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『統帥力-戦場のリーダーシップに学ぶ』松村劭

統帥力―戦場のリーダーシップに学ぶ統帥力―戦場のリーダーシップに学ぶ
(2005/01)
松村 劭

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松村劭氏の本を紹介するのは、「名将たちの戦争学」に続き、2冊目です。最近、マーケティングの本より、軍事学の本に惹かれるようになりました。

戦争で、空理空論を信じ、実行し、失敗したなら、それは死を意味することになります。したがって、軍事学には、いい加減なことが書かれていません。戦いの歴史の中の、成功事例・失敗事例が集められて、体系化された学問です。

「生きるか死ぬか」の究極の選択の中で生まれた、実践的な学問なので、「情報」「戦略」「組織」「人事」など、経営のヒントになることがいっぱいあります。

私もそうだったのですが、世間では、戦争、軍事、軍隊に対して、誤解や偏見があるように思います。過去の負の歴史からも、学ぶべき点がいっぱいあり、それを無視し、毛嫌いするだけでは、もったいなく感じます。

今回、「統帥力」を読み、学びになった箇所が30ありました。「本の一部」ですが、これらを紹介したいと思います。



・戦術においては、得意技(戦闘ドクトリン)を戦場で発揮できるように、有利な態勢をつくる。敵がその態勢にはまれば、突如、得意技を駆使して敵を倒して勝利を仕上げる。すなわち、戦術は「仕掛けと仕上げ」の部分から成り立っている

・企業においても得意のビジネスの仕方を定め、それを十分に発揮できるように戦う会社組織にするのは当たり前。企業のマネジメント改革は、戦闘(商売)ドクトリン=得意技を確立することが第一歩である

・「得意技は一つ」が原則である。数多くの得意技を持ち、状況に応じて最適の得意技を選んで使うという考え方は机上の空論であることは、軍事史の結論である

・名将たちに企業マネジメント論を批判させれば、「商売の得意技も確立しないで、何の組織論や設備論、社員教育論なのだ?」と言うことだろう

・「観る人」「射つ人」「走る人」の3名(防御なら2名)が最小の戦闘チームである

・人間とは、弱く、はかなく、そのくせ欲張りで怖がり。武力徒党は「個人は弱い」と認識することが原点である

・軍隊の編制では、一般的に3名1組が3組で「分隊」、3個分隊で「小隊」、3個小隊で「中隊」、4個中隊で「大隊」(方陣を組むために4単位)、3個大隊で「連隊」、2個連隊で「旅団」、2個旅団で「師団」というように自然発生的な組織を積み上げて編制する

・「実行は分権」の軍隊組織では、第一線部隊指揮官は変転する戦況の中で瞬時に決断して戦う。いちいち上司にお伺いを立てることはない

・「マニュアルは教育訓練には役立つ。しかし、危機に直面したときには役立たない。だから諸君は考えることを鍛えよ」(仏軍総司令官フォッシュ元帥

・軍隊組織における各部隊は、パーツではなくて、生き物であって、いつ全体組織から切り離されても戦闘組織として行動できる。すなわち、原則として、すべてのレベルの部隊は、戦闘力の要素を完結的に保有する

・兵士を見捨てるのは最低の指揮官(企業リーダー)である。社員を人員整理と称して失業させることは、軍隊が退却するとき戦闘効率の悪い兵士を戦場に置き去り、見殺しにするのと同じである

・軍隊組織は、戦死、戦傷などの損害が発生することを前提としてつくる。軍隊組織における対策は「指揮官が指揮不能になれば、次級者が自動的に指揮権を継承」と「不在になれば、自動的に勤務肩代わり」の二つ

・軍隊で一人の指揮官が激戦の最中に指揮・運用できる限界は、9~10人単位。したがって、部隊編制の最小人員数は、この9~10名となり、指揮機能は分隊長1人で担任する

・新兵器(製品)開発の組織は、一方は運用サイドに、他方は兵站(生産・補給)サイドに配置するのが適当。企業では、消費者/営業サイドの研究と技術開発/生産サイドに配置することと同じ。研究開発の成果はパテントとして両者が共有

モルトケ式参謀システムの全般的構想を採用した米・英・フランス軍では、参謀人事の欠点を徹底的に排除した。出向的人事を完全に廃止し、出先勤務は“その地で骨を埋めよ!”の人事である

・参謀の資質で特筆すべきことは、「目立たない」ことであり、部下部隊に対して「謙虚」であることである

・日本人は情報活動に弱い。その証拠が情報に関する適切な日本語の欠落である。ニュース(News)知識(Knowledge)情報資料(Information)情報(Intelligence)事実(Fact)データ(Data)観察(Observation)内報(Tip)リーク(Leak)などの用語が正確に使い分けられていない

・「成果主義」を人事評価に採り入れているところが多くなったが、軍隊ではありえないこと。「どこにも悪い連隊はない。悪い指揮官がいるだけだ」(ナポレオン)である。成果が上がらないのは、指揮官の指導が悪いから

・部隊を強くする人材は、和や評判を破壊する傾向がある。人事評価の優先規準は「部隊を強くする」ことで、人間として模範的である必要はない。この考えが欠けている指揮官は使わないこと

・地獄の辛苦を味わった人たちが、這い上がってくるには2つの要素がある。「目標を変えずに戦いの方法を改善すること」と「私欲のためではなく公益のために戦うこと」

・名将たちが指揮官に求める資質は孫子が説く「智、仁、勇、信、厳」だけではない。危機における「冷静さ」も必要。攻める時と守る時と退却する時を冷静に判断することが指揮官に求められる

・過去の経歴に敗北を知らなかった人材が指揮官になると、形勢が不利となっても遮二無二攻撃しようとする。攻撃から防御への転移、防御から攻撃への転移の時機を逃さないのが名将の条件

・地位が高い人ほど三次元(Time&Space)を抜いて議論する人が多い。三次元規定を抜くことは具体性がないことを意味する。日本人の耳には、三次元規定を抜いた話ほど高尚な話に聞こえるから残念だ

・「理屈でわかっていても、すぐに走りだせない慎重で臆病な者は、自分を正当化するために人の足を引っ張る名人」(マウリス皇帝)

・本当に智恵がある男は、一番大事なことだけを掌握しようとするが、小心で智恵の回る将軍は、すべて掌握しようとする。そして何が重要かを見落とし、部下部隊も戦いよりも報告に追われることになる

・号令された部下部隊は、現在進行形の活動を即座に中止し、新しく号令された行動に移らなければならない。新しい号令がかかれば、前の号令は自動的に取り消しとなる

・事故を起こした会社の後始末を報道で知ると、その上司が受けた罰の軽重によって、その会社の将来の展望が見える。「上に甘く、下に辛い」会社は間違いなく凋落する

・早め早めに選手を交代させる監督と事態が悪化するまで選手を交代させない監督がいたら、後者の監督は、なるべく早く監督から外した方がよい。理由は簡単。前者は「状況を判断して」決断しているが、後者は「状況に押されて」決断しているから

・「将校が兵士と接するときに守るべき原則がある。将校はウソの感情を装ってはならない。兵士は驚くほど何が本当で何が偽物かを嗅ぎ分ける。ましてウソをつくことはリーダーシップの破滅である」(ロンメル将軍

・「良き指導者は希望を扱う人だ」(ナポレオン)



「統帥力」全般の感想なのですが、この本の中には、経営に成功するためというよりか、経営に失敗しないためのヒントやノウハウが豊富にあるように思いました。

経営戦略、リーダーシップ、組織人事戦略などで、大きな失敗をしないために役立つ1冊ではないでしょうか。



[ 2009/11/30 09:35 ] 戦いの本 | TB(0) | CM(0)

『一週間で自己変革、「内観法」の驚異』石井光

一週間で自己変革、「内観法」の驚異 (講談社SOPHIABOOKS)一週間で自己変革、「内観法」の驚異 (講談社SOPHIABOOKS)
(1999/05)
石井 光

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感謝の気持ちを忘れずに」という言葉を、よく耳にしますが、具体的に、誰に、どう感謝すればいいのか、方法論が示されることはありません。

以前より、感謝の気持ちを持つ方法として、私は、内観法がいいのではないかと思っていました。

内観法の創始者である吉本伊信先生の本を読み、通勤時や出張帰りの電車の中でやろうとしましたが、長続きしませんでした。

この本の著者、石井光氏は、青山学院大学法学部教授で、犯罪者処遇、少年非行の問題を専門とされています。犯罪者を内観法で更生させる傍ら、内観学会副会長として内観法を世界各国に広められています。

内観法の本は何冊か出ていますが、この本が、わかりやすく、実践的だと思いました。1999年より、ずっと版を重ねています。

この本の中で、参考になった箇所が25あります。これらを「本の一部」ですが、紹介したいと思います。


・「してもらったこと」「してあげたこと」「迷惑をかけたこと」の3つを毎夜、日記に記す「記録内観」でも、幸福感を抱き、思いやりを持って相手に接することができる

・一週間の「集中内観」を体験した人は、その後の成長度合が違ってくる。内観をすると、ものの見方が違ってくるので、内観直後に精神の成長曲線(大人度)が上がり、2年くらいたつと、大きな差になる

・自分が今、幸せかどうかは、自分のものの見方、感じ方、考え方、他人との関わり方によって左右される。幸せに感じられないとすれば、自分のどこかに問題がある。内観とは、今まで生きてきた道を振り返って探り、幸せの道を模索する方法である

・自分は親に何をしてきたかを思い出そうとすると、迷惑をかけたことはたくさんあっても、自発的にしてあげたことが何もないことに対して暗澹たる思いを抱く

・自分の都合や自分の価値観でものを見るのは「外観」、相手の立場に立ってものを見て、自分の言動を考えるのが「内観」

・ヨーロッパでは音楽家たちがよく内観をする。何百年前の作曲家の心が、楽譜を通して自分に伝わるようになる。技術ではなく、心で弾け、歌えるようになる

自分を見つめる方法は、
(1)得られなかったものではなく、得たものに目を向けること
(2)相手の人にどういうことをしてあげたかをきちんと振り返ること

・私たちは、人から迷惑をかけられたことは覚えているが、自分が人にかけた迷惑には、まったく気づいていない

・私たちは、自分にとって快いときには喜び、不快なときには腹を立てる。快いのは、自分の思い通りに人にしてもらったとき、不快なのは、してもらわなかったとき

・内観の第一歩は、「お母さんにしてもらったこと」「自分がしてあげたこと」「どんな迷惑をかけたか」、この3つの質問を、過去から現在まで思い出すこと

・自分は嘘をついたり、意地悪したり、陰険な態度を取ったりしなかったと信じて生きてきたのに、思い出してみると、いろいろな罪を犯してきたことが見えてくる

・人間というのは、「してもらったこと」を見つめるのではなく、「してもらわなかったこと」を見つめる。「してもらわなかったこと」を見つめるというのは空想の世界の話

・親にしてもらったことが当たり前だと思っているうちは、いつまでたっても子供。なおかつ、これも足りないと言っているうちは赤ん坊と同じ

気づきとは、相手から自分を見つめる力。こういうことをしたら相手が悲しむ、傷つく、迷惑に思うだろうと考える力を人間は持っているが、その機会がなかったり、そういう思考方法を知らないことが多い

・内観には「教え」はない。自分が気づいて、自分が決めて、自分で生きていくことが求められる

・一週間の「集中内観」ができなくても、「一日内観」を数回繰り返す方法もよい。やり方がわかれば、一人で一日の記録をつけて考える「記録内観」、一日を振り返る時間を持つ「十五分内観」などやったらいい

・人間は「自分が正しい」のと「自分が幸せ」なのと、どちらが大切かというとき、「自分が正しい」方を大切にする

・欲しい欲しいと人から奪うばかりの人生で、与えられることばかり期待していると、相手が与えてくれるかどうかで自分の満足度が変わる。自分の幸せが相手次第になる

・自分を棚に上げて相手を責めない

・変えられない「事実」は責めない

・相手をレッテルで見る場合がある。子供のくせに、父親のくせにと言い、その人が一個の人間であることを忘れている。それでは、一人の人間としての寂しさ、悲しさ、弱点や欠点、こだわりなどに気づかない

・人間はいつも自分の基準で人を裁くのが得意。自分を見つめないで人を裁きたがる

・内観を進めていくと、自分も相手も対等な人間であることが理解できるようになる。先入観から離れて、事実を見ることができる。事実を見るということは、自分が教わってきた価値観からも自由になるということ。とらわれている過去からも自由になる

・内観によって、「人の気持ちが分かる心」や「人の立場から見られる心の力」を養うことができる。社会的成熟度(精神の成長曲線)が上がり、幸福度も上がる

・「してもらったこと」「してあげたこと」「迷惑をかけたこと」の3つを思い出すことによって、自分が見えてきて、ものごとを他人のせいにすることが少なくなり、自分の人生を自分のものとして取り戻すことができる



人間は自分を過大評価する動物であり、強欲でわがままでもあります。気をつけないと、それが自然と表に出てきます。

それらを防ぎ、健全な人間関係を築くためには、内観法などで、いつも自己チェックする必要があると思います。

感謝の気持ちを忘れずに、ずっと謙虚であることを願う人には、おすすめの1冊です。


[ 2009/11/29 09:30 ] 神仏の本 | TB(0) | CM(0)

『プレイボーイの人生相談-1966-2006』週刊プレイボーイ編集部

プレイボーイの人生相談―1966‐2006プレイボーイの人生相談―1966‐2006
(2006/10)
週刊プレイボーイ編集部

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学生時代、プレイボーイを毎週読んでいました。女性グラビア写真以外で、毎回見ていたのが、人生相談コーナーでした。

