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カテゴリー  [ 環境の本 ]

『働くアリに幸せを・存続と滅びの組織論』長谷川英祐

働くアリに幸せを 存続と滅びの組織論働くアリに幸せを 存続と滅びの組織論
(2013/09/19)
長谷川 英祐

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著者の本を紹介するのは、「働かないアリに意義がある」「縮む世界でどう生き延びるか」に次ぎ、3冊目です。著者は進化生物学の准教授です。生物と人間を比較しながら、経済や組織などを論じるのを得意とされています。

本書のテーマは、組織と家族と個人が、みんなハッピーな関係は可能か?また、その関係はずっと続くのか?ということです。興味深いところが多々あり、その一部をまとめてみました。



・人間でも、動物でも、社会は「力が弱い者たちの協力」によってできている。社会形成はセカンドベスト。一人で生きていけるなら一人でやる方がよい

・集団を維持していくためには必ずコストが存在する。「力を合わせる」というのは、社会に参加するものはすべて「コストを払わなければならない」ということを意味する

・個体が協力のためにコストを払い、みんなが得になる社会を築いていると、そこに「ただ乗り」しようとする裏切り者は必ず現れる

・「裏切り者」は社会の中では「協力者」より有利なので、入ってくることを止められない。裏切り者は「我ら」であると思わせる嘘をつく。裏切り者だらけになると社会は崩壊するので、嘘を見抜き、罰する行動が進化する

人は、「個人―地域集団―国家」へとつながる階層と、「個人―企業―経済社会」へとつながる階層の、二つの系列に同時に属している

・個体と組織がどのような関係になっているかということが、滅私奉公が個体にとって有益になるか徒労になるかを決めている。人間の企業では、組織の個体に対する依存性が低いため、個体の利益確保が簡単ではない

・人の組織の力学は主に金勘定で決まっている。しかし、モチベーション低下による組織効率の低下を考えると、組織の利益のために個人の利益を減らすのは、細心の注意が必要。日本企業の多くは、金勘定には敏感だが、人の組織は人で成り立っていることに鈍感

・社会は個人から構成され、社会の利益を上げるためには、個人の利益(幸せ)を増大させるような駆動力を与える必要がある

・多くの子供を担当、管理しなければならない教室で、空飛な発想で行動する子供は厄介

・「短期的な効率性(平均値の上昇)」と「長期的存続(独創性)」の間には、トレード・オフがある

・グローバル企業と国家の間には利害対立があり、そこでの綱引きは現在、ほぼ一方的に国家の力を弱めるように働く

・年長者は若者に覇気がないと嘆くが、「草食化」は、生活の豊かさの帰結ではなく、そのように振る舞うことが、今までと同じように仕事を頑張るよりも、総体としての幸せを最大化できるという選択圧によって進化した考え方

・「働けるけれど今は働かないでいるアリ」と「働くつもりがないアリ」は同じものではない。「まったく働くつもりがないアリ」は「裏切り者」

・生き物でも企業でも、本質的に重要なのは滅びないことであり、短期的にどれだけ儲かるかではない

長期的存続を犠牲にしても「短期的効率を追求することが正義」という状況がある限り、そこへ向かって突っ走る。企業が、株式公開により資金を得るなど、企業が株式市場に頼るシステムになっている限り、短期的効率ばかり優先されるのを止めることはできない

・企業では、山が出現することを「商機」と呼んでおり、いかにして利益の山に登るかを皆が競う。しかし、一方で、様々な分野に手を出す多角経営というやり方をしている

・経済はいつも成長することを求めているが、成長を急ぎすぎると、その後に待っているのはクラッシュ。「うまくやろうとすると破滅へ向かう

・生物は基本的にムダなことはしない。彼らの行動は将来へ伝える遺伝子量を最大化するように調節されており、それ以外の余計なことをしないようになっている。それに較べ、人間はムダなことばかりしている。自然科学も人文科学も芸術もすべて道楽



成長することよりも、生き残ること。これが目的のはずなのに、ついつい成長することにうつつを抜かし、気がついたら、成長の度が過ぎて、破滅してしまうことは、世の中には多いものです。

持続すること、生き残ることの大切さと組織と個人の利益バランスを再確認できる書ではないでしょうか。


[ 2014/06/20 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『身近な虫たちの華麗な生きかた』稲垣英洋

身近な虫たちの華麗な生きかた (ちくま文庫)身近な虫たちの華麗な生きかた (ちくま文庫)
(2013/03/06)
稲垣 栄洋、小堀 文彦 他

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著者の本を紹介するのは、「植物の不思議な生き方」以来です。著者は、雑草生態学が専門の研究者です。驚くのは、文章が非常に上手なことです。一つ一つの植物や虫たちの物語に引き込まれていきます。

簡潔にまとめる能力は、ノンフィクション作家以上の力量です。本書の中にも引き込まれていくところが多数ありました。それらをまとめてみました。



・ミツバチは、花から蜜を集める外勤は、1日5時間の労働時間。巣の中の仕事や幼虫の子守りをする内勤は、6~8時間の交替勤務。経験を経るごとに内勤から外勤の仕事へ。働き蜂はすべてメスだから、花から花へ飛び回るミツバチは、すべておばあさん蜂

・天才アインシュタインは「もしミツバチが地球上からいなくなると、人間は4年以上生きられない」と予言した。ミツバチによって、花粉が運ばれ、花は実を結び種子を残すことができる。ミツバチがいなくなると、植物が絶えてなくなる

・花は、筒のような構造で、奥に蜜を隠しているものが多いが、これは、花にもぐりこめる花蜂だけに蜜を与えるための工夫

・蝶のひらひらと舞う飛び方は、天敵の鳥の攻撃から身を守るための逃避行動

・アゲハチョウの幼虫には大きな目玉模様ができる。田畑などの鳥よけに、鳥が嫌がる大きな目玉模様の風船を用いるが、幼虫も目玉模様で鳥の攻撃を避けている。また、二つの目玉模様によって、鳥の天敵であるヘビの顔にも似せている

・ジャコウアゲハの毒の使い方は実に巧み。毒が強すぎて相手を殺してしまっては、ジャコウアゲハの毒を知らない鳥ばかりになる。毒の恐ろしさを学ばせるには、相手にひどい目にあわせる程度の毒の強さがちょうどよい

・「2,4,6,7,8,10,11,12,13,14,15,16,19,28」の数列は実はテントウムシの星の数。テントウムシは、脚の付け根から臭い汁を出して身を守る。この臭い汁のおかげで、天敵の鳥もテントウムシを嫌う。目立つ色と覚えやすい数の模様は、鳥たちを襲わなくさせるため

・ハエは1秒間に200回も羽ばたく。そのため高い周波数のうるさい羽音を立てる

3億年以上も前の古生代から姿が変化していない昆虫には、ゴキブリ、シロアリ、シミがいる。昆虫界の「生きた化石」は、どれも害虫だが、人間に嫌われ、駆除されながらも、図太く生き抜いている

・大きな鋭いあごを持つサムライアリは、クロヤマアリの巣を襲って、繭を奪い、繭から生まれたアリを奴隷として働かせ、餌を集めさせる。即戦力の働きアリを連れ帰っても、すぐに逃げられ、抵抗もされるので、無抵抗な繭を持ち帰り、奴隷とする

・サムライアリはクロヤマアリの巣を襲っても、決して全滅させることはない。そうしておけば、同じ巣を何度も襲って、奴隷を手に入れることができるから

・砂が崩れないギリギリの角度を安息角という。アリジゴクのすり鉢状の巣は、砂が崩れない安息角に保たれている。そのため、小さなアリが足を踏み入れただけで、砂が崩れ落ちる。アリジゴクは偉大な土木設計士

・カブトムシの寿命は一年。幼虫の期間に餌を豊富に食べた幼虫のほうが角が大きくなる。逆に、幼虫期間が何年もあるクワガタムシは、じっくり育てたほうが、あごが大きくなる

・鳥も翼竜もいなかった古生代に、昆虫はすでに制空権を獲得して、空を飛び回っていた

・不要のCDを吊り下げて、鳥よけいるにしている光景をよく見るが、これは、鳥がキラキラした金属色におびえる性質があるため。CDの裏面がキラキラと虹色に輝くのと、タマムシの羽は同じしくみ。タマムシもキラキラと輝く羽で、鳥から身を守っている

・昆虫は変温動物なので、赤とんぼは気温が低いと飛べなくなってしまう。そのため、秋になって気温が低くなると、時々竿の先に止まり、太陽の光を浴びて、体温を上げている

・最近では、巣が見つかると、すぐに駆除業者を呼ばれる、嫌われ者のスズメバチだが、夏の間は、田んぼや畑でせっせと害虫を捕えている。昔の人は、スズメバチを恐れながらも、田畑を守ってくれることを知っていた

・古生代の海で繁栄した三葉虫の末裔がダンゴムシ。ダンゴムシは、コンクリートブロックのすき間でよく見かけるが、あろうことか、コンクリートを食べている。固い装甲は炭酸カルシウムでできている。同じく、カタツムリも巻貝の仲間なので、ブロック塀が好き



ふだん何気なく見ている昆虫も、鳥に食べられないように、姿形や色で天敵を欺き、逃げて、鳥を近づけないように、毒を宿して必死に生きています。

本書を読んでいる途中、♪「オケラだって、アメンボだって、みんなみんな生きているんだ」♪、と思わず歌いそうになりました。


[ 2014/05/07 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『季節、気候、気象を味方にする生き方』石川勝敏

季節、気候、気象を味方にする生き方季節、気候、気象を味方にする生き方
(2013/06/17)
石川 勝敏

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本書には、気候、気象が、人体に及ぼす影響、社会に及ぼす影響が記されています。

気温、湿度、風速などが微妙に変化すれば、何が変わってくるのかを興味深く読むことができます。その一部をまとめてみました。


・「気温が26℃に上がった日は、アイスクリームの売上が前日の3割伸びる」「気温が上がったらしょっぱい食べ物が売れる」「秋口になったら甘みのある弁当がいい」といったように、気象と個人の消費行動との関係性についての調査を重ねてきた

脳出血は以下のような気象条件の日が危険「平均気温0℃前後、日較差8~10℃」「寒い日に増加、雨の日に減少」

脳梗塞は以下のような気象条件の日が危険「朝は寒く、午後に急に気温が上昇する日、しかも高温多湿時」「暖かい日に増加」

心筋梗塞の患者は、夏に少なく、冬と春に多く発症する。冬は暖房のため、室温と外気温の差が心臓に大きな負担をかける。春は日々の気温の差が激しいから

・血管は寒くなれば収縮し、熱を閉じ込め、暖かくなれば、拡張して熱を放散するよう、自律神経がコントロールしているが、その働きが毎日コロコロ変わると、血管に大きなストレスがかかり、それが限度を超えると、心筋梗塞を引き起こす

腰痛、リウマチ、座骨神経痛、関節痛の人は、前線や低気圧の接近とともに、痛みを覚える。その主要因が、気圧の低下。気圧が低下すると、体内の炎症物質ヒスタミンが発生し、これが痛みの原因

痴漢行為の警視庁データでは、気温28度以上、湿度80%以上、風速2m以下、時刻は夕方から夜にかけて多く発生している。このような気象条件が、男性ホルモンに影響を及ぼし、子孫を残したい機能が活発に働きだしているのではないかと推察できる

・「日平均気温」による季節は、「早春」5℃になる日「春」10℃になる日「晩春」15℃になる日「初夏」20℃になる日「盛夏」25℃になる日「初秋」25℃以下になる日「秋」20℃以下になる日「晩秋」15℃以下になる日「初冬」10℃以下になる日「真冬」5℃以下になる日

食物の嗜好が変わる8シーズン時期は、「1月初~2月中」「2月下~3月末」「4月上~梅雨入り」「梅雨入り~梅雨明け」「梅雨明け~8月中」「8月下~9月末」「10月初~11月末」「12月初~12月末」

・28.5℃の気温から1時間かけて21℃まで下げた場合、男女とも35℃あった皮膚温は男性の34℃に比べ、女性は28℃まで急激に低下する

女性が快適に感じる室温は、男性より2~3℃高い。夏場は女性のほうが薄着になるので、差はさらに広がる

・夏に増えた家ダニが気温の低下とともに死んで、その死骸が家の中を舞うようになることも、秋に喘息が増える原因

・室温28度の部屋から気温10℃の屋外に出た場合の血圧上昇は、若い人は10mmHgだが、高齢者は30mmHgに達する

・「晴れのち雨」の日は、客数が減るが、「雨のち晴れ」の日は、客数はほとんど変わらない。天候が雨から晴れに変わると、人は気分が晴々して外出したくなる。開放的になり、行動力も積極性を帯びて、購買意欲も高くなる

・「いい季節になったなあ」と感じる日の気象条件を数字で表せば、「平均気温18℃(最高気温21~22℃、最低気温14~15℃)」「湿度40~70%」「風速毎秒0.5m(無風より微風がいい)」

・気温が高くなる昇温期には、人は「暑い」と感じて、すぐに血糖値が上がるような甘みが強い食べ物を敬遠し、柑橘系のクエン酸を含むものを好んで口にする

・寒くなると食べたくなる「おでん」がコンビニで売りに出されるのは8月下旬。降温期に差しかかりはじめる時期

・夏の疲労を回復し、寒い冬に備える秋には、ごぼう、大根、人参、レンコン、じゃがいも、さといもなどの根菜類がいっせいに旬を迎える。根菜類には身体を暖める効果がある



医療関係者や流通業者は、気候、気象と人々の行動との密接な関係を解き明かしつつあります。

さらに、この研究は、さまざまなサービス業者や製造業者に、応用できる部分がいっぱいあります。この分野の研究は、今後とも注目しておく必要があるのかもしれません。


[ 2014/04/11 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『居場所としての住まい』小林秀樹

居場所としての住まい: ナワバリ学が解き明かす家族と住まいの深層居場所としての住まい: ナワバリ学が解き明かす家族と住まいの深層
(2013/07/31)
小林 秀樹

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本書の面白いところは、人間の集団には、「順位制」と「ナワバリ制」があり、これが部屋や間取りに大きく影響を与えている、という意見です。

著者は、住環境計画が専門の大学教授。時代や地域によって、部屋や間取りが大きく違ってくるとの見解です。家族と住まいに関する記述で、興味深かったところをまとめてみました。



