とは考

「・・・とは」「・・・人とは」を思索

『世界が土曜の夜の夢なら・ヤンキーと精神分析』斎藤環

世界が土曜の夜の夢なら  ヤンキーと精神分析世界が土曜の夜の夢なら ヤンキーと精神分析
(2012/06/30)
斎藤 環

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斎藤環さんの本を紹介するのは、「子育てが終わらない・30歳成人時代の家族論」以来です。ひきこもりの精神分析に関する本ですが、今回紹介する書は、真逆とも言える「ヤンキー」の本です。

ヤンキーはオタクに比べて、分析した書物は少ないのですが、ヤンキー人口は非常に多いことで知られています。そのヤンキーを徹底解剖しています。その一部をまとめてみました。



・「個人の美意識にひそむヤンキー性」は、「不良文化」という言葉を使ってしまったが最後、雲散霧消してしまう

・男は会話に「情報」と「結論」を求めすぎる。家庭円満の最大の秘訣は、「毛づくろい的会話」を日常的に交わすこと。夫婦間であれ、親子間であれ、「無駄話」や「お喋り」を交わし合える関係こそが、最も深く安定する

・ヤンキー系の音楽活動において「音楽性の追求」は最重要課題ではない。優先されるべきは、商業性であり、あるいは彼ら自身のスタイル(=生き様)の主張と確立

・「現実志向」が、ヤンキー系アーティストに共通する「生活苦」に根差している。これは貧乏だったり虐待を受けたりということばかりではない。族に入って喧嘩三昧の日々を送ったり、長い下積み生活でリアルに苦労したといった経験も含めてのこと

・欲望の形式は、「私はそうでもないけれど、みんな欲しがるから、私もそれに合わせて仕方なく、“欲しがっているふり”をしているだけ」。ヤンキーファッションに、その傾向が強い。だぼだぼのジャージ、金髪、ぶっとい金ネックレス、彼らがすすんで選択した結果

・日本のお笑いの特殊性は、そのかなりの部分がキャラに依存して成立している点。ギャグとしての面白さ以上に、まず「笑えるキャラ」を成立させることがはるかに重要となる。いったんキャラが立ってしまえば、ゆるいネタでも十分に笑いが取れる

・徹底して「ベタ」であること、徹底して「現状肯定的」であること。彼らは個人が社会を変えられるとは夢想だにしていない。わずかでも変えられるのは、自分だけ

・ヤンキー文化の特徴は、地元志向つながり志向、内面志向、実話志向、これらは広義の保守的感性。ヤンキー文化は「反社会的」ではない

・ヤンキー的感性は、フィクションをあまり好まず、本当にあった話を好む

・日本人のキャラ性を極めていくと、必然的にヤンキー化する。最もキャラが立っている日本人は、言うまでもなく「坂本龍馬」

・複雑な物語は必要ないが、ほどほどの不幸や、やんちゃだった過去は、キャラ性を際立たせる

・ヤンキーは仲間とのつながりを大切にする。また家族を大切にする。彼らは、両親を尊敬し、パートナーとの絆を大切にしつつ、わが子をこのうえなく愛おしむ。ヤンキーは「女性的」な存在

・ヤンキー的成功者の多くは、その過剰なまでの情熱と行動力をもって、業績を上げている。しかし、その分野は必ずしも革新的なものとは限らない。新たな価値観を創造するのではなく、従来からある価値観を新たなる手法で強化するのが、ヤンキー成功者の秘訣

・ヤンキー主義に欠けている要素は、「個人主義」の欠如と「宗教的使命感」の欠如。ヤンキー主義は、集団主義(家族主義)

・ヤンキー主義は、地元志向や伝統指向が強い。地方における「祭り」の主要な担い手は彼ら。地元志向は政治的に保守の立場につながり、さらに徹底されれば右翼的な活動につながる

母親の存在は、すべてのヤンキーにとって「重い」。彼らの自伝を読めば、そうした感覚が如実に伝わってくる。奇妙なことに、総じて「父」の影が薄い。圧倒的な存在感と影響力を発揮するのは、決まって「母」のほう

・ヤンキーの人々は、「発光体」をたいへん好む。車に装着するライトやネオン。家の外壁のイルミネーション。彼らにとって、「光」は理屈抜きで、ありがたいもの



日本には、ずっと昔から、貴族文化とヤンキー文化があり、歴史的に残っているのは、貴族文化ですが、われわれの心に継承されているのは、ヤンキー文化です。

日本人の大半は、「ヤンキー」か「オタク」です。ヤンキーの研究は、重要なテーマなのかもしれません。


[ 2014/03/05 07:00 ] 育成の本 | TB(0) | CM(0)

『努力する人間になってはいけない・学校と仕事と社会の新人論』芦田宏直

努力する人間になってはいけない―学校と仕事と社会の新人論努力する人間になってはいけない―学校と仕事と社会の新人論
(2013/09/02)
芦田宏直

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校長である著者が、専門学校の入学式や卒業式の式辞などで述べたことを文書化したのが本書です。

エリートではない人が、社会に出て、どう戦っていくか、生きていくかが記されているように思います。本書の中で、気に入ったところを一部まとめてみました。



・「1.怠け者だけれども目標を達成する人」「2.頑張り屋で目標を達成する人」「3.頑張り屋で目標を達成できない人」「4.怠け者で目標を達成できない人」。有害な人材とは、3番目の人

・仕事の仕方を変えて目標を達成しようとせず、時間をさらにかけて達成しようとする。これが努力する人が目標を達成できない理由。努力が唯一の武器と思っている。努力は時間、努力すればするほど疲弊する、息苦しくなる、つらくなる。これでは仕事はできない

