とは考

「・・・とは」「・・・人とは」を思索

『働くアリに幸せを・存続と滅びの組織論』長谷川英祐

働くアリに幸せを 存続と滅びの組織論働くアリに幸せを 存続と滅びの組織論
(2013/09/19)
長谷川 英祐

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著者の本を紹介するのは、「働かないアリに意義がある」「縮む世界でどう生き延びるか」に次ぎ、3冊目です。著者は進化生物学の准教授です。生物と人間を比較しながら、経済や組織などを論じるのを得意とされています。

本書のテーマは、組織と家族と個人が、みんなハッピーな関係は可能か?また、その関係はずっと続くのか?ということです。興味深いところが多々あり、その一部をまとめてみました。



・人間でも、動物でも、社会は「力が弱い者たちの協力」によってできている。社会形成はセカンドベスト。一人で生きていけるなら一人でやる方がよい

・集団を維持していくためには必ずコストが存在する。「力を合わせる」というのは、社会に参加するものはすべて「コストを払わなければならない」ということを意味する

・個体が協力のためにコストを払い、みんなが得になる社会を築いていると、そこに「ただ乗り」しようとする裏切り者は必ず現れる

・「裏切り者」は社会の中では「協力者」より有利なので、入ってくることを止められない。裏切り者は「我ら」であると思わせる嘘をつく。裏切り者だらけになると社会は崩壊するので、嘘を見抜き、罰する行動が進化する

人は、「個人―地域集団―国家」へとつながる階層と、「個人―企業―経済社会」へとつながる階層の、二つの系列に同時に属している

・個体と組織がどのような関係になっているかということが、滅私奉公が個体にとって有益になるか徒労になるかを決めている。人間の企業では、組織の個体に対する依存性が低いため、個体の利益確保が簡単ではない

・人の組織の力学は主に金勘定で決まっている。しかし、モチベーション低下による組織効率の低下を考えると、組織の利益のために個人の利益を減らすのは、細心の注意が必要。日本企業の多くは、金勘定には敏感だが、人の組織は人で成り立っていることに鈍感

・社会は個人から構成され、社会の利益を上げるためには、個人の利益(幸せ)を増大させるような駆動力を与える必要がある

・多くの子供を担当、管理しなければならない教室で、空飛な発想で行動する子供は厄介

・「短期的な効率性(平均値の上昇)」と「長期的存続(独創性)」の間には、トレード・オフがある

・グローバル企業と国家の間には利害対立があり、そこでの綱引きは現在、ほぼ一方的に国家の力を弱めるように働く

・年長者は若者に覇気がないと嘆くが、「草食化」は、生活の豊かさの帰結ではなく、そのように振る舞うことが、今までと同じように仕事を頑張るよりも、総体としての幸せを最大化できるという選択圧によって進化した考え方

・「働けるけれど今は働かないでいるアリ」と「働くつもりがないアリ」は同じものではない。「まったく働くつもりがないアリ」は「裏切り者」

・生き物でも企業でも、本質的に重要なのは滅びないことであり、短期的にどれだけ儲かるかではない

長期的存続を犠牲にしても「短期的効率を追求することが正義」という状況がある限り、そこへ向かって突っ走る。企業が、株式公開により資金を得るなど、企業が株式市場に頼るシステムになっている限り、短期的効率ばかり優先されるのを止めることはできない

・企業では、山が出現することを「商機」と呼んでおり、いかにして利益の山に登るかを皆が競う。しかし、一方で、様々な分野に手を出す多角経営というやり方をしている

・経済はいつも成長することを求めているが、成長を急ぎすぎると、その後に待っているのはクラッシュ。「うまくやろうとすると破滅へ向かう

・生物は基本的にムダなことはしない。彼らの行動は将来へ伝える遺伝子量を最大化するように調節されており、それ以外の余計なことをしないようになっている。それに較べ、人間はムダなことばかりしている。自然科学も人文科学も芸術もすべて道楽



成長することよりも、生き残ること。これが目的のはずなのに、ついつい成長することにうつつを抜かし、気がついたら、成長の度が過ぎて、破滅してしまうことは、世の中には多いものです。

持続すること、生き残ることの大切さと組織と個人の利益バランスを再確認できる書ではないでしょうか。


[ 2014/06/20 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『身近な虫たちの華麗な生きかた』稲垣英洋

身近な虫たちの華麗な生きかた (ちくま文庫)身近な虫たちの華麗な生きかた (ちくま文庫)
(2013/03/06)
稲垣 栄洋、小堀 文彦 他

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著者の本を紹介するのは、「植物の不思議な生き方」以来です。著者は、雑草生態学が専門の研究者です。驚くのは、文章が非常に上手なことです。一つ一つの植物や虫たちの物語に引き込まれていきます。

簡潔にまとめる能力は、ノンフィクション作家以上の力量です。本書の中にも引き込まれていくところが多数ありました。それらをまとめてみました。



・ミツバチは、花から蜜を集める外勤は、1日5時間の労働時間。巣の中の仕事や幼虫の子守りをする内勤は、6~8時間の交替勤務。経験を経るごとに内勤から外勤の仕事へ。働き蜂はすべてメスだから、花から花へ飛び回るミツバチは、すべておばあさん蜂

・天才アインシュタインは「もしミツバチが地球上からいなくなると、人間は4年以上生きられない」と予言した。ミツバチによって、花粉が運ばれ、花は実を結び種子を残すことができる。ミツバチがいなくなると、植物が絶えてなくなる

・花は、筒のような構造で、奥に蜜を隠しているものが多いが、これは、花にもぐりこめる花蜂だけに蜜を与えるための工夫

・蝶のひらひらと舞う飛び方は、天敵の鳥の攻撃から身を守るための逃避行動

・アゲハチョウの幼虫には大きな目玉模様ができる。田畑などの鳥よけに、鳥が嫌がる大きな目玉模様の風船を用いるが、幼虫も目玉模様で鳥の攻撃を避けている。また、二つの目玉模様によって、鳥の天敵であるヘビの顔にも似せている

・ジャコウアゲハの毒の使い方は実に巧み。毒が強すぎて相手を殺してしまっては、ジャコウアゲハの毒を知らない鳥ばかりになる。毒の恐ろしさを学ばせるには、相手にひどい目にあわせる程度の毒の強さがちょうどよい

・「2,4,6,7,8,10,11,12,13,14,15,16,19,28」の数列は実はテントウムシの星の数。テントウムシは、脚の付け根から臭い汁を出して身を守る。この臭い汁のおかげで、天敵の鳥もテントウムシを嫌う。目立つ色と覚えやすい数の模様は、鳥たちを襲わなくさせるため

・ハエは1秒間に200回も羽ばたく。そのため高い周波数のうるさい羽音を立てる

3億年以上も前の古生代から姿が変化していない昆虫には、ゴキブリ、シロアリ、シミがいる。昆虫界の「生きた化石」は、どれも害虫だが、人間に嫌われ、駆除されながらも、図太く生き抜いている

・大きな鋭いあごを持つサムライアリは、クロヤマアリの巣を襲って、繭を奪い、繭から生まれたアリを奴隷として働かせ、餌を集めさせる。即戦力の働きアリを連れ帰っても、すぐに逃げられ、抵抗もされるので、無抵抗な繭を持ち帰り、奴隷とする

