とは考

「・・・とは」「・・・人とは」を思索

『だから売れちゃう! お客様の心を一瞬でつかむ接触の法則』河瀬和幸

だから、売れちゃう! お客様の心を一瞬でつかむ接触の法則だから、売れちゃう! お客様の心を一瞬でつかむ接触の法則
(2013/09/04)
河瀬 和幸

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著者は、東急ハンズの実演販売で、8年連続売上ナンバー1の商品を生み出した、販売のプロです。実演販売の道では、広く名が知られており、「完売王」と呼ばれているそうです。

その著者が、販売ノウハウを漏らさず公開しているのが本書です。モノを売る高度なノウハウがぎっしり詰まっています。その一部を要約して、紹介させていただきます。



・他人と趣味について話をすると、その人は友達になる可能性がある。他人と商品について話をすると、その人はお客様になる可能性がある。

・商品について話した人が「お客様」。商品について話してない人は「通行人

・販売のステップは、「1.接触する」「2.説得する」「3.納得してもらう」。接触することを「引っ張る」とも言う。この「引っ張る」には、「1.遠くにいる人を商品の前に引っ張る」「2.その人の意識を商品の中に引っ張る」の二通りの意味がある

・「いらっしゃいませ」は一方通行のコミュニケーション。「いらっしゃいませ」と声をかけても、お客様は返答できない。午前中は「おはようございます」、午後は「こんにちは」と挨拶すると、お客様は言葉を返さなくても、表情が変わり、接触のキッカケが生まれる

・販売員の裏返る声、甲高い声に、お客様は「いいカモにされそう」と受けとめる。これではモノは売れない。普通の声でしゃべるべき。不自然な声はメッセージを歪んで伝える

・キレイに陳列するのは、実は、お客様にとっては「手にとりにくい」こと。お客様が手にとりやすいように、「チョイ崩し陳列」をすること

・お客様に買い物カゴを渡すと、「YES=ありがとう、どうもの言葉」「NO=結構ですの言葉。必要ないのポーズ」が返ってくる。NOならば「失礼しました」と一礼して引き下がる。YESならば「何かお探しですか」と声をかけて、接触の最初のステップが果たせる

・POPの一番の役割は「エッ、何?」と思わせ、立ち止まらせること。それには、歩いている人が読めるPOPを書くこと。大きく、太く、短く、シンプルに、ひと言ふた言で

・場面が変わる「移動ゾーン」に入ると、人の脳は緊張する習性がある。この「移動ゾーン」(出入口、エスカレーター、階段など)で販売活動をしても、効果は期待できない

・お客様の目線は、ゆっくり移動しながら、商品を「見ている」(SEE)と、商品をじっと「見つめている」(LOOK)の2パターン。声かけのタイミングは「見つめている」とき

・右脳に訴えて、お客様の心をつかみ、左脳で買う理由を見つけてもらう。この右脳から左脳への働きかけで重要なのは、右脳の刺激。そのためには、擬声語(ふわふわ、ごつごつ、さらさら、ぱくぱく、つるつる、ぷんぷん、チカチカ、きらきら等)で伝えること

・「売ろう、売ろう」オーラを出している自分に気づいたら、一旦、待つ。でも、ただボーッと待ってはダメ。「積極的にお客様を待つ」こと。積極的に待つとは、作業をしながら待つということ、適当に忙しそうにしている販売員に、お客様は声をかけやすい

・人は明るいところに引き寄せられる。楽しそうに集まっていると、ついついのぞいてみたくなる。その輪に入ると、自分の気持ちも楽しくなってくる。この集団心理を利用する

・人がモノを買う時の、購入の5ステップとは、1「エッ、何?」、2「で、それで?」、3「へー、なるほど!」、4「欲しくなっちゃったなあ」、5「ヨシ、決めた!」

・お客様の期待を募らせるには、「情報完結欲」の刺激が効果的。情報が完結しないと、脳が不快になり、情報を完結しようとする。この「情報完結欲」の刺激には、「暗示」が一番

・同じ商品を売っても、お客様は誰一人、同じように商品を見ていない。だから、その商品を正しく説明しようと気負わずに、お客様のイメージに合わせ、うなずいておけばよい

・最強の武器は、しゃべらずに背筋を伸ばし、にこやかにお客様に微笑むこと。微笑みが表のメッセージで、「買ってほしい」が裏のメッセージとして、お客様は読みとる

・二兎を追う者は一兎を得ずで、通路のどちらかを通るお客様を「断つ」勇気が必要

・工夫をする心こそが、モチベーションを高める。工夫する心は、どんどん増える脳細胞のようなもの。工夫した結果が失敗であっても、「経験」したということで成功と同じ

・販売員には、売場での接客を超えた可能性がある。その可能性は、観察し、観察から得られた情報を活用することで、花を開かせることができる



著者は、お客様の観察力に長けています。その観察力が、そのまま販売力となっています。どの分野でも、プロと呼ばれる人は、観察力に長けた人です。

売上を5倍にする著者の秘技は、他の人に比べて、お客様を5倍観察していることから生まれてきたのではないでしょうか。


[ 2014/01/08 07:00 ] 商いの本 | TB(0) | CM(0)

『鬼と仏の社長学』小野金夫

鬼と仏の社長学鬼と仏の社長学
(2013/08/01)
小野 金夫

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著者は叩き上げの苦労人社長です。実体験をもとに到達した心境が、本書に記されています。

