とは考

「・・・とは」「・・・人とは」を思索

『ゆとろぎ・イスラームのゆたかな時間』片倉ともこ

ゆとろぎ―イスラームのゆたかな時間ゆとろぎ―イスラームのゆたかな時間
(2008/05/28)
片倉 もとこ

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イスラム世界の書は、宗教や政治などの大きなテーマに関するものが多数です。しかし、本書は、イスラム教信者の日常生活という小さなテーマが内容です。

著者は、イスラムの日常で大事にされている『「ゆとろぎ」=(「ゆとり」+「くつろぎ」)-「りくつ」』をタイトルにして、イスラム世界を論評しています。興味深い点がいくつもあり、それらをまとめてみました。



・アラビアには、「じっとしていると、汚れてくる。場所も心も」という「移動哲学」がある

・アラビアでは、「くつろぎ」や「ゆとり」は、人生の中で一番いいもので、能動的、積極的な意味合いを持った言葉

・アラビアの人たちは、動くと「いろいろな感興がわいてくる」「詩が出てくる」と言う

イルム(知識、情報を豊かに得ること)は、人生の目標。人間の立派さは、社会的地位によるものではなく、その人がどのくらいのイルムを持っているかによるもの

・アラビアでは、偉い人、仕事をバリバリとやっている人でも、詩がつくれない人は、感受性がない、人間として駄目だされる。政治家でも、詩が詠めないと、評価が下がる

・イルムを得るというのは、昨日知らなかったことを今日知る、今日知らなかったことを明日は知る、というのを人生の喜びとすること。知識を得るためなら、どんな遠方でも行くようにと、預言者ムハンマドは言う

・アラビア社会の風潮では、労働は必要悪。人の生き方の中で、仕事そのものに価値を置かない。仕事は生活のために必要なのであって、それに付随する社会的な意味や徳といったものについては考えない

・労働というものは、自由と対立するもの。労働は、人間である所以の自由、人間の尊厳を損なうもの、という考え方。自由という価値を、何より大切にする

労働はせざるを得ないけれど、なるべく「無知なもの」たちに分担させるもの。子供たちは、まだ何も知らない小さいときから、労働をさせられる。労働させることで、大人になっていく

・イスラーム世界、特にアラビアでは、保護せねばならない人には、付き添いをつけるのが当たり前。年寄りが若者に「手を貸してくれ」と悪びれずに言う。若者はたとえ職場に急いでいるときでも、「自分のほうから気づくべきだった」と言いながら、手助けする

・弱い立場にある者を保護するのは義務であるという思想が、ごく普通の人の間にも浸透している。一夫多妻婚の制度も、戦争によってできてしまった多数の未亡人とその子供たちを救うための措置

・イスラーム教徒のなさねばならない行は、サラート(礼拝)、サウム(断食)、ハッジュ(巡礼)、ザカート(救貧)。ザカートは、持てる者が持たない者に、自発的に施しをすること。後のイスラーム法の細かい取り決めで、救貧税として徴収されるようになった

・弱者救済の思想には、神の前にすべての人間は同じであるという平等主義、ストックよりもフローを重視し、ものを一つのところに淀ませておくことを罪悪視する考え方とも関連する

・イスラーム教は、人間はその弱さゆえに、いい加減な行動をするという「人間性弱説」があるため、誘惑に負けなくする状況をつくるのに腐心する。トラブルが起こる前に、禁酒にしておくのがいい、男女隔離とヴェール着用にしておくのがいい、という考え方

・モノを私有するという執着としんどさから解放され、先祖代々の墓を守るということからも解放されると、人々は身軽に楽しく引越しをする。動くことは、人の暮らしを活性化する

・遊牧民は、定着した連中を軽蔑して、「あんな家に住むから、肝っ玉の小さな人間になる」「定着した遊牧民は、モノを溜め込み、守りの姿勢に入って、おどおどした雰囲気になる」と言う

・エジプトやイラクなどのイスラーム社会で道をきくと、知らなくても「一緒に行こうか」と付いてきてくれる人が多い。道を知っているかどうかより、迷っている人を助けたいという親切心が先立ってしまう優しい人たち



アラブの人たちを理解するには、イスラム教を理解しないと始まりません。本書には、そのエッセンスが載っているので、便利です。

他文化を理解し、他国の人々を理解するには、相当な努力と時間が必要であると、痛感させられる書でした。


[ 2014/08/08 07:00 ] 海外の本 | TB(0) | CM(0)

『あっぱれ技術大国ドイツ』熊谷徹

あっぱれ技術大国ドイツ (新潮文庫)あっぱれ技術大国ドイツ (新潮文庫)
(2010/12/24)
熊谷 徹

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ドイツは、日本同様に技術大国です。輸出も絶好調のようです。ところが、自動車以外に思い浮かぶものがありません。

では、どういったものを輸出しているのか?どんな製品をつくるのが得意なのか?技術者教育をどのように行っているのか?そういったことを詳細に描いているのが本書です。その一部をまとめてみました。



・勤労者の71%が中規模企業に雇用されている。特に職業実習生の83%が中規模企業で働いている。中規模企業はドイツ最大の雇用主

・雇用者数が多い中規模企業は、政治家にとっても重要な票田。どの政党も選挙戦で「中規模企業はわが国の経済の大黒柱」と持ち上げる。そして、規模が小さな企業に対する優遇措置を、公約に盛り込む

・中規模企業は、株式会社ではなく、家族経営の企業が多い。ドイツの中規模企業で輸出企業として成功を収めたところは、ニッチ市場に特化しているのが特徴。製造・販売する製品は、直接消費者に売られる製品よりも、他の企業に販売する製品(BtoB取引)が多い

・ドイツの中規模企業の経営者は、名前を世間に広く知られることよりも、売上高と収益を着実に伸ばし、従業員の雇用を長期的に確保する「名より実をとる」哲学を実践している。マーケットシェアが公表されることを嫌って、マスコミの取材を断る会社も多い

・ドイツは人件費が高いので、外国企業を相手にした価格競争では勝ち目がない。そのため、付加価値が高く、顧客の要望に合わせた製品をつくり、新しい技術の開発、既存技術の改善を行い、価格競争に巻き込まれるリスクを少なくしている