・サムライアリはクロヤマアリの巣を襲っても、決して全滅させることはない。そうしておけば、同じ巣を何度も襲って、奴隷を手に入れることができるから

・砂が崩れないギリギリの角度を安息角という。アリジゴクのすり鉢状の巣は、砂が崩れない安息角に保たれている。そのため、小さなアリが足を踏み入れただけで、砂が崩れ落ちる。アリジゴクは偉大な土木設計士

・カブトムシの寿命は一年。幼虫の期間に餌を豊富に食べた幼虫のほうが角が大きくなる。逆に、幼虫期間が何年もあるクワガタムシは、じっくり育てたほうが、あごが大きくなる

・鳥も翼竜もいなかった古生代に、昆虫はすでに制空権を獲得して、空を飛び回っていた

・不要のCDを吊り下げて、鳥よけいるにしている光景をよく見るが、これは、鳥がキラキラした金属色におびえる性質があるため。CDの裏面がキラキラと虹色に輝くのと、タマムシの羽は同じしくみ。タマムシもキラキラと輝く羽で、鳥から身を守っている

・昆虫は変温動物なので、赤とんぼは気温が低いと飛べなくなってしまう。そのため、秋になって気温が低くなると、時々竿の先に止まり、太陽の光を浴びて、体温を上げている

・最近では、巣が見つかると、すぐに駆除業者を呼ばれる、嫌われ者のスズメバチだが、夏の間は、田んぼや畑でせっせと害虫を捕えている。昔の人は、スズメバチを恐れながらも、田畑を守ってくれることを知っていた

・古生代の海で繁栄した三葉虫の末裔がダンゴムシ。ダンゴムシは、コンクリートブロックのすき間でよく見かけるが、あろうことか、コンクリートを食べている。固い装甲は炭酸カルシウムでできている。同じく、カタツムリも巻貝の仲間なので、ブロック塀が好き



ふだん何気なく見ている昆虫も、鳥に食べられないように、姿形や色で天敵を欺き、逃げて、鳥を近づけないように、毒を宿して必死に生きています。

本書を読んでいる途中、♪「オケラだって、アメンボだって、みんなみんな生きているんだ」♪、と思わず歌いそうになりました。


[ 2014/05/07 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『季節、気候、気象を味方にする生き方』石川勝敏

季節、気候、気象を味方にする生き方季節、気候、気象を味方にする生き方
(2013/06/17)
石川 勝敏

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本書には、気候、気象が、人体に及ぼす影響、社会に及ぼす影響が記されています。

気温、湿度、風速などが微妙に変化すれば、何が変わってくるのかを興味深く読むことができます。その一部をまとめてみました。


・「気温が26℃に上がった日は、アイスクリームの売上が前日の3割伸びる」「気温が上がったらしょっぱい食べ物が売れる」「秋口になったら甘みのある弁当がいい」といったように、気象と個人の消費行動との関係性についての調査を重ねてきた

脳出血は以下のような気象条件の日が危険「平均気温0℃前後、日較差8~10℃」「寒い日に増加、雨の日に減少」

脳梗塞は以下のような気象条件の日が危険「朝は寒く、午後に急に気温が上昇する日、しかも高温多湿時」「暖かい日に増加」

心筋梗塞の患者は、夏に少なく、冬と春に多く発症する。冬は暖房のため、室温と外気温の差が心臓に大きな負担をかける。春は日々の気温の差が激しいから

・血管は寒くなれば収縮し、熱を閉じ込め、暖かくなれば、拡張して熱を放散するよう、自律神経がコントロールしているが、その働きが毎日コロコロ変わると、血管に大きなストレスがかかり、それが限度を超えると、心筋梗塞を引き起こす

腰痛、リウマチ、座骨神経痛、関節痛の人は、前線や低気圧の接近とともに、痛みを覚える。その主要因が、気圧の低下。気圧が低下すると、体内の炎症物質ヒスタミンが発生し、これが痛みの原因

痴漢行為の警視庁データでは、気温28度以上、湿度80%以上、風速2m以下、時刻は夕方から夜にかけて多く発生している。このような気象条件が、男性ホルモンに影響を及ぼし、子孫を残したい機能が活発に働きだしているのではないかと推察できる

・「日平均気温」による季節は、「早春」5℃になる日「春」10℃になる日「晩春」15℃になる日「初夏」20℃になる日「盛夏」25℃になる日「初秋」25℃以下になる日「秋」20℃以下になる日「晩秋」15℃以下になる日「初冬」10℃以下になる日「真冬」5℃以下になる日

食物の嗜好が変わる8シーズン時期は、「1月初~2月中」「2月下~3月末」「4月上~梅雨入り」「梅雨入り~梅雨明け」「梅雨明け~8月中」「8月下~9月末」「10月初~11月末」「12月初~12月末」

・28.5℃の気温から1時間かけて21℃まで下げた場合、男女とも35℃あった皮膚温は男性の34℃に比べ、女性は28℃まで急激に低下する

女性が快適に感じる室温は、男性より2~3℃高い。夏場は女性のほうが薄着になるので、差はさらに広がる

・夏に増えた家ダニが気温の低下とともに死んで、その死骸が家の中を舞うようになることも、秋に喘息が増える原因

・室温28度の部屋から気温10℃の屋外に出た場合の血圧上昇は、若い人は10mmHgだが、高齢者は30mmHgに達する

・「晴れのち雨」の日は、客数が減るが、「雨のち晴れ」の日は、客数はほとんど変わらない。天候が雨から晴れに変わると、人は気分が晴々して外出したくなる。開放的になり、行動力も積極性を帯びて、購買意欲も高くなる

・「いい季節になったなあ」と感じる日の気象条件を数字で表せば、「平均気温18℃(最高気温21~22℃、最低気温14~15℃)」「湿度40~70%」「風速毎秒0.5m(無風より微風がいい)」

・気温が高くなる昇温期には、人は「暑い」と感じて、すぐに血糖値が上がるような甘みが強い食べ物を敬遠し、柑橘系のクエン酸を含むものを好んで口にする

・寒くなると食べたくなる「おでん」がコンビニで売りに出されるのは8月下旬。降温期に差しかかりはじめる時期

・夏の疲労を回復し、寒い冬に備える秋には、ごぼう、大根、人参、レンコン、じゃがいも、さといもなどの根菜類がいっせいに旬を迎える。根菜類には身体を暖める効果がある



医療関係者や流通業者は、気候、気象と人々の行動との密接な関係を解き明かしつつあります。

さらに、この研究は、さまざまなサービス業者や製造業者に、応用できる部分がいっぱいあります。この分野の研究は、今後とも注目しておく必要があるのかもしれません。


[ 2014/04/11 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『居場所としての住まい』小林秀樹

居場所としての住まい: ナワバリ学が解き明かす家族と住まいの深層居場所としての住まい: ナワバリ学が解き明かす家族と住まいの深層
(2013/07/31)
小林 秀樹

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本書の面白いところは、人間の集団には、「順位制」と「ナワバリ制」があり、これが部屋や間取りに大きく影響を与えている、という意見です。

著者は、住環境計画が専門の大学教授。時代や地域によって、部屋や間取りが大きく違ってくるとの見解です。家族と住まいに関する記述で、興味深かったところをまとめてみました。