この人生相談コーナーで、特に印象に残っていた今東光氏の「極道辻説法」をまとめた「毒舌身の上相談」という本を以前、ここで紹介しました。

この「プレイボーイの人生相談」には、今東光氏だけでなく、自分の力で真剣に生きてきた、男の中の男たちの名回答が載せられています。

今読んでも、スカッとする回答ばかりです。その中から気に入った箇所を20ほど「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・人生には、勉強する時期と、働く時期と、そして遊ぶ時期があるようだ。それを間違えないと、どうにか一生を送れるらしい。君も、私ぐらいの年齢になった時、ムダ使いをするといい(北方謙三)

・挑む。これは危険な道だ。いつも死の予感に戦慄する。だが、死と対面したときこそ、生の歓喜がわいてくるんだよ(岡本太郎)

・ぼくはね、瞬間瞬間に自分の進む道を選んできた。そのとき、いつも危険だと思うほうに自分を賭けてきた。極端に言えば、わざと破滅につながる道、死に直面する道を自分で選んできたんだ(岡本太郎)

・人間がいちばん辛い思いをしているのは“現在”なんだ。やらなければならないこと、ベストを尽くさなければならないのは、“現在この瞬間”にあるわけだろう。それを逃れるために“いずれ”とか懐古趣味になるんだね(岡本太郎)

・東京で生活する上で注意すべきなのは、ちょっとでも気を抜くとバカが伝染っちゃうってことだね。知らない間に浮ついちゃうんだよ。田舎の人は、生活とか、家族とか、そういうものがリアルだから質実に生きているんだ。でも、東京に出てくると、そういうことを忘れて、浮ついた気持ちになってバカになっちゃうんだ(リリー・フランキー)

・占いは戒めるものだと思ってる占い師は宗教家で、占いは守るものだと思ってる占い師はセラピストだと思ったんだよ。日本人って、そう簡単に精神科に行かないし、厳しく宗教を守っているわけでもない。ある意味、心のよりどころがないから占いに頼っちゃうんだよ(リリー・フランキー)

・俺に気合いを入れてもらっている人たちが元気になるのは、彼らに「一歩踏み出す勇気」があるからなんだ(アントニオ猪木)

・おっとりしていて、慌てず、騒がず。こういう紳士を見たら、これは金持ちだと見ていいんじゃないか(開高健)

・「男が人生に熱中できるのは、二つだけ。遊びと危険である」というのは、ニーチェの言葉だ。男が危険を冒す気力を失ったら、この世は闇だ(開高健)

・キミはもっと獣性や野性を出して彼女を汚すべきなんだ。そして、その汚れをふたりできれいに片づける。そんなところに本当の愛につながる道があると思うんです(武田鉄矢)

・「主役の人って、食わせないとダメなんだ」と思ったんですね。演技の面でも生活の面でも食わせてあげるのが主役の大事な仕事なんです(武田鉄矢)

・嫌な連中でも仕事に関しての実力があるのならば、その実力を認めて一緒に仕事するしかないだろう。それであなたの実力も評価されるかもしれないじゃない(松山千春)

・言いたいことを言って、ホラまで吹く。ましてや、決して人の言うことなどに耳を貸さず、己の力を信じて突っ張って生きてきた男は、世間からさんざん罵倒されながら惨めに散るしかない。しかし、それが俺たちの美学でもある(松山千春)

・人間が存在しているからこそ、いろんな神が生み出されて、またあらゆるものに神を感じたりする。だから、キミが求めれば、神はどこにでも宿るわけだ(松山千春)

・あのな、人生の“勝ち組”“負け組”というのは他人が決めるものではない。ましてや世間が決めるものでもない。あくまでも自分が決めるものなのだ(松山千春)

・人生はな、冥土までの暇つぶしや。だから、上等の暇つぶしをせにゃあかんのだ(今東光)

・「生きる」ってことは、死ぬために生きていることでな。生きる意義をどうしても知りたいっていうんなら簡単に言ってやろう。心臓がピクピクしている間、生きている。針一本刺せば死んでしまう。ただそれだけのことさ(今東光)

・前世、来世とか、因縁とか、地獄、極楽という観念は、仏教を広めるため、その時代の方便で考え出したものでね。本来の仏教では霊魂さえ認めてないくらいだ(今東光)

・自分が一流の人間になる修行をして一流になれば、一流の人間たちの方からおまえを求めてくるものなんだ。それをこっちが探してその人の影響を受けようとか、教えを受けようっていうことは、バカな考えもいいことだ(今東光)

・「正しい人生」とか「何とかの人生」なんてものはないよ。本人にとっての人生しかないんでね。正しいとか何とかというものは、人が見て正しいか正しくないかというだけのことで、本人にとっては正しいかどうかは、わかりゃあしないんだ(今東光)



生き方、宗教、人生は、いくら考えても、明確な答えが出るものではありませんが、ズバッと人に言い切ってほしくなる時があります。

幾多の辛酸をなめて、伸し上がってきた人物の言葉は、心に響き、気持ちをスカッとさせてくれます。少し、心が萎えかけたとき、この本を読めば、救われることが多々あるのかもしれません。



[ 2009/11/27 08:20 ] 人生の本 | TB(0) | CM(0)

『販売員も知らない医療保険の確率』永田宏

販売員も知らない医療保険の確率 (光文社ペーパーバックスBusiness)販売員も知らない医療保険の確率 (光文社ペーパーバックスBusiness)
(2007/02)
永田 宏

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私は今、生命保険も医療保険も入っていません。おまけに火災保険、地震保険も入っていません。入っているのは、強制的な社会保険と半ば強制的な自動車保険だけです。

10年近く前は、2社の生命保険会社と契約していました。しかし、(支払い金の総額)÷(掛け金の総額)が、確率期待値で言えば、競馬(約75%)どころか、宝くじ(約40%)以下だと知り、数年前に解約しました。

保険が絶対儲かるように作られているので、大都市の一等地には、生命保険会社の巨大ビルが建っています。

これだけ儲かる保険なのですが、仕組みが複雑すぎて、それに切り込んだ本は今まで少なかったように思います。

この本は、特に複雑な、医療保険の、死亡、疾病、入院日数、手術費の確率を、年齢・性別で、損か得かを解き明かそうとする真面目な内容です。

保険に入るとほとんどが損になるのですが、損の中でもまだましなものがあります。これらが何なのかも教えてくれます。

役に立ち、メモした箇所が25ありました。これらを紹介したいと思います。



・統計によれば、すべての入院のうち90%までが62日以内に収まっている

・現代の日本では、人が60歳までに死亡する確率は男性で10.4%、女性で5.2%。もし、今30歳なら、60歳までに死ぬ確率は男性で8.9%、女性で4.3%

・ギャンブルに対しては勝ち負けの確率を計算する人が多いのに、保険の確率を気にする人は、ほとんどお目にかかったことがない。保険会社の人が「保険は確率」と書いている以上、われわれは、確率を重視しなければならない

・医療保険を理解する上で必要な確率の項目は、
(1)入院の確率(入院頻度の確率)
(2)入院日数の確率(1回の入院で何日間入っているかの確率)
(3)手術の確率(給付対象となっている手術の確率)
(4)入院医療費の確率(入院1回当りの費用の確率)
(5)死亡確率(そのものずばり、死ぬ確率)

・医療保険が保障してくれるのは、基本的には「入院給付金」と「手術給付金」の2項目のみ

・あなたが1年間に入院する確率は、11.2%。一般病床の入院確率は9.3%

・男性は50代後半で入院確率が10%を越える。女性は出産入院を除けば、60代に入り、入院確率が10%を越える。60歳以上では、男性が女性の1.5倍以上の確率

・がんによる入院は、60代後半で男性の入院確率は女性の約2倍に達する。急性心筋梗塞の入院確率は、男性が女性よりも1.5から2倍以上高い。脳内出血による入院は、激減する傾向にあるが、脳内出血、脳梗塞の入院確率は、男性が女性よりも1.5から2倍以上高い

三大疾病保険は消えていくべき保険商品と言ってまず間違いない

女性特有の病気(乳がん、子宮がん、女性器官の良性腫瘍や障害など)による入院確率は20代後半から30代前半がピークであり、その後は大きく変化しない。全体的に入院確率は低い

・がん患者は平均で年1.3回の入院を経験する。肝臓がん、膵臓がん、卵巣がん、肺がん患者は年2回の入院

・平均入院日数は37.9日。60代までは男性の方が長いが、70歳以降では女性の方が長くなる

・全入院の半分は10日以内の入院。4日間以下の短期入院が増えている。病院ランキングに載るいい病院ほど平均入院日数は短い

・一般病床に限れば、平均入院日数は20.2日であるが、将来的には16日程度になる見込み。療養病床の平均入院日数は2012年以降75日程度に、2025年には60日程度に減らされる見込み

手術給付金には変動式と固定式の2種類がある。変動式は給付倍率10倍、20倍、40倍のものが主流

・手術の確率は、40倍の手術(1000人当たり年間約4回)20倍の手術(1000人当たり年間約8回)10倍の手術(1000人当たり年間約22回)

・変動式の手術給付金の平均は、手術1回当たり15万円である

差額ベッドを利用している患者割合は全体の3.3%にすぎない

・一般病床に入院した場合、病院窓口の支払額は、高く見積もっても手術ありの場合が34万円、手術なしの場合が28万円程度

・一般的な医療保険では、一般病床に入院した場合の給付金の平均は、手術ありの場合が35万円、手術なしの場合が20万円である

高額療養制度のおかげで、月々の医療費の自己負担は、80100円+αに抑えられている。実際の入院費用は、これに食事代(1日約2000円)とテレビのレンタル料を上乗せしたもの

・70歳以上の高齢者の入院費は、世帯での上限が月額44000円である

・健康保険には高額療養費制度をはじめとするセーフティネットが敷かれている。医療費が払えなくて自己破産するケースはほとんどない。したがって、結論は「医療保険に入るよりは、その分を貯金しておいた方がよい」ということ

定期医療保険の配当率はせいぜい40%前後。国内老舗生保の配当率は外資系よりも低く設定されている

・もし医療保険にどうしても入りたいならば、50歳未満では10年定期のもの、50歳以上では終身型が好ましい



最近テレビ見ていると、やたら医療保険のCMを目にします。外資系の保険会社も、日本人に受けるコツがわかってきたのか、擬人化した動物を登場させたり、感情に訴える手法をとってきています。

よっぽど儲かるのかなと思い、この本を読みましたが、思っていたとおりでした。医療保険会社にフリーダイヤル申し込みする前に、この「販売員も知らない医療保険の確率」に目を通しておくべきではないでしょうか。


[ 2009/11/26 08:21 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)

『京都花街の経営学』西尾久美子

京都花街の経営学京都花街の経営学
(2007/09)
西尾 久美子

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京都で舞妓さんに出遭うと、そこにいる観光客の男性たちは、老いも若きも、外国人でも、皆デレ~として、鼻の下が伸びる表情になっています。

男を虜にする舞妓さんの魔力とは何なのでしょうか?

考えてみれば、舞妓さんは、水商売なのに、憧憬と畏敬の念で見られています。その域にまで至った歴史的経過や仕組みがどうなっているのか、前から興味がありました。

この「京都花街の経営学」は、真面目な本です。文部科学省COEプログラムで、神戸大学に与えられた研究費から賄われて、出版された学術的な研究本です。興味本位売らんかなの本ではありません。

この真面目な本の中で、私自身、京都花街の数々の疑問が解けた箇所が28ありました。それらをこれから紹介したいと思います。



・ここ10年ほどは、芸妓さんは200人前後、舞妓さんは約80人でほぼ横ばい。ここ数年、京都花街にデビューする芸舞妓さんの数は毎年20~30人程度

・お座敷で芸舞妓さんたちと2時間遊んだとすると、その花代は、1人25000円~30000円程度

・彼女たちは、夕方6時から夜の12時ごろまで平均3~4つのお座敷を務める。だいたい1人当たり1日10万円の売上。お昼の写真撮影会など長時間拘束される日もあるので、平均すると、1日当たりの売上は12万円程度になる

・芸舞妓さんたちの花代は、置屋を出かけたときから帰宅するまでの移動時間にもかかる。つまり、(移動時間+お座敷での時間)×時間単価=花代という計算方法が原則

・花代以外にも芸舞妓さんたちへのご祝儀も必要だが、お座敷の条件や呼ぶ芸舞妓さんによって異なる

・芸舞妓さんたちは年間で300日程度はお座敷にでて、稼働率を80%程度とすると、芸舞妓さん1人当たりの年間総花代は、12万円×300日×0.8=2880万円という計算になる。京都花街の芸舞妓さんの人数は2007年現在273名なので、花代の総売上規模は80億円弱と推計できる

お茶屋で消費される料理や飲み物代にお座敷のしつらえの経費、芸舞妓さんたちの着物、帯、履物、袋物、かんざしなどにかかる費用、髪結いさんや男衆さんたちへの支払い、芸舞妓さんたちの芸事のお稽古にかかる費用を含めると、花街全体で花代の数倍の金額が動いている

年季(一人前になる修業期間)の間は、舞妓さんの生活費の面倒もお稽古にかかる費用も、また高額な衣装も、すべて置屋が面倒を見てくれる。置屋のお母さんが愛情、専門的知識、金銭的な資本を注いで、数年かけて一人前の舞妓さんに育て上げる

・舞妓さんは、まず「日本舞踊」の習得が求められ、女紅場(技能訓練の学校)やお師匠さんの個人稽古など、徹底的に基礎訓練を受ける

・お座敷芸での「日本舞踊」は、「踊り+楽器の演奏+唄+お座敷のしつらえ」=「もてなし」の芸事として成立する。舞妓さんたちは芸事の習得に励むだけでなく、お客をもてなす気配りも学び、「座持ち」に秀でないと一流になれない

