著者は、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した実力派ライターです。本書は、
日本在住の中国人を取材して、本当の姿を聞き出した、内容の充実した作品です。
取材先は、劇団員、留学生、教授、妻、学校、チャイナタウンなど多岐にわたります。日本にいる中国人の実態が非常によくわかり、そうだったのかと思えた点が多々ありました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。
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劇団四季には、中国人俳優が24人、韓国人俳優が48人。700名いる所属俳優の1割以上が外国人俳優。中国人・韓国人俳優のほとんどが
日本名の芸名を名乗っている。「名前」という文化的アイデンティティーを死守する気概が、中国人には感じられない
・中国で
雑技団にいた人は、日本で器械体操をしていた人より体ができている。ウォーミングアップを一切しなくても、ケガをしない。
中国ダンサーの身体能力の高さとハングリー精神に、中国でのミュージカルの可能性を感じる
・中国共産党は、「
千人計画」をぶちあげ、「海外有名学者」や「海外傑出人物」の呼び戻しに力を入れ、一人百万元(1500万円)を支給したうえ、最高峰の大学や企業、研究機関に、破格の待遇を用意して迎え入れている
・日本にいる中国人の大学教授や研究者のほぼ全員が、本国から好条件の誘いを受けている。しかし、彼らが勧誘に乗らなかったのは、
子供の教育の問題。日本で教育を受けた子供は、言葉の面でもメンタリティーの面でも、中国人よりずっと日本人に近くなっている
・池袋界隈は「東北三省」(遼寧省・吉林省・黒竜江省)出身、蒲田は福建省出身、大宮は上海出身など、民族や出身地で、多数の「
在日中国人コミュニティー」ができている
・反日・嫌日になるのは、バイト先などで日本人から受けた差別や屈辱による場合が断然多い。1990年代に留学生の間でささやかれた「
留日反日」(日本に留学して反日になる)という自嘲は、いまだ死語になっていない
・「
国家」が嫌いなら「
国民」も嫌い。日本人は「国家」と「国民」を分けて考えられない
・日本の入国管理局は、留学生の送り出し
地域別のブラックリストをつくっている。福建省や東北三省、内モンゴル自治区を不法就労や偽造文書作成などの前歴から要注意地域とみなし、それらの地域出身の留学生の入国審査をとりわけ厳格化している
・
中国人留学生の多い大学では、彼らだけで固まる傾向がある。日本人学生も、群れ集って声高に話す留学生たちを「何気に怖い」と遠巻きにながめ、近寄ろうとしない。中国人留学生も、日本人学生に対し「いつまで経っても中に入れてくれない」と不満を募らせる
・拝金主義と利己主義が蔓延する今の中国で、「
親孝行」という徳目だけはまだ生き残っている。中国人留学生は、卒業式に両親を呼ぼうとする
・山形、秋田などの東北地方には、外国人妻が大勢暮らしている。これら地域のファミレスは、
外国人妻たちの溜まり場になり、中国語や韓国語やフィリピノ語が飛び交っている。山形県の外国人妻の数は、二千人を超え、その半数近くが中国出身者
・中国はいま高度成長で、みんな気持ちが「お金、お金」に向かって、心というものを失いかけている。医者でさえ賄賂をとる。みんな、株で「もうかった、もうかった」という話ばかりする。中国にいたら、同じような人間になってしまう
・
連れ子のいる中国人花嫁が増え続けている。特に「東北三省」出身の花嫁に、連れ子の姿が目立つ。日本人男性への一回の
仲介料は、200万円台から300万円台が相場
・1899年開校の
神戸中華同文学校(小1~中3まで681名の生徒)では、日本国籍者が74%近くにのぼる。にもかかわらず、日本国からの援助がほとんどない。中華同文学校の教員給与は、兵庫県内の公立学校に比べ、4分の3にも届かない
・華僑への就職差別は、1980年代中頃まで明らかに存在した。旧財閥系有名企業でも、日本国籍者以外に、内定通知取消をしていた。今では逆に、中国語が堪能な華僑の子弟のほうが、就職に有利になった。日本企業の
手のひらを返すような振る舞いに危惧を感じる
・華僑は、在日韓国・朝鮮人社会がとってきた、民族差別を日本社会に訴えるやり方と、あえて距離を置き、
民族差別反対運動に関わらないほうが無難とみなしてきた
・いま中国では、競争し合っている。向上心も強いけど、物欲が半端じゃない。日本に住んでいたら、「これ欲しい、あれ欲しい」とか少なくなった。たまに中国に帰ると、友達から「
静かになった」「
ボーっとしてる」と言われる。日本文化が知らず知らず、浸みこんだ
「在日中国人」の実態や本音を聞き出した本は、少なかったように思います。中国との関係がぎくしゃくしている時代だからこそ、今必要な本なのかもしれません。
本書を読むと、中国国家と在日中国人を単純に同一視できなくなるのではないでしょうか。