企業は時間を嫌う。時間をかけることが企業の美徳ではなく、いかに短時間で高度な目標を達成できるかが企業の見果てぬ夢。努力主義は、時間をかければ目標が達成できると思っているので、残業して(無理して)やり遂げようとするが、企業の考えとは全く逆

・努力主義は、自己のやり方を変えようとしないエゴイズム。努力する人は謙虚なように見えて、そうではない。むしろ自分に固執する偏狭な人

・努力しているのに評価してくれないときは、立ち止まって、深呼吸して、やり方を変える、自分のスタンスを変える、そのことに思いをはせること

・「努力する」の反対が、「考える」ということ。努力する人は、考えない人ということ

・「時間がない」と言ってはいけない。「お金(予算)がない」と言ってはいけない。まして「クライアントはケチだ」などと言ってはいけない。「お金と時間がない」ときにどうすればいいかという知恵こそが、勉強の実践的意義

・人間の本質は、若者に引き継がれている。人間性とは若者のこと

・「遠い」お客様を大切にすること。お客様は近所であっても、「遠い」ところから来ている人たちだと思うこと

・自立するというのは、自分が使いたくないものにお金を使うことを意味する。光熱費もアパート代もできればなしで済ませたい。しかし、社会人になるというのは、そういうものを担うこと。自宅通いでも、社会人になったら、家に月5万円以上入れるべき

・お金を借りるには、貸してくれる人を説得しなければならない。説得する過程で一所懸命プランを練らなければならない。そうやって、精度の高い、成功する確率の高いプランに成長していく

・コミュニケーションとは、無償のもの(=片方向のもの)。お互いが理解し合うなんて、最低の貧相なコミュニケーション。返ってこないから、無償の配慮が存在する

・いわゆる低偏差値の学生というのは、家庭、地域、クラスメート、担任の先生といった近親者との比較の中でしか、自分の位置を測ることができない子たち。若者が大人になる契機の一つは、対面人間関係(=親密圏を越えるとき

・日本の若者の大半は勉強していないけれども、消費者としての水準、サービス水準への要求は、どこの国の若者にも負けない

・日本の若者は、放っておいても顧客志向のエリートアジアのエリート学生を採用しても、スキルや学力は高いが、消費者水準が実感できない。そこに一番気づいていないのが、大学や専門学校の教育関係者

・アメリカは実力主義と言われるが、大学に入るには、ボランティア活動、親の推薦状、高校の先生の評価など「人間的なこと」を聞かれる。試験点数以外の家族主義的な履歴、長時間の評価を問う。それこそ差別主義。日本のマークシート方式こそウルトラ近代主義

・人間の観察を長いスパンで見る場合、その人間がどこで生まれたか、どんな親元で育ったかということに密接に関わってくる。「長い時間」の観察・評価というのは、ヒューマンな管理主義



著者は、文部科学省、経済産業省などで教育に関する委員を務めた方なので、独自の「教育論」を持っておられます。

人材とは何か、教育とは何か、極めて実践的な視点から発するその論評は、参考になる点が多いように感じました。


[ 2014/01/22 07:00 ] 育成の本 | TB(0) | CM(0)

『「使える人材」を見抜く・採用面接』細井智彦

「使える人材」を見抜く 採用面接「使える人材」を見抜く 採用面接
(2013/02/26)
細井 智彦

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面接の受け方の本が、書店にいっぱい山積みされていますが、本書は、面接を受ける側の本ではなく、面接をする側の本です。

全く立場が違うと思われるかもしれませんが、相手(敵?)の心理を見抜くことは、面接という戦いにおいて役に立ちます。本書の中から、気になった点を幾つか紹介させていただきます。



・内定辞退者の70%もの人が、「面接官の印象によって志望先を変えた」と答えている。面接官が応募者を観察するように、応募者も面接官をよく見ている。面接官の印象で、企業の良し悪しを判断し、入社するか否かを選択することもある

・優秀な人材を採用したいなら、自分も見られているという意識が必要。面接も「ビジネスの現場」と肝に銘じ、クライアントとの打ち合わせのように、気を締めて臨むこと

・面接の評価をすべて数値化すると、「ずば抜けた能力を持ちつつも、マイナス面のある人物を見逃す」「優等生タイプばかりになる」「面接官の好みに左右される」「直感による評価が反映されなくなる」のような問題点が起こる

・相手に一度よい印象を持ってしまうと、その人のよい面ばかりが目につきやすくなる。だからこそ、最初に好印象を抱いた人にほど、「言っていることは本当かな」という視点で、具体的なエピソードを聞く必要がある

・「コミュニケーション能力」「主体性」「チャレンジ精神」など、聞き心地のよい言葉だけが一人歩きして、採るべき人材を具体的に想定できている会社が、意外に少ない。採用活動を成功させるには、会社にとっての「使える」人材をはっきりさせること

・企業は「しんどい状況でも我慢して頑張ってくれる人(ストレスに耐える人)」を求めるが、本当に必要なのは、ストレスに耐える力ではない。ストレス耐性とは、ストレスへの対応力や適応力。だから、ストレスをためこまず、うまく「逃がせる力」のほうが重要

・応募者にだまされまいと「見抜こう・見破ろう」とする意識が働くのはわかるが、取り調べ型の面接は、応募者に過度なプレッシャーや不快感を与えるので、注意が必要

・理想にぴったり当てはまる応募者を探す「マッチング」にこだわりすぎると、結局、採用したい人が見つからない状態に陥る

・どういう人を採用したいかを具体的にイメージできるよう、社内で見本となる人物を数名ピックアップしておく。「明るく元気で・・・」のタイプだけでなく、「口ベタだが・・・」「押しは弱いが・・・」「聞き上手で・・・」など、デキる営業マンはいろいろ