「鬼と仏」という言葉に、トップとしての責任感と孤独が表れているように感じました。リーダーとして、ためになることが書かれています。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・経営に夢は不可欠だが、計画や数字の裏付けがなくてはならない。経営を博打だと思ったら大間違い

・経営はもの真似でよい。まず成功している企業の経営を見て、その良いところを貪欲に取り入れること

・差別や偏見はどこにでもある。文句を言って世をすねる前に、誇り高くまず自ら動き、周りを変えること

・理屈や理想をこねくり回す前に、しなやかに環境に合わせて変化すること

・人間はアリでなくてはいけない。地道に稼ぎ、コツコツ貯めること。ギャンブルなど、もってのほか

・夢をかなえるにも、禍に備えるにも、先立つものはお金。人生の痛みを感じながら貯金すること

・事業を拡大するなら、事業部制ではなく、分社経営にすべき。組織はできるだけ小さくすること

・物事を自分の言葉で定義づけ、それを社員に伝えることが、経営の第一歩と知ること

・目的がないものは「仕事」と呼ばない。どんなに忙しそうにふるまっていても、それは単なる「作業」にしかすぎない

・原理原則を守り例外は認めない「例外否認の法則」が、顧客満足と安定経営につながる

・経営者は現場主義に徹すること。社員の報告を鵜呑みにしていては、いつか経営を誤る

・基本はフィフティー・フィフティー。会社と社員の関係も例外ではない。お互い自立した関係をつくること

・都合よく人を型にはめようとしてはいけない。人には持って生まれた役割と個性がある。見極めずして経営者の資格はない

・この世はエゴの世地獄の世。それを認識し、人間として生きる意味を見出す。その勇気と力を持つこと

・若い人に生きた言葉を残すのが上の者の務め。心のこもった言葉を伝えること

・知識や情報だけで人が動くと思ってはいけない。現場に行き、現場の人と話をしなければならない。生きた言葉でしか人は動かないと知ること

・不要な喧嘩は避けること。その相手に助けられる時が来る。感情的になり争うことは愚かなこと

・人は求められ請われることで、生きる価値を見出す。尽して求めず、そういう生き方を目指すこと

・辛い、苦しい、不安だ。宗教に頼らず、人に尽すことで、本当の安らぎ、安定を求めること

・人が人を支配する時代は終わった。お互い自立し尊重し合う、新しい世界を目指すこと

・人生に幸せな日は数えるほど。苦労、困難、七転八倒こそが、人が生きるということ

・自分のものと思っているほとんどは、天からの借りもの。時が来たら、お礼を言って返すこと

・自分を知らないうちに弱者にして、与えられることを常としてはいけない。人任せの人生をまず脱却すること



人生を一生懸命生きてきた人の言葉が集約されている書でした。人間は、真剣に生きれば、こうなっていくという見本のような内容です。

現場で懸命に生きてきた人の声に、もっと耳を傾け、その書を読むことは大事ではないでしょうか。


[ 2013/11/11 07:00 ] 商いの本 | TB(0) | CM(0)

『俺は、中小企業のおやじ』鈴木修

俺は、中小企業のおやじ俺は、中小企業のおやじ
(2009/02/24)
鈴木 修

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著者は、軽自動車でおなじみのスズキの会長兼社長です。83歳の年齢で、3兆円企業の陣頭指揮を取る姿が印象的です。30年もの間、トップを務め、スズキを巨大企業に育て上げたにもかかわらず、自らを「中小企業のおやじ」と断言されています。

今でも変わらず現場主義を貫く姿勢に、参考すべき点が多々あるように思いました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・「安くするために軽くする」は、スズキのクルマづくりの原点。車体が1割軽くなると、コストも1割安くなる。そして、車体が軽くなった分、燃費もよくなる

・「10年で元がとれればいい」なんてことは言ってられない。工場も機械も新車の金型も、3年で投資回収できるという判断がなければ、投資はしない。逆に「3年償却の原則」があるから、投資後、是が非でも3年で元をとるという覚悟で、皆一生懸命やる

・社長に就任してから、営業関係について一つの社内ルールをつくった。「代理店に出向して社長を務めた経験がないと、営業関係の役員に登用しない」というもの

・社長就任後、次にやったのは、独立系の代理店や、整備工場をやりながら、新車を販売してくれる販売店の子弟を、スズキに無試験で入社させること。無試験というと怒られるから、今は「販売店の息子さんを預かる」と言っている

・「スズキは中小企業」。規模の話ではなく、会社の中身が中小企業のままということ。経理など管理部門も、設計など開発部門も全部、中小企業的。国内の営業網も例外ではない

・小さなメーカーが生き残っていくためには、自分のところで売るだけでなく、ある程度のOEMも必要。量が揃えば大量に生産できるから

・バイクのシェア競争に血眼になったときに得た教訓は「1位と2位が本気で戦い始めると、3位以下のメーカーなんて木端微塵に吹き飛ばされる」ということ。3位以下の企業は不安定で脆弱な存在。やはり、小さな市場であってもナンバー1になることが大切

・スズキ流の理想の工場は、プレス、溶接、塗装、組み立ての順番がラインで一直線に並んでいる「うなぎの寝床」型の工場。インドに新しく作った工場は建屋の長さが950m

・毎年、年に1回、国内外の工場に「工場監査」を実施している。丸一日かけて、工場を隅から隅まで自分で歩き、目を光らせる。実際に工場監査を行うと、毎回「なぜこんなムダがあるのか」「何でこんなことをするのか」といったバカげた事例が数多く見つかる