・物づくりを重視するドイツ人の国民性を表す言葉が「テュフトラー」。この言葉は、「精密機械や部品、模型などについて、長時間かけて細かい手作業に凝ったり、工夫したり、試行錯誤したりするのが好きな人」を意味する

・ドイツ南西部のシュヴァーベン人たちは、相対性理論からクレーンに至るまで、革新的アイデアを次々に生んだ。特に19世紀後半から20世紀の初めにかけて、この地域では、自動車や飛行船など、その後の世界を大きく変える発明が行われた

・ドイツ人は「働き者で倹約家で、ムダや贅沢、虚飾を嫌う」のが特徴だが、そのドイツ人の間でも、「シュヴァーベン人は特に働き蜂で、倹約を好む」と見られている

・産業振興政策の先駆者シュタインバイスは、民衆に職業訓練を行い、技能を身につけさせることの重要性を見抜き、職業教育の普及に努めた。「誰もが仕事を持っている所では平和が支配し争い事が起きず、繁栄を享受する。失業は諸悪の根源」というのが彼の持論

・シュタインバイスは、「民衆は荒削りの素材のようなもの。これを教育によって貴金属に変えなければならない」と、職業教育と専門教育の必要性を説いた。また、「政府の最も重要な任務の一つが、民間企業を振興すること」と断言している

・ドイツ人が秩序と整理整頓を好むのは、時間を効率的に使うのを重視するから。ドイツ人は、目的を達成するためにかかる時間と労力が、得られる利益に比べて大きすぎることが最初からわかっている場合は、初めからその仕事に取り組もうとしない

・「技術とは、あくせく努力する行為をしないで済むように努力すること」。新しい技術は、しばしば労力の節約につながる

・ドイツ人は何につけ凝り性で、中途半端が嫌いな完全主義者が多い。また、グレーゾーンが大嫌いで、物事に白黒をつけることを好む

・ドイツ人は個人主義が強い反面、法律や規則を作るのが好き。また、他の民族に比べて、法律を守ろうとする傾向が強く、違反者は社会的な地位にかかわらず、厳しく罰する

・ドイツ人のきっちりした国民性は、宗教に関係がある。ドイツ人のキリスト教徒のうち、49%がプロテスタント(新教徒)

・米国の著名な投資家ウォーレン・バフェットは、高度な技術を持つドイツの家族企業の買収に強い関心を示し、ドイツを訪れ、実際に数社の家族企業の経営者とミーティングを持った



ドイツ人と日本人は、似ているところ(働き者、凝り性)が多いと言われています。本書には、その似ているところが発生した要因が記載されており、参考になりました。

日本人は、最近ドイツ人に関心がなくなってきています。サッカー以外にもドイツに学ぶべき点は、まだまだあるのではないでしょうか。


[ 2014/08/06 07:00 ] 海外の本 | TB(0) | CM(0)

『儒教と負け犬』酒井順子

儒教と負け犬 (講談社文庫)儒教と負け犬 (講談社文庫)
(2012/06/15)
酒井 順子

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著者は「負け犬の遠吠え」の作者です。その著者が、韓国と中国に、独身女性を取材した書です。

日中韓の結婚観、家族観が、儒教の影響を受けながらも、微妙に違うところが面白いところです。その中で、印象に残った一文を幾つかまとめてみました。



・韓国では、結婚していない女性を、性体験があろうとなかろうと、「処女」と言う。だから、三十代にもなると、「老処女(ノチョニョ)」となる

・韓国の女性が、たとえ友達同士であっても性的な話をすることはない。儒教の影響と思われるが、この手の話をすることは、ものすごく下品というか、タブーということになる

・韓国の姦通罪は現行犯逮捕でなければならない。妻なり夫なりが警察官を連れて、浮気現場に踏み込まなくてはならない。そして、いざ姦通罪になった時には離婚をしなくてはならないので、「逮捕して慰謝料もらって別れる」覚悟がないといけない

・先祖との結びつきを重視するということは、子孫を残すという任務も重要ということ。当然、結婚可能な年齢なのに結婚していなければ、ものすごく肩身が狭くなる

・韓国では美容整形手術が盛んに行われている。しかし、その秘密を墓場まで持っていくといった悲壮感は見られない。結婚したら夫に言うのが一般的

・ソウルの勝ち組・勝ち犬たちは、盤石の自信を持ちながらも、とても大変そう。夫の親戚筋との付き合いや、頻繁にある法事などの行事、子供の教育。負け犬とはまた別の責任が、彼女たちの肩に重くのしかかる

・科挙という形で、学力試験の合格者を登用してきた伝統を持つ朝鮮半島では、「卑しい労働に手を染めることなく書を読む」ことが理想とされた。韓国女性たちは、「卑しい労働」を子供たちにさせたくないと思うからこそ、教育への負担感が大きい

・儒教国の人々は、結婚プレッシャー、親孝行プレッシャー、子孫繁栄プレッシャーなどが強く存在しているからこそ、つい結婚に及び腰になってしまう

・韓国で子供がないない夫婦が子供を作ろうとしない理由の6割が「養育費や教育費の増加」。韓国人が考える教育費の負担感は、日本人のそれよりもずっと深刻

・「老処女」問題が深刻化している韓国で、「老処女」になった理由に、「外見が悪いから」をあげる人がかなり多い。「良い出会いがない」「結婚の意思がない」に次いで第三位

・韓国の結婚相談所は、「一般」「専門職」「医者・弁護士系」コースに分かれる。「一般」は年会費が約12万円だが、「医者・弁護士系」は67万円。一般の「お見合いおばさん」に頼んでも、医者や弁護士の男性と結婚が決まったら、約100万円支払わなければならない

・韓国の独身男性が結婚相手に求める条件の三位が「家庭環境」(第一位「性格」、二位「外見」)。親が離婚しているとか、両親の経済力や学歴、そして家柄といった問題が大きい

・中国の「三高」とは、「学歴が高い」「収入が高い」「年齢が高い」ということ。上海では、三高女三低男は、絶対にくっつかない。上海の三低男は、地方や農村から「外来の嫁」を取る。そして、上海の三低男に嫁を取られた農村の三低男は、余っている