・舞妓さんを数年つとめ、年季期間を終えた後、芸妓さんとなり、22、23歳で置屋から独立することが多い。置屋さんから独立した芸妓さんを「自前さん」と呼ぶ

・「体を売る」といったことは、現代では全く行われていない。芸舞妓さんたちに「水揚げ」のような間違ったイメージが、日本だけでなく世界中に流布していることは残念

お茶屋とは、芸妓さんや舞妓さんを呼んで遊興する場を提供する店。お座敷をコーディネートする職業

置屋とは、芸妓さんや舞妓さんをお茶屋さんへ送り出す芸能プロダクションのようなところ。置屋から見れば、芸舞妓さんたちは、抱えるタレントのような存在

一見さんお断りとは、現代の言葉で言えば、会員制ビジネス

・一見さんお断りが生まれた背景には以下の3つのポイントをあげることができる
(1)債務不履行の防止(2)顧客情報にもとづくサービスの提供(3)生活者と顧客の安全性への配慮

・お茶屋のなじみ客となることは、取引関係における安全性はもちろん、氏素性、マナーもきちんとしていると認められたことになる。お茶屋遊びは信頼の証であり、一つのステータスとなる

・一見さんお断りの京都花街のもう一つのルールは「宿坊」というルール。お客は一つの花街につき一軒だけのお茶屋を窓口として遊ぶという暗黙の了解のこと。顧客がよそのお茶屋のお座敷を希望したら、その希望を優先する

・これらのルールがあるからこそ、「よそのお座敷」を顧客に紹介し、顧客の選択肢の多様性を確保し、お茶屋同士が競いながら営業機会を逃さないという花街全体のしくみが成り立っている

・花街は遊びの世界であるが、顧客に対して、お座敷遊びの手ほどきだけでなく、大人としてのマナーや文化的教養を伝え、人付き合いの機微など、お金や地位だけでは尊敬されることがないビジネス世界で生きていくための教育もなされている

・芸舞妓さんの一生、キャリアの流れ
(1)仕込みさん(舞妓さんとしてデビューするまでの約1年間の修業期間)
(2)見習いさん(デビューする日が決まって、約1カ月の実地研修期間)
(3)見世出しから1年間(デビュー後1年は長い花のかんざしや下唇に紅をさし、新人舞妓と一目でわかる)
(4)舞妓さんになって1年後(場に応じた受け答えなど求められる)
(5)舞妓さんになって2~3年後(大人びた雰囲気の日本髪を結い、後輩の面倒も見る)
(6)「衿替え」して芸妓さんになる(かつらを使うようになり、お座敷での段取りが求められる)
(7)自前さん芸妓さん(5~6年の年季期間を終え、一人暮らしを始め、日本舞踊の立方か三味線や唄の地方のどちらかを選択)
(8)廃業後のキャリア・パス(自分の意思でいつでも廃業でき、廃業後は花街の経営者になることが多い)

・新年の歌舞練場での始業式では、舞や邦楽も披露されるが、それだけが式の目的ではない。前年の売上成績のよいお茶屋、芸妓さん、舞妓さんを表彰する。ランキング上位の芸舞妓が金屏風の壇上で表彰状を受け取る

・芸舞妓さんたちの花代の売上は「見番」を通して管理されている。芸舞妓さんの花代ランキングだけでなく、お茶屋の花代の売上も発表される

・見番を通さずにお茶屋と置屋が取引することは花街では認められていない。見番を通すことで、取引の癒着を避け、ダンピングなど価格が崩れないようなシステムができている。花代からは一定の割合の金額が、組合や学校の運営費にもあてられ。この公正さが花街のコミュニティの維持運営に欠かすことのできない大切なポイント

・芸舞妓さんたちの公式な技能育成の場は、祇園甲部の「八坂女紅場学園」、先斗町の「鴨川学園」、宮川町の「東山女子学園」の3つ。日本舞踊、長唄・小唄・常磐津などの邦楽の唄、三味線・鐘・太鼓・鼓・笛などの邦楽器の演奏が教えられ、さらに立ち居振る舞いの訓練になる「茶道」も必須科目

・同じ型を学んだ、花街の芸舞妓さんであれば、お座敷の場で、「型」が揃った美しい技能の発露ができ、集団としての芸の質向上にもつながっている

・宝塚歌劇団の設立者である小林一三は、花街で遊興していたので、花街の芸舞妓育成の学校制度を参考にして、宝塚少女歌劇に学校制度を導入した

・お茶屋が接待の場になることが減り、お座敷の需要は減少しているが、お座敷以外の場所や観光分野で芸舞妓さんたちは活躍し、花街の売上に貢献している


接客サービス業、付加価値の高い仕事無から有を生む商売に携われている方にとって、「京都花街の経営学」は学ぶべき点が非常に多い本だと思います。

京都花街には、日本文化に根差した、経営の仕組み、人の管理の仕組みがあります。

日本の人材育成方法は、女性は舞妓さんが参考になり、男性は、「大相撲に学ぶ」の記事にも書きましたが、力士が参考になるように思います。故きを温ねて新しきを知るということも大事ではないでしょうか。


[ 2009/11/24 08:42 ] 営業の本 | TB(0) | CM(0)

『「温暖化」がカネになる』北村慶

「温暖化」がカネになる「温暖化」がカネになる
(2007/09/15)
北村 慶

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著者の「貧乏人のデイトレ金持ちのインベストメント」という投資の本を、3年ほど前に読みました。北村慶氏は、他にも、投資ファンドや金融に関する著書を多く出されています。

この本は、環境関係のコーナーで見つけ、ちょっと意外だったので、手に取りました。

著者が投資に携わっておられる関係からか、ちょっと不真面目に思えるようなタイトルになっていますが、内容はいたって真面目です。

環境とお金、相反するように思えることを、統合して論じている素晴らしい書だと思います。著者の地球温暖化の知識と排出権取引の知識が、両方とも豊富で、濃い内容になっており、面白く読み進んでいくことができました。

また、不思議に感じていた排出権取引制度に関して、この本で、しっかり勉強させてもらうことができました。

自分自身、非常に勉強になったと思える箇所が20ほどありました。これらを紹介したいと思います。


・「温室効果」により、地球と太陽の距離からすれば氷点下18℃であるはずの地表の温度が、32℃暖められ、平均気温14℃という快適な水準に保たれている

IPCC(気候変動に関する政府間パネル・国連機関が設立した政府間機構)は、人為的な温室効果ガスが温暖化の原因である確率は90%を超えると結論付けた

・地球の平均気温の上昇を2℃程度に抑えることができるか、3℃以上となるかによって、人類への深刻度が大きく異なる

・排出量の発生源は、2010年の世界排出量全体の46%が発展途上国で占めるようになる

・排出権取引を可能にする京都議定書の「京都メカニズム」と呼ばれる仕組みこそが、地球環境問題と金儲けを繋ぐ役割をしている

・地球温暖化ガスを削減するという崇高な目標と、金銭を対価とした「京都クレジット」=「排出権」取引という経済的行為が結びつくことになった

・中国は、「排出権の世界一の原産国」であり、政府自身が「わが国は、排出権の世界最大の輸出国になる」と宣言し、「何もしなくても空からお金が降ってくる」と公言している

・2007年8月現在、「排出権」は1CO2トンあたり、およそ20ユーロ(約3000円)前後で取引されている

・日本政府は、2008年から2012年までの5年間、毎年2000万トンの排出権を買う必要がある。京都議定書を守るために、毎年600億円以上の税金が使われることになる

・1990年より、日本の温室効果ガス排出量の半分弱を占める「産業(工場等)分野」だけが排出量を減らしており、それ以外の「運輸分野」「一般業務分野」「家庭分野」はいずれも2桁台の大きな伸びを示している

日本のエネルギー効率は欧米の2倍、中国の8倍と言われ、「日本政府が他国に譲歩しすぎた」「削減目標が厳しすぎる」という意見に、他国も同情的

・日本の排出権購入が必至の情勢で、最後は金で解決すると見られ、ヘッジファンドの敏腕マネージャーたちが、排出権への投資に注目している

・日本がEU域内のみ有効の「EU域内排出権(EUアローワンス)」を購入しても京都議定書上の削減効果は得られない。「京都議定書排出権(CER等)」を取得しなければならない

・石油価格と排出権価格との関係、降水量と排出権価格との関係、気温と排出権価格との関係により、価格の上昇が指摘されている

日本のCO2削減計画は原発頼み。植林によるCO2吸収分も削減量にカウントできるのに、林業軽視のツケが回っている

・20011年・2012年頃になって、15~20ユーロで取引されている排出権が80~90ユーロまで高騰する恐れがある。仮に、削減目標に対し10%未達成に終わったとすると、5兆円を超える税金を投入せざるを得なくなる

新しい経済学(地球と人類双方にとって都合の良い経済学)は以下の3つの柱を持つ
(1)経済活動の目的の変換「所得から資源へ」
(2)税制の変換「所得税・消費税から資源使用税へ」
(3)社会構造の変換「グローバル化・フラット化からリージョナル(地域)主義へ」

・人間の金儲けの欲望を利用した「排出権」制度が、温室効果ガスの総排出量の抑制に成功するか否かは、地球レベルでの壮大な実験。「金儲けで地球環境を救う」という発想

・「環境を守ろう」という掛け声だけでは人々は動かない。あるいは、動いたとしても、それだけでは地球温暖化という大きな問題は解決できない

・人類の生存と地球環境を同時に満たすための究極の方策は「人口増加権」の売買


排出権取引にヨーロッパ人の策略めいたものを感じていたのですが、この本を読むと、「金儲けの欲望を利用しないと地球は救えない」ということがわかり、彼らの知恵に一応納得しました。

しかし、日本のほとんどの人たちが、CO2削減目標と排出権取引の関係について、現在、あまり知識を持っていないように思います。お金が絡んでくることなのに、CO2削減が、経済的に議論されていないことは、ちょっとおかしく思えます。

CO2削減という崇高な精神と金儲けという現実的な欲望がどうしても結びつかないという人には、この本を是非読んでほしいと思います。

そして、金儲けという視点から、現実的な地球環境について議論が進んでいけば、もっと面白くなるのかもしれません。


[ 2009/11/22 19:03 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『楽しく生きるのに努力はいらない-元気がわき出る50のヒント』池田清彦

楽しく生きるのに努力はいらない―元気がわき出る50のヒント楽しく生きるのに努力はいらない―元気がわき出る50のヒント
(1999/11)
池田 清彦

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池田清彦氏の本を紹介するのは「正しく生きるとはどういうことか」に次いで2冊目です。

著者は生物学者なのですが、哲学的著書も多く、2つの顔を持つユニークな存在です。少し冷めた見方や、ズバズバ発言もされますが、それらは、生物学的に見た人間の本質を理解した上での意見だと思っています。

この「楽しく生きるのに努力はいらない」を読み、著者の意見に同意、納得できた箇所が20ありました。これらを紹介したいと思います。



人とうまく付き合うには、自分の意志を通しながら、相手の意見も聞き、両者が同じくらいで、しかも最も楽しくなる方法を試行錯誤すること

・上品に生きられて、人とうまくつき合えたら、あなたの人生は死ぬまでハッピー

・自分の行動は自分の自由だが、他人の行動は他人の自由である

・生きるためには、守った方がよい法律も多い。それに対し、道徳というのは、趣味の問題で、それに従うのも従わないのも、あなたの勝手

・道徳的な命令は、それに従っているのが楽しい時だけ従っていればよいのであって、それに従うのが苦しくなったら、とっととやめてよい

・親切にされた人は親切にした人に感謝しなければならないとするならば、それは親切ではなく、親切の押し売り

・お互いにやさしくし合って、甘え合っているのが通用するのは、暗黙のうちにみんなが同じ価値観を共有する社会の中だけの話

・人の命は何より大事である、というセンチメントは医療資本に利用されるだけ。あなたが死んでもかわりはいくらでもいる

・自由で上品に生きるとは、自分の努力と才覚で生き、結果に対して自分で責任を引き受けることを言う

・重要なのは、最もこころ楽しく生きることである。国家も法律も会社も学校も、そのための道具にすぎない

・人間というのはそもそも矛盾しているものだし、昔の考えと今の考えが違っていても一向に構わない。周囲の状況に合わせて自分の考えを変えてしまっても別に悪いことではない

・人生で一番大事なのは、才能の有無ではなく、楽しく生きられるかどうかである。楽しく生きられるというのが、実は一番重要な才能である

・嫉妬することはごく当たり前の感情であり、健康な心を持っている証拠。自分がやりたいことを他人がやっているのを見て、嫉妬したからといって、誰かに迷惑をかけるわけではない

人生の目的など本当はない。ボーッとしていることが楽しい人は、ボーッとしていればいい。本人が楽しければそれでよく、趣味に高尚もヘチマもない

・仕事に生きがいを感じられない人は、仕事は金儲けと割り切って、余暇を趣味で生きればいい。会社の地位に一喜一憂したり、人間関係に煩わされないだけ、出世が生きがいの人より幸せ

・子供は過去の自分だし、親は未来の自分である。あなたが年老いた時、子供が自分の財産をあてにしている状況をみて、愉快になる人はいない

・寝たきり老人やボケ老人の奴隷になるな。あんまりわがままを言うようなら、時には死なない程度に蹴飛ばしたっていい。生活を破綻させない範囲で面倒を見よう

・友人は数ではなく質。二人もいれば十分。友人はつくろうと思ってできるものではなく、天啓のようなもの

陰口を言う人は、基本的に自分に自信がない。陰口を気にする人も同じ。自分に自信があれば、陰口を言われていても、別に何とも思わなくなる

・人生は短い。無能な上司とつき合うヒマはない。仕事の本質以外のところで怒るのが、無能の上司たるゆえん。おだてるのもいいし、ケンカしてもいい。我慢だけはするな



著者の言う、楽しい生き方とは、まわりと最低限調和しつつ、個人をできるだけ貫く生き方だと思います。

このような生き方をするぞと意志を固めたら、この本のタイトルのように、努力しなくても楽しい生き方は手に入るのではないでしょうか。

要するに、意志を固めるかどうかです。一度限りの人生ですから、まわりに迷惑をかけないのなら、好きなようにしたいものです。

楽しく生きたいと考えている人にとって、読む価値が十分にある1冊ではないでしょうか。


[ 2009/11/20 07:56 ] 池田清彦・本 | TB(1) | CM(2)