・「死に金は一銭たりとも使わない」というのがポリシー。電気やガスにはお金がかかるが、重力や太陽光はタダ。わざわざコンベヤーを設置しなくても、ちょっとラインを傾ければ、重力で動く。蛍光灯を設置しなくても、太陽光で明るくなるように設計したほうがいい

・スズキの工場では、国内はもとよりインドでも「小少軽短美」というスローガンを掲げている。この5文字は、コストダウンの要諦を表わしたもの。「工場にはカネが落ちている」。ムダを削れば削るだけ、会社の利益を押し上げ、社員や株主へ還元される原資が増える

・車両組み立てラインには、ムダな在庫が山積みの「死に地」が多くある。在庫を取っ払って、空きスペースにして、テープで「立入禁止ゾーン」にすれば、掃除する必要もなくなる。効率の悪い工場は、カネをかけてでも一刻も早く手直しするのが理に適ったやり方

・スズキは、役員人事でも、技術系と事務系が均衡している。執行役員以上の幹部の内訳は、事務系が14人、技術系が16人。人事はどちらかに偏ることなく、年次構成も考えながら、「会長が事務系なら、社長は技術系」といった組み合わせで、バランスを考えている

・GMとスズキの差は、鯨とメダカどころではない。あえて言うなら、鯨と蚊。メダカなら鯨に飲み込まれるが、小さな蚊なら、いざというとき、空高く舞い上がり、飛んでいける

・明確な経営戦略や戦術はなかった。それこそ我流というか無手勝流だった。まさに「ツキと、出会いと、運」。「先見の明があった」などとは口が裂けても言えない。どんな先見の明も、すべて後講釈というか後付けにすぎない。試行錯誤があるだけ

・物事の延長線上で考えるのはダメ。与えられた環境の中で、最善を尽くすことがすべて

・富士山のおいしい地下水も、溜まればボウフラがわく

・「率」は事態を覆い隠す。「個数」と「金額」で判断せよ



格好をつけていては儲かりません。ましてや、ナンバー1企業でなかったら、なおさらです。スズキは3兆円企業ですが、業界ではナンバー1から遠く離されています。

ナンバー1でない企業を、スズキのように、すべて「中小企業」だと考えたら、本書は、ナンバー1でない企業にとって、非常に役立つ書ではないでしょうか。経営とは何か?マネジメントとは何か?を考え直させられるのではないでしょうか。


[ 2013/10/14 07:00 ] 商いの本 | TB(0) | CM(1)

『商いの心くばり』伊藤雅俊

商いの心くばり (講談社文庫)商いの心くばり (講談社文庫)
(1987/03)
伊藤 雅俊

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イトーヨーカドー・グループ名誉会長である著者の本を紹介するのは、「商いの道」に次いで2冊目です。

本書は、著者が感じたことを社内配布の小冊子にまとめたものです。今から、25年以上前の本ですが、商売の基本に古きも新しきも関係ありません。勉強になることばかりです。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



人間は好みに滅ぶ。女好きの人は女で失敗するし、お金にばかり執着する人はお金で滅び、商売好きな人は、商売に気をつけなければならない

・とかく人間は、慣れてくると、態度がラフになりがち。そういう態度から失う信用は、操作上のミスよりも、はるかに始末が悪い

品質がよい、価格が妥当、サービスがよい、これらのことを忘れると、商売は基本的に狂ってくる。商売とは厳しいもの

・商品は売れないのが当たり前、お客様は来てくださらないのが当たり前。まず、ここから出発しなければならない

・会社が大きくなると、問題点がわからなくなる。商売をする人にとって一番大切な「利益よりも信用」という基本が、忘れられてしまう

・会社でも個人でも同じ。商売は自分の力だけで成り立っていると考えたら、必ず腐敗し、お客様や取引先を粗末にして、信用を失い、自ら滅んでいくに違いない

・誠実とは、「嘘のない行為であり、責任をもった行為」である

・広告宣伝に偽りがないから、お客様が信用してくださり、お客様が信用してくださるから、店が繁盛する。嘘のない仕事をするから、同僚、上司から仕事をまかされ、それに応えるから、ますますまかされ、昇進する。これが信頼関係

・新しい傾向を、いつ取り入れるのか、これがタイミング。「早すぎるバカ、遅すぎるバカ」で、早すぎてもだめ、遅すぎてもだめ

・変化に対応する戦略を考える上で大切なのは、やはり、店員自身がほしいと思う商品を揃えること。社員が自店の商品を本当にほしいと思って、買うようでなければだめ

・節約やコストダウンのことばかり考えていてはだめ。マネジメントというものは、会社の中の問題。けれども、利益というものは、必ず外部にある

・商売で成功している人には、意外に無器用な人が多い。利にさといとか才覚がある人は、かえって商売がうまくいかない。才覚のある人は、だいたい相場をやる。しかし、それに走ったら、商売がだめになる

・本田宗一郎さんが「お金など、そんなに難しいものではない。約束した日に支払えば、お金はいくらでも集まってくるものだ」と、うまいことをおっしゃっていた

・小売業は、案外、場所の悪いところでやっている人が成功する。いい場所にいる人は、おうおうにして道楽してしまう。その上、これまでいい場所にいた人は、どこかへ新しい店を出すのがこわくなる。恵まれた場所で豊かになると、保守的になってしまう

