とは考

「・・・とは」「・・・人とは」を思索

『ラ・ロシュフコオ-箴言と考察』

ラ・ロシュフコオ 箴言と考察ラ・ロシュフコオ 箴言と考察
(2010/04/22)
ラ・ロシュフコオ

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ラ・ロシュフコオに関する本は、「ラ・ロシュフコー箴言集」「ラ・ロシュフコー箴言集(二宮フサ訳)」に次ぎ、3冊目です。

350年前の作品なので、翻訳者によって訳し方が微妙に違ってきます。今回は、前にとり上げていなかった箴言を中心に、紹介させていただきます。



・もしわれわれが欠点を持たなかったら、ほかの人の欠点に気づく場合、こうまで嬉しくないはず

・率直とは、心をむき出しにすること。世の中に、率直な人はいくらもいない。普通、世間で見出される率直は、他人に信用されようとする巧妙な偽りにすぎない

・真実が世を利することはある。しかし、それよりは、真実らしい行いが、世を毒する

他の支配を受けまいとすることは、他を支配すること以上に困難である

・人に見境なく悪を為すことは、あまりに多くの善を為すことほどには危険ではない

・初めから不可能な事は、いくらもない。われわれには、事を成就させるための励みが、手段以上に欠けているのだ

・その極に達した腕の冴えは、物事の値打ちを知り抜くところにある

・自分を卑下することは、しばしば、他を服従させるために人の用いる偽りの服従にすぎない。自分を高くするために、自分を卑しくする高慢心の手管である

・大部分の人間の報恩感謝の念は、もっと大きな恩恵にありつこうとする欲望にすぎない

・人間の馬鹿さ加減をついぞ見せなかった人間が世の中にあるとしたら、それは世間が、その馬鹿さ加減をよく探さなかったからだ

・いやになるわけにいかない人を相手にするのは、とかくいやになりがちなもの

・われわれの人品が下がるとき、趣味もまた下がる

・どんなに美しい行為でも、もしそれを生んだ動機が残らず世間にわかったら、われわれはしばしば、それを恥ずかしいことに思う

・何かの才を持っている愚か者ほど、厄介な愚か者はない

・人から気の毒に思われたいとか、感心されたいとか思う心は、しばしば、われわれの人を頼りにする心の大部分をなす

・優しそうに見える人は、通常、弱さだけしか持っていない人。そしてその弱さは、わけなく気難しさになり変わる

・この世で最も幸福な人は、零細な富をもって足る人であるので、偉大な人と野心深い人とは、この点で最も惨めな人である。なぜなら、彼らが幸福になるためには、限りなく富を寄せ集める必要があるから

・幸福になることは、さほど苦労でない。それより、自分は幸福だと人に思わせることが苦しいのである

・正義は、われわれの持ち物を他人に取られてはならないと、しきりに気づかう心にすぎない

・細かいことに気づく人と細かすぎる人とは大変に違う。細かいことに気づく人は、いつも人に喜ばれる。しかし、細かすぎる人は、真っすぐに道を進まず、しきりに、脇道や遠回りして、計画を成功させようとする。そんなやり方はまもなくばれ、人に恐れられる

・心に熱を持っている人と、明るい心を持っている人は幾分違う。明るい心を持っている人には、機敏さがあり、美しさがあり、正しさがあるが、心に熱を持っている人のほうが、急速に立身出世する

・生まれつき他にまさった人であっても、そうでなくとも、人はその身分と顔にふさわしい様子と口調と素振りと感情を持ち続ければ持ち続けるほど、他から喜ばれ、それから遠ざかれば遠ざかるほど、他からいやがられる



フランスの大貴族で、公爵の位にあったラ・ロシュフコーが、政変で失脚した後に書き記したのが、この「箴言と考察」です。だから、人を裏側や斜めから見た、拗ねた表現様式になっていますが、それもまた魅力です。

人が有する嫌なところを抉り出すようで、目を背けたくなりますが、これもまた現実であり、真実です。本書は、人間関係に悩んでいる人に、何らかの考察を与えてくれるのではないでしょうか。


『ラ・ロシュフコー箴言集』

ラ・ロシュフコー箴言集 (岩波文庫)ラ・ロシュフコー箴言集 (岩波文庫)
(1989/12/18)
ラ・ロシュフコー

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ラ・ロシュフコーを紹介するのは、角川文庫の「ラ・ロシュフコー箴言集(吉川浩訳)」に続き、2冊目です。

