太田肇氏の著書を紹介するのは、「
お金より名誉のモチベーション論」「
認め上手」「
見せかけの勤勉の正体」に次ぎ、4冊目です。
太田肇氏は、評価や表彰のしくみなど、お金以外で人のやる気を高め、成果を上げる研究をされている大学教授です。
今回の本は、今、最もやり玉にあげられている公務員のやる気をどう高めるかの研究です。
公務員の数は、国家公務員。地方公務員、公社、公団、政府系企業、公営企業を含めると、その数は500万人以上で、日本の雇用労働者数のほぼ10人に1人の割合になります。
やり玉にあげられるのは、「給与が高い割に、働きが悪い(
お値段以下)」と国民のみんなが判断しているからです。そのためには、給与を下げていくことはもちろん、もっと働いてもらわなくてはなりません。
この本は、どうすれば、公務員にもっと働いてもらうことができるのかを主眼に置いています。興味深く読めた箇所が数多くありました。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。
・海外の自治体では、個々人の成果によって給与や賞与に差をつける
成果主義を採用しているのは、主に管理職だけ。非管理職に対して採り入れているところは見当たらない
・満足をもたらす要因には、「達成」「承認」「仕事そのもの」などが含まれ、
不満をもたらす要因には、「給与」「上司との人間関係」「作業環境」などが含まれる。給与は、「やる気」をもたらすというよりも、不足しているときや不公平なときに不満をもたらす性質のもの
・「時間をかけ遅くまで残業」「休暇をとらない自慢」「忙しそうな素振り」「必要のない仕事を増やす」「頻繁に長時間の会議を開く」「市民に慇懃無礼に応対」「冗長な文章を書く」「資料は質より量を重視」。やる気をアピールする「
やる気主義」が役所に蔓延している
・日本の役所組織には、欧米のような厳密な
職務概念が存在しない。その結果、成果主義が「やる気主義」に変質している
・公務員が「お役所仕事」「事なかれ主義」「休まず、遅れず、働かず」などと揶揄されるのは、真面目に努力するが、ある水準以上になると、やる気が発揮されない「
やる気の天井」が存在するから
・「お金持ちになりたい」「他人より裕福な暮らしがしたい」という動機で、公務員になり、働いている人は少ない。いわゆる「
経済人」ではない。このことからも、公務員に対する成果主義の導入は、不満や不公平感をもたらすだけで、積極的な動機づけにならない
・「住民のために尽くしたい」「地域の発展に貢献したい」という思いは、地方公務員の特徴である「
ローカル志向」と関係している。彼らは、行政区域内のことには強い関心を抱くが、区域外のことには無関心な人が多い
・公務員の場合、仕事での貢献と報酬が密接にリンクしていないため、金銭や地位といった報酬(外的報酬)を実力で獲得することが難しい。それを補償する形で、
内発的動機づけ(達成、仕事そのもの)が強くなる
・公務員の出世意欲が強いのは、役職以外に「偉さ」を表わすシンボルが乏しいのが一因。成功や有能さを示す機会が他にあれば、
役職へのこだわりは薄れる
・「やる気の天井」を破るためには、受け身の「公僕」意識から一歩踏み出し、自分が仕事の「主役」であるという自覚を持たすことが必要
・「やる気の天井」を突き破った「超やる気」スーパー公務員には、「1.
自律性」(トップから仕事を一任、自由な仕事、専門性)「2.
承認」(役所内での目立つ存在、住民からの注目)「3.
夢」(実力次第でさまざまな仕事につけて活躍できる可能性)がある
・自律性には、「
仕事の自律性」(自分の裁量や判断の余地)、「
行動の自律性」(勤務時間や休息、仕事の場所の自由決定)、「
キャリアの自律性」(携わる仕事、働く職場、伸ばす能力、進む道の自己決定)がある
・近年、管理監督責任の強化、仕事の「見える化」が叫ばれ、
役職のない人は公式な権限がなく、自己決定できなくなった。そして、細かく仕事をチェックされるようになった。特に役所では外部競争がないので、行きすぎた手続き重視に歯止めがかからない
・役所の管理職の数は、合理性と無関係な処遇の論理によって決まる。財政の悪化で新採用職員が減る一方、定年延長によって中高年職員は増えた。彼らにそれなりの役職を与えた結果、暇になった管理職が増え、
管理職過剰による
管理過剰が生まれている
・スウェーデンの国の機関では、
残業時間を貯金し、好きな時に使える制度がある。海外の役所は、職員に対して、いかに働きやすい環境を与え、効率的に仕事をさせるかという視点がある。有益な制度があれば次々に採用し、職員もそれを積極的に利用する
・中国の国営企業や台湾の公益企業の重職には、30代から40歳前後の若い女性が多い。彼女たちには、残業がなく、時間の融通が利くためハンディがない。日本の役所では、
仕事の分担と
責任範囲がはっきり決まっていないので、残業が増え、時間の融通が利かない
・欧米の大企業の評価制度は、たいてい3段階か4段階。8割~9割の人は真ん中に集まる。日本の役所でも、3段階くらいで評価するのが妥当。「とくによくできる人」「ふつうの人」「とくに問題がある人」の割合は、
1:8:1くらいが現場感覚に近い
・評価結果が処遇に反映されるなら、評価される側は受け身になり、自分をガードする。
処遇評価は3段階くらいにとどめ、本人の主体性を取り入れた
育成評価に重点を置くといい
・役所に限らず、日本の制度改革がなかなか進まず変化に適応できない原因は、
体系性、
画一性、
無謬性を追求しすぎるところにある。それにこだわっていては、改革は常に後追いになる
・「
超やる気人間」は、上司に良い評価をしてもらえる、同僚より早く課長になれる、賞与が同僚より10万円多いといったことにはほとんど関心がない。彼らの目は、外の広い世界に向けられている。その視野の広さ、射程の長さが、規格外のやる気を生み出している
・日本人には、自分の功績をアピールしたり、自ら名を出したりすることをためらう奥ゆかしさが残っている。けれども内心は、自分の活躍や功績が名前とともに公表されるとうれしい。わが国の役所風土では、「
裏の承認」(○○大賞、△△賞)の仕掛けづくりも大切
・近年、どの役所でも、大きな名札をぶら下げて仕事をするようになった。個人の名を出し、仕事をさせる以上、仕事に必要な裁量権、自律性を与えなければ、名を出させることが単なる監視の手段になり下がり、「
さらし者」にしかねず、動機づけに逆効果となる
・韓国の行政組織は、基礎的自治体(市・郡・区)、広域自治体(道・広域市)、中央政府の三つに分かれているが、それぞれの間を移籍できる
転入制度がある。韓国の行政組織は日本の影響を強く受けているが、アメリカの制度も参考にし、独自に発展し続けている
役所によっては、自己改革できたところもあるようです。特に、弱小貧乏「地方自治体」ほど、給料の少ない若手職員に裁量権を与え、活躍させています。海外にも、公務員の働き成功事例は数多くあります。
こういう地方や海外の事例を学び、公務員に「給与以上の働き(お値段以上)」をしてもらうきっかけとして、この本は役に立つのではないでしょうか。