・中国の負け犬的女性は「余女」と呼ばれる。「老大難余女」という言い方もある

・上海の妻というのは、いかに一円でも多く夫からむしり取るか、みたいなことを常に考えている

・「女大学」(儒教が最も発達する徳川期の封建社会下において、家を存続させるため、女子に対して心構えを説いた書)の内容は、中国の儒教書をベースにしている。中国では、日本の女大学が流行るはるか前から、この手の「女の管理法」が明文化されていた

・中央集権体制を守るため、そして家を守るための教えであった儒教。しかしそれは、「眠れるパワー」であった女性の力を世に出さないための仕組みであった

・日本においては、親子愛を疎かにすると世間から非難されるが、夫婦愛を疎かにしても全く非難されない。夫婦愛の希薄さは、かつて子孫を残すことのみを目的として家庭を作った時代の名残。夫婦愛が希薄であったからこそ、妻は愛情を子供に向けるしかなかった



中国や韓国とは言い争いや紛争が絶えませんが、儒教というベースにおいて、似ているが故の悲劇なのかもしれません。

この少し違った「違い」を分析することが、中国と韓国を理解する基本となるように思います。しかし、儒教が日中韓の仲を邪魔しているのも事実でしょうね。


[ 2013/12/25 07:00 ] 海外の本 | TB(0) | CM(0)

『イスラム圏でビジネスを成功させる47の流儀』佐々木良昭

イスラム圏でビジネスを成功させる47の流儀イスラム圏でビジネスを成功させる47の流儀
(2013/07/19)
佐々木 良昭

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著者の佐々木良昭氏はリビア大学出身で、イスラム諸国に豊富な人脈のある方です。大学教授を経て、アナリスト、財団の研究員として活躍されています。

本書には、その豊富な人脈に培われたイスラム圏のエキスが詰まっています。習わし、掟など、ビジネスに必須の事柄も簡潔にまとめられています。役に立つ書です。その一部を要約して、紹介させていただきます。



・現在、世界のイスラム教徒(ムスリム)の数は16億人。インド(人口の20%がイスラム教徒)、パキスタン、バングラデシュの地域に約5億人。インドネシアに2億人以上。ロシアの人口の15%、中国の人口の3%もイスラム教徒。フランスやイギリスでも急上昇中

・イスラム教徒急増中のフランスでは、ハラ―ル(イスラム法上で食べることを許された食品)関連商品を集めた「ハラ―ル・エキスポ」が毎年開催されている。ハラ―ル食品の市場規模は5800億ドル、化粧品や医薬品を加えた市場規模は2兆1000億ドルにも上る

・モノを作る場所としても、イスラム圏は注目されている。勤勉な労働者が多く、賃金の割安なインドネシアやバングラデシュ、中東の雄トルコへと向かう日本企業が目につく

・石油や天然ガスによって好況を維持している湾岸諸国(アラブ首長国連邦、バハレーン、クウェート、カタール、オマーン、サウジアラビアなど)は、ビジネスチャンスにあふれている。これらの国々の富裕層が操る「イスラムマネー」の総額は1兆ドルを突破した

・18000を超える島々で構成されるインドネシアは、国家全体が海に面しているので、部品や製品の輸送に強力な武器となり、「モノを作る場所」としての大きなアドバンテージ。また、石油、天然ガス、レアメタルといった天然資源も豊富

・インド政府は、ものづくりの基礎教育の徹底を図ろうとしている。全土にある職業訓練校(電気工事、旋盤、金型などのコースがある)には、優秀な指導者が不足している。そこで目を付けているのが、日本人の熟練工。リタイアー組であっても引く手あまた

・トルコの大学数は156校。毎年52万人が巣立つ。教育水準の高さとその勤労意欲は魅力で、専門知識や技術を持つ若者が多い。トルコはEUと関税同盟を結び、20ヵ国とFTA(自由貿易協定)を締結しているのも魅力。主要市場への効率的かつ費用効果の高い架け橋

・イスラム圏の人々は、受けた恩義を忘れない。義理人情に厚く、昔気質の日本人に共通するものがある。苦しいときに助けるという先行投資も、やがて実を結ぶ日が来る

・コーラン(イスラム教聖典)は、女性は顔と手以外は隠せよと記している。保守的な地域では、外出の際、「ビジャブ」(頭髪を覆う)と「アバヤ」(ドレス)で身を隠す。「ニカーブ」(目だけ見せる頭巾)や「ブルカ」(目の部分も網目で覆う)などの制約もある

・ぽっちゃりと太った男は、イスラム圏のいい男の条件。その結果、生活習慣病に悩まされており、サプリメントが注目されている。この分野でも、家電や自動車と同じく、日本製の受けが大変いい。健康食品産業は新たな市場としてイスラム圏に目を向けるべき

・アラブの人々に受ける日本料理はすし。手で味わうというDNAが親近感を覚える。他の日本料理で受ける可能性のあるのは、お好み焼、ラーメン、焼きそばなどのB級料理。ただし、その場合も「ハラ―ルの掟」を遵守することが条件

・イスラム圏の人々は、よく「日本人は、やさしい母親のようだ」と言う。その心は、何でも言うことを聞いてくれるから。日本人のきめ細かいサービスは武器となる

・ハラ―ルの世界標準規定に名乗りを上げたのがマレーシア。国家ぐるみでハラ―ルの認証を行い、巨大なハラ―ル市場を相手にビジネスを行おうとしている

・イスラム金融にはスクーク(イスラム債)、タカッフル(イスラム保険)、ムダーラバ(信託金融)などの商品があるが、いち早く政府主導でこの分野に進出したのがマレーシア。発行額844億ドルのスクークの7割がマレーシアで発行される

カラミーヤ(賄賂)は減少したが、ワーシタ(仲介料・口利き料)は今でも強力なビジネスの手段。ワーシタは人脈のパイプを劣化させないための潤滑油

・「独裁者だから許せない」「民主的でないから許せない」というのは、西側諸国の見方にとらわれた一方的なもの。イスラム圏を相手にするビジネスマンは、言動を慎むべき

・イスラム教徒の義務である信仰の方法を「六信五行」と呼ぶ。6つの信じていることは、「1.アッラー」「2.天使」「3.コーラン」「4.預言者」「5.来世」「6、定命」。5つの義務行為は「1.信仰の告白」「2.礼拝」「3.断食」「4.喜捨」「5.大巡礼」