・経歴や外見などの表面的な情報で採否を決めるのは、直感ではなく、ただの「思い込み」。勝手に思い込まないよう、ロジカルに判断した上で、直感を働かすこと。そして、「何かあったら自分が責任を持つ」と思えたら、直感を信じるべき

・相手に気持ちよく話してもらうことが重要なので、面接官は「是非話を聞かせてください」というスタンスで、相手の話を聞くこと

・「不満や文句を言う人はNG」と考える人が多いが、仕事に不満はつきもの。求めるべきは、不平不満を言わない人ではなく、それを人のせいにせず、少しでも状況をよくしようと行動できる人。チェックするのは、不満の有無ではなく、不満とのつき合い方

・自社の魅力を伝えるのに、用意したいのが「ウラ話」。「実は、今ヒットしている商品が生まれたキッカケは・・・」などの秘話を話せるようにしておくこと。内情を話してもらった応募者は、信頼された気持ちになる

・応募者に選ばれるには、会社のこと、仕事のことをわかりやすく伝える必要がある。例えば、転職希望者が本当に聞きたいのは、給料やボーナス、残業時間、有給消化率など、とても生々しい内容

・「とても優秀だが、何か見落としている気がする」「完璧すぎて、なんとなくうさんくさい」など、落とす理由がないが、心に引っ掛かるものがある場合、試したいのが「雑談」。過去の仕事内容や実績ではなく、普段の生活についてのリアルな話を聞き出すこと

判断ミスをなくすためには、「1.第一印象で決めつけない」「2.経歴や肩書で判断しない」「3.応募者同士を比較しない(印象のよい人を過大評価しない)」「4.判断がブレないように(面接が続くときは注意)」「5.感覚的な評価も無視しない(直感も大切に)」



いい会社に就職したいと願う人も必死ですが、いい人を採用したいと願うほうも必死です。

その両者の立場を理解できる人は、冷静に、落ち着いて、面接に臨めるのではないでしょうか。面接を受ける側なら、面接をする側の本を一回くらい読む必要があるように感じました。


[ 2013/11/06 07:00 ] 育成の本 | TB(0) | CM(0)

『[新装版]土光敏夫・信念の言葉』

[新装版]土光敏夫 信念の言葉[新装版]土光敏夫 信念の言葉
(2013/03/29)
PHP研究所

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メザシの土光さんとして有名な方です。元経団連会長・臨調会長として、日本の行政改革に取り組まれました。

日本再建という重要な使命を遂行することができたのは、土光さんの人柄と熱意の賜物です。土光さんが何を考え、何を話されていたのか気になるところです。その言葉の一部を要約して、紹介させていただきます。



・群がる障害に耐え、隘路を乗り越える過程で、真の人間形成が行われる。艱難汝を玉にす。そして艱難を自らに課し続ける人間のみが、不断の人間成長を遂げる

・「活力知力×(意力体力速力)」。活力は単なる馬力ではない。そのベースは知力。だが活力にとって、知力は必要な条件だが、十分な条件ではない。十分な条件とは、その知力を成果として結実させる行動力。その行動力の重要な要素が、意力・体力・速力

・職場や仕事をグイグイ引っ張っているのは、そばにいると、火花がふりかかり、熱気が伝わってくるような人。周りの人たちに、火をつけ燃え上がらせている。誰にも火種は必ずある。もらい火するより、自分で火をつけて燃えあがらせよう

・価値観というのは、時代とともに変わっていくのが当たり前。それでなければ、歴史は生まれない。ご老体たちが「このごろは価値観が違って困る」とこぼすが、そんなことは当然のこと。価値観がみな一緒になったら、それは独裁国家ということ

・肯定的態度とは、相手の発言を、どこに賛成しようかと考える姿勢。その底には、思いやりの気持ちが流れている。反対に、否定的態度とは、相手の発言を、どこに反対しようかと考える姿勢。その裏には、自己防衛自己顕示といった気持ちが潜んでいる

・現在は「変化の時代」。第一に、変化の断層性がある。現在の変化は過去の変化から質的に飛躍している。第二に、変化の波及性がある。一つの変化がその領域内で治まらない。第三に、変化の加速性がある。人はモノサシとして時間を無視できない

・根性とは、「仕事への欲の強度と持続力」のこと

・人ははっきり二つのタイプ、「自分の足で歩ける人」と「他人の助けを借りないと歩けない人」に分かれる。これは、人生へ立ち向かう態度の問題。人生へ厳しく立ち向かったか、甘えがなかったかによって差が現れる。老年は若年の延長ではない。老年は若年の裏返し

・賃金は不満を減らすことはできても、満足を増やすことはできない。満足を増やすことのできるのは仕事そのもの

・真実を敬語で覆うことをやめること。率直さを敬語で失うことをやめること。中央への、上司への敬語過剰は排すること

・一回限りの成功は。まだ本物の成功とは言えない。第一の成功が呼び水となって、第二、第三の成功を生み出してこそ、「成功は成功の母」となる

・変化の時代の経営は「時間」の要素が大きくものをいう。スピードこそ生命。経営をスピーディにするには、何をおいても、幹部自らがスピーディになること。具体的には、決定をスピーディになすことである

・本来の情報は天然色なのだが、幹部の持つ情報は単色情報になりがち。そんな薄まった情報に基づいて判断したら大変。単色情報を天然色情報に戻すためには、自らの足で現場を歩き、自らの目で現場を見て、現場の空気を味わい、働く人々の感覚に直に触れること

・部下所有意識を部下借用意識に切り替えること。部下は会社からの借りものにすぎない

・コストダウンにはタネ切れはない。目のつけどころとやり方次第

・われわれは習性として、「原因の探求」はいい加減にして、すぐ「対策」に走る。原因を掘り下げれば、すぐれた対策が生まれる。原因の探求とは、「原因の原因」を探り、「原因の原因の原因」を求めること。この面倒くさい作業に敢然と挑戦しなくてはいけない