・「ナワバリ学」とは、人々が空間をどのように領有しているかを解き明かす学問。住まいにおいては、家族の一人ひとりが、どのように自分の居場所を確保しているかを解き明かす。これを通して、家族の深層心理がみえてくる

・ナワバリとは、そこを自分の場所だと思いコントロール(支配)する空間。このような空間は、食事テーブルの席や個室という身近な範囲でも見られるし、お花見の席取りから国の領土争いといった広い範囲でも見られる

個室がない昔の住居は「順位制」、現代の個室がある住居は「ナワバリ制」に対応している。昔の住居は、家長を頂点として、家族一人ひとりの順位が明確であり、風呂に入る順番、食事をとる順番など決まっていた

・「順位制」の集団では、いちいち言葉を交わさなくても相手の様子を感じ取り、上下関係に基づくルールに従って、自然に行動することを大切にする。現代風の言葉で言えば、「空気を読む」こと

・個室のある「ナワバリ制」に求められる行動様式とは、自分の意思をしっかりと表明するとともに、相手と意見交換して合意することを重視する。というのは、「ナワバリ制」は、互いの接触を避ける仕組みだから

・犬のオシッコは、臭いによる信号の代表。臭いのある場所に侵入すれば攻撃するぞというメッセージ。人々も領域展示物(門、塀、表札、ポスターなど)をうまく利用して、ナワバリを防衛または開放する

・人間の場合、儀式ではなく「作法」によって、ナワバリ防衛の攻撃衝動を抑え、温かく受け入れる。ドアをノックするのも、他人のナワバリに侵入する際の作法。上座と下座は、互いの順位を確認し、無用な争いを避ける作法

・ナワバリには、個人のナワバリだけでなく、集団のナワバリがある、家は、家族のナワバリ。村は、村落共同体のナワバリ。会社や学校、国や都市も、集団のナワバリの例

・パーソナライゼーションとは、人間による空間の「臭いづけ」。部屋に、お気に入りのカーテンや家具をしつらえ、住宅まわりに、植木鉢を置いたりする行為

・母主導型が、近年増加している。昔の家父長中心の家族の住まいが、そのまま母親中心に代わったイメージが強い。現代の都市住宅では、父親のナワバリが希薄になってきている

日本の家族は、封建家族(父主導型)、温情家族(母主導型)、友愛家族(母子が友達のように振る舞う家族)の三つが混ざり合っている

・住宅市場では、子供がいない夫婦でも、資金に余裕があれば3LDKを購入しようとする。そのほうが、中古になっても売りやすいから。このように、住まいは3LDKの定型に収斂していく。その結果、個人の生活の実態とは必ずしも一致していない

・マンションの標準的な間取りにある中廊下は、昭和初期に登場した。各部屋の独立性を高め、家族のプライバシーを守る先進的な住まいであり、知識人や建築家は、封建家族からの転換という社会規範をそこに重ね、好ましい存在として推奨した

・ここ十年ほどで、「居間中心型」と呼ぶ間取りが急速に増えている。これは中廊下形式からの転換をはかるもの。親が、家族の触れ合いを求めて、意図的にこの間取りを選択している

・居間中心型は、個室群でも個室のない住まいでもなく、中廊下を見直した「家族が自然に出会う間取り」。しかも、個室を否定しているわけではない。それを肯定した上で、家族の触れ合いを求めた間取り

これからの住まいの条件は、「夫婦寝室は最低8畳」「子供部屋は間仕切りタイプ」「部屋の配置は居間中心型(玄関から居間に入って個室に)」「食事室(LD)とつながる余裕室の確保」」「裏のバルコニー(ゴミの一時置き場)」



家の間取りは、家族の形態や性質によっても異なってきます。そこを考えた理想的な空間であれば、狭くても問題ないのかもしれません。

住宅を買う前に、立地、環境、広さ、設備だけでなく、間取りについても学んでおくことが、将来的な満足感を高めてくれるように思いました。



[ 2014/04/04 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『川と国土の危機-水害と社会』高橋裕

川と国土の危機――水害と社会 (岩波新書)川と国土の危機――水害と社会 (岩波新書)
(2012/09/21)
高橋 裕

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著者は、河川工学が専門の東大名誉教授です。日本は、歴史的にも、水害(洪水、土石流、地滑り、津波、高潮など)に悩まされてきた国だから、水源地の森林から河口の海岸まで、川の流域全体の統一した保全思想と防災構想の必要性を提唱されています。

しかし、主に高度成長期、何の思想も構想もなく、付け焼刃的に防水治水工事を行ってきたツケが、現在の危機的状況に至っていると警鐘を鳴らされています。その一部を要約して、紹介させていただきます。



・東京は、先進国の中で、最も災害危険性が高い首都。ミュンヘン再保険会社の自然災害リスク評価では、東京・横浜のリスク指標は710と抜群に高い。以下、サンフランシスコ167、ロサンゼルス100、大阪・神戸・京都92、ニューヨーク42。他の大都市は40以下

・東京は江戸時代以降、震度6の地震を6回経験している。安政大地震(直下が震源)と関東大地震(遠方が震源の巨大地震)の異なるタイプの地震で100年足らずの間隔で大被害を受けた大都市は、世界中で東京しかない

・東京の水害多発は諸外国の首都に例を見ない。江戸の三大洪水(1742、86年、1846年)。そして1910、47年の利根川、荒川の大氾濫。1917、49年の台風による高潮災害。1958年の狩野川台風による山手水害以後、東部下町だけでなく、西部でも水害が頻発している

・江戸時代は住所を高所に設置し、洪水を自由に氾濫させ、低平地は冠水に強い農産物を育てる対応だった。明治期、都市化・工業化の政策大転換によって、都市域や工業用地への氾濫を完全に防ぐことが要求された。この大治水事業が完成したのは、昭和5年のこと

・主要河川において、大洪水時の最大流量が過去最大記録を更新している。その構造的理由は、明治以来の連続大堤防方式の治水方策にある。すなわち、流域内に降った雨をしばらく留めようとせずに、多くの支流から本川の河道へと速やかに集中させようとしたから

水田が宅地化されると、洪水調整機能が失われるのみならず、降水は地下へ浸透せず、一目散に都市内河川か、整備された下水道へ殺到する。そのため、都市内河川は、従来の河道では間に合わなくなり、氾濫しやすくなった

・1990年以降普及した「多自然」河川工法の狙いは、ドイツ・スイスなどヨーロッパ各国で普及した「近自然」河川工法とほぼ同様。自然生態系を考慮し、強度で少々劣るが、堤防護岸にコンクリートを極力使わず、石材・植生などの自然材料を多用するようになった

・堤防に親しむ手段として、堤防の勾配を緩くするのは効果的。緩勾配は川に集う人々の心をなごませる。堤内側はもとより提外側でも緩勾配であればなおさらのこと。しかし、緩勾配は広い敷地を要するので、土地を得るのが困難な都市河川では難しい

ダムがもたらす利益は、洪水調節、水力発電、農業用水、工業用水、飲み水など生活用水の供給など多面的で、河川技術の花形でもあった。現在、日本のダムの総計は約3000。1950年代~1970年代にかけては、戦後の国土復興、高度成長へ大きく寄与した