・小売業から商売を始めた人は、何をしてもうまくいく。これは、お客様から出発しているため。大企業の人が中小企業に来て育つことは少ない

・世の中でも、会社でもそうだが、自分で判断がつかなくなると、人に答えを求めるようになる。そういう時代に、英雄待望論が出てくる

人材とは何か。それは「責任を持つ人のこと」。言い換えれば、泥をかぶれる人のこと

他人様が持ってきてくれた仕事のほうが、自分の能力で考えた仕事より、はるかに大きい。だから、いろいろな人の引力に引っ張られて、自分が存在するのだと感じている

・官僚的になった人は、非常にうまい言葉でいろいろなことを言うが、一人称ではなく、三人称で言うのが特徴。三人称でものを言う人は不必要であり、一人称でものを言う人こそ、必要な人材である

・子供に限らず、人間は冒険心をもったときには、いきいきとしている。会社も、社員が冒険心をもったときには、いきいきとしている



会社が大きくなっていく過程では、技術力の向上よりも、社員の人間力の向上のほうが重要です。人間力の要素を、堂々と日々言えるリーダーがいるかどうかで、会社の将来が決まってくるようにも思います。

大企業では、著者のような言葉を直接聞くことは少ないのかもしれません。自分を奮い立たせる意味において、本書のような自叙伝は、その助けになるのではないでしょうか。


[ 2013/09/30 07:00 ] 商いの本 | TB(0) | CM(0)

『なにわ商人1500年の知恵』藤本義一

なにわ商人1500年の知恵 (講談社プラスアルファ文庫)なにわ商人1500年の知恵 (講談社プラスアルファ文庫)
(1994/08)
藤本 義一

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昨年亡くなられた著者の書を紹介するのは、「よみがえる商人道」に次ぎ、2冊目です。小説家、脚本家、テレビの司会などで活躍されていましたが、井原西鶴の研究家でもありました。

本書は、井原西鶴を初め、大阪の昔の商人の言行録をまとめた書です。商人の貴重な知恵に触れることができます。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・昔から大阪にはガッコアタマ(学校頭)という皮肉な表現がある。知識をいくら頭に詰め込んだとしても、それを実際に応用できなかったら、何のための人生かと嘲笑する時に用いる

・心学の流行した宝暦期には、家訓づくり屋というのも誕生した。江戸も後期になると、子供が親の苦労話などに耳を傾けなくなった。だから、心学者の先生方は家訓づくり屋として、生計を保つ糧を得るようになった

・大阪人は、笑いを家訓の中に盛り込んで、子孫に伝えようとし始めた。それは、大富豪ばかりか、庶民階級までが家訓づくりに励み出した。そして、次第に「人生訓」じみたものになっていった

・「あきんどはさんずの川をわたるな」とは、「金貸さず役就かず印鑑せず」の三つのことをやってはいけないということ

・「ヒンすりゃドンする」。このドンは鈍ではなく貪。貧の下には貪が待ち受けているぞという諌め

・買った客の方が「これは安い。これは便利だ」と喜んでこそ、商人の誇りが保てるわけ。単に薄利多売だけが大阪商人の専売特許ではない

・「商は笑にして勝なり」。商、笑、勝と同じ音を並べた語呂遊びだと単純に考えてはいけない。大阪の土地では、金を持つ人間がいつの世でも勝者であるという思想が焼きついた

金の運用というのは、野球で言えば、バントとかで塁に出た走者を着実に送っておいて、ドカンと長打で得点するのと似ている

・買手は、迫力のない売手から品物を手に入れようとは思わない。三井八郎右衛門高利は、資本(金)を運用するに当って、一種類の商品に、その商品専任の店員を配した

・「貯めるのは金、使うのは銭」。貯める時には「金」だと自分に言い聞かせ、使う時には「銭」だと思い込み、いさぎよく使えということ

・「土性骨」。土に根をおろし、さらに骨を宿してこそ一人前の人間になるということ

・「種牛となるも肉牛となるなかれ」。これは、「鶏頭となるも牛後となるなかれ」のモジリであるが、「あちこちに己の種をまいて店を拡張せよ、他人に食い潰されるな」ということ

暖簾分けしてもらえると忠誠をはかるが、その実情は、丁稚→手代→番頭→大番頭といって暖簾分けに至るのは400人に1人。後の399人は、年齢が重なれば放り出される

・井原西鶴が言う、ウマイ話にのる人とは、1、「富くじを買う人」2.「小額の積み立てをしている人」3.「小額を賭け事に投じる人」4.「一日中たいして働いていない人」5.「お上からの金をアテにしている人」

・主取り(就職)を間違うと、いくら力量があっても人生は行き詰まる。家柄のない庶民は、先ず誰に仕えるか。しかし、主取りして、二年か三年、職場の様子を冷静に判断し、力が認められないとわかったら、さっさと転職したほうがいい、というのが大阪人の考え

・狐狗狸商法(信用させて巻き上げる)を江戸時代の商法と馬鹿にしてはいけない。いつの時代でも人が人を騙す商法に大差はない。「目先の欲に目がくらむ」「自分だけが儲かる」「自分だけが儲かればいい」「楽して儲かる」「自分が他人の上に立てる」で騙される

・「人生というのは、一枚の黒板。自分の人生は、与えられた黒板に、自分の手に握った白墨で、なんやかんやを描いていくこと。でも、この黒板は普通の黒板と違う。絶対に消えない黒板」(喜劇俳優・渋谷天外)

・「癌というくだらない奴は、手術して取り出したら、食ってやろうと思っている。人間、死に呑み込まれてはいけない。世の中には、己が生きている癖に、死後の世界を語っている阿呆がいるが、そういう奴は往生際が悪いものだ」(今東光和尚)



