とは考

「・・・とは」「・・・人とは」を思索

『第三の敗戦』堺屋太一

第三の敗戦第三の敗戦
(2011/06/04)
堺屋 太一

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堺屋太一さんの本を紹介するのは、「堺屋太一の見方」「凄い時代」「歴史の使い方」に次ぎ4冊目となります。

その先見性の高さは、日本のドラッカーと言ってもいいくらいです。現在は、橋下徹大阪市長の顧問というか参謀を務められています。テレビの歴史番組にも、時々顔を出されています。

本書は、日本の歴史を通して、今は、どんな時代になっているのか。今、何をしなければならないのかを提言するものです。勉強になった箇所が数多くありました。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。



・「近代」に入って150年、日本は二度、悲惨な敗戦(徳川幕府体制崩壊と太平洋戦争敗北)を経験した。だが、その都度甦り、より強く、より豊かで、より楽しい国となり、大胆に新しい「国のきもち(倫理)とかたち(構造)」を創り上げた

・近代最初の敗戦は、薩英戦争や馬関戦争での惨敗。この時の日本は、軍事的に敗北しただけでなく、技術、制度、社会の体質、倫理観、美意識に至るまで敗北を実感した。このため日本は、すべてを変更する大革命「明治維新」を断行した

・徳川時代の寺子屋は、封建身分社会で安定的に生きる術と思想を教えるものであった。徳川後半期に流行した石門心学は、勤勉と倹約を説いたが、生産性の向上は語らなかった

・17世紀初めの「大坂夏の陣」が終わった後、武士は徴税(年貢取り)に当たる行政官か、治安監視の警察機能を持つだけとなった。武士を「職業」ではなく、「身分」として保つためには、無為無能な者も勤まる形にしなければならなかった

・幕末の日本は惨めだった。経済は最貧国の状態にあり、ほとんどが一次産業に従事し、交通輸送は人の足と木造船、情報は飛脚、行政手法や立法司法は勘のみが頼り。治安の良さと暮らしの清潔さを除けば、「最貧の孤立国」でしかなかった

・国の「かたち(構造)」の基には、その国の目指す「きもち(倫理)」が明確であらねばならない。明治維新の凄さは、薩長土肥の寄り合い世帯にもかかわらず、目指す「かたち」が一方向(中央集権)に揃っていたこと

・明治の目標は進歩、それに役立つ人間は仕事に勤勉で国家に忠勇であるべき。そのためには、先ず読み書きができ、同僚との協調性がなければならない。何より重要なのは、命令に従って突進すること

・司馬遼太郎は、自らの軍隊経験から、「軍は軍を守るのであって、国民を守るのではない」と喝破した。このことは、軍でしか出世する道のない職業軍人が組織化され、非軍人の指揮監督(シビリアン・コントロール)なしに行動し出した時に始まった

・太平洋戦争の敗因(日本の第二の敗戦)は、高級軍人や官僚たちの組織と思考の硬直化と、地位の身分化にあった。他に転職できない終身雇用型の縦割り組織では、その組織の発展拡大に属する構成員だけの幸せが優先される

・戦後の日本は、安全、平等、効率の三つを正義とする倫理観を確立した。そのことは誤りではない。ただ問題は、この三つだけが正義と見なされ、他が捨てられたこと。その中には、自由楽しさは入っていない

・1989年までの日本は、産業大国の道をひた走り、その過程で日本は三つのサブ・システム「1.金融系列の企業集団」「2.没個性型の大量教育」「3.東京一極集中の地域構造」を実現する

・戦時体制下の東京一極集中政策(産業経済の中枢管理・情報発信・文化創造)が、戦後も継続拡大された。官僚主導と業界協調体制、規格大量生産の形式に利用できたから

・小泉純一郎退任後(2006年以降)政治が無能短命内閣を繰り返している間に、官僚たちは次々と規制強化を始めた。そのためのキャッチフレーズは「安心安全」と「弱者保護

・支出総額に対して税収が半分以下というのは、完全な財政破綻状態。そんなことになったのは、徳川幕府の末期と太平洋戦争の時の二度だけ。これだけでも、現在は「敗戦状態

・この国には、公務員大企業の正規社員と、下請けの中小企業の社員と、各職場に必要に応じて日雇いされる作業員(労務者)との三層の社会ができている



堺屋史観が、江戸時代以降の日本の歴史を見事に解明しています。本書によって、今の日本の立ち位置が明確になっています。

歴史を知り、その検証から反省が生まれます。私たちが何をしてきたかがわかって始めて、私たちが何をしていくべきかがわかります。

第三の敗戦であることを受容すること、言い訳をしないこと、今を美化しないことが、発展の動機になるのではないでしょうか。


[ 2012/05/11 07:05 ] 堺屋太一・本 | TB(0) | CM(0)

