とは学

「・・・とは」の哲学

『働くアリに幸せを・存続と滅びの組織論』長谷川英祐

働くアリに幸せを 存続と滅びの組織論働くアリに幸せを 存続と滅びの組織論
(2013/09/19)
長谷川 英祐

商品詳細を見る

著者の本を紹介するのは、「働かないアリに意義がある」「縮む世界でどう生き延びるか」に次ぎ、3冊目です。著者は進化生物学の准教授です。生物と人間を比較しながら、経済や組織などを論じるのを得意とされています。

本書のテーマは、組織と家族と個人が、みんなハッピーな関係は可能か?また、その関係はずっと続くのか?ということです。興味深いところが多々あり、その一部をまとめてみました。



・人間でも、動物でも、社会は「力が弱い者たちの協力」によってできている。社会形成はセカンドベスト。一人で生きていけるなら一人でやる方がよい

・集団を維持していくためには必ずコストが存在する。「力を合わせる」というのは、社会に参加するものはすべて「コストを払わなければならない」ということを意味する

・個体が協力のためにコストを払い、みんなが得になる社会を築いていると、そこに「ただ乗り」しようとする裏切り者は必ず現れる

・「裏切り者」は社会の中では「協力者」より有利なので、入ってくることを止められない。裏切り者は「我ら」であると思わせる嘘をつく。裏切り者だらけになると社会は崩壊するので、嘘を見抜き、罰する行動が進化する

人は、「個人―地域集団―国家」へとつながる階層と、「個人―企業―経済社会」へとつながる階層の、二つの系列に同時に属している

・個体と組織がどのような関係になっているかということが、滅私奉公が個体にとって有益になるか徒労になるかを決めている。人間の企業では、組織の個体に対する依存性が低いため、個体の利益確保が簡単ではない

・人の組織の力学は主に金勘定で決まっている。しかし、モチベーション低下による組織効率の低下を考えると、組織の利益のために個人の利益を減らすのは、細心の注意が必要。日本企業の多くは、金勘定には敏感だが、人の組織は人で成り立っていることに鈍感

・社会は個人から構成され、社会の利益を上げるためには、個人の利益(幸せ)を増大させるような駆動力を与える必要がある

・多くの子供を担当、管理しなければならない教室で、空飛な発想で行動する子供は厄介

・「短期的な効率性(平均値の上昇)」と「長期的存続(独創性)」の間には、トレード・オフがある

・グローバル企業と国家の間には利害対立があり、そこでの綱引きは現在、ほぼ一方的に国家の力を弱めるように働く

・年長者は若者に覇気がないと嘆くが、「草食化」は、生活の豊かさの帰結ではなく、そのように振る舞うことが、今までと同じように仕事を頑張るよりも、総体としての幸せを最大化できるという選択圧によって進化した考え方

・「働けるけれど今は働かないでいるアリ」と「働くつもりがないアリ」は同じものではない。「まったく働くつもりがないアリ」は「裏切り者」

・生き物でも企業でも、本質的に重要なのは滅びないことであり、短期的にどれだけ儲かるかではない

長期的存続を犠牲にしても「短期的効率を追求することが正義」という状況がある限り、そこへ向かって突っ走る。企業が、株式公開により資金を得るなど、企業が株式市場に頼るシステムになっている限り、短期的効率ばかり優先されるのを止めることはできない

・企業では、山が出現することを「商機」と呼んでおり、いかにして利益の山に登るかを皆が競う。しかし、一方で、様々な分野に手を出す多角経営というやり方をしている

・経済はいつも成長することを求めているが、成長を急ぎすぎると、その後に待っているのはクラッシュ。「うまくやろうとすると破滅へ向かう

・生物は基本的にムダなことはしない。彼らの行動は将来へ伝える遺伝子量を最大化するように調節されており、それ以外の余計なことをしないようになっている。それに較べ、人間はムダなことばかりしている。自然科学も人文科学も芸術もすべて道楽



成長することよりも、生き残ること。これが目的のはずなのに、ついつい成長することにうつつを抜かし、気がついたら、成長の度が過ぎて、破滅してしまうことは、世の中には多いものです。

持続すること、生き残ることの大切さと組織と個人の利益バランスを再確認できる書ではないでしょうか。


[ 2014/06/20 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『身近な虫たちの華麗な生きかた』稲垣英洋