本書には、これらの他に、「母親や家族に気に入られる」「神秘さを漂わせる日本人は強い」「安全第一・整理整頓の標語が武器となる」「女性だけのオンラインビジネスにチャンスがある」などのイスラム圏で成功する流儀が記されています。

ビジネスのヒントがいっぱい載っていますので、イスラム圏でのビジネスに関わっている方の入門書として、最適なように思います。


[ 2013/09/20 07:00 ] 海外の本 | TB(0) | CM(2)

『目からウロコの「ハワイらくらくプチ移住術」38の鉄則』小林護

目からウロコの「ハワイらくらくプチ移住術」38の鉄則目からウロコの「ハワイらくらくプチ移住術」38の鉄則
(2012/10)
小林 護

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ハワイに遊びに行くのは簡単かもしれませんが、移住しようとすると、お金で解決できない様々な問題が生じます。著者は、ハワイ在住19年の移住専門のコンサルタント会社代表として、その問題を解決することに熟知されています。

本書には、単にハワイだけの問題ではなく、「海外に将来移住したい」「海外でビジネスをしたい」と考えている人にとっても、有益なことがいっぱい載っています。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・ハワイは全米長寿ランキング第1位の州。気候が温暖である、島である、独自の文化や音楽がある、「ハングルーズ」(気楽に行こう)といった価値観を持っている点がその要因。ハワイは「スローライフ」が楽しめるところ

・ハワイは日本人がビジネスをするのに向いている。ハワイ在住のアメリカ人が入りたくても入れない「日本人マーケット」の入口に既に立っているから

・日本人のミリオネア(億万長者)は174万人(70人に1人)。彼らの多くが、海外旅行が好きで、特にハワイは定番となっている。彼らは、もう「モノ」は要らない。でも、人生を豊かにする「情報」や「サービス」なら高くても欲しいという発想の持ち主

・ハワイは人口120万人と少ない。また、その多くが年収4万ドル以下。このマーケット規模では、スケールメリットの戦略を取るのは難しいが、毎年その約6倍の観光客が集まる場所。観光客を含めた場合、その経済規模は決して小さくない

・ハワイは、日本からの富裕層が、コンドミニアムを購入したりする場所として知られているが、それはアメリカ人の間でも同じ。多くの富裕層がリタイア後の生活拠点として、コンドミニアムやセカンドハウスを所有している

・あなたがもし「自分には得意分野がない」と思っても、あなたが「それ」をしていても苦にならない、「それ」をするなら何時間でも飽きないといったものがあれば、その場合の「それ」こそが、あなたが潜在的に持っている得意なジャンルということ

・ハワイで就職を検討する方は、履歴書に、日本式で控え目な内容や「言われたことは何でもします」的な受身の内容を書いてはいけない。相手に期待させる内容でなければ、面接してもらえない。そして、面接では「自分をプレゼンする」イメージで挑むこと

・ハワイで成功するビジネスとは、ローコストにこだわり、オフィス不要、仕入れ不要、在庫不要といった「失敗しづらい」ビジネス

・ハワイに住むビジネスマン(特に貿易業)にとって、ラスベガスは「ギャンブル」するところではなく、「仕入先」の開拓や「バイヤー」を探すところとして有名。各種コンベンションが毎週のように開催され、世界中のメーカーや卸業者、バイヤーが入り乱れている

・商談交渉するアメリカの会社が小規模であれば、日本に自力で進出できる会社は少ないのでチャンス。そして、その独占販売権を日本の信頼おける業者に売り込んだらいい

・アメリカは「借金するほど信用が上がる」。「クレジットヒストリー」と呼ばれる与信力を調べるシステム(お金の返済状況を評価し、スコアに表わす)があり、点数が高いとパワフルなツールとなる。ハワイでは、アメリカの金融機関発行のカードを取得すること

・ハワイでは、オーナーはマネージャーと接する場合、「笑っている織田信長」を演じるのが最も効率的。つまり、普段はにこやかだが、言いたいときは率直に言うし、言ったことは(解雇も含めて)実行するといった、イエスかノーかをはっきりさせること

・アメリカ人の「自己正当化」(日本人からすると、ただの言い訳に聞こえる)の癖だが、彼らが非常識なのではなく、実は日本人である我々の方が、国際的に見た場合、非常識かもしれないという認識を持つこと

・アメリカは資本主義が徹底されている。資本とはお金のこと、お金とは「オーナーのお金」という意味。つまり、自分らはオーナーに雇わたプロとしてここにいるという点をアメリカ人はよく認識しており、「オーナーの意見は絶対」との共通概念ができあがっている

・ハワイには日本人「職人」が足りない。理由はハワイ自体マーケットが小さいため、能力、実行力のある日本人は、ニューヨークなどの大都市を目指すから。日本語OKの医師、弁護士、美容師、マッサージ師、増改築業者、車の補修業者などは慢性的に不足している

・日本では、「日本という社会システム」に順応できる人間が勝ち組で、それ以外は負け組になる。このシステムには「敗者復活戦」がない。日本でドロップアウトした「肩身の狭い思い」をしている方こそ、ひきこもらないで、海外に目を向けてほしい


著者は、ハワイという地域性、州民性、環境特性にマッチしたビジネスとは何かを真剣に考えられています。とおりいっぺんのマーケティング理論を語っていません。そこが好感のもてるところです。

日本でドロップアウトしてしまった人は、海外に新天地を求めたら、日本にいるよりも成功する確率が高くなります。その希望となる最高の地がハワイなのかもしれません。


[ 2013/08/02 07:00 ] 海外の本 | TB(0) | CM(0)

『文明が衰亡するとき』高坂正堯

文明が衰亡するとき (新潮選書)文明が衰亡するとき (新潮選書)
(2012/05/25)
高坂 正堯

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国際政治学者の著者が亡くなってから15年以上経ちます。国家の歴史を徹底的に分析し、現在の政治に言及する学者でした。今いてくれたら、どんなによかったことかと思います。

本書は、小国にもかかわらず、通商国家として成功したヴェネチアオランダの衰亡史をとりあげた内容です。今の日本が学ぶべき点が非常に多いと感じました。その膨大な内容の一部を要約して、紹介させていただきます。