ラ・ロシュフコーは、ルイ14世後、失脚したフランスの貴族です。小冊子を書いたにすぎないのに、その箴言集は、後に、ニーチェ、トルストイなどに大きな影響を与えることになった人物です。

翻訳者によって、表現の違いが明確にありましたので、今回、岩波文庫で読み直しました。さらに、共感した箇所がありましたので、一部ですが、紹介させていただきます。



・哲学は過去の不幸と未来の不幸をたやすく克服する。しかし、現在の不幸は哲学を克服する

・もし自分に傲慢さが少しもなければ、他人の傲慢を責めはしないだろう

・我々は希望に従って約束し、怖気に従って約束を果たす

・人々が友情と名付けたものは、単なる付き合い、利益の折り合い親切のやりとりに過ぎない。所詮、それは自己愛が常に何か得をしようと目論んでいる取引でしかない

・知は情にいつもしてやられる

・人から与えられる賛辞にふさわしくありたいと願う気持ちは、我々の徳性を強める。また、頭のよさ、勇気、美しさに与えられる賛辞は、それらを一層豊かにするのに役立つ

・大きな欠点を持つことは、大きな人物にしか許されない

・完全無欠な武勇とは、人間ならやって見せられるであろうことを、誰も見てないところですることである

・感謝には商人の取引と同じようなところがある。それは付き合いを長続きさせる。そして、我々は借りを返すのが正しいからではなく、そうしておけば貸してくれる人がみつけやすくなるから返すのである

・あまりにも急いで恩返ししたがるのは、一種の恩知らずである

・皆が従っている意見に頑固に反対する人は、傲慢のせいからであることが多い。正論の側の上座がふさがっているのを見て、下座につくのは嫌だというわけである

・充分に検討せずに悪と決めつける性急さは、傲慢と怠惰の表われである

・大きな称賛をすでにかち得ている人が、その上なおも自分の偉さを、つまらぬことによって、認めさせようと懸命になるとは、まさにこれ以上の恥さらしはあるまい

・社交界に初登場する人々に寄せられる称賛は、そこで幅をきかせている古顔たちに対する密かな嫉みからくることが多い

・偉大な人物になるためには、自分の運を余す所なく利用する術を知らねばならない

・凡人は、概して、自分の能力を超えることをすべて断罪する

・他人の虚栄心が鼻持ちならないのは、それが我々の虚栄心を傷つけるからである

・我々は、自分の実力以下の職に就けば大物に見える可能性があるが、分に過ぎた職に就くと、しばしば小物に見える

・ふさわしさは、あらゆる掟の中で最もささやかな、そして最もよく守られている掟である

・ちゃんとわかる人にとっては、わけのわからない人たちにわからせようとするよりも、彼らに負けておくほうが骨が折れない

・我々は、自分によくしてくれる人に会うよりも、自分がよくしてやっている人に会うほうが好きである

・人それぞれ、境遇と才能にふさわしい顔がある。その顔をやめてほかの顔をすれば、必ず失敗する。自分にとって自然な顔を心得て、それを置き忘れず、できるだけよい顔にしようと努めなければならない



ちょっと皮肉っぽく、嫌味な言い回しが、気に障ることもありますが、ラ・ロシュフコーは、世間と人間をよく見ています。この見方は、陰謀、権謀術数の数々を体験した現場で培われたものだと思います。

人間とは、いざとなったら、こうなるものだ、こうするものだということが言い表わされている書です。世間を渡っていくのに、何かと役に立つのではないでしょうか。


『運と気まぐれに支配される人たち-ラ・ロシュフコー箴言集』

運と気まぐれに支配される人たち―ラ・ロシュフコー箴言集 (角川文庫)運と気まぐれに支配される人たち―ラ・ロシュフコー箴言集 (角川文庫)
(1999/06)
ラ・ロシュフコー

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ラ・ロシュフコーは、世間一般には、それほど知られていません。

