著者の二人は、元経済産業省官僚と元自民党幹事長秘書なので、官僚の使う手口を熟知しています。冒頭に、「官僚の説明」と「悪徳業者のトーク」が似ていると書かれていますが、「悪徳商法」も「官僚の政治家懐柔策」も基本は同じです。要するに、高度な説得術です。
この高度な説得術に騙されないための対策が、本書を読むと、非常に参考になります。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。
・「
5時間トーク」は、最初の2時間は世間話にあて、相手の信頼を得ることから始める。そのためには、相手が関心を持ちそうなことを調べないといけない。説得術は、相手から全幅の信頼が必要
・政策勉強の好きな若手政治家に対して、官僚が勉強会をつくってあげるのは、スマートに相手の役に立つ
信頼獲得方法であり、接待よりも有効。しかも、政策分野の経験の浅い議員を、役所流の物の考え方に染めてしまい、「
半役人」的な政治家にさせてしまえる
・未来とはリスクそのもの。この人ならば未来において、良い結果を出し、悪いことはせず、成功確率がかなり高いだろう、と思うことが信頼。また、
信頼というのは、リスクをとることだから、万一、信頼した人が期待通りの結果を出せなくても、受け入れること
・アメリカには、政治家に対するロビイングを生業とする
ロビイストが大勢いる。議員への小さなサービス(関連記事のスクラップや情報をメモにして届ける)から積み上げていく。そうして関係を構築していけば、よからぬことを企んでいても
勘ぐられることはない・専門家の権威を利用するというのは、多くの分野で用いられる説得術の手法。専門家にとっても、
審議会のメンバーになることで、「その分野の権威」と国に認められたというステイタスと、政府の最新の情報をもらえて、研究や論文作成に役立つ
・審議会運営の鉄則は二つ。「1.
人選を間違わない」。消費者代表、市民代表など、官僚の考える路線とは違う立場の人も入れて、多様な人たちで議論したという形をつくる。「2.
事務局を握っておく」。間違っても、審議会を委員たち自身で運営しようと考えさせない
・中国は、「三つの原則」のようなものを掲げて、交渉相手にしばりをかけ、原則に一切妥協しないように見えるが、
原則には例外がつきもの。公式見解(建前の議論)とは別の本音の議論がある。だが、問題なのは、本音の議論は、信頼関係のある人としかしないこと
・官僚は、閣議に上がる重要な案件を、前日の夜ギリギリになって、議員に持っていき、「じっくり考えてみたい」「関係者からも話を聞きたい」という状況にさせず、「即断即決」を求める。
考える余裕を与えないことで、目の前の選択肢以外の可能性を考える時間を奪う
・官僚の「いつだったら、スケジュールが空いているか?」の問い合わせは、「空いている時間」を聞いているわけではない。前後の予定が詰まって「
ほとんど空いていない時間」を聞き出すことが真の目的
・「ほかのことに気をとられているときを狙う」戦術がある。
やっかいな話は、政局の真っ最中や選挙期間中に進めてしまう。普通なら政治家の中で賛否両論あって争点になりかねないような話を、争点化させず、
こっそり処理する・政治家は期間限定でいなくなる人。役所組織は永続する。「
三年後に決める」と先送りしてしまえば、三年経った頃に、異論を唱えていた政治家は消えていなくなるか、その件に関心がなくなる。持久戦に持ち込めば、官僚の勝ち
・内部からの変革ができない日本の弱さは、異分子が身内にいない心地よさの代償。異分子がいない仲間同士は心地よいが、変化に対応できない。そうしたときに「
ガイアツ」をかけてくれる部隊が重要な意味を持つ。官僚は「ガイアツ」を利用する
・「相手を一人にさせる」。そして、「説明は複数人で取り囲む」ことで説得する。
相手を分断させる工作において、謀略情報の事実確認もせず、証拠確認もせずに信じ込むほうも悪い。
根も葉もない噂の類で、情報が操作されて、事実がつくられていく
・説得の場面での「脅し」とは、嫌な「損失」を突きつけて、これを
回避する方向に誘導しようという技法。「訴訟になる可能性がありますよ」「この内容なら間に合いませんよ」といった手法を官僚はよく使う
・
ハーバード流交渉術は、「1.人と問題を分離」「2.立場でなく利害に焦点」「3.お互いに利益あるものを選択」「4.客観的基準の主張」。
官僚的説得術は「1.人と問題を分離させない」「2.立場にも焦点」「3.選択肢を絞って選択させる」「4.参照基準を作成」
本書を読むと、日本という国は、官僚専制国家であることがよくわかります。庶民の声を政治家に託しても、その声は2割くらいしか届かないようになっています。だから、20%民主主義です。したがって、批判の矛先は、官僚に向けなければいけません。
しかし、官僚の手先にされてしまったマスコミに、その役は務まりません。したがって、われわれ自身によって、官僚の「悪徳商法」の手口を暴きださなければ、民主主義は深まっていきません。そのための知的武装をするのに役に立つ書ではないでしょうか。