・ヴェネチアは大陸国家のように重い権力装置を持たなかったので、その費用も少なくてすみ、財政管理は極めて効率が高かった。国家は商業会社のように運営されていた

・豊かになると、国民の間に富の差が生じ、力の格差をもたらす。国が強くなると、国際的な反撃を生み、権力政治に加わらざるを得なくなる。それらは強い権力を必要にさせる

・安定したリーダーシップを確保しながら、専政を防止する方法として、貴族政が確かであることは歴史の示すところ

・ヴェネチアは公的企業と私企業を巧く組み合わせ、経済的格差が増大するのを防止した。国会議員は、戦時には進んで戦わなくてはならなかったし、貴族は、租税上の特権や法外な富を貯えてはいけなかった。「節制の精神」が貴族政を支える徳性であった

・政治はそれを行う人間によって決まる。制度は大切だが、腐敗する危険が絶対にない政治制度などできない。秀れたエリートを持てるかどうかは、極めて大切なこと

・ヴェネチアは海運業を保護するようになった。しかし、その勢力は盛り返すことはなかった。効率の悪い船で商品を運ぶことを強いられたヴェネチアの産業は不利な立場に置かれた。こうした自由な精神と開放的な態度の衰弱こそ、ヴェネチアの衰亡期の特徴

・歴史を遡れば、ヴェネチアの商業は、税金が安いことから利益を受けた。そのうち、税は高くなったが、有効に使われていた。最後には、税金の高いことが企業活動を圧迫した。そして、ヴェネチア人の賃金や労働条件も法制化され、賃金の割に働かなくなっていった

・冒険を避け、過去の蓄積によって生活を享受しようという消極的な生活態度は、ヴェネチア人の貴族の男子で、結婚しない人が増えたことに現れている。17世紀には、適齢期の男で結婚しないものの比率は60%へと上昇していった

・ローマの歴史が示しているように、いったん大をなした文明は、直線的には衰亡に向かわず、衰亡の兆しが現れた後、何回かの浮沈を繰り返した後、初めてそうなる

・日本の戦後の成功は「パックス・アメリカーナ」という幸運な環境に負うところが大きい。日本は人的資源と水資源を除いて領土も狭く、資源もほとんどない。強大な国家となる基礎に欠けるのに、経済的に成功したのは、日本人の努力と能力だけでは不可能なこと

・パワーベースを欠く国の成功は不安だらけ。オランダの成功は敵意を生み、交渉の増大によって、摩擦も増えた。大体、中間に立って富を求めるものは人に好かれない

・幸運に助けられた成功と、どうしても克服できない脆弱性、その二つが通商国家の運命

・通商国家は、他人に害を与えることが少ないのに、嫌われる。ヴェネチアもオランダも、他国に大きな脅威を与えるはずがなく、秀れた技術によって、他国の人々の生活に寄与していたのに、好かれなかった

・17世紀、オランダの通商国家としての成功に直面して、思弁と仮説の反オランダ・プロパガンダが作られ、反オランダ政策が展開された。そして、オランダ人の才、進取の気性、勤勉の犠牲者になったと思い込んだ連中たちによって、反オランダ戦争が起こされた

・通商国家は戦争を避けようとする。それはただ、強力な国々の国際関係を利用するだけ

・通商国家は、他人に利益を与えることができるし、また、そうしなくてはならない。それにもかかわらず、巧妙な生き方をするが故に、通商国家は他人に好かれない。それは、人間の性からしてやむを得ない。ただ、それ以外に通商国家の生き方はない

・通商国家は異質の文明と広汎な交際を持ち、さまざまな行動原則を巧みに使い分け、それを調和させて生きる。しかし、そうすることで、自分の大切なものや自分が何であるかが徐々に怪しくなる。すなわち、道徳的混乱が起きる

・通商国家の人々は、成功に酔い、うぬぼれると同時に、狡猾さに自己嫌悪する。その結果、社会の中の分裂的傾向と平穏な生き方への復帰を求める傾向が起こり、変化への対応力が弱まる。しかし、通商国家はつねに新しい変化に対応する姿勢を持つ必要がある



通商国家の政策は、成長期(外部環境の幸運とその幸運をつかむ政策)、成熟期(繁栄を持続させる外交・軍事・産業政策)、衰亡期(競争相手出現による衰退を止める政策)によって違います。今の日本は、成長期は終わり、成熟期に入っています。

小国なのに繁栄した国は、周辺諸国から「嫉妬」や言われなき「差別」を受けます。それを、外交手腕で、どう忌避できるか。時代や環境に適応しながら、新しい産業をどう興していけるか。本書は、今の日本にとって、とても大切な書ではないでしょうか。


[ 2013/07/12 07:00 ] 海外の本 | TB(0) | CM(0)

『日本を捨てて、日本を知った』林秀彦

日本を捨てて、日本を知った日本を捨てて、日本を知った
(1999/06)
林 秀彦

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林秀彦さんは、2年前に亡くなられましたが、テレビや映画の脚本家として活躍された後、オーストラリアに移住されていた方です。このブログで紹介するのは「憎国心のすすめ」に次ぎ、2冊目です。

日本の嫌な面に絶望して移住したオーストラリアでも、アングロ・サクソン民族の嫌な面に絶望するという、その複雑な気持ちが本書によく表れています。この本は、日本と海外の比較文明論の最高のテキストです。その一部を要約して、紹介させていただきます。



・世界の民族が一つに同化することなどない。人種差、民族差、国家差の根本が、露骨な敵対によって浮き彫りにされていくのは、人類永遠の普遍定理であり、決して変わり得ない。日本人は「敵としてのガイジン」を深く知り、それによって自分自身を知るべき

・日本で使われる「国際」という言葉は、すべて詐欺。内容がまったく把握されていないという意味でペテン。国際関係とは、敵対関係のこと。そのあたりから認識を改めていかない限り、この国と国民に未来はまったくない

・口先だけで、民主主義と平和、人権と権利と平等をうたいつつ、最も攻撃的で、排他的で、侵略的な民族こそアングロ・サクソン。どんな非道なことを自分たちがしても、「悪いのは相手」がアングロ・サクソンの思考法