身近な虫たちの華麗な生きかた (ちくま文庫)身近な虫たちの華麗な生きかた (ちくま文庫)
(2013/03/06)
稲垣 栄洋、小堀 文彦 他

商品詳細を見る

著者の本を紹介するのは、「植物の不思議な生き方」以来です。著者は、雑草生態学が専門の研究者です。驚くのは、文章が非常に上手なことです。一つ一つの植物や虫たちの物語に引き込まれていきます。

簡潔にまとめる能力は、ノンフィクション作家以上の力量です。本書の中にも引き込まれていくところが多数ありました。それらをまとめてみました。



・ミツバチは、花から蜜を集める外勤は、1日5時間の労働時間。巣の中の仕事や幼虫の子守りをする内勤は、6~8時間の交替勤務。経験を経るごとに内勤から外勤の仕事へ。働き蜂はすべてメスだから、花から花へ飛び回るミツバチは、すべておばあさん蜂

・天才アインシュタインは「もしミツバチが地球上からいなくなると、人間は4年以上生きられない」と予言した。ミツバチによって、花粉が運ばれ、花は実を結び種子を残すことができる。ミツバチがいなくなると、植物が絶えてなくなる

・花は、筒のような構造で、奥に蜜を隠しているものが多いが、これは、花にもぐりこめる花蜂だけに蜜を与えるための工夫

・蝶のひらひらと舞う飛び方は、天敵の鳥の攻撃から身を守るための逃避行動

・アゲハチョウの幼虫には大きな目玉模様ができる。田畑などの鳥よけに、鳥が嫌がる大きな目玉模様の風船を用いるが、幼虫も目玉模様で鳥の攻撃を避けている。また、二つの目玉模様によって、鳥の天敵であるヘビの顔にも似せている

・ジャコウアゲハの毒の使い方は実に巧み。毒が強すぎて相手を殺してしまっては、ジャコウアゲハの毒を知らない鳥ばかりになる。毒の恐ろしさを学ばせるには、相手にひどい目にあわせる程度の毒の強さがちょうどよい

・「2,4,6,7,8,10,11,12,13,14,15,16,19,28」の数列は実はテントウムシの星の数。テントウムシは、脚の付け根から臭い汁を出して身を守る。この臭い汁のおかげで、天敵の鳥もテントウムシを嫌う。目立つ色と覚えやすい数の模様は、鳥たちを襲わなくさせるため

・ハエは1秒間に200回も羽ばたく。そのため高い周波数のうるさい羽音を立てる

3億年以上も前の古生代から姿が変化していない昆虫には、ゴキブリ、シロアリ、シミがいる。昆虫界の「生きた化石」は、どれも害虫だが、人間に嫌われ、駆除されながらも、図太く生き抜いている

・大きな鋭いあごを持つサムライアリは、クロヤマアリの巣を襲って、繭を奪い、繭から生まれたアリを奴隷として働かせ、餌を集めさせる。即戦力の働きアリを連れ帰っても、すぐに逃げられ、抵抗もされるので、無抵抗な繭を持ち帰り、奴隷とする

・サムライアリはクロヤマアリの巣を襲っても、決して全滅させることはない。そうしておけば、同じ巣を何度も襲って、奴隷を手に入れることができるから

・砂が崩れないギリギリの角度を安息角という。アリジゴクのすり鉢状の巣は、砂が崩れない安息角に保たれている。そのため、小さなアリが足を踏み入れただけで、砂が崩れ落ちる。アリジゴクは偉大な土木設計士

・カブトムシの寿命は一年。幼虫の期間に餌を豊富に食べた幼虫のほうが角が大きくなる。逆に、幼虫期間が何年もあるクワガタムシは、じっくり育てたほうが、あごが大きくなる

・鳥も翼竜もいなかった古生代に、昆虫はすでに制空権を獲得して、空を飛び回っていた

・不要のCDを吊り下げて、鳥よけいるにしている光景をよく見るが、これは、鳥がキラキラした金属色におびえる性質があるため。CDの裏面がキラキラと虹色に輝くのと、タマムシの羽は同じしくみ。タマムシもキラキラと輝く羽で、鳥から身を守っている

