とは考

「・・・とは」「・・・人とは」を思索

『グレート・リセット-新しい経済と社会は大不況から生まれる』リチャード・フロリダ

グレート・リセット―新しい経済と社会は大不況から生まれるグレート・リセット―新しい経済と社会は大不況から生まれる
(2011/01/21)
リチャード・フロリダ

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都市経済学者である著者の本を紹介するのは、「クリエイティブ資本論」「クリエイティブ都市経済論」に次いで、3冊目です。

本書には、著者の「都市化」と「今後の資本主義」についての考えが載せられています。興味深い点が数多くありました。それらの一部を要約して紹介させていただきます。



・第一次リセット(1870年代)の時期に、電力交通機関学校教育といった新しい形のインフラが生まれ、繁栄と成長の素地が築かれたおかげで、生産性の高い産業資本主義がフル稼働できるようになった。そして、大規模な産業都市が次々と誕生した

・第二次リセット(1930年代)の成果は、持ち家比率が上昇したことによって加速した。持ち家は、アメリカ家庭生活の経済面では最大の目標になった。アメリカの持ち家比率は1920年以前には27%だったが、1960年代には60%を超えた

・「都市の生み出す多様性とは、都会でいろいろな人たちが肩を寄せ合い、さまざまな嗜好、スキル、必要とするもの、供給するものがあり、ユニークな考え方を持つ人たちがいること」(ジェイコブス「都市の原理」)

・地域経済が、ブルーカラーの産業に依存して、労働者クラスが集中している地域の経済生産高は低水準で、所得は低く、改革のレベルも低く、幸福感もあまり感じられていない

・「金融の役割は、経済の『召使い』から『捕食者』に変身し、しかも大きく育ち過ぎてしまった」(ウィリアム・ブラック)

・成長している職種の一つは、知識をベースにした専門的でクリエイティブな仕事で、高報酬のもの(ハイテク関連のエンジニア、管理職、医師、デザイナーなど)。もう一つは、高報酬は期待できないが、日常的なサービス関連の仕事(飲食店、清掃、在宅介護など)

・郊外住宅やクルマ至上主義を懐かしむあまり、銀行や住宅ローンや自動車産業の救済に肩入れしがちだが、皮肉なことに、これらの業界こそ、金融危機の元凶

・巨大なメガ地域(数千万人の人間がうごめき、数千億ドルのカネを創出)は、国家ではないが、国際経済で大きな力を持っている。世界に散らばる40のメガ地域(世界総人口の18%が住む)で、世界経済活動の3分の2を動かし、技術革新の85%を担っている

・イノベーションのトレンド、特許取得活動、給与、GDPなどを都市の規模別で調べると、成功している都市の代謝スピードは、生物と異なって、サイズが大きくなるほど早くなる

・都市が飛躍するためには、新陳代謝優秀な人材の集団は重要な要素。早いスピードで新陳代謝が進行していれば、経済危機の悪影響に対して免疫ができる

・都市が大きければ、エネルギー効率が高まり、炭素放出量が比率的に減る。つまり、地域が大きくなると、一人当たりエネルギー消費量は、小さな地域に比べて少なくなる

・資本主義の歴史および過去二回のリセットの経過を見ると、新しい交通インフラ(一回目は鉄道と路面電車、二回目は自動車)が核になり、土地利用が効率的に進み、人々の住む場所、働く場所の境界線が広がった。これで、物資・人間・知識の移動速度が早まった

・全米では、三分の一が借家だが、高給取りで才能にも恵まれたエリートたちがなだれ込む大都市の借家率は高く、ニューヨークでは66%、ワシントンで56%、シカゴで51%

・インドの巨大財閥タタは「ナノ」という自動車を低価格で売り出したのに続き、「ナノ住宅」(低価格、コンパクト、省エネ、小ぎれい)を建設してきている

・持ち家は、人を地域に縛りつけ、経済的に繁栄する地域に移動しにくくする。2010年代は、柔軟性と可動性を求める知識集約型経済に合った住宅システムの再構築が必要

・第一次リセットでは、公立学校という近代的システムが導入され、第二次リセットでは、高等教育が拡充され、研究に重点を置いた大学が効率を高めた。今必要なのは、人々のクリエイティビティを最大限に伸ばす教育システム

・新たなインフラには、インテリジェントな投資(エネルギー効率の悪さを解消し、環境破壊の要素を少なくし、時間のロスを最小限にとどめる投資)が必要。人間や物資、アイデアの移動スピードアップも肝要