・白人の正体は幼児性にある。幼児的ということは、自分勝手ということ。他者に対する思いやり、寛容の精神など持ち合わさず、自利だけをひたすら追求する。それが「子供っぽい」という言葉の意味であり、「しつけられていない」ということ

・よその国の悪口を、のべつまくなしに、言い立てるという感覚は日本人にはない。アングロ・サクソンや中国人朝鮮半島人にはある。ここオーストラリアでも、テレビで、ラジオで、雑誌で、新聞で、単行本で、日本の悪口を言い続けている

・戦争中、日本が犯した歴史的な罪を、しつこく、たゆみなく、執念深く暴き続けるのは、アングロ・サクソンや中国人、朝鮮半島人にとって、それが「ビジネス」だから

海外に派遣された新聞社の特派員にロクな人物はいない。彼らは、国賊的なナマケモノ。自分が日本人だと深く考えたこともない連中。だが、政府関係はもっとひどい。こういう人の実体は、そこで働いているドライバーやコックさんが、その真実の姿をよく見ている

・武器として、一番機能的に優れた形で発達したのが英語。情緒性に乏しい英語は、金と物質を最大に評価するに適している。日本語は、情緒性を極端にまで高めた言語

・その国の国民性を知るには、その国で最もポピュラーな賭博を知ればいい。中国人の本質を知るには麻雀、イギリス人はブリッジ、アメリカ人はポーカー。いま世界は、アメリカ人のポーカー精神によって、政治もビジネスも支配されている

・ポーカー必勝のための4つの能力とは、「1.徹底的なセコさ(観察力含む)」「2.長期的な戦略(洞察ハッタリ含む)」「3.マインドコントロール能力(威圧感を植えこむ演技力と手の込んだ下地づくり)」「4.資金力

・1万年以上の間、日本人は隔離された小さな島国の中でヌクヌクと暮らしてきた。比較する対象が少なかったし、侵略者としての他者がいなかったため、何かと何かを比較する必要がなかった。憎しみの概念は、比較思考以外からは生まれてこない

・日本を除く世界中の国家は、国民に他民族への憎悪を忘れさせないため、常々細心のマインドコントロールを怠らない。それが愛国心の正体。愛国心のない国益などあり得ない

・憎しみと比較しない愛などない。キリスト教の説く愛が、憎しみを前提としていることについて、われわれはあまりにも鈍感

・外人の発言は、どんなちっぽけな内容でも「自説の開陳」。自説とは、自分の存在の主張であり、存在の主張とは、「自利」である。文句を言い、対立を弱め、妥協を求め、自己を主張し、立場を明快にし、それによって自利を得ようとするために会話が生まれた

・日本で俗にブレーンと呼ばれるのは、政、官、財の大物の陰にいて、知恵をつける小人。これは、ブレーンではなく、知的幇間であると考えるのが正しい

・知的幇間の言説は、旦那の意に応じ、お座敷の空気に応じて、自由自在に形成される。幇間が自らをブレーンと思い込み、その影響力を過大に自負するのは、はなはだ滑稽

・日本と日本人は、坂口安吾が勧めたとおり、堕ちるところまで堕ちている。いっそう欺瞞だらけになっている。安吾が夢見た個の確立は、ただ私利私欲の堕落だけ確立された



著者は、海外の厳しい世界で暮らすうちに、日本人のノーテンキさが我慢ならなかったのだと思います。

この本は、今から14年前に書かれたものですが、現在の日本と周辺諸国の関係を予言しているように感じます。当時すでに、その芽があったということです。その芽を摘み取ることができなかったために、これからずっと、苦労し続けていくのかもしれません。


[ 2013/05/17 07:00 ] 海外の本 | TB(0) | CM(0)

『値段から世界が見える! 日本よりこんなに安い国、高い国』柳沢有紀夫

値段から世界が見える! 日本よりこんなに安い国、高い国 (朝日新書)値段から世界が見える! 日本よりこんなに安い国、高い国 (朝日新書)
(2012/11/13)
柳沢有紀夫

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本書は、世界20カ国の物やサービスの値段から、その国の事情を探っていこうとするものです。お金を通して見ると、世界の真実の姿が見えてきます。

現地に住む日本人たちの報告なので、今の世界がよく見えてきます。本書に出てくる値段は、昨秋のものなので、実際には2割前後の円安になっていますが、大筋は変わらないと思います。それらの中で、気になったところを一部要約して、紹介させていただきます。



・オーストラリアは、肥満率がアメリカと共に高い。生活習慣病は多いが、男女の平均寿命は、日本の83歳に近い82歳の長寿国。ストレスの少ない生き方が、健康と長寿の秘訣

・オーストラリアのフードコートで一番安く食べられるランチが日本食。カツ丼や天丼が560円、10貫入握り寿司が800円。ひと昔前まで高い食事の代名詞だった日本食がお手頃になったのは、日本人が努力を怠らないから。低価格は、労働者の頑張りで成立している

・オーストラリアの法定最低賃金は、アルバイト、パートでも1200円。これ以下では働かせてはいけない。この最低賃金の高さが、安いはずのファストフードの値段を高めている

・スウェーデンでは、大学まで進学しても授業料がかからないので、家計の負担にならない。多くの子供が進みたい大学のある町で一人暮らしをする。ここでの生活費(月額14万円)を支えるのが政府からの補助金

・スウェーデンでは、税金を高くしても文句を言う人が少ない領域には、思い切り課税する。20本入りタバコ570円、ビール1ℓ660円、ガソリン1ℓ180円、ストックホルム市内出入通行車1回120円~240円など

・ドイツの失業率が7%と高い原因は、東西ドイツの統一。高い失業率は、生活保護受給者の増大につながる。ドイツの受給者は450万人で、日本の倍以上。人口比では、3倍以上

・ドイツの食料品は安い。牛乳1ℓ60円、パン500g90円、ハム100g45円ビール500ml70円(生活用品消費税7%込)など、日々の生活に不可欠な食材は低価格に抑えられている

・イタリアでは、両親が子供のために家を買うケースが目立つ。都市部では、「シェアハウス」が人気で、大きなアパートに数名が暮らす。キッチン・バス共同のシングルルームで1部屋3万円から

