
この本の中で、現実がよくわかり、勉強になった箇所が25ありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。
・「
年収300万円以下」の人はこの10年間で32.2%から38.6%に。実に6.4ポイントも上昇。「年収1000万円超」は5.8%から5.1%へ減少。日本は「二極化が進み貧富の格差が拡大した」のではなく、「低所得化が進んだ」
・
人事院の民間給与調査結果によると勤労者の年収は過去10年間で21,000円も上昇したことになっている。これは、民間人の給与が上がったと見せかけることで、国家公務員が給与引き上げ(360000円から382000円へとアップ)するための統計結果
・
国税庁の民間給与実態統計調査の数字によれば、勤労者が受け取った給与の総額は、平成9年に220兆円、平成19年には201兆円で19兆円減っている。勤労者数は平成9年が5200万人、平成19年が5300万人と増えている。つまり年収は約1割下がっていることになる
・社員数300人未満の中小企業の社員がもらっている年収(時間外手当、賞与含む。通勤手当含まず)は、
30歳「一般男性社員436万円」「一般女性社員372万円」
50歳「一般男性社員542万円」「一般女性社員379万円」「管理職728万円」
・この10年間で、給与の落ち込みが激しいのが関西。全国で
喪失した給与の4割以上を関西が占めた。年収300万円以下の比率が27%→38%、700万円超の比率が21%→15%へ
・大阪は卸売・小売業を中心に壊滅的落ち込みを経験。全体の落ち込みのうち卸売業が46%を占めている。過去10年間、日本全国で一番可哀想な立場だったのは、「卸売・小売業で勤務している関西の男性」であった
・東北は全国で最も大きな落ち込み率17%を記録した。
勤労者の激減と年収の低下が要因。年収300万円以下の比率が42%→51%へ(全国平均は38%)。中小企業がボロボロ、ガタガタの状態。もはや出稼ぎに出るほかはないか
・九州北部地域の平均年収は414万円→373万円へ。これは額としては大阪に次ぐ下がり方。中間層(300万円超700万円以下)がこの10年で7%激減して崩壊
・中国地方の給与総額を業種ごとにみると、金属機械工業の落ち込みがひどい。給与総額が1兆6261億円→8276億円、勤労者31万人→16万人と半減。サービス業の雇用数は拡大しているが、平均年収は低下しているので、地域の暮らしの向上に結び付いていない
・一番元気と言われた名古屋でも、この10年で給与総額は5%減。増えたのは、派遣従業員だけ。年収300万円以下の比率が31%→36%へ。
自動車業界の勤労者がほとんど増えなかった
・北関東信越は男性の年収が429万円→395万円へ減少。30人以上100人未満の事業所で給与が激減。とくに、建設業は、人が2割減、年収が1割減で給与総額が3割減になった
・北陸地方は、人も減り、給与も減り続ける。勤労者数が113万人→105万人、平均年収も427万円→398万円へとダブルパンチ。10人未満の事業所は
リストラの嵐・四国は低い年収が更に下がり続け、年収300万円以下の比率が46%まで高まった。全体的に低所得化が進行。不安定な業種が多い中、その他製造業と金属機械工業は勤労者数と平均年収ともに増加している
・北海道は、勤労者数は維持できたが、年収は維持できず5%減。年収300万円以下の比率が45%を占める。建設業は勤労者が40%減、平均年収が7%減で、給与総額はほぼ半減。苦しい中で伸びたのが農林水産・鉱業(勤労者55%増、平均年収10%増)
・九州南部地域は、給与が低いなりに、平均年収、勤労者数ともに維持している。建設業、繊維工業は足を引っ張ったが、化学工業が大きな伸びを記録し、地域に貢献
・沖縄は年収300万円以下が58%。平均年収が1割減。金融保険・不動産業と卸売・小売業の勤労者が大幅減
・東京(千葉、神奈川、山梨含む)は勤労者数は4%増、平均年収は2%減。全国で唯一、
給与総額が増えた地域。大手企業(1000人以上)で勤務する比率が32%と高く、(関西圏21%、東海地方18%)1000人以上企業の給与総額が9%増。5000人以上企業の給与総額は21%増。男性平均年収は797万円→793万円と1%減で高い水準を維持
・50~54歳の年収は70万円減って667万円になり、10%減。民間は厳しい経済環境の中で、年功序列型の給与を維持できなくなっている
・
女性勤労者の給与は相変わらず低い。300万円以下の比率は63%から66%となり、勤労者の人数と反比例して増えている
・30~34歳の男性の年収も513万円から463万円へ下がり10%減。それにつれて、30~34歳の
男性未婚率も37%から47%へ急上昇している
・5000人以上の大企業の男性平均年収は50歳で950万円近く。10人未満の小規模企業は同じ年齢で500万円で、約半分。大手は50歳くらいまで給与が上がるが、中小企業は40歳以降になると昇給が頭打ち
・中小企業で働く人は全国平均で72%。地方は80%を超えている。
中小企業の衰退が進んでいるため、地方経済は惨憺たる状況になりつつある
・第2次産業が減って、第3次産業が増えると年収が下がる。特別な地域の東京を除外して考えると、「大阪は
製造業の衰退と
サービス業増加が低年収の要因」「製造業の比率が全国平均23%を下回る福岡、熊本、仙台などでは年収が低くなる」
・「給与の下落」は「物価の下落」よりも大きく生活は苦しくなるばかり。さらに、社会保険料の実収入に対する割合が増え、手取り収入は減る一方
・安定した給与を取り戻すための5つの提言
1.勤労者の7割が勤務する中小企業を育成する
2.地方に工場立地を進める
3.大手は正社員雇用を増やす
4.ワーキングプアの温床になっている派遣の拡大に歯止めをかける
5.富を吸いつくされないように
中国との付き合い方を再検討する
・過去10年で、男性の年収は576万円→542万円、女性の年収は278万円→271万円と下がった。この数値は平均値。実際には、中位数(ど真ん中の人)はそれを数十万円下回る。10年後、
夫の年収は300万円、
妻の年収は200万円、合わせて500万円時代が到来するかもしれない
この本を読み、デフレが続くと、集中現象ではなく、「独占といじめ」現象が進行するのではないかと感じました。パイが小さくなると、人は冷酷になり、
弱者いじめをするようになります。
「東京独占、地方いじめ」
「官独占、民間いじめ」
「大企業独占、中小企業いじめ」
すべては、政府が、「デフレ」「円高」「低賃金」「中国との本音の外交」を放置した結果がこうなったのだと思います。
低所得弱者は、日本で、この「低所得化」が進行していくと嘆くより、収入を求めて、世界に売るか、出稼ぎに行った方が得します。
きれいごと抜きの切実な問題として、日本にグローバル社会が訪れたのだと思います。あれこれ、論じる前に早く行動すべきかもしれません。
この本は、現実的に、そう決断させてくれる貴重な1冊になるのではないでしょうか。