本書のサブタイトルは「知られざる
技術大国」です。イスラエルやユダヤ人に関する本は、金儲け、商売、教育、教訓などが主流ですが、技術の本は少ないように思います。
そこの国民や民族が、どういう技術や産業を得意とするのかで、国民性や民族性が見えてきます。本書によって、ユダヤ人の性質を知ることができたように思います。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。
・かつてのイスラエルの主な輸出産業は、ダイヤモンド加工製品とオレンジに代表される農産物だったが、今では、
ハイテク関連部門の輸出額が大半を占める
・イスラエルに研究開発拠点を置く米国系企業の幹部たちに話を聞くと、誰もが口を揃えて「
技術人材の質の高さに目を見張るものがある」と評する
・「労働者1万人当たりの
研究開発従事者数」は、イスラエル、アメリカ、日本、フランス、英国の順。イスラエルは日本の約2倍。「人口1万人当たりの
科学技術系大学の卒業者数」は、イスラエル、ドイツ、アメリカ、英国、日本の順。イスラエルは日本の約4倍
・苦難に満ちた歴史的教訓からユダヤ人は「最終的にわが身を守るのは知識であり、
教育に対する投資である」「知識こそが何物にも代え難い財産」と深く認識するようになった
・ユダヤ教では、常に「
クエスチョン、クエスチョン、クエスチョン」で、「絶対的価値を疑え」と奨励している。それが、ユダヤ人の普通の勉強の仕方
・イスラエルの技術人材の質の高さは、突き詰めて言えば、
数学的才能の凄さで、それはそのままイスラエルが得意とするハイテク分野と重なる
・イスラエルの技術人材の質の高さには、三つの大きな要因がある。1.「優れた教育システムの存在」2.「軍と濃密な関係」3.「旧ソ連からの優秀な科学者や技術者の大量移民」
・イスラエルは
国民皆兵(男子は18~29歳までの間に36カ月、女子は18~21歳までの間に19~21カ月の兵役に就く)。ただし、全員が戦闘部隊に配属になるわけではない。数学的才能に秀でた者は、
情報部門に集められ、高度なシステム開発に携わる
・高校までの成績が特段に優れた人材は「タルピオット」という
少数精鋭エリートコースに進むことができる。イスラエルは小国ゆえに、才能は探し出し、国家のために活用する
・「タルピオット」に選ばれた若者は、入隊と同時にヘブライ大学に入学し、3年間で
数学と物理学の学位を取得する。同時に軍人としてのハードな
肉体的訓練も課され、将校を目指す。知力、体力ともにケタ違いのものが要求され、3分の1程度は脱落する
・イスラエルでは、「
軍は最高の教育機関」とか「軍は最高のビジネススクール」と言われる。事実、タルピオットの卒業生から多くの優れたハイテクベンチャー経営者が出ている
・軍との濃密な関係は、除隊後も継続される。イスラエルでは、毎年2~4週間、仕事を休んで予備役として軍のために働かなければならない(男子は54歳、女子は24歳まで)。そのことで、定期的に軍の持つ最先端の装備や情報に直接触れることができる
・イスラエルは「情報通信」「ソフトウエア」「医療機器」「マルチメディア・エレクトロニクス」「農業技術・バイオテクノロジー」「代替エネルギー」において、世界最先端レベル
・イスラエルの建国運動は、
ギブツ(集団農場)に始まる。ドイツ・東欧・ロシア系移民がギブツの運営を担ったため、イスラエルは長く社会主義色の濃い政策を続けた。建国後しばらくは、農業こそが国の基礎であり、人も技術もお金も農業分野に投下された
・イスラエルが、最終的に量産志向の産業ではなく、
頭脳集約型産業へ針路を定めた背景には、「天然資源がない」「国内市場が小さい」に加え、「水不足」ということも大きかった
・ユダヤの思想では「100%賛成という議論は間違っている」とされる。神ならぬ人間が、みんな同じことを言うのはおかしい、という発想。10の意見を戦わせたら、一つ、また一つ欠点が見えてくる。そうやって、議論を重ねて最善の意見に集約していく
・イスラエルの最大の強みはR&D(研究開発)。独創的技術を開発し、それを何に使い、適用するかを緻密に考えるのが上手。一言で言えば、
アイデアとコンセプトに優れている
・ユダヤ人の根底には「誰もやらない、だからやる」という独創的で挑戦的な思想がある。「
60・20・20の法則」(利益の60%は人と違うオリジナル製品を作る、20%は安く作る、20 %は人よりうまく売る、ことで得られる)で言えば、イスラエルは60の部分に強い
イスラエルの技術力が高いのは、ユダヤ教的思想、エリート教育、軍との関係に拠るところが大きいように感じました。小国ゆえに、知徳体に突出した人材を、国のために徹底活用させていくシステムも参考になりました。
本書を読むと、国力を高めるには、人材発掘の教育システムとその活用が欠かせないということが、よくわかるのではないでしょうか。