大阪商人の伝統は、どんどん消えかけているように感じます。しかし、商いの精神は、今も昔も変わらないのかもしれません。

大阪だけでなく、地方の中小企業も、もう一度、商人の原点に立ち返ることが大切に思います。本書はその参考になるのではないでしょうか。


[ 2013/09/02 07:00 ] 商いの本 | TB(0) | CM(0)

『インスタントラーメン発明王・安藤百福かく語りき』

インスタントラーメン発明王 安藤百福かく語りきインスタントラーメン発明王 安藤百福かく語りき
(2007/02)
安藤 百福

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安藤百福さんは、インスタントラーメーンを発明した日清食品創業者です。5年ほど前に96歳という長寿を全うされましたが、その生前の貴重な発言をまとめたものが本書です。

不屈の魂を持つ苦労人(48歳でチキンラーメンを開発)だった著者の含蓄ある言葉が並びます。短いが、重みのある言葉が数多く集録されています。その中から、印象に残った言葉を紹介させていただきます。



・私は落選した代議士が好きだ。選挙区に腰を落ち着けて、市民の声を聞く。人の心の痛みがわかるようになる。今度、当選して出てきたときには、人間がひとまわり大きくなっているのが分かる

・いつも当選している代議士は、天下国家を理屈だけで論じている。国民の本当の痛みを、ついに知ることがない

・逆境に立って、すべての欲とこだわりを捨て去ったとき、人は思わぬ力を発揮できる

・人の集まるところには、需要が暗示されている

・工業化できない特許には、一文の価値もない

・発明したと思っても、世界では同じことを考えている人が三人いる

・私は、行く先々で、人が集まっていればのぞきこむ。商品にさわってみる。さわって分からなければ質問する。質問して分からなければ買って帰る

・時代の変化に対応するのではなく、変化をつくり出せ

・取り引きは、取ったり引いたりするものである。取りすぎて相手を殺してしまっては元も子もない

・要らないものは、ただでも高い

・商品はおいしくても、飽きがきてはいけない

・新しい商品は新しい販売システムで売れ

・衝撃的な商品は必ず売れる。それ自身がルートを開いていくからだ

・その商品には、消費者が支払った対価以上の価値があるか。売れるかどうかは、そこで決まる

・売ろうと宣伝するのではない。売れるから宣伝するのだ

・おいしいだけでは売れません。何度も食べてもらえるものを研究しなさい

・まず理想的な商品を考えてから、生産設備を用意しなさい。生産しやすい商品を開発目標にしてはいけない

・経営者とは、人の見えないものが見え、聞こえないことが聞こえるような人間でなければならない

決定は決定にあらず。より良いものがあれば変更すればいい

・リーダーは人の中の人でなければならない。人の中の人とは、世の中にない独創的なことを考え、それを達成できる人である

・人間はすべて善と悪を持っている。生まれたときは性善説、生活すると性悪説

・競争とは知恵比べであり、知恵ある会社には自ずと人が集まる

・自らの足で歩き、自らの目で確認しなさい。そうでなければ、あなたの話には重み説得力もない

・動けば費用がかかる。じっとしていれば時間が空費される。最大のコストは時間である

・管理職は部下に指示を与えれば仕事が終わったように思っていないか

・汗を流す仕事にバブルはない



安藤百福語録には、「ドキッ」とする言葉が数多く収録されています。「ドキッ」は、意表を突かれたときに出るものです。そして、「ドキッ」の後に、「ハッ」と気づきます。

「ドキッ」とする言葉を発してくれる人が、身近にいればありがたいものです。本書を読むと、気づかされることが多いのではないでしょうか。


[ 2013/02/18 07:03 ] 商いの本 | TB(0) | CM(0)

『商家の家訓―経営者の熱きこころざし』吉田實男

商家の家訓―経営者の熱きこころざし商家の家訓―経営者の熱きこころざし
(2010/10/20)
吉田 實男

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本書は、近江商人の家訓、豪商の家訓、財閥の家訓、老舗百貨店の家訓、製造業の家訓など、江戸時代の二十四商家の家訓を深く掘り下げた600ページを越える分厚い本です。

しかし、難解な専門書ではありません。現代訳と解説が丁寧に記され、見やすい構成になっています。参考になる箇所がたくさん見つかりました。その一部を要約して、紹介させていただきます。



・自分の一生は、その身代を我が子に渡すまでのたかだか30年。親から譲られた財産を大切にし、子供たちに無事に渡すべきもの(五個荘商人二代目中村治衛宗岸の家訓)

・人のことを謗ったり、告げ口をしたり、人間関係を混乱させるようなことは絶対にしてはならず、いつも陰日なたなく控え目であること(五個荘商人五代目外村與左衛門の家訓)

・売った後で、さらに値上がりして、悔しい思いをするのが、末永い繁栄の秘訣である。「売りて悔やむ」は商売の極意であることを心得ておくこと(同上)

・当面の利益の大小を争って、世間の動向に左右されるのは愚かな小人のすること(同上)

・40歳までは、人を招待したり、人からの招待に理由もなく出かけるものではない(博多商人島井宗室の家訓)

・他人が持っている道具を欲しがってはならない。たとえ人から頂戴することがあっても、決して受け取ってはならない(同上)

・貪欲な商人は五(分)を求め、清廉な商人は三(分)を求める。利益と道義は一体のものである(貿易商角倉素庵の家訓)

・近しい親類縁者の家に対して、金銀を融通することを堅く禁ずる。金銀の貸借を通じて一門が不和となることが多い(関西の豪商三代目鴻池善右衛門宗利の家訓)