・現在は、不動産・家具・クルマなど所有することではなく、さらなる柔軟性と少ない借金、家族や友人と過ごす時間、報いある自己開発、より豊かな経験を約束する生活が必要



著者は、発展した都市、衰退した都市の原因を調査分析するのを得意とされています。本書では、アメリカ諸都市の「すでに起こっている未来」について提言されています。

日本でも、同じようなことが起きてきているのではないでしょうか。将来を見据えるために、本書は参考になるのかもしれません。


『クリエイティブ都市経済論-地域活性化の条件』リチャード・フロリダ

クリエイティブ都市経済論―地域活性化の条件クリエイティブ都市経済論―地域活性化の条件
(2010/01/10)
リチャード フロリダ

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リチャード・フロリダ氏の本は、「クリエイティブ資本論」に次ぎ、2冊目です。

この都市経済論では、資本論に比べ、より具体的に、クリエイティブな人々が、どんな都市に住みたがるか、都市にとってどんな効果がもたらされるかということに言及されています。

アメリカで起きている事実が、着々と日本でも起きてきているように思います。これから、魅力ある都市とはどんなところか、この本によって、知ることができます。

この本の中で、興味深かった箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・クリエイティビティの新しい地理学とその経済効果を理解する鍵は「経済成長の3つのT」。技術(テクノロジー)、才能(タレント)、寛容(トレランス)の3つの概念である

・才能は多様性指標の高い場所に強く結びついている。アーティスト、ミュージシャン、ゲイ、その他のクリエイティブ・クラスの人々は、一般的に、開放的で多様性のある地域を好む

・「イノベーション」と「ハイテク産業」が「クリエイティブ・クラス」と「才能」の立地に深く結びついている。ハイテク地域の上位のほとんどが「クリエイティブ・クラス地域」の上位に入っている

・「移入者(移民)」の多さは、「ハイテク産業」と関係している。外国生まれ人口の割合とハイテク成功との間の相関は極めて高い

・ボヘミアン(作家、デザイナー、ミュージシャン、俳優、ディレクター、画家、彫刻家、写真家、ダンサーなど)指数が高い都市は、「ハイテク」基盤だけでなく、人口成長、雇用成長も高い都市

クリエイティブ経済では、環境の質は、才能を引き付ける前提条件として重要。環境は、経済的競争力、生活の質(QOL)、才能の吸引力を高める

オールド経済では、企業の立地決定こそが地域経済の原動力であり、人間の立地決定は、企業の立地決定に従うものであった。クリエイティブ経済の到来は、この立地を劇的に転換する

・若いクリエイティブ・ワーカーは、地下鉄やLRTといった大量公共交通機関を、より広い範囲の地域へ行く移動交通手段として好んでいる。それらがあるところを居住・就業地を選ぶ上で重要と見ている

・水辺は、高アメニティ地域にとって共通の重要要素。もっとも成功しているハイテク都市のうち、いくつかは水系の近くに立地し、水系の資源をうまく戦略的に利用し、環境の質を高め、レクリエーションや交通の機会を増やしている

・大学は、クリエイティブ経済を構成するインフラ。才能を生みだし、生かすメカニズムを提供する母体。イノベーションを生み出すだけでなく、創造の力によって、経済を増幅させる

・日本の社会は、ブルーカラーのクリエイティビティを引き出すシステムは最高だが、ホワイトカラーのクリエイティビティを引き出せない

・現在のアメリカは、ワーキングクラス(3300万人)クリエイティブクラス(3800万人)サービスクラス(5500万人)。クリエイティブクラスが多い都市がサービスクラスも多く、経済的にも成長している

・全米で急激な経済成長を記録する都市のほとんどが、数万人~30万人の中小都市であり、巨大な大学を抱え、大学関連人口比率が数割に達し、教育の外部効果が非常に発揮されている都市

・21世紀の経済社会は、「A.少数の富裕層とそれに隷属する低次サービス業就業者からなる二極分化社会」「B.多くの人がクリエイティブクラスになり、機械化省力化の恩恵を受ける人間活用社会」の可能性。Bへの誘導は、社会を「大学習社会」にする必要がある



リチャード・フロリダ氏が言う、これから伸びる都市は、「環境の質」「大学」「芸術家クリエイター」が大きな要因になります。

日本は、官僚社会の弊害で、いまだに東京一極集中が進み、遅れた社会構造になっています。しかし、著者が言うところの芽は出てきていると思います。長いスパンで見た、伸びる都市は、日本でも同じになるような気がします。

『クリエイティブ資本論』リチャード・フロリダ

クリエイティブ資本論―新たな経済階級の台頭クリエイティブ資本論―新たな経済階級の台頭
(2008/02/29)
リチャード・フロリダ

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ドラッカーの著書「新しい現実」(1989年発売)は、何回も読み、何回も線を引いた思い出深い本です。