・「ナワバリ学」とは、人々が空間をどのように領有しているかを解き明かす学問。住まいにおいては、家族の一人ひとりが、どのように自分の居場所を確保しているかを解き明かす。これを通して、家族の深層心理がみえてくる

・ナワバリとは、そこを自分の場所だと思いコントロール(支配)する空間。このような空間は、食事テーブルの席や個室という身近な範囲でも見られるし、お花見の席取りから国の領土争いといった広い範囲でも見られる

個室がない昔の住居は「順位制」、現代の個室がある住居は「ナワバリ制」に対応している。昔の住居は、家長を頂点として、家族一人ひとりの順位が明確であり、風呂に入る順番、食事をとる順番など決まっていた

・「順位制」の集団では、いちいち言葉を交わさなくても相手の様子を感じ取り、上下関係に基づくルールに従って、自然に行動することを大切にする。現代風の言葉で言えば、「空気を読む」こと

・個室のある「ナワバリ制」に求められる行動様式とは、自分の意思をしっかりと表明するとともに、相手と意見交換して合意することを重視する。というのは、「ナワバリ制」は、互いの接触を避ける仕組みだから

・犬のオシッコは、臭いによる信号の代表。臭いのある場所に侵入すれば攻撃するぞというメッセージ。人々も領域展示物(門、塀、表札、ポスターなど)をうまく利用して、ナワバリを防衛または開放する

・人間の場合、儀式ではなく「作法」によって、ナワバリ防衛の攻撃衝動を抑え、温かく受け入れる。ドアをノックするのも、他人のナワバリに侵入する際の作法。上座と下座は、互いの順位を確認し、無用な争いを避ける作法

・ナワバリには、個人のナワバリだけでなく、集団のナワバリがある、家は、家族のナワバリ。村は、村落共同体のナワバリ。会社や学校、国や都市も、集団のナワバリの例

・パーソナライゼーションとは、人間による空間の「臭いづけ」。部屋に、お気に入りのカーテンや家具をしつらえ、住宅まわりに、植木鉢を置いたりする行為

・母主導型が、近年増加している。昔の家父長中心の家族の住まいが、そのまま母親中心に代わったイメージが強い。現代の都市住宅では、父親のナワバリが希薄になってきている

日本の家族は、封建家族(父主導型)、温情家族(母主導型)、友愛家族(母子が友達のように振る舞う家族)の三つが混ざり合っている

・住宅市場では、子供がいない夫婦でも、資金に余裕があれば3LDKを購入しようとする。そのほうが、中古になっても売りやすいから。このように、住まいは3LDKの定型に収斂していく。その結果、個人の生活の実態とは必ずしも一致していない

・マンションの標準的な間取りにある中廊下は、昭和初期に登場した。各部屋の独立性を高め、家族のプライバシーを守る先進的な住まいであり、知識人や建築家は、封建家族からの転換という社会規範をそこに重ね、好ましい存在として推奨した

・ここ十年ほどで、「居間中心型」と呼ぶ間取りが急速に増えている。これは中廊下形式からの転換をはかるもの。親が、家族の触れ合いを求めて、意図的にこの間取りを選択している

・居間中心型は、個室群でも個室のない住まいでもなく、中廊下を見直した「家族が自然に出会う間取り」。しかも、個室を否定しているわけではない。それを肯定した上で、家族の触れ合いを求めた間取り

これからの住まいの条件は、「夫婦寝室は最低8畳」「子供部屋は間仕切りタイプ」「部屋の配置は居間中心型(玄関から居間に入って個室に)」「食事室(LD)とつながる余裕室の確保」」「裏のバルコニー(ゴミの一時置き場)」



家の間取りは、家族の形態や性質によっても異なってきます。そこを考えた理想的な空間であれば、狭くても問題ないのかもしれません。

住宅を買う前に、立地、環境、広さ、設備だけでなく、間取りについても学んでおくことが、将来的な満足感を高めてくれるように思いました。



[ 2014/04/04 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『川と国土の危機-水害と社会』高橋裕

川と国土の危機――水害と社会 (岩波新書)川と国土の危機――水害と社会 (岩波新書)
(2012/09/21)
高橋 裕

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著者は、河川工学が専門の東大名誉教授です。日本は、歴史的にも、水害(洪水、土石流、地滑り、津波、高潮など)に悩まされてきた国だから、水源地の森林から河口の海岸まで、川の流域全体の統一した保全思想と防災構想の必要性を提唱されています。

しかし、主に高度成長期、何の思想も構想もなく、付け焼刃的に防水治水工事を行ってきたツケが、現在の危機的状況に至っていると警鐘を鳴らされています。その一部を要約して、紹介させていただきます。



・東京は、先進国の中で、最も災害危険性が高い首都。ミュンヘン再保険会社の自然災害リスク評価では、東京・横浜のリスク指標は710と抜群に高い。以下、サンフランシスコ167、ロサンゼルス100、大阪・神戸・京都92、ニューヨーク42。他の大都市は40以下

・東京は江戸時代以降、震度6の地震を6回経験している。安政大地震(直下が震源)と関東大地震(遠方が震源の巨大地震)の異なるタイプの地震で100年足らずの間隔で大被害を受けた大都市は、世界中で東京しかない

・東京の水害多発は諸外国の首都に例を見ない。江戸の三大洪水(1742、86年、1846年)。そして1910、47年の利根川、荒川の大氾濫。1917、49年の台風による高潮災害。1958年の狩野川台風による山手水害以後、東部下町だけでなく、西部でも水害が頻発している

・江戸時代は住所を高所に設置し、洪水を自由に氾濫させ、低平地は冠水に強い農産物を育てる対応だった。明治期、都市化・工業化の政策大転換によって、都市域や工業用地への氾濫を完全に防ぐことが要求された。この大治水事業が完成したのは、昭和5年のこと

・主要河川において、大洪水時の最大流量が過去最大記録を更新している。その構造的理由は、明治以来の連続大堤防方式の治水方策にある。すなわち、流域内に降った雨をしばらく留めようとせずに、多くの支流から本川の河道へと速やかに集中させようとしたから

水田が宅地化されると、洪水調整機能が失われるのみならず、降水は地下へ浸透せず、一目散に都市内河川か、整備された下水道へ殺到する。そのため、都市内河川は、従来の河道では間に合わなくなり、氾濫しやすくなった

・1990年以降普及した「多自然」河川工法の狙いは、ドイツ・スイスなどヨーロッパ各国で普及した「近自然」河川工法とほぼ同様。自然生態系を考慮し、強度で少々劣るが、堤防護岸にコンクリートを極力使わず、石材・植生などの自然材料を多用するようになった

・堤防に親しむ手段として、堤防の勾配を緩くするのは効果的。緩勾配は川に集う人々の心をなごませる。堤内側はもとより提外側でも緩勾配であればなおさらのこと。しかし、緩勾配は広い敷地を要するので、土地を得るのが困難な都市河川では難しい

ダムがもたらす利益は、洪水調節、水力発電、農業用水、工業用水、飲み水など生活用水の供給など多面的で、河川技術の花形でもあった。現在、日本のダムの総計は約3000。1950年代~1970年代にかけては、戦後の国土復興、高度成長へ大きく寄与した

・ダムブームの70年代まで、ダム建設は土木技術者の憧れの的であり、マスメディアもダム建設推進を唱えていた。オリンピック直前の東京の深刻な水不足に際しては、メディアはこぞって水道局を無策とし、なぜダムを早く造らなかったのかと攻撃していた

・1970年代以降、森林の水源涵養機能がダムに代替できるとして、「緑のダム」が謳われるようになったが、森林とダムの河川の流れに対する役割は異なる。森林はダム上流域において土砂流出を抑え、ダム湖の堆砂を減らし、洪水調整機能を増させる役割

・大水害は、ほとんど河川の中下流部の破堤によって発生する。中下流部に広い沖積平野のある大河川では、一旦破堤すると広い面積に氾濫して大水害になる。都市水害の被害は、沖積平野の無秩序な開発による土地利用の変化によるもの

・伊勢湾台風後に建設された海岸堤防は、すでに半世紀を経て、老朽化している。壮大な堤防が完成すると、企業も市民も、津波・高潮からの危険は最早ないと信じ、一層堤防の近くに立地した、しかし、その堤防を越える大波が襲来すれば、被害は深刻になる

・明治初期、東海道線の新橋・横浜間の建設に際して、汐留から品川までの9㎞の線路を、海の中の遠浅の干潟に敷設した。第二次大戦後も、高速道路やバイパス道路を水際や海上に建設した例は多く、海岸災害の危険度が増している

・大きな河川には大規模遊水地が完成してきているが、中小河川には大きな遊水地候補がなく、ほとんど完成していない。大洪水の際の氾濫水を一時貯溜するのに、耕作放棄地が河道近くにあれば、効果が期待できる



東日本大震災以後、地震と津波にばかり目が行きがちですが、水害にも、もっと関心を持つべきかもしれません。

洪水対策がないまま、農地から住宅地・工業用地になし崩し的に開発されてしまった土地が、日本には無数にあります。今住んでいる土地が、水害に対して、本当に安全なのか、もう一度点検してみる必要があるのではないでしょうか。


[ 2013/11/29 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『みんなが知りたい・地下の秘密』地下空間普及研究会

みんなが知りたい地下の秘密 洪水時のあふれた水を取り込む地下トンネルとは?地下鉄の上り線と下り線を同時につくる技術とは? (サイエンス・アイ新書)みんなが知りたい地下の秘密 洪水時のあふれた水を取り込む地下トンネルとは?地下鉄の上り線と下り線を同時につくる技術とは? (サイエンス・アイ新書)
(2010/04/19)
地下空間普及研究会

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土地活用において、地上は、高層建築などで有効活用されてきました。ところが、地下は、止むを得ず活用されてきた感じがあります。しかし、地下には、温度や湿度が一定の空間が拡がっています。また、地下を掘る技術も向上してきています。

本書は、みんながまだまだ知らない地下空間について、その素晴らしさを語る内容です。新たに知ったことが多くありました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・人が「地下空間」を生活に使い始めたのは、300万年前と言われている。われわれの祖先は、地下空間を、身を隠す場所にしたり、休憩する場所にしたりしていた

・火山灰や軽石が降り積もって固まった、柔らかくて掘りやすい地盤を、簡単な道具で手掘りすることで、1年を通して、気温や湿度の変化が少ない地下住居をつくりだした

・江戸時代、商売をしていた店には、「穴蔵」という、防火用の地下室があった。通常、穴蔵には蓋がしてあり、床として使うが、いざ火事が発生すると、蓋を開けて、商品や財産などを入れた。穴蔵は火災だけでなく、地震にも強かった

・日本の地下鉄は、11都市で752㎞の路線を営業しており、1日1300万人の乗客を運んでいる。地下鉄はエコな乗り物。1人の人間を1㎞運ぶのに必要なエネルギーは自動車の6分の1以下。1時間に運べる人数は、自動車の約100倍

道路の下約3mまでのところには、日常生活に密着する、ガス、水道、下水、電気、通信といった、ほとんどすべてのライフラインが埋まっている。道路工事がうるさく感じるのは、道路の下3mくらいまでは、道路の上から直接掘るのが一番合理的な方法だから

・下水管の本管は地下5m~10mくらいのところに配置される。この深さでは、浅い地下鉄のトンネルが走っている深さと重なる部分が多くなる。下水道のトンネルは、地下鉄のトンネルを避けながら、蜘蛛の巣のように張り巡らされている

・通常、河川下流域で発達した日本の都市部の地盤は、地表面から順に、沖積層、洪積層、岩盤となっている。つまり、深くなるほど硬い層でできている。都市部の多くは、地表面から30~40m以上深く掘らないと、建物を支えられる硬い層は出てこない

・都市の地下空間は、駅前地下広場などの交通対策から発展した。地下空間は、自動車を気にしないで歩ける歩行者用のネットワークであり、地下鉄ともつながっている

トンネルのつくり方には、「山岳トンネル工法」(岩盤の中につくられる)、「シールド工法」(シールドマシンが地中を掘り進む)、「開削工法」(地面を切り開く)、「沈埋工法」(陸上でつくったトンネルを埋めて沈める)の4つの方法がある

・シールド工法発想の原点は、フナクイムシが木造船に穴を開けて進むのを見たことから。それが、シールドマシン誕生のきっかけとなった

・日本で地下を深く掘ろうとすると、たいていの場合、水が出てくる。この水との戦いが、地下掘削の大きな課題。その対策として「ニューマチックケーソン工法」(コップを逆さまに水中に入れても、コップの中に空気があれば、水が入ってこない現象を応用)がある

・地盤の中に建設する地下構造物には、「土圧」「水圧」が作用する。土圧は、地下構造物が置かれた位置での土の重さによる圧力。水圧は、同様に、地下水の重さによる圧力

・水を浸透させにくい「粘性土」の地盤の中にある地下構造物には、土圧だけが作用する。しかし、水を浸透させる「砂質土」には、土圧だけでなく、水圧も作用する

・地下は工場にも使われる。地下工場は、高い空気清浄度(外部のほこりを含んだ空気の流入が防げる)と、省エネ(空調に頼らないで安定した室内環境が保たれる。電気使用量が90%減)を実現できる

・家の地下にパイプを設置して空気や水を循環させると、地中熱を使った冷暖房システム(夏は冷たい空気、冬は暖かい空気)ができる。この地中熱を利用したエアコンでは、室内の熱は地中に放出されるので、室外機からの排熱がなくなる

・スウェーデン・ストックホルムの地下鉄には、世界一長い地下美術館がある。約90の駅で、彫刻、彫像、モザイクタイル、ペインティング、レリーフなどの芸術作品が飾られており、地下鉄駅の陰気なイメージをなくし、魅力ある空間にしている

・ノルウェーには地下スポーツ施設(アイスホッケー場、プールなど)がある。その理由は、「郊外につくると町が分散してしまう」「土地代を節約できる」「地上だと温度変動幅が25℃になるが、地下は7~8℃に抑えられる」「非常時のシェルターとしても使える」から



高層ビルなどの地上の建築物は、見上げれば、その概要がわかります。それに対して、地下構造物は、ほとんどその内容を知ることができません。

ところが、人間の生活にとって大切なライフラインなどは、地下からわれわれの住宅に配給されてきます。縁の下の力持ちならぬ、地の下の力持ちに目を向けてあげるべきではないでしょうか。本書は、その一助になると思います。


[ 2013/10/03 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(2)