・ダムブームの70年代まで、ダム建設は土木技術者の憧れの的であり、マスメディアもダム建設推進を唱えていた。オリンピック直前の東京の深刻な水不足に際しては、メディアはこぞって水道局を無策とし、なぜダムを早く造らなかったのかと攻撃していた

・1970年代以降、森林の水源涵養機能がダムに代替できるとして、「緑のダム」が謳われるようになったが、森林とダムの河川の流れに対する役割は異なる。森林はダム上流域において土砂流出を抑え、ダム湖の堆砂を減らし、洪水調整機能を増させる役割

・大水害は、ほとんど河川の中下流部の破堤によって発生する。中下流部に広い沖積平野のある大河川では、一旦破堤すると広い面積に氾濫して大水害になる。都市水害の被害は、沖積平野の無秩序な開発による土地利用の変化によるもの

・伊勢湾台風後に建設された海岸堤防は、すでに半世紀を経て、老朽化している。壮大な堤防が完成すると、企業も市民も、津波・高潮からの危険は最早ないと信じ、一層堤防の近くに立地した、しかし、その堤防を越える大波が襲来すれば、被害は深刻になる

・明治初期、東海道線の新橋・横浜間の建設に際して、汐留から品川までの9㎞の線路を、海の中の遠浅の干潟に敷設した。第二次大戦後も、高速道路やバイパス道路を水際や海上に建設した例は多く、海岸災害の危険度が増している

・大きな河川には大規模遊水地が完成してきているが、中小河川には大きな遊水地候補がなく、ほとんど完成していない。大洪水の際の氾濫水を一時貯溜するのに、耕作放棄地が河道近くにあれば、効果が期待できる



東日本大震災以後、地震と津波にばかり目が行きがちですが、水害にも、もっと関心を持つべきかもしれません。

洪水対策がないまま、農地から住宅地・工業用地になし崩し的に開発されてしまった土地が、日本には無数にあります。今住んでいる土地が、水害に対して、本当に安全なのか、もう一度点検してみる必要があるのではないでしょうか。


[ 2013/11/29 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『みんなが知りたい・地下の秘密』地下空間普及研究会

みんなが知りたい地下の秘密 洪水時のあふれた水を取り込む地下トンネルとは?地下鉄の上り線と下り線を同時につくる技術とは? (サイエンス・アイ新書)みんなが知りたい地下の秘密 洪水時のあふれた水を取り込む地下トンネルとは?地下鉄の上り線と下り線を同時につくる技術とは? (サイエンス・アイ新書)
(2010/04/19)
地下空間普及研究会

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土地活用において、地上は、高層建築などで有効活用されてきました。ところが、地下は、止むを得ず活用されてきた感じがあります。しかし、地下には、温度や湿度が一定の空間が拡がっています。また、地下を掘る技術も向上してきています。

本書は、みんながまだまだ知らない地下空間について、その素晴らしさを語る内容です。新たに知ったことが多くありました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・人が「地下空間」を生活に使い始めたのは、300万年前と言われている。われわれの祖先は、地下空間を、身を隠す場所にしたり、休憩する場所にしたりしていた

・火山灰や軽石が降り積もって固まった、柔らかくて掘りやすい地盤を、簡単な道具で手掘りすることで、1年を通して、気温や湿度の変化が少ない地下住居をつくりだした

・江戸時代、商売をしていた店には、「穴蔵」という、防火用の地下室があった。通常、穴蔵には蓋がしてあり、床として使うが、いざ火事が発生すると、蓋を開けて、商品や財産などを入れた。穴蔵は火災だけでなく、地震にも強かった

・日本の地下鉄は、11都市で752㎞の路線を営業しており、1日1300万人の乗客を運んでいる。地下鉄はエコな乗り物。1人の人間を1㎞運ぶのに必要なエネルギーは自動車の6分の1以下。1時間に運べる人数は、自動車の約100倍

道路の下約3mまでのところには、日常生活に密着する、ガス、水道、下水、電気、通信といった、ほとんどすべてのライフラインが埋まっている。道路工事がうるさく感じるのは、道路の下3mくらいまでは、道路の上から直接掘るのが一番合理的な方法だから

・下水管の本管は地下5m~10mくらいのところに配置される。この深さでは、浅い地下鉄のトンネルが走っている深さと重なる部分が多くなる。下水道のトンネルは、地下鉄のトンネルを避けながら、蜘蛛の巣のように張り巡らされている

・通常、河川下流域で発達した日本の都市部の地盤は、地表面から順に、沖積層、洪積層、岩盤となっている。つまり、深くなるほど硬い層でできている。都市部の多くは、地表面から30~40m以上深く掘らないと、建物を支えられる硬い層は出てこない

・都市の地下空間は、駅前地下広場などの交通対策から発展した。地下空間は、自動車を気にしないで歩ける歩行者用のネットワークであり、地下鉄ともつながっている

トンネルのつくり方には、「山岳トンネル工法」(岩盤の中につくられる)、「シールド工法」(シールドマシンが地中を掘り進む)、「開削工法」(地面を切り開く)、「沈埋工法」(陸上でつくったトンネルを埋めて沈める)の4つの方法がある

・シールド工法発想の原点は、フナクイムシが木造船に穴を開けて進むのを見たことから。それが、シールドマシン誕生のきっかけとなった

・日本で地下を深く掘ろうとすると、たいていの場合、水が出てくる。この水との戦いが、地下掘削の大きな課題。その対策として「ニューマチックケーソン工法」(コップを逆さまに水中に入れても、コップの中に空気があれば、水が入ってこない現象を応用)がある

・地盤の中に建設する地下構造物には、「土圧」「水圧」が作用する。土圧は、地下構造物が置かれた位置での土の重さによる圧力。水圧は、同様に、地下水の重さによる圧力

・水を浸透させにくい「粘性土」の地盤の中にある地下構造物には、土圧だけが作用する。しかし、水を浸透させる「砂質土」には、土圧だけでなく、水圧も作用する

・地下は工場にも使われる。地下工場は、高い空気清浄度(外部のほこりを含んだ空気の流入が防げる)と、省エネ(空調に頼らないで安定した室内環境が保たれる。電気使用量が90%減)を実現できる

・家の地下にパイプを設置して空気や水を循環させると、地中熱を使った冷暖房システム(夏は冷たい空気、冬は暖かい空気)ができる。この地中熱を利用したエアコンでは、室内の熱は地中に放出されるので、室外機からの排熱がなくなる

・スウェーデン・ストックホルムの地下鉄には、世界一長い地下美術館がある。約90の駅で、彫刻、彫像、モザイクタイル、ペインティング、レリーフなどの芸術作品が飾られており、地下鉄駅の陰気なイメージをなくし、魅力ある空間にしている

・ノルウェーには地下スポーツ施設(アイスホッケー場、プールなど)がある。その理由は、「郊外につくると町が分散してしまう」「土地代を節約できる」「地上だと温度変動幅が25℃になるが、地下は7~8℃に抑えられる」「非常時のシェルターとしても使える」から



高層ビルなどの地上の建築物は、見上げれば、その概要がわかります。それに対して、地下構造物は、ほとんどその内容を知ることができません。

ところが、人間の生活にとって大切なライフラインなどは、地下からわれわれの住宅に配給されてきます。縁の下の力持ちならぬ、地の下の力持ちに目を向けてあげるべきではないでしょうか。本書は、その一助になると思います。