・世の中のありさまや人の情けを理解し、心身を練磨することは、一家を治める上において必要なこと。本家を相続する者は、必ず全国を巡るべき(酒田の豪商本間光丘の家訓)

・美人でなくとも気立てがよく心優しい女がよい。結婚相手は器量好みをしないこと(関西の豪農伊藤長次郎の家訓)

・幸せとは、努力と辛抱によって手に入れるもの。それ以外に幸せも幸運もない(同上)

・贅沢しようと思わなくても、「これくらい差し支えあるまい」が、いつの間にか、ずるずると贅沢になる(同上)

・交際相手は、質素倹約をして地道に生活をしている人がよい(大地主諸戸清六の家訓)

・賢い人は、馬鹿になれる人。このような人になれば、頭を下げて人に質問もでき、商売もできる。気位が高いだけの人間になってはいけない(同上)

・2年先の予測、見極めができるようにすべき(同上)

・田舎に比べて、江戸・京都・大坂は華美に流れて贅沢になり、気位が高くなって、家業も疎かになる。「前車が覆るは後車の戒め」を忘れぬこと(三井家家祖三井高利の家訓)

・他人のことは悪口も誉め言葉も噂話もしてはいけない(住友家家祖住友政友の家訓)

・意志の弱い人は、気が移りやすく、衣服や調度の流行を追って、外見を飾ることを良しとする。このような欲望の奴隷となる人は財産を減らす(安田善次郎勤倹貯蓄談)

・意志の弱い人は、取引に際して、引っ込み思案で、相手に「引け」をとる。このような人は、情実にこだわって、損害を招く(同上)

・交わってためになる友を近づけ、損になる友を遠ざけ、己にへつらう者を友としてはならない(渋沢栄一の家訓)

・古参新参にかかわらず、信実の心を持ち、才能と力量を兼ね備えた人物を抜擢して大役を務めさせること。役に立たない順番を重んじないこと(大丸創業者下村彦右衛門の言葉)

値札どおりの商売をすること。高く値を付けて、後で値引いたりしないこと(高島屋の祖初代飯田新七の四つの網領)

・商品の善し悪しを明確にすること。商品の良いところ悪いところを正確にお客様に告げて、ただの一点たりとも嘘偽りがあってはならない(同上)



わかりやすい現代訳の「商家の家訓」は、ありそうでなかったように思います。しかも、「まとめ」が、よくまとまっています。

出典や参考文献も丁寧に記されており、江戸時代の企業倫理を知る上で、貴重な書ではないでしょうか。著者の真面目さと誠実さを感じる本です。


[ 2012/12/17 07:02 ] 商いの本 | TB(0) | CM(0)

『[新装版]商いの道 経営の原点を考える』伊藤雅俊

[新装版]商いの道 経営の原点を考える[新装版]商いの道 経営の原点を考える
(2005/01/25)
伊藤 雅俊

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著者は、イトーヨーカドー・グループの名誉会長です。東京の焼け跡からスタートした洋品店が、日本でトップクラスの流通グループを形成するまでの間の心の記録が、本書に記されています。

お母さん、お兄さんに教わったこと、会社が大きくなってからは、松下幸之助に教わったことなどを心の糧にして、実践してきたことも、本書に載っています。

客と商いについて、必死に考えることの大切さを痛感させてくれる書です。勉強になったところを、要約して、一部紹介させていただきます。



・「商売とはね、お客様を大事にすること、そして信用を大事にすること、それに尽きるのだよ」と母は口癖のように言っていた。信用を一旦失うと、瓦礫のように崩れてしまう。大きくなって、信用も大きくなるのは非常に怖いことと、わが身をいつも引き締めている

・おばさんが、ある時、「ひがみなさんよ」と私に言った。いろいろ難しい状況になり、何かを恨みたくなった時、ふと甦るのが、この言葉。ひがんだり、すねたりする人は、大成できないと思っている

・「お客様は来てくださらないもの」という気持ちで、毎日の商いをしなければならないと、母はよく言っていた。そして、母は、この単純な基本を実践することが商人の自己表現であると、実践することを要求した

・「開店の気持ちで商売をやれば、絶対に儲かる。それ以外にない」と、兄はよく言っていた。開店から何年もたつと、当初の気持ちを忘れ、驕ってしまい、忙しい時しか現場に出なくなる。だが、暇な時、お客様が少ない時こそ、商いを知る絶好のチャンス

・兄が急死して、無気力になっていた時、同業者の社長から、「あんたがそんな態度でどうする。お母さんは、社員は、社員の家族はどうなる?」「重荷を負っていかないと人間は駄目になるよ」と言われた

・母は、お客様に誠実に接していた。常に、「自分たちは身を質素にして尽す」「笑顔で応対する」「利幅をおさえる」の三つを肝に銘じていた。母は、何よりも信用を重んじていた。母の言う信用とは、誠実を貫くことであった

・誠実に商いをしようとすれば、現金主義になる。手形は、「紙切れ」なので、品物を選ぶ時の見方が甘くなる。自分の財布からお金を出して買うとなると、途端に厳しく吟味する

・人間は弱いから、理想や理念を持ち、それを意識して日々実践しなければ、流されてしまう。社是、信条は、「何のために働いているのか」の疑問に対する答えを与えてくれる

・最初に商売をする人の冒険心はある種の「狂気」。会社が大きくなると、冒険者たる魂を忘れ、リスクを恐れる。これでは、会社に「生気」がなくなる。生気のない会社は、お客様にそっぽを向かれる。生気のない商売をするくらいなら、怖くても冒険心を持つこと