『水危機・ほんとうの話』沖大幹

水危機 ほんとうの話 (新潮選書)水危機 ほんとうの話 (新潮選書)
(2012/06/22)
沖 大幹

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著者の本を紹介するのは、「水ビジネスに挑む」に次ぎ、2冊目です。国の防衛で、食料とエネルギーの自給率がよく話題になりますが、日本は、水に恵まれているために、水の自給については話題になりません。

しかし、世界では「水危機」が叫ばれています。ということは、水を有利なカードにすることができるということです。水は立派な資源です。その認識に立って、水を考えるのに最適の書です。その一部を紹介させていただきます。



・水道料金は1t=1000ℓ当り全国平均で200円。さらに上水道使用量に応じて、下水道料金が徴収される。東京―大阪間をトラックで運べば、1t=1000ℓ当り輸送費が1万円かかる。1000ℓ200円の水道水の価格は50倍になってしまう

・水は基本原則として、流域を越えて運べない、貯めておけない。水はローカルな資源。ローカルな資源であるということは、一物一価の原則が成立しないということ。水の値段は地域によってばらばら

・飲み水は1日1人当たり2~3ℓ(飲料水1.2ℓ、食料水1ℓ、代謝水0.3ℓ)必要。この必要量は、毎日体から失われる水分の補給する分

・日本の家庭用水の使用量の内訳は、トイレ28%、風呂24%、炊事23%、洗濯16%、その他9%

・日本の1人当たり水道水使用量は、1965年に169ℓだったが、高度成長に伴って伸び続け、1995年に322ℓになったが、2000年以降減り始め、2008年には300ℓを割ってきている

・水も電気もピーク時の需要に応じて設備投資する必要があるので、ピーク時の使用量は減ったほうがありがたい。しかし、通常時の節水を呼びかけるのは、商品を買わないでくれ、と言われているに等しい

・地球上を循環している水資源の1割を人類は取水している(農業用水、工業用水含む)

・貧しい国々では、自然条件として、水が足りないのではない。必要な水を適切に利用可能にする水インフラが不足しているため、水が使えない

・地下水は、土地に付属する財だとみなされ、汲み上げポンプの電気代だけで入手可能。大量に汲み上げる企業側と周辺住民との間での争議が世界中で生じている

・比較的水が使える地域では米だが、乾燥地域は小麦。何を主食としているかは、どの程度水を得られるかによって決まってしまっている

・森を緑のダムと呼ぶならば、積雪は白いダム

・都市での水の自給自足は難しい。都市とは、食料、水、エネルギー、人材の供給を郊外に頼っている存在で、都市の問題は、周辺地域と一体となって解決していく必要がある

・木が生えていると豊富に水が使えるのではなく、水が豊富な場所に木が生える

・無降雨時の河川流量の多い少ないは、森林に覆われているかよりも、流域の地質によるところが大きい

・人のみならず、木が育つのにも水が必要。人と森林は水資源を奪い合う関係にある

・日本の河川では、洪水時には平常時のざっと100倍の水量が流れる

・川幅の拡幅や河床の浚渫など、河道を流れ得る水の量を増やす治水事業は、下流から順次整備していくのが常識

・産業がなくて困っている地域に資本が投下されるのは喜ぶべきこと。よほど資源略奪的な事業でない限り、外国資本による日本の山林買い占めに過剰反応するのは得策ではない

地下水の過剰汲み上げを規制してやめさせることにより、低下した地下水位が比較的速やかに回復しても、一旦沈下した地盤は元に戻らない

・欧米の大規模民間水道事業会社は、近年になって、採算の苦しい途上国から撤退傾向にある。やみくもに水事業に進出すればいいというものではない。水ビジネスは、収益率が地味な割に、投資規模が大きくならざるを得ず、資金回収も長期に渡る



水は単なる飲料水だけでなく、農業用水、工業用水として、重要な資源です。水が豊富にあるということは、農業や工業の輸出に不可欠です。しかも、水は重くてかさばるので、簡単に移動できません。

こういう視点で、日本の豊富な水をどう生かすかが、今後の国家戦略にとって重要になるのではないでしょうか。


[ 2013/08/15 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『植物の不思議な生き方』稲垣栄洋

植物の不思議な生き方 (朝日文庫)植物の不思議な生き方 (朝日文庫)
(2013/02/07)
稲垣栄洋

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本書には、植物の巧みな戦略が描かれています。外敵、競争、受粉、悪環境などに対して、植物たちは、どういう道を選んできたかがよくわかります。

植物たちの涙ぐましい努力は、われわれ人間社会にも参考になるところが多いように思います。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・アリストテレスは「植物は逆立ちした人間である」と評した。口に相当する「根」が一番下にあり、胴体に相当する「茎」がその上。生殖器に相当する「花」が、植物の一番上

・植物の葉の表面にはワックスの層でコーティングされている。これが城壁のように病原菌の侵入を防いでいる

・植物は活性酸素を除去するためのさまざまな抗酸化物質を持っている。ポリフェノールやビタミン類も植物が持つ抗酸化物質

葉を食い荒らす昆虫は、植物にとって実におそろしい敵。傍若無人に片っ端から葉をむしゃくしゃ食べまくる。病原菌に比べれば、体もすこぶる巨人で、まるで怪獣のよう

毒を盛るのは、戦わずして強靭な敵を殺す常套手段。力を持たない植物が強大な敵を倒すには、これほど有効な手立てはない。生き残るためには、卑怯などと言ってはいられない。かくして植物はありとあらゆる毒性物質を調合し、身を守る道を選んだ

・タバコの成分、ニコチンは害虫から身を守るための物質。野菜のえぐみも本来は防御のための物質。シソやネギやハーブの香り成分も、害虫を防ぐために植物が身につけたもの

・植物の毒を体内に蓄えて自らの身を守る昆虫は多い。それらの昆虫は、食べられるものなら食べてみろと、自らの体を毒々しく目立たせて、危険な毒を持つことをアピールする

・ボラタイル(SOS信号を出す揮発物質)を感知して、イモムシの天敵である寄生バチがトウモロコシを助けるべく駆けつける。寄生バチも、どこにいるかわからない餌のイモムシの存在を効率的に知ることができる。なんともうまくできた仕組みになっている

・人間を震い上がらせるアシナガバチやスズメバチでさえ、アリに襲われるのを恐れて、中空にぶら下がった巣をつくり、巣の付け根にアリの忌避物質を塗っている。アリの強さは他の昆虫に抜きん出ている。植物界には、そんなアリをボディガードに雇うものが多い

・リンゴ、桃、柿、みかん、ブドウなど木の上で熟した果実は、赤、橙、ピンク、紫色のように赤系統の色彩が多い。これは、鳥が赤色を最も認識するから

・葉のつき方は、5分の2や8分の3などのフィボナッチ数列の角度に従っている。植物は、黄金比に近似の5分の2(逆回り1.67)8分の3(逆回り1.6)を選んだ。それは、葉が重なりあわずに効率よく光を受けるためや、茎の強度を均一ににするため

・花びらは、ユリが3、桜が5、コスモス8、マリーゴールド13、マーガレット21、ヒナギク34。花びらの枚数もまた、フィナボッチ数列によって作り出されている

・「つる植物」は、「他人に頼れば苦労せずに大きくなれる」という図々しい生き方で、スピーディな成長をする。「絞め殺し植物」は、頼った相手を亡き者にして、財産を奪う

・花がここにある、ということを昆虫にアピールするため、花びらは「看板」がわり。昆虫に合わせて、早朝に店を開き、日中閉じるアサガオやツユクサの「営業時間」。植物にとって昆虫への「サービス品」が蜜。その蜜を一番奥に配置し、「案内板」を表に出している

・花が昆虫を呼び寄せるのは、蜜を食べてもらう代わりに、花粉を運んでほしいため。長居する困り者の昆虫に「いつまでいるのですか。そろそろ次の花へ行ってもらわないと困りますよ。こっちだって慈善事業でやっているわけじゃないんだから」と昆虫に仕向ける

・黄色い花が好みはアブ。白色好みはコガネムシ。紫が好みはミツバチ。赤色が好みは蝶々

・早春の花はアブ好みの黄色が多い。アブは移り気だから黄色の花は群生する。コガネムシは不器用だから白い花は平たく咲く。ハナバチは同じ花を識別できるので、紫の花は離れて咲く。蝶々は大量の花粉を遠くに運ぶので、赤色の花は大きく、大量の蜜を奮発する

・植物の果実は、実り熟すことが使命。実り熟すことは同時に老化を意味する。決心したようにエチレンを放出した果実は、自らを老いさせ、死出の旅を急ぐ

・ロゼット(タンポポなど)は冬の寒さに逃げることなく、冬の時と向き合って生きる道を選んだ。地面に張り着く葉は、光を受けながら寒さを避ける理想的な形



植物は、動かず、黙っているので、どうしても、見過ごされがちです。でも、この地球に、動物が棲みつく以前から、ずっと暮らしてきています。

その植物を観察すれば、人間社会の問題を解決するヒントがいっぱい詰まっているように感じました。本書は、その参考になる良書ではないでしょうか。


[ 2013/07/25 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『日本の景観―ふるさとの原型』樋口忠彦

日本の景観―ふるさとの原型 (ちくま学芸文庫)日本の景観―ふるさとの原型 (ちくま学芸文庫)
(1993/01)
樋口 忠彦

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1981年に刊行された書です。日本人が、どういった景観を好むのかを科学的に解明しようとした画期的な内容です。

著者は、日本の景観学の先駆者です。自然(盆地、山、谷、平地など)と都市(街路、広場、緑化など)の景観を細部にわたって論じています。その中から興味深い箇所を、一部ですが、要約して紹介させていただきます。



・権力者であった平安貴族は、はっきりとした人間的意志の感じとれる都市を維持する強い父性原理を持っていなかった。「もののあわれ」が、平安貴族の主流をなす感性であった

・「すべてのものを切断し、分割する機能をもった原理が、父性原理。すべてのものを包含し、場の平衡状態を維持する原理が、母性原理」(河合隼雄)

・日本の景観の特徴は、「盆地の景観」「の景観」「山の辺の景観」「平地の景観」の四つの分類により、明らかにできる

・盆地には意外性という面がある。外の世界から盆地に接近する場合、谷川を遡り、深い山の中を進み、峠を越えると、そこにパッと盆地が開けるというような構造になっている。それは、人にドラマチックな体験をもたらす

・日本の庭園には、池が不可欠。日本庭園の池は、そもそも海を模したもの。池の水面は、居住者に安楽な休養を与えるようにしつらえられた

・日本の地形を流域系で見ると、谷-盆地-谷-平野-海という構造になっている。流域に沿って、広がりのある平地をもった盆地、平野が点在し、それらをつなぐ形で谷がある

・人は、広がりのある場所において、背後による所がないと、何となく落ち着かない。日本における山を背にした集落の立地傾向も、そうした心理傾向から生まれたもの

・山の辺の景観の中でも、背後に山を負い、左右は丘陵に限られ、前方のみ開いているタイプの景観は「蔵風得水」景観。これは、深層心理学的に言えば、人間にとって最も快適とされる眺め(子宮からの眺めや母の膝に抱かれて見る眺め)と同じ形

風水思想で吉とされる地は、日当たりがよく、風も吹き抜けず、前方に眺望が備わる落ち着いた雰囲気の地。この地では、誰しも、玉座にゆったりと坐った天子の気分に浸れる

・「みなと」は水門で、両側からせまった水の出入口を意味する。「やまと」は山門で、山に塞がれた内部の地である盆地の総称

街道並木は、平地の景観を代表するもの。平地が支配的な大陸と違った山国日本は、水上交通に比べて、人馬による陸上交通は難儀を窮めた。街道並木が歴史に登場してくるのは、平地の開発が進み始めた戦国時代以降

・徳川時代の百万都市江戸の四季の名所は、郊外の山の辺(丘の辺)と隅田川などの川の辺に集中する。眺望が開けている水の辺には、日の出、納涼、月見、雪見の名所が多い

・景観というのは、凸型の彫刻的景観と凹型の空間的景観とが組み合わさったもの。凸型景観=意志のイメージ、凹型景観=休息のイメージという関係を知れば、景観の構造をかなり明確に説明できる

・人間も含めたすべての動物にとって、棲息に適した棲息地・棲処の基本条件は、「自分の姿を見せることなく相手の姿を見ることができる」ところ。自分の姿を隠す「隠れ場所」と相手の姿を見る「眺望」が備わったとき、美的な満足感を得ることができる

・巨大な建築物や施設を点景化し、背景の自然景観に馴染ませていくためには、「危険と見えない」「人間のための施設に見える」「目立たない」といった考え方で対処する

・日本人は、最も目立つ凸型地形の場所に、これ見よがしの構築物を建てることは好まなかった。山に建てられた寺院や塔を見ても、ほとんどが山の辺山腹であり、背景の山に包まれ、収められてこそ、美しさも増し、日本的な母性的景観が保たれる

・山の辺・水の辺と居住地との間に緑地や帯状の公園を導入し、「間」を取りながら、居住地を山の辺・水の辺に連続させていく必要がある。さらに、これらの山の辺・水の辺は居住地からよく見え、しかも近づきやすくなっていなければならない

・「屋外階段」により、上の階の人々と通りの生活が結ばれる。通りに面する屋外階段は、「腰をおろせる階段」になるし、階段の踊り場は、通りを見下ろす「テラス」にもなる



日本の景観は、明治以降、「男性原理」によって破壊され続けてきたことを、日本人が好む「母性原理」を解明することで、説明されている素晴らしい書です。

本書を読むと、しっくりいく、馴染む、落ち着く、気持ちがいい、こんな感情の奥に潜むものを大事にすることが、日本文化の奔流だと気づくのではないでしょうか。


[ 2013/07/07 07:07 ] 環境の本 | TB(0) | CM(1)

『自己組織化で生まれる秩序: シロアリ・量子ドット・人間社会』荒川泰彦

自己組織化で生まれる秩序: シロアリ・量子ドット・人間社会自己組織化で生まれる秩序: シロアリ・量子ドット・人間社会
(2012/09/14)
荒川 泰彦、松本 忠夫 他

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本書は、生物学系、工学系、社会学系の4名の教授が、「自己組織化」をテーマに、知を競い合う内容になっています。