『悪質商法のすごい手口』国民生活センター

悪質商法のすごい手口―ここまで巧妙ならみんなだまされる!知っておきたい被害の実態と対処法悪質商法のすごい手口―ここまで巧妙ならみんなだまされる!知っておきたい被害の実態と対処法
(2009/04)
国民生活センター

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せっかくお金を貯めても、悪い奴らにお金を奪われたら元も子もありません。そのためには、悪質業者や詐欺師たちの巧妙な手口を知っておく必要があります。

ムダづかいしないことも大事ですが、巨額のお金を騙し取られないことも、それ以上に大事なことだと思います。

実例ばかり掲載されている、この本を読むと、「よくこんな手口を考えるな」ということまで載っています。この本の中で、悪質極まると思った手口が25ありました。これらを中心に紹介したいと思います。


・悪質業者は、高齢者が抱いている「健康」「孤独」「お金」という3つの大きな不安につけこみ、不安をあおり、大切な年金や貯金を奪い取ろうとする

・70歳以上の人の手口別・相談件数
(1位)家庭への訪問販売
(2位)電話勧誘販売
(3位)次々販売
(4位)販売目的隠遁
(5位)かたり商法(身分詐称)
(6位)SF(催眠)商法
(7位)点検商法
(8位)利殖商法
(9位)無料商法
(10位)二次被害(被害にあった人を勧誘)

・悪質業者は、「不意打ち性」で意図的に冷静に判断できない場面をつくりだす。振り込め詐欺がまさにそう

・悪質業者の外見は、好青年や誠実なサラリーマンふうなことも。第一印象で警戒心を解き、いい人を装って相手に近づく

・被害にあった高齢者のうち、4割以上が誰にも被害を打ち明けていない

・在宅時間が長い高齢者を狙う悪質な「訪問販売」。なかでも高齢者が抱える不安を煽りたてる「点検商法」は、被害件数も被害額も多くなっている

・「耐震診断」「漏電火災」を口実にした点検商法の相談が各地に寄せられている

・「お宅は立地がすばらしい。当社のパンフレットに載せたいので、格安でリフォームの見本工事をさせてほしい」とおだてる「見本工事商法」も家にまつわる訪問販売でよくある

・法律を口実にした手口で、昔からあるのが消火器の訪問販売。火災報知器も法改正に便乗して悪質業者が多発

・年金や税金、医療費などの「還付金がある」と偽り、ATMからお金を振り込ませる「還付金詐欺」が急増

・「融資します」とウソのダイレクトメール、電子メールを送りつけ、融資を申し込んできた人に、有利な条件を示して誘い、保証金の名目で現金を振り込ませる「貸します詐欺」も被害が急増

・消費生活センターに寄せられた相談では、物干し竿の巡回販売による契約金額の平均は65,000円

・無料回収と思わせ、実際には料金を請求し、回収した物を不法投棄する廃品回収車のトラブル件数がここ5年間で3倍に増えている

・大きな損害をこうむってしまうのが「内職商法」「サイドビジネス商法」。高額な教材や仕事道具を購入させるが、結局は仕事につながらない

・マルチ商法のトラブルに巻き込まれやすいのは20代の若者と、50~60代の中高年

・同僚の目を気にして電話を切れない心理につけこみ、職場にしつこく電話勧誘する悪質業者がいる

・電話勧誘で、「ロコ・ロンドン取引」(ロンドン市場において金を受け渡す取引)という金融商品取引の被害が増加

・エビ養殖、和牛オーナーなど、高配当をうたう、「出資金商法」はプロのだましの手口

・せっかく入った医療保険なのに、いざというとき保険金が支払われない「不払いトラブル」や高齢者に複雑な仕組みの生命保険を契約させる「販売トラブル」が増えている

・「展示会を見に来ませんか」と会場に誘い、長時間拘束し、高額なものを売りつける「展示会商法」では、繰り返し契約させられるケースも多い

・無料、またはタダ同然で日用品を配って人を集め、会場の雰囲気を興奮状態に盛り上げ
高額な商品を契約させてしまうのが催眠商法の手口

・「前世診断」「オーラ診断」「霊視鑑定」を安く観ることで人を誘い、その後、印鑑、宝石などの高額商品の購入や高額の祈祷料を要求する「開運商法」の被害が拡大している。宗教法人格取得業者もあり、消費生活センターとの交渉に一切応じようとしない

・頼んでもないのに荷物と振り込み用紙が届く「送りつけ商法」と呼ばれる手口では、心情的に捨てにくいもの(お経の印刷物、皇室写真、自分の名前が記載された紳士録など)を送りつける

・二度三度と繰り返し狙われ売りつけられる「次々販売」は断らない人を業者はターゲットにする

・職場にまで勧誘がくる「資格商法の二次被害」では、あのときの契約はまだ終わっていないと何年もたってから追加料金の支払いを要求



人の心の弱みにつけこむ、これらの手口は、犯罪に近いものですが、どんな商売でも、「健康」「孤独」「お金」に絡む不安を煽る部分があると思います。最近のテレビCMを見ていると、それらが横行しているように感じます。

「健康」「孤独」「お金」に不安を感じるなとは言えませんが、これらを煽る業者には注意しておかないと、稼いだお金が奪われてしまいます。

これらを煽る業者の人たちを、「善人と思ったら普通の人、普通の人と思ったら悪人」くらいの感覚で見てちょうどいいのではないでしょうか。

悪質商法の手口を学んでおくことは重要です、騙されないために、読んでおきたい1冊だと思いました。


[ 2009/11/19 07:58 ] お金の本 | TB(0) | CM(1)

『カンタン!ムダとりポケットブック-現場のムダは誰でもとれる』三浦聡彦

カンタン!ムダとりポケットブック―現場のムダは誰でもとれるカンタン!ムダとりポケットブック―現場のムダは誰でもとれる
(2006/07)
三浦 聡彦山田 日登志

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以前、「労働時間削減手法」の記事にも書いたことと似ているのですが、それをまさしく実践して、それを専門の仕事にされているのが、この本の著者です。

この本は極めてわかりやすい本です。写真入りで、年間時間削減効果をすべてお金に換えて表示しています。

現在は、工場や物流センターなどの現場での時間削減の実例が多いのですが、この考え方は、ホワイトカラーの時間削減や労働生産性アップにもつながり、参考になります。

この本を読んでいると、ブルーカラーの世界は、ここまで進んでいますよ、厳しいんですよ、あなたがたホワイトカラーも今すぐやりなさいと呼びかけているように思えます。

今回、この本を読んで参考になった箇所が20ありました。それらを紹介したいと思います。

  • 私たちが仕事をしている1秒1秒にお金がかかっている。事務所経費を入れると、1秒1円が目安
  • お金になるのは音がした瞬間。その瞬間以外の動作、運搬、停滞は、すべてお金を生まない。それが「ムダ」
  • ムダをとるのに、会議室にいないか?現場のムダをとるには、現場に行き、現場に立つこと。そして、ムダを見つけたらすぐにとる!
  • 1歩でも、20cmでも近づけて、ムダな時間を短縮しよう
  • 歩いていることは、すべてムダ。歩いていてもお金にならない。歩行をなくすように、設備や機械をどんどん近づけよう。これを「間締め」と言う(1歩=1秒
  • ふりむく動作をなくし、できるだけ身体の正面でモノをとれるようにする。後ろ180°は横90°に、横90°は正面に!これを「前取り」と言う(90°=1秒
  • かがむ動作を繰り返すと腰を痛める。腰から上の位置に置けば、かがまなくても楽(しゃがむ=2秒
  • 手の動きはすべてムダ。たった20cm手のひらの分だけでも近づけよう。手元にあると楽(20cm=1秒
  • 分業は早い人も遅い人に合わせないといけない。前工程、後工程を覚えて、1人ですべてできる「1人屋台」を目指そう
  • 使う分の置き場所を「レイゾウコ」と呼ぶ。レイゾウコに置くモノは少ないほど新鮮。どんどん減らそう
  • 作った所に置き、使う人が使う分だけ取りにくると、作りすぎがハッキリわかる。作った人が管理する置き方を、作った人のお店「ストア」と呼ぶ
  • リードタイム=加工+停滞。加工:停滞で停滞比率を下げること 
  • 離れた工程、離れた作業は一つの職場に持ってきて、くっつける
  • フォークリフト、ハンドリフトはとりに行って、元に戻すと、歩くムダが生じる。すぐ動かせる台車にしよう
  • 作業台から台車へ、台車からパレットへ、何度も移し替えず、載せ替えず、そのまま運べる工夫をしよう
  • 運ぶ単位がわかると、供給がしやすくなる。時間で運ぶのか、ロットで運ぶのか
  • 運んだ後、後工程が使いやすいように置くこと。置く場所を腰の高さに合わすなど工夫すると作業が楽になる
  • 製品1個を何秒で作るのかが「サイクルタイム」。サイクルタイム=(1日の稼働時間)÷(1日の生産必要数)
  • ゆっくり歩行は3秒3m、キビキビ歩行は3秒5m。動作はすばやくキビキビと
  • 目標があると毎日が楽しくなる。「生産管理板」を使って、時間管理をやってみよう 


この本は、現場作業の労働生産性を高めるための書です。しかし、この考え方は、デスクワーク、販売作業、家事労働など、広範囲に応用できます。

この考え方をマスターしておくことは、リーダーに欠かせないノウハウとなります。ムダなく、効率よく、従業員が働くための方法を考えることは、どの業界にも共通する課題です。

時は金なり。金は時なり。ムダとりに時は欠かせません。




[ 2009/11/17 09:16 ] 仕事の本 | TB(0) | CM(0)

『「読ませる!」文章術-あなたのビジネスチャンスが10倍広がる』沼田裕

「読ませる!」文章術―あなたのビジネスチャンスが10倍広がる「読ませる!」文章術―あなたのビジネスチャンスが10倍広がる
(2006/05)
沼田 裕

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文章の上手な書き方に関する本は多く出版されていますが、読ませる文章の書き方に関する本は少ないように思います。

インターネットの普及で、誰でも情報発信できる世の中になった今、「文章の上手な書き方」の前に、「読ませる文章の書き方」を先に学ぶべきかもしれません。

この本には、ブログ、メルマガ、ホームページの運営において、役に立つ文章の技術が豊富に掲載されています。特に、「キャッチ力」の考え方は、秀逸です。

今回、この本を読み、私自身参考になったところは、以下の15箇所です。それらを紹介したいと思います。



・文章の評価は、読まれているかどうかで判断すればいい

・読み手をキャッチするテクニック、読みたくさせる力が「キャッチ力

・キャッチ力がある文章7つの鉄則
(1)書き出しにはを入れろ
(2)呼びかけで惹きつけろ
(3)数は増やさず、ひとつに絞れ
(4)ダーティーワードを恐れるな
(5)ぎりぎりのラインまで誇張しろ
(6)ギャップづけを忘れるな
(7)何にでも体験談を入れろ

・1行目に謎があると、謎が気になって、思わず2行目も読む。例えば、「もう2度とこんな店に来るか!」など、怒りの感情や、うれしい、困った、恥ずかしい、情けないなどの感情が込められたセリフを1行目にすれば謎になり、読み手は惹きつけられる

・1行目に謎を入れる方法のもう一つは「予告」。例えば、「本日、○○時にとんでもないことが起こる!」と書くと、読み手は「どんなことか知りたい」という気持ちが起きる。テレビ番組表や中吊り広告、スポーツ紙の見出しなどは予告の宝庫

・謎でキャッチするには、例えば「この後、衝撃の事実が」「この後、大物女優が登場」など半分だけ想像できる言葉がいい

・人は呼びかけられると、つい反応してしまう。呼びかける際には「あなた」から始まる文章で書くこと。あなたと呼びかけて対面で話しかけるように書くとキャッチ力が上がる

・呼びかけるときに、「損や得」を使って呼びかけると、読み手の生活に直結しているため、惹きつける

・言いたいことが複数あっても、「たったひとつ」と書いてしまうと、それが何か気になり、「謎」がつくれる

・タイトルに「ダーティーワード」を使うとインパクトが増す。例(失敗、できない、嘘、クビ、負け、抜け道、非常識、違反、ムダ、間違い、ダメ、貧乏、騙す、嫌い、マイナス、弱者、警告など)

・嘘にならない、ぎりぎりのラインまで「誇張」して書く。実績を誇張して大きく見せるには、一部を取り出すのが基本

・反対のものを2つ並べると「ギャップ」が生じる。ギャップがあるとキャッチ力が上がる。失敗と成功、上司と部下、自社商品と他社商品など2つの対比がギャップの源

・最近のマーケティングの世界では「商品を売るには、客の声を活用しろ」と言われるが、客の声とは、商品を使った「体験談」。体験談は読み手に感情移入させるので、キャッチ力が足りない場合、体験談を入れる

・「型」を使って読ませる文章にする鉄則
ビフォーアフターで書く」
悪い事例と良い事例を入れ込む」
旧→新の順に書く」
「ツボで喚起→ツボの説明→伝えたいキモを語る」