・死せる規程、守られざる規程は、ルール軽視の風潮を生む。規程が初めからない場合より悪質である。多過ぎる規程規則の類を整理して少なくするのが先決

権威が先行し、権力がそれに従えば、組織は生き生きと動き、組織は強くなる

・少数精鋭という言葉の意味の一つは「精鋭を少数使う」ということ。もう一つは「少数にすれば皆が精鋭になりうる」ということ。後者の意味を重視したい



偉くなっても、メザシを食べ続け、驚くほど質素な生活をされていた土光さんだからこそ、三公社(国鉄、電電公社、専売公社)民営化を実行することができたのだと思います。

亡くなられて25年経ちますが、その筋金入りの信念の言葉は、今も健在ではないでしょうか。


[ 2013/11/04 07:00 ] 育成の本 | TB(0) | CM(0)

『采配』落合博満

采配采配
(2011/11/17)
落合博満

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本書は、2年ほど前のベストセラーです。少し前、落合氏がテレビで、リーダー論を語っていました。その洞察力や着眼点が、かなり高いレベルにあると思い、この本を手に取りました。

いつ、どこで、誰に、何を指示するのかが合理的で、非常にクレバーです。本書の内容も、実例も踏まえていますので、具体的で、読みやすいと思います。その一部を要約して、紹介させていただきます。



・「一人で過ごすのは好きだけれど、孤独には耐えられない」というのが、最近の若い選手の印象。いいか悪いかではなく、これは時代の流れ。でも、グランドでは若者の気質に配慮などできない。頼りなげな視線を向けられては困る。自分一人で決めねばならない

・会社を背負って、勝負を背負って、たった一人で複数の相手に立ち向かう場面では、緊張感とともに孤独感も抱くもの。その孤独感は、「一人で過ごせる」こととは意味合いが違う。孤独に勝てなければ、勝負には勝てない

・自分が身を置く世界で、太く長く生きたいと思っているのなら、向上心よりも野心を抱くべき。孤独に勝つ強さは、野心を抱くことから生まれる

・プロに入ってくる選手は、センスに恵まれていて、プレーの才能がある。しかし、成功するためには、自分自身を適性に導く才能、すなわち、セルフプロデュース能力が必要

不安だから練習する。不安を抱えているからこそ、どんな練習をすればいいか考え抜く

・心技体を大切な順に並べると、「体・技・心」になる。若い時期に必要なのは基礎体力。基礎体力は年齢とともに落ちていくが、代わりに、仕事をしていく体力が備わってくる。「体」の次は、技術を持っている人間は「心」を病まないので、「技」が先

飲み込みの早い人は忘れるのも早いことが多い。自分は不器用だと自覚している人ほど、何度も何度も反復練習するので、一度身につけた技術を安定して発揮し続けることが多い

・直面する仕事の3つの段階の戦いとは、「自分」「相手」「数字」。まずは、力をつけるまでは、自分との闘い。次に、相手のある戦い。最終段階としては、数字と闘うことになる。数字と闘えるようになれば、本当の一人前

・一流の選手までは自分一人の力でいける。でも、超一流になろうとしたら、周りに協力者が必要になる

・レギュラーになって活躍したいと思うなら、「1.できないことをできるようになるまで努力し」「2.できるようになったら、その確率を高める工夫をし」「3.高い確率でできることは、その質をさらに高めていく」の段階を踏まなければならない

・何も反省せずに失敗を繰り返すことは論外だが、失敗を引きずって無難なプレーしかしなくなることも成長の妨げになる

・指導者は、欠点を長所に変える目を持って、新人に接していくことが大切

・部下が「あの人の言う通りにやれば、できる確率は高くなる」と上司の方法論を受け入れるようになれば、組織の歯車は目指す方向にしっかりと回っていく

・高い実績を残した者だけが、自分の引き際を自分で決めることができる

・自分にない色(能力)を使う勇気が、絵の完成度を高めてくれる

・どんな世界でも、かつての「初」を次代が抜き去り、新たな「初」が生まれていく。その世界を発展させていくという意味で、「初」の価値を再認識すべき

・歴史を学ばないということは、その世界や組織の衰退につながる。歴史を学ぶことは、同じような失敗を繰り返さないことにもつながる

・豊かになった国で、次代のリーダーになろうとしている人たちを、昔の人と比較してばかりいたら、リーダーは育たなくなってしまう

・現代のリーダーは、愛情や情熱、変革しようという意欲を基本に考えていくべき

・人生の素晴らしさは、誰と比べて幸せだから、というものではない。大切なのは、何の仕事に就き、今どういう境遇にあろうとも、その物語を織り成しているのは、自分だけだという自負を持って、自身の人生を前向きに采配していくこと



名選手で名監督という人はほとんどいません。落合氏は、考えて、考えて、考え抜く人だから、プロの厳しい世界で、選手としても、監督としても、成功したのだと思います。

その考え抜いた結論を、本書でたくさん披露されています。プロフェッショナルとは何か、リーダーとは何かを知るためには、大いに参考になる書ではないでしょうか。


[ 2013/10/28 07:00 ] 育成の本 | TB(0) | CM(0)

『女子刑務所・知られざる世界』外山ひとみ

女子刑務所 知られざる世界女子刑務所 知られざる世界
(2013/01/24)
外山 ひとみ

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10年以上前に、刑務所の作業製品取扱業者の案内で、刑務所(男子)を見学したことがあります。そのとき見た受刑者の顔は、その3分の2近くが、普通のどこにでもいる人だったのを憶えています。