私も、読んでよかった本の多くに、その名前が登場することで、存在を知りました。それは、つい10年前くらいのことです。

ラ・ロシュフコーは、今から400年ほど前に、フランス貴族の子息として生まれました。後に公爵となり、ルイ13世に使えて活躍します。

ところが、陰謀と策略にはまり、ルイ14世摂生後、失脚しました。そして、屈辱の身で故郷に帰り、失意の中で、文人となった人物です。

生涯に、たった200ページほどの小冊子を書いたにすぎませんが、世界文学の中で異彩を放つ存在になっています。

この箴言集は、ニーチェ、トルストイ、芥川龍之介など、数多くの作家たちの座右の銘となり、大きな影響を与えてきました。

この本には650の箴言がまとめられています。その中で、人間観察の鋭さに感銘した箇所が35ほどありました。「本の一部」ですが、それらを紹介したいと思います。



自己愛は、この世で最もずるい奴より、もっとずるい

・情念はえてして、最も有能な人物を愚か者にする。かと思えば、最も愚かな人を有能にもする

・偉人たちといえど、非運が続けばついに屈服してしまうところを見ると、彼らが今まで耐えてきたのは、野心力によるものであって、魂の力によるものではないことがわかる

・私利私欲は、あらゆる言葉を喋り、あらゆる役柄を演ずる。無私無欲の役までも

・哲学者が富を軽蔑したのは、自分たちの値打ちを認めてくれず、財産を恵んでくれなかった運命の不正に復讐してやろうという欲求のせいである

・沈黙とは、自信なき者の最も安全な手段である

・われわれが敵と和解するのは、こちらの体勢を立て直したいか、戦いに疲れたか、はたまたこちらの形勢が悪い、というときに限る

・われわれは、人とつき合う場合、とかく、長所より、短所のせいで気に入られる

・たまに自惚れることでもなければ、この世にそう楽しいこともあるまい

・最も抜け目のない連中は、いつも策略を非難する振りをし続ける。ここぞというとき、これぞという利益を狙って、それを用いるために

・人は、ふつう、誉めてほしいから、誉めるのだ

・お世辞は贋金である。われわれの虚栄がこれを流通させる

・清廉、誠実で、礼儀正しい振る舞いが、はたして、誠意の現れなのか、抜け目のなさなのか、判断するのは難しい

・われわれが新しい知り合いの方に傾いていくのは、旧友に飽いたとか、変化を喜ぶとかというより、われわれを知りすぎている人たちに、それほど敬服されていないのが気にくわないのだ

・われわれは、ある人の栄光にけちをつけるために、別人の栄光を称えたりする

・まことの紳士とは、何事も、自慢しない人のことである

・流行歌みたいな人がいる。ちょっとの間、歌われるだけだ

・たいていの人は、人間を評価するとき、その人の人気か運しか見ない

・名誉は好きで、恥辱は嫌い。立身出世はしたいし、安楽で快適な暮らしは送りたい。他の奴らにも負けたくもない。こういう気持ちが、世にもてはやされる勇気の動機である

・完璧なる勇気とは、皆が見ている前でできることを、誰も見ていなくともできることだ

・悪人にでもなれる力を具えていなければ、善人だと誉められる資格はない。つまり、お人好しなど、まずたいてい、意志の怠惰か無力か、そのいずれかにほかならない

・礼節とは、自分にも礼儀を返してもらいたい、礼儀正しいと思われたい、こんな願いの現れである

・素朴らしく振舞うとは、いかにも手のこんだ詐欺である

・全然偉いと思わない人々を、好きになるのは難しい。かといって、われわれよりはるかに偉いと思う人々を、好きになるのも難しい

・こちらの方から良いことをしてあげよう、という立場にいるかぎり、恩知らずには出会わないものだ

・われわれが小さな欠点を白状するのは、ひとえに、大きなものは持っていないと承知させるためだ

・小人物は、小さなことにひどく傷つく。大人物とは、何もかも知り尽くし、少しも傷つかない人のことだ

・人間一般を知るのはた易いが、一人の人間を知るのは難しいのだ

・親切なつもりの人々が、ふつう持っているのは、ご機嫌とりか、気の弱さか、そのどちらかにすぎない

・人は、ふつう、悪意より、虚栄のために、悪口を言う

・無い気持ちを有るように見せかけるより、有る気持ちを無いように包み隠す方が、難しい

・葬式の派手なのは、死者の名誉より、生きている人の虚栄と関係が深い

・人に好かれるという自信が、しばしば、その人を好かれなくする



ラ・ロシュフコーの文章は、誰もが持っている人間の現実を抉り出すので、つい目を背けたくなります。

こういう箴言が嫌いな方もいると思いますが、組織の中で働き、自分以外の人たちを背負って生きている人は、目を離すわけにはいかないはずです。

というのは、現実に目を背けて、正しい判断を下すのは難しいからです。そういう意味で、リーダー必携の書でもあります。

人間嫌いになる前に、是非読んでおきたい1冊です。