10年以上前に、刑務所の作業製品取扱業者の案内で、刑務所(男子)を見学したことがあります。そのとき見た受刑者の顔は、その3分の2近くが、普通のどこにでもいる人だったのを憶えています。
女子刑務所はどう違うのか?興味があったので、本書を読み、女性ならではの犯罪事情と受刑状況を知ることができました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。
・日本には77の刑事施設がある。そのうち女子受刑者を収容する刑事施設は9ヵ所。2011年末時点で、62080名の受刑者が服役しているが、うち
女子受刑者は4718名
・女性の場合は男性に比べて凶悪な犯罪は少なく、罪名のトップ2が「
覚せい剤取締法違反」と「
窃盗」。第3位には、件数は少ないが、殺人が登場してくる施設もある
・
女子刑務所の1日は、<6:30起床・点検><7:10朝食><7:40作業><10:00運動><12:10昼食><12:40教育><16:30還室><17:10夕食><17:40余暇><21:00就寝・消灯>
・女子施設は「
半開放処遇」と呼ばれる収容方法が採られており、ある程度、移動の自由が認められている。1部屋に6~8人の受刑者が集団で生活しているが、各部屋には施錠されず、寮の入口にだけ鍵がかかっている。トイレや洗面所など、必要に応じて移動できる
・男子刑務所は、刑罰の種類(「初犯」「累犯」「長期」「無期」「交通刑事犯」「少年」)ごとの収容施設。だが女子は、施設が少ないので、刑罰の重さや性質に関係なく、すべての受刑者を
同じ刑務所に収容。無期受刑者と刑期1年の受刑者が同じ部屋で暮らすこともある
・男子に比べて女子は
初犯受刑者が多く、約70%を占める。収容者で最も多い「覚せい剤取締法違反」による受刑者は、実は、それ以前に逮捕歴があり、執行猶予中だった場合がほとんど
・
刑務作業は大きく4つに分けられる。「生産作業」(工場での洋裁、部品の組み立て)、「社会貢献作業」、施設の運営に必要な「自営作業」(炊事、洗濯、清掃、経理など)。そして、資格や免許の取得を目標にする「職業訓練」(美容、ホームヘルパー、ビル施設管理など)
・薬物を続けるにはお金がかかるが、密売人は
最初はお金をとらない。しかし、中毒(快感が忘れられず、薬物を使用してのセックスに溺れていく)になれば、彼らの金づるになる。これがよくあるパターン
・高齢化が一気に加速する日本社会で、65歳以上の高齢者の割合は、総人口の4分の1に迫っている。刑務所もまた例外ではない。
高齢者の検挙者数は他の年齢層より著しく増大。20年前の約7倍になっている
・女子高齢者の犯罪で最も多いのが窃盗で、その割合は92%。なかでも万引きが81%と際立つ。
常習累犯窃盗罪(10年間に3回以上罪を犯し、6ヵ月以上の懲役刑)の受刑者は、身寄りも、帰る場所もなく孤立し、日々の生活の困窮から犯罪を繰り返す
・高齢化と同様に、どの女子刑務所でも大きな問題になっているのは、
精神に疾患を持つ受刑者や摂食障害の受刑者の存在。周囲に迷惑がかかるので、
単独室に収容されている場合が多い
・行き場のない孤独な老人や障害者が止むなく犯罪を繰り返し、そうした人々にとって、刑務所は「
最後の福祉」。介護施設化した刑務所が映すのは、この国の歪みそのもの
・全国52ヵ所にある少年院の種別は、初等(16歳未満)、中等(16歳以上)、特別(犯罪傾向が進んだ者)、医療少年院の4つに分けられ、さらに非行の深度に応じて、一般短期処遇と特修短期処遇(4か月~6ヵ月以内)、および長期処遇(12ヵ月以内)に区分される
・東北少年院は唯一、専門的な職業訓練を実施することで知られている。
職業訓練は、「電気工事科」「建築科」「配管科」「溶接科」「自動車整備科」の5種目ある
・東北少年院は、
国家資格を取得するだけの理解力が必要なこともあり、IQ(知能指数)の高い子が多い。だが、たとえIQが120あっても、入所したときは、小学3、4年生の学力レベルしかない少年が多いため、まず国語と算数を毎日勉強する
・保護観察対象者は、「刑務所からの仮釈放者」「少年院からの仮退院者、保護観察処分の少年」「刑の執行猶予者」「婦人補導院からの仮退院者」。
保護司(全国で48000人、平均年齢64歳、女性が26%)は保護観察官と協力して、更生環境を整え、社会復帰を円滑にする
最近の刑務所は、食事や居住環境もよくなり、職業訓練も充実しているようですが、女性の場合、受刑者数が少ないせいか、待遇面でまだまだ不備があるようです。
刑務所は更生施設なのですが、待遇面がよすぎると、福祉施設になってしまいます。この問題をどう考えるかが、特に女性の高齢者の場合、大きな課題なのかもしれません。