[ 2013/10/03 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(2)

『水危機・ほんとうの話』沖大幹

水危機 ほんとうの話 (新潮選書)水危機 ほんとうの話 (新潮選書)
(2012/06/22)
沖 大幹

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著者の本を紹介するのは、「水ビジネスに挑む」に次ぎ、2冊目です。国の防衛で、食料とエネルギーの自給率がよく話題になりますが、日本は、水に恵まれているために、水の自給については話題になりません。

しかし、世界では「水危機」が叫ばれています。ということは、水を有利なカードにすることができるということです。水は立派な資源です。その認識に立って、水を考えるのに最適の書です。その一部を紹介させていただきます。



・水道料金は1t=1000ℓ当り全国平均で200円。さらに上水道使用量に応じて、下水道料金が徴収される。東京―大阪間をトラックで運べば、1t=1000ℓ当り輸送費が1万円かかる。1000ℓ200円の水道水の価格は50倍になってしまう

・水は基本原則として、流域を越えて運べない、貯めておけない。水はローカルな資源。ローカルな資源であるということは、一物一価の原則が成立しないということ。水の値段は地域によってばらばら

・飲み水は1日1人当たり2~3ℓ(飲料水1.2ℓ、食料水1ℓ、代謝水0.3ℓ)必要。この必要量は、毎日体から失われる水分の補給する分

・日本の家庭用水の使用量の内訳は、トイレ28%、風呂24%、炊事23%、洗濯16%、その他9%

・日本の1人当たり水道水使用量は、1965年に169ℓだったが、高度成長に伴って伸び続け、1995年に322ℓになったが、2000年以降減り始め、2008年には300ℓを割ってきている

・水も電気もピーク時の需要に応じて設備投資する必要があるので、ピーク時の使用量は減ったほうがありがたい。しかし、通常時の節水を呼びかけるのは、商品を買わないでくれ、と言われているに等しい

・地球上を循環している水資源の1割を人類は取水している(農業用水、工業用水含む)

・貧しい国々では、自然条件として、水が足りないのではない。必要な水を適切に利用可能にする水インフラが不足しているため、水が使えない

・地下水は、土地に付属する財だとみなされ、汲み上げポンプの電気代だけで入手可能。大量に汲み上げる企業側と周辺住民との間での争議が世界中で生じている

・比較的水が使える地域では米だが、乾燥地域は小麦。何を主食としているかは、どの程度水を得られるかによって決まってしまっている

・森を緑のダムと呼ぶならば、積雪は白いダム

・都市での水の自給自足は難しい。都市とは、食料、水、エネルギー、人材の供給を郊外に頼っている存在で、都市の問題は、周辺地域と一体となって解決していく必要がある

・木が生えていると豊富に水が使えるのではなく、水が豊富な場所に木が生える

・無降雨時の河川流量の多い少ないは、森林に覆われているかよりも、流域の地質によるところが大きい

・人のみならず、木が育つのにも水が必要。人と森林は水資源を奪い合う関係にある

・日本の河川では、洪水時には平常時のざっと100倍の水量が流れる

・川幅の拡幅や河床の浚渫など、河道を流れ得る水の量を増やす治水事業は、下流から順次整備していくのが常識

・産業がなくて困っている地域に資本が投下されるのは喜ぶべきこと。よほど資源略奪的な事業でない限り、外国資本による日本の山林買い占めに過剰反応するのは得策ではない

地下水の過剰汲み上げを規制してやめさせることにより、低下した地下水位が比較的速やかに回復しても、一旦沈下した地盤は元に戻らない

・欧米の大規模民間水道事業会社は、近年になって、採算の苦しい途上国から撤退傾向にある。やみくもに水事業に進出すればいいというものではない。水ビジネスは、収益率が地味な割に、投資規模が大きくならざるを得ず、資金回収も長期に渡る



水は単なる飲料水だけでなく、農業用水、工業用水として、重要な資源です。水が豊富にあるということは、農業や工業の輸出に不可欠です。しかも、水は重くてかさばるので、簡単に移動できません。

こういう視点で、日本の豊富な水をどう生かすかが、今後の国家戦略にとって重要になるのではないでしょうか。


[ 2013/08/15 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『植物の不思議な生き方』稲垣栄洋

植物の不思議な生き方 (朝日文庫)植物の不思議な生き方 (朝日文庫)
(2013/02/07)
稲垣栄洋

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本書には、植物の巧みな戦略が描かれています。外敵、競争、受粉、悪環境などに対して、植物たちは、どういう道を選んできたかがよくわかります。

植物たちの涙ぐましい努力は、われわれ人間社会にも参考になるところが多いように思います。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・アリストテレスは「植物は逆立ちした人間である」と評した。口に相当する「根」が一番下にあり、胴体に相当する「茎」がその上。生殖器に相当する「花」が、植物の一番上

・植物の葉の表面にはワックスの層でコーティングされている。これが城壁のように病原菌の侵入を防いでいる

・植物は活性酸素を除去するためのさまざまな抗酸化物質を持っている。ポリフェノールやビタミン類も植物が持つ抗酸化物質

葉を食い荒らす昆虫は、植物にとって実におそろしい敵。傍若無人に片っ端から葉をむしゃくしゃ食べまくる。病原菌に比べれば、体もすこぶる巨人で、まるで怪獣のよう

毒を盛るのは、戦わずして強靭な敵を殺す常套手段。力を持たない植物が強大な敵を倒すには、これほど有効な手立てはない。生き残るためには、卑怯などと言ってはいられない。かくして植物はありとあらゆる毒性物質を調合し、身を守る道を選んだ

・タバコの成分、ニコチンは害虫から身を守るための物質。野菜のえぐみも本来は防御のための物質。シソやネギやハーブの香り成分も、害虫を防ぐために植物が身につけたもの

・植物の毒を体内に蓄えて自らの身を守る昆虫は多い。それらの昆虫は、食べられるものなら食べてみろと、自らの体を毒々しく目立たせて、危険な毒を持つことをアピールする

・ボラタイル(SOS信号を出す揮発物質)を感知して、イモムシの天敵である寄生バチがトウモロコシを助けるべく駆けつける。寄生バチも、どこにいるかわからない餌のイモムシの存在を効率的に知ることができる。なんともうまくできた仕組みになっている

・人間を震い上がらせるアシナガバチやスズメバチでさえ、アリに襲われるのを恐れて、中空にぶら下がった巣をつくり、巣の付け根にアリの忌避物質を塗っている。アリの強さは他の昆虫に抜きん出ている。植物界には、そんなアリをボディガードに雇うものが多い

・リンゴ、桃、柿、みかん、ブドウなど木の上で熟した果実は、赤、橙、ピンク、紫色のように赤系統の色彩が多い。これは、鳥が赤色を最も認識するから

・葉のつき方は、5分の2や8分の3などのフィボナッチ数列の角度に従っている。植物は、黄金比に近似の5分の2(逆回り1.67)8分の3(逆回り1.6)を選んだ。それは、葉が重なりあわずに効率よく光を受けるためや、茎の強度を均一ににするため