・書き直すときの7つの鉄則
(1)2行を超えそうになると警報を発する「長すぎセンサー」を持つ
(2)あいまい表現は禁止。スパッと「言い切る
(3)「セリフの割り込み」を活用し、読み手の気持ちを代弁
(4)「疑問」を探せば深い文章になる
(5)「五感描写」を別々にすると、いっそう伝わる
(6)伝えたいことは「繰り返し書く」
(7)広告文は「体験談」とセットで書く



私のブログも、この「読ませる文章術」に、学ぶべき点、真似るべき点が大いにあるのではないかと思っています。

パソコン画面上の、ビジネス文章の書き方においては、この本が大いに役に立つのではないでしょうか。ビジネスの文章表現にに関わっておられる方は、読んでおいて損はない1冊だと思います。


[ 2009/11/16 08:33 ] 仕事の本 | TB(0) | CM(0)

『人間魔界図巻』山田風太郎

人間魔界図巻人間魔界図巻
(2002/03)
山田 風太郎

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山田風太郎氏が亡くなってから8年が経ちます。

以前、古今東西900人が「いかに死んだか」をしつこく追った「人間臨終図巻」を読んだことがあります。氏の死生観には独特のものがあると感じました。

この「人間魔界図巻」は氏の死生観、戦争観、人生観を表した過去の文章を抜粋して編集した本です。

この不思議な山田風太郎ワールドに誘われて、この本を読んでしまいました。氏の死生観、戦争観、人生観に素直に共感できたところが、16箇所ありました。短い文章が多いのですが、内容は重いです。それらを紹介したいと思います。


・最愛の人が死んだ夜にも、人間は晩飯を食う

積極的人間は有益だが有害な人が多く、消極的人間は無益だが無害な人が多い。有益で無害な人間はほとんど存在しない

・予想というものは、一般に希望の別名であることが多い。希望とは自分の利益となる空想である

不幸でないのが幸福だな

・家庭の幸福ほど罪深いものはない。人間だけが家庭の幸福に執着し、それを維持しようとしてあらゆる罪を犯す

・いろいろあったが、死んでみりゃあ、なんてこった、はじめから居なかったのとおなじじゃないか、みなの衆

・生は有限の道づれ旅。死は無限のひとり旅

・もし自分の死ぬ年齢を知っていたら、大半の人間の生き様は一変するだろう。従って社会の様相も一変するだろう。そして、歴史そのものが一変するだろう

・西洋人が、あらゆる科学を開拓し、先端を切っているのは、根本は、どうしたら怠けていても働いたのと同じ効果をあげ得るかの願望から発しているものと思う。この横着な願望は、怠け者の頭脳でなくては宿らない。夢想家を尊敬しよう

・千利休は茶道という日本文化への影響を与えたこともさることながら、彼ほど自分の子孫に余徳を与えた人間は例がない(表千家、裏千家)。同時に彼こそ巧妙無比の収奪組織>「家元制度」の元祖ともいえる

・うーん、人生とはひと言でいうなら「偶然」だな。だいたい人類が発生したのが偶然らしいんだがね。世の中のあらゆることが偶然で、結婚ひとつ考えてみても、まったくの偶然だ

・その前半に「大事業」をなしとげてあと後半はその実績で食うという、まれにある幸福な人生の成功者

・人間、要するに、やりたいことをやり、食べたいものを食って死ぬにかぎる

・私は座右の銘など持たないのだが、強いて言えば、「したくないことはしない」

・私は、その人が大人物であるかどうか、その人がトイレに腰かけている姿を想像して判断の一助にしている。その姿を想像しただけでも滑稽感ないし違和感があれば、それはまちがいなく大人物である

・幼くして母親をなくした人間だけは知っている。世の母性愛なるものが、いかにエゴイスチックで、冷酷なるものかを。そういう見地からみると、母性愛が人類を幸福にしたか、不幸にしたか、いちがいに断定できない



氏が考えるように、したくないことはしないで、それでいて、不幸にならないように、どう生きるのかが、人生の目標なのかもしれません。

穿った見方、冷めた見方をする山田風太郎氏の見解の数々ですが、結構本質を突いています。横道にそれて、人生を見つめ直すときに読むのには、おもしろい1冊ではないでしょうか。


[ 2009/11/15 13:24 ] 人生の本 | TB(0) | CM(0)

『幸福の法則一日一言』宇野千代

幸福の法則一日一言幸福の法則一日一言
(2007/12)
宇野 千代

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宇野千代さんが98歳で亡くなられてから、早、13年が経ちます。

生前のイメージとして、女流作家の草分け的存在で、公私ともに、激しく生きてこられた方かなと思っていました。

しかし、この本を読むと、優しさに包まれて生きてこられた方であったことがわかります。

それだけでなく、この本には、豊富な人生経験を経てきた女性ならではの姿が、如実に映し出されています。特に、心の持ちように関する記述は秀逸です。

私が、この本の中から、心の持ちようの記述など、学ばせてもらったところは、以下の30言です。それらを紹介したいと思います。



・熱中する、夢中になる、何かが生まれる

・人間同士のつき合いは、心の伝染、心の反射が全部である。幸福は幸福を呼ぶ

・言葉だけで、一人の人間がやさしくなったり、意地悪になったりする。言葉の持つ魔力は計り知れないものがある

・「尽くす」という行為は相手のためにしているように思える。しかし、よく考えると、それは、自分がしたいから、していることなのである

・好奇心を持っていますとね、気が向いていますから、向こうから呼んでくれるのですね。気は気を呼ぶのです。呼び合うのです

・おかしなことですが、自信のない人間は、褒められた事柄に対しても、また新しい不安を持つものです

言い争いになるときは、じっと辛抱して、ちょっと笑顔をして見せる。相手の笑顔を見て、腹を立てることは誰にもできない

・私は若い人が好きである。若さとは何か。ひと言で言えば、生きが好いということがその凡てである

ストレスの少ない暮らし方をしたいと思うのでしたら、自分のまわりの人に対して、あまり多くのことを期待しなければいいのです。

・逃げてはいけない、追いかけなさい。それが思いのままを可能にする魔法である

・ほんとうに仕事をしている人は、その仕事によって、ほんとうのことを知り、ほんとうのことを考える

真の愛とは、その人の望むことをすることである

・言葉が言葉を引き出す。言葉が先に立って感情を支配する

希望を発見することの上手な人は、生活の上手な人である

・出来ることなら、いつでも「はい」と答えたい。「はい」と答えるときの、あの、相手の気持ちを肯定する素直な気持ちになりたい

・悪口を言わない。悪口を言うと、気持ちが悪い。私はただ、気持ちの悪いことはしない。気持ちの好いことだけをしている

・進退きわまって四面楚歌、もうこれ以上、とても進めないというとき、決して、そこであきらめてはいけません。そのときこそ正念場なのです。往々にして情勢が変わるのは、それからなのですから

陽気は美徳陰気は罪悪。美徳も罪悪も、そのままの姿ではとどまらない。すぐそこで、となりの人に感染るものである

・あの人はいい人であると思える人はいい人なのです

・自尊心というものが隠れている間は何事も起こらないのに、ひょいと頭をもたげると面倒なことが起こる。人間関係においては、あなたの自尊心は、ちょっと横に置いておく、ちょっとどこかに隠しておいていただきたいのです

・どこで進むか。どこで退くか。私の選択は明瞭簡潔です。自分に情熱が欠けていると思ったら、潔く、廻れ右をするのです

・人の持っている性質で、誠実であることほど美しく尊いものはない

・顔立ち、顔の造作は生まれつきのものですから、変えようもありません。しかし、顔つきというのは、自分で作るものなのです。心の持ち方一つで変わるものなのです

・あの人は私を褒めている、と思うと、実際、人は褒めているものである。人生において幸福を呼ぶものはこれである

・好奇心は、人間を生き生きさせる。思いがけない成果を生む。大成功は好奇心のなせる業である

・人間は誰でも、生まれながらの性情をそのままにして生活している。本人は気のつかないまま、知らぬ間に多くの人を傷つける。そのことに気づいた瞬間に、人間は自分を変えることができる

・自信があるということは素晴らしいことです。それが自惚れにしか過ぎないことであっても、それだけで好いことです

・自分で自分にかける暗示ほど、恐るべきものはありません。それは人生の道筋を変える力があるのです

・自尊心の押し売りほど鼻持ちならないものはありません。自尊心という障壁が、相手を受け入れる、あるいは、相手と交流する邪魔をするのですね。大抵の人間関係の失敗は、この人間の自尊心に原因することが多いのです

・「スマイル、スマイル」と心の中で呟きながら、ニコニコして歩いていると、何だか気持ちが軽くなって、その分、足もともはかどるものです



宇野千代さんが、可愛いおばあちゃんだったと想像できませんか?

歳をとるにつれ、わがままになり、欲の皮が突っ張る人が多いように感じます。

好かれるか、嫌われるかの差は、心の持ちよう次第で、歳とともにどんどん広がっていくのかもしれません。

歳をとっても、かわいらしさを失わず、誰からも愛されようとするなら、この本をちょっと読んでおくのもいいのではないでしょうか。


[ 2009/11/13 08:52 ] 宇野千代・本 | TB(0) | CM(0)

『ニセモノ師たち』中島誠之助

ニセモノ師たち (講談社文庫)ニセモノ師たち (講談社文庫)
(2005/07)
中島 誠之助

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いい仕事してますね」でおなじみの中島誠之助氏の本です。テレビ受けする術を熟知された、ちょっと軽めの先生と思われていたら、その認識が、この著書で覆されのではないでしょうか。

この本は、骨董商とニセモノ師たちの戦いが描かれており、ニセモノの本質に迫る、深い内容になっています。

さらに、骨董という商品の枠を超えた、葛藤する人間ドラマもそこにあり、読み応えがあります。

お金の上手な使い方本物の見分け方人に騙されない方法、欲望のコントロールなど、この書から学ぶことがいっぱいあります。

私が、この本の中から、学ばせてもらったところは、以下の21箇所です。それらを紹介したいと思います。



・人間には「欲」がある。自分の資産を確保したいという所有欲独占欲、儲けたいという金銭欲。ですから、つい安く買いたい、掘り出し物を見つけたいという具合に、行動としての人間の弱さが露呈される。そこにニセモノがつけいるスキが出てくる

・買ってくれ、見てくれという突発的な商談を、骨董商の隠語で「歌い込み」と言うが、長いお付き合いのなかから自然に浮かび上がってくる、あたたかみのある依頼ではない。歌い込みの品物は99%商売的にだめな話といってよい

・「高価買入」と書いてあっても、商人が高く買ってくれるはずがないのではないか。トンビに油揚げをさらわれるのではないか。世間の人は高価とか誠実という言葉の裏に見えている虚構をよく知っている

・ホンモノとニセモノを見分けるには、自分の目、自分の信念だけが頼り。「品物は口を利かないが、人間は口を利く」ということさえ、頭にたたきこんでおけば、ニセモノを避けて通れる

・骨董を見分ける前に、まず人を見分けることができるかどうか。それがニセモノかホンモノかを見分ける大きな鍵になる

・ニセモノにはニセモノだけの世界があり、そのなかで経済活動がおこなわれている。ホンモノはホンモノ社会のなかで動いていくので、両者はあまり交わることがない

・「目利き儲からず」という言葉が昔から骨董界にあるが、目利きにして人品卑しからずという人の商いはそれほど儲かるものではない。ただ「名器名品を扱った」という心の勲章を持ち続けることができ、同業者の畏敬を受け、名誉をもって生涯を通すことができる

・「悪銭身につかず」と昔から言われたとおり、ニセモノで儲けた人で後世に名を残した人はいないし、人生を見事にまっとうした人は誰一人としていない

人間の活動サイクルを6年周期ぐらいに考えてみると、ニセモノの売り手も買い手も大体2サイクルぐらいの間隔で没落する

・ニセモノがあるから面白い。優等生ばかりじゃつまらない。アウトローな人間がいるから面白い。新しい物の見方は、こういう人たちから生まれる。自分勝手な人ホラ吹き、欲張りなど混ざっているから長い人生飽きないし、社会の暮らしに彩がある

・最初に安いホンモノを提供し、相手を儲けさせて、その後で高額のニセモノを提供すると、だいたいは落ちる、ひっかかる。そうならないためには、人品卑しからぬ、無欲ということが必要とされる

権威に弱い人間で、それを盲目的に信じ込んでしまう、これも騙される人の法則の一つ

・鑑定料をもらう商売であれば、高く評価してホンモノと鑑定してあげれば鑑定料がたくさん懐に入る。相手だってそれを期待しているから喜んで鑑定料を払う。そして、高額の鑑定料金を請求した方が、鑑定行為を信用する。多くの鑑定家が商売として成り立つわけがここにある

・実体はないが、ありがたい権威、千年以上にわたる日本人の憧れが京都であり、形態としては、本願寺、千家、池坊のお墨付きに究極される。京都に反抗したのは頼朝と家康だけだった

・騙される素人の3法則
 法則1:欲が深い
 法則2:出発点のレベルが低い
 法則3:適度に小金があり、教養もあること

・古美術の世界で「先生」と呼ばれる人(話が上手くて、カリスマ性があり、面白く、独自の美意識、美術論を展開するので、周囲に人が集まる)ほど気をつけたほうがいいものはない。騙される法則の4つめに加えたいくらい

・「玄関に虎の毛皮が敷いてある家」と「帝国軍人と政治家の蔵」にはロクなものがない、はオヤジの名言

・プロというのはひっかかったことを表に出さないし、キャンセルもしない。キャンセルするような業者だったら、将来大成しない。お金の痛みをぐっと堪え、苦い経験を背負って遠い道を歩くというのが骨董商の姿