・スペインでは、毎日の生活で食事が極めて大切にされており、1日5回も取るほど。朝ごはんの後、11時に軽食、14時にランチ、18時に軽食、21時過ぎにディナー。仕事の合間に食事をするというより、食事の合間に仕事をしているような感覚

・スペイン人は地元意識が強く、生まれた地域にずっと住み続ける。だから、結婚をして家を出ても、週末は、両親の家に集まり、大家族で食事をする習慣が生きている

・スペインは徹底したコネ社会。能力があっても、コネがないと仕事がなかなか見つからない。コネ事情やスローな時間感覚は、ビジネスにおいて困りものだが、人生を楽しむには、これくらいのいい加減さが必要。スペイン人は、不況の中でも明るい

・ベルギーでは、低価格で家政婦を雇えるシステム(普通に頼めば1時間2000円かかる家事代行サービスが、政府発行チケットを1枚実質525円で購入すれば、1時間のサービスを受けられる)が存在する。忙しい共働きの家庭にはありがたい

・韓国では、塾や習い事に、子供1人1カ月67000円以上かけている。国民1人当たり名目GDPが日本の約半分であることを考えると、どれほど多くの額かがわかる

・韓国の法定最低時給が300円。低賃金の仕事に従事する人の社会的地位も低い。したがって、仕事に責任感が伴わず、仕上がりのレベルも低い。ものづくりに未来と希望が見えないから、ますます子供たちの進路に多様性がなくなり、勉強一本に絞られる

・中国では、一つのところで、じっと耐えて修業をする習慣がない。何か覚えたと思ったとたんに独立して自分で会社を起こす。そのため、中途半端な技術しか習得しておらず、専門知識は貧弱。そして、「日本の物は品質がよい」と、誰もが日本製を買い求める

・スイスはルール厳守に重きを置く国民性のためか、スピード違反にもめっぽう厳しい。時速5キロまでのスピード違反で、3820円の罰金を取られる。街の中心地で、事故が起きやすい場所では、同じスピードオーバーで、25000円へと大幅に増額される

・アメリカで食卓に上がるのは、安価で大量の食べ物。食料自給率124%の農業大国。牛乳1ℓ63円、ビール350ml80円の他、野菜、果物、肉も安い。そのため、成人肥満率が35%



過去に行ったことがある国に絞って、紹介させていただきました。お国事情をある程度見た上で、日本の手本や反面教師となりそうな点を選びました。

お金や値段を通して見れば、さらに客観的、合理的に、その国の事情が見えてきます。参考にできることが多いように思います。


[ 2013/04/12 07:00 ] 海外の本 | TB(0) | CM(2)

『小国大輝論〔西郷隆盛と縄文の魂〕』上田篤

小国大輝論 〔西郷隆盛と縄文の魂〕小国大輝論 〔西郷隆盛と縄文の魂〕
(2012/05/23)
上田篤

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著者は、京都大学の教授を務めながら、建築家として活躍された方です。別の顔として、西郷隆盛の研究をする西郷義塾を主宰されています。

また、スイスに何度も出かけ、スイスの国家体制や国民意識を調査し、日本も「スイスを模範にしよう!」と提唱されている方です。

スイスは山岳の土地で、農業がしにくく、貧しかったにもかかわらず、今では、世界でトップクラスの豊かな国です。そのスイスに学ぼうというのが、本書の主旨です。参考になった点が数多くありました。その一部を要約して、紹介させていただきます。



・スイスは今なお、「自由農民」の伝統を受け継ぐ国。スイスの山岳農民、日本の百姓は同じ部分が多い。西郷隆盛が模索した「百姓の国」のモデルはスイスだった

・スイス連邦国家は、人口600万人ながら、「三千の都市国家」(26の州連邦、3000の市町村連合)がある。スイスの民兵は、都市国家を守る(故郷を守る)サムライたち

・組織人間とは「失敗できない人間」。自立人間とは「失敗できる人間」。現代日本は組織人間ばかり増えて、自立人間が減っている。動乱や有事の時代には、それが問題となる

・「情報閉鎖、役人依存」という江戸役人の治世は、今日の公務員の体質に引き継がれている。そういう意味で、今は「後期江戸時代

・大久保利通が持ち帰った近代官僚制は、同時に中央集権制でもあった。近代官僚制とは、それまで貴族が持っていた地方権力を抑え、代わりに、国家への集権を導入する権力装置

・「軍国主義国家」と「原発国家」は、ともに「パイの拡大」を目指したという点で共通している。その原点は大久保利通が持ち帰った「プロイセンの大国主義

・日本がお手本にしたプロイセンあるいはドイツ帝国(=軍国主義国家)は、第一次世界大戦と第二次世界大戦に負けて、国土を灰燼に帰し、国家を破産させてしまった

・イギリスは武力ではドイツに負けたが、情報力で勝った。日本も「武力だけでは国家は守れない」ことを、第一次世界大戦後、ドイツの敗戦で知るべきだった

・明治以来、「文明開化・和魂洋才」の掛け声で、日本の都市は近代化してきた。肝心かなめのヨーロッパでは、ほとんどの町が「近代化」しなかった。つまり、古いもののまま

・大久保利通はドイツ、西郷隆盛と木戸孝允はスイス、岩倉具視はロシアと、維新の元勲の理想の国はまるで異なっていた

・1815年、国際的に「スイスの永世中立」と「スイスの領土不可侵」が承認された。その結果、スイスが植民地戦争に参加して、外国の領土を奪うことができなくなった

・スイスは、第二次世界大戦中に始まった、四党連立「全政党政府」が今日も続いている

・中世の「農奴的農民」の中で、貧しい土地から「職人的農民」が生まれてきた。イギリスの独立自営農民、オランダの干拓農民、スイスの山岳農民が「職人的農民」の典型

・誇り高き「自由農民」は、彼らの上に君臨する権力を認めず、常に団結して抵抗し、団結のための互いの意思を確認した。スイスには、意思を確かめ合う場として、ランツ・ゲマインデという「有権者全員会議」があった。その採択は三分の二多数決であった