・昆虫は変温動物なので、赤とんぼは気温が低いと飛べなくなってしまう。そのため、秋になって気温が低くなると、時々竿の先に止まり、太陽の光を浴びて、体温を上げている

・最近では、巣が見つかると、すぐに駆除業者を呼ばれる、嫌われ者のスズメバチだが、夏の間は、田んぼや畑でせっせと害虫を捕えている。昔の人は、スズメバチを恐れながらも、田畑を守ってくれることを知っていた

・古生代の海で繁栄した三葉虫の末裔がダンゴムシ。ダンゴムシは、コンクリートブロックのすき間でよく見かけるが、あろうことか、コンクリートを食べている。固い装甲は炭酸カルシウムでできている。同じく、カタツムリも巻貝の仲間なので、ブロック塀が好き



ふだん何気なく見ている昆虫も、鳥に食べられないように、姿形や色で天敵を欺き、逃げて、鳥を近づけないように、毒を宿して必死に生きています。

本書を読んでいる途中、♪「オケラだって、アメンボだって、みんなみんな生きているんだ」♪、と思わず歌いそうになりました。


[ 2014/05/07 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『季節、気候、気象を味方にする生き方』石川勝敏

季節、気候、気象を味方にする生き方季節、気候、気象を味方にする生き方
(2013/06/17)
石川 勝敏

商品詳細を見る

本書には、気候、気象が、人体に及ぼす影響、社会に及ぼす影響が記されています。

気温、湿度、風速などが微妙に変化すれば、何が変わってくるのかを興味深く読むことができます。その一部をまとめてみました。


・「気温が26℃に上がった日は、アイスクリームの売上が前日の3割伸びる」「気温が上がったらしょっぱい食べ物が売れる」「秋口になったら甘みのある弁当がいい」といったように、気象と個人の消費行動との関係性についての調査を重ねてきた

脳出血は以下のような気象条件の日が危険「平均気温0℃前後、日較差8~10℃」「寒い日に増加、雨の日に減少」

脳梗塞は以下のような気象条件の日が危険「朝は寒く、午後に急に気温が上昇する日、しかも高温多湿時」「暖かい日に増加」

心筋梗塞の患者は、夏に少なく、冬と春に多く発症する。冬は暖房のため、室温と外気温の差が心臓に大きな負担をかける。春は日々の気温の差が激しいから

・血管は寒くなれば収縮し、熱を閉じ込め、暖かくなれば、拡張して熱を放散するよう、自律神経がコントロールしているが、その働きが毎日コロコロ変わると、血管に大きなストレスがかかり、それが限度を超えると、心筋梗塞を引き起こす

腰痛、リウマチ、座骨神経痛、関節痛の人は、前線や低気圧の接近とともに、痛みを覚える。その主要因が、気圧の低下。気圧が低下すると、体内の炎症物質ヒスタミンが発生し、これが痛みの原因

痴漢行為の警視庁データでは、気温28度以上、湿度80%以上、風速2m以下、時刻は夕方から夜にかけて多く発生している。このような気象条件が、男性ホルモンに影響を及ぼし、子孫を残したい機能が活発に働きだしているのではないかと推察できる

・「日平均気温」による季節は、「早春」5℃になる日「春」10℃になる日「晩春」15℃になる日「初夏」20℃になる日「盛夏」25℃になる日「初秋」25℃以下になる日「秋」20℃以下になる日「晩秋」15℃以下になる日「初冬」10℃以下になる日「真冬」5℃以下になる日

食物の嗜好が変わる8シーズン時期は、「1月初~2月中」「2月下~3月末」「4月上~梅雨入り」「梅雨入り~梅雨明け」「梅雨明け~8月中」「8月下~9月末」「10月初~11月末」「12月初~12月末」

・28.5℃の気温から1時間かけて21℃まで下げた場合、男女とも35℃あった皮膚温は男性の34℃に比べ、女性は28℃まで急激に低下する

女性が快適に感じる室温は、男性より2~3℃高い。夏場は女性のほうが薄着になるので、差はさらに広がる

・夏に増えた家ダニが気温の低下とともに死んで、その死骸が家の中を舞うようになることも、秋に喘息が増える原因

・室温28度の部屋から気温10℃の屋外に出た場合の血圧上昇は、若い人は10mmHgだが、高齢者は30mmHgに達する

・「晴れのち雨」の日は、客数が減るが、「雨のち晴れ」の日は、客数はほとんど変わらない。天候が雨から晴れに変わると、人は気分が晴々して外出したくなる。開放的になり、行動力も積極性を帯びて、購買意欲も高くなる