『歴史の使い方』堺屋太一

歴史の使い方 (日経ビジネス人文庫 グリーン さ 3-6)歴史の使い方 (日経ビジネス人文庫 グリーン さ 3-6)
(2010/01/06)
堺屋 太一

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堺屋太一氏の本を紹介するのは、「堺屋太一の見方」「凄い時代」に次ぎ、これで3冊目です。

堺屋太一氏は元通産官僚で、歴史小説を数多く書かれてきました。歴史を通しての経済や人間を見る眼は天下一品です。

その堺屋太一氏の歴史を見る鉄則がこの本には満載です。人間が生きる原則としての「歴史」を面白く解説されている箇所が20ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。



・歴史を観察するとき、「その時代の技術条件を正確に考えること」「勝者を美化せず敗者に同情せず」が必要である

・歴史を見ると、「総論の大事さ」が浮かび上がってくる。「総論賛成各論反対だからうまくいかない」のではなく、実は、「総論に賛成していないから、各論に反対している」

・世界の歴史には、集団指導体制は何度も現れる。古代ローマの民主制末期の三頭政治からスターリン死後のソ連におけるトロイカ方式まで、その例は多い。しかし、それが長く続いたことはない

・世界の政治は、「独裁制」か「官僚制」か「諸勢力割拠の慢性的抗争状態」かのいずれかになる。民主主義とは、「諸勢力割拠の慢性的抗争」を非暴力に行うもの

・人は大義では動かない。人を動かすのは、利害恐怖。それなのに、人は「大義のある方に加担する者が多い」と考え、大義を過大評価する。だから、非力な者が大敵を倒すには、まずは「大義」を掲げる必要がある

・プロジェクトの手順は、まずコンセプトを決める。次に大義名分を掲げる。そして、スポンサーを探し、最後には、世間が成功を信じるような人物を総大将に担ぎ上げること

・一つの成功体験を持った者は、次にもそれを繰り返そうとする。これは歴史の中でも何度となく現れる失敗の原因

・本当のアイデアとは、仕組みや仕掛けから技術と資金の裏付けまで含む体系的な発想でなければならない。改革が容易に成功しないのは、体系的な発想が欠けているから

・競争社会の成長企業は、大抵、過剰雇用先行投資の実行者。戦国時代の大名も、多めの家来を抱えて、次の合戦で勝って領地を増やして、家来を養っていた

・成長社会から安定社会への転換時点では、成長意欲を取り去らねばならない。成長意欲自体が危険な悪事と信じさせる必要がある

・江戸時代、各藩に武装縮小を命令したので、非武装国家になった。一揆はあっても、武士が軍事的行動で弾圧した例はほとんどない。問題を起こした奉行と一揆の首謀者の双方を、喧嘩両成敗という形で処刑することで納得させるのが常

・経済が成長し、文化が華やかになると、武士は貧困化する。だから、不況と弾圧で、世の中が暗くなるのを喜んだ。時代は変わっても、人間性は同じ

・いつの時代、どこの組織でも、業績が悪化し、運営が行き詰ると、まず人を代える。しかし、時代(経営環境)が抜本的に変わっている時には、人事だけでは対処できない

・日本は、首都機能の移転がなければ、本質的な改革のできない国。幕末の改革も黒船が登場したことで進んだのではない。将軍が京都に移駐した時から、猛烈に改革が進み出した

・「改革のためには、若くて優秀な人材を」と誰もが考える。だが、それを従来型を守る優秀さに求めたとすれば、古い体制を超えることができない

・伝統と規模と組織の確立した体制が崩壊するのは、治安が維持できなくなる場合と体制の支配階層の文化が信用と尊敬を失った場合である

物財の多いことが人間の幸せであり、人間は物財の多いことを限りなく追求する「経済人」であることを前提にしなければ、社会主義の理論も体制も成立しない。したがって、社会主義は、人間の欲望や理想を物財以外に拡げる宗教や国家主義を嫌い憎んだ