・目利きの人は、国宝重文クラスの品から安物までわかるし、自分の専門外の品や料理、音楽、人物など別世界の分野のものまで「なんだかよさそうだ」と目利きができる

・知識すなわち学問が土台になって、その上に美が成り立っているのは、アンバランス。美しいな、いいなという感動が土台になり、その上に知識や学問が成り立っているのでなければ、美意識のバランスは崩れてしまう

・人間、一生の間で一番目が利くのは、気概のある20代後半から30代まで。それ以上になると、欲が強くなって、そのぶん、目が利かなくなる。そこが悪いことをする人たちの狙いどころとなる


「欲望」「お金」「教養」「修養」「審美」が織りなす骨董の世界は、人間の生き方そのもののように感じました。

人間的成長なしに目利き力は伴わないというのは、どんな世界でも共通している事実でもあります。

骨董から、浮き彫りにされる、人間の欲の世界を垣間見ることができ、面白くてためになる1冊ではないでしょうか。


[ 2009/11/12 08:14 ] 中島誠之助・本 | TB(0) | CM(0)

『商人道ノスヽメ』松尾匡

商人道ノスヽメ商人道ノスヽメ
(2009/06/23)
松尾 匡

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著者の松尾匡氏は、本書の元となった論文で、ジャーナリストの賞を与えられました。現在は立命館大学の教授です。

商人道の大切さを、以前このブログで書いた、山岸俊男氏の「日本の安心はなぜ消えたのか」以上に説いています。

日本は、独裁国家でもないのに、集団に忠誠を誓い、仲間意識を強要する組織がいまだに多くはびこっています。この不況下で、それがまた強くなってきているようにも思います。
自由を削がれるようで、嫌な感じです。

こういう武士道的な精神の対極にあるのが商人道です。この本は、商人道の素晴らしさを論理的に解明されています。商売人の子として生まれ、そういう教育を自然と受けた私には、大変感銘できる書です。

本書を読んで、よかった!と思ったところをできるだけ紹介したいと思います



・「昔の日本の武士はこんなに公に尽くしていた。武士道に返れ」と言われれば、思わずそうだと喝采したくなるが、実は武士道は目下の問題の解決にならない。なぜなら、武士道は身内集団原理の道徳にほかならないからである

・経済社会システムが開放個人主義原理に基づくものに変わっている現実に合わせて、人間の価値観や道徳観もそれに合わせて変わらなければならない。その最も体系化されたものこそ商人道である

・現在は、全地球的に、身内集団原理から開放個人主義原理へと力点が大きく移動した時代である。ソ連・東欧の共産党支配体制の崩壊、米英の民営化・規制緩和、EUの統合、中国の市場経済化もこれにそって動いた。その背景にはIT革命と称されるテクノロジー上の大転換がある

・武士道は江戸時代にはごく一部の支配者層の道徳にすぎなかった。一般庶民はそれとは異質の道徳観で生きていた。それは、開放個人主義原理の社会関係を律するためにぴったりの道徳体系だった商人道である

ジェイン・ジェイコブスは、古今東西の道徳話や教訓話の中にある徳目が、時代や民族にかかわらず、「市場の倫理」と「統治の倫理」の二系統にきれいに分かれることを見出した

・「市場の倫理」は見も知らぬ他人を広く相手にする人間関係を規律する「商人道」である。中心に置かれた価値は「他人への誠実

・「統治の倫理」は軍人などの統治者に必要で、境界のある集団内部での人間関係を規律する「武士道」である。中心に置かれた価値は「身内への忠実

・開放個人主義原理に基づく市場社会では、「取引」に悪いイメージをもっていたらやっていけない。それに相応した倫理感の発想は、「取引すればお互いトクをする」である

・身内集団原理の倫理感では、「利他」と「利己」を振り分ける発想をする。身内に対しては、一切見返りは求めずに、とことん奉仕するのが正義とされる

・開放個人主義原理と身内集団原理の二大原理は、悪意ある相手と関係して食い物にされてしまうリスクを「排除」するか「管理」するかの違いで現れた

・日本は信頼社会と思われているが、あくまで身内集団の内部であり、集団の外の他人まで人間を信頼しているわけではない

グラノベッターの「弱い紐帯の強さ」では、家族や親友のような「強い」つながりは、力を行使するには役立つが、情報伝達には優れていない。ちょっとした知り合いのような「弱い」つながりは、異なった社会集団間の「橋渡し」をするので、情報伝達や社会的な組織化を促すとされる

ルース・ベネディクトは「菊と刀」の中で、「義理」という言葉には、「しぶしぶやるもの」「つらいもの」というニュアンスがつきまとうと指摘している

・日本人にとっては、仲間の目が神である。仲間の目にどう映るかが、ときには命より大事なことである

・日本企業には、「正社員=身内」「非正社員=よそ者」という図式があるので、身内の目ばかり気にして外部を配慮しない身内集団倫理が適用されると、平気で非正社員にすべての犠牲がしわ寄せされることになる

石田梅岩の著書「都鄙問答」では、当時の儒学者には常識だった商人への偏見(商人はどん欲で、常日頃人をだまして利益を得るのを仕事にしている)を取り上げて、取引はみんなのトク、商行為は善行と論破している

・石田梅岩は、「商人は正直に思われ、警戒心をもたれないときに成功する」と言って、いたるところで「正直」を説いている

・石田梅岩の「斉家論」では、正直が行われれば世間が一同に和合する。つまり、えこひいきはいけないと言っている。「都鄙問答」では、武士がお礼のお金を受け取って事を取り計らうことは、必ずえこひいきの処置を取ることになるからいけないと言っている

・「人は貴賎に限らずことごとく天の霊なり。貧窮の人といえども、一人飢えるときは、直に天の霊を絶つに同じ」という「人権宣言」のような梅岩の救貧主張は、すべての個人を尊重する人間観。同胞だから助けるというような身内集団原理の救貧観とは違う

・梅岩死後、その思想を引き継ぐ「心学」教団は急速に膨れ上がり、江戸にも普及しはじめる。しかし、武士階級にも普及した心学は商人のための教義の側面が薄れ、封建体制の御用学問の側面が強くなり、この繁栄が凋落の原因になってしまった

・「持下り商い」と呼ばれる、上方と帰途地方の行商からスタートした近江商人は、蝦夷地から清国までの物産を商う「諸国産物廻し」と呼ばれる大事業に発展した

・近江商人は、江戸時代、先進的な経営手法を独自に開発。1746年には、すでに使われていた「複式簿記」。盛んに行われていた共同出資方式の会社事業「乗合商い」。近江で雇用した丁稚を各地に配置し、数年おきに里帰りさせ、勤務評定に応じ出世させて全国に送り出す「在所登り制度」など

・「わがままな当主は解任」といった石田梅岩の商家用モデル家訓もルールとして規定され、近江商人の商家は、強制隠居制度が家訓の中に明文化されているケースが多い

・近江商人には、浄土真宗の敬虔な信者が際立って多い。近江商人特有の性格を形成するにあたって、浄土真宗の教義が影響を与えたことは間違いない

・浄土真宗の「絶対他力」の思想は、極度な個人主義。僧侶に読経してもらっても救われない。個人が直接弥陀の本願にすがる他ない。誰も頼りにできない心理的孤立である。この個人主義から、自分の運命は自分で開拓する「独立不羈」の精神が生まれた

・藩ごとの自給自足が望ましい時代において、蓄えた金を藩外に持ち出す近江商人は「近江泥棒伊勢乞食」という有名な悪口の中で、周囲に信用を築き、広げていかなければならなかった

・伊藤忠の元祖、伊藤忠兵衛の言葉「商売は菩薩の業、商売道の尊さは、売り買い何れをも益し、世の不足をうずめ、御仏の心にかなうもの。利真於勤(利は勤むるに於いて真なり)」は、近江商人の思想を総括する

・近江商人は、身内集団としての甘えも温情も義理も期待できなかった。身持ちを正しくし、親切を重ねなければならないので、地元に安易に同化せず、強烈な他国者意識を持ち続けることを心がけたと言う

・ふとんの西川の西川家の家訓には、「好富施其徳」という言葉がある。富を得たらそれに見合った社会貢献をせよという意味

江戸商人道には、自立した誠実心(集団の監視が届かないところでも、他者に対して協力的に振る舞う)分け隔てない公正(悪い奴がいても、個人の属性とみなし、所属集団のせいにしない)ウィン・ウィンの信頼(他者に対して協力すれば自分にとってもトク)の精神が読み取れる

・住友家の祖、住友政友は「謀計は眼前の利潤たりといえども、必ず神明の罰に当る。正直は一旦の依怙に非ずといえども終には日月の憐を蒙る」つまり、約束より多く受け取ったらその分は正直に返せと言っている

・身内集団の固まりのように思われる武士にしても、上位者への絶対忠誠を掲げる「武士道」にまで純化したのは、本物の戦争がなくなった江戸時代に入ってから

・江戸時代初期の鈴木正三著「万民徳用」には、石田梅岩や近江真宗同様、特別の修行や加持祈祷ではなく、働くことそれ自体を仏教修行とみなす叙述が随所に見られる

薩長土肥の下級武士の身内集団原理の道徳観を、明治政府は義務教育で「修身」として全国民に押しつけていった。武士階級という人口の7%の身分の道徳を、商工業者を含むすべての職業の子供たちに植えつけていった

・資本主義経済という逸脱を許さず、大義名分たる国家身内共同体の原理を貫き通そうという志向、これが軍国主義をもたらした力学だった

・敗戦になったとたん、本土決戦用にと国民から寄付させた貴金属などの物資は、7割が地位の高い軍人に略奪されて消え、残りの3割(当時の価値で1000億円)も占領軍の指示で財閥系企業代表5人に処分を委託したところ、これも跡形もなく消えうせた。武士道を押し付けた者ほど、私利私欲に走り、陰湿悪質化した

・経済の市場化を是認するのなら、倫理観は開放個人主義的なものに転換しなければならない。身内集団倫理を変えることができないなら、市場化改革もやめ、従来の身内集団的システムを復活させるべき

・戦後の日本人は、世界中で頭を下げて、世界のお役に立つことで、焼け野原から今日の豊かさを築いた。世界中でヒト様の暮らしを少しでもよくすることだけを考え、そうすれば必ず報われると信じて頑張ってきて成功した。これこそ「商人」である。「商人国家」で何が悪い。誇らしいことである。



どうでしたか?商人国家の素晴らしさがわかってもらえたでしょうか?

世界を相手に商売されている方なら、「商人道」と「武士道」の本質的な違いがわかるのではないでしょうか。

少し難解かもしれませんが、商人として生き、商人の誇りを持つためには、是非読んでほしい1冊です。



[ 2009/11/10 07:49 ] 商いの本 | TB(0) | CM(0)

『マーケティング戦争全米№1マーケターが教える、勝つための4つの戦術』

マーケティング戦争 全米No.1マーケターが教える、勝つための4つの戦術マーケティング戦争 全米No.1マーケターが教える、勝つための4つの戦術
(2007/04/20)
アル・ライズジャック・トラウト

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この本は、マーケティングの本というよりか、戦争の本だと思います。きれいごとを抜きにして、「商売とは戦って勝つこと」であると明確に定義しているのが気持ちよく感じられます。

そう感じている人が多いのか、この本は、20年前から全米で読まれ続けているロングセラーです。

戦って勝つために、何をしたらいいのか?顧客サービスももちろん大事ですが、企業が生き残っていくには、競争に勝つしかありません。そういう視点で読めば、参考になる点が非常に多い書です。

この本を読んで参考になった箇所を一部ですが、紹介したいと思います。


・1832年に刊行されたプロシアの退役将軍カール・フォン・クラウゼヴィッツの「戦争論」は、勝つための戦略の原則をあますところなく描いている

・成功するには、企業は競争相手志向にならなければならない。競争相手が持つポジションに弱点を見つけ出し、そこにマーケティング攻勢をかける

・二つの会社が全面対決するとき、勝利の女神は数に勝る側に微笑む

・取引関係が固まっていない客を取り込むより、他社がしっかり取り込んでいる客を奪うことの方がずっと難しい。防衛の優位性が原則である

・マーケティング人が犯す最大の過ちは、防衛戦の強みを忘れること。攻撃の華々しさや勝利のスリルのおかげで、すぐに敵に攻め込もうとする

・防衛がはるかに有利な戦い方であるのは、不意打ちが難しいためである

・メッセージを膨大な数の消費者に周知させるには、数か月から数年かかる。これだけ時間があれば、防御側はあれこれの手を使って、攻撃側のメッセージ効果を弱められる

・攻撃には、防衛戦積極攻撃側面攻撃ゲリラ戦がある。防衛戦が向く会社は100社に1社、積極攻撃は2社、側面攻撃は3社、残る94社のほとんどの会社はゲリラ戦略を採用すべきである