・ファッションなんて外れるからファッション。それを外れないと思ってやるから間違う

・兄によく「お前は地主のようだ」と叱られた。それは、人が汗水たらして作り上げたものの上前を何の苦労もせずに取り上げるやり方で、安易な方法で商売をするなとの戒め

・「商人が漢字で考えるようになると現場から遠くなっている」。ひらがなで話す人は知恵の人。書物で得た知識よりも、実践を通して身についた知恵のほうが、商人には必要

・会社が繁栄する第一の要因は、社員一人一人が、「うちの会社」意識を持つこと。うち意識のある社員は、どんな問題が起きても、自分を当事者と考えるが、会社に使われているという意識の社員は、難しい状況の時、責任を他人に転嫁しがち

・「見えているお客様」の声にとらわれ過ぎて、「見えていないお客様」の声を聞くのを忘れてはいけない

・「成長を考えるな、生存を考えよ」。生存を考えての商いは、基本に忠実な地道なもの

・松下幸之助さんに、少人数の人を使う時は「ああせい、こうせい」と命令すればいいが、千人の規模では「こうして下さい、ああして下さい」、一万人では「どうぞ頼みます、願います」、十万人では「手を合わせて拝む」心根がないと動いてくれないと教えられた

・松下幸之助さんに、「人材とは何ですか」と伺ったら、「伊藤さん、町工場に東大出の人が来たら、それは人材でっか」と話された



イトーヨーカドー・グループは、時流に乗って、大きくなっていったというのも事実でしょうが、伊藤雅俊名誉会長が、「ひらがな」で教えてもらった商いの基本を、忠実に生真面目に実践したからだと思います。

それが、信用を膨らませて、どんどん大きくなり、今に至ったのではないでしょうか。簡素で地味な本ですが、内容は濃い本です。


[ 2012/10/09 07:03 ] 商いの本 | TB(0) | CM(0)

『京のあたりまえ』岩上力

京のあたりまえ京のあたりまえ
(2000/09)
岩上 力

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京都には、歴史的遺産が多く残されています。ということは、それを守ってきた住民がいたということです。それは、京都に住む人たちの考え方や行動が、無形遺産として、ちゃんと受け継がれてきたからではないでしょうか。

有形遺産と無形遺産は一対の関係であるならば、無形遺産である京都人を真面目に取り上げた書はあまりなかったように思います。

本書には、京都人たちの気づかい、言葉づかい、立ち振る舞いなど、人間関係を円滑にする作法が数多く掲載されています。それらを要約して、紹介させていただきます。



・「住まいはもちろん、近代的なビルの中にもお札がいっぱい貼ってある」
お札を貼ると、その場所や物を神聖に清めると同時に、特別な思い入れを感じてもらえる

・「おこられるから、やめとき」
子供を叱る時に、よく使う言葉。人様に迷惑をかけることが最もいけないことと子供の時から教える。決して、責任転嫁しているわけではない

・「しきたりは大事に守るが、おしつけたりはしない。よその文化も尊重する」
京都人は柔軟で、相手に対して自分のやり方を求めたりしない。よそのいいところを上手に取り入れていくのも京都流

・「しきたりや作法を大事にすることは、人と人とのつながりを大事にすること」
人に対する思いやりや相手を立てる気配りが、しきたりや作法を重んじることにつながる。つかず離れずの粋な関係はここから生まれる

・「しきたりにしばられるから楽できる」
しきたりは、難しいものと思われが、お付き合いを楽にしてくれる合理的マニュアル

・「お客様(訪問客)は曲がり角まで見送るもの」
昔から、よそのお家を訪問する時は、訪問者が気をつかい、辞去する時は、その家の者が気をつかうもの。辻まで見送るのが、余韻を大事にするのに、ちょうどいい距離だった

・「出されたものは少し残す
全部たいらげてしまったら、もてなしてくれた人に、足らなかったかなと心配させてしまう。だから、少しだけ残すというのが礼儀というもの

・「お約束の時間より、髪の毛一本遅れて行くのがお作法」
京都では、人を迎えることに、大変神経を使う。すべての準備が整い、ほんの一息ついた時に玄関のチャイムが鳴るのが絶妙のタイミング。早く到着すれば、先様を慌てさせる

・「祇園祭は京都人の心であり誇り」
祇園祭は京都人の無駄の心の表れ。観光客のためではなく、町衆のための祭りである限り、いつまでも続いていく

・「京都では女子(おなご)は宝」
京都では、外で仕事をする女性店や家を守る女性、そのいずれも認めてきた。女性がちゃんと仕切ってきたからこそ、京都のしきたりや行事が今に伝えられている

・「強要された寄付は嫌いだけれど、お布施の心は生活の中にちゃんとある」
金額を決められた寄付には抵抗がある。お布施の心で、自主的に寄付するのが京都人

・「京の着だおれ」
着物を着るのは、自分の心の豊かさの表現であり、相手様に対する気配りでもある

・「一見さんおことわり」
客を差別しているのではない。一人一人の客を大切にし、最高のおもてなしをするために生まれたもの

・「京都人はけちではない。上等に生きている」
上等に生きることは本物を知ること。安価なものを買うのであれば、本物を買えるまで我慢しろと教えられる

・「気くばり眼くばり耳くばり、それが大切」
人のふり見て我がふり直せ、京都人は小さい頃からこう言われて育つ。お互いに神経を使い合うことから、洗練されたマナーが生まれてきた