・「いい季節になったなあ」と感じる日の気象条件を数字で表せば、「平均気温18℃(最高気温21~22℃、最低気温14~15℃)」「湿度40~70%」「風速毎秒0.5m(無風より微風がいい)」

・気温が高くなる昇温期には、人は「暑い」と感じて、すぐに血糖値が上がるような甘みが強い食べ物を敬遠し、柑橘系のクエン酸を含むものを好んで口にする

・寒くなると食べたくなる「おでん」がコンビニで売りに出されるのは8月下旬。降温期に差しかかりはじめる時期

・夏の疲労を回復し、寒い冬に備える秋には、ごぼう、大根、人参、レンコン、じゃがいも、さといもなどの根菜類がいっせいに旬を迎える。根菜類には身体を暖める効果がある



医療関係者や流通業者は、気候、気象と人々の行動との密接な関係を解き明かしつつあります。

さらに、この研究は、さまざまなサービス業者や製造業者に、応用できる部分がいっぱいあります。この分野の研究は、今後とも注目しておく必要があるのかもしれません。


[ 2014/04/11 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『居場所としての住まい』小林秀樹

居場所としての住まい: ナワバリ学が解き明かす家族と住まいの深層居場所としての住まい: ナワバリ学が解き明かす家族と住まいの深層
(2013/07/31)
小林 秀樹

商品詳細を見る

本書の面白いところは、人間の集団には、「順位制」と「ナワバリ制」があり、これが部屋や間取りに大きく影響を与えている、という意見です。

著者は、住環境計画が専門の大学教授。時代や地域によって、部屋や間取りが大きく違ってくるとの見解です。家族と住まいに関する記述で、興味深かったところをまとめてみました。



・「ナワバリ学」とは、人々が空間をどのように領有しているかを解き明かす学問。住まいにおいては、家族の一人ひとりが、どのように自分の居場所を確保しているかを解き明かす。これを通して、家族の深層心理がみえてくる

・ナワバリとは、そこを自分の場所だと思いコントロール(支配)する空間。このような空間は、食事テーブルの席や個室という身近な範囲でも見られるし、お花見の席取りから国の領土争いといった広い範囲でも見られる

個室がない昔の住居は「順位制」、現代の個室がある住居は「ナワバリ制」に対応している。昔の住居は、家長を頂点として、家族一人ひとりの順位が明確であり、風呂に入る順番、食事をとる順番など決まっていた

・「順位制」の集団では、いちいち言葉を交わさなくても相手の様子を感じ取り、上下関係に基づくルールに従って、自然に行動することを大切にする。現代風の言葉で言えば、「空気を読む」こと

・個室のある「ナワバリ制」に求められる行動様式とは、自分の意思をしっかりと表明するとともに、相手と意見交換して合意することを重視する。というのは、「ナワバリ制」は、互いの接触を避ける仕組みだから

・犬のオシッコは、臭いによる信号の代表。臭いのある場所に侵入すれば攻撃するぞというメッセージ。人々も領域展示物(門、塀、表札、ポスターなど)をうまく利用して、ナワバリを防衛または開放する

・人間の場合、儀式ではなく「作法」によって、ナワバリ防衛の攻撃衝動を抑え、温かく受け入れる。ドアをノックするのも、他人のナワバリに侵入する際の作法。上座と下座は、互いの順位を確認し、無用な争いを避ける作法

・ナワバリには、個人のナワバリだけでなく、集団のナワバリがある、家は、家族のナワバリ。村は、村落共同体のナワバリ。会社や学校、国や都市も、集団のナワバリの例

・パーソナライゼーションとは、人間による空間の「臭いづけ」。部屋に、お気に入りのカーテンや家具をしつらえ、住宅まわりに、植木鉢を置いたりする行為

・母主導型が、近年増加している。昔の家父長中心の家族の住まいが、そのまま母親中心に代わったイメージが強い。現代の都市住宅では、父親のナワバリが希薄になってきている