女子刑務所はどう違うのか?興味があったので、本書を読み、女性ならではの犯罪事情と受刑状況を知ることができました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・日本には77の刑事施設がある。そのうち女子受刑者を収容する刑事施設は9ヵ所。2011年末時点で、62080名の受刑者が服役しているが、うち女子受刑者は4718名

・女性の場合は男性に比べて凶悪な犯罪は少なく、罪名のトップ2が「覚せい剤取締法違反」と「窃盗」。第3位には、件数は少ないが、殺人が登場してくる施設もある

女子刑務所の1日は、<6:30起床・点検><7:10朝食><7:40作業><10:00運動><12:10昼食><12:40教育><16:30還室><17:10夕食><17:40余暇><21:00就寝・消灯>

・女子施設は「半開放処遇」と呼ばれる収容方法が採られており、ある程度、移動の自由が認められている。1部屋に6~8人の受刑者が集団で生活しているが、各部屋には施錠されず、寮の入口にだけ鍵がかかっている。トイレや洗面所など、必要に応じて移動できる

・男子刑務所は、刑罰の種類(「初犯」「累犯」「長期」「無期」「交通刑事犯」「少年」)ごとの収容施設。だが女子は、施設が少ないので、刑罰の重さや性質に関係なく、すべての受刑者を同じ刑務所に収容。無期受刑者と刑期1年の受刑者が同じ部屋で暮らすこともある

・男子に比べて女子は初犯受刑者が多く、約70%を占める。収容者で最も多い「覚せい剤取締法違反」による受刑者は、実は、それ以前に逮捕歴があり、執行猶予中だった場合がほとんど

刑務作業は大きく4つに分けられる。「生産作業」(工場での洋裁、部品の組み立て)、「社会貢献作業」、施設の運営に必要な「自営作業」(炊事、洗濯、清掃、経理など)。そして、資格や免許の取得を目標にする「職業訓練」(美容、ホームヘルパー、ビル施設管理など)

・薬物を続けるにはお金がかかるが、密売人は最初はお金をとらない。しかし、中毒(快感が忘れられず、薬物を使用してのセックスに溺れていく)になれば、彼らの金づるになる。これがよくあるパターン

・高齢化が一気に加速する日本社会で、65歳以上の高齢者の割合は、総人口の4分の1に迫っている。刑務所もまた例外ではない。高齢者の検挙者数は他の年齢層より著しく増大。20年前の約7倍になっている

・女子高齢者の犯罪で最も多いのが窃盗で、その割合は92%。なかでも万引きが81%と際立つ。常習累犯窃盗罪(10年間に3回以上罪を犯し、6ヵ月以上の懲役刑)の受刑者は、身寄りも、帰る場所もなく孤立し、日々の生活の困窮から犯罪を繰り返す

・高齢化と同様に、どの女子刑務所でも大きな問題になっているのは、精神に疾患を持つ受刑者や摂食障害の受刑者の存在。周囲に迷惑がかかるので、単独室に収容されている場合が多い

・行き場のない孤独な老人や障害者が止むなく犯罪を繰り返し、そうした人々にとって、刑務所は「最後の福祉」。介護施設化した刑務所が映すのは、この国の歪みそのもの

・全国52ヵ所にある少年院の種別は、初等(16歳未満)、中等(16歳以上)、特別(犯罪傾向が進んだ者)、医療少年院の4つに分けられ、さらに非行の深度に応じて、一般短期処遇と特修短期処遇(4か月~6ヵ月以内)、および長期処遇(12ヵ月以内)に区分される

・東北少年院は唯一、専門的な職業訓練を実施することで知られている。職業訓練は、「電気工事科」「建築科」「配管科」「溶接科」「自動車整備科」の5種目ある

・東北少年院は、国家資格を取得するだけの理解力が必要なこともあり、IQ(知能指数)の高い子が多い。だが、たとえIQが120あっても、入所したときは、小学3、4年生の学力レベルしかない少年が多いため、まず国語と算数を毎日勉強する

・保護観察対象者は、「刑務所からの仮釈放者」「少年院からの仮退院者、保護観察処分の少年」「刑の執行猶予者」「婦人補導院からの仮退院者」。保護司(全国で48000人、平均年齢64歳、女性が26%)は保護観察官と協力して、更生環境を整え、社会復帰を円滑にする



最近の刑務所は、食事や居住環境もよくなり、職業訓練も充実しているようですが、女性の場合、受刑者数が少ないせいか、待遇面でまだまだ不備があるようです。

刑務所は更生施設なのですが、待遇面がよすぎると、福祉施設になってしまいます。この問題をどう考えるかが、特に女性の高齢者の場合、大きな課題なのかもしれません。


[ 2013/09/05 07:00 ] 育成の本 | TB(0) | CM(0)

『[新装版]青年の思索のために』下村湖人

[新装版]青年の思索のために[新装版]青年の思索のために
(2009/09/12)
下村 湖人

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著者は「次郎物語」の小説が有名ですが、若干35歳で旧制中学の校長を務められた教育者でもあります。本書は、昭和30年に発表された作品で、当時の青年たちに大きな影響を与えました。

本書の最後の章の「心窓去来」は、教育者を超えた、哲学者・思想家としての作品です。現代の中高年が読んでも、ためになります。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・青年期は、出生当時の無自覚から覚めきって、己を知り、他を知り、社会を知り、そして、死ぬまでの自分の方向を自分で決めなければならない時期。青年期の大出発こそ、人間一生の中軸をなすもので、出発の中の出発

・「知育偏重」という言葉は、記憶偏重ということの誤り。日常生活を合理化し民主化するためにも、知育、とりわけ思考力の養成には、もっと力を注がなければならない

・「退くことの好きな人は心がきれいで恥を知っているから誠心誠意で働き、決して任務を汚さない。人に遅れまいとして競馬馬のように狂奔する人は、正道を曲げて上に仕え、へつらいこび、周囲に目立つことを求め、才を誇り、利を好む」(宋の賢臣・張詠)