・「人はやっぱり折れ反れが一番」
人間としての本物とは、折れたり反れたりが自然に出来る人。目上の人にも、目下の人にも、いつも誰にでも頭を下げることができるのが、大切なことと京都人は考えている



日本には、農村における人間関係のルールや良きしきたりはありますが、都市におけるものは少ないように思います。

農村のそれは、深い絆を求めるものです。都会のそれは、付かず離れずの関係を維持していくことが大切で、京都1200年の知恵がその代表的なものです。

そういう意味で、本書は、洗練された都会の大人になるためのガイドブックになるのではないでしょうか。


[ 2012/09/17 07:02 ] 商いの本 | TB(0) | CM(0)

『家郷の訓』宮本常一

家郷の訓 (岩波文庫 青 164-2)家郷の訓 (岩波文庫 青 164-2)
(1984/07/16)
宮本 常一

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宮本常一氏は、柳田國男氏と並び称せられる民族学者です。柳田國男氏が表の世界なら、宮本常一氏は、裏の世界を歩んだ方です。昭和の時代、全国の民家に1000軒以上宿泊し、膨大な資料を集めてこられました。

本書は、宮本常一氏の初期の作品(昭和18年)です。自分の生い立ち(瀬戸内海の大島出身)を振り返りながら、どのような家の訓え村の訓えを受けてきたかを克明に記したものです。幕末から戦前の教育の変遷を知ることもできます。

興味深く思えた箇所が数多くありました。これらの中から「本の一部」ですが、紹介させていただきます。



・村には「金はコヤライ(子育て)の間でなければたまるものではない」という諺があった。これはコヤライの時代が、人間は一番生気もあり、覇気もある時で、子供が大きくなった頃には、親は既に老いて、産を興そうなどという意気も体力もなくなるという意味

・宿に困っている人に宿を貸すことを、「神仏を拝むのも、人に功徳を施すのも一つだと思いまして」と村の人は言う。自分の息子も旅でお世話になっているやら分からぬので、困っている他人をおろそかには出来ないとのこと

・郵便局が村内にできるまでは、貯蓄形式はすべてタノモシによった。田畑とタノモシの掛金がその家の財産の大半だったから、家の資産の程がほぼ分かった。タノモシは貧窮を救うものだが、酒食も出ることで、大切な交際となり、お互い団結することが多かった

・娯楽は、都会人にとっては、個々が楽しむことのように考えているが、村にあっては、自らが個々でないことを意識し、村人として大勢と共にあることを意識するもの。共通の感情を持っていることを確かめ得て意を強くした

・子供を躾けるのは女親。子供を嫌がらせずによく働かせる親が甲斐性ものと言われた。仕事は、どんなに拙くてもよかった。母親は、最初はただ一生懸命に倦かずにやることを要求した

・笑われるというのは、村に住むものにとって、最も大きな恥であった。「貧乏しても笑われるようなことはしなかった」が母親の口癖。笑いものの種になるのは、仕事に不熱心であることが第一であった

・子を立派に躾け得ないものはよく笑われたが、この掟が破られるのは、遠方婚が盛んになってきてから。元来、結婚は村内か、遠くて一里内外の範囲で行われたが、大正初期から、都会の女を迎えて、妻にする者が多くなってきた

・幸福とは何かということを本能的によくわかっていた。それは、何よりも人並みに暮らすということであった。人並みのことをするということは、村で生活することの第一の条件であった。人並みのことさえできないことは、何よりの恥辱に思われた

・「ショウネ(性根)のすわっていない者くらいショシャ(所作)の悪いものはない」と父はよく言っていた。そして「男は仕事に惚れなくてはいかん」とも言われた

・「どんなにつまらんと思うものでも、それの値打ちが本当に見えんと百姓はできん」「田畑へ出ていきなり仕事をし始めるような百姓ではだめだ。一通り田畑のほとりをまわって見て仕事にかかるもの」。わずかの田畑を耕す小百姓の父でも、よく心得ていた

・父が私の出郷に際して言いきかせ、書きとめさせた言葉は、
1.「三十まではお前の意志通りにさせる。しかし、三十になったら親のあることを思え。また困った時や病気の時はいつでも親の所に戻ってこい。いつでも待っている
2.「酒や煙草は三十までのむな。三十すぎたら好きなようにせよ」
3.「金は儲けるのは易い、使うのが難しいものだ」
4.「身をいたわれ、同時に人もいたわれ
5.「自分の正しいと思うことを行え
これによって、私のかどでがなされた。この言葉の中に含まれているものは、新しい意志である

・柔弱な若者に対しては、娘たちはいつも辛辣であった。皮肉をあびせかけたり、あだ名をつけたり、遊びに行くと散々に冷やかすので近寄れない。そうして女たちは男を評価した。このため、若い男たちは、男らしさ勤勉さ優しさを持たねばならなかった

・共に喜び共に泣き得る人たちを持つことを生活の理想とし、幸福と考えていた中へ、明治大正の立身出世主義が大きく入ってくる。心の豊かなることを幸福とする考え方から、他人よりも高い地位、栄誉、財などを得る生活をもって、幸福と考えるようになってきた


この本には、みんなが幸福になるための教育、みんながうまく暮らしていくための教育が、記されているように思いました。

また、島内という閉鎖空間で長年培ってきたものが、国家の道徳という掟に、壊されていく過程も、本書には記述されています。

何が幸福か、何が教育かを知る上で、戦前の村人たちが培っていたものを、もう一度見直していくことも大切なことではないでしょうか。


[ 2012/08/27 07:03 ] 商いの本 | TB(0) | CM(0)