・防衛戦はトップ企業だけが採り得る特権。最高の防衛戦略は、我が身を絶つ勇気を持つこと

・トップ企業は、競争相手に手強い攻撃を仕掛けられたら、必ず手を打たなければならない。価格を大幅に引き下げてきたときの反撃の準備は、日ごろから怠らないこと

市場リーダーは余力を残しておくことが有利な戦略。手持ちの金を取り崩して対抗できる

・恒久的な平和を達成したと思ったら、市場リーダーは戦略を変え、自社の取り分を大きくするのではなく、パイそのものを大きくすることを考える

・ナンバー2にとっては、リーダーを観察して、「どうすれば、シェアを減らせるか」自問するのがよい

・リーダーの持つ強みに潜む弱みを見つけ、そこを攻撃する

フルライン戦略は、リーダーのみ許される贅沢。積極攻撃は、単一商品に絞り込み、絞り込んだ前線で攻撃を開始する

・最善の側面攻撃は、競争者のいない分野で展開するもの。側面攻撃は本質的に不意打ちである

・十分守り切れる程度の規模の市場セグメントを見出し、ゲリラ戦を戦う

・ゲリラ戦では、どんなに成功しても、市場リーダーのようにふるまわない

・ゲリラは人員を前線に狩りだして、大企業の弱み(外に出て敵である競争相手と戦う企業戦士は半分もいない)を突く。強いゲリラは「間髪をいれずに」が合言葉

・古典的なゲリラ戦術は、年齢、収入、職業など特定の人口層を狙うこと。また特定の業界に集中することも同様

・効果的な戦略を編み出せるのは、戦場のありようを深く、直感的に理解できる将軍のみである

・偉大な軍事参謀が戦略を身につけたのは、戦場で戦術を学んだから。戦略が戦術に従う

・企業の戦略的計画の中心には、一つの目標を据え、この目標に真っ先に経営資源をつぎ込む。これを「一点集中攻撃」という

・クラウゼヴィッツは、「階級が上がるにつれて大胆な者はまれになっていく」と言った。引退が近づくにつれてと言い換えてもいい



以上、この本を読めば、ほとんどの企業が、ゲリラ戦を戦い、トップ企業は防衛戦を戦うのが有利であることがわかります。

ほとんどのマーケティング本には、オーソドックスな積極攻撃のことばかり書かれているので、役に立たないのかもしれません。

この「マーケティング戦争」は実践的で役に立つ数少ないマーケティング本ではないでしょうか。1回読む価値はあると思います。



[ 2009/11/09 07:32 ] 戦いの本 | TB(0) | CM(0)

『運に選ばれる人選ばれない人』桜井章一

運に選ばれる人  選ばれない人 (講談社+α文庫)運に選ばれる人 選ばれない人 (講談社+α文庫)
(2007/02/21)
桜井 章一

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運とは不思議なものです。科学的に証明できないのですが、運は存在しています。

学生時代、麻雀ばかりしていました。今は、どちらかと言えば、理性派タイプに属すると思うのですが、その時は、完全な感情派タイプでした。

したがって、勝ち負けの起伏が、ものすごく激しかったように記憶しています。

勝ち始めると、「ツイてるね、ノッてるね」と、気持ちが大らかになり、さらに「もう、どうにもとまらない」と勝ち続けたのですが、いったん、負け始めると、弱気になるのか、さらに負け続けていました。

社会人になり、負けない麻雀が少々は打てるようになりましたが、その代わり、大勝ちもできなくなり、面白くなくなって、結局やらなくなってしまいました。

運が来たら、感情派になり、運が去ったら、理性派になるというような芸当は、この歳になっても、難しくてできていません。

この本は、その芸当を教えてくれる書です。著者は、麻雀のプロの桜井章一氏です。著者を紹介するのは二度目です。百戦錬磨の桜井氏の運を見る目は的確です。

桜井氏が感じた運を言葉に換えて、この本で説明されています。その中で、身に染みて感じた箇所を紹介したいと思います。


・変化を感じ取り、流れをつかめば、自ずと運命は変わっていく

・運には「天運」「地運」「人運」「時運」がある。運とは恵み

・人生を円でとらえれば、苦があれば楽があり、悲しみがあれば喜びがあると自然に考えられる

・円で流れをとらえる感覚があれば、悪い状況でもツキがまた戻ってくると確信できる

・道が分かれたら、選択のタイミングがきたと感じ取る。運は正しい選択の積み重ねからやってくる

違和感が多いといい運はやってこない。できるだけ、違和感のあるものから外れて気分がよくなる方へ行ったほうがいい

・スランプで調子を崩しても、基本(基本の動作基本の心構え)に戻ることができれば救われる

・苦境の時の突破口はほんの些細なことから開けるので、小さなことに気がつく人はそのきっかけを見つけやすい

・ピンチの時は、「変わり目」が来たら素早く読んで勝負に出る

・いいものを見つけて自分のものにし、悪いものは見つけたら捨てるという「見つける力」があれば、「運」が来る

知識に頼るクセがあると違和感がわからなくなる

・運のよし悪しは変化した方向がいいか、悪いかということ。変化した方向がよくないことに気づけば、的の射る方向を違和感のない方へ修正する

慎重すぎると、「運」は逃げていく

始まりは楽しいもの。すべてを「始まり」にすると、「運」が始まる

・緊張の中から生まれる、静かな緊迫感は、「運」を運んでくる

・本当に強い人は完全を求めない。弱いからこそ100%の完全に憧れる。完全主義は最後に負ける。80%主義が強い。80%の感覚は「運」と相性がいい

・努力したことにこだわると、自分の過大評価につながる。努力を誇ると、「運」は去っていく

不利になった時は、もっと悪いことが起きていたらと仮定して、マイナスにとらわれた気持ちから自分をふりほどく

・急所を見つければムダな力を使わずに勝つことができる。ムダな力を使わなければ疲れないので、ずっと勝ち続けることができる

・最初に感じたことには余計な考えが入っていないので、純粋な判断になる。迷った時は、最初に感じた方を選ぶ

・「失敗」=「負け」ではなく、失敗した後の姿勢が「勝ち、負け」を決める。自分に対してウソをつき、ごまかすと同じ失敗が繰り返される

・欲を六分七分に抑えると残りの四分三分は心が自由になる。その闊達さが運につながる

・いいところ、悪いところすべてを開放して、正直になれば、「運」に好まれる

考えを固定するとモロい。固定観念は、現実の柔軟性を失わせ、「運」が死ぬ

・命をとられる以外には「絶対」という状況はない。ジタバタすると運は去っていく

・違和感を放つ人をイヤだと思わず、カワイソウと思うと、違和感や不快感から救われる

悪いことをしないのもひとつの愛。悪運は他人の運を栄養にするが、悪運はしょせん悪運。どこかでほころびが必ず出る

腹を立てたら負けてしまう。ユーモアや希望を怒りに加えて修正していくことが大事

・駆け引きをせず自分をありのまま出すと、チャンスがやってくる

借りを返さないと「ツキ」が落ちる。思いやりにも「お返し」をする



私自身、今になって、ようやく「感情がアクセル、理性はブレーキ」「理性はアクセルにならない」ということがわかるようになってきました。

智と情というのも、人間の永遠の課題だと思いますが、その課題を克服していくのに、この本は役立つように思います。

自分が理性派タイプだと思う人にこそ、読んでほしい1冊です。


[ 2009/11/08 09:06 ] 幸せの本 | TB(0) | CM(0)

『ホワイトカラーは給料ドロボーか?』門倉貴史

ホワイトカラーは給料ドロボーか? (光文社新書)ホワイトカラーは給料ドロボーか? (光文社新書)
(2007/06)
門倉 貴史

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日本のホワイトカラーの実態が、どうなっているのか?それを詳細に調査した本は、あまりなかったように思います。

この本は、日本のホワイトカラーの現状や問題点を浮き彫りにしています。事実を知って、現状を把握しておくことも大事なことです。

この本を読み、ホワイトカラーについて、新たに知らされた箇所を、少しだけですが、紹介したいと思います。



・日本のホワイトカラーは、3263万人、全就労者に占める比率は51.1%

・ホワイトカラーの、内訳を見ると、全体を押し上げているのが「専門的・技術的職業従事者」や「事務従事者」。「販売従事者」や「管理的職業従事者」は減少傾向

・ホワイトカラー総数に占める正社員割合は59.3%まで低下

・先進7カ国(G7)の中では、日本の労働生産性は最下位。製造業の労働生産性は、OECD24カ国の中で3位

・ホワイトカラーはブルーカラーと違って個々の労働生産性のバラツキが非常に大きいので、平均の労働生産性を上げようとすると、一部の労働生産性の高いホワイトカラーへの仕事の負荷を生む

・国際比較で見ると、日本の総実労働時間は大きく短縮しているが、これは見せかけ。実は、パートタイマー比率が他国に比べて大きく上昇しているのが最大の要因

・サービス残業(ただ働き)時間が長いのは、年間275時間の「卸小売業」、次いで「情報通信業」「金融保険業」の順。逆に少ないのは、年間91時間の「製造業」や年間108時間の「建設業」

・16~49歳の婚姻関係にある人のうち1カ月以上性生活がないセックスレスは34.6%。割合は年々上昇。セックスレス夫婦の場合、その原因は、女性ではなく男性にあることが多く、とくに高学歴ホワイトカラー男性がセックスレスになる傾向が強いと指摘されている

・大企業の社員が年収624万円に対し中小企業の社員は年収388万円と格差が1.6倍に拡大。雇用者数の66%は中小企業なので、中小企業の所得環境が改善しないことには、消費を主導にした景気の持続を期待することは難しい

・企業が正社員の賃金を抑制し、非正社員が増えれば、労働者はやる気を失い、生産性が低下。購買力も小さくなり、消費も抑制。製品やサービスの質も落ちるので、国際競争力も削がれる。こうした経路は「ロー・ロード」と呼ばれる

・国内製造業のブルーカラーの雇用がBRICsなど新興国に奪われる影響は、システムエンジニア、技術者、会計士、弁護士などホワイトカラー層にまで広がりを見せる可能性

・日本は先進国の中ではダントツに最低賃金の水準が低い国。先進国の6割程度

・派遣労働者の中に占める3カ月未満の短期契約の割合は73%と急速に高まり、「ワンコール・ワーカー」が増加している

・日本国内で労働市場の流動化が進んでいけば、個々のホワイトカラーはエンプロイアビリティ(どの企業でも通用する普遍的な能力)を高めていく必要がある



今やホワイトカラーでない人の方が少なくなっています。今後とも、日本だけでなく、世界中でも、ホワイトカラーがどんどん増えてくる勢いです。

そうした中で、ホワイトカラーとして、どう働いたら、自分にとって得なのか?もう少し考えてみる必要があるように思いました。

リストラされずに、定年まで働けるホワイトカラーとは?
生きがい、やりがいを持って働けるホワイトカラーとは?
残業が少なく、時間に融通のきくホワイトカラーとは?
都会のきれいな本社ビルで働けるホワイトカラーとは?
給料のいいホワイトカラーとは?

全部を追い求めるのは、一流企業のホワイトカラーでも難しい時代です。

5つのうち3つが当てはまったら、大満足。2つでも満足。ホワイトカラーも、そう割り切って働く時代なのかもしれません。

安定」「やりがい」「ゆとり」「名声」「お金」、これらが、一生懸命勉強して一流大学に入り、その後、一流企業に勤めたら、手に入るという夢や希望は、幻想、愚考であると、再度気づかせてくれた1冊でした。


[ 2009/11/06 12:48 ] 仕事の本 | TB(0) | CM(0)

『「いい人」には「いいこと」が起こる!-なぜ、ハイタッチな人は成功するのか?』

「いい人」には「いいこと」が起こる!―なぜ、ハイタッチな人は成功するのか?「いい人」には「いいこと」が起こる!―なぜ、ハイタッチな人は成功するのか?
(2007/07)
スティーブン ポストジル ニーマーク

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「いい人にはいいことが起こるのではないか」と何となくそう思いますが、これを科学的に立証しようとした本は、今まで少なかったような気がします。図書館で、この本のタイトルを見て、思わず手にしてしまいました。

この本は、全米44大学の最先端医療・心理学の研究所で発表された「いい人」と「いいこと」の関係を体系的にまとめています。証明事例が中心ですので、説得力があります。

出版元が、宗教系の出版社だったので、そういう色が途中に出てくるのかと思いきや、それもなく、おもしろく読み進んでいくことができました。

いい人にはいいことが起きた実験や事例で、おもしろく思えた箇所を、この本の中からいくつか紹介したいと思います。



・人のために役立つ利他の行為をすると、青年期のうつ病と自殺の危険率が下がる(ミネアポリスのピーター・ベンソン研究所)

・愛をもらうよりも自ら与えんとする人の方が長生きしやすい(ミシガン大学老年研究所、ニール・クローゼ)

人のために心から祈るだけでも、老年期の深刻な病害の可能性は低くなる(社会学者、マーク・ムシック)

・感謝は人の健康と深く関わっており、臓器移植患者が感謝の気持ちを深く持てば持つほど、術後の回復が早いことが判明(カリフォルニア大学、ロバート・エモンズ)

・15分間感謝の時間を取ると、病原菌の侵入を阻止する働きを持つ免疫抗体が増える。これを1カ月続けると、ストレスとなるコルチゾール・ホルモンが30%減少(心臓学研究所、ロリン・マクレー)

・機能障害で疲労と苦痛の毎日をおくる筋ジストロフィー患者に、21日間感謝の日記をつけさせたところ、積極的な気分になり、人とのきずなも深まり、熟睡できるようになった(カリフォルニア大学、ロバート・エモンズ)

・ストレスを抱え込んでいても、感謝することで人生を違う観点から見ることができ、感情が修正される。感謝のスコアが高い人は、トラウマの精神的後遺症も軽い(イースタン・ワシントン大学心理学者、ラッセル・コルツ)

・階層、知能指数、宗派に関係なく、人を育む行為はプラスに働き、10代でたくさん実践した人は、最終的に上級の社会階層に属する(ウェスレリー大学心理学者、ポール・ウィンク)

・ボランティアが盛んな地域では、犯罪が少なく、学校環境は良く、幸せで健康な住民が多いという調査結果が得られた(エセックス大学)

・いつまでも怒っている状態は無気力の感情を増幅し、恐ろしいことがまた起こる可能性が高くなる(ボーリング・グリーン州立大学心理学者、ケニス・パガメント)

・謝罪は両者に同じ価値観を共有させる。過ちは故意ではなく、加害者も自責の念に駆られている。双方ともに相手の存在を認めてオープンに話し合うべき(マサチューセッツ大学医学部、ラザール博士)