・社会主義には、私利私欲で努力する資本家に対する激しい憎悪が存在する。金儲けは醜く、権限は美しい

・13世紀に世界を支配したモンゴルも国際収支は大赤字。これを補うために、商業を勧め、金融を勧め、紙幣を発行した。いわば、国際収支と財政の赤字を、不換紙幣の発行で賄っていた。この経済の仕掛けは、今のアメリカと同じ



歴史が繰り返すのは、人間の行動原則は古今東西、全く違わないからですが、全く同じように繰り返さないのは、時代とともに、技術も進歩しているからです。

このような原理原則を見て、歴史をもう一度読み直すと、眼が開かれます。そして、未来の予測能力が高まります。

この予測能力こそが、人間の魅力を高め、事業の利益を高める根本のような気がします。予測能力を磨くために、是非、この本を役立ててみては、いかがでしょうか。


[ 2011/10/13 07:36 ] 堺屋太一・本 | TB(0) | CM(0)

『凄い時代・勝負は二〇一一年』堺屋太一

凄い時代 勝負は二〇一一年凄い時代 勝負は二〇一一年
(2009/09/02)
堺屋 太一

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堺屋太一さんの本を紹介するのは「堺屋太一の見方」に次ぎ、2冊目です。今まで、数多くの氏の著書を読んできましたが、氏の本質は、経済学者ではなく、文明学者のように思います。実際に過去数々の予測を的中させてきています。

この近著でも、将来の世界を予測されています。社会がどのように変わろうとしているのか、わかりやすく説明されています。

今回、この本を読み、ためになった箇所が15ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。


・過去30年間の国際的不均衡は、知価革命が進んでモノ離れしたアメリカと、近代工業社会を完成させた日本を含む東アジア諸国との発展段階の違いに由来する。これから起こるのは、消費の面でのモノ離れである

近代工業社会は「物財の豊かなことが人間の幸せ」と信じる社会。人々は「まず教育を受けて所得の高い職場に入り、貯蓄して金利を得ながら物財を消費する」のを「健全な生き方」と考えた

・アメリカの貿易赤字は減少する。消費の面でもモノ離れが進み、近代工業社会的な「使い捨て走り回りの生き方」から脱する

・日本の経済不況は、自由化・規制緩和のせいではない。製造業を中心とした物財の面だけを自由化・規制緩和しながら、21世紀の成長分野である医療・介護・育児・教育・都市運営・農業などを完全な統制体制のままにしてきた「偽りの改革」にある

・人生の規格と順序を変更すること。近代工業社会では、すべての人々が規格大量消費型の工業に適するように作ろうとして、教育・就職・結婚・出産・子育ての人生順序を定めた。これでは教育年限が延びると出産年齢が上がり、少子高齢化を必然にしてしまう

・「物財の豊かさ」と「満足の大きさ」は全く別物。物財の豊かさは客観的で科学的で普遍的だが、満足の大きさは主観的で社会的で可変的である。それ故、物財の豊かさを求める工業社会人と、満足の大きさを追いかける知価社会人とは生き方も考え方も違ってくる

・今や先進地域の都市間競争は中核100人の争奪戦となっている。リチャード・フロリダは、これを「クリエイティブ・クラスの争奪」と呼んでいる

・知価社会の中核となるメンバーは、デザイナーでも技術開発者でも、芸術芸能、法務、医療、金融ディーラーでも、最高の能力と人気が長く続くわけではない。大抵の人は、最盛期10年、長くても20年までである

・世界の巨大な国際企業の本社機能は地方都市に分散している。大都市に集中しているのは金融と商品の取引所だけ。今回の金融危機と大不況の原因は大都市で作られた。東京一極集中を今も進める日本が、実体経済で最悪の落ち込みになったのは不思議ではない

・金融業者に倫理を説くのは無駄。金融業者があくどいことは、シェイクスピアでも近松門左衛門も書いている。金融業者に望むのは、倫理よりも理性である。もう少しましな人材を育てる教育をすべき

・2008年、日本の人口は45,000人の流出超過だった。外国に移住した人の数が、日本に移住してきた人よりも多かった。高賃金で高齢化が進んでいる国では、実に驚くべきこと。特に意欲的な若年層の流出が気にかかる

官僚統制の恐ろしさは、誰も反対できない極端な少数の例を挙げて規制権限を強化し、一般的な利便コストを吊り上げる点にある。社会主義政権はそのために滅亡したが、今の日本も同じ道を辿っている