・どんな仕事に従事していても、自分の仕事を拝む心を持つことが大切。仕事を拝む心はやがて神を拝み、神の大事業に参加する。利害を超越し、世評に煩わされず、一日一日をただひたすらに仕事の祭壇に奉仕して悔いざる心こそ、人間を偉大ならしむ唯一至高の道

・雑多な欲望を充たすことを自由と考えている間は、人格の自由は得られない。どんな圧迫にあっても、良心に背くことを弾ね返す力を持っていなければ、真の自由は得られない

・他人の邪悪から自分を守ることは、時として不可能な場合があるが、自分の邪悪から自分を守ることは全く自分の自由。然るに、たいていの人は、他人の邪悪によってよりも、自分の邪悪によって、はるかに多くの害を受けている

・運に恵まれて富んでいる人が、もし、富を永続きさせたいと思うなら、富を死守しようとする代わりに、富を無知克服のために一刻も早く利用すべきである

・素直に喜ぶということは難しい。というのは、もし、ほめられたあとの仕事が、もう一度ほめてもらいための仕事になったら、その喜びは決して素直であったとは言えないから。人間の素直さにとって、賞賛は大きな誘惑である

頭のいい人にとって、最も大切な修行は、おっとりした、親しみやすい謙遜な人間になるように努力することであるが、そこに気がつくほど頭のいい人は実際まれである

・凡人の社会を動かしている潤滑油の七八割は礼儀作法といった形式である。大多数の人間は凡人だから、そうした形式の軽視は、しばしば悲劇の原因になる

・人は、劣等感と利己心に出発した平等感を主張することで、内心の不平等感を告白する

高慢と怠惰から身を護りうる人は、たいていの悪徳から身を護りうる

・政治はその運営のために、法と公職と租税を必要とする。しかし、その必要は究極において、それを無用ならしめるための必要。法と公職と租税は少なければ少ないほど、人民にとって幸福である

・たいていの人は、「機会を求めなかった」のに「機会に恵まれなかった」と言っている

・自分で自分を支配する力のない者にとっては、束縛が善であり、解放は悪である

・無心になるとは一心になること。一心になるとは自己の一切をあげて至高の願いに集中すること。至高に集中するところに迷いはない。迷いなきがゆえに無心

・すきだらけの人間が、ゆとりのある人間のように思い違いされている。しかし、すきとゆとりとは本来似ても似つかない心の状態で、すきがないからゆとりがある

・自分が恩恵を施してやった人を「恩知らず」とののしる時、その恩恵はもはや恩恵ではなく、取引に変じている

・未来は、燈台と同じように、常に二つの意味の信号をかかげている。一つは「希望をもて」という意味。もう一つは「危険を警戒せよ」という意味。もし、この二つの意味の一方だけしかわからないとすれば、未来は、我々を心からの笑顔をもっては迎えてくれない



著者の思想は、青年期の生徒に触れ、その成長をつぶさに観察することによって、得られた思想です。成長の過程を知っているがゆえの重みがそこにあります。

良き教育者の本は、意外に少ないように思います。本書は、貴重な書ではないでしょうか。


[ 2013/08/21 07:00 ] 育成の本 | TB(0) | CM(0)

『愛と励ましの言葉366日』渡辺和子

愛と励ましの言葉366日 (PHP文庫)愛と励ましの言葉366日 (PHP文庫)
(2006/12)
渡辺 和子

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シスターであり、ノートルダム清心学園理事長である著者の本を紹介するのは、「目に見えないけれど大切なもの」に次ぎ、2冊目です。

著者の過去の作品の中から、愛と励ましの言葉を抜粋して、366日分にまとめたのが本書です。いろいろと気づかされるところがありました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・ピカピカ輝くものは、誰でも愛せる。しかしながら、その輝きが失われた時に、なおも愛し続けていけるかということが、私たちの一生の中の苦しみの大部分と言ってもいい

大人であるということ、成熟した人であるということは、その関心の範囲がだんだん広がるということであり、さらに、物的なものだけでなくて、抽象的な価値とか、理想というものに対しても、関心があるということ

・自分の生活を大切にしたいなら、相手を許さないといけない。許すことによって、自分が相手の束縛から解放されるから

・「してもらうのが当たり前」という気持ちは人を醜くする。なぜならば、そこには「感動」がないからであり、不平しか残らないから

・ほほえみを惜しんではいけない。ほほえむことができるということは、一つの恵みであり、心が健康な証拠

・女性が、一日に鏡をのぞきこむ回数ほどに、自分の心をのぞきこみ、内省し、心の手入れを怠らなかったならば、高価な化粧品や装身具も与えられない美しさが、いつしかその人に備わる。その美しさは、年とともに色あせるどころか、むしろ深まっていく

・他人の評価には、たしかに的確なものもあり、それに謙虚に耳を傾けることも重要。しかし、他人の評価がすべてではないことも知らなければならない。他人も不完全な人間だから

・子供たちの心は昔と同じく、愛されること認められること理解されることを求めている。それを与えることができるのは、人間以外の何ものでもない

・人は、話す前は自分の言葉の主人だが、口から出てしまった後は、言葉の奴隷でしかない。そのためにもよく考えて話すことが大切

・コップの大きさ小ささが問題ではなくて、そのコップなりにいっぱいになっている、それが自己実現ということ

・自由の本質は「選ぶ自由」。自由とは、「勝手気ままに振る舞う」ことではなく、「考えてより善い方を選ぶ」こと

本当に謙遜な人とは、持っているものを持っていると言い、持っていないものを持っていないと素直に言うことができる人。それができたら、自由でおおらかでいることができる

・砂漠の中で、泉の水に人々が感じる感動を、私たちは失いがち。しかしながら、人間の幸福というものは、物が多くあるかどうか、その物が高価かどうかというよりも、むしろ私たちの眼差しが、「当たり前を輝いたものと見るかどうか」にかかっている