生物の社会と人間社会の類似点を探ることによって、ハッと気づかされることがあります。この本のテーマ「自己組織化」についても、考えさせられることが多々ありました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・自己組織化とは、システムの下位レベルを構成している多くの要素間の相互関係に基づいて、システム全体レベルにおけるパターンが創発する過程のこと

・成熟社会あるいは持続可能な社会は、一見して停滞的で活力がないように見えるが、こういう社会にこそ活力が必要

・「内破(インプロージョン)、つまり内から爆発していく力によって、自己組織化が行われる」(哲学者ベルグソン)。成熟社会は、変化を通じた持続であり、変化をしない持続ではない。変化を通じた持続が活性化しているときに創造的進化が起こる

・企業でも社会でも、環境変化に右往左往せずに、内から爆発する力を発揮する組織へ転換するのが、管理を超えたエンパワーメント。近代社会は、効率化して確実さを求めようという反応に陥りがち。しかし、新しい価値は不確実性に耐え抜いたとき創造される

・今では、人の行為原則がかなり変わってきている。それをうまく活かすには、「管理」ではなく「編集」という考え方が必要になる

・自己組織化の第一の要因は「ゆらぎ」。これは、物理学で言えば、平均値からの揺れ。社会学で言えば、変則的な行動

・自己組織化の第二の要因は「自己言及」。制御によるゆらぎつぶしにあえば、ゆらぎからの秩序形成は起こらない。ゆらぎの中から、次の可能性(新たな秩序の種)を増幅させていく役割を果たすのが自己言及

・自己言及性は、しばしばシナジー現象を誘発し、これによりゆらぎが自己強化されて、新たな秩序形成へ向かう現象が引き起こされる

・高度経済成長時代のように、経済が繁栄してイケイケどんどんのときには、抑えて抑えてという「秩序維持の力」が作用しないと、社会が解体してしまう危険がある。しかし、低成長期、安定成長の状況になったときに必要なことは「活力

・社会の安定が求められているときこそ、個々の要素が活力に満ちている必要がある。これがベルグソンの言う「持続とは変化なり」ということ

自己組織化を促す条件とは、「1.創造的な個の営みを優先させる」「2.ゆらぎを秩序の源泉とみなす」「3.不均衡ないし混沌を排除しない」「4.コントロール・センターを認めない」の四つ

・物質であれ、生物であれ、人間社会であれ、内在するエネルギーやメカニズムがある種の法則に従って作用した結果、私たちが目にする「雪の結晶」のような形のものが現れる。そういう意味で、雪の結晶は自己組織化を最もよく象徴するものの一つ

・管理なしで頑張っている企業は200人が限界。部課長制を廃止して、問題が起こる度に、皆で会議ばかりやっている200人規模の会社があるが、それでは時間を浪費するばかりだと思われるが、実際には、二十数年もの間、好業績を維持している

・「ゆらぎ」を歓迎することが大事。変則的なことを考える人を抱え込んでおくこと。その割合は5%くらいが適当。大きな組織であれば、それくらいの人が変わったことをやっても、大勢に影響はない

・結局はフェイズ(局面)の問題。日常的に活発に働くのではなく、厳しい局面に備えて待機すること。軍隊にしても、演習こそはしているが、あまり働いてはいない

・シロアリも人間も従属栄養物といって、植物がつくった有機物に依存して生きている。ところが、シロアリは、同じ植物でも、死んだものを餌にしている。それは、シロアリが共生生物と共に生きているからこそできる。人間は悲しいかな未だそれができていない

・ソビエト連邦が崩壊したのは、社会主義が負けたからではなくて、社会の運営をすべて管理できるという思い込みが間違っていたから。たくさんの人間をいちいち管理できるわけがない。その管理コストは、経済的な生産性を駆逐するほど高くつく



本書を読むと、波風立てずに、人の言われるとおりにするというのは「高度成長時代の考え方」。みんなが張り切ろうとするのが「安定成長時代の考え方」。一見逆に思えることが、組織の真実であるとわかります。

力には、自分で変わろうとする力と、外圧に対応して変わる力の二つがあり、自己組織化とは、自分で変わろうとする力です。現代を生きる我々日本人は、もう少し、波風立てて、自分の思い通りに生きてもいいのではないでしょうか。


[ 2013/06/19 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『自由貿易神話解体新書―「関税」こそが雇用と食と環境を守る』関良基

自由貿易神話解体新書―「関税」こそが雇用と食と環境を守る自由貿易神話解体新書―「関税」こそが雇用と食と環境を守る
(2012/09)
関 良基

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著者は、京都大学農学部森林学科卒の経済学者です。学生時代、フィリピンの熱帯林保全、中国の森林再生の方策を現場調査し、森林破壊の原因は、すべて経済にあると感じて、経済学者になる決意をされた方です。

異色の経済学者である著者の視点は、従来の経済学者にない、地に足の着いたものに感じられました。自分の目で見てきた世界の森林や地域から経済を論じる学者は、他にはそういません。この貴重な意見の一部を要約して、紹介させていただきます。


・今日の世界の窮状を生み出した原因は、金融の自由化・規制緩和のみにあるのではない。「貿易自由化」と「金融自由化」の両輪が生み出したもの。米国の金融立国戦略は、貿易自由化の結果として発生した巨額の貿易赤字に対処するために必要だった

・米国は、巨額の貿易赤字を、資本収支の黒字で埋め合わせるために、金融商品を世界にばら撒くには、各国の金融規制を骨抜きにして、自由化を促進し、アメリカの金融制度基準をグローバルスタンダードとして押し付ける必要があった

・世界経済を正常な状態に戻すためには、金融規制のみでは不十分。貿易自由化が生み出すグローバルな不均衡を取り締まらない限り解決できない。そのためには、不均衡を調整するための関税の必要性を認めた秩序ある貿易システムを再設計する必要がある

・近代産業では、多くの場合、規模の経済効果や学習の効果が働くので、製品一単位当たり生産コストは時間とともに減少する。だが、新古典派経済学には、「時間」の変数が登場しない。歴史的な発展過程を扱う学問に時間概念がないのは、とてつもなく奇妙

・百歩譲って、工業製品の貿易自由化は許容しても、農産物や天然資源には、自由貿易の原理に適さない多くの理由がある。工業は、生産量拡大によって、単位生産費用が減少(利益が増大)する性質を持つが、農業はその逆で、生産費用が増大(利益が減少)する

・売れば売るほど利潤が増える世界(収穫逓増)では、国境は邪魔くさい存在で、関税の撤廃を望む。しかも、収穫逓増の性格が強いほど、グローバル独占は成立しやすい。ソフトウェア産業では、いったん開発すれば、コピーする追加コストはほとんどかからない

・農業の場合、労働、資本という二つの生産要素に加え、土地という生産要素の寄与度が大きく、土地生産性は土壌肥沃度や日射量など天与の自然条件に大きく規定され、さらに光合成の限界という人間の力では越えられない上限がある

・「後発工業国は、技術的に追いつくまでは保護関税等を駆使して、安価な工業製品の流入を抑え、先進水準に追いついた段階で関税を引き下げていけばいい」(フリートリッヒ・リストの幼稚産業保護論

・途上国の多くは、関税は税収の大きな柱。その途上国に「原則関税撤廃」を要求することは、国によるインフラ開発や社会保障、所得再分配の機能を麻痺させる。1960年当時の米国は、日本の保護関税措置を許していた。日本人は感謝してもしきれないくらい

・失業を増やして内需を縮小させる生産の効率化競争をするのではなく、内需拡大と失業対策と新産業育成策がセットになるような政策を実施しなければならない

・工業製品は、生活必需品ではないので、価格の変動によって需要は大きく変動する。高ければ買わない、安ければ買う量が増大する。しかし、生活必需品の食料はこうはいかない。貿易を自由化しても、国際的に農産物の需要量は急に大きく増えない

・農業は「労働」と「資本」のみならず、「土地」という生産要素が必要。しかも、この第三の生産要素である「土地」の寄与度が大きい。自然条件の差異に基づく土地生産性の劣位を、競争の中での努力で克服することなどできない。この点、工業とは決定的に違う

・中国とインドが高関税で国内農業を保護する方策であれば、世界の食料危機を回避しつつ、両国の賃金水準を押し上げることにつながる。結果として、先進国の労働者の雇用条件も安定させるという三重の福音をもたらす

・アマゾンの森林消失の約30%は大豆栽培面積の拡大で説明できる。中国を初めとした途上国が、農産物貿易の自由化によって大豆輸入を増やしていることが、急激なアマゾンの森林破壊を生み出す要因となっている

・中国やインドや日本のような零細的土地所有構造をもち、それゆえ国際競争力のない国々が、再び国内農家の保護政策に舵を切って、大豆や菜種油の国産化に努めれば、ブラジルやインドネシアの熱帯林開発圧力は消え、地球のCO2排出量を一挙に20%近く削減できる

・人口減少時代に突入した日本は、ゆるやかな分権型社会を構築しつつ、エネルギーと食料の自給率を上昇させ、安心と安全を重視する社会へと質的な転換をはかるべき



十分な情報がないまま、TPPの賛否が論じられています。声の大きい団体の意見が、まかり通っているのが現実です。

地球全体にとってベストな決断は?次世代にとってベストな決断は?それらを判断する材料があまりにも少ないように感じます。本書は、その判断材料になる貴重な書ではないでしょうか。


[ 2013/05/20 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『日本の渚―失われゆく海辺の自然』加藤真

日本の渚―失われゆく海辺の自然 (岩波新書)日本の渚―失われゆく海辺の自然 (岩波新書)
(1999/04/20)
加藤 真

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渚が減っています。なくなった渚を復元する動きはありますが、その人工渚は、元の渚には、ほど遠いものです。

著者は、渚が減れば、どんな影響が出るのかについて言及されています。興味深い点が多々ありました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・海と陸の接点が渚。そこには、流れ込む川があり、満ち引きする潮があり、うち寄せる波がある。渚は「海の縁」にすぎないが、生物の多様性と豊饒さが、この渚にある

・渚の豊饒さは、人間の暮らしを豊かにするだけでなく、海の浄化とも関連する。生物たちが、活発な食物連鎖を繰り広げ、渚生態系の有機物の分解と循環を担う

・渚は「河口」「干潟」「藻場」「」「砂浜」「サンゴ礁」「ヒルギ林」の7つに類型できる

・川が人間の制御を受けず、自由に流れていた時代、平野には広い氾濫原が広がっていた。氾濫原には、水の流れ、淀みがあり、それらの水路網が低湿地の自然を作り上げていた

・川の氾濫は肥沃な土壌とともに、大きな被害ももたらした。日本の農業は、川が「あばれる」のを制御する歴史。そのため、氾濫原の中に、堤や水路が整備されていった

・一般に植物は、塩分濃度の高い場所では生育できないが、ヨシは塩分濃度が海水の半分くらいの河口まで生育する。ヨシの根は泥の中に縦横に広がり、軟弱な泥をつなぎとめ、泥中のリン等の栄養塩類を吸収する

・河口は、堆積する有機物の多くを沈殿、分解することで、未処理分だけを海に流す濾過装置。その機能を支えているのが、河口をおおうヨシとそこに生息する無数の生物

・波や海流によって運ばれてきた砂は河口に砂州をつくり、河口をふさぎ、海岸線の後背地にを形成する。潟の中には、海との連絡を失った淡水湖になる潟もある

・干潟は一面、泥の世界。草も海藻もほとんど生えていない。しかし、干潟の泥の表面には珪藻を初めとする微細藻類が繁殖している。干潟に礫があれば、その上に小型の葉状藻類がつく。緑藻、紅藻類などのノリ類が春の干潟の礫の表面を染める

・干潟の砂泥中の「濾過食者」はプランクトンなどの餌を、濾し取って食べる。二枚貝がその代表。無数の「貝の目」は干潟における海水の浄化能力の尺度

・渚には、海草の藻場が形成されている。海草は、海藻とは異なり、根と葉をもち、水や栄養塩類を運ぶ組織や、光合成によって生じる酸素を運ぶ組織をもっている

・富栄養化や汚染は、アマモ場を減少させ、内湾漁業に深刻な影響を与えている

内湾の渚がヨシ原で縁どられているのと対照的に、外洋に面した渚は、砂丘と松林によって縁どられている。砂浜に打ち寄せる波は、砂を海岸線に押し上げて砂丘を作る

・松林よりも海側の砂丘の上には、砂浜植物の花畑が広がっている。砂浜植物は、炎天の灼熱の下、強風と砂嵐の中でも、砂を大地にしばりつけてくれている

・海辺の村にとって、砂丘は天然の防波堤であり、松林は天然の防砂垣

・多くの砂浜が直面している問題は、海岸線の後退。河川にダムができ、川は、土砂を山から海へ運べなくなった。ダムは数十年で埋まり、埋まったダムは、発電機能も貯水機能も防災機能も果たさない。それどころか、崩壊すれば、大災害を引き起こす

・現在、盛んに行われている人工渚の造成は、砂の搬入によって、渚の土壌の生物を生き埋めにし、砂の浚渫によって、砂地の生態系を破壊する行為

・サンゴの島の海岸林の海側に広がっているのは、輝くばかりの白砂の浜。干瀬の外側には、サンゴが群落を成し、大波から島を守っている

・サンゴ礁は炭素を地殻へと封じ込める装置。サンゴ礁保護は、地球温暖化の問題とも関連している

・ヒルギは、干潟に生える塩生樹(マングローブなど)。ヒルギ林の荒廃は、サンゴの海の富栄養化をもたらし、サンゴ礁生態系の荒廃をもたらしている

渚を破壊してきた大きな要因は、「埋め立て」「浚渫」「富栄養化」「汚染物質の流入」「森林伐採・土地改良工事」「河口堰建設」「人工護岸化」「帰化生物の侵入」など



渚を破壊するデメリットとは何かを教えてくれるのが本書です。子々孫々の世代に渡り、メリットがあれば、止むを得ないことなのですが、今の世代のメリットだけで、渚を破壊することは、絶対に止めなければいけません。

感情的ではなく、合理的に、客観的に、渚の意義を考えさせてくれる良書です。


[ 2013/05/12 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『生物学的文明論』本川達雄

生物学的文明論 (新潮新書)生物学的文明論 (新潮新書)
(2011/06)
本川 達雄

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「ゾウの時間ネズミの時間」が有名な本川博士の本を紹介するのは、「世界平和はナマコとともに」に次ぎ、2冊目です。