日本の家族は、封建家族(父主導型)、温情家族(母主導型)、友愛家族(母子が友達のように振る舞う家族)の三つが混ざり合っている

・住宅市場では、子供がいない夫婦でも、資金に余裕があれば3LDKを購入しようとする。そのほうが、中古になっても売りやすいから。このように、住まいは3LDKの定型に収斂していく。その結果、個人の生活の実態とは必ずしも一致していない

・マンションの標準的な間取りにある中廊下は、昭和初期に登場した。各部屋の独立性を高め、家族のプライバシーを守る先進的な住まいであり、知識人や建築家は、封建家族からの転換という社会規範をそこに重ね、好ましい存在として推奨した

・ここ十年ほどで、「居間中心型」と呼ぶ間取りが急速に増えている。これは中廊下形式からの転換をはかるもの。親が、家族の触れ合いを求めて、意図的にこの間取りを選択している

・居間中心型は、個室群でも個室のない住まいでもなく、中廊下を見直した「家族が自然に出会う間取り」。しかも、個室を否定しているわけではない。それを肯定した上で、家族の触れ合いを求めた間取り

これからの住まいの条件は、「夫婦寝室は最低8畳」「子供部屋は間仕切りタイプ」「部屋の配置は居間中心型(玄関から居間に入って個室に)」「食事室(LD)とつながる余裕室の確保」」「裏のバルコニー(ゴミの一時置き場)」



家の間取りは、家族の形態や性質によっても異なってきます。そこを考えた理想的な空間であれば、狭くても問題ないのかもしれません。

住宅を買う前に、立地、環境、広さ、設備だけでなく、間取りについても学んでおくことが、将来的な満足感を高めてくれるように思いました。



[ 2014/04/04 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『川と国土の危機-水害と社会』高橋裕

川と国土の危機――水害と社会 (岩波新書)川と国土の危機――水害と社会 (岩波新書)
(2012/09/21)
高橋 裕

商品詳細を見る

著者は、河川工学が専門の東大名誉教授です。日本は、歴史的にも、水害(洪水、土石流、地滑り、津波、高潮など)に悩まされてきた国だから、水源地の森林から河口の海岸まで、川の流域全体の統一した保全思想と防災構想の必要性を提唱されています。

しかし、主に高度成長期、何の思想も構想もなく、付け焼刃的に防水治水工事を行ってきたツケが、現在の危機的状況に至っていると警鐘を鳴らされています。その一部を要約して、紹介させていただきます。



・東京は、先進国の中で、最も災害危険性が高い首都。ミュンヘン再保険会社の自然災害リスク評価では、東京・横浜のリスク指標は710と抜群に高い。以下、サンフランシスコ167、ロサンゼルス100、大阪・神戸・京都92、ニューヨーク42。他の大都市は40以下

・東京は江戸時代以降、震度6の地震を6回経験している。安政大地震(直下が震源)と関東大地震(遠方が震源の巨大地震)の異なるタイプの地震で100年足らずの間隔で大被害を受けた大都市は、世界中で東京しかない

・東京の水害多発は諸外国の首都に例を見ない。江戸の三大洪水(1742、86年、1846年)。そして1910、47年の利根川、荒川の大氾濫。1917、49年の台風による高潮災害。1958年の狩野川台風による山手水害以後、東部下町だけでなく、西部でも水害が頻発している

・江戸時代は住所を高所に設置し、洪水を自由に氾濫させ、低平地は冠水に強い農産物を育てる対応だった。明治期、都市化・工業化の政策大転換によって、都市域や工業用地への氾濫を完全に防ぐことが要求された。この大治水事業が完成したのは、昭和5年のこと

・主要河川において、大洪水時の最大流量が過去最大記録を更新している。その構造的理由は、明治以来の連続大堤防方式の治水方策にある。すなわち、流域内に降った雨をしばらく留めようとせずに、多くの支流から本川の河道へと速やかに集中させようとしたから

水田が宅地化されると、洪水調整機能が失われるのみならず、降水は地下へ浸透せず、一目散に都市内河川か、整備された下水道へ殺到する。そのため、都市内河川は、従来の河道では間に合わなくなり、氾濫しやすくなった

