ラ・ロシュフコーは、世間一般には、それほど知られていません。
私も、読んでよかった本の多くに、その名前が登場することで、存在を知りました。それは、つい10年前くらいのことです。
ラ・ロシュフコーは、今から400年ほど前に、
フランス貴族の子息として生まれました。後に公爵となり、ルイ13世に使えて活躍します。
ところが、陰謀と策略にはまり、ルイ14世摂生後、失脚しました。そして、屈辱の身で故郷に帰り、失意の中で、文人となった人物です。
生涯に、たった200ページほどの小冊子を書いたにすぎませんが、世界文学の中で異彩を放つ存在になっています。
この箴言集は、ニーチェ、トルストイ、芥川龍之介など、数多くの作家たちの座右の銘となり、大きな影響を与えてきました。
この本には650の箴言がまとめられています。その中で、人間観察の鋭さに感銘した箇所が35ほどありました。「本の一部」ですが、それらを紹介したいと思います。
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自己愛は、この世で最もずるい奴より、もっとずるい
・情念はえてして、最も有能な人物を愚か者にする。かと思えば、最も愚かな人を有能にもする
・偉人たちといえど、非運が続けばついに屈服してしまうところを見ると、彼らが今まで耐えてきたのは、
野心力によるものであって、魂の力によるものではないことがわかる
・私利私欲は、あらゆる言葉を喋り、あらゆる役柄を演ずる。無私無欲の役までも
・哲学者が富を軽蔑したのは、自分たちの値打ちを認めてくれず、財産を恵んでくれなかった運命の不正に復讐してやろうという欲求のせいである
・沈黙とは、自信なき者の最も安全な手段である
・われわれが
敵と和解するのは、こちらの体勢を立て直したいか、戦いに疲れたか、はたまたこちらの形勢が悪い、というときに限る
・われわれは、人とつき合う場合、とかく、長所より、短所のせいで気に入られる
・たまに自惚れることでもなければ、この世にそう楽しいこともあるまい
・最も
抜け目のない連中は、いつも策略を非難する振りをし続ける。ここぞというとき、これぞという利益を狙って、それを用いるために
・人は、ふつう、誉めてほしいから、誉めるのだ
・お世辞は贋金である。われわれの虚栄がこれを流通させる
・清廉、誠実で、礼儀正しい振る舞いが、はたして、誠意の現れなのか、抜け目のなさなのか、判断するのは難しい
・われわれが新しい知り合いの方に傾いていくのは、旧友に飽いたとか、変化を喜ぶとかというより、われわれを知りすぎている人たちに、それほど敬服されていないのが気にくわないのだ
・われわれは、ある人の栄光に
けちをつけるために、別人の栄光を称えたりする
・まことの紳士とは、何事も、
自慢しない人のことである
・流行歌みたいな人がいる。ちょっとの間、歌われるだけだ
・たいていの人は、人間を評価するとき、その人の人気か運しか見ない
・名誉は好きで、恥辱は嫌い。立身出世はしたいし、安楽で快適な暮らしは送りたい。他の奴らにも負けたくもない。こういう気持ちが、世にもてはやされる
勇気の動機である
・完璧なる勇気とは、皆が見ている前でできることを、誰も見ていなくともできることだ
・悪人にでもなれる力を具えていなければ、善人だと誉められる資格はない。つまり、
お人好しなど、まずたいてい、意志の怠惰か無力か、そのいずれかにほかならない
・礼節とは、自分にも礼儀を返してもらいたい、礼儀正しいと思われたい、こんな願いの現れである
・素朴らしく振舞うとは、いかにも手のこんだ詐欺である
・全然偉いと思わない人々を、好きになるのは難しい。かといって、われわれよりはるかに偉いと思う人々を、好きになるのも難しい
・こちらの方から良いことをしてあげよう、という立場にいるかぎり、
恩知らずには出会わないものだ
・われわれが小さな欠点を白状するのは、ひとえに、大きなものは持っていないと承知させるためだ
・小人物は、小さなことにひどく傷つく。大人物とは、何もかも知り尽くし、少しも
傷つかない人のことだ
・人間一般を知るのはた易いが、一人の人間を知るのは難しいのだ
・親切なつもりの人々が、ふつう持っているのは、
ご機嫌とりか、
気の弱さか、そのどちらかにすぎない
・人は、ふつう、悪意より、虚栄のために、悪口を言う
・無い気持ちを有るように見せかけるより、有る気持ちを無いように包み隠す方が、難しい
・葬式の派手なのは、死者の名誉より、生きている人の虚栄と関係が深い
・人に好かれるという自信が、しばしば、その人を好かれなくする
ラ・ロシュフコーの文章は、誰もが持っている人間の現実を
抉り出すので、つい目を背けたくなります。
こういう箴言が嫌いな方もいると思いますが、組織の中で働き、自分以外の人たちを背負って生きている人は、目を離すわけにはいかないはずです。
というのは、現実に目を背けて、
正しい判断を下すのは難しいからです。そういう意味で、リーダー必携の書でもあります。
人間嫌いになる前に、是非読んでおきたい1冊です。