本書の後半は、本川博士が、生物学の枠を飛び越え、人間社会の文明について論じる興味深いものです。生物学、生態学を知り尽くした天才が考える文明論の中に、面白い箇所が数多くありました。その一部を要約して、紹介させていただきます。



・生態系は、「供給サービス」(暮らしに役立つ物品の提供)、「基盤サービス」(エネルギー供給、水の循環、大気の維持、土壌形成)、「調整サービス」(洪水・土砂崩れ防御、排水浄化、害虫防御)、「文化的サービス」(レクリエーションの場)の四つの恵みを与えてくれる

・日本のサンゴ礁の生態系サービスをお金に換算したら、漁業として年間100億円、レクリエーションとして2400億円、防波堤の役割として80~800億円。全世界の生態系のサービスをすべて見積ったら、年間16兆~54兆ドル。これは世界のGDPに匹敵する

・科学は普遍性を大切にする。いつでもどこでも何にでもあてはまる法則が科学では重要。ところが、生物は個別主義でご当地主義。異なる環境ごとに、適応した異なる種がいる

・生きているとは水っぽいということ。水っぽければ、やわらかく、しなやかで、自分の力で動きまわり、周りの風や流れの力を受けて揺れ動く。死ねば、水気が失われ、硬く動かなくなる。「生きている=水っぽい=やわらかい=しなやかに動く」という図式が描ける

・生物は長い進化の歴史を通して、環境に適応したものが生き残ってきた。生物の重要な特徴の一つは、環境に適応していること。適応とは、環境と相性がいいことやさしいこと。つまり、生物は環境にやさしいデザインをもっており、そのデザインの宝庫が生き物

・変温動物では、食べ物から吸収したエネルギーの30%が肉になる。恒温動物では、その97.5%が維持費に使われ、消えてなくなる。体の成長や子孫という形で肉に変わるのは2.5%。恒温動物は、いつでもきびきび働けるが、その代償として、極めて大きなものを支払う

・穀物を食べさせて牛に肉を作らせるより、人間が直接穀物を食べた方が無駄が出ない。食料問題を考えれば、ビフテキ、ビーフバーガー、牛丼を賞味する文化は問題が多い

・ハツカネズミの寿命は2~3年、インドゾウは70年近く生きる。時計の時間で比べれば、ゾウは桁違いに長生きだが、一生に心臓を打つ数は、どちらも同じ15億回

回る時間が生物の時間。古典物理学の時間は、まっすぐに流れ去る「直線的時間」。日本人は回る時間の中で生きてきた。60歳で還暦、これは、時間が回る(暦が回って還る)という考え方。仏教の輪廻転生は、生まれ変わるたびに、時間をゼロにリセットすること

・続くものをデザインしようとすれば、回せばよい。生命は回るデザインを持つことにより、ずっと続くことを可能にしている。現代人は、一直線に進んで、必ず死で終わる時間しか考えない。生命の時間には、回って続くという側面のあることを忘れないでほしい

・文明の利器と言われるものは、便利なもの。「便利」とは、速くできると言い換えられる。結局、エネルギーを使って、時間を速めるのが文明の利器

・地球温暖化も資源エネルギーの枯渇も、元はと言えば、じゃんじゃん石油を燃やして、時間を速めているのが原因。時間をもう少しゆっくりにして、社会の時間と体の時間をかけ離れないようにして、時間環境問題を解決すれば、温暖化もエネルギー問題も解決する

・子供も孫も私、そして、環境も私。今の日本人は、自分の体が占めている空間と体の一生の時間、それ以外は私でないととらえている。だから、環境のことも、死後のことも、私とは関係ないと思っている。このへんで、私の見方をもう少し広くとらえることが必要

・現代人は、「より速く」「より長生きに」と、時間の欲望を満たすことに莫大なエネルギーを使っている

・老いの期間の一時期であれ、次世代のために働き、そして、志として、次世代の足を引っ張らないという姿勢をずっと持ち続けていれば、後ろめたさの少ない老後を過ごせる

生殖活動の卒業は、利己的遺伝子の支配からの解放を意味する。だから、定年後は利己的な価値観や経済至上主義に縛られることはない。利己主義から自由になり、次世代の住みよい社会のために、ゆったりと身体のペースで働きながら、慎ましい生活を楽しむこと

・生物学的に言えば、子供は私であり、孫も私であり、私、私、私と、私を伝えていくのが生物。だから、私の範囲をとらえ直し、未来の私まで勘定に入れた利己主義になること



生物学的に見て、人間とはいかなる存在であるかを見つめ直すと、人間社会の哲学も宗教も変わってくるように思います。

人間も生物の一種なのですから、その自覚を持ち、再度、哲学、宗教を練り直し、新しい考え方を構築しなければいけないのかもしれません。


[ 2013/04/04 07:02 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『1食100円「病気にならない」食事』幕内秀夫

1食100円「病気にならない」食事 (講談社プラスアルファ新書)1食100円「病気にならない」食事 (講談社プラスアルファ新書)
(2010/08/20)
幕内 秀夫

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1カ月1万円生活という番組がありますが、食べる(カロリー摂取)だけなら、デフレと加工食品隆盛の日本社会において、そんなに難しいことではないように思います。しかし、栄養バランスも考えて、それをどう実行していくかは難しいところです。

著者は、「昔の日本人の食生活」を見習えば、1カ月1万円、つまり、1食100円で、栄養バランスも考えた食生活を簡単に実行できると述べられています。参考になる点が多々ありました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・基本中の基本は「ごはんとみそ汁」。それに、野菜・海藻・豆・魚を素材とした副食(おかず)が、2~3種類あれば十分。また、副食が漬物・佃煮・煮豆のような保存食であれば、そのあとも何日もおかずの一つに加えることができるので、より経済的

・長寿村のお宅を訪ねたら、その家の台所には、換気扇がなかった。料理に油を使うことがほとんどないとのこと。「体の中をきれいにしたいなら、換気扇をきれいにしろ」というたとえがあるほどだから、この家の人たちの内臓はずいぶんきれいなはず

・長寿村のお宅には、「マヨケソ」(マヨネーズ・ケチャップ・ソース)がなかった。料理の味つけは、塩、みそ、しょうゆだけとのこと。味つけは高カロリーの「マヨケソ」ではなく、低カロリーの塩、みそ、しょうゆであっさりがいい

・日本の伝統食は、そればっかり食べる「ばっかり食」。そのときどきにとれた食材を常備食にしている。そこには、「バランス」だとか、「栄養素」だとかいう理屈はどこにもない

・みそ汁のだしに煮干しを使い、豆腐とわかめとねぎを具として入れれば、それだけで必要な要素(野菜・海藻・豆・魚)をすべて満たすことができる。加えて、常備食が一つ二つあるだけで、ごはんも進む。そして、最後にお茶を飲む。これが日本人の典型的な食事

・日々の献立を考えるときも、「ごはんとみそ汁」プラス「野菜・海藻・豆・魚」の四つの副食から選択すれば、悩まなくてもすむし、それだけで「間違った食事」にならない

・厚生労働書は少し前まで、「1日30品目」を食べるように奨励していた。たった1日でも、30品目食べるのは至難の業。ましてや、毎日食べ続けるなど、とうてい無理な話

・日本人は、昔から、ごはんとみそ汁と少しの常備食だけで元気に生きてきた。戦国武将など、雑穀の入った握り飯に、みそを塗っただけのものを食べながら、ずっと戦っていた

・たばこ、コーヒー、酒、これら「三大麻薬」をやらない人は、砂糖や油にはまる人が多い。ケーキ、チョコレート、ポテトチップスは「ただのお菓子」ではない。四つの精製調味料(砂糖、塩、油脂、うまみ調味料)が三つ以上重なると、依存症や常習性が増大する

・誤った減塩信仰に踊らされて、塩分を気にするくらいなら、むしろ、油と砂糖のとりすぎに注意すべき

・人間は、赤ちゃんのときから、いも類や穀類の甘みを好む。これはでんぷんの甘さで、日本人は、それを主にごはんからとってきた

・30~40代の男性の多くは、21時以降に夕食をとる。寝るのは24時。起床まで6時間程度。朝は胃が重たく、ごはんがおなかに入らない。こういう現実を知らない呑気な評論家は、昔のように早い時刻に夕食をとっていると思い、「しっかり朝食を食べよう」と言う

・みそ汁の具には、季節を感じる旬の野菜を入れられれば理想的だが、旬の野菜が高くなっているとき、おすすめしたいのが、安くておいしい「もやし」

・人間は、暑いとものを噛みたくなくなる。「喉をスルッと流れていくものをくれ」という信号が脳に送られる。夏は、「冷や汁ごはん」(冷たいみそ汁をごはんにかけて食べる)で、食欲増進すればいい

・現代人の多くは夜型の生活をしている。そのため、朝昼晩の食事時刻が、7時・12時・22時くらいになっている。昼食と夕食の間があきすぎているため、おやつを口にする人が多い。本人は、おやつのつもりで食べても、実際には、お菓子が夕食になっている

・弁当づくりの基本は、「ごはん8、おかず2」の割合で詰めること。「弁当は手間がかかってたいへん」と言う人は、ごはんを2~3割しか入れないから。ごはん8割なら、かける時間が1分~3分の「1分弁当」で弁当づくりができる

・冷凍庫と電子レンジを上手に利用すれば、いいおかずが用意できる。最近の冷凍食品には、油をほとんど使わない和総菜もある。それらを使えば、油まみれの弁当を改善できる



ごはんは1杯約30円です。2杯食べても60円。それだけで、320カロリーが摂取できます。そのごはんを中心に、日々の食事をどう組み立てていくかを基本としているのが本書です。

お金がかからず肥満にならず病気にならず」、夢のような食事が、昔の日本の食生活をそのまま真似るだけというのは、何とも皮肉なものです。本書には、昔の常識に戻ることで、食生活を改善していく術が丁寧に記されていると思います。


[ 2013/02/16 07:03 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『働かないアリに意義がある』長谷川英祐

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)
(2010/12/21)
長谷川 英祐

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著者は、昆虫生態学を専門とする生物学者です。生物学者の本は、われわれに生きていくヒントをいっぱい与えてくれます。

本書には、集団と個の最適な関係のヒントが記されています。働き者とされるアリでも、働かないアリが案外多いのはなぜか?その理由も含めて、賢い生存戦略には、興味がひかれるところです。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・人の世がなぜ住みにくいのか?それは「他人のいる社会」だから。社会の中で生きていると、自分の「こうしたい」思いと、社会からの要請の狭間で煩悶することになる

・個人の利益だけを追求すると、他者との協同を必要とする社会がうまく機能しなくなる。かといって、社会の利益を前面に押し出しすぎると、個人の不満が鬱積し、社会に貢献しようという気運が薄れる。個人と社会の関係のあり方が人生の複雑さを生み出している

・巣の中の7割ほどの働きアリは「何もしていない」。これはアリの種類を問わず、同様。働かない働きアリは、自分の体を舐めたり、目的もなく歩いたり、ただぼーっと動かないでいたりするなど、労働とは無関係の行動ばかりしている

・女王や幼虫や卵の世話、食料集め、巣の拡張や修繕、仲間の世話などの仕事は、いつ何時、どの規模で必要になるか決まっていない。ヒトの社会もムシの社会も、決まった仕事を決まったスケジュールでこなせばよいのではない。突然予定外の仕事が湧いて出てくる

・変動環境のなかでは、「そのとき」が来たら、すぐ対応できる、働いていないアリという「余力」を残していることが実は重要

・ムシたちは、新たな仕事が生じると、その処理に必要な個体が集まってきて処理する。この際、動員のためのフェロモンや接触刺激による最小限の情報伝達はあるが、人間社会のような上位から下位への階層的情報伝達は一切なく、仕事の処理が行われる

・ハチもアリも、若いうちは幼虫や子供の世話をし、次に巣の維持に関わり、最後は巣の外へエサを取りに行く。年齢に伴う労働の変化は「齢間分業」と呼ばれる。初めは安全な仕事で、余命少なくなっての危険な仕事への異動は、労働力を無駄なく使う目的に適う

・「間違える個体による効率的ルートの発見」によって、エサ持ち帰り効率が上がることがある。お利口な個体ばかりいるより、ある程度バカな個体がいるほうが、組織としてはうまくいくということ

・腰が軽いものから重いものまで、万遍なくおり、しかもサボろうと思っているものはいない、という状態になっていれば、司令塔なきコロニーでも、いくつもの仕事が同時に生じても、それに対処できる

・働かない働きアリは、働くつもりがないから働かないのではなく、働きたいけど仕事にありつけない個体であると考えられる

・動物は、動くと必ず疲れるし、疲れを回復させるには、一定期間休息をとらなければならない。これは、動物が筋肉で動いている限り、逃れることのできない宿命

・仕事が一定期間処理されない場合、コロニーが死滅するとき、働かないものがいるほうが、コロニーは長い時間存続する。働いていたものが疲労して働けなくなると、仕事が処理されずに残るが、いつも誰かが働き続ければ、コロニー内の労働力はゼロにならない

・働かない働きアリは、怠けてコロニーの効率を下げる存在ではなく、それがいないとコロニーが存続できない、極めて重要な存在

・社会の利益にただ乗りして、自分の利益だけを追求する裏切り者ではなく、「働きたいのに働けない」存在は、本当は有能なのに、先を越されてしまうため活躍できない不器用な存在

・アリやハチのワーカーが、社会をつくって他者のために働くのは、滅私奉公しているわけではなく、そうしたほうが、自らの遺伝的利益が大きくなるからと考えられる

・利他行動とは言うが、最終的には自分の利益になる行動をしているわけで、多くの利益を上げる行動のみが進化する、という進化の原則にしたがっている

・社会性昆虫は、複数個体が協同する(群れを形成する)ことで、防衛と採餌と巣の維持などの複数の仕事を同時に処理できる。さらに群れの効果には、捕食者への威嚇や、体温の保温効果もある



本書を読むと、なくてもいいような仕事をしている人をどれだけ抱えておれるかが、その集団の強さであることがよくわかります。

緊急時に、そういった仕事についている人が、不可欠とされる仕事にすぐに付く体制ができていればいいだけではないではないでしょうか。集団とはそういうものかもしれません。


[ 2012/10/24 07:02 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『キノコの教え』小川眞

キノコの教え (岩波新書)キノコの教え (岩波新書)
(2012/04/21)
小川 眞

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数ヶ月前、深夜に何気なくラジオをつけたら、この本の著者である小川眞先生が、菌の話をされていました。途中から聴いたのと、半分眠っていたので、あまり記憶に残らなかったのですが、大変面白そうに感じました。