・一人の人間が人格であるということは、自ら考え、選び、選んだことに責任を持つ存在であるということ。自由の厳しさを経験することなしに、人は人格になり得ない

・自分の姿を見極め、一歩一歩、なるべき自分の姿、つまり理想像に近づけていくことこそ、人間一生の間の課題

・この世の中に、雑用という用はないのであって、私たちが用を雑にした時に、それは生まれる

・自己の可能性を実現するために必要な条件は、「名前で呼ばれること」、つまり、他と比較できない独自の価値、独自の生活をもった一人として愛されていくこと

・人間同士の親しさというものは、開放性の度合いに必ずしもかかっていなくて、一人ひとりの独自性というものを認めて尊敬する度合いにかかっている

・人は人、私は私、「咲かせていただきます」という気持ちで生きることが、美しく咲くことの秘訣


本書には、人格、寛容さ、成熟性とは何か、ということが記されています。それらを身に付けることによって、対人関係、仕事、自己実現などが上手く回っていきます。

自由と充実した人生を手に入れるために、ぜひとも目を通しておきたい書のように感じました。


[ 2013/08/07 07:00 ] 育成の本 | TB(0) | CM(0)

『マインド・コントロール』岡田尊司

マインド・コントロールマインド・コントロール
(2012/12/06)
岡田 尊司

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著者は、精神科医であり、作家です。「社会脳・人生のカギをにぎるもの」に次ぎ、2冊目の紹介となります。

本書は、マインドコントロールを「個人の洗脳」と「集団の洗脳」(消費者・社員・有権者など)という二つの側面に分けて、考察しています。搾取されないためには何が必要かを知ることができます。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・個人レベルのマインドコントロールも、集団レベルのマインドコントロールも、使われ方一つで、人間を操り人形に変える非人道的搾取技術にもなれば、生活や人生のクオリティを高め、可能性の限界を広げる有用な手段にもなり得る。毒にも薬にもなる劇薬

・「トンネル」の仕掛けには、二つの要素がある。「外部の世界からの遮断」と「視野を小さな一点に集中」すること。トンネルの中を潜り抜けている間、外部の刺激を遮断されると同時に、出口という一点に向かって進んでいるうちに、いつのまにか視野狭窄に陥る

・小さな集団で暮らし、一つの考えだけを絶えず注ぎ込まれると、その考えは、その人自身の考えとなる。また、その小集団や仲間への愛着ゆえに、それを覆したり、期待と異なる行動ができなくなる。そこから逃げれば、仲間を裏切り、自分の存在を卑しめてしまう

・純粋な理想主義者が抱えやすい一つの危うさは、潔癖になり過ぎて、全か無かの二分法的思考に陥ること。自分たちと信条を同じくしない者は、すべて敵であり、悪だと見なされていく。離れていく者は、裏切り者であり、許せない存在となってしまう

・相手が騙されたと気づかずに相手を騙すことができれば、騙す側は、むしろ「味方」や「善意の第三者」に収まることができる。騙された人は、むしろ良いことを教えてくれたとか、助けてもらったとか、目を開かされたと感じ、感謝や尊敬を捧げる

・社会的動物は、群れで暮らすために、愛情や信頼関係を結ぶという特性を進化させてきた。ところが同時に、人類は高い知能を持ったがゆえに、信じる特性を悪用することを覚えた。親しみや愛情を利用して、信用させ、思い通りにコントロールする技を生み出した

・独裁者やカルトの狂信的指導者から、独善的な上司や配偶者、親、いじめに走る子供まで、本質的な共通項は、「1.閉鎖的集団の中で、優位な立場にいること」「2.弱者に対する思いやりや倫理観が欠如していること」「3.支配することが快楽になっていること」

被暗示性の高い人の特徴は、「1.人の言葉を真に受けやすい」「2.信心深く、迷信や超常現象を信じる」「3.大げさな話をしたり、虚言の傾向がある」

・幼いころ、安心できない環境で育った人は、不安が強い性格になりやすいだけでなく、人の顔色を気にする傾向や他人に依存する傾向が強まり、人から支配されやすくなる

・「私はできる」とか「それ(症状)が消える」といった言葉を唱えさせた「クーエの暗示療法」は非常に効果があったので、評判になった。それは、大人より子供に、都会人より田舎で暮らす人に、より顕著な効果を生んだ

・催眠中に与えた指示は、催眠後の覚醒状態でも、行動をコントロールし、その効果は長時間持続した。また、道徳的、信条的に望まない行為でも、巧みに操ることができた

・依存性パーソナリティの人は、むしろ強引な人押しの強い人を好む。命令や押し付けに逆らえず、相手の言いなりになりやすいだけでなく、そういう人に敬意を抱きさえする

・会社組織でも、独裁国家やカルトに通じる異様な状況が起こり得る。長時間のサービス残業が常態化した会社では、社員は、慢性的疲労を抱えるだけでなく、主体的な判断力や独創的な発想を持てなくなっていき、ノーと言えず、結局、使い潰されていく

・勉強のやらせすぎは、主体的な意欲がない子供を育てる。子供が「疲れている」状態は、絶対に避けること。余力を残しておくことが、子供を病まさず、可能性を伸ばしていく

・強力な暗示効果が奇跡を引き起こすことがある。優れた臨床家や教育者ほど、この原理を上手く使いこなす。「希望を約束する」ことで、実際にそれを現実にしてしまう

・人は心地よい体験をすると、それをもう一度求めるようになる。心地よい体験を与えてくれた者たちや場所に対して、愛着や親しみを覚え、それを肯定的に考えるようになる。自分をこんなに愛してくれる存在が、悪いはずがないと、理性より本能がそう思う

