「
いい仕事してますね」でおなじみの中島誠之助氏の本です。テレビ受けする術を熟知された、ちょっと軽めの先生と思われていたら、その認識が、この著書で覆されのではないでしょうか。
この本は、骨董商と
ニセモノ師たちの戦いが描かれており、ニセモノの本質に迫る、深い内容になっています。
さらに、骨董という商品の枠を超えた、葛藤する
人間ドラマもそこにあり、読み応えがあります。
お金の上手な使い方、
本物の見分け方、
人に騙されない方法、欲望のコントロールなど、この書から学ぶことがいっぱいあります。
私が、この本の中から、学ばせてもらったところは、以下の21箇所です。それらを紹介したいと思います。
・人間には「欲」がある。自分の資産を確保したいという
所有欲と
独占欲、儲けたいという
金銭欲。ですから、つい安く買いたい、掘り出し物を見つけたいという具合に、行動としての人間の弱さが露呈される。そこにニセモノがつけいるスキが出てくる
・買ってくれ、見てくれという突発的な商談を、骨董商の隠語で「
歌い込み」と言うが、長いお付き合いのなかから自然に浮かび上がってくる、あたたかみのある依頼ではない。歌い込みの品物は99%商売的にだめな話といってよい
・「
高価買入」と書いてあっても、商人が高く買ってくれるはずがないのではないか。
トンビに油揚げをさらわれるのではないか。世間の人は高価とか誠実という言葉の裏に見えている虚構をよく知っている
・ホンモノとニセモノを見分けるには、自分の目、自分の信念だけが頼り。「品物は
口を利かないが、人間は口を利く」ということさえ、頭にたたきこんでおけば、ニセモノを避けて通れる
・骨董を見分ける前に、まず
人を見分けることができるかどうか。それがニセモノかホンモノかを見分ける大きな鍵になる
・ニセモノにはニセモノだけの世界があり、そのなかで経済活動がおこなわれている。ホンモノはホンモノ社会のなかで動いていくので、両者はあまり交わることがない
・「
目利き儲からず」という言葉が昔から骨董界にあるが、目利きにして人品卑しからずという人の商いはそれほど儲かるものではない。ただ「名器名品を扱った」という
心の勲章を持ち続けることができ、同業者の畏敬を受け、名誉をもって生涯を通すことができる
・「
悪銭身につかず」と昔から言われたとおり、ニセモノで儲けた人で後世に名を残した人はいないし、人生を見事にまっとうした人は誰一人としていない
・
人間の活動サイクルを6年周期ぐらいに考えてみると、ニセモノの売り手も買い手も大体2サイクルぐらいの間隔で没落する
・ニセモノがあるから面白い。優等生ばかりじゃつまらない。アウトローな人間がいるから面白い。新しい物の見方は、こういう人たちから生まれる。
自分勝手な人や
ホラ吹き、欲張りなど混ざっているから長い人生飽きないし、社会の暮らしに彩がある
・最初に安いホンモノを提供し、相手を儲けさせて、その後で高額のニセモノを提供すると、だいたいは落ちる、ひっかかる。そうならないためには、
人品卑しからぬ、無欲ということが必要とされる
・
権威に弱い人間で、それを盲目的に信じ込んでしまう、これも
騙される人の法則の一つ
・鑑定料をもらう商売であれば、高く評価してホンモノと鑑定してあげれば鑑定料がたくさん懐に入る。相手だってそれを期待しているから喜んで鑑定料を払う。そして、高額の
鑑定料金を請求した方が、鑑定行為を信用する。多くの
鑑定家が商売として成り立つわけがここにある
・実体はないが、ありがたい権威、千年以上にわたる日本人の憧れが京都であり、形態としては、本願寺、千家、池坊の
お墨付きに究極される。京都に反抗したのは頼朝と家康だけだった
・騙される素人の3法則
法則1:欲が深い
法則2:出発点のレベルが低い
法則3:適度に小金があり、教養もあること
・古美術の世界で「先生」と呼ばれる人(話が上手くて、カリスマ性があり、面白く、独自の美意識、美術論を展開するので、周囲に人が集まる)ほど気をつけたほうがいいものはない。騙される法則の4つめに加えたいくらい
・「玄関に
虎の毛皮が敷いてある家」と「
帝国軍人と政治家の蔵」にはロクなものがない、はオヤジの名言
・プロというのはひっかかったことを表に出さないし、キャンセルもしない。キャンセルするような業者だったら、将来大成しない。お金の痛みをぐっと堪え、苦い経験を背負って遠い道を歩くというのが
骨董商の姿
・目利きの人は、国宝重文クラスの品から安物までわかるし、自分の専門外の品や料理、音楽、人物など別世界の分野のものまで「なんだかよさそうだ」と目利きができる
・知識すなわち学問が土台になって、その上に美が成り立っているのは、アンバランス。美しいな、いいなという感動が土台になり、その上に知識や学問が成り立っているのでなければ、美意識のバランスは崩れてしまう
・人間、一生の間で一番目が利くのは、
気概のある20代後半から30代まで。それ以上になると、欲が強くなって、そのぶん、目が利かなくなる。そこが悪いことをする人たちの狙いどころとなる
「欲望」「お金」「教養」「修養」「審美」が織りなす骨董の世界は、人間の生き方そのもののように感じました。
人間的成長なしに
目利き力は伴わないというのは、どんな世界でも共通している事実でもあります。
骨董から、浮き彫りにされる、人間の欲の世界を垣間見ることができ、面白くてためになる1冊ではないでしょうか。