その後、先生の名をネットで検索し、最新刊の本書を見つけました。この本は、キノコのことを学術的かつユニークな視点で分かりやすく書かれています。その中から、特に面白く感じた箇所を、紹介させていただきます。



・菌と言うと細菌、すなわちバクテリアを連想する人もいるが、これはまったく別物。生物を五つの大グループに分けて考える五界説では、菌類が、動物界、植物界などと並んでいる。菌類が自然界に果たす役割は極めて大きい

・菌類の栄養のとり方は、根本的に植物と違っている。地球上に生まれたときから、葉緑素を持たなかったので、他の生物に依存して生きるしかなかった

・「腐生菌」(死んだ植物体から栄養をとる)、「寄生菌・殺生菌」(他の生物に侵入して栄養をとる)、「共生菌」(上手に馴れ合って暮らす)。菌類には、「腐生」「寄生」「共生」の三つの生活法がある

・キノコが傘形になったのは、ひだが雨に濡れないようにというだけでなく、地上から一定の高さで傘を広げると、流体力学の原理で、胞子が風に乗りやすいから

・キノコを食べるのは人間だけでない。サルは、シイタケのつぼみとマツタケを食べ、シカは、マツタケの傘やアンズタケを食べる。リスやネズミは、キノコ好き。カタツムリ、ナメクジ、ハエ、ダンゴムシなど小動物もキノコにたかる

・キノコは生態系の中で、微量のものを生体濃縮して循環させる役割を果たしているが、ときには、重金属や放射性物質など、厄介なものを吸い上げる

・有機物の少ない酸性土壌では、キノコによるセシウム吸収量が多くなる。セシウムはアルカリ金属で、カリウムと元素の周期表の上で並んでいるので、菌がカリウムと混同して吸収している可能性が高い

・日本人がマツタケに魅せられたのは万葉の時代から。江戸時代には、食生活も豊かになり、西鶴の「世間胸算用」にもあるように、畿内では、紅葉狩りやお花見などと並んで、マツタケ狩りが流行った

・15世紀末ごろから、干しシイタケが料理によく出るようになる。1465年には、足利義政にシイタケを贈った日記があり、安土桃山時代には、栽培が始まり、豊臣秀吉も好物だった

・アメリカで流行っているキノコ栽培は、その大半が日本で栽培されたもの。ここ数十年間で、日本のキノコ栽培が世界中に広がった

・元寇のとき、嵐にあって沈んだ元の船は質が悪かった。元の支配下に入り、高麗では森林破壊が進み、大木がなくなり、急いで造船したので、木材が乾かず、キノコがついて腐り、大波に合い、ひとたまりもなかったという説もある

・世界の森林は、今、「燃える枯れる伐られる」の三重苦に悩んでいる。20世紀に入って枯れているのは、自然に育っている木である。菌根菌の種類や量が明らかに減っているのも、その一因と考えられている

・枯れたマツを炭にして埋めれば、マツが元気になる(菌根菌がつき、根の寿命が延びる)。すると、ショウロ(窒素を利用してアミノ酸を作るキノコ。すまし汁でもおいしい)が増えて、動く砂の粒をつないで固め、砂丘の表面が安定する。まさに一石三鳥

・キノコと樹木の共生には、偏利共生、相利共生、任意共生の三通りのタイプがある。俗な言い方をすれば、「偏利共生」はヒモ、「相利共生」は相思相愛、「任意共生」は今晩おひま、ということになる。この共生現象は、人間を含むあらゆる生物に通じる原則

・共生は、まず相手を対等と認めるところから始まる。もし、自分のほうがより優れていると思えば、相手を軽んじて抑圧することになる。劣っていると思えば、卑屈になって妬ましく思う。「優越感と劣等感」「嫉妬と羨望」は、強烈な破壊エネルギーを生みだす

・一方的な押し付けは「偏利共生」であり、単なる偽善に終わる。共生して、長く生きるためには、自分の物差しに固執せず、対等の立場にあることを理解し、相手との接し方を工夫しなければならない



菌と植物の共生関係が、本書の大きなテーマですが、「共生のあり方」について、示唆することが数多く掲載されています。

例えば、人類と農林水産業は、まさに「共生状態に達した」ということです。このように、キノコを通して、見えてくることがかなります。

本書を読めば、人類が発展してきたのは、植物との共生のおかげだということが、わかるのではないでしょうか。


[ 2012/09/21 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『遺伝マインド--遺伝子が織り成す行動と文化』安藤寿康

遺伝マインド --遺伝子が織り成す行動と文化 (有斐閣Insight)遺伝マインド --遺伝子が織り成す行動と文化 (有斐閣Insight)
(2011/04/11)
安藤 寿康

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本書は、慶応大学ふたご行動発達研究センターの研究をもとに、遺伝子が、人間の心や行動や態度にまで影響を与えている事実を記したものです。

その事実をもとに、著者は、社会や教育の制度を構築していくべきとの見解を示されています。その驚かされるいくつもの事実を、「本の一部」ですが、紹介させていただきます。



・「遺伝マインド」とは、私たちの「心」が遺伝子たちの影響を受けていることを認識し、その「心構え」で、人間と社会を見ていこうとすること

・「認知能力」遺伝影響率は、一般知能77%、空間性知能70%、論理的推理能力68%、学業成績55%、言語性知能14%

・「パーソナリティ」遺伝影響率は、開放性52%、誠実性52%、自己志向49%、協調47%、神経性傾向46%、外向性46%、報酬依存44%、損害回避41%、自己超越41%、固執37%、調和性36%、新奇性追求34%

・「才能」遺伝影響率は、音楽92%、数学87%、スポーツ85%、執筆83%、音程80%、知識62%、美術56%、記憶56%、外国語50%、チェス48%

・「社会的行動」遺伝影響率は、反社会性(青年期)62%、性的初体験(男)51%、ギャンブル49%、性的初体験(女)39%、友情満足32%、ボランティア活動(女)30%、反社会性(男性成人)29%、投票行動28%、職業満足16%、反社会性(女性成人)10%

・学業成績の個人差の55%が遺伝の影響ということは、学校が職業や社会階層の選抜機能を有している中で、教育制度や教育文化の社会的意味を考えなければならないということ

ビッグファイブ(外向性、神経症傾向、誠実性、調和性、開放性)に対応する遺伝因子が、異なった文化間で驚くほど一貫して表われることは、5つの遺伝因子が文化を超えて普遍的ということ

・遺伝子と環境の交互作用において、1.「環境の自由度が高いほど遺伝の影響が大きく表われる」2.「環境が厳しいほど遺伝の影響が大きく表われる」といった、まったく正反対に見えることが起こっている

・アメリカの哲学者ジョン・デューイは、「子供の遺伝的素質を見抜くには子供の自由にさせるのがよい」と述べている

・親のしつけや養育態度が厳しすぎたり、成育経験がストレスフルでありすぎるときに、遺伝の影響(主に、精神病理問題行動反社会性)が表れやすい

・一人ひとりが、「このために自分は生まれてきた」と確信できる対象と環境に出会うことができるように、教育制度は設計されなければならない

・人間が財力と社会的地位の獲得に、あくなき欲望やモチベーションを持ち続けるのは、遺伝子に適合するように、環境をコントロールし、自らの計画を実現させたいからにほかならない

・ヒトは進化において、遺伝の影響を受けたことは、広く知られ、受け入れられているが、一人ひとりの心のあり方行動の仕方の個人差にも、遺伝子が関与していることは、まだタブー視されている

遺伝的もち味があぶりだされてくる形で、一人ひとりのニッチ構築が成し遂げられる教育環境が望まれる

・教育の目的とは、ホンモノの世界へ導き、ホンモノの世界で独力で生きる術を身につけさせること。別の言い方をすれば、教育の目的とは、教育を必要としなくなるようにすること

・高度に専門化された社会では、「才能」がなければ、他人に満足感を与え、しかもそれによって自身の幸福感や自己実現を達成できない。つまり、利己性を満たしながら利他的にふるまうことはできない

・「できない」ことを積極的に評価すべき。「才能がない」ことに気づくことは、誰もが、限られた時間で、一人前に生きていけるようになる必要がある以上、徒労を避けるための手がかりとなる。「しない」「やめる」「あきらめる」ことに教育的価値を見出すことも必要

・あなたが人よりも有利な才能、社会的地位、経済力に恵まれたのは、あなたの努力や運だけでなく、あなたがたまたまもってしまった遺伝子の組み合わせのせいである



平等主義が蔓延した社会において、遺伝はタブー視されています。しかし、本書を読めば、個々人の遺伝の特徴を生かした社会を構築することこそ、個々人が幸せを感じる社会になるように思います。

まずは、学校教育において、遺伝影響率が低い科目は全体で教育し、遺伝影響率が高い科目は、選択性で、個々人に英才教育を施すことを、始めていくべきなのかもしれません。


[ 2012/08/24 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『昆虫食入門』内山昭一

昆虫食入門 (平凡社新書)昆虫食入門 (平凡社新書)
(2012/04/15)
内山 昭一

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何年か前に、ブラックバスのフライを食べたことがありますが、美味でした。嫌われている魚でも、調理法を考えれば、人類の貴重なタンパク源になります。大人たちも、好き嫌いをなくしていかないといけません。

ところで、食わず嫌いの最たるものが、昆虫です。人類が猿の時代、昆虫と果物が重要な食糧源でした。だから、食べられないわけがないと思います。最近では、モドキ食品が多く開発されてきているので、見た目を改善することが可能です。

この本は、人類の食糧難を解決する切り札である「昆虫食」が、詳しく語られています。参考になった箇所が数多くありました。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。



・長野県は昆虫食王国。大正期の調査では、17種類の昆虫が食べられていた。今でも、店頭には、イナゴ、ハチの子、カイコ、ザザムシ(トビゲラの幼虫)などが、普通の食品のような顔をして並んでいる

・昆虫は4億年前に誕生した。それは、2億年前に恐竜に追われて、夜行性を余儀なくされた原始哺乳類にとって、かけがえのない食料であった

・「虫食」こそが人類の最も昔からの食性であり、「魚食」が始まったのはごく最近の500万年前のこと

・大正時代の「食用及び薬用昆虫に関する調査」によると、ハチ14種、ガ11種、バッタ10種、甲虫8種など、55種類の昆虫が食用とされていた。地域別では、長野県、山口県、山梨県、山形県、愛媛県の順で、41道府県で食べられていた。薬用昆虫は123種に及ぶ

・カミキリムシは昆虫食の王座に君臨する希少な高級食材。幼虫のとろける脂身の甘味は、マグロのトロに形容される。なかでも大型のシロスジカミキリの幼虫は昆虫食界の王者

・世界で食べられてきた食用昆虫は、バッタ、コオロギ、ハチ、アリ、ガ、甲虫、セミ、カメムシ、シロアリ、水生昆虫など。その蛹、幼虫、成虫、巣を食べ、調理法は、生食、飲む、漬ける、干す、味つけ、煎る、蒸す、煮る、焼く、炒める、揚げるなどざまざま

・昆虫の大半の種は、繁殖力が旺盛で、捕りすぎても心配がない。また、身近な市街地など多様な環境に生息しているので、誰でも簡単に「狩猟」に挑戦できる

・「マイナー・サブシステンス」とは、動植物の採集がもたらす喜びや生きがいといった個人の精神的側面を評価しようとするもの。従来の経済的、栄養的価値ではなく、自然との関わりを通じた人間の精神的価値を積極的に捉え直す考え

・食べ物の味には、甘い、塩辛い、酸っぱい、苦い、うまいの五つの基本味の他に辛味と渋味が加わる。さらに、香り、硬さ、粘り、温度、色、形といった情報も、食べ物のおいしさを決める重要な要素

・虫の味品評会で、おいしかった虫は、カミキリムシ、オオスズメバチ(前蛹)。まずかった虫は、カイコ、アカスジキンカメムシ、アトラスオオカブト、ゲンゴロウ、コガネムシ、トビズムカデなど

・おいしい虫の共通点は「甘味、うま味、コクがあって、クリーミー」、まずい虫の共通点は「臭くて硬い」。まずい虫には、調理法の研究(殻を取り除き、醤やニンニクを使って調理するなど)が必要

・イナゴ、セミの幼虫は高タンパク・低脂肪食品。シロアリの幼虫は脂肪が多く含まれる。コオロギ、マダガスカルゴキブリはタンパク質と脂肪のバランスがいい

・1㎡当たり何kgの肉を生産できるかを比較すると、カイコ幼虫が221kgであり、ブロイラーが105kg。カイコ幼虫はブロイラーよりも省スペース大量生産が可能

・ブロイラーには、骨や羽など人が食べられない部位を含んでいる。一般的な可食部分の肉は43%。これに対し、カイコ幼虫の可食部率は100%。昆虫一般の可食部率は成虫で80~90%、幼虫で100%

・恒温動物は変温動物より15倍たくさん食べる。恒温動物は停まっていてもエンジンをかけっぱなしにしている発車に備える自動車に似ている。サイズも小さい方が成長が早いので効率的。恒温動物よりも変温動物、大きい動物よりも小さい動物を食べた方が効率的

・優秀な食材とは、1.「種類が多く、量も豊富」2.「繁殖力が旺盛」3.「餌が人の食料と競合しない」4.「変温動物でエネルギー効率がいい」もの。昆虫食は、まさに「食料危機の救世主



人間は、小さい頃から食べ慣れたものをおいしく思う習性があります。そのためには、昆虫食などを「モドキ食品」に加工して、給食などで子供たちに食べさせていくことも大事です。

地球に豊富にある恵まれた食材を、好き嫌いせず、有効に利用すれば、人類はまだまだ、地球上に暮らしていくことができるのではないでしょうか。人類の未来のためにも、昆虫食を推進していくべきではないでしょうか。
[ 2012/07/21 07:02 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『世界平和はナマコとともに』本川達雄

世界平和はナマコとともに世界平和はナマコとともに
(2009/01/22)
本川達雄

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著者は、20年ほど前に「ゾウの時間ネズミの時間」がベストセラーになった生物学者です。
現在は、東工大の教授をされていますが、以前は、琉球大でナマコの研究をされていました。

ナマコの研究を通して、生物とはどういうものか、生物の社会はどうなっているのか、などの視点で、人間および人間社会と比較し、言及されています。本書には、面白くて、ためになる箇所がたくさんあります。その一部を紹介させていただきます。