・永世中立したスイスは同時に武装をした。永世中立とは、「武装中立」だった

・スイスの食糧需給率は6割だが、国民の食糧貯蔵量は3年分ある。また、有事には、グランド、公園、緑地、庭園、遊休地を農地に替えて食料を確保できるようになっている

・スイスの職業軍人は3500人しかいないが、一般の兵隊はすべて市民。1874年の憲法で、「市民は同時に兵士である」という原則が定められた

・スイス人はチップを要求しない。スイス人の多くはサムライ。サムライは、人に物乞いなどしない。人を助けても、自分が助けられようなどとは思わない

・スイスで女性参政権が連邦レベルで認められたのは1971年。先進国中最も遅い。この理由は、参政権を持つと、軍務や後方支援につくのが義務で、女性自身が反対したから

・スイス人は、独・仏・伊語のほかに英会話も堪能。日常の外国情報も入ってくる「情報大国」。それに対して、日本は外国情報がいたって少ない「情報小国」



今から10年ほど前に、スイス各地を、鉄道パスを使って、8日間ほど旅したことがあります。スイスも北欧諸国やドイツと同様に、プロテスタントが多いせいか、いろんなところで、国民の賢さをすごく感じました。

この本を読むと、その賢さの理由がよくわかります。今の日本は、スイスのような先進文明国家に学ぶことが大切です。本書は、その助けになるように思います。


[ 2013/03/29 07:03 ] 海外の本 | TB(0) | CM(0)

『ドイツ流街づくり読本・ドイツの都市計画から日本の街づくりへ』水島信

ドイツ流街づくり読本 ドイツの都市計画から日本の街づくりへドイツ流街づくり読本 ドイツの都市計画から日本の街づくりへ
(2006/07/06)
水島 信

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なぜ、ヨーロッパの街並みがきれいなのか?日本は、なぜ汚くなっていくのだろうか?その原因を、表面的な問題ではなく、本質的な問題にまで遡って、言及しているのが本書です。

ドイツ在住40年、ドイツで建築家となった著者の発言には、感心させられることが多々あります。これらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・傾斜地にひな壇の造成をすれば土砂崩れが起きる。森林を伐採すれば鉄砲水が起きる。堤が堤防になれば川の水は再生能力を失う。自然の理に適わないことをすれば、必ずしっぺ返しに遭うという当たり前のことに気づかなくてはいけない

・住宅建設であれ、都市という環境をデザインすることであれ、環境の変化を生じさせる行為をする場合、その連鎖反応をできるだけ自然の摂理にあった形で収めることが重要である

・魅力のある町(伝統のある町)は、一朝一夕で出来上がらない。そこに住む人たちが日頃から街を愛する努力の積み重ねと、時代という貴重な時間をかけて出来上がったもの。街並みの魅力とは、目を凝らせば、時代の知恵や工夫が随所に発見できるところにある

・何が自分たちの今に必要なのかを常に見つめながら、いくつもの世代を生き抜いてきた「質」に、現在の自分たちの「質」を加え、次の世代へ引き継いでいこうとする行為。無意識のうちに行われ続けてきたその痕跡が、街の風格をつくりあげる

・都市環境の貧しい町が日本に多い原因は、都市や街並みを形成する単位である建物の、それも新しい建物の質の悪さにある。それと同時に、環境も含めた建設工法の経済効率のみを優先させた文化程度の低さに、その原因を見出すことができる

・住民の自分の街に対してのアイデンティティーにも問題が含まれている。街づくりの第一歩は自分の街を好きになること。そのためにはまず、正負を含めての自分の街の特質を知ることから始まる

・ドイツでは、自分の権利を主張するところは主張するが、共同体に住む義務の「公共の利益」では、個人の権利に限界があると認識されている。共同体の消滅は、その共同体に属する自分の存在の消滅を意味し、自由も権利も全く意味をなさないということになる

・日本においては、古いものを、建物でも自然のものでも、破壊することに抵抗がなく、「今まで流れてきた時間の積み重ねをその時点で切り捨ててしまう」という行為が、歴史的に鑑みて犯罪的であるとは誰も考えていない

・駅には終着駅型と通過駅型の二通りの形がある。終着駅型は、市街地の中心にまで入り込み、中心街には便利だが、発着用の線路が複数必要なため、市街地に楔を打ち込む形になり、中心地区周辺の発展にはマイナスの影響を与える

・道路を通せば街が活性化するといった前時代的教条は、逆の効果しかもたらさない。街の活性化は、机上で考える利便さにはなく、便利さを我慢しても生活環境が快適になり、街の表情にゆとりが生じること。その政策を行うべきことにヨーロッパは気づいている

・路は都市のストラクチャーを決定する大きな要素であるが、鉄路・水路・道路・空路は移動・輸送手段の機能の違いこそあれ、目的地までの前進運動の手段要素にすぎない

・そこに住んで楽しく生活できる環境をつくりあげてきた結果、美しい街並みが出来上がり、その結果、街に活気が戻り、街そのものが住民以外にも魅力的に生まれ変わることで観光客が集まる。自分が好きになれない街は、他人も好きになるはずがないことの証明

・水路は時によっては都市交通の障害になることもあるし、水害という生活そのものに被害を与えるリスクももちあわせている。しかし、活用の仕方によっては、都市核の個性化を引き出し、中心市街地の景観に特性を与える

・ドイツでは、まず、他人に批判されたくない「わが町の汚点」を調査、分析して、その改善策を考えるという過程を必ず踏む。そして、都市の中の弊害が取り除かれた時点で、新たなる計画を提案するという展開が通常である

・日本では、町の欠点を指摘して、改善策を提案しても、批判をした時点で、話を最後まで聞いてもらえない。ドイツの事例をもって提案すると、「理想はそうかもしれないが、現実は違う」という反応をたびたび受ける。しかし、その「違う」に明確な説明がない



10年ほど前、ドイツや北欧の市役所を訪問し、街づくりについて質問したことがあります。そのとき、役所の担当者が言われた印象的な言葉は、「住みやすい町は、景観・緑地・水・出会い」でした。(本書を読み、「歴史」も重要だと感じました)

そのとき気づいたのは、住民が快適に感じることを行ったら、環境によい都市になっていったということでした。生活者が住みよい環境を整えること、この視点がないまま、日本の都市計画がなされているように感じます。

本書は、日本に欠けているもの、日本が学ぶべきことを提言する貴重な本ではないでしょうか。


[ 2013/03/15 07:01 ] 海外の本 | TB(0) | CM(0)