・1990年以降普及した「多自然」河川工法の狙いは、ドイツ・スイスなどヨーロッパ各国で普及した「近自然」河川工法とほぼ同様。自然生態系を考慮し、強度で少々劣るが、堤防護岸にコンクリートを極力使わず、石材・植生などの自然材料を多用するようになった

・堤防に親しむ手段として、堤防の勾配を緩くするのは効果的。緩勾配は川に集う人々の心をなごませる。堤内側はもとより提外側でも緩勾配であればなおさらのこと。しかし、緩勾配は広い敷地を要するので、土地を得るのが困難な都市河川では難しい

ダムがもたらす利益は、洪水調節、水力発電、農業用水、工業用水、飲み水など生活用水の供給など多面的で、河川技術の花形でもあった。現在、日本のダムの総計は約3000。1950年代~1970年代にかけては、戦後の国土復興、高度成長へ大きく寄与した

・ダムブームの70年代まで、ダム建設は土木技術者の憧れの的であり、マスメディアもダム建設推進を唱えていた。オリンピック直前の東京の深刻な水不足に際しては、メディアはこぞって水道局を無策とし、なぜダムを早く造らなかったのかと攻撃していた

・1970年代以降、森林の水源涵養機能がダムに代替できるとして、「緑のダム」が謳われるようになったが、森林とダムの河川の流れに対する役割は異なる。森林はダム上流域において土砂流出を抑え、ダム湖の堆砂を減らし、洪水調整機能を増させる役割

・大水害は、ほとんど河川の中下流部の破堤によって発生する。中下流部に広い沖積平野のある大河川では、一旦破堤すると広い面積に氾濫して大水害になる。都市水害の被害は、沖積平野の無秩序な開発による土地利用の変化によるもの

・伊勢湾台風後に建設された海岸堤防は、すでに半世紀を経て、老朽化している。壮大な堤防が完成すると、企業も市民も、津波・高潮からの危険は最早ないと信じ、一層堤防の近くに立地した、しかし、その堤防を越える大波が襲来すれば、被害は深刻になる

・明治初期、東海道線の新橋・横浜間の建設に際して、汐留から品川までの9㎞の線路を、海の中の遠浅の干潟に敷設した。第二次大戦後も、高速道路やバイパス道路を水際や海上に建設した例は多く、海岸災害の危険度が増している

・大きな河川には大規模遊水地が完成してきているが、中小河川には大きな遊水地候補がなく、ほとんど完成していない。大洪水の際の氾濫水を一時貯溜するのに、耕作放棄地が河道近くにあれば、効果が期待できる



東日本大震災以後、地震と津波にばかり目が行きがちですが、水害にも、もっと関心を持つべきかもしれません。

洪水対策がないまま、農地から住宅地・工業用地になし崩し的に開発されてしまった土地が、日本には無数にあります。今住んでいる土地が、水害に対して、本当に安全なのか、もう一度点検してみる必要があるのではないでしょうか。


[ 2013/11/29 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『みんなが知りたい・地下の秘密』地下空間普及研究会

みんなが知りたい地下の秘密 洪水時のあふれた水を取り込む地下トンネルとは?地下鉄の上り線と下り線を同時につくる技術とは? (サイエンス・アイ新書)みんなが知りたい地下の秘密 洪水時のあふれた水を取り込む地下トンネルとは?地下鉄の上り線と下り線を同時につくる技術とは? (サイエンス・アイ新書)
(2010/04/19)
地下空間普及研究会

商品詳細を見る

土地活用において、地上は、高層建築などで有効活用されてきました。ところが、地下は、止むを得ず活用されてきた感じがあります。しかし、地下には、温度や湿度が一定の空間が拡がっています。また、地下を掘る技術も向上してきています。

本書は、みんながまだまだ知らない地下空間について、その素晴らしさを語る内容です。新たに知ったことが多くありました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・人が「地下空間」を生活に使い始めたのは、300万年前と言われている。われわれの祖先は、地下空間を、身を隠す場所にしたり、休憩する場所にしたりしていた