・生命は伊勢神宮方式。定期的に自分とそっくりの子を作り、土に還っていく。作り直すには、エネルギーがいる。新品になるには、ゼロからのスタート。つまり、生物は、エネルギーを注ぎ込んで、時間をゼロにリセットしながら、くるくる回って続いていくもの

・時間を一回転させるのに一定量のエネルギーが必要。速く何度も回れば、回転数に比例して多くのエネルギーを使う。だからこそ、エネルギー消費量と時間の速度は比例する

・今の日本人は、一人当たりの体が必要とする分(食物として摂取するエネルギー)の約40倍ものエネルギーを使っている。身体同様に、エネルギーに比例して、時間の速度が速くなるとすると、現代の時間は、縄文時代の40倍の速さ

・時間とは、われわれがその中で生きているもの、つまり、時間も環境の一種。現代は、どんどん環境が加速している。これは、時間環境の破壊と呼べる事態

・六十を越す人は、縄文時代で1%、室町でも10%。今の長寿とは、医療や工業技術なしではありえないもの。これは技術によって作り出された「人工生命体

・少子化(子供を産まない個体の増加)と高齢化(子供を産めない個体の増加)の進んでいる現状とは、生物学的には大いに問題のある社会

永遠という視点を失うと、品位も失われる。私たちは、先のことを考えずエネルギーを消費し、子供に廃棄物や赤字国債のつけをまわして「良い暮らし」を続けている。精神の永遠はおろか、生物としての永遠すら失ってしまったら、生物以下

・人間らしい時間速度に戻れるのは定年後。この特典を利用しない手はない

・うまい物を食い精力をつけ、良い格好をして良い子を産みそうな相手を惚れさせ、良い家に住み、安全に子を育て、良い学校に行かせ、子孫の繁栄を図るのは、利己的遺伝子の欲求。これを満たすには大いに金がいる。だから、万事お金の世の中になってしまった

・身体の半分は筋肉でできている。機械に頼っていれば、筋肉は働けずに欲求不満になる。身体の半分が不満なら、幸せに生きていけない

・利己的遺伝子から解放されたのが老いの時間なのだから、自身の損得など度外視して、次世代のために働くことが、老いにはふさわしい

・一生懸命働くとは、エネルギーを注ぎ込むこと。そうすると、時間が速くなり、たくさんのものを作ったりできて、金が儲かる。「エネルギー→時間→金」という変換を行うのがビジネス

・島においては、大きいものが小さくなり、小さいものが大きくなる。これは「島の原則」と呼ばれる。島に捕食者がいないと、捕食者を圧倒するために、ゾウのように体を大きくしたり、捕食者の目を免れるために、ネズミのように体を小さくしたりしなくていい

・哺乳類では、密度は体重に反比例する。大きいものほどまばらに住み、小さいものほど人口密度が高い。人間は、都会という特殊な空間内では、人間らしさを一切示さない行動も必要。名前のない人たちと付き合うルールを、作るべき時に来ている

・それを選んだら、「自分にとって、どんないいことがあるのか」と考えるだけでなく、「世の中に、どんないいことができるのか」と考えて、働いていれば、人生は充実するし、野垂れ死にもしない

・東洋の社会では、地位の高い人は、和を保つために、その地位を隠す必要がある。無名性がこの社会の美学である。西洋では、野心のある人は、抜け出ようと努力し、英雄になろうとする

・大きくて複雑なシステムの様相は、計ることが難しい。豊かな様相を捉えるためには、芸術家の方法によって、より多くの意味を見出すことが可能になる。生物学や工学の分野では、芸術からインスピレーションを得るようになってきている



本書の前半部分は、「ナマコ学」というべきもので、この書評では、あえてとり上げませんでした。しかし、この「ナマコ学」からも、人生や社会のヒントを得ることができます。

また、本書は、歌あり、東西の宗教・科学比較論ありで、著者の頭の中は、とらえどころのない、得体のしれない「ナマコ」のように感じます。でも、知的興奮が得られることだけは確かです。


[ 2012/07/14 07:02 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『金沢城のヒキガエル・競争なき社会に生きる』奥野良之助

金沢城のヒキガエル 競争なき社会に生きる (平凡社ライブラリー (564))金沢城のヒキガエル 競争なき社会に生きる (平凡社ライブラリー (564))
(2006/01/12)
奥野 良之助

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研究には、すぐに役立つ実践的な研究とそうでない研究があります。本書は、その後者のほうです。研究というよりも、知的探求といったほうが正しいのかもしれません。

知的探求は、基本的にお金になりません。でも、お金にならないことを、寸暇を惜しんで、取り組むのが、本当の学問のように思います。

本書は、いい意味での学者バカの記録です。学問の本来の姿が、この本に垣間見ることができます。その数々を「本の一部」ですが、紹介させていただきます。



・ヒキガエルの生活は「雨食晴眠」。その雨食も、降雨2、3日目から雨眠になる。そして、個々のカエルが動くかどうかは、彼らの「腹具合」が決める

・カエルは口から水を飲まず、体表から土の中の水分を吸収しているから、ねぐらの土が湿っていれば水分は補給できる

・夏は夏眠、秋にはちょっと働いてすぐ冬眠、春には10日ほど繁殖に精を出したかと思うとまた春眠。ヒキガエルは最低気温が10℃を越すと採食活動を行うが、最低気温が20℃以上になると、また眠る

・ヒキガエルの労働(採食)時間は、春5日、夏1日、秋5日で、1日5時間の労働。年間労働時間55時間。繁殖時間は春に10日×5時間の年50時間。これが彼らの働きぶり

・オスはメスの3倍。だから、繁殖池にやってきても、メスと出会うことなく帰るオスが多い

・金沢城のヒキガエルの最長寿者は12歳。成熟(1.5歳)まで達したら、平均してメスで6歳、オスで7歳まで生きることができる

・ヒキガエルは、ある範囲に定住しているが、昼間もぐりこむねぐらは決めていない。夜出てきて、ミミズの一匹でも呑むことができたら、すぐ手近な穴に入り込み寝てしまう

・ヒキガエルたちは、住む場所は決めていても、縄張りなどという世知辛い所有権は主張しない。喧嘩しないから順位もない。もちろん、ボスガエルなどいるはずもない。他の個体に干渉せず、勝手に生きている。ほぼ完全な個人主義者の集まりがヒキガエルの社会

・日本のヒキガエルのオスの間には、「優秀な」オスが「優秀でない」オスを退けるといった競争はない。メスを独占するために、全力をあげて生活するようなことをしなくても、ヒキガエルは、のんびり暮らしながら、ちゃっかりと子孫を残している

・ヒキガエルは地上を動くものなら何でも食べる。アリ、クモ、ゴミムシ、ミミズ、ナメクジ、カタツムリまで餌にする

・カエルの世界では、何らかの障害を持つ個体(指切れ、指の変形異常、片足短足、足首切断)は、1~2%の率で常に存在している。障害カエルたちは死なずに健闘している

・自然に住んでいる生き物は、呆れるほど多種多様。その上、種が違えば、その生活の仕方、生活様式もまた異なる。それを「競争」というたった一つの原理で統一しようとするのが、もともと無理

・研究者は、どうしても生き物の中に競争を見ようとする。その結果、喧嘩もせず、縄張りもつくらず、のんびりと暮している生き物は、調査の対象から外され、競争的な種だけが研究される

・生き物は、発展のチャンスには、種分化特殊化によって種数を増やし発展する。その時には、激烈な競争も行われる。だが、すべての生活場所を埋め尽くせば、適応した種が生き残りを模索するようになる。その時、競争はもはや主題ではない

・生き物の世界がどうなっていようと、人間は、人間としてどう生きればいいかを考えればいい。生物界がこうだから、人間もこうでなければならない、という考えは根本から間違っている

・人間としての能力などというものは本来存在しない。存在するのは個体差。そして、それぞれの個人が、自分の意志で、その個体差を伸ばしていく。それこそが真の自由

・大学にも、ごくわずかだが、本当に研究の好きな人がいる。でも、そういう人に限って出世していない。教授になる人の大半は、研究よりも出世が好き。つまり、好きなことを出世の道具として使っている



ヒキガエルはほとんど働いていません。競争もありません。大人になれば、その後の余命も長い。結構、のんきに暮らしています。

動物は、弱肉強食で、絶えず競争していると思われがちですが、競争に生き残った種は、楽しく、自由に、仲良くやっています。

安定に甘んじると、堕落していくと思われがちですが、競争のない安定社会は楽園なのかもしれません。競争を意識している限り、豊かさはほど遠いのではないでしょうか。

このように、ヒキガエルから教わることが多々ありました。ヒキガエルの研究を真摯にされた著者に感謝したいと思います。
[ 2012/05/19 07:06 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『この地名が危ない』楠原佑介

この地名が危ない (幻冬舎新書)この地名が危ない (幻冬舎新書)
(2011/12/22)
楠原 佑介

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昔の人たちは、地名を信号として、その特徴を後世や子孫に伝えようとしました。ところが、今の人たちは、先祖が記してくれた危険信号の地名を、イメージが悪いといって消そうとしたり、いいイメージの漢字をあて字にしたりして、ごまかそうとしています。

それらを読み解き、昔の地名を甦らせて、その本当の意味するところを示そうとするのが本書です。著者の地道な努力に頭が下がる思いです。その一部を紹介させていただきます。


・サク(咲)はサケル(裂)と同じ語源で、「固く閉じていた蕾が開く」こと。桜もサク(咲)ラ(接尾語)で、溶岩と火山灰を噴き出す火山もサク(裂)ラ。桜島は、桜の名所でもないのに、人々に「桜島」と呼ばれるようになった

・福島第二原発がある「波倉」は、相当に危険な地名。「倉」や「蔵」は、動詞クル(刳)が名詞化した語。「地面がえぐられた地形」に使われる。文字通り「波がえぐった地」のこと。そのものズバリ、津波の痕跡を示す地名

・「鎌倉」の地名は、倉庫や蔵屋敷と全く関係がない。津波に何度も襲われ続けて作られた「釜」(自然に噛まれたような凹型)状の「倉」(地面がえぐられた地形)の意味

・「名取」のナは「土地」の古語。トリ(取)は、洪水・津波による土地の欠損・崩壊を示す地名

・宮城県名取市の上余田・下余田あたりは、その昔、湿地だったころ、地元住民は「よた(津波)の地」と呼んだ。やがて、「余田」の文字を宛て、ヨデンなる地名が定着した

・宮城県女川市、福島県いわき市小名浜のオナ(ヲナ)は「雄(男)波」のヲナミを下略して津波を「ヲナ」と呼んだ名残りと推測できる。岩手県宮古市「女遊戸」、釜石市「女遊部」のオナッペと読む小集落は、「ヲナ(津波)が遊水地を作るあたり」と考えるのが自然

・浜名湖は室町時代の大津波でぽっかり開口し、今の形になった。天竜浜名湖鉄道の尾奈駅あたりは、江戸時代まで尾奈郷と呼ばれていた。古くは万葉集に「乎那能乎(おなのお)」と読まれた山がある。津波が襲った先史時代の記憶がヲナの地名を今に伝えている

・「苔」の字を使ったコケ地名は「転倒する」意の動詞コケル(転)、さらにカケル(欠)にも通じるから、崩壊地形を表わしたもの

・「芋」は古くはウモと発音されたらしい。そのウモとは、「(地中に)埋もれたもの」という意味。中越地震の震源域を流れる芋川は、まさに「埋もれる川」そのもの。地震被災地周辺の中越地方には、「芋~」「伊毛」という語系の集落が7カ所ある

・中越地震で山崩れの悲劇が起きた長岡市妙見地区のミョウケンは、妙義、妙高と同じく、メゲル「損壊」をいう古語が由来。ミヤケ(三宅)という地名も、メゲ→ミョウケ→ミョウケン→ミヤケと転じたもの

・阪神淡路大震災で被害の大きかった神戸の灘(ナダ)は海の灘ではなく陸の灘。陸地のナダは地面が撫でられた、地滑り、崖崩れなどの土砂災害を表わした語。雪崩も本来は、ナ(地面、土地)タレ(垂)で、地面が崩れ垂れるという意味

・房総半島の上総(かずさ)下総(しもふさ)は、東京湾と北の古代の香取海を塞ぐように延びた地が「フサの国」。その意味するところは、「入り海を塞ぐ国」のこと

・「安房」「阿波」などアワ(アバ・アハ)系の地名は全国に無数にある。アワの地名は、「本来は地中に合ったものが地表にアバかれた地」。新潟県の粟島は「粟しか栽培できない島」ではない。地震がある度に海底が隆起して陸地になった事実認識が代々引き継がれている

・石と磯(イソ)は混用された。釜石はカマイソの転で、「釜状にえぐられた海岸」の意味

・富山石川県境の石動の地名は、イシユルギ→イシルギの転。まさに「石が揺らぐ、動く」地。関東大震災は相模トラフ付近で発生した。この断層帯に淘陵(ゆるぎ)丘陵がある。この丘陵も、石動山地と同様、典型的な傾動地塊

・赤坂見附などの「見附」とは、江戸城の見附門とは関係なく、「(湖水に接する)水付けの地」か、津波に襲われて「水漬け」になる地のどちらか

・「樋」とは、樋口という形で地名に多用されるが、「川・水路」のヒビ割れで「地面に刻まれたひび状の凹部の連続」のこと

・東京スカイツリーの「押上」(おしあげ)や埼玉の「忍城」(おしじょう)のオシは、川と川がぶつかり、土砂が押し上げられた地名

・難波と書いてナンバと読む地名は各所にある。それらは、なばえる(斜めにする)という意味。大阪の難波も元来はナバで、傾斜地のこと。湾岸の低地になびく地形のこと


土地に値段が付き、取引されるようになってから、地名の改ざんが行われてきました。先祖の人たちが遺してくれた地名の読み方を、暗号として読み解かなければいけなくなっています。

本書のような視点で、地名を推理していくことは大事なことです。地震や災害の痕跡は、科学的調査だけでなく、地名によっても知ることができるという提言に、もっと耳を傾けてもいいのではないでしょうか。
[ 2012/05/15 07:07 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『暮らしの中のおじゃま虫』上村清

暮らしの中のおじゃま虫暮らしの中のおじゃま虫
(1986/05)
上村 清

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昨年、家にスズメバチがやってきて、困ったことがありました。そのとき、スズメバチ退治の方法をいろいろ調べました。