・経済の中心が規格大量生産から知価創造に移るなら、都市の構造も変えなければいけない。それが「歩いて暮らせる街づくり」である

・公務員制度の改革の要点は何か。それは、公務員を「身分」から「職業」にすることである

・「自分のお金を使う時は、他人のお金を使う時より利巧」。お金はできるだけ身近な側、自分のお金に近い方で使うべき。国よりも都道府県、市区町村。最良なのは、可能な限り、お金を稼いだ本人に使わせるのが社会全体の満足度を高める

・高齢者の心理と本音は未知の分野である。高齢者の体力や身体機能、多様で用心深い好みを探り当てるには「高齢者学」の開発が必要である

・高齢化は環境以上に重大な全人類的問題である。グリーン・ニューディール以上に成長性のあるシルバー・ニューディールを真剣に考えるべき



著者は、数々の予測をされています。ビジネス面においても、将来に有用な予測が多くあります。

その中でも、特に大きな波である、知価社会の到来高齢化社会の進展は、乗り遅れないように対処すべきかもしれません。

10年先、20年先を見据えて行動するには、著者の本を読んでおく必要があるように感じました。
[ 2010/07/20 07:02 ] 堺屋太一・本 | TB(0) | CM(0)

『堺屋太一の見方』

堺屋太一の見方 (PHP文庫)堺屋太一の見方 (PHP文庫)
(2009/04/01)
堺屋 太一

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堺屋太一さんは、言わずと知れた元通産省の官僚で、大阪万博のプロデューサー。退官後、執筆活動に入り、数々のベストセラー作品を世に出しました。また、執筆活動の傍ら、経済企画庁長官など、多くの要職を務められています。

私も堺屋太一さんの本を今までに10冊以上読みました。どの本も問題提起と同時に未来予測もされる素晴らしい書ばかりでした。

私は、堺屋太一さんを、日本のドラッカーだと思っていますが、その実績の割には、日本では、正当に評価されていないように思います。マスコミや学界の見方も堺屋太一さんを「ベストセラー作家」として見ており、「稀有の才能を持つ社会学者」として見ていません。

今回、この本を推薦したのは、堺屋太一さんが過去に問題提起し、未来予測した、本質を捉えた言葉がこの本には400以上詰まっており、非常にお得だと感じたからです。

それでは、いつものとおり、この中で、私が感銘した箇所を「本の一部」ですが、紹介したいと思います。


・能力があって意欲のない人間ほどいやな奴はいない。能力がなくて意欲のある人間ほどかわいい奴はいない
・人間は所得の格差よりも消費の格差を嫉妬する

・一番の贅沢は世間の評判を気にしなくてよくなること
(人間がお金を求める4つの段階 第1:今日の飢えからの自由 第2:明日の不安からの自由 第3:未来の心配からの自由 第4:社会の評判からの自由)

・日本では独創を「我流」と呼んで軽蔑する
・インフレは経済問題だが、デフレは社会問題
(インフレの苦しみは大多数に降りかかる。デフレの痛みは少数者に集中する)

・組織人は人事評価で動く。社長の演説や社是で動くのではない
(社長が環境を重視せよといっても、人事評価が売上伸率で決まれば、社員は売上を伸ばすことに必死になる)

・起業に必要なのは憤りと実業化の志
・自分の特徴を客を喜ばせることに利用する
・組織における個人の権威は内部の「伝説」で決まる

・未来の企業価値を測るのは理想・構想・独想
知識は客観的で、倫理は主観的な方がよい。経営者の陥りやすいのは、その逆だ

・未来への冒険に出発するのは、現状維持が不可能と分かったあとである
・人類の進歩の一つには、より怠惰に生きられる条件を創ることである

・教育を見れば、その国の人々が目指している未来像が見える
辛抱強さの教育は、子供には嫌いなことを多くさせる
・利権化は誇りと尊敬を失う

ホームレスのいない自由社会こそ、これからのあり様
・他人を支配したいのは、自分の正義を守らせたいから
正義感の強い人は、支配欲も強い)
・最も贅沢な需要とは、先行投資のことだ


他にも、本質を捉えた素晴らしい言葉がいっぱい載っています。読む立場(年代、職業、階層など)によって感動する箇所はそれぞれ違うと思います。どのような立場の人にでも、おすすめできる本であり、買って損はしない1冊だと思っています。

 

[ 2009/06/22 07:51 ] 堺屋太一・本 | TB(0) | CM(0)