著者の
明石散人(ある作家の別ペンネーム?)さんを知ったきっかけは、15年前にテレビで放映された「
謎ジパング」でした。その後も、著者の本を数多く読みました。
博覧強記ぶりにいつも感心させられています。
今回紹介する「
日本史快刀乱麻」の中の、「世界最先端、江戸期の通貨政策」で看破する見解は、経済学者や経済官僚の見解の域をはるかに超えたすばらしいものです。
書きたいことだらけですが、この「日本史快刀乱麻」で感銘した箇所を、「江戸期の通貨政策」を中心に今から紹介したいと思います。
・江戸期の日本の通貨制度は
銀本位制度。当時、金本位制の欧米の
金と銀の交換比率は1対16~20であった。ところが、日本は1対4の交換比率。諸外国は、銀と金を交換するだけで4倍以上儲かり、日本は大損であった
・金や金貨の国外流出を黙って見ていた幕府の経済閣僚も交換率の問題に早い時期に気づいていたが、それを公にすると、先輩官僚の批判につながると考え、口をつぐんでいた。この体質は今の官僚体質にそっくり
・徳川幕府は、いいかげんな銀本位制で大損したが、江戸中期の勘定奉行であった
荻原重秀などは、次々と貨幣を改鋳して幕府に莫大な利益をもたらした
・荻原の基本理念は、「一両には一両に値する金の含有量を求められるが、幕府の財政が健全で、なおかつ国内景気が緩やかに膨張すれば、通貨にとって金銀の含有量などさしたる意味はなく、通貨の額面の方が優先し、一両は一両として必ず通用する」というもの
・欧米には、「
悪貨は良貨を駆逐する」という
グレシャムの法則があるが、こと、江戸の通貨に関しては当てはまらず、荻原の思惑通り、金銀貨の質のいかんにかかわらず、一両は一両で通用した。彼が勘定奉行の地位にあった十五年余りの間、現実に未曽有の好景気に沸いた
・荻原の政策を非難する学者が多いが、荻原の考え方は、間違いなく現代の世界の通貨制度と同じ概念枠にあった。金と交換する責を負わない
不換通貨の発行の世界のさきがけであった
・
江戸の通貨制度で最も優れたシステムとは、中央通貨と地方通貨の「
ダブルスタンダード制」である。幕府は、自ら発行する中央通貨の他、各藩が藩内でのみ通用するローカル通貨の「
藩札」を発行することを許可していた
・現在の世界貿易の主流はドル建てで、各国は自国通貨を流通させるが、他国との決済のためには、貿易規模に準じたドルを準備金としてプールしておく必要がある。これと江戸期の通貨制度は基本的に同じシステムである
・幕府が質の悪い通貨を発行してもGDPの成長さえあれば、通貨のダブルスタンダード制が功を奏し、この悪貨の中央通貨は常に各藩に大量にプールされ、幕府へ還流してくることはない。そのやり口は現在のアメリカと全く同じ
・明治維新は徳川幕府による通貨のダブルスタンダード制を上手に利用し、各藩発行の藩札をいきなり全て無効にした。この結果、損をしたのは藩札を貯め込んだ商人達であり、各藩の藩主や家臣達は、商人達の借金をすべて免れた。この経済政策によって、明治新政府に反乱を起こす大名が現れず、世界史的にも珍しい
無血革命となった
・江戸期の日本は徹底した内向きの経済構造。各地方の特産物をつくり問屋中卸も、商品価値を上げるよう工夫を凝らした。間にある
非効率なシステム、つまり単純労働をたくさん残すということは、庶民の個人消費を増大させ、多くの庶民が仕事にありつき暮らしていけるということ
・これだけ国に借金があるのに、ドルに対して円が強いとはおかしな話だが、このからくりの根源には日本の経済閣僚に発明された摩訶不思議な国債「
赤字国債」がある
・そもそも国債とは、担保を必要とし、国の威信をかけ購入者に元本と利子を保証する義務がある。ところが赤字国債とは、
無担保国債である。政府は本来なら国債になりえない、担保のない「赤字国債」で日銀券を無限発行している。いつのまにか資本主義の常識を超えた、世界にさきがけた通貨革命を成功させている
・おしゃれとは贅沢というか無駄遣いである。贅沢や無駄遣いとは
身分不相応なこと。身分相応に自分を飾るのは贅沢でも無駄遣いでもなんでもない
・日本は昔から「
寝返りは卑怯でない」という認識があって、優秀な人材であれば、敵であっても恭順すれば適所で働かせた。まさに日本将棋と同じである
・日本将棋は、取られた駒は一転して再起用され敵側に寝返りを打ってしまう。この摩訶・不思議なルールは日本将棋独特のもの。世界の盤上ゲームは、駒は取られたらその駒は使えない、
取り捨てルールである
・日本武士の気高い精神を武士道として称えるが、これはあくまで平和な江戸時代になってから、武士の生き方の理想を学問的
に言ったにすぎない。実際は、日本の武家ほど卑怯で命への未練を前面に押し出した武装集団はない
・日本武士の全ての大義は、「
お家のため」である。主君は家臣のためにお家を守らなければならない。したがって、形勢不利を感じ取るや、即、敵側に寝返りを打つ
・家臣の大義も、自分を養ってくれる主君のお家を守ることにある。しかし、主君のお家を守れないと察したときは敵側勢力にあっさり身を寄せてしまう。
武士道とは強いものに就くこと
・日本の伝統文化の美を表すのに、「侘び・寂び」という二つの言葉を使うが、今の日本人は、もう一つの「
幽玄」という言葉を忘れている
・幽玄とは、“ありえない美”のことで、モノの形が決まる前、固定する前の状態を指す。
あやうい誕生の美である。しかし、幽玄は時間とともに変化し、たちまちその美しさを失ってしまう
・幽玄・侘び・寂びは、人の誕生・人生・死後の評価と表現することもできる
・千利休が茶で求めたのは侘び。秀吉は黄金茶で
幽玄の美。
・利休の後を継ぐ
古田織部らの茶は、曲がりくねり、ひび割れした茶碗を使い、利休の完成された質素の美を超え、さらに朽ちていくものを表現しようとした。侘びから寂びへ崩れていく時間のゆらぎがある
・秀吉・利休・織部の三人は、
日本伝統美の幽玄・侘び・寂びを各々が巧みに表現した
この本の「お金」や「経済」に絡んだところを中心に紹介しましたが、文化、政治、宗教など、多岐に渡り、著者の素晴らしい見解が満載です。ハッとさせられることだらけです。是非読んでほしい1冊です。