・火山灰や軽石が降り積もって固まった、柔らかくて掘りやすい地盤を、簡単な道具で手掘りすることで、1年を通して、気温や湿度の変化が少ない地下住居をつくりだした

・江戸時代、商売をしていた店には、「穴蔵」という、防火用の地下室があった。通常、穴蔵には蓋がしてあり、床として使うが、いざ火事が発生すると、蓋を開けて、商品や財産などを入れた。穴蔵は火災だけでなく、地震にも強かった

・日本の地下鉄は、11都市で752㎞の路線を営業しており、1日1300万人の乗客を運んでいる。地下鉄はエコな乗り物。1人の人間を1㎞運ぶのに必要なエネルギーは自動車の6分の1以下。1時間に運べる人数は、自動車の約100倍

道路の下約3mまでのところには、日常生活に密着する、ガス、水道、下水、電気、通信といった、ほとんどすべてのライフラインが埋まっている。道路工事がうるさく感じるのは、道路の下3mくらいまでは、道路の上から直接掘るのが一番合理的な方法だから

・下水管の本管は地下5m~10mくらいのところに配置される。この深さでは、浅い地下鉄のトンネルが走っている深さと重なる部分が多くなる。下水道のトンネルは、地下鉄のトンネルを避けながら、蜘蛛の巣のように張り巡らされている

・通常、河川下流域で発達した日本の都市部の地盤は、地表面から順に、沖積層、洪積層、岩盤となっている。つまり、深くなるほど硬い層でできている。都市部の多くは、地表面から30~40m以上深く掘らないと、建物を支えられる硬い層は出てこない

・都市の地下空間は、駅前地下広場などの交通対策から発展した。地下空間は、自動車を気にしないで歩ける歩行者用のネットワークであり、地下鉄ともつながっている

トンネルのつくり方には、「山岳トンネル工法」(岩盤の中につくられる)、「シールド工法」(シールドマシンが地中を掘り進む)、「開削工法」(地面を切り開く)、「沈埋工法」(陸上でつくったトンネルを埋めて沈める)の4つの方法がある

・シールド工法発想の原点は、フナクイムシが木造船に穴を開けて進むのを見たことから。それが、シールドマシン誕生のきっかけとなった

・日本で地下を深く掘ろうとすると、たいていの場合、水が出てくる。この水との戦いが、地下掘削の大きな課題。その対策として「ニューマチックケーソン工法」(コップを逆さまに水中に入れても、コップの中に空気があれば、水が入ってこない現象を応用)がある

・地盤の中に建設する地下構造物には、「土圧」「水圧」が作用する。土圧は、地下構造物が置かれた位置での土の重さによる圧力。水圧は、同様に、地下水の重さによる圧力

・水を浸透させにくい「粘性土」の地盤の中にある地下構造物には、土圧だけが作用する。しかし、水を浸透させる「砂質土」には、土圧だけでなく、水圧も作用する

・地下は工場にも使われる。地下工場は、高い空気清浄度(外部のほこりを含んだ空気の流入が防げる)と、省エネ(空調に頼らないで安定した室内環境が保たれる。電気使用量が90%減)を実現できる

・家の地下にパイプを設置して空気や水を循環させると、地中熱を使った冷暖房システム(夏は冷たい空気、冬は暖かい空気)ができる。この地中熱を利用したエアコンでは、室内の熱は地中に放出されるので、室外機からの排熱がなくなる

・スウェーデン・ストックホルムの地下鉄には、世界一長い地下美術館がある。約90の駅で、彫刻、彫像、モザイクタイル、ペインティング、レリーフなどの芸術作品が飾られており、地下鉄駅の陰気なイメージをなくし、魅力ある空間にしている

・ノルウェーには地下スポーツ施設(アイスホッケー場、プールなど)がある。その理由は、「郊外につくると町が分散してしまう」「土地代を節約できる」「地上だと温度変動幅が25℃になるが、地下は7~8℃に抑えられる」「非常時のシェルターとしても使える」から



高層ビルなどの地上の建築物は、見上げれば、その概要がわかります。それに対して、地下構造物は、ほとんどその内容を知ることができません。

ところが、人間の生活にとって大切なライフラインなどは、地下からわれわれの住宅に配給されてきます。縁の下の力持ちならぬ、地の下の力持ちに目を向けてあげるべきではないでしょうか。本書は、その一助になると思います。


[ 2013/10/03 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(2)