雨が多く、急に冷えた秋は、スズメバチが好物の昆虫が少なくなり、そういう時、クヌギなどの樹液を吸うことで、冬場に備えるそうです。庭にある背丈ほどに伸びたクヌギをバッサリ切ったら、スズメバチは来なくなりました。

このように、暮らしの中のおじゃま虫は数多くいます。これらを、昆虫、寄生虫、害虫など、虫別にわかりやすく解説しているのが本書です。

虫の生態と、それらの虫の適切な対処法と駆除法を知っておくと便利です。数多く掲載されている虫の中から、「虫の一部」ですが、紹介させていただきます。



・シロアリの被害が多くなったのは、暖房設備の普及で、熱帯性昆虫のシロアリがぬくぬくと冬を越せるようになったこと。結露がシロアリの好きな湿り気を与える

・シロアリ防除剤のクロルデンは環境汚染が問題となり、使用禁止になっている。シロアリからマイホームを守るためには、家のまわりの木片、廃材、切り株などを徹底的に片づけること

・イエバエはデンプン質の食べ物を好み、卵から成虫になるまでに10日以上かかる。ゴミ回収が毎週行われるようになって少なくなった。日中は屋外に出て、日向ぼっこをし、夕方には家に戻って、夜は天井で休む

・体長0.3ミリ大のヒョウダニは、人のふけを食べて生きている。ふけがたまっている古い家にはたくさんいる。気温25度、湿度75%付近で、最も成育、繁殖がよい。じゅうたんは格好の隠れ場所。小児喘息の原因の7~8割がヒョウヒダニと言われている

・バスや電車などの座席にもダニがいっぱいいる。シートの背中や継目には、特別多く見つかる

・カレハ蛾の幼虫マツケムシは、体長6センチの大型の毛虫。触れると、胸の毒針毛を突き出す。触れると、皮膚炎を起こし、痛みの後にかゆみが2~3週間続く。イラガ科の毛虫(柿、梅、桜、栗につく)も毒棘を持っており、触れると、飛び上るほどの痛みが走る

・灯火に集まる虫を求めて、捕食性のムカデ、ゲジなどがやってくる。これらは、昼間は落葉の下などに潜み、夜になると這いだして、ハエ、クモ、ゴキブリまで食べる。人が触れるとすばやく咬みつき、数日間は腫れと痛みが引かない。しかし、殺虫剤には弱い

・クモは肉食性で、各種の昆虫を捕食し、ゴキブリなどの家屋害虫や農業害虫の天敵で、保護すべき益虫。日本の毒クモは、咬まれても少し痛いかかゆい程度

・ヤモリは爬虫類だが、有益動物。家の門灯、ガラス窓、外壁にへばりついて、ハエなどの虫を食べてくれる。トカゲ、カナヘビもヤモリの仲間。身に危険があると、尻尾を自ら切り放す。昼はよく日向ぼっこをし、体を暖めている

・真夜中の台所では、洗い物や流しの上をゴキブリが闊歩している。昼間は、ガスレンジ、流し台の下、食器棚、冷蔵庫の裏に潜み、群がっている。このような場所は、糞で黒く汚れている。夜になると、野菜、残飯など手当たり次第に食べる

・ゴキブリが住みつけなくするには、残飯などを速やかに整理し、流し、ガスレンジ、食器棚などと壁とのすき間を封じ、隠れ場所をなくすこと。また、ゴキブリは水をよく飲むので、流しの水をよく切って、乾燥させておくこと

・本棚や押し入れの中を、銀白色に光るヤマトシミが走る。デンプン質を好み、糊づけした本の表紙、壁紙などをかじり取るが、穴を開けることはない。衣服、毛織物、小麦粉やパンなどの食品も食べる。絶食に1年以上耐え、2~3年生き続ける。乾燥や光を嫌う

・イガもカツオブシムシも羊毛や毛皮のケラチンが大好物で、それを分解消化する酵素を持っている。しかし、栄養にならない化学繊維までもかじる。衣服についた食べこぼし手あかなども食べるため

・スズメバチとアシナガバチの毒液はセロトニン、ヒスタミンが主成分なので、刺されると非常に痛い。ミツバチの毒針のようなかえしがないので、一匹で何回も刺すことができる。秋には、人が巣に触れなくても、付近を通っただけで攻撃してくる

・カメムシは触れると、その青臭いむかつくような悪臭を発することで有名。近年、新興住宅地でも、人家に飛来してくるのは、造成地や空地、斜地に繁殖を始めたクズの群生に卵を産みつけるため



・見た目とは違って、虫の中にも、可愛くて、有益なものもいます。単に、気持ち悪いからと退治するのではなく、有害な虫だけ、駆除していきたいものです。

本書には、人家や人家近辺にいる、一通りの気になる虫が収められています。予備知識をもって、対処することが必要だと思いました。


[ 2012/05/12 07:04 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『4千万本の木を植えた男が残す言葉』宮脇昭

4千万本の木を植えた男が残す言葉4千万本の木を植えた男が残す言葉
(2010/06/19)
宮脇 昭

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著者は、現場主義の生態学者として、これまで国内外の1700カ所で、4000万本の木を植えた(植樹指導した)方です。

最近では、大震災で発生したガレキを活用し、海岸部に、ガレキの山でつくる「緑の防潮堤」プロジェクトを提唱されて、話題になっています。

著者の「植物の世界から見た人間観」がユニークで、その言葉に共感できるところが数々ありました。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。


・人間を初めとする動物は、生態系唯一の「生産者」である緑の植物と、「分解・還元者」である微生物群に頼って生きている「消費者」である。正しくは、緑の植物の「寄生者

・日本には、4000年来、集落の要としての「鎮守の森」をつくってきた伝統と実績がある。鎮守の森は、その集落の人々の心の拠り所であり、憩い、癒される場。また、災害時には、避難場所、逃げ道になった

生物社会の掟は、「競争」「我慢」「共生」。生物社会の「共生」は、決して仲良しクラブではなく、少々嫌な苦手な相手であっても、自分が生き延びるためには、互いに少しだけ我慢しながら共に生きていくこと。これが、40億年続いてきた生物社会の真実の姿

・すべての敵に打ち勝ち、すべての欲望を満足できる「最高条件」は、死の破滅に直結した危険な状態

・エコロジカルに「最適な条件」とは、生理的欲求がすべて満足できない(少し厳しい、少し我慢を強要される)状態

・自然の森の掟に従って、主木群を中心に、種類も大きさも異なる多くの樹種を混植することが重要。できるだけ、その土地本来の自然の森、多層構造の森ができるように、同じ木ばかり植えないで、「混ぜる、混ぜる、混ぜる」こと

・現代の人間には、「見えるものだけしか見ようとしないタイプ」と「見えないものを見ようと努力するタイプ」が半々いる。実は、現代の科学・技術で計量化でき、見通せるものは、まだまだ少ない。見えないものを見る努力こそすべきこと

・「自然状態では、たとえ99%生育条件が整ったとしても、たった一つの要因が、極端に多すぎたり少なすぎたりすると植物は育たない」(リービッヒの法則)。生き物は、「環境条件」が100%整っていなければ、生きていけない

・雑草は、人為的干渉のもとで生き延びてきた。耕地雑草の戦略的特性は「早産性」(耕作物より遅く芽を出し、早く成長し、種子を結実させる)。雑草からすると、自分たちが生き延び続けるためには、適度な人間の介入が不可欠で、それが「最適条件」となる

・生物学的に見ると、ヒトの過労死は、その人の命が活かされていない環境における極度のストレス下で起きてしまう「心身の退化現象」と言える

・どんな人も、必ずその人しかできない潜在能力を持っている。人を育てるのも、森をつくるのも、その人、その土地の潜在能力を見出し、その力を顕在化して初めて、本物の大人、本物の森になり、人のため、社会のために役立つ

・土地本来の樹種でない「客員樹種」を植えた場合、下草刈り、枝打ち、ツル切り、間伐などの管理を続けないと、森が荒れた状態になる

・落葉広葉樹のケヤキなど、胸高直径(幹の太さ)80cm以上の大木は、1本が数百万円から1000万円以上の値がつく。現在、エコロジカルな面からも、エコノミーな面からも、管理費がかからない広葉樹が世界的に再評価されている

・自然は、どんなに細かく分析しても、それだけでは自ずと限界があり、総和につながらない。重要なのは、部分的な分析と同時に、見えないものを見るトータルな観察力

・植物と同じように、人間も、単体、単層で存在しているのではなく、多構造で成り立っている。したがって、外から見えるのは、その人のごく一部にすぎない。その人の見えない背景をよく観察することで、初めてその人の全体像が見えてくる

目に見えるもの、換金できるもの、数字や図表だけで表現できるもの以外は、すべて切り捨ててきた考え方が、長い間自然と共生してきた「鎮守の森」を破壊し、心の荒廃の元凶になっている

・他者(他種)との共存をはからず、自己の利益だけを追求し、「勝てば官軍」とばかりに、金銭至上主義に邁進する姿は、明らかに自然界のシステムに反する態度。一人勝ちのビジネスは、自然の法則に反する


自分とは何か。それは、他の人間との関係における自分です。人間とは何か。それは、地球上に存在する動植物との関係における人間です。こう考えていくと、地球上の動植物と自分を切り離すことはできません。

自然界の法則と自分・人間・社会を照らし合わせることが、絶えず必要なように思います。本書は、自然界の法則、つまり、お天道さまが何を考えているかを教えてくれる貴重な書だと思います。
[ 2012/04/14 07:08 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『見えない巨大水脈・地下水の科学』日本地下水学会・井田徹治

見えない巨大水脈 地下水の科学 (ブルーバックス)見えない巨大水脈 地下水の科学 (ブルーバックス)
(2009/05/21)
日本地下水学会、井田 徹治 他

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井戸水だけでなく、湧き水も地下水です。広義の意味では、温泉も地下水です。海、河川、湖沼を除いた水は、すべて地下水かもしれません。

われわれは、地下水の恩恵に浴して、生活を営んでいるのですが、わかっているようでわかっていないのが地下水です。なにしろ、肉眼では見えない地下なので、その実態があまり知られていません。

本書は、地下水の実態をわれわれに教えてくれるものです。徐々に解明されてきていますが、まだまだ謎だらけです。勉強になった箇所が数多くありました。「本の一部」ですが、紹介させていただきます。



・地球上の大部分の水が海水。淡水はほんのわずか。その淡水資源のうち、河川や湖沼の水よりも多くの割合を占めるのが地下水。地下水は飲み水だけでなく、農業用水としても非常に重要。世界の食糧事情は、地下水に左右されているといっても過言ではない

・地上に降り注いだ雨などが浸透して地下水になってから、湧き水などの形で、流れ出していくまでの時間が、地下水の「寿命」。世界の地下水の平均寿命は、なんと600年強になる。一度汲み上げてしまうと、再び元の状態に戻るまで600年以上かかるということ

地球上の水のうち、海水が97%、南極やグリーンランドの氷が2%、地下水が0.66%、湖沼の水が0.01%、河川の水は0.0001%に過ぎない。淡水は地球上全部合わせても2.7%

・食糧生産に使われる灌漑用水に占める地下水の割合が最も高いのが、リビアで90%、続いて、インドが89%、南アフリカが84%、スペインが80%。農業用水だけでなく、飲料水、工業用水でも、地下水は、地球上の多くの人々の生命を支えている

地下水の用途は、飲料用、調理用(営業用)、飲食品製造用(酒飲料、豆腐、菓子)、工業原料用(化粧品、生コン)、工業用(精密機器、染色)、養魚用、農作物栽培用、浴用(銭湯)、消雪用、温調用(紡績織物、事務所)、冷却用(プラスチック、ゴム)、公園用等

・日本の地下水利用の用途別割合は、工業用水29%、生活用水29%、農業用水27%、養魚用水11%、建築物用5%

・ヒートアイランド対策に注目されているのが地下水。夏場に温度が低い地下水をくみ上げて散水し、路面を冷やす方法で、打ち水と同じ原理

・おいしい水の水質条件は、蒸発残留物(コク、まろやかさ)硬度(しつこさ、苦味)遊離炭酸(さわやかさ)、過マンガン酸カリウム消費量(まずさ)、臭気度(臭さ)、残留塩素(臭さ)、水温(温度の低さ)。水道水のおいしい都市のほとんどは地下水が水源

・地下水が多く存在する場所を「帯水層」と言う、帯水層は、砂層など透水性が高い地層。帯水層は、地下水が流れる経路になる

温泉水は、かつてはマグマの中に含まれる水分が起源と考えられていたが、最近では、降った雨や雪が地下にしみ込んで循環するようになった地下水、つまり循環水であることがわかってきた

・日本の土地の地下増温率(地温上昇率)は100m当たり3℃が平均(東京都内は0.4~2.4℃、京都を除く近畿地方は5℃超、鳥取市付近は9℃など)。1000m掘れば、たいていの場所で45℃以上になり、「非火山性温泉」が得られる

・河川の水の流速は1日で数㎞から数十㎞なのに対し、帯水層の中を流れる地下水の流速は、1日に平均1m。動きがほとんどない

・地下水は一般的に16℃~20℃。地下水が「夏に冷たく、冬温かい」のは、恒温層(深さ10~14m)の存在によるもの

地下水探しは大きく分けて、文献調査、現地踏査、現地調査(物理調査、ボーリング調査)、試掘の順に行われる

・火山の山麓や扇状地、河川の周囲などは、地下水が豊富で地下水位が高い。破砕帯(地下にかかる力によって岩石や岩盤が割れてずれた断層の中)の中に、大量の地下水が含まれていることが多い。破砕帯をはさんで地下水の流れが大きく変わる

・地下水が流れる地層の分布や井戸を掘る場所を決める際に威力を発揮するのが電流探査。地下水の探査に有効なのが電磁波探査。地下の割れ目の大きさや形の推定する放射能探査などがある

・地下水の過剰揚水(地下水の浪費)を続けていては、やがて世界の穀物生産は減少し、深刻な食糧危機を招く



石油や金属などの資源だけでなく、淡水も立派な資源です。淡水がなければ、農業生産や工業生産に支障をきたします。

淡水の宝庫である地下水を、有効にかつ持続的に使っていくことが、ますます求められていくのではないかと、感じさせてくれる書でした。
[ 2012/03/24 07:02 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)