・変化とストレスを、快適と安全への侵害と見なすのではなく、教訓と成長への機会と見なす。経験と想像力が逆境克服の力と関係している(カリフォルニア大学逆境克服研究所、サルバドーレ・マディ)

・おもしろい漫画を見ると、ドーパミン放出量が増える。面白いジョークを感じ取れる人は、互いの考えを話し合い、引き付け、気持ちを高揚させ、トラウマやストレスに対処できる(スタンフォード大学「笑い」の研究)

・高次な希望を抱く人たちのほとんどは、人生の困難を潜り抜けるのに必要な陽気な精神を持っている。特に利他行動を取れる人は、生き生きとしたユーモアの持ち主であることが判明(テキサスA&M大学心理学者、デービッド・ローゼン)

・ひどい無視と孤独が成長ホルモンのレベルを下げてしまうことが分かった(ウィスコンシン大学心理学者、セス・ポラック)

・妻にとっての幸せとは、結婚における感情的な安定であることが判明(バージニア大学)

・既婚者は男女を問わず、未婚者より死亡率が低いことが判明(シカゴ大学人口統計学者、リンダ・ウエイティ)

・子供の前で喧嘩が絶えない結婚生活は、免疫機能を著しく低下させる(オハイオ大学行動学リサーチ研究所)

・外の集団を助けて仕事をすると、内部と外部の両方に誠実さを持つことができる(ニューヨーク州立大学心理学者、アーサー・アロン)

話を聞く側の方が、話を聞いてもらう側よりも、はるかに健康が増し、自分の見方や人生の捉え方が劇的に変化した(社会心理学者、キャロリン・シュワルツ)

・「聞く」とは、そばにいてあげること。スキンシップや感情表現を通して、聞き手側が相手を理解してあげること(アズサ・パシフィック大学心理学者、ケビン・リーマー)

・創造性がプラスの感情を強力に拡大する。楽しい状態にあると、柔軟性が出て、情報にオープンになる(ノース・カロライナ大学心理学者、バーバラ・フレデリクセン)

・独創的な思考と自己実現の間に強い関連性があることがわかった(カリフォルニア州立大学、マルク・ランコ)

歌を歌う老人は、精神と健康の状態が良好で、病院に通う回数も少なく、転ぶ回数も減る(ジョージ・ワシントン大学と国立芸術基金団体の共同研究)



要するに、「成功したい」「モテたい」「幸せになりたい」と思えば、まず「与える」ことからスタートということではないでしょうか。

アメリカの事例なので、日本とは少し事情が違う点もありますが、大筋は日本人にもよく当てはまるように感じました。

今まで「与える」行為が少なかったと思える人は、この本を読むといいのかもしれません。


[ 2009/11/05 07:09 ] 幸せの本 | TB(0) | CM(1)

『3種類の日本教-日本人が気づいていない自分の属性』島田裕巳

3種類の日本教―日本人が気づいていない自分の属性 (講談社プラスアルファ新書)3種類の日本教―日本人が気づいていない自分の属性 (講談社プラスアルファ新書)
(2008/04)
島田 裕巳

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私は、「自営業・自由業系」の家に生まれました。妻は「公務員・教員系」の家に生まれました。しかし、妻の両親の家は、もともと「自営業・自由業系」でした。

なんとなく、話が混乱してきましたが、宗教学者である島田裕巳氏は、この著書の中で、日本人は大きく分けて、職業や生活スタイルから

サラリーマン系
自営業・自由業系
公務員・教員系

の3つの集団がいると述べられています。

ところで、私が、サラリーマン時代、どうしても馴染めなかったのは、

「客の言うことを聞け」と親から教えられたのに、会社では上司の言うことが優先されていたこと
「会社の金でも無駄遣いするな。1円でも安く」と親から教えられたのに、会社では経費に無頓着な社員が多かったこと

等々、やはり、育ってきた環境によるものかなと少し違和感を覚えました。この違和感こそ、すごく重要なことであると著者はこの本で述べられています。

以前、企業が求める人材像と管理職の役割(2)の記事の中で、日本ガンバル教について書いたことととも似たところがあり、すごく共感できました。この共感できた箇所を列挙すると、ざっと以下のようになります。



・日本の3つの集団の人口割合は「サラリーマン系」7割「自営業・自由業系」2割「公務員・教員系」1割である

金銭感覚の違い家風の違いなどは、この集団の違いによるものが大きい。したがって、同じ集団同士が結婚するとうまくいく

・日本の企業数は430万社、アメリカの企業数は580万社。人口はアメリカの半分以下なので、人口比では、アメリカの2倍近くの企業数になる。しかも、アメリカと比較して、大企業の割合が多いのも特徴。日本は世界一の企業社会である

・サラリーマン系では、個人は集団と融合し、一体化することが求められるのに対し、自営業・自由業系では、組織に頼ることができない以上、むしろ融合、一体化せずに社会と闘っていかなければならない

・日本の公務員の働き方は、アメリカのサラリーマンの働き方に近く、利益を上げる必要がない。日本のサラリーマンの働き方は特異である

・夢ということで職業を選ぶべきではない。3つの属性のどの属性に属し、どういった職業感覚を身につけるかから出発すべき。サラリーマン系や公務員・教員系は商売がどういうものか根本が理解できないため、商売には向かないことが多い。

・日本の企業は宗教団体に近づいてきており、個人の心に介入しなければ、組織の維持運営が成り立たなくなってきている。将来を考えると問題が多い

・独立した個人としての能力よりも集団への適応力、順応性の高さが求められるサラリーマン系が増加すれば、悪影響を及ぼす可能性。世界に立ち向かうには、個人として自立し、的確な判断力が必要であり、それに逆行している

・大学もサラリーマン系養成に傾斜してきた。本人の適性より、一流企業への就職を重視



この本を読めば、日本の企業社会が、世界でも類を見ない方向に進んでいることがよくわかります。

今まで、社会全体が、「サラリーマン系」の人々を中心として、動き、動かされてきたのではないでしょうか。日本の最近の低迷の要因は、そこにあるのかもしれません。

いろんな属性の人が存在し、その存在を認め合って、社会が動いていくと生き生きとした社会が生まれてくるように思います。

この本は、わかっていそうで、わかっていないかったことを、わかりやすい言葉で解明してくれた貴重な本です。

自分の属性を知り、それぞれの属性に対する最適な生き方を知りたい方には、是非読んでほしい1冊です。


[ 2009/11/04 08:16 ] 島田裕巳・本 | TB(0) | CM(0)

『本音は顔に書いてある』アラン・ピーズ、バーバラ・ビーズ

本音は顔に書いてある本音は顔に書いてある
(2006/03/21)
アラン・ピーズバーバラ・ピーズ

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この本の意図は、言葉でなく、しぐさから本音を読みとろうというものです。

人間は社会的動物ですから、嘘を上手につくことが生きる手段になります。それは仕方ないことです。

このことを踏まえた上で、相手の言葉とは裏腹の部分を慮ることができれば、人間関係を円滑に保つことができるのではないでしょうか。

当初、欧米と日本では、しぐさが違うのではないかと懐疑の目で、この本を読んでいましたが、読むに従い、違いがほとんどないことがわかりました。人間という動物がするしぐさは、万国共通のようです。

この本を読み、やっぱりそうかと思った箇所と新たにハッとさせられた箇所を紹介したいと思います。



・ボディランゲージの察知能力実験で、男女が話をしている音声なしの映像を見せ、内容を推測させたところ、女性は87%正確に言い当てたのに対し、男性は42%しか当てられなかった。女性の中では、子育て経験のある人の成績が特によかった

・対面式の占いでは、「コールド・リーディング」と呼ばれる、ボディランゲージを読みとって相手のことを探り出すテクニックが用いられている。占い師に女性が多いのもこのため

手のひらを見せるのは、戦う意思がなく、脅威を与えないことを示すため

両手をポケットに入れるのは、男性が話をしたくないときに見せる典型的動作

・カップルが手をつなぐ場合、手の甲を前に向けて握っているほうが支配的立場にある

・成功している企業の男性役員の88%が、手の甲を上に向けた威圧的な握手をする

両手を使う握手は、信頼感や誠実を伝えるために行われる。しきりとこの握手をしたがる人がいるが、かえって逆効果になることもある

・相手に笑顔を見せると、向こうも笑顔になる。たとえ作り笑いでも、笑顔は伝染する

・男性は、意図的に嘘をつくとき、いつもより笑顔が出なくなる。笑ったとしても、自然な笑みがすぐにこわばる

・人はひとりきりのときより、誰かといっしょにいるときの方が30倍も笑う。人が笑うのは、誰かと仲良くなりたい場合が多い

・元気がなくて気持ちが落ち込んでいるときや、怒ったり緊張したりしているときは、口角が下がってへの字になってくる

・腕をしっかりと組み、しかも両手でこぶしをつくっていたら、守りに入っているだけでなく、相手への敵意も湧きあがっている

・両手で二の腕をがっしりとつかむようにして腕を組むのは、安堵感を得たい気持ちが隠れている。歯医者の待合室、離陸直前の飛行機、法廷の被告などで見られる

・自分が冷静に見られたいとき、親指をのぞかせる腕組みをする。相手が話しているうちにこの格好に変わったら、あなたへの印象がよいほうに変化した証拠

・男性の場合、せっぱつまった状況のとき、急所を手でおおうしぐさをして、安心感を覚える

・人目にさらされて、不安を覚えているとき、男性は、腕時計やカフスをいじったりする。女性は、ハンドバッグを抱えたりする

・男性客の手やひじに軽く触れるウエイトレスは、そうでないウエイトレスよりチップが36%多かった。ウエイターの場合、性別に関係なく、客の手やひじに触れることで、チップが22%増えた

・顔が笑っていても、手を組む動作をしていれば、不満や不安がひそんでいる証拠

・女性が相手の気を惹きたいとき、両手を重ねあわせた上にあごを置くしぐさをよく見せる。かなり脈あり。ここぞとばかりにほめまくろう

後ろ手を組むのは、優越感、自信、権力意識の現れであるが、それを逆手にとって、強いストレスにさらされる状況で、後ろ手を組むと、不思議に自信が湧いてくる

・ポケットから親指だけ出すしぐさは、自分が優位にあると感じている人間がよく見せる

・親指で他人を指すのは、その人を軽蔑し、バカにした心情の現れ。女性は男性に親指で指されると、とても不愉快に感じる

口を手でおおう動作は、言いたいことがあるのに我慢している印象を相手に与える。そういうしぐさをしている人がいたら、「何かご意見は?」と呼びかけてみよう

・嘘をつくときは、指先で軽く鼻に触れることが多い

・耳をつかんだり、触ったりするのは、「いやな話を聞きたくない」気持ちの現れ

・利き手の人差し指で首の横、耳たぶの後ろを5回くらいかくのは、疑いや不安を持っているときに出る典型的な動作。「気持ちはよくわかるわ」と口では言いながら、内心全然そう思っていない

・指を曲げた手をほおやあごに当てて、人差し指を立てるポーズは、相手のことをどう評価するか考えているときに出てくる

・親指であごを支え、人差し指をまっすぐ立てているポーズは、相手の意見に反対だったり、相手そのものが気に入らないときに見られる

・間違いを指摘されたとき、額や頭をたたくのは、単に嘆いているだけだが、首の後ろやうなじをなでるしぐさをしたら、指摘した人を腹立たしく思う気持ちが混じっている

・女性が顔をうつむき気味にして、上目づかいをする表情は、男の心を揺さぶる

・少し離れたところにいる男性の注意を惹きたいとき、女性は彼と視線を数秒間あわせ、それから目をそらしてうつむく。こちらの意図を気づかせるには、平均的な男性で3回、かなり鈍い男で4回見つめる必要がある

・何人かで立ち話をしているとき、前に出ている足が、いちばん魅力的で興味深い人に向いているはず。その場を離れたい人は、足の先は近くの出口に向いている

足首を交差させる座り方は、心の中で「唇をかんでいる」状態だと思えばいい。ネガティブな感情を押し殺している。会話がはずんでくれば、足は椅子の外に出てくるはず

・うなずきには伝染力がある。相手があなたに対してうなずいていると、あなたも思わずうなずくだろう

・相手の意見や態度が気に入らないけど、そのことを表明したくないときは、何かを外したり、取り除こうとするしぐさが自然に出てくる

・交渉事で、話の最後に、相手が手のひらを太股の上に置き、前のめりになってきたら同意が得られた証拠。さらに、あごをなでたり、相槌を何度も打っていれば怖いものなし

・交渉事で、手を膝に置いたり、椅子の縁をつかんでいる場合、前のめりでも、相手は話をそろそろ終わりにしたい気持ちの現れなので、会話を打ち切ったほうがいい

・お互いの動きやしぐさをまねる「ミラーリング」は、お互いの存在を受け容れ、信頼関係を築くための大切な方法。動きをまねれば心が通う

・女性が長いものを手でもてあそんだり、指輪をはめたりはずしたりするのは、これから起こることを期待している証拠

・ハンドバッグは女の身体の延長。そのハンドバッグを男のほうに近づけてきたり、そばに置いたりしたら、「もっと親しくなりたい」というメッセージ

・男がお目当ての女性に見せるありがちなポーズは、ネクタイをなおす・衿元をととのえる・肩のほこりを払う・袖口をさわるなど。自分をより大きく、強く、かっこよく見せることが目的


一般的に男性はボディランゲージに気づくのが鈍いようです。それを補うためには、この本を読んで学習する必要があると思います。そうすれば、人生、かなり得するのではないでしょうか。

また、この本には、しぐさやポーズの実例として、写真やイラストがふんだんに使われています。これらを見れば、もっと理解が深まると思います。是非、買って読んでほしい1冊です。

[ 2009/11/02 06:44 ] 仕事の本 | TB(0) | CM(0)