・花びらは、ユリが3、桜が5、コスモス8、マリーゴールド13、マーガレット21、ヒナギク34。花びらの枚数もまた、フィナボッチ数列によって作り出されている

・「つる植物」は、「他人に頼れば苦労せずに大きくなれる」という図々しい生き方で、スピーディな成長をする。「絞め殺し植物」は、頼った相手を亡き者にして、財産を奪う

・花がここにある、ということを昆虫にアピールするため、花びらは「看板」がわり。昆虫に合わせて、早朝に店を開き、日中閉じるアサガオやツユクサの「営業時間」。植物にとって昆虫への「サービス品」が蜜。その蜜を一番奥に配置し、「案内板」を表に出している

・花が昆虫を呼び寄せるのは、蜜を食べてもらう代わりに、花粉を運んでほしいため。長居する困り者の昆虫に「いつまでいるのですか。そろそろ次の花へ行ってもらわないと困りますよ。こっちだって慈善事業でやっているわけじゃないんだから」と昆虫に仕向ける

・黄色い花が好みはアブ。白色好みはコガネムシ。紫が好みはミツバチ。赤色が好みは蝶々

・早春の花はアブ好みの黄色が多い。アブは移り気だから黄色の花は群生する。コガネムシは不器用だから白い花は平たく咲く。ハナバチは同じ花を識別できるので、紫の花は離れて咲く。蝶々は大量の花粉を遠くに運ぶので、赤色の花は大きく、大量の蜜を奮発する

・植物の果実は、実り熟すことが使命。実り熟すことは同時に老化を意味する。決心したようにエチレンを放出した果実は、自らを老いさせ、死出の旅を急ぐ

・ロゼット(タンポポなど)は冬の寒さに逃げることなく、冬の時と向き合って生きる道を選んだ。地面に張り着く葉は、光を受けながら寒さを避ける理想的な形



植物は、動かず、黙っているので、どうしても、見過ごされがちです。でも、この地球に、動物が棲みつく以前から、ずっと暮らしてきています。

その植物を観察すれば、人間社会の問題を解決するヒントがいっぱい詰まっているように感じました。本書は、その参考になる良書ではないでしょうか。


[ 2013/07/25 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『日本の景観―ふるさとの原型』樋口忠彦

日本の景観―ふるさとの原型 (ちくま学芸文庫)日本の景観―ふるさとの原型 (ちくま学芸文庫)
(1993/01)
樋口 忠彦

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1981年に刊行された書です。日本人が、どういった景観を好むのかを科学的に解明しようとした画期的な内容です。

著者は、日本の景観学の先駆者です。自然(盆地、山、谷、平地など)と都市(街路、広場、緑化など)の景観を細部にわたって論じています。その中から興味深い箇所を、一部ですが、要約して紹介させていただきます。



・権力者であった平安貴族は、はっきりとした人間的意志の感じとれる都市を維持する強い父性原理を持っていなかった。「もののあわれ」が、平安貴族の主流をなす感性であった

・「すべてのものを切断し、分割する機能をもった原理が、父性原理。すべてのものを包含し、場の平衡状態を維持する原理が、母性原理」(河合隼雄)

・日本の景観の特徴は、「盆地の景観」「の景観」「山の辺の景観」「平地の景観」の四つの分類により、明らかにできる

・盆地には意外性という面がある。外の世界から盆地に接近する場合、谷川を遡り、深い山の中を進み、峠を越えると、そこにパッと盆地が開けるというような構造になっている。それは、人にドラマチックな体験をもたらす

・日本の庭園には、池が不可欠。日本庭園の池は、そもそも海を模したもの。池の水面は、居住者に安楽な休養を与えるようにしつらえられた

・日本の地形を流域系で見ると、谷-盆地-谷-平野-海という構造になっている。流域に沿って、広がりのある平地をもった盆地、平野が点在し、それらをつなぐ形で谷がある

・人は、広がりのある場所において、背後による所がないと、何となく落ち着かない。日本における山を背にした集落の立地傾向も、そうした心理傾向から生まれたもの

・山の辺の景観の中でも、背後に山を負い、左右は丘陵に限られ、前方のみ開いているタイプの景観は「蔵風得水」景観。これは、深層心理学的に言えば、人間にとって最も快適とされる眺め(子宮からの眺めや母の膝に抱かれて見る眺め)と同じ形

風水思想で吉とされる地は、日当たりがよく、風も吹き抜けず、前方に眺望が備わる落ち着いた雰囲気の地。この地では、誰しも、玉座にゆったりと坐った天子の気分に浸れる

・「みなと」は水門で、両側からせまった水の出入口を意味する。「やまと」は山門で、山に塞がれた内部の地である盆地の総称

街道並木は、平地の景観を代表するもの。平地が支配的な大陸と違った山国日本は、水上交通に比べて、人馬による陸上交通は難儀を窮めた。街道並木が歴史に登場してくるのは、平地の開発が進み始めた戦国時代以降

・徳川時代の百万都市江戸の四季の名所は、郊外の山の辺(丘の辺)と隅田川などの川の辺に集中する。眺望が開けている水の辺には、日の出、納涼、月見、雪見の名所が多い

・景観というのは、凸型の彫刻的景観と凹型の空間的景観とが組み合わさったもの。凸型景観=意志のイメージ、凹型景観=休息のイメージという関係を知れば、景観の構造をかなり明確に説明できる

・人間も含めたすべての動物にとって、棲息に適した棲息地・棲処の基本条件は、「自分の姿を見せることなく相手の姿を見ることができる」ところ。自分の姿を隠す「隠れ場所」と相手の姿を見る「眺望」が備わったとき、美的な満足感を得ることができる

・巨大な建築物や施設を点景化し、背景の自然景観に馴染ませていくためには、「危険と見えない」「人間のための施設に見える」「目立たない」といった考え方で対処する

・日本人は、最も目立つ凸型地形の場所に、これ見よがしの構築物を建てることは好まなかった。山に建てられた寺院や塔を見ても、ほとんどが山の辺山腹であり、背景の山に包まれ、収められてこそ、美しさも増し、日本的な母性的景観が保たれる

・山の辺・水の辺と居住地との間に緑地や帯状の公園を導入し、「間」を取りながら、居住地を山の辺・水の辺に連続させていく必要がある。さらに、これらの山の辺・水の辺は居住地からよく見え、しかも近づきやすくなっていなければならない

・「屋外階段」により、上の階の人々と通りの生活が結ばれる。通りに面する屋外階段は、「腰をおろせる階段」になるし、階段の踊り場は、通りを見下ろす「テラス」にもなる



日本の景観は、明治以降、「男性原理」によって破壊され続けてきたことを、日本人が好む「母性原理」を解明することで、説明されている素晴らしい書です。

本書を読むと、しっくりいく、馴染む、落ち着く、気持ちがいい、こんな感情の奥に潜むものを大事にすることが、日本文化の奔流だと気づくのではないでしょうか。


[ 2013/07/07 07:07 ] 環境の本 | TB(0) | CM(1)

『自己組織化で生まれる秩序: シロアリ・量子ドット・人間社会』荒川泰彦

自己組織化で生まれる秩序: シロアリ・量子ドット・人間社会自己組織化で生まれる秩序: シロアリ・量子ドット・人間社会
(2012/09/14)
荒川 泰彦、松本 忠夫 他