・カルト宗教は、大きく二つに分かれる。一つは、家族や愛といった絆を重視したもの。もう一つは、修行や祈祷により超常的パワーを手に入れるといった自己鍛錬に重きを置いたもの。前者は、大衆的、庶民的な宗教であり、後者は、エリート的な志向がみられる



日本の会社には、雇用者のような被雇用者が大勢います。すなわち、給料も安く、休みが少ないのに、懸命に働く人たちです。日本のホワイトカラーと呼ばれる人の多くは、これに属します。企業側のマインドコントロールのかけ方が上手ということかもしれません。

最近、マインドコントロールはいろんなところで使われています。マインドコントロールに引っかからず、搾取されない方法を身につけることが、人生にとって欠かせない技ではないでしょうか。


[ 2013/07/31 07:00 ] 育成の本 | TB(0) | CM(0)

『未来を予見する「5つの法則」』田坂広志

未来を予見する「5つの法則」未来を予見する「5つの法則」
(2008/09/19)
田坂 広志

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希望、夢、期待を与えるのは、リーダーの務めです。でも、それらを与えるだけで、外してばかりいたら、人は付いてきません。

そのためには、リーダーは、精度の高い未来の予見をする必要があります。その予測精度を高める方法が、本書に示されています。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・「世の中は、この方向に向かう」「社会に、このトレンドが生まれる」。そういった「方向的な予見」「大局的な予見」はできる。すなわち、未来に起こる「細かな動き」は分からない。しかし、未来に向かっての「大きな流れ」は分かる

・「大局観」を身につけるためには、世界発展の法則(世界がいかに変化し、発展し、進化していくか)を学ぶこと。世界とは、自然、社会、人間を含むすべての物事のこと

・「弁証法」が、世界の変化、発展、進化の法則を教えてくれる。「弁証法」は哲学者ヘーゲルだけのものではない。ソクラテスの「対話」、サルトルの「実存主義思想」、般若心経の「色即是空」、道教の「陰陽」、禅の「矛盾との対峙」も、弁証法の哲学を内包している

・弁証法の世界発展「五つの法則」とは、
1.「螺旋的プロセス」による発展の法則(螺旋階段を登るように発展する)
2.「否定の否定」による発展の法則(現在の動きは、必ず将来反転する)
3.「量から質への転化」による発展の法則(量が一定水準を超えると質が劇的に変化する)
4.「対立物の相互浸透」による発展の法則(対立、競っているもの同士は互いに似てくる)
5.「矛盾の止揚」による発展の法則(矛盾は世界発展の原動力になる)

・「進歩」や「進化」とは、単に、新たなものが生まれてくるプロセスではない。また、単に、古いものが捨てられていくプロセスでもない。それは、古いものが、新たな価値を伴って、復活してくるプロセス

・「集団」「一律」「他律」を特徴とする教育形式は、決して長い歴史ではない。「個別」「自由」「自律」を特徴とする教育形式こそが、歴史的に見れば、長い期間、主流だった。だから、古い教育システムが「新たな価値」を伴って、復活してくる

・ただ、「懐かしいもの」が復活するのではない。「便利になった、懐かしいもの」が復活する。その具体的な現れは、かつてよりも、「合理的」になり、「効率的」になり、「使いやすく」なり、「新たな機能」が付加され、「便利になっている」

・「進化」においては、「古いもの」が消えていかず、「新しいもの」と共存し、共生していく。進化のプロセスを、「個々の生物種の進化」という視点ではなく、「生態系全体の進化」という大きな視点で見ること

・「進化」の本質とは、「多様化」のこと。世界が「多様性」を増していくこと。「古いもの」と「新しいもの」が、共存、共生、棲み分けることは、「世界の多様性」を高めていく

・社会観察において、何が「懐かしい」のか、何が「便利になった」のかを考えるとき、世の中の変化の「本質」が見え、世の中の変化の「未来」が見えてくる

・すべての物事には、その内部に矛盾が含まれているが、その矛盾こそが、物事の発展の原動力。そして、この矛盾を機械的に解消するのではなく、弁証法的に止揚したとき、物事は発展を遂げる

・互いに対立し、矛盾する二つのものの間で、一方を否定してはいけない場合、二つの極を往復する「振り子」を振り、バランスを取ること。これが「矛盾のマネジメント

・「器の大きな人物」とは、心の中に、壮大な矛盾を把持し、その矛盾と対峙し、格闘し続けることのできる人物

・「割り切り」とは、魂の弱さである。我々は、さまざまな矛盾を前に、悩み、迷うとき、しばしば、「割り切り」という行為に流される

・「討論」とは、異なった意見の持ち主が議論を戦わせ、互いに自己の主張が正しいことを論証する営み。「議論」とは、異なった意見の持ち主が集まり、互いの意見を語り合うことによって、多様な意見を学び合う営み

・弁証法とは、「」「」「」のプロセスで、思考を深める技法。分かりやすく言えば、一人が語る意見(正)に対し、もう一人が、反対の意見(反)を語り、互いの意見に基づく対話を通じて、意見を包含、統合、止揚し、理解(合)に達するという技法


予測、予知、予見の方法の基礎を学んでいれば、どんな時にでも、応用を効かせることができます。

予測、予知、予見しなければいけない立場にいる人にとって、本書に記載されている内容は、是非身につけたい素養になるのではないでしょうか。


[ 2013/06/05 07:00 ] 育成の本 | TB(0) | CM(0)