その中には、知識労働者の台頭と彼らの価値観、そして社会への影響についてなど、未来を予見するような文章が多く載っていました。

あれから、20年、知識労働者は、どう進化しているのか?どう変化したのか?どう社会に影響を与えてきているのか?それらを知りたくて、この「クリエイティブ資本論」を手にしました。

この本は、アメリカにおける、最近の知識労働者の実態、知識労働者が経済に与えている影響などを解説しています。

日本においても、知識労働者がこれからも増え続け、社会を動かしていく存在にますますなっていくように思います。

したがって、知識労働者のことを知っておいて損はないはずです。分厚い本の「ほんの一部」ですが、参考になった箇所を紹介したいと思います。



・大学卒業生の調査によれば、住む場所を選択する際に、4分の3が仕事の有無よりも場所が重要であると回答

・将来の経済を先導する国は、インドや中国のような新しい大国とは限らない。警戒すべき競争相手は、クリエイティブな環境をダイナミックにつくり上げているフィンランド、スウェーデン、デンマーク、オランダ、アイルランド、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドといった小さな国々である

ビジネス・教育・医療・法律の専門家、科学者、技術者、建築家、デザイナー、作家、芸術家、音楽家などのクリエイティビティを発揮することを求められている社会階層は3800万人で、アメリカの労働人口の30%以上を占める

・クリエイティブ・クラスが好む地域は、活気に満ちた都市部、豊富で快適な自然環境、郊外の快適な「ハイテク王国」が存在している

・クリエイティブな人は、人生全体の時間の使い方においても、前倒しの傾向。体力がピークである若い時期に、最も骨の折れる生産的でクリエイティブな仕事を集中させている

・クリエイティブな人は、ゆるやかなつながりや、半ば匿名のまま暮らせるコミュニティ、交友関係を好んでいる

・今日の工場労働者は、品質や継続的改善に対するアイデアなどの能力が重視されるようになり、仕事は明らかにクリエイティブな要素を持つようになってきた

・クリエイティビティへの投資であるアメリカ全体の研究開発費は、過去50年間で、年率800%を上回る伸び

・職業的な芸術家、作家、表現者などの「ボヘミアン」人口は、1950年から5倍近くに

・クリエイティブ・クラスは個性や自己表現を強く好む。組織や制度の命令に従うことを好まず、因習的な志向の規範を受け入れない

・非常にクリエイティブな人は、同級生とどこか異なっていると疎外感を感じながら成長した人が多い。また、流動性が高く、多様性を受け入れる都市へ移動する傾向がある

・クリエイティブ・クラスは、勤務時間は柔軟だが、長時間働く

・クリエイティブ・クラスにサイクリングが人気なのは、まとまった距離を走れば、激しい運動、挑戦、解放、探検、自然との対話が一度に行え、ペダルを漕ぐことに集中すれば、一定のリズムと流れに身を委ね、頭の中を空っぽにでき、思考と身体に新たな活力を湧かせることができるから

・おもしろいことはすべて周縁で起きる。ビジネス同様、文化においても急進的で興味深いものは、ガレージや小さな小屋の中で生まれる

・クリエイティブ・クラスは、高度にパッケージ化された商業施設を「ジェネリカ」と呼び、そうした場所を避ける傾向がある。チェーン展開しているレストラン、ナイトクラブ、過剰演出のスタジアムなどがジェネリカの代表例

・「どこに住み、何をしているか」の組み合わせが、「どこに勤めているか」に代わり、アイデンティティの主要な要素になっている

・強い絆は、時間とエネルギーを非常に消費する。弱い絆は、時間とエネルギーの投資が少なく済み、より多くの関係を持てる。新しい人々を素早く受け入れ、新しいアイデアを素早く吸収するクリエイティブな環境にとって、弱い絆は重要である

一流の研究大学の存在は、クリエイティブ経済において大きな強み。過去の運河、鉄道、高速道路以上に重要なものとして、競争優位を生み出す巨大な源泉になる

・クリエイティブな時代において、若い労働者は、子供がいないため、長時間、より熱心に働くことができ、よりリスクを追求できるため重要である。また結婚年齢が高くなり、独身期間も長く、結婚しない人たちも増えているため、彼らのニーズに合った環境を都市はつくりだす必要がある



以上、知識労働者の実態や影響は、日本においても同じような傾向になってきているように思います。もう一度、自分のライフスタイルに照らし合わせ、生活を見直すのもいいのではないでしょうか。難しい本ですが、将来のあるべき姿が見えてくる本です。