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本書は、生物学系、工学系、社会学系の4名の教授が、「自己組織化」をテーマに、知を競い合う内容になっています。

生物の社会と人間社会の類似点を探ることによって、ハッと気づかされることがあります。この本のテーマ「自己組織化」についても、考えさせられることが多々ありました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・自己組織化とは、システムの下位レベルを構成している多くの要素間の相互関係に基づいて、システム全体レベルにおけるパターンが創発する過程のこと

・成熟社会あるいは持続可能な社会は、一見して停滞的で活力がないように見えるが、こういう社会にこそ活力が必要

・「内破(インプロージョン)、つまり内から爆発していく力によって、自己組織化が行われる」(哲学者ベルグソン)。成熟社会は、変化を通じた持続であり、変化をしない持続ではない。変化を通じた持続が活性化しているときに創造的進化が起こる

・企業でも社会でも、環境変化に右往左往せずに、内から爆発する力を発揮する組織へ転換するのが、管理を超えたエンパワーメント。近代社会は、効率化して確実さを求めようという反応に陥りがち。しかし、新しい価値は不確実性に耐え抜いたとき創造される

・今では、人の行為原則がかなり変わってきている。それをうまく活かすには、「管理」ではなく「編集」という考え方が必要になる

・自己組織化の第一の要因は「ゆらぎ」。これは、物理学で言えば、平均値からの揺れ。社会学で言えば、変則的な行動

・自己組織化の第二の要因は「自己言及」。制御によるゆらぎつぶしにあえば、ゆらぎからの秩序形成は起こらない。ゆらぎの中から、次の可能性(新たな秩序の種)を増幅させていく役割を果たすのが自己言及

・自己言及性は、しばしばシナジー現象を誘発し、これによりゆらぎが自己強化されて、新たな秩序形成へ向かう現象が引き起こされる

・高度経済成長時代のように、経済が繁栄してイケイケどんどんのときには、抑えて抑えてという「秩序維持の力」が作用しないと、社会が解体してしまう危険がある。しかし、低成長期、安定成長の状況になったときに必要なことは「活力

・社会の安定が求められているときこそ、個々の要素が活力に満ちている必要がある。これがベルグソンの言う「持続とは変化なり」ということ

自己組織化を促す条件とは、「1.創造的な個の営みを優先させる」「2.ゆらぎを秩序の源泉とみなす」「3.不均衡ないし混沌を排除しない」「4.コントロール・センターを認めない」の四つ

・物質であれ、生物であれ、人間社会であれ、内在するエネルギーやメカニズムがある種の法則に従って作用した結果、私たちが目にする「雪の結晶」のような形のものが現れる。そういう意味で、雪の結晶は自己組織化を最もよく象徴するものの一つ

・管理なしで頑張っている企業は200人が限界。部課長制を廃止して、問題が起こる度に、皆で会議ばかりやっている200人規模の会社があるが、それでは時間を浪費するばかりだと思われるが、実際には、二十数年もの間、好業績を維持している

・「ゆらぎ」を歓迎することが大事。変則的なことを考える人を抱え込んでおくこと。その割合は5%くらいが適当。大きな組織であれば、それくらいの人が変わったことをやっても、大勢に影響はない

・結局はフェイズ(局面)の問題。日常的に活発に働くのではなく、厳しい局面に備えて待機すること。軍隊にしても、演習こそはしているが、あまり働いてはいない

・シロアリも人間も従属栄養物といって、植物がつくった有機物に依存して生きている。ところが、シロアリは、同じ植物でも、死んだものを餌にしている。それは、シロアリが共生生物と共に生きているからこそできる。人間は悲しいかな未だそれができていない

・ソビエト連邦が崩壊したのは、社会主義が負けたからではなくて、社会の運営をすべて管理できるという思い込みが間違っていたから。たくさんの人間をいちいち管理できるわけがない。その管理コストは、経済的な生産性を駆逐するほど高くつく



本書を読むと、波風立てずに、人の言われるとおりにするというのは「高度成長時代の考え方」。みんなが張り切ろうとするのが「安定成長時代の考え方」。一見逆に思えることが、組織の真実であるとわかります。

力には、自分で変わろうとする力と、外圧に対応して変わる力の二つがあり、自己組織化とは、自分で変わろうとする力です。現代を生きる我々日本人は、もう少し、波風立てて、自分の思い通りに生きてもいいのではないでしょうか。


[ 2013/06/19 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『自由貿易神話解体新書―「関税」こそが雇用と食と環境を守る』関良基

自由貿易神話解体新書―「関税」こそが雇用と食と環境を守る自由貿易神話解体新書―「関税」こそが雇用と食と環境を守る
(2012/09)
関 良基

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著者は、京都大学農学部森林学科卒の経済学者です。学生時代、フィリピンの熱帯林保全、中国の森林再生の方策を現場調査し、森林破壊の原因は、すべて経済にあると感じて、経済学者になる決意をされた方です。

異色の経済学者である著者の視点は、従来の経済学者にない、地に足の着いたものに感じられました。自分の目で見てきた世界の森林や地域から経済を論じる学者は、他にはそういません。この貴重な意見の一部を要約して、紹介させていただきます。


・今日の世界の窮状を生み出した原因は、金融の自由化・規制緩和のみにあるのではない。「貿易自由化」と「金融自由化」の両輪が生み出したもの。米国の金融立国戦略は、貿易自由化の結果として発生した巨額の貿易赤字に対処するために必要だった

・米国は、巨額の貿易赤字を、資本収支の黒字で埋め合わせるために、金融商品を世界にばら撒くには、各国の金融規制を骨抜きにして、自由化を促進し、アメリカの金融制度基準をグローバルスタンダードとして押し付ける必要があった

・世界経済を正常な状態に戻すためには、金融規制のみでは不十分。貿易自由化が生み出すグローバルな不均衡を取り締まらない限り解決できない。そのためには、不均衡を調整するための関税の必要性を認めた秩序ある貿易システムを再設計する必要がある

・近代産業では、多くの場合、規模の経済効果や学習の効果が働くので、製品一単位当たり生産コストは時間とともに減少する。だが、新古典派経済学には、「時間」の変数が登場しない。歴史的な発展過程を扱う学問に時間概念がないのは、とてつもなく奇妙

・百歩譲って、工業製品の貿易自由化は許容しても、農産物や天然資源には、自由貿易の原理に適さない多くの理由がある。工業は、生産量拡大によって、単位生産費用が減少(利益が増大)する性質を持つが、農業はその逆で、生産費用が増大(利益が減少)する

・売れば売るほど利潤が増える世界(収穫逓増)では、国境は邪魔くさい存在で、関税の撤廃を望む。しかも、収穫逓増の性格が強いほど、グローバル独占は成立しやすい。ソフトウェア産業では、いったん開発すれば、コピーする追加コストはほとんどかからない

・農業の場合、労働、資本という二つの生産要素に加え、土地という生産要素の寄与度が大きく、土地生産性は土壌肥沃度や日射量など天与の自然条件に大きく規定され、さらに光合成の限界という人間の力では越えられない上限がある

・「後発工業国は、技術的に追いつくまでは保護関税等を駆使して、安価な工業製品の流入を抑え、先進水準に追いついた段階で関税を引き下げていけばいい」(フリートリッヒ・リストの幼稚産業保護論

・途上国の多くは、関税は税収の大きな柱。その途上国に「原則関税撤廃」を要求することは、国によるインフラ開発や社会保障、所得再分配の機能を麻痺させる。1960年当時の米国は、日本の保護関税措置を許していた。日本人は感謝してもしきれないくらい

・失業を増やして内需を縮小させる生産の効率化競争をするのではなく、内需拡大と失業対策と新産業育成策がセットになるような政策を実施しなければならない

・工業製品は、生活必需品ではないので、価格の変動によって需要は大きく変動する。高ければ買わない、安ければ買う量が増大する。しかし、生活必需品の食料はこうはいかない。貿易を自由化しても、国際的に農産物の需要量は急に大きく増えない

・農業は「労働」と「資本」のみならず、「土地」という生産要素が必要。しかも、この第三の生産要素である「土地」の寄与度が大きい。自然条件の差異に基づく土地生産性の劣位を、競争の中での努力で克服することなどできない。この点、工業とは決定的に違う

・中国とインドが高関税で国内農業を保護する方策であれば、世界の食料危機を回避しつつ、両国の賃金水準を押し上げることにつながる。結果として、先進国の労働者の雇用条件も安定させるという三重の福音をもたらす

・アマゾンの森林消失の約30%は大豆栽培面積の拡大で説明できる。中国を初めとした途上国が、農産物貿易の自由化によって大豆輸入を増やしていることが、急激なアマゾンの森林破壊を生み出す要因となっている

・中国やインドや日本のような零細的土地所有構造をもち、それゆえ国際競争力のない国々が、再び国内農家の保護政策に舵を切って、大豆や菜種油の国産化に努めれば、ブラジルやインドネシアの熱帯林開発圧力は消え、地球のCO2排出量を一挙に20%近く削減できる

・人口減少時代に突入した日本は、ゆるやかな分権型社会を構築しつつ、エネルギーと食料の自給率を上昇させ、安心と安全を重視する社会へと質的な転換をはかるべき



十分な情報がないまま、TPPの賛否が論じられています。声の大きい団体の意見が、まかり通っているのが現実です。

地球全体にとってベストな決断は?次世代にとってベストな決断は?それらを判断する材料があまりにも少ないように感じます。本書は、その判断材料になる貴重な書ではないでしょうか。


[ 2013/05/20 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)

『日本の渚―失われゆく海辺の自然』加藤真

日本の渚―失われゆく海辺の自然 (岩波新書)日本の渚―失われゆく海辺の自然 (岩波新書)
(1999/04/20)
加藤 真

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渚が減っています。なくなった渚を復元する動きはありますが、その人工渚は、元の渚には、ほど遠いものです。

著者は、渚が減れば、どんな影響が出るのかについて言及されています。興味深い点が多々ありました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・海と陸の接点が渚。そこには、流れ込む川があり、満ち引きする潮があり、うち寄せる波がある。渚は「海の縁」にすぎないが、生物の多様性と豊饒さが、この渚にある

・渚の豊饒さは、人間の暮らしを豊かにするだけでなく、海の浄化とも関連する。生物たちが、活発な食物連鎖を繰り広げ、渚生態系の有機物の分解と循環を担う

・渚は「河口」「干潟」「藻場」「」「砂浜」「サンゴ礁」「ヒルギ林」の7つに類型できる

・川が人間の制御を受けず、自由に流れていた時代、平野には広い氾濫原が広がっていた。氾濫原には、水の流れ、淀みがあり、それらの水路網が低湿地の自然を作り上げていた

・川の氾濫は肥沃な土壌とともに、大きな被害ももたらした。日本の農業は、川が「あばれる」のを制御する歴史。そのため、氾濫原の中に、堤や水路が整備されていった

・一般に植物は、塩分濃度の高い場所では生育できないが、ヨシは塩分濃度が海水の半分くらいの河口まで生育する。ヨシの根は泥の中に縦横に広がり、軟弱な泥をつなぎとめ、泥中のリン等の栄養塩類を吸収する

・河口は、堆積する有機物の多くを沈殿、分解することで、未処理分だけを海に流す濾過装置。その機能を支えているのが、河口をおおうヨシとそこに生息する無数の生物

・波や海流によって運ばれてきた砂は河口に砂州をつくり、河口をふさぎ、海岸線の後背地にを形成する。潟の中には、海との連絡を失った淡水湖になる潟もある

・干潟は一面、泥の世界。草も海藻もほとんど生えていない。しかし、干潟の泥の表面には珪藻を初めとする微細藻類が繁殖している。干潟に礫があれば、その上に小型の葉状藻類がつく。緑藻、紅藻類などのノリ類が春の干潟の礫の表面を染める

・干潟の砂泥中の「濾過食者」はプランクトンなどの餌を、濾し取って食べる。二枚貝がその代表。無数の「貝の目」は干潟における海水の浄化能力の尺度

・渚には、海草の藻場が形成されている。海草は、海藻とは異なり、根と葉をもち、水や栄養塩類を運ぶ組織や、光合成によって生じる酸素を運ぶ組織をもっている

・富栄養化や汚染は、アマモ場を減少させ、内湾漁業に深刻な影響を与えている

内湾の渚がヨシ原で縁どられているのと対照的に、外洋に面した渚は、砂丘と松林によって縁どられている。砂浜に打ち寄せる波は、砂を海岸線に押し上げて砂丘を作る

・松林よりも海側の砂丘の上には、砂浜植物の花畑が広がっている。砂浜植物は、炎天の灼熱の下、強風と砂嵐の中でも、砂を大地にしばりつけてくれている

・海辺の村にとって、砂丘は天然の防波堤であり、松林は天然の防砂垣

・多くの砂浜が直面している問題は、海岸線の後退。河川にダムができ、川は、土砂を山から海へ運べなくなった。ダムは数十年で埋まり、埋まったダムは、発電機能も貯水機能も防災機能も果たさない。それどころか、崩壊すれば、大災害を引き起こす

・現在、盛んに行われている人工渚の造成は、砂の搬入によって、渚の土壌の生物を生き埋めにし、砂の浚渫によって、砂地の生態系を破壊する行為

・サンゴの島の海岸林の海側に広がっているのは、輝くばかりの白砂の浜。干瀬の外側には、サンゴが群落を成し、大波から島を守っている

・サンゴ礁は炭素を地殻へと封じ込める装置。サンゴ礁保護は、地球温暖化の問題とも関連している

・ヒルギは、干潟に生える塩生樹(マングローブなど)。ヒルギ林の荒廃は、サンゴの海の富栄養化をもたらし、サンゴ礁生態系の荒廃をもたらしている

渚を破壊してきた大きな要因は、「埋め立て」「浚渫」「富栄養化」「汚染物質の流入」「森林伐採・土地改良工事」「河口堰建設」「人工護岸化」「帰化生物の侵入」など



渚を破壊するデメリットとは何かを教えてくれるのが本書です。子々孫々の世代に渡り、メリットがあれば、止むを得ないことなのですが、今の世代のメリットだけで、渚を破壊することは、絶対に止めなければいけません。

感情的ではなく、合理的に、客観的に、渚の意義を考えさせてくれる良書です。


[ 2013/05/12 07:00 ] 環境